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3   卒業時到達目標とした看護実践能力の構成と卒業時到達度

   前章で確認した学士課程における看護学教育の5つの特質を考慮し、学士課程で育成する看護実践能力を19項目に整理した。さらに卒業時の到達度を示すために、19項目ごとに細項目を示した。19項目の看護実践能力は、15群に区分される。
      1群: ヒューマンケアの基本に関する実践能力
2群: 看護の計画的な展開能力
3群: 特定の健康問題を持つ人への実践能力
4群: ケア環境とチーム体制整備能力
5群: 実践の中で研鑽する基本能力
これら看護実践能力の育成は、直接的には専門科目及び専門関連科目の中で行われるが、図2に示すとおり、教養教育とも深い関連性を持っている*7。以下に、看護実践能力の特性と卒業時の到達度について、区分ごとに説明する。

看護実践能力の構成

図2   看護実践能力の構成

拡大図はこちら

1.ヒューマンケアの基本に関する実践能力
   看護実践は、人間とその人の生活に深くかかわって行われる。特に、健康障害を持つ時期のかかわりでは、人の尊厳と人権の擁護の視点が重要である。また、看護職者の行動は、患者等利用者の意思に基づくことが求められ、ケア実施に際しては、利用者に十分了解されている状態をつくることが原則となる。このように、看護実践は、看護職者が利用者と人間関係を築きながら行われ、実践を通して援助的人間関係へと発展させていく必要がある。
   したがって、看護実践の基本的能力として求められるのは、ヒューマンケアの基盤的能力であり、幅広い視野から人間と人間生活を理解し、確実な倫理観をもって行動する態度と姿勢である。これらは、2群以降の各項目の実践における基本的態度として問われるものである。
   本群の能力は、熟練度を問うものではないのは言うまでもないが、初期から学習することに格別の意義がある。本群についての卒業時到達度は、看護職者として、恒常的に追究していくべき能力の基点であり、基本的態度を身につけ、発展の方向性を認識していることが求められる。

1)人の尊厳の重視と人権の擁護を基本に据えた援助行動
    (1) 個別な価値観・信条や生活背景を持つ人の理解
  (2) 人の尊厳及び人権の意味を理解し擁護する行動
  (3) 個人情報の持つ意味の理解、情報の適切な取り扱い

   まず、ヒューマンケアの基盤能力に相当する、人の尊厳と人権の擁護にかかわる実践能力を挙げた。健康障害により心身機能や生活機能の面で自立度が低い段階での看護ばかりではなく、看護のすべての場面で求められる能力である。
   卒業時到達度としては、健康生活にかかわる人間の尊厳と人権の意味を確実に理解でき、それを擁護する行動がとれることが求められる。そのためには、利用者の持つ価値観・信条等について、幅広い知識に基づいた理解ができるとともに、それを受容し、看護行為に反映して行動できる段階を求める。また、個人情報の持つ意味を人間の尊厳と人権の擁護という観点から理解でき、個人情報の適切な取り扱いができることが求められる。
   本能力は、熟練度を問うものではなく、看護の学習の初期から多様な方法で修得され、実習等を経て、看護職者として恒常的に追求していくべき基点として修得される。これは、サービス提供者である看護職者が利用者である人間にかかわる時の考え方や対応時の態度として問われるものである。また、人権の擁護という視点からは、健康障害にかかわる際に生じがちな差別や偏見について、その背景や意味についての理解、ノーマライゼーション社会の実現に向けた課題意識の形成、等についての確実な学習を背景に、上記の実践能力の到達度を充足させる必要がある。

2)利用者の意思決定を支える援助
    (1) 利用者の意思決定に必要な情報の提供
  (2) 利用者の思い・考え・意思決定の共有、意思表明への援助、意思決定後の支援
  (3) 利用者の意思の関係者への伝達、代弁者役割の遂行

   看護実践における看護職者の行動は、患者等利用者の意思に基づくことが原則となる。利用者が保健・医療・福祉サービスを受け、健康問題を解決するにあたり、治療及びケアの選択について、可能な限り自律した意思決定ができる必要がある。そのため看護職者には、利用者が選択し意思決定するのに必要な情報を適切な方法で提供し、利用者が自分の考えを明確化しつつ意思決定を行うこと、利用者が自己の意思を表明し、意思決定ができること、さらには、利用者の意思決定を尊重し、利用者が迷いや後悔がなく選択したサービスが受けられることを支える能力が求められる。また、利用者の意思や希望が保健・医療・福祉サービスにかかわるすべてのチームメンバー個々に伝達・受容されるために必要な援助をする。その中には代弁者役割も含まれる。
   本能力の卒業時到達度は、まず、利用者に必要な情報を判断する、提供方法を利用者・家族の条件に合わせて工夫する、情報提供・解説をする、その成果・反応・意思決定への影響を調べる、意思決定が利用者に与えた影響を調べる、等の各項について、自立してできることを求める。次に利用者の意思決定を支える過程においては、相手の思い・考えを十分受止め、その明確化を支え、それに沿った意思決定内容を共有し支持する、意思表明を支える、意思決定後に選択したサービスを受ける過程を支える、等の各項についても複雑な課題でない限り自立してできなくてはならない。チームメンバーへの伝達とメンバー側の受容については、チーム構成・状況によって成果が変わるため、看護職者の助言を得てできる段階を求める。

3)多様な年代や立場の人との援助的人間関係の形成
    (1) 利用者の思い・考え等意思の適切な把握
  (2) ケアに必要な他者との人間関係の形成

   看護実践は、看護職者自身が個々に築く利用者との人間関係を基盤にして行う。そのため、まず求められるのは、多様な価値観を持つ人や自分と世代や立場の異なる人々の思いや考えを理解し、その理解に基づいてその人と円滑に意思疎通を図ることができること、ケアに必要な援助的人間関係を形成していく事ができることである。その中には、利用者とその家族に自分が受け入れられることも含まれる。
   本能力には、一般的な人間関係と同様に、挨拶など人としての態度、自己紹介、その時点での役割説明、援助目的の説明が適切にできる、利用者の意思を問う等、利用者に受容されつつ関係を確立する、利用者との関係における自分の状態を客観的に評価する、意思疎通を重ねつつ援助する過程を経て信頼を得る、実施したケアについての利用者の意見・評価を受けとめる、利用者とその人を取り巻くケアにかかわる人々との関係を把握する、等が含まれる。卒業時到達度としては、複雑な課題でない限り、自立してできることを求める。


2.看護の計画的な展開能力
   本群の能力は、専門職者として提供する看護を、計画的・意図的に展開する能力であるので、まず、看護過程展開の基本的構成と要素を取り上げた。そのうち、看護アセスメントについては、個人の心身の状態に焦点をあてたものと、日常生活や生活環境に焦点をあてたものとに分けた。その理由は、基礎段階の教育において、この二側面が双方とも多くの知識を必要とし、重要性が高いからである。育児・療養・介護等は、家族や地域という生活共同体における人々の生活の営みの一部であり、これらのケアに関する判断は重要であるので、独立した項目とした。次に、どのような場にあっても、看護職者に求められる看護の基本技術の活用にかかわる能力を挙げた。
   本群の能力の卒業時到達度は、原則として自立してできる段階を求める。計画立案までの過程には、看護方法の適切な選択が含まれ、5群の18項目で挙げる文献・資料や先駆事例を確認したり調べたりする行為を伴うが、この群では、複雑な課題以外の基本的な看護にかかわる健康問題を取り上げる。
   また、ここには、看護の実施について利用者への説明ができることが含まれる。実施段階では、その過程で相手の反応等、不可欠な情報を収集して次期計画立案に反映させるという複雑なプロセスを展開する能力を求める。
   なお、本群の能力と次の3群の能力では、教養科目等で修得した知識を活用し、合理的な看護学の思考と看護実践方法を導くことが期待される。

4)看護の計画立案・実施・評価の展開
    (1) 看護過程を展開するために必要な情報の収集・分析と健康問題の判断
  (2) 看護上の問題の明確化と解決のための方策の提示
  (3) 問題解決のための方法の選択、利用者へのインフォームドコンセント、直接的看護方法・相談・教育の実施
  (4) 実施した看護の事実に即した記録作成
  (5) 実施した看護の評価、計画の修正・再構成

   看護過程の展開には、利用者個別の状況に対応した計画を立案し、実施し、評価する能力が必要である。看護過程の理論には問題解決過程の理論が応用されており、全過程は明確な論理的思考を展開させる構造となっている。看護過程は、看護実践が確かな科学的根拠に基づく実践として確実な成果を生み出すための基本技術である。看護過程の修得には、基礎となる理論や知識の理解が欠かせない。したがって、本能力の獲得には、基礎的能力を十分培った上で各場面での具体的展開へと進むことが重要である。
   本能力の卒業時到達度は、以下の事項が自立してできることである。
   看護で解決すべき個別の健康問題を判別するためには、まず、情報として客観的データと主観的データとを正しい方法で収集し、次にそれらの情報を分析し、健康問題を判断し、看護上の問題を表現する。さらに、看護上の問題の優先順位を判断し、各々の看護上の問題が目指すべき目標を考え、表現する。その上で解決の方策として、個別性に基づいた看護活動を提示し、立案する。
   看護計画の実施は、常に、利用者との相互関係において行われる。このために、立案された看護活動をその人・その場の状況に即して行いつつ、利用者の反応を受けとめ、行った結果をその都度確かめ、評価する。看護活動は目的を持った行為であり、判断された健康問題を改善・解消させる力・機能を働かせるために行うものである。したがって、看護活動の効果がどのように現れるか、また、適切な看護活動となっているかを常に確かめる能力が必要となる。
   看護過程の最終段階では、実施した成果を解決すべき目標に基づいて評価し、看護上の問題が解決したかどうかを判断する。解決されていない場合には、新たに情報を収集し、計画を修正する。そしてその計画を遂行し、成果を評価する。
   看護過程は、病院・助産所等施設及び家庭においても、上記の方法で展開される。全過程を通して最も重要な視点は、患者等利用者の意見が十分に反映されていることである。特に、計画の実施に際しては、利用者に対するインフォームドコンセントを確実に行う能力、すなわち、利用者へのわかりやすい説明と利用者の選択と了承を確認する能力が求められる。
   訪問看護や地区活動の手段として用いる家庭訪問の展開においては、個人とその家族、特殊・特有な場・環境に応じる能力、及び、保健・医療・福祉関係職種と連携する能力が必要となる。
   これらの能力の卒業時到達度は、全過程を一連のものとして自立してできることを求めるが、複雑な課題については、看護職者の助言の下に達成される事項を含む。

5)人の成長発達段階・健康レベルの看護アセスメント
    (1) 身体的変化の把握と判断
  (2) 認識・感情の動きと心理的変化の把握と判断
  (3) 成長発達段階に応じた健康問題の把握と判断

   人間は生まれて死ぬまでの一生の間、時間と空間の中で成長し続けると考えられている。また、人は身体・心理・社会的存在として統合された統一体であり、全体的存在である。人の一生涯の過程(ライフサイクル)は、人間が経年的に成長・発達する過程として、身体的、心理的、社会的に特有な時期を辿ることが明らかにされており、これを大まかに、小児期、成人期、老年期に区分して把握する。各期の一般的な特徴は、個人を理解するときの手がかりとして活用される知識となる。また、個人の健康レベルは、その人の主観によっても左右され、著しい健康障害から安寧の知覚まで多様である。人の成長発達段階や健康レベルの看護アセスメントは、その固有の身体的側面と心理・社会的側面の各々について、適切な診査方法によって収集する客観的及び主観的データを解釈し、総合的に判断して決めるという能力に基づいている。人の健康問題は、その人の発達段階、日常生活を取り巻く環境と深く関係しており、したがって、一般的な人間に対する理解と、心と身体の仕組みを熟知した上での看護アセスメント能力が重要である。
   本能力の卒業時の到達度は、以下の事項が自立してできることである。
   個人の身体内部で起きている変化を観察・測定し、客観的及び主観的データに基づいて状態を判断し、異常を識別する。認識・感情の動きと心理的変化について客観的及び主観的なデータを収集し、それらの分析から心理的状況を把握し判断する。
   看護サービスにおいて、利用者支援や援助を成り立たせるためには、まずどのような健康問題があるかをアセスメントすることから始める。周産期とライフサイクル各期において、それぞれの特徴を踏まえて、個別の健康問題を把握し判断する。周産期における健康問題の把握では異常の判断に力点がおかれる。


6)生活共同体における健康生活の看護アセスメント
    (1) 日常生活と家族生活のアセスメント
  (2) 地域を基盤にした人々の健康生活支援課題の把握
  (3) 学校生活に生じやすい健康問題の把握
  (4) 労働環境、作業特性による事故や健康問題の把握
  (5) 福祉等入所施設の利用者特性に応じた事故や健康問題の把握

   人の生活の営みに焦点をあて、個人の日常生活行動と環境条件を調べ、その人の健康状態の現状との関連において援助の必要性を判断する。このとき、客観的事実と利用者本人の気持ちや考え等主観的事実を含めて調べる。また、個人の生活の営みは、家族生活と深くかかわっているので、家族行動も含めた援助の必要性を判断する。
   次に、家族生活が地域とどうかかわっているか、世帯単位でみたときの地域の健康課題はどうか等、地域生活共同体という視点から、援助の必要性やその方法を判断する。また、地域単位で、学校・労働生活の場における健康課題や援助の必要性、さらには高齢者や障害者等、生活の場を施設においている人々の健康課題と援助の必要性と方法を判断する。人々がその課題を解決するために利用できる資源の状態を把握し、解決のための支援の方法を模索する。
   卒業時到達度としては、以上の考え方と意義、それぞれの方法を確実に理解すること、及び、個人と家族への援助の必要性の判断が自立してできることを求める。地域的広がりを持つ援助及び学校や職場等機能集団に対する援助については、他職種と協働した援助方法の判断を含むことから、卒業時到達度としては看護職者の助言の下にできる段階にとどめる。


7)看護の基本技術*8の適確な実施
    (1) 各基本技術の目的・必要性の認識、正確な方法の熟知
  (2) 利用者にとっての実施の意義と方法の事前説明、了解の確保
  (3) 技術実施過程を通しての利用者の状態・反応の判断、実施方法の調整
  (4) 実施した成果・影響の客観的評価と利用者による評価
  (5) 技術実施過程における危険性(リスク)の認識とリスクマネジメント

   人の健康問題を解決に導くには、看護の基本技術を適確に実施する能力が必要である。各基本技術を看護行為として実践する過程では、利用者に対する深い理解と社会的責任に立脚した判断が含まれる。
   看護技術を支える態度や行為の構成要素は、知識と判断、実施と評価、利用者への説明、安全・安楽の確保、プライバシーの保護、指示確認・報告・記録、個別性への応用、家族相談・助言、である。これらの要素を念頭において、個別の患者等利用者に基本技術を正しく適用する。また、技術実施の過程における危険性(リスク)の認識とリスクマネジメントを意識して行動する能力は重要で、事故を未然に防ぐように予測的に準備し、事故発生時には適切に敏速な対応ができなければならない。
   本能力の卒業時到達度は、以下の事項が自立してできることである。
   利用者の看護上の問題を解決するために実施する看護基本技術については、その目的と必要性及び期待される効果を理解しており、実施前に利用者に対して、看護計画に即してそれらを説明し、利用者の選択と決定を確認して実施の了解を得る。技術の準備・実施・後始末の各段階は、基本的原則に基づいて実施する。基本技術の実施前、実施中、実施後を通して利用者の状態・反応を観察し、その結果を判断して実施方法を調整する。実施した基本技術の成果、影響を客観的データに基づいて評価すると同時に、利用者による主観的評価を聴取し、あわせて判断する。
   基本技術を実施する際の、自己の技術の程度から、実施過程における危険性(リスク)を判断・予測する。そして、危険性(リスク)の判断・予測に基づいた安全確保対策を実行する。公衆衛生看護活動としての家庭訪問や在宅看護技術の実施では、看護職者の下で適切・安全に実施する。


3.特定の健康問題を持つ人への実践能力
   本群では、特定の健康問題として、健康障害の予防と健康の保持増進、次代の育成、慢性的健康障害、治療回復過程、健康危機状態、高齢期、終末期に焦点をあて、それらの状態にある人への援助に必要な能力を取り上げた。
   本群の能力は、人体の構造と機能についての理解の上に、心身の状態、健康障害の病態像、治療法の効果・影響、回復過程への看護介入効果等に関する正確な知識が必要であり、それに基づく判断力が基本となる。援助においては、利用者個別の状態と問題解決能力に応じたセルフケア支援ができること、治療、検査、処置等を受ける人に対して、当事者の気持ちや意思を十分に確認し、不安の軽減と安全の確保のための対応ができることが基本である。
   本群の能力は、人が誕生してから高齢期を迎え死に至る間の、全ライフステージに関係した健康問題にかかわっている。特定の健康問題には、患者等利用者が健康課題を自ら克服していく必要のあるものから、問題解決に専ら専門的援助を必要とするものまで、多岐にわたる。したがって、求められる能力も多様である。焦点となる問題の特性を十分に理解し、各々の援助能力を確実に育成しておくことが必要である。また、すべての援助は、看護職者としての倫理的判断に基づくものであることを理解していることが求められる。

8)健康の保持増進と健康障害の予防に向けた支援
    (1) 個人特性及び地域共同体特性に対応した健康環境づくり
  (2) ライフサイクル各期の健康づくりへの支援
  (3) 健康診断にかかわる支援
  (4) 感染症予防の活動

   看護職者として取り組む健康保持増進と健康障害の予防にかかわる能力である。看護過程の展開に基づき利用者のニーズを判断し、健康増進・予防を目指してセルフケアの支援をする。個人の状況に応じた方法を選ぶことが重要である。ライフサイクル各期の健康増進・予防に関する知識を基盤に、利用者の生活行動・生活環境の客観的現状と当事者の問題意識等を調べ、自己管理能力の把握と判断から、その人の状態に適した方法を選択・実施していく能力が問われる。これらの能力は、健康増進法に基づく生活習慣病の予防や健康管理支援、ヘルスプロモーション施策に広く応用できることが求められる。
   卒業時到達度としては、いずれの細目においても、個人のセルフケアを支援する方法については、自立してできる段階が求められる。個人への支援ばかりではなく、小集団による健康学習支援についても、自立してできる段階を求める。個人への支援と小集団への支援の組み合わせによる効果的な支援方法を開発しながら実施することについては、その重要性を理解している段階を求め、実施については看護職者の助言の下にできる段階を求める。


9)次代を育むための援助
    (1) 思春期の健康問題への支援
  (2) 妊娠・出産期にある母子と家族への援助
  (3) 乳幼児のいる家族への支援
  (4) 健康障害を持つ児と家族への支援
  (5) 学校生活集団における健康問題の判断と支援
  (6) 次代を育む家族機能の危機への支援
  (7) 性と生殖の健康問題を持つ利用者への支援

   胎児期以降の次代を育む時期の母子や家族への援助にかかわる能力である。
   思春期にある男女の発達課題と健康問題を理解することは、次の世代が健全に育まれるように支援する上で重要である。思春期にある人への看護支援は、利用者個人の発達課題を看護者が個々に判断し、相談的な対応の中で個別支援をする。また、学校等の場で同年齢の小集団に対する支援を行うこともある。いずれも、卒業時到達度は、看護職者の助言を得てできる段階を求める。
   妊産婦、胎児・新生児の健康状態を判断し、経過の予測を含めて健康問題を把握する。妊娠・分娩・新生児期において、正常経過をたどるための健康問題を把握し、必要な支援を行う。卒業時到達度は、自立してできる段階を求める。
   乳幼児・小児期では、成長発達・健康問題の支援の必要性とこれらを育む家族への支援の必要性を判断し看護計画を作り支援する。また、健康障害を持つ児と家族については、障害の程度や治療が児の成長発達と養育に与える影響を考慮して、支援を実施する。学校生活においては、健康障害をもつ学童の修学に伴う問題に加え、いじめや不登校等の問題について支援の必要性を判断し支援する。計画立案には、乳幼児・病児・学童・家族を支える地域資源の利用支援を含める。いずれも、卒業時到達度は、複雑な課題以外は自立してできる段階を求める。
   児童虐待や家庭内暴力等は、家族機能を揺るがし、危機をもたらす。家族の危機状態を早期に発見し、必要な支援を行う看護職者の役割について理解し、活動方法を考える。また、家族機能の危機を回避するための社会資源を理解し、活用する。卒業時到達度は、知識を持ち、支援のあり方を確実に理解する段階を求める。
   性と生殖にかかわる健康問題については、問題にかかわる基礎的知識を理解し、その上で健康問題を持つ利用者への支援方法を考える。いずれも卒業時点では、知識を持ち、考え方を修得していることを求めるが、看護職者の下で、健康問題に対する相談や生活支援及び必要な社会的資源の活用を支援する段階を期待する。


10)慢性的疾病を持つ人への療養生活支援
    (1) 疾病・健康問題に応じた生活支援
  (2) 医学的管理と受診への支援
  (3) 労働にかかわる支援
  (4) 家族への支援
  (5) 療養生活にかかわる資源の活用支援

   慢性的疾患を持つ人は、疾病の発生から治療期を経て、自己の生活を病と共に生きる営みへと移行する。疾病の憎悪を予防し、長期にわたって健康生活を維持するためには、確実な医学的管理を受け、自己の生活を豊かに営むセルフケアの確立が必要である。慢性病を持つ人が病を自己管理することを生活の一部として受け止め、その人なりの健康生活を維持するのを支援するための能力が必要となる。
   本能力の卒業時到達度は、以下の事項が自立してできることである。
   生活習慣病等、慢性に経過する疾病の病態と日常生活維持との関係を理解する。病状ならびに治療の変化に対応したセルフケアへの学習を支える。個人の生活行動・就業等労働生活・家族生活の現状及び当事者の問題意識、自己管理能力を判断して支援の必要性をとらえる。支援は、セルフケア能力に応じた方法で実施するため、看護職者の助言の下に推進できる段階を求める。労働生活への支援では、利用者の雇用主等との連携、資源活用支援では関連機関との連携が含まれるので、看護職者の助言の下にできることを求める。
   行政サービスの中での生活習慣病を持つ人の療養支援、障害がある人への支援、結核・エイズ感染症や難病患者の支援は、いずれも、これらの能力が問われ、かつ本人ばかりではなく、家族を支えるために必要な能力が求められる。これらは、いずれも複雑な課題以外は自立してできることが求められる。


11)治療過程・回復過程にある人への援助
    (1) 受けている治療法の影響の判断と予測
  (2) 治療法に基づく個別援助
  (3) 安全・安楽を充たす日常生活援助
  (4) リハビリテーションへの援助
  (5) 家族への支援

   人が著しい健康障害を受けた場合は、医学的治療を受け、健康回復を図る過程がある。このような人の健康回復を促進するには、治療過程・回復過程にある人を援助する能力が求められる。
   疾病や損傷等の健康障害に対する治療法は、手術療法、薬物療法、放射線療法、免疫療法、遺伝子療法等であり、種類や状態に応じて利用者の選択により決定される。治療法を選択し決定する利用者への支援には、時に倫理的ジレンマを伴うことがあるので、倫理原則を理解し、対処する能力が必要とされる。健康障害の程度や治療法の違いによって、利用者の治療過程や回復過程は異なり、援助方法も異なってくる。順調な回復を促進するための援助は、各治療法に応じた専門知識と技術に基づいている。いかなる治療法が適用される場合でも、副作用や合併症の発生に関する知識が必要であり、またそれらの予防や、発生した時に適切に対応する援助能力が必要である。治療・回復過程にある人の日常生活の充実は、回復を促進させる体力と意欲を維持する上で重要であり、利用者の安全と安楽の充足状態を見極めて必要な援助を行う能力、回復と共に自立した日常生活支援へと移行させる能力が期待される。
   本能力の卒業時到達度は、以下の事項が自立してできることである。
   利用者が医師の説明に基づき選択した治療法を理解し、その治療法の効果と起こりうる副作用又は合併症を判断し、個別の状況に基づいて発生について予測する。順調な回復を導くための個別の看護計画を立案し、計画に基づき援助する。治療法に伴う生体反応を観察・測定し、結果から異常を判別する。治療・回復過程に沿った安全で安楽な日常生活を支援する。回復のための早期リハビリテーションを計画し、実施を援助し、また、回復過程の進行を支援する。治療過程・回復過程にある人の家族を必要に応じて支援する。これらの能力には、複雑な状況判断を必要とする場合に、看護職者の援助を求める能力が含まれる。


12)健康の危機的状況にある人への援助
    (1) 生命の危機状態の判断と救命処置
  (2) 心の危機状態の判断と緊急対応
  (3) 事故の特性に応じた救急処置・援助
  (4) 本人への適確な状況説明
  (5) 家族への支援

   人が遭遇する健康の危機的状況には、生命の危機と心の危機がある。突然の健康危機は、誰にでも起こり得る非常事態であり、専門的判断と確かな技術によって、生命の危機が回避され心の安寧が取り戻される。生命の危機状態では、正確な知識と技術で心肺蘇生術等を実施する能力が必要である。心の危機状態に陥っていると判断された場合には、直ちに専門家へ委譲する等の対応能力が必要となる。
   また、突然に健康を破綻させる事故には、熱傷、出血等事故や災害の特性に対応した救急処置をいち早く行い、処置の遅延がもたらす生命の脅かしを防ぐ能力が必要となる。いかなる場合でも本人に適確に状況を説明し、安心できる環境を提供できる能力も期待される。また、家族も危機的状況により混乱・困惑、あるいは予期的悲嘆の状況であることを理解し、支援する能力が求められる。
   健康の危機的状況にある人を援助する能力は、一般的な知識・技術に加えて、経験に基づく判断力と技術力が必要とされるため、卒業時到達度は、基本的な事項を演習により体験するレベルを求める。
   本能力の卒業時到達度は、以下の事項が、看護職者の指導の下にできることである。
   意識及び呼吸循環の状態を観察・測定し、生命が危機的状態であることを理解・判断する。理解・判断した状態に応じて、心肺蘇生術(小児対応、成人対応)を実施する。周産期における産婦、胎児、新生児の危機的状態を理解し、危機状態への対応を実施する。心理的状態をアセスメントし、心が危機状態であることを理解・判断する。心の危機状態への緊急対応を実施する。精神症状が出現している人を援助する。熱傷、出血等、事故や災害の特性に対応した救急処置の基本技術を実施する。事故の特性に応じた看護援助を実施する。意識のある者へは、状況と救命・救急処置について説明する。意識のあるなしにかかわらず、声かけを適切に行い、落ち着いた態度で接する。健康の危機的状況にある人の家族へは、支援の必要性を理解し、できる支援を実施する。


13)高齢期にある人の健康生活の援助課題の判断と支援
    (1) その人らしく尊厳ある生活の保障
  (2) 健康障害の予防と健康生活の支援
  (3) 治療、リハビリテーション過程への援助
  (4) 生活機能障害のある高齢者の生活適応への支援
  (5) 家族への支援

   高齢期を生きる人は、加齢に伴う変化と蓄積された生活経験によって、個別性が多様である。高齢期は、人生の最終期として特有であり、高齢者支援では、その人の健康生活上の課題の判断や個人の生き方を尊重した支援の能力が重視される。
   本能力の卒業時到達度は、以下の事項が自立してできることである。
   高齢期にある人の、個別の生き方を理解し、安全で尊厳ある生活が保てるように、働きかける。高齢者が望む生き方に沿い、必要とする学習を支援する。個人の加齢に伴う生理的心理的社会的変化の状態を査定し、健康生活上の課題を把握して支援する。高齢期にある人に生じやすい事故を防ぐ。行政サービスの高齢者保健福祉活動における健康生活の支援課題を判断し支援する。介護を必要としていない高齢者の自立の維持を支援し要介護状態への移行を予防する。介護保険制度を理解し、介護保険サービス利用を支援する。治療を受ける高齢者に適切に援助する。リハビリテーション過程にある高齢者へ安全性に主眼をおいた援助をする。痴呆等、生活機能障害の程度をアセスメントし、よりよく生活に適応するよう支援する。疾病・障害のある高齢者の自立を可能な限り維持し、社会生活を豊かにするためのリハビリテーション・支援を考える。高齢者を介護する家族のニーズを把握する。看護職者の下で、在宅で高齢者を介護する家族への支援を実施する。また、必要に応じて介護職への支援を行う。


14)終末期にある人への援助
    (1) 身体的苦痛の除去
  (2) 死にゆく人の苦悩の緩和
  (3) 基本的欲求の充足
  (4) 死にゆく人の自己実現(希望の実現)への支援
  (5) 看取りをする家族への支援
  (6) 遺族への支援

   死を迎えなければならなくなった人は、本人のみならず、近い関係にある多くの人を深い悲しみに陥らせる。とりわけ家族に与える影響は大きい。死にゆく人が自己の人生を意味づけたり、希望を実現させようとするための援助には、看護職者の死生観や強い意志が関係する。
   終末期にある人を援助する能力は、人間の生理的機能が不可逆的に変化する病態の理解と、人の死と死にゆく人を愛する人の心の理解、そして、終末期の苦痛を除去あるいは緩和する看護技術の能力である。また、看護職者としての倫理的感性が育まれていることが必要である。人生の終末段階に至った人が、より充実した生を全うできるよう働きかけるには、その人の状態を適確に判断・理解し、支援する能力が必要となる。
   本能力の卒業時到達度は、以下の事項ができることであるが、本能力は、必ずしも実践場面で体験できるとは限らないため、多くは演習での達成を目指すこととなる。
   終末期にある人の身体的苦痛の状態をアセスメントし、苦痛を除去あるいは緩和するための援助を行う。死を迎える人の傍に寄り添い、苦悩を理解し、共感的態度で苦悩の緩和を働きかける。基本的欲求の充足状況をアセスメントし、基本的欲求を充足する援助を行う。死にゆく人(子ども、成人、高齢者)の心理状況を把握し、望む生き方や希望の実現に向けた支援を、看護職者の下で行う。死にゆく人の悲嘆反応(予期的悲嘆)を理解する。在宅で終末期を過ごす人への支援方法を理解する。看取りをする家族に対し、死にゆく人の年齢や家族との関係等の状況に応じた支援を看護職者の下で行う。在宅で死にゆく人を介護する家族の援助課題を理解し、支援を考える。在宅で死を看取るために必要な条件を理解し、家族への支援方法を考える。遺族への支援として、看取った家族の立場によって異なる遺族の心理を理解する、遺族が正常な悲嘆過程を経過するよう支援する方法を理解する。

4.ケア環境とチーム体制整備能力
   本群は、ヘルスケア提供組織の様態に応じた看護職者等のチームアプローチに必要な能力である。これらの能力は、利用者のニーズを充足するという視点から、チームアプローチの必要性を確実に認識する事が前提となる。
   まず、利用者が最良のケアを享受することができるため、資源であるケア体制を利用者の生活環境の中にどう造るかということを取り上げた。これは、在宅医療が推進される過程で、看護職者の社会的役割が拡大し、重要性が増してきた能力である。次に、治療とケアのサービス提供施設内部でのチーム体制を取り上げ、チームの意義を理解してチームワークを実践する能力を挙げた。看護職者は、保健・医療・福祉・介護の各施設において、チームの一員として看護業務に従事するので、その組織の成り立ち・システムの現状や課題を理解して行動する必要がある。
   この群において、特定の地域・施設での在り方の学習を通して、どの地域・施設にも応用できる基礎能力を養う。そのため、看護職者が地域コミュニティづくりにどう貢献できるのかという視点、地域危機管理の問題等をも含めて、人々の地域生活共同体の営みへの支援役割、看護職の社会的責務を明らかにすることにより、育成していく能力である。
   また、チーム活動は、医療施設内においてだけなく、地域や介護施設等医療職が少ない中で利用者が受けるサービスの質、とりわけ医療水準を適切に確保するために重要である。
   したがって、地域や介護施設等における、看護職者の果たす役割をも取り上げ、適切な方法を選び、関係者と連携・調整していく能力を求める。
   本群の能力の修得には、専門関連科目の学習が深くかかわっているが、加えて、教養科目での学習が有効である。特に、人間の多様な社会活動の理解を深め、その中に看護の専門機能を位置づけ、職業人としての社会的責任と役割の認識を深める上で、教養科目が重要である。

15)地域ケア体制の充実に向けた看護の機能
    (1) 人々の生活の営みの中での援助
  (2) 健康生活を守る市民活動における市民との連携
  (3) 健康危機管理及びその対策と看護職の責務・実践
  (4) 保健福祉事業における看護の機能

   この能力は、過去には保健師のみに必要とされていたが、近年では看護職の社会的役割拡大とともに施設内看護にも不可欠な能力となった。医療・福祉施設の利用者のケアの充実には、欠くことのできない事項であり、看護職者は、働く場を問わず、利用者の生活の基盤である地域のヘルスケア資源の現状を判断し、利用者のケア充実のためのケア体制整備能力が求められる。
   教育の考え方としては、看護の対象者を生活者としてとらえ、その人の本来持っている生活の営みに沿って支援をするという視点と、看護職者の在り方は、単にケア体制の連絡調整者ではなく、地域コミュニティづくりに寄与する専門職として住民ニーズに対応する姿を伝えることである。その中で、地方自治体の行政サービスのひとつである保健師の活動、医療・福祉施設の看護師の活動、訪問看護師や開業助産師の活動、等に求められるケア体制充実を取り上げる。
   この項の能力には、地域の育児・療養・介護の現状を把握・判断し、支援計画をつくり実施する、地域資源を利用した支援体制を個人のニーズに沿って開発する、市民・住民側の主体的な地域活動を把握して連携する、災害・SARS等感染症・テロについて、予防、被災時の対応、PTSD等の被災後の健康問題に対する看護職の責務を理解し実践する、地方自治体の各種保健福祉事業の成り立ち・実施過程の理解と必要となる個別援助を実施する、等の諸側面を含む。
   卒業時到達度としては、各方法の意義を具体的な地域の例で確実に理解し、情報収集とアセスメントが自立してできる段階を求める。実施については、かかわる地域機関が多彩となるので、看護職者の助言の下にできることを求める。


16)看護職チーム・保健・医療・福祉チームでの協働・連携
    (1) 利用者の個別ニーズを充足する連携・協働
  (2) チームの一員として自覚と責任ある行動
  (3) ヘルスケアサービス利用支援

   治療とケアに関する利用者のニーズを充足するためのチームアプローチに関する能力である。変化する病状に対応し、生活要求を充足しつつ一定の方針で治療とケアを継続するためには、看護職同士の協働が必要であるし、治療とケアそのものが医師その他の職種との役割分担の上に成立しているために必要となる他職種との連携も求められる。利用者個々のニーズに応じて看護職及び他の各職種に求められている役割が認識できること、ニーズ充足に向けたチームワークの方法を描くことができること、その一員の看護職者として行動できること、等が、利用者のニーズ充足を目的に据えた協働・連携の在り方を伝えることで培われる。
   卒業時到達度としては、利用者のニーズ充足に向けた在り方、チーム活動の意義と役割分担が、具体例において確実にとらえられている必要がある。看護職チームに求められることが実践できるだけではなく、利用者との関係における看護職者の役割認識、及び他職種との関係における自己の役割認識が重要であり、利用者の状態や治療途上の気持ちの動きをとらえ、ケアの充実に責任を持つ役割の遂行が求められる。チームメンバーとの連携が中心となるので、この到達度は、看護職者の指導の下にできるという段階でよい。むしろ、看護職者は、チームで行う治療やケアを利用者の立場で見直しをする姿勢をもつ事が大切であり、これがサービス充実の基盤となるという認識を培う必要がある。
   保健・福祉の場においては、協働・連携が他の施設・機関に及ぶので、卒業時到達度は看護職者の指導の下にできる段階を求める。施設における活動についても、施設内他部門や施設外に及ぶ協働・連携については、前記のとおりの到達度とする。
   この能力の説明は、医療サービス内に取り込まれた利用者への対応を中心に述べたが、保健・医療・福祉・介護サービス等の社会資源を利用していない時期での利用支援も含まれる。


17)ヘルスケア提供組織の中での看護の展開
    (1) ヘルスケアの提供組織の仕組み、看護サービス提供組織の理解
  (2) 看護サービス提供にかかわる運営、法的・経済的背景の理解
  (3) 医療・保健・福祉・介護に関する経済的・政策的課題の理解

   看護実践の充実のためには、自己の所属するサービス組織の枠組みとその組織の特性を十分把握して行動する事が大切である。そこで、まず保健・医療・福祉・介護サービスの提供組織について、制度的・経済的背景を含めた成り立ちをとらえ、それらの下位システムとして機能する看護提供組織の位置づけ・構成・特性、現状と課題を理解する。看護提供組織にかかる法的・経済的背景、組織運営の現状と課題、看護やケアに関連した経済的・政策的課題を把握して、その課題を解決していくための視野を各自が持つ必要がある。看護の国際的動向に関心を寄せ、現状を見つめる視点も必要となる。看護職者は、国内外のヘルスケア提供組織の中で利用者への看護提供方法の充実を図るだけではなく、自ら所属するサービス提供組織そのものの在り様を改革していく視野を培うという意味である。
   したがって到達度としては、上記について理解している状態であることは当然であるが、具体的な利用者ニーズ充足の課題との関連において、問題解決の方法を提案し、議論ができる状況を求める。そのためには、看護職者の社会的役割の拡大という側面の認識を高め、サービス提供主体者としての責務に向けた議論ができることが求められる。

5.実践の中で研鑽する基本能力
   学生は、4年間の学習全体を通して、看護職者として生涯にわたり専門性を深めていく基礎となる能力を積み上げていく。看護実践能力育成と不可分な形で、看護実践の改善・充実の視点を育てることが求められる。本群の能力の卒業時到達目標は、第1に、看護現象を客観的事実として把握し、表現する事ができることを求める。第2には、看護過程の展開に際して、文献・資料の収集や先行例から学び、既に検証された適切な看護方法を選択して作成した計画を実践できることを求める。看護は、自分と相手との人間的かかわりの上に成り立つ営みであり、自分のかかわりを客観的にとらえることを通して、看護の専門性についての理解を深める。このような実践に直結した理解は、卒業後に実践を重ねる意義の理解につながり、生涯学習の基盤となる。
   なお、本群の能力の修得には、専門科目だけではなく専門関連科目の学習も深くかかわってくる。とりわけ教養科目については、看護学と他の多様な学問との相違点と共通点を理解するために有効となり、これらの理解は看護実践の改革と看護の発展を考える基礎的な力となる。

18)看護実践充実にかかわる研究成果の収集と実践への応用
    (1) 看護実践における課題や疑問の解決に向けた文献・情報の収集
  (2) 特定の看護実践課題の改善・充実に向けた研究成果の応用

   看護実践では、看護ニーズの判断、看護計画立案、個々の看護方法の選択・決定、等が必須となる。各段階において、自己が提起した課題に沿って文献・資料や既に看護職が実施した事例等の情報を収集し、そこから有用な情報を取り出し、自己の看護方法を選択し決定して行く能力が必要となる。
   卒業時の到達度としては、自己のかかわる看護実践における課題の整理とその解決に向けた取り組みが自立してできなくてはならない。また、自分の判断や考えを看護職者に説明して助言を得る事ができる段階を求める。
   この能力は、既に看護計画が作成されている状況下でチームの一員としてかかわるときにも、求められる能力である。むしろ、そのような状況においてこそ、自己の立場から疑問を提示し、これまでの研究成果と照合して実践の検証や改善方法を模索する。そのことにより、より高度に自立した看護職像を描くことができ、クリティカルシンキングの体験ができる。


19)看護実践を重ねる過程で専門性を深める方法の修得
    (1) 自己の看護実施過程の客観的事実としての把握
  (2) 看護実践方法の改善課題の整理・解決
  (3) 社会の変革の方向を理解した看護学の発展の追求

   4年間を通して、看護職者として生涯にわたり専門性を深めていくための基礎能力の育成は、看護の本質、専門職としての成長の方向、看護の専門性を各自がどうとらえているかに動機付けられる。しかし、最も大切なのは、学生の側に看護実習等の看護実践体験を通して、看護事象を理解する基盤ができていることである。特に、自己の看護実施過程と自分が絡んで形成した看護現象を客観的事実として把握できることと、具体的な看護実践について改善の課題の整理と課題解決に取り組む事ができること、看護職者としての職業倫理を考慮して行動することである。
   看護は、常に相手との人間的かかわりの上に成り立っている営みであるから、これを事実として自分でとらえ、表現することができることが専門性を深める第一歩と位置づける。看護現象を客観的にとらえるには、常に看護職者自身の行動や意識を含めた様態を適確に自己評価することが求められる。さらに、目的とする技術提供に際しては、相手の人間的反応を含めて事実を評価しながら進めなくてはならない。これは、看護固有の営みであり、卒業時の到達度としては、すべて自立して実施できる段階が求められる。
   次に、看護実践方法の改善を追求するときは、看護現象を客観的に表現できることが前提となり、その上に研究活動が始められるので、到達度としては看護現象の客観的表現ができる段階を求める。
   学士課程全体を通して社会の動向や保健・医療・福祉にかかわる社会の要請について学習するが、これらを受けて看護専門職に期待される社会的役割について、学生は自分の見解を持つ事が重要である。卒業時には、看護職の社会的責務という観点から、看護職者として責任を果たしていくための課題が明示できることを求める。


表1   学士課程で育成される看護実践能力の大項目・細項目


*7    看護実践能力と教養教育との関連は参考資料に示す。
*8    第一次検討会報告書16頁に示した看護基本技術と同様である。




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