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資料3   刑事系のカリキュラム・モデル案
   
   
1   刑事系科目の必修総単位数
   
   法律基本科目のうち、刑事系科目(刑法・刑事訴訟法)の必修総単位数は12単位とする。
   
2   刑事系カリキュラムの考え方
   
   ・    法科大学院により、刑事法関係を重点的な専門分野とする法曹養成をめざすことはありえ、その場合、上記より多くの刑事系科目群の履修を義務づけたり、そうでなくともその履修を推奨することが考えられる。また、基礎法学・隣接科目群や展開・先端科目群のなかで刑事法関連の科目を充実させるということもありえよう。これらの点については、各法科大学院の創意工夫により、独自   性のあるカリキュラム編成が認められるべきである。
   ・    同様に、必修総単位数の内訳として、どの科目に何単位を配分するか、また、どの科目をどの学年に配当するかについては、各法科大学院がそれぞれの教育方針にしたがって独自に決定していくことが望ましい。
   ・    必修総単位数の配分につき、ここで提示するモデル案は、体系的・基礎的理解を主眼とした科目としての「刑法」6単位を1年次に配当し、その履修を前提として、2年次には、「刑事訴訟法」4単位と、さらに、「深化と統合」を目ざした科目としての「刑事法総合」2単位を履修させるものであるが、これとはやや異なり、たとえば、1年次に「刑法1」4単位、2年次に「刑法2」   2単位、「刑事訴訟法」4単位、「刑事法総合」2単位を履修させることや、科目をより細分化し、1年次と2年次にそれぞれ配当して履修させるということも考えられる。
   ・    さらに、基本的考え方を異にしたカリキュラム編成もありうる。すなわち、1年次の「基礎」と2年次以降の「深化と応用」とを分断すること、刑法と刑   事訴訟法とを分けて教えることは適切でないとして、1年次の最初から統合的かつ応用的な内容の授業を行うべきだという考え方もありえ、たとえば、1年次には、刑法と刑事訴訟法、さらに刑事政策を統合する「刑事法総合1」を6   単位科目として提供し、2年次には「刑事法総合2」6単位を履修させることも考えられる。
   ・    第三者評価基準や設置基準を定めるにあたっては、以上のいずれかの考え方に固定してしまうのではなく、多様なカリキュラム案の実現が可能となるようにし、それぞれのカリキュラム編成の間での「競争」が行われうるようにすることこそが望ましいと思われる。
   
3   刑事系カリキュラム・モデルの一例
   
(1)刑事系科目の単位配分
   
  刑事系科目については、必修総単位数12単位のうち、「刑法」に6単位、「刑事訴訟法」に4単位、「刑事法総合」に2単位を配分することが考えられる。
   
(2)1年次の科目
   
   ・    「専門法曹になるための基礎的な法知識を確実に修得させ、基本的な考え方を体系的に理解させること」に主眼を置いた科目として「刑法」(6単位)を履修させる。その内容は、刑法総論、すなわち、刑法の基礎理論、犯罪論、刑罰論、および、刑法各論、すなわち、刑法典の処罰規定および重要な特別刑法上の処罰規定の解釈論である。
   ・    6単位でこのような広い範囲をカバーできるかどうか、疑問に思われるかもしれないが、法科大学院においてはこれは可能だと考えられる。なぜなら、第1に、法科大学院生はすべて、当初から実務法曹になることをめざして、明確な目的意識と強い学習意欲を有しており、授業への能動的参加が期待され、教育効果も高いものと想定される。第2に、法科大学院生は、学部卒業者ないし社会人であり、学部学生に比し、より本質的事項に集中した、より効率的な授業が可能である。
   ・    とはいえ、授業内容自体にも、大幅な見直しが必要となろう。
   ・ まず、単なる知識の伝達ではなく、時間の制約はあるにせよ、問題領域を限定した上で「深化と応用」が可能となるような一連のテーマを取り上げることが必要である。刑法総論、とりわけ犯罪論は、基礎的な法的思考力・問題解決能力を鍛えるのにきわめて有効であり、網羅的ではないにせよ、重要テーマのいくつかを選択し、掘り下げた内容の授業を行うことが望ましい。たとえば、理論的な射程の広い問題である「被害者の同意」、事実関係の分析にも密接に関わる「過失犯」や、実務的重要性が高く、理論的にも総合的な理解を要求する「結果的加重犯」等のテーマを詳しく取り上げることが考えられる。
   ・    これに対し、たとえば錯誤論についてはよりスリム化し、共犯については、実務上の重要性に鑑みて共同正犯に的を絞ることも考えられる。反対に、罪数や犯罪競合等、いわば「犯罪論と刑罰論の繋ぎ目」に位置する問題、刑の適用・量刑等の刑罰論に属するテーマには、従来よりも多くの時間を割くことが必要となろう。
   ・    刑法各論についても、刑法典上の罪であっても、その主要なもののみを取り上げれば足りると考えられる反面、特別刑法の規定、たとえば経済犯罪や薬物犯罪に関する諸規定は、その実務上の重要性から、より詳しく扱うことが望ましい。
   ・    授業の方法については、単なる解釈論に終始してはならず、従来よりも、刑事訴訟法との関連、犯罪現象論や犯罪対策論、刑事立法論との連繋を強く意識したものとすべきである。単に知識の受動的な修得ではなく、批判的・創造的な法的思考力・分析力の育成がめざされるべきであること、少人数教育の利点を活かした教育方法を工夫すること等は、他の法律基本科目の場合と同じである。
   
(3)2年次の科目
   
   ・    2年次においては、1年次における刑法の履修を前提として、また、法学既修者については、これに対応する法的思考能力・分析能力が備わっていることを前提として、「刑事訴訟法」4単位の集中的な授業を行うことが考えられる。さらに、刑法と刑事訴訟法の融合的な論点に関する総合科目として「刑事法総合」(2単位)を履修させることが考えられる。
   
     刑事訴訟法(2年次、4単位)
   
   ・    単位数としては、従来の法学部授業と異ならないが、それに比べて、格段に内容の濃い授業が期待される。また、これまでの大学の刑事法教育が手続法をやや軽く見る傾向があったとすれば、これを改めることにも役立つと考えられる。
   ・    この授業では、刑罰法令を実現する手続の流れ、個々の制度の仕組みとその趣旨、基本的な解釈論上の問題と、判例あるいは学説による問題解決を取り上げ、それらの確実な修得を前提として、刑事法が機能する「場」を明確に意識させ、そこでの刑法・刑事訴訟法の働き・機能を把握させることがめざされるべきである。これは、実務における刑事法の「使われ方」を理解させることにほかならず、最終的には、刑事手続関与者、すなわち、裁判官、検察官、弁護人等により相対的な、しかもどれかに偏ることのない多面的な見方を理解させることにまで及ぶものでなければならない。
   ・    また、この授業は、刑法と刑事訴訟法との連繋を正確に修得させるとともに、既存の実定法規の解釈論や実務の運用、基本判例の理解だけでなく、政策的・立法論的視点からのアプローチを加味し、刑事政策や刑事立法論との連繋に留意したものとなることが要請される。
   ・    授業の進め方として、手続の流れを理解するうえで、モデル事例を設定し、その処理を手続の流れにそってたどっていくという方法が有効であると考えられる。とりわけ、事例に即して作成されたモデル書式やビデオ等の教材との組み合わせにより、学習効果が高まることが期待される。
   
     刑事法総合(2年次、2単位)
   
   ・    刑事法総合は3つのねらいをもつ必修科目として位置づけられる。すなわち、第1に、既修の刑法の学識を深めること、第2に、刑法と刑事訴訟法とを結びつけて統合的に理解させること、第3に、実務関連科目ひいては実務修習へと架橋する科目として、そこにおける学習に不可欠な前提知識と理解を修得させることである。
   ・    この授業では、従来の学部教育で手薄となりがちであった事実関係の把握・分析の能力が育成されるように配慮することが必要である。
   ・    具体的テーマとしては、実体法の側からは、たとえば、過失犯、責任能力、共同正犯、財産犯ないし経済犯罪、薬物犯罪などのテーマが考えられる。教える側には、これまでと異なった新しい論点やテーマを「発見」し、これらへのアプローチを展開させることが要請される。
   ・    この授業の主要な教育目標は、すでに修得した体系的知識を具体的な事例との関係で「使いこなせる」レベルにまで高めること、基本的な判例について、その事実関係との対比から、その射程を見極める能力を涵養すること、判例の事例と類似のケースにつき判例に基づく立論の技法を体得すること、それを前提としたうえで批判的・発展的思考を展開できるようにするための訓練をすること、複数の刑事法分野にまたがる複合的な論点、民法や行政法などと関わる論点を含む事案について、事実関係を分析して解釈論上の論点をみずから発見し、説得的な解釈論を展開する能力をつけることである。



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