戻る

今後の国立の教員養成系大学学部の在り方について(報告)

2001/11/22
今後の国立の教員養成系大学学部の在り方について(報告)


平成13年11月22日
高等教育局専門教育課

今後の国立の教員養成系大学学部の在り方について
−国立の教員養成系大学学部の在り方に関する懇談会−


    

-U 今後の教員養成学部の果たすべき役割-

1   学部の在り方

  (4) 成績評価の厳格化

   @ 単位制の趣旨
大学設置基準においては、講義、演習、実験等授業の形態にかかわらず、各授業科目の単位数は教室等における授業時間と学生の事前・事後の教室外の学修時間をあわせ45時間の学修を必要とする内容を1単位として構成することを標準とし、例えば講義及び演習における教室内の授業時間は15〜30時間とするものとされている。この趣旨及び年間の授業期間が定期試験等の期間含めて35週にわたることを原則としていることを考えれば、あまりに多くの単位を修得することは極めて困難なことといえる。

我が国の大学は単位制度を用いているが、その形骸化が大学教育の質の低下を招くとの認識のもとに、平成11年に大学設置基準が改正され、大学は1年間又は1学期間の登録科目単位数の上限を設定するよう努めることとされた。

   A 複数免許状の取得及び修得単位数の現状と成績評価の厳格化
教員養成学部の学生は、主として就職上の必要性から複数の教員免許状を取得する傾向が強かった。平成12年3月卒業者のデータでみると、卒業生の82.1%が複数の免許を取得している。それに伴い、修得単位数も増加し、161単位以上修得している学生が42.8%にも及んでおり、単位制度の形骸化が指摘されていた。その背景としては、免許取得上必要という理由の下に授業科目の履修を学生の任意に委ねていたことが考えられる。

前述の登録単位数の上限の設定により、修得単位数の改善が図られつつあると考えられるが、この趣旨を徹底するとともに、単位制度の実質化を図るため、シラバスの作成、事前・事後の学習の明確な指示の義務付けなど、責任ある授業運営や成績評価の厳格化を図ることが求められている。
ここで求められるのは、大学としての自己規律であり、複数免許の取得が就職のために必要であるということで黙認するのではなく、教授すべき内容を精選するとともに、その内容の修得を徹底させていくことが結果的に大学教育の質の向上、ひいては教員となるべき学生の質の向上につながると考えられる。

学生が多くの単位を修得している理由の一つに、採用側が複数の免許状を取得していることを原則にしたり、あるいは優先的に扱うために、そうせざるを得ないという事情がある。教員の専門性を重視する観点から、大学側における免許取得上の指導が求められるが、採用側においても、これらのことに関して特段の配慮が望まれる。
なお、現在、中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会において、例えば中学校教員免許状取得者が小学校の高学年の授業を担当できるようにすることも視野に入れた、教員免許の弾力化について検討されているが、これらの審議状況にも留意していく必要がある。

  (5) 教員養成学部の教員の在り方

   教員養成学部が優秀な教員を養成するにしても、独自性や特色を発揮するにしても、それを支えるのは大学の教員である。教員養成学部にふさわしい教員を確保し、育成していかなければ、その実現は望めない。
以下、教員養成学部の教員の3つの担当区分に即して、その在り方を述べることとする。

  @ 教科専門科目担当教員の在り方
現在、大学によって多少の差があるが、教員の6〜7割を教科専門科目担当教員が占めており、その多くが理学部や文学部等教員養成学部以外の学部の出身である。これらの教員が、どのような意識で教員養成に取り組むかが教員養成学部の方向付けに大きく影響する。

教科専門科目の在り方は、前述のとおりであり、それを担当する教員は、その趣旨に沿った教育研究に取り組むことが求められる。教科専門科目担当教員は、他の学部と同じような専門性を志向するのではなく、学校現場で教科を教えるための実力を身に付けさせるためにはどうすべきかという、教員養成独自の目的に沿って教科専門の立場から取り組むことが求められる。それは、教員養成学部固有の教育研究分野である。今後、教科専門科目担当教員には、そのような教員養成学部独自の専門分野の確立に向けて努力することが求められる。

  A 教科教育法(学)担当教員の在り方
この分野は、前述のとおり教員養成にとって重要な分野であり、沿革の項でも触れたように、特に教員養成学部においては、各教科ごとに専門家を配置するなど、従来から充実に努めてきた分野である。今後、小学校教員養成における教科専門と教科教育の分野の結びつきなど教員養成学部が独自性を発揮していくため、学内で牽引的な役割を果たしていくことが求められる。

  B 教職専門科目担当教員の在り方
教職専門科目は、前述のとおり、教員養成の根幹をなす分野であり、学生にとって、子どもに対する理解や教員にふさわしい人間性を深めるための基礎となるべきものである。そのため、教員養成という立場から学校現場をフィールドとしつつ、子どもたちに目を向けた実践的な教育研究が推進されることが求められる。

教員養成学部の教職専門科目を担当する教員のうち、非教員養成系の教育学部出身者が占める割合は50.2%(平成12年5月1日現在)にのぼっている。教員養成における教職専門科目の重要性にかんがみ、これらの学部においては、教員養成学部のこのような実態にも配慮した教育研究の展開が望まれる。

  C 教員養成学部にふさわしい教員の確保
以上の3つの区分の担当教員が共同しつつ、体系的なカリキュラムの展開に向けて独自の専門領域を創っていくためには、教員の意識改革だけでなく、教員養成学部にふさわしい教員をどのように確保していくかが重要な課題である。

教員養成学部の教員の出身学部・大学院をみると、教員養成系が19.6%、非教員養成系の教育学部が15.3%、一般学部等が65.1%となっており、特に教科専門の担当教員は、一般学部等の出身者が82.9%を占めている(平成12年5月1日現在)。

平成8年度に教員養成学部の博士課程が設置されたため、今後教員養成系大学院の出身者が増えていくことが期待されるが、当面は前述の傾向が大きく変わる ことはないと考えられる。また、いろいろな学部・大学院の出身者が教員となることは、教員養成学部の活性化の面から好ましいことともいえる。

ただ、一般学部の目的と教員養成学部の目的とは異なるものであり、その出身者は教員養成学部の教員になるまでは教員養成の在り方という観点からの教育は受けていないのが通常である。それらの者が教員養成学部の教員になった場合は、「教員養成はいかにあるべきか」あるいは「学校における授業はいかにあるべきか」という観点から教育研究に当たることとなる。

したがって、教員養成学部に採用されてから学部の目的と教員個々人の志向に齟齬が生じないよう、教員募集時に、必要とされる資質能力や役割を明確にしておくとともに、採用後にも教員養成学部の教員として取り組むべき教育研究の内容等について絶えざる自己研鑽を求め、教員養成学部にふさわしい教員を確保していくことが必要である。

教員養成学部は、学校の現場と密接に結びついた実践的な学部であることから、教員を採用する際、教員免許状の取得や学校現場における何らかの教育経験を有することを条件とすることも考えられる。また、必要に応じ採用後も附属学校の授業の担当等を通じて、学校現場との接触を保持していくような取組も推進していくべきである。

また、教員養成学部としてふさわしい教員を確保するとともに、教員養成学部独自の専門性を高めるシステム作りという観点から、例えば教員養成カリキュラムの確立という観点に立ったシラバスの作成、定期的なファカルティ・ディベロップメントの実施等、具体的な取組を行っていくことが必要である。

これに関連し、教育委員会等との連携により、特に学校現場を熟知した者が教授するにふさわしい科目については、教員養成の充実の観点から、現職教員や指導主事を非常勤講師等として積極的に活用していくことも求められる。

また、特に教科専門科目の担当教員について、各大学における教員審査の改革を促す意味で、大学設置・学校法人審議会における教員資格審査の在り方についても検討されることが望まれる。

  D 教員組織の弾力的編成
今後は、学校現場のニーズにあわせ、教員組織を弾力的に編成していくことが求められる。例えば、平成10年に免許法が改正され、教科に関する科目の要修得単位数が減少し、教職に関する科目の要修得単位数が増えたり、「教科又は教職に関する科目」という選択履修の区分が新たに設けられたが、大学の判断によってこれらに対応した教員組織の弾力的な編成が求められる。

また、教員養成学部の教員組織については専門分野の構成が各大学とも総じて等質的となっており、そのことがカリキュラムや教員組織に現状維持の方向で作用している面がある。
平成3年の大学設置基準の大綱化に伴い、教員養成学部に置かれる大学院の専攻に要する分野を具体的に定めた上記審議会の審査内規が廃止されたにもかかわらず、依然としてそれを基準にそれぞれの分野に専任教員が配置されなければならないととらえられ、そのことが学校現場のニーズを踏まえた新たな分野に対応   していくことの妨げとなっているとの指摘もある。
今後は、学校現場における新たな教育課題への対応等を通じ、各大学が特色を発揮していくため、弾力的な教員組織の編成に努めることが望まれる。


  (6) 評価システムの確立

   教員養成学部が教員養成の専門学部として、力量ある教員を養成し、独自の専門性や特色を発揮していくためには、適切な評価システムを確立し、その結果を教員養成の改善に継続的につなげていくことが必要である。

   現在、各大学・学部において、自己点検・評価やその結果に対する学外者による検証が進められているが、それにとどまることなく、評価の透明性・客観性をより高める観点から、第三者評価システムを導入していくことが効果的である。特に教員養成学部の卒業者を採用している地域の教育委員会や学校の意見を積極的に聞けるような体制を構築していくことが大切である。

   評価システムが教員養成学部の発展を支援していくものとなるためには、教員養成の立場からの独自かつ専門的な評価が必要である。その際、研究面からの評価だけではなく、特に教員養成学部の目的に照らしてカリキュラムが適切に編成されているか、学生の教育指導において、組織としてあるいは個人として適切な取組がなされているか、教員養成学部にふさわしい教員の確保のためどのような努力がなされているかなどの観点から評価が行われるべきである。

   また、評価の方法やその結果については、教員養成学部が国立大学としての責任を果たしているか否かについて国民が判断できるようにするため、広く公開されるべきである。

   今後、大学評価・学位授与機構による評価システムや国立大学の法人化に伴う新たな評価システムなども整備されていくと考えられる。それらの動きもみながら、速やかに教員養成学部独自の評価システムを構築していくべきである。この点については、日本教育大学協会が発足以来期待されている機能の一つであり、中心的な役割を果たしていくことが強く望まれる。





    
NEXT UP
(高等教育局専門教育課)

ページの先頭へ