戻る


5   看護実践能力育成にかかる今後の課題

1.教育課程における看護実践能力育成の現状の確認
   本報告において、看護系大学の卒業者が卒業時に身につけている看護実践能力を到達目標として提示した。各看護系大学では、独自の教育理念に基づく教育目標をおき、それに基づいた教育を行っているが、それぞれの教育課程の中に本報告にある看護実践能力育成がどのように組み込まれているのかを確認し、自大学の教育課程の改善・充実に活用することが大切である。

2.看護学教育における教養教育の在り方の検討
   本検討会において、看護系大学学士課程における教養教育の意義と充実のための課題を確認した。今後は、学士課程における看護職育成の基盤として、教養教育の内容や教育方法、履修方法に関する議論を活発化していく必要がある。
   本報告で述べたように、学士課程における看護学教育は、教養教育を基盤として構成されるものである。教養教育を担当する看護系以外の教員においても、看護実践能力育成にかかわっているという共通認識を持つことが必要である。

3.助産師の看護実践能力の大学卒業時到達目標の明確化
   本報告では、保健師・助産師・看護師の三職種に共通の看護専門職としての基礎を取り上げた。助産実習等は国家資格に直結するものであるが、教育課程上、助産資格取得に必要な教育内容の一部が選択科目として位置づけられている。これらの選択科目にかかわる看護実践能力についても、到達目標を明確にする必要がある。

4.看護生涯学習との関連における学士課程での看護実践能力育成の検討の継続
   本検討会でまとめた学士課程での到達目標は、看護生涯学習の体系化の観点から、常に見直すべきものである。今後は、職場でのキャリア開発や大学院教育における看護実践能力の育成を含めて、看護職者に対する卒後教育との関連を明確にしつつ、その基盤となる学士課程教育の在り方を引き続き検討すべきであろう。

5.社会情勢にあわせた学士課程教育の在り方に関する検討の継続
   本報告にまとめられた学士課程教育については、社会情勢の変化に照らし合わせながら、継続的に検討する必要がある。看護職に求められる責務や他の医療職者育成の実情を把握しながら、必要時には、学士課程における看護学教育に関する将来を見据えた見直しを行う。

6.看護実践能力育成の場の確保
   看護実践能力育成においては、看護実践の場で行われる実習や学生の能力評価が重要な意味を持つ。保健・医療・福祉サービス提供の現場で、学生が看護実践を実地に体験しながら学び、かつ看護実践能力の到達状況について評価を受けることができることは、看護職者をはじめとした医療従事者、ならびに患者等看護サービス利用者の、看護学教育に対する深い理解と自発的な協力が不可欠となる。看護系大学にとって、実習の場の確保は重要な課題であるが、学士課程における看護学教育が何を目指し、どのような教育を行っているのかを十分に説明し、看護学教育への協力・参加を得る努力を積み重ねていかなければならない。

7.地域・社会とのつながりの強化
   国民のニーズに応えられる看護職者を育成するために、看護系大学は、地域住民や利用者団体の意見を聞き、社会の動向を敏感に把握して反応していく必要がある。そのためには、看護職能団体や学術団体との関係を密にしていかなければならない。さらに、市民等の利用者団体、保健・医療・福祉に関するNPO等の地域団体とのつながりも強めていく必要がある。地域社会との関係の持ち方は大学により様々であるが、各看護系大学は、その設置の趣旨や地域貢献に対する考え方に基づき、それぞれの特徴を生かした地域社会とのつながりを確立している。
   看護系大学は、高等教育機関として、看護職全体に対する生涯学習を支援する役割を持つ。既に各看護系大学は、研究指導、公開講座、研修などの実施、そして大学院教育や学部・大学院の科目等履修生制度や聴講生制度など、各種の方法で看護生涯学習支援に取り組んでいる。今後も、看護職のキャリアアップにふさわしい生涯学習支援の方法を開発しなくてはならない。このような相互交流を通して、大学が看護実践能力を育成する教育環境や力量を拡大していく。

8.教員の能力向上のための組織的取り組み
   卒前の臨地教育を充実させるために、教員には十分な看護実践能力や、臨地で学生に看護実践を教育し評価できる能力が求められる。教員が看護実践能力、教育・評価能力を向上させることができるように、ファカルティ・ディベロップメントの企画や、教員が臨地で看護実践を行いながら自己研鑽を継続できる体制づくりなど、組織的な取り組みを促進する。また、看護実践能力の育成方法の改善に資する研究が蓄積されるように、教員の研究活動を活性化させる。

9.大学間の協働・連携
   各看護系大学がカリキュラムや評価方法を充実させるにあたり、看護系大学同士が協力・連携しあうことは、各看護系大学の取り組みを後押しすることになる。評価において第三者評価を導入するシステム作り等、大学間の協働の在り方について検討する。



ページの先頭へ