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法学教育の在り方等に関する調査研究協力者会議

1999/09/29 議事録
法学教育の在り方等に関する調査研究協力者会議 (第6回)議事要旨

     法学教育等の在り方に関する調査研究協力者会議(第6回)議事要旨


1  日  時  平成11年9月29日(水)10:30〜13:00

2  場  所  文部省5B会議室

3  出席者
(委      員)伊藤進、伊藤眞、川村正幸、北川俊光、小島武司、椎橋隆幸、芹沢英明、永田眞三郎、浜田道代、安永正昭
(意見発表者等)マリリン・ピルキントン  ヨーク大学オズグッドホール・ロースクール教授
                       宮澤節生  神戸大学教授
(文  部  省)  合田大学課長、馬場大学改革推進室長補佐
(オブザーバー)房村法務省司法法制調査部長、小津法務省官房人事課長、太田法務省司法法制課長、
                      團藤法務省司法法制調査部付、吉村最高裁判所事務総局付

4  議  事
  事務局から配付資料の説明が行われた後、神戸大学宮澤教授より事前説明があり、その後マリリン・ピルキントン氏から「カナダにおける法学教育と法曹養成について」説明があった後、意見交換が行われた。

【宮澤教授の事前説明の概要】                              
  大学院レベルにおいて法律専門職を意識した法学専門教育を行うためには、アメリカのロースクールを念頭におきつつ、学部教育をどのように組み合わせるかという議論が典型的であるが、アメリカで指摘されている大きな問題のひとつは、実務教育がロースクールで必ずしも十分に行われていないだけではなく、修了後に制度的に行う機関もないということである。もちろんロースクール段階である程度の技能教育が行われていることや、法曹資格取得後も大手のローファームや政府機関、公設弁護団事務所等において同じトレーニングを受けることができるということが実質的な理由としてあげられているが、他方で単独あるいは小規模事務所に進む人々もおり、その意味では、多くの弁護士は体系的な実務修習が完成する前に顧客の対応をするという状況に置かれている。
  このような状況から、1992年にABA(全米法曹協会)が出した報告書(通称:マックワイト)においては、ロースクール修了後の継続的な法学教育の必要性が強調され、ロースクールにおける法学教育と実務の溝をいかに埋めるかということが大きなテーマとされた。そこで頻繁に引用、参照されたのがカナダのシステムである。カナダでは、3年間アメリカと同様ロースクールにおいて教育を受けた後、一定期間実務修習に就くことになっている。
  ピルキントン教授の所属するオズグッドホール・ロー・スクールは、州直営のロースクールとして設立されたが、これは1940年代までオンタリオ州においては、州の強制加入の弁護士団体(アッパーカナダローソサエティ)が直営するロースクールの出身でなければ、州内で実務に就くことができなかったことによる。しかし1950年前後には大学における法学教育が開始され、トロント大学法学部にロースクールが設立された。その後すぐ、オンタリオ州の弁護士会もロースクールを大学に委ねることとなり、当時新設大学であったヨーク大学に移管されたという経緯がある。オズグッドホール・ロースクールは日本では余り知られていないが、カナダ最大のロースクールであり、特に法律図書館は米連邦で最大の法律図書館とも言われている。
  なお、カナダには任意加入の弁護士団体と強制加入の弁護士団体があり、前者はCanadian Bar Associationといい、各地に支部を持つ弁護士の職業利益を代弁する団体という性格を持っているのに対し、後者はLaw   Societyと呼ばれ、弁護士資格の認定、実務教育、懲戒等を法規の観点から行うという組織である。ピルキントン氏はその理事に今春就任されたところである。

【ピルキントン氏の発表概要】
  それぞれの社会システムはそれぞれ固有の歴史・背景に基づいて展開されており、カナダのシステムが日本のシステムと異なるのは、カナダ特有の条件に基づいて発展してきたからである。しかしながら、カナダが直面している課題と日本が検討している課題の間には非常に大きな共通性があるように思う。例えば、Law   Societyは、プロフェッショナル・コンペデンス(法律家の能力)をいかに考えるべきか、どのように定義すべきかという問題について、特別にタスク・フォース(作業班)を設置し、Law   Societies の理事とロースクールの代表者を集めて協議を行ったところである。
  本日の配布資料付録Bには、協議の結果到達したプロフェッショナルコンペデンス、法律家が備えているべき能力についての定義が掲げられている。この定義に照らして、ロースクール側では自分たちが行っているプログラムがこの結果を達成するものであるかどうかということを参照しながら判断するものである。また、大学は、有能な法律家を生み出すという以外にも目的を持っており、ロースクールの教授は、学生たちの知的能力の育成も願っている。特に、法を社会現象として研究し、さらに、法律家が社会に対してどのようなインパクトを与えているのかということを考えて欲しいと願っている。
  カナダは10州に分かれており、そのうち9州がコモンロー圏、1州がフランス法(ケベック州)である。コモン・ロー圏のオンタリオ州では、人口1600万人に対して弁護士数は3万人であり、毎年   1200人の弁護士が誕生している。また、弁護士会のメンバーは全員バリスターでありソリシターである。その名称は残っているが、それぞれの人がどちらかを選ぶということではなく、例えば、企業法務の分野で働いている人々もこの弁護士会のメンバーである。また、裁判官は、弁護士会会員から選出されることとなっており、その選任は、十分な経験を有するとともに尊敬される人物の中から任命される。裁判官志望者は選任委員会に申請することとなっている。そこで適格性が審査され、政府はその中から裁判官を任命するという構造になっている。そのため、裁判官養成のための特別プログラムはなく、最初は弁護士として教育を受ける。裁判官への任命後、特別の訓練プログラムに参加することになっている。
  カナダにおける法学教育システムは数段階に分けることができる。まず、4年制の学士課程卒業後、3年間のロースクールに進学する。ロースクールの学位はアメリカのJDとは異なり、昔の学位の名称LLBである。その後、バーアドミッションコース(資格付与コース  通称:BAC)のトレーニングに参加しなければならず、これ自体がまた3段階に分かれている。これは、まず、第1段階は8週間のコースワークであり、ここで法曹倫理、弁護士活動の技能に関するコースを受講し、その終わりに2科目の試験を受ける。第2段階は、日本の実務修習に似ており、11カ月間にわたって、指導弁護士や裁判官のもとで有給の実務修習を受け、予定されたプランに従ってトレーニングを受けることになる。第3段階は、3カ月間のコースワークであり、ここでもまた試験を受ける。その内容は、トランズアクションという弁護士活動の中で実際に直面するであろう様々な事柄に関する試験ということになっている。
  バーアドミッションコースの段階を終わるとバリスターになり、そしてソリシターとして登録される。同じ人がバリスター・ソリシターという資格を獲得する。その後も弁護士は自分の能力の発展に努める必要があるため、継続的法学教育が必要となる。特に何らかの分野に専門化したい、集中したいと考える者のために専門認定制度がある。
  ロースクールはカリキュラムを管理・運営する自由を持っているが、Law Society はそれに対して認定をしており、認定されたロースクールには必修の基礎科目がある。1年目にはこの必修科目をやることとなっており、契約、不法行為、刑事法、財産法、憲法、民訴法等が必修科目になっており、2年目、3年目は学生の専門化に対応して特定の分野に関して2、3科目まとめて履修することとなっている。全学生が履修する科目としては、他にリーガル・リサーチ・アンド・ライティング、法律資料の調査と法律文書の作成、弁論技術などがある。それから、トライアルロイヤーとしての実践段階の弁護士としての技能に関するコースやネゴシエーションに関するコース、メディエーション(調停)に関するコースもある。
  教育方法は、いわゆるシンキング・ライク・ロイヤー、つまり法律家らしく考えるように教育を行うわけで、ソクラテスメソッドを中心に講義方式のセミナー等を組み合わせながら教育を行っていくこととなっている。
  法学部の教授はほぼ学者であるが、相当数の教員は実務経験があり、例えば最高裁の調査官であったり、あるいは弁護士実務に就いていた者が多い。また、多くはロースクール修了後にも学習を継続し、LLM(修士)やドクターを取得している。また、非常勤の教員として弁護士や裁判官が教えにくる例も多い。通常、最も優れた弁護士や裁判官に依頼し、学者とチームになって学者がその理論や政策、実務家は実務について論ずるというチーム・ティーチングを行っている。また、近年の法学教育は専門分化されており、様々な領域で専門知識を持たなければならないという状況になっていると認識しており、本学では、実務弁護士のためのパートタイムの修士課程も設置している。この修士課程を経ることによって、例えば、知的所有権の分野の専門家を目指す弁護士は、非常に深い最先端の問題を扱うよく統合された授業科目を履修し、専門家として教育を受けることができる。このようなパートタイムの修士課程が12の分野について展開されている。さらに、法に対するアプローチについては、法がどのように社会で機能しているのか、誰の利益に奉仕し、誰の利益を無視しているのか、それは何故かといった問題についても考えなければならず、非常に広い視点からアプローチする。即ち、社会的文脈における法のあり方(law   in context)を検討する必要がある。


(質疑応答)  ○:委員  □:講演者
○  弁護士のために開設されている12の修士コースとは具体的には何か。

□  おおよそADR(代替的紛争処理)、銀行法、金融法、民訴と紛争処理、憲法、行政法、刑事法、国際取引法及び国際競争法、知的財産法、有価証券法、不動産法、税法、倒産、雇用関係法、最近追加した家族法など広い分野のトピックを幅広くカバーしている。

○  法律家協会がロースクールの認証を行うにあたって、特に基準を定めているわけではないとのことだが、では何を基準に認証するのか。

□  カナダのロー・スクールの数はコモンロー圏で16校と極めて少ないことから、法律家協会はそれぞれのロー・スクールの状況に通じており、細かい本来の権限を行使する必要はない。しかしながら、例外もあり、例えば、必修科目の特定は行っている。ただ、この必修科目でさえも将来本当に実務法律家にならないつもりであれば履修する必要はないことになっている。また、事情によく通じているため、あるロースクールの水準が低下したことが判明すると、法律家協会は警告を与える。さらに、ABAの認証基準をロースクールに示し、米国のロースクール教育よりも投下資源が少ないと指摘することもある。また、カナダでは過去20年間新しいロースクールは設立されていない。現在、法律家協会は、新しい認証基準をつくろうとしているが、私見では、新しい基準は、最低基準だけを定めるべきであり、各ロースクールに自由な実験をする余地が与えられるべきである。

○  20年間新しいロースクールが設置されなかった最大の理由・原因は何か。どこかでコントロールしているのか。

□  理論的にはどの大学も自由にロースクールを設立することができるが、政府の認可がなければ公的な財政支援は行わないという事情があるため、新しいロースクールはできていない。大学としてロースクールを持つということは、社会的な威信を高めることにつながるが、政府側から見れば、法律家の超過供給という状況の中で設立する必要はないということになる。カナダでは全大学が州立大学であり、政府による資金援助がなければ事実上設立はできず、定員コントロールされることになる。

○  カナダのアクレディテーションには、必修科目を特定する程度の基準しかないとのことだが、コモンロー圏の16のスクールではそれぞれかなり特徴ある教育が行われているのか。あるいは結果として、かなり共通のカリキュラムになっているのか伺いたい。

□  ロースクール間の共通性は確かに高いと思うが、基本科目のみを提供し全学生がほぼ同じ授業科目を履修する小規模なロースクールと通常の2倍の規模を有するオズグッドホールのように多様な科目を展開し、広く深い教育を行うロースクールでは当然異なる。

○  ロースクールの設置は財政的な理由や法曹人口の問題から政府が認可しないということは、その設置認可によって法曹人口を裁量することができることになるが、カナダでは教育機関の設置の問題と法曹養成の問題は一体として捉えられているのか。

□  確かにロースクールの設置と法曹人口の問題は結びついている。カナダでも、学部レベルにおいて「法と社会」といったプログラムが現に存在しているが、これは法曹を養成するためのプログラムではない。ロースクールでは、修了者は、確かに全員が法律職になるわけではないが、医・歯学部と同様法曹希望者には少なくともその機会が与えられるべきであると考えられており、その観点から入学が制限されている。

○  カナダには新しいロースクールの参入も定員増加という動きもない。これは増員のメリットが大きくないからであると説明されているが、日本ではおそらく逆に採算の観点から比較的大きな学生定員を求める可能性が高く、その点の日加の相違について伺いたい。

□  定員を減らしたのは、今のところオズグッドホールのみである。オズグッドホールでは定員の8〜10倍という申し込みがある状況の中で、法律家の数ではなく、むしろより質の高い専門的な能力を持った法律家を増やすことが必要だという考え方に基づいて大学院を強化したところである。しかしながら、大学の競争力を高める観点から、大学管理者からはロースクールにおける定員増加の圧力が常に存在している。確かに、十分な法学教育を受けた一般市民をつくることは有意義ではあるが、オンタリオ州の場合、法律家になるには8年半かかるということを考えると、学生数をむやみに増加させることはできない。その一方、余りにも学生定員を制限すると、ロースクールがエリート主義的・排他的になる危険がある。また、弁護士間に競争があればサービスの改善も期待できるとも考えている。
○  1940年代頃までは、法律家協会が直接法曹教育を行っており、それをトロント大学に移してきたということだが、、その間にどういう議論があったのか。

□  様々な議論があったが、そのきっかけは、当時弁護士会が直営していたオズグッドホール・ロー・スクールのディーンと教員たちがより学問的な教育を行うことを主張したことに始まる。今までのような法理論、解釈論と実務だけに限定された教育以上の教育を望んだのだが、それに対して法律家協会ではそれを認めなかった。そこで、このディーンと4人の教員が脱出して設立したのがトロント大学ロースクールである。しかしながら、その後1年のうちに、法律家協会が大学にロースクールを置くことを認める方向に軌道修正し、オズグッドホール自体が大学に移管されることになった。このような経過を経て、資格取得コースが設置され、ここで学問的な教育を担当する者と実務教育を担当する者との分業ができ上がった。

○  カナダは州によって大陸法と英米法があるが、我が国も、基本は大陸法で最近英米法の影響が大きくなっているという意味では似た面がある。そこで、例えば、英米法圏でロースクールを修了した者が、ケベック州で開業できるのか。あるいはケベック州では英米法圏におけるロースクールのような教育方法、特にソクラテスメソッドによる教育などを実践しているのか。今後日本でロースクールが設立された場合に、ソクラテスメソッドをやるべきかどうかという議論があるので、その辺を教えていただきたい。

□  コモンロー圏で弁護士活動をするにはコモンローの州の学位がなければならず、同様にケベックでは大陸法の学位が必要である。しかし、1年間の追加教育によって両方が可能となっている。モントリオールのマギール大学とオタワ大学が両コースを提供しているが、オズグッドホールとモントリオール大学には交換協定があり、オズグッドホールの学生が1年間モントリオールで学習することによって大陸法の学位を取得する。逆に、モントリオールの学生が1年間オズグッドホールでコモンローの学位を取得することが可能になっている。印象では、確かに大陸法系の教育においてはソクラテスメソッドは広く普及しているとは言い難いが、マギール大学のように両方教えている大学においては両コースでソクラテスメソッドが使われている。市民法に基づく場合であっても、その解釈は判例であり、その意味ではやはりソクラテスメソッドは有意義である。このソクラテスメソッドは、学生が活発に参加しながら法的分析を行うには非常に優れており、大人数の授業においても同様だと思う。講義を聴き、その知識を試験で試すことよりも、学生が自分で勉強し、その議論に参加して独立の勉強をしていくことが重要だろうと思う。

○  オズグッドホールでは何人のクラスでソクラテスメソッドによる教育を行っているか。

□  ハーバードでは確かに200名のクラスでもソクラテスメソッドをやっているが、オズグッドホールでは100名以上の授業はなく、1年生は70名ずつ4つのクラスに分けられる。

○  ロースクール教官に就任後、その教官が教育上の責任を十分に果たしているかどうかどのように評価し、ロースクールとして教育の質を確保しているのか。

□  個々の教員は非常に大きな自由度を持っているが、それは強みでもあれば弱みでもある。例えば、1年生の必修科目は4クラスで4人の教授によって行われているが、同じ内容の授業が行われる保障はなく、かなり異なる授業を行っていることもあり得る。そこで、時々カリキュラムの再検討を行うため、教授陣と外部の専門家によって授業内容の適切性について検討している。また、学生による授業評価も行っており、教材や授業方法、授業全体の効果等について学生が評価し、その結果が公表される。ロースクールの学生はかなりの授業料を払い、明確な問題意識を持って授業を受けているインフォームドコンシュマー、(十分な情報を持った消費者)であり、問題があればすぐにディーンの耳に届くことになっている。教員に対するこれらの評価の結果が芳しくなければ、テニュアを得ることはできず、昇進も困難になる。

○  カナダでは、実定法のスタッフ、特にほとんどのファカルティー・メンバーはロースクールを修了し、博士を取得しているとのことだが、法哲学や法制史等のような学問領域の教員はどこで養成されているのか。

□  確かに典型的な教授は学士を持っており、LLB、LLM、そして博士も持っている。その上で、ロークラーク、あるいは実務弁護士であった者が多いが、そうではない者もいる。例えば、大学内の他の学科との併任教員は、哲学科や社会学、歴史、環境科学などの学部学科に所属している。法哲学や法制史といった基本法学の分野においては、このように学際的に活躍する教員が多く、彼らの学際的な発想は、実定法分野の研究にも良い刺激を与えている。また、確かに古い世代の学者には修士号しか持たない者も多いが、そのかわり目覚ましい学問的成果を上げている者が多いということは付言したい。

○  カナダの場合、弁護士養成の法学教育が大学院レベルで行われている一方、学部レベルで法律が教えられている場合もある。これがアメリカとの相違点かと思うが、その2つの法学教育の関係はどうなっているのか。どのようにして重複なく体系的に連続性のあるものとするのか、また、法律を勉強してない者については、どのように移行を図っているのかという点について伺いたい。

□  学部レベルの「法と社会」というプログラムとロースクールの間にはほとんど関係はない。その学部はいわゆるリベラルアーツに該当し、ロースクールの教授が授業をすることはあるが、制度的な関係はない。また、ロースクール側は入学者は全員法律の背景を持っていないという仮定のもとで教育を行っており、最初は法の原理から教えることになっている。経験上、学部で「法と社会」というコースを専攻していても、他の学生との比較では、その後の成績との間に相関関係はない。しかしながら、そのようなコースと密接な協力関係を保持してこなかったため、早い段階で法に関する理解を与えるという機会を失っていたかもしれないとは考えている。

○  その点、カナダとアメリカでは余り実態は違わないと考えてもよいか。

□  違いがあるとすれば、アメリカではロースクールの質の差が激しいということである。素晴らしいロースクールも多い一方、ひどいロースクールもある。それに対してカナダでは、質的にはほぼ均一である。もう一つは、カナダのバーアドミッションコースは、ロースクール修了後に設定されているのに対して、アメリカにはそれがないということである。その違いはカナダにおけるロースクールの学位がLLBであるのに対し、アメリカではJ.D.(博士)という学位になっているという違いにもあらわれていると思われる。

○  カナダにおいてロースクールへ入学するためにはLSATを受けなければならないが、同時に学業成績も優秀であることが必要である。その上、ロイヤーは良好な性格・人格を持っていなければいけないとされている。ロースクール入学後の教育メカニズムはわかったが、そのメカニズムの中から人をどう見分けて育成しているのか。また、もうひとつは、逆にアメリカのロースクールよりもペーパーワークを重視し、学業中心に学生を選んでいるのではないか。アメリカのロースクールの入学にあたっては、もっと人格的な要素や個人的な要素、あるいは推薦が重要である。州立のロースクールであれば、納税者であるかどうかが重要な要素になっている。日本にロースクール制度を導入したときに、どういう入学試験を行うべきかという観点からお話をお伺いしたい。また、カナダの場合は、LSATの問題は誰が作成しているのか。

□  人格は、ロースクール進学時に検討されるものではなく、修了し、弁護士資格を得る際に検討されるべき問題である。確かに、アメリカに比べて公立が多いカナダのロースクールはその分公正を期することが必要であるため、学士段階の成績と学問的な背景を強調する傾向がある。学業成績とLSATの点数だけで合否を判断するのは非常に効率的であり、3分の2の学生はこの2点で決めている。残りの3分の1についてはより包括的な選考を行う。この受験者(入学試験がないことから「申請者」と呼ばれている)は、自分の特殊な事情について主張が許される。このような学生は、他の3分の2の学生の成績水準を大きく下回るわけではないが、ボーダーラインではそのような考慮をすることとなっている。このような様々な背景を有する学生を受け入れることによって、ロー・スクールにおける議論が豊かになるものと考えられる。
  LSATはアメリカと同一のものを利用しており、オンタリオ州の学生が受験するが、その採点は、アメリカのニュージャージー州で行われている。問題もアメリカで作成されており、一般知識を試す質問の中にはカナダの学生には直接関係しないものが含まれていることがある。もちろんカナダの学生はアメリカの事情に相当通じているが、どうしてもそういう問題は生じる。なお、経験的には、そのLSATの点数とロースクールでの成績は全体としては相関関係があることがわかっている。
  ロースクール入学前の学部教育については、その成績には非常に大きなばらつきがあるため、LSATの点数は、学士課程の成績の比較の基準にもなる。なお、LSATの点数をオズグッドホールでは、大学教育1年分の比重を与えており、例えば、4年の学士課程を経た志願者は学士課程の成績が5分の4、LSATの点数が5分の1になる。

○  ロースクールの地域的な偏在という問題はあるか。また、概ねロースクールの質は保たれていると説明されていたが、ロースクールによっては、裁判官等の非常勤講師の協力を得るために大きな苦労をしなければならないことはないか。

□  カナダは非常に広大な国であり、確かに問題はある。しかし、2つの小さな州を除いて、各州に最低1つはロースクールがある。確かに大都市の方が大ローファームがあり、裁判官数も多いため非常勤講師を頼みやすいという状況はあるが、そうではない地域にあるロースクールでは、例えば卒業生に週1回来てもらうなど弁護士会と密接な関係を保ちながら工夫している。また、確かにカナダのロースクールは、基本的には平準化されているが、当然違いはあり、資源の豊富な所とそうではない所がある。その意味では実際には違いがある。したがって、すべてのロースクール、特にディーンは、事業家である必要があり、実務家と良好な連携関係を保つことによって学生や実務界のニーズに応えていくことを常に心がけなければならない状況にある。

○  カナダの法律家養成期間が全体として長過ぎるのではないかという意見もあって、論争があるという話があったが、この点について補足して欲しい。

□  確かに、ロースクールだけで3年が必要であるが、夏休み等を除くと大学における学習期間は実質18カ月しかなく、学士課程を含めた8年半という期間を経てようやく基本的な能力を獲得するということになっている。このため、選択分野について、より早く、高いレベルの専門性に達することを可能にする観点から、リミティッド・ライセンス(限定的免許)ということが考えられないかと思っている。つまり、将来、大企業の法律問題を担当する大ローファームに行くことを考えている学生は、その分野についてだけ非常に細かい教育を行う方が効率的ではないか。しかしながら、基本科目と専門科目の適正なバランスを維持することは非常に難しく、例えば、最初は刑事弁護だけをやりたいと考えていても、ホワイトカラー犯罪で被疑者を弁護しなければならない状況になったら、やはり会社法や商法の知識が必要になってくる。
  現在法律家協会が特に関心を持っているのは、新しいロイヤーが近隣へ出向き、その周囲の人々の抱える法律問題を適切に処理するという基本的な能力を与えるということである。しかしながら、かなりの数の学生がそういう分野には行かず、より専門化した実務にいきなり就く。したがって、ファミリードクターの教育とより専門化した教育が区別されている医学教育から大いに学ぶべきではないかと考えている。

○  オーストラリアなどではローインコンテクストという本が沢山あったが、あれはロースクールでの教科書のように思われるが、その教材について伺いたい。

□  確かにカナダにもロー・イン・コンテクストというタイプの教材があるが、カナダの場合には、そういう教材もケースブックの中に編入される形で使われている。それに対して、オーストラリアのLLBは要するに学士課程の5年制のシステムであって、その中がクリロー、法学進学課程的な部分と法学課程に分かれているという違いがあるように思う。我々は、そのようなロー・イン・コンテクストと言われるような教材を含めて教えるということは非常に有益だと思っており、それは法学教育に広い範囲の視点を持ち込むことにつながる。

○  ロースクールを卒業しても法曹資格を取らない学生もいるとのことだったが、その学生は、我々でいうドロップアウトした学生になるのか、それともそれなりのニーズはあるのか。

□  確かにロースクールを出ても法律実務家にならない者、なれない者は存在し、そういう者は保険会社の社員や裁判所事務官、警察官になる。法律家になろうと思わずにロースクールに入学する者はいないが、学生の中には、はっきりと法律家になろうと心に決めていない者もおり、学士課程の修了段階で、職業選択にあたって、例えば歴史学の修士号よりも法律の学位の方が、その次のステップにとっては信頼性の高い学位になり得るということである。また、3年間のロースクールの教育を受けている間に、日本流に言うモラトリアム学生が、次第に自分はやはり法律家になるという意識をもつようになることもある。

5  次回日程
  次回は、10月21日(木)に文部省内5B会議室で、イギリスの法曹養成制度についてヒアリングを行うこととなった。

(高等教育局大学課)

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