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21世紀医学・医療懇談会

21世紀に向けた医学・医療あり方を考える上での視点  

○教育部会報告


21世紀に向けた医学・医療あり方を考える上での視点


1. 21世紀に向けた医学・医療のあり方を考える上での視点

1. 医学・医療を取り巻く環境の変化

(1)近年における医学・医療の進歩は,バイオサイエンスやニューロサイエンスを始め,めざましいものがあり,様々な疾病の克服に貢献している一方,脳死,臓器移植,体外受精,遺伝子治療など生命倫理の問題,さらには生命の尊厳との調和の問題を投げかけている。今後,先端医療の進歩とその制御とのバランスをどう考えるのかがますます大きな課題になるものと考えられる。

 (2)我が国の高齢化は急速に進展しており,今後65歳以上の老年人口割合は,平成19年(2008年)には20%を超え,さらに同30年(2019年)には25%を超えるなど,これまでどの国も経験したことのない超高齢化社会を迎えることが予測されている。このため,疾病構造も慢性疾患中心型になるとともに,高齢者を中心に要介護者の大幅な増加が予想されている。さらに国民負担や公費負担の限界をめぐる問題など医療経済の視点がますます重要になるものと考えられる。

 (3)医学・医療に対する最近の社会的ニーズは,疾病の治療だけでなく,人が健康で幸せな一生を送るためにどうするのかという視点を含んでおり,疾病の予防からリハビリテーション,介護までを一貫して考えることが求められている。その際,患者のクオリティ・オブ・ライフ(生活と人生の質)を重視する視点,治療(cure)だけでなくケア(care)を重視する視点,が重要であり,さらに医療に加え福祉まで見据えた取り組みが求められている。

 (4)医療を提供する場としては,従来,病院や診療所が中心的役割を果たしてきたが,近年,老人保健施設が増加傾向にあるのに加え,療養型病床群や在宅医療の重要性が指摘されている。基本的な考え方として,一人の医師,一つの病院で自己完結型の医療を提供するのではなく,プライマリケアから高度医療まで,あるいは医療だけでなく介護や福祉まで,地域において関係する施設が相互の協力体制を作りつつ国民のニーズに対応していくことが必要である。

 (5)患者は,病者であると同時に一人の生活者であり,人権の主体であることを踏まえた医療や社会環境の整備が必要であり,ノーマライゼーションの発想が重要である。

 (6)国際化の進展に伴い,疾病構造も地球的規模で考えることが必要になっているとともに医療や医療人の質については国際的に通用するレベルを確保することが求められている。

2. 期待される医療人像

(1)医療人の在り方には,豊かな人間性など基本的に不変なものがあり,例えば医師,歯科医師,看護婦(士)については,すでに別添にあるような指摘がなされているところである。
  最近の医療人をめぐる状況を踏まえると,特に豊かな人間性,深い教養及び医療人としての倫理性については,改めてその重要性を強調する必要があると考える。

 (2)しかしながら,一方で上記のような医学・医療を取り巻く環境の変化の中で,医療人の在り方についても,次のような新しい視点が求められるようになってきている。
  1.医師の判断と能力に基づき選択した医療を提供するという医療の在り方は,患者の意思を無視した医療が行われる危険があり,近時「医師のパターナリズム」として批判されるようになっている。これに対し,医療に関する患者の意思と自由を尊重し,患者の人権を守れるような医療を提供できるように,医療人と医療を受ける者との関係が変わることが求められており,その中心となる視点としてインフォームド・コンセントの重要性が指摘されている。
  このことは,患者が医療情報あるいは医療の選択肢へアクセスできることを意味しており,また一方で,患者にとっても選択する責任が生じることを認識することが重要である。

     2.医療は,医師又は歯科医師だけで提供するのではなく,薬剤師や看護婦(士)など他の医療人を含めたチーム医療,地域医療の様々な担い手を含めたチーム医療,として行うことがますます重要になっている。また,医学・医療に対する社会的ニーズの変化や医療の場の多様化に伴い,従来にもまして,医療人それぞれの役割及び専門性を重視した医療のあり方が求められるようになってきている。

     3.医療人は,人間性への深い洞察力を持ち,医学・医療に関する幅広い専門知識を有するとともに,医学・医療を取り巻く環境の変化に適切に対応できるよう,倫理的・法的な知識や医療経済を含めた社会問題に関する知識についても修得するよう努めることが求められている。また,当然のことながら,知識だけにとどまることなく,臨床面での対応を適切に行いうる能力や態度を修得することが不可欠である。


 (高等教育局  医学教育課) 




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