法科大学院の教育内容・方法等の在り方についての中間まとめ

平成14年1月22日
法科大学院の教育内容・方法等に関する研究会

まえがき

   平成13年6月に内閣に提出された司法制度改革審議会意見書(以下「意見書」という。)は、わが国司法の人的基盤の充実をはかるために、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度を整備して、法科大学院をこのような法曹養成制度の中核的機関として新たに設置し、平成16年4月から学生受入れ開始をめざすことを提言した。この提言をふまえて、各方面において法科大学院設置に向けた準備が進められてきているが、各法科大学院の具体的な設置準備を円滑に進めるためには、法科大学院の第三者評価(適格認定)と設置認可の基準ができるだけ早期に策定され、その内容が公表されることが不可欠である。

   本研究会は、意見書で示された法科大学院の目的・理念や基本的な制度設計を具体化し、多様な法科大学院の設置準備が円滑に推進されるための共通基盤の形成に寄与することをめざして、法科大学院の教育内容・方法等に関する全国共通の統一的基準の在り方について、これまでに公表された関係各方面の意見・構想等を参考にしつつ、第三者評価基準および設置基準を視野に入れて調査研究している。

   法科大学院の教育内容・方法等については、司法制度改革審議会からの協力依頼を受けて文部省(当時)に設けられた「法科大学院(仮称)構想に関する検討会議」や、「法科大学院における教育内容・方法に関する研究会」、法科大学院を設置しようとする各大学、弁護士会等が、それぞれモデル案、カリキュラム案等を提示し、それらをめぐって活発な議論が展開されてきている。研究会メンバーも、それぞれこれらの案の策定や議論に関与してきたが、所属大学内外で各自が関与した案を参考にしつつも、それらの立場にとらわれずに、各方面におけるその後の検討状況の進展をふまえ、全国共通の統一的な第三者評価基準ないし設置基準の実質的内容として適切と考えられる案を、大学で法学の教育研究に携わる個人の立場で調査研究している。

   調査研究にあたっては、意見書の趣旨を実現するにふさわしい法科大学院の教育内容・方法等の実質的内容に関する基準の検討を主眼としており、このような基準が最終的に第三者評価基準と設置基準とにどのように振り分けられ、具体的にどのような形式で規定されることになるかは、別途技術的に検討されるべき事柄であり、本研究会では立ち入らない。また、第三者評価基準ないし設置基準に盛り込まれるべき事項を網羅的に検討することをめざすものではなく、主として大学で法学の教育研究に携わる立場からみて、法科大学院の設置準備の前提として、法科大学院の教育内容・方法およびそれらと関連する事項のうち、第三者評価基準ないし設置基準としてできるだけ早期に公表される必要のある基本的事項の調査研究を先行させてきた。そのため、法科大学院において充実した教育を行う上で重要な事項であるにもかかわらず、今後の検討にゆだねられているものも少なくない。

   本研究会がこれまでの検討結果を整理した中間まとめを公表するのは、法科大学院の教育内容・方法等の在り方について関係各方面が合意を形成するために意見交換をする際の一つの資料を提供し、各方面の意見を参考にしつつ、さらに今後の調査研究を進めるためである。

   本研究会の調査研究を進める過程では、法科大学院の教育内容・方法等に関してこれまでに公表された数多くの意見・構想等を参照させていただき、また、平成13年11月12日の中央教育審議会大学分科会法科大学院部会(第5回)と同月17日の財団法人日本法律家協会・社団法人商事法務研究会共催シンポジウム「法科大学院のカリキュラム・教育方法を考える—第三者評価基準の観点から」において研究会の検討結果の中間まとめ骨子(案)を報告する機会を与えられた。法科大学院の教育内容・方法等に関してこれまでに公表された各方面の案やそれらをめぐる議論の蓄積がなければ、短期間にこのような中間まとめを公表することはおそらく不可能であっただろう。法科大学院設置に向けてそれぞれの立場からこれまでの議論の進展に寄与された多くの方々に心から敬意と謝意を表したい。

   なお、中間まとめ骨子(案)を報告した上記二つの機会における関係者との意見交換をふまえ、その後、法科大学院の修了要件としての必要修得単位数について再検討し、関連事項についての見解を修正したことをとくに付言しておきたい。

   最後に、本調査研究にご協力いただいた関係者各位に深く感謝申し上げるとともに、今後も引き続きご協力くださることをお願い申し上げたい。

平成14年1月22日
         「法科大学院の教育内容・方法等に関する研究会」
         共同研究者
           (代表者) 田中成明  (京都大学大学院法学研究科)
磯村   保  (神戸大学大学院法学研究科)
井田   良  (慶應義塾大学法学部)
加藤哲夫  (早稲田大学法学部)
酒巻   匡  (上智大学法学部)
長谷部恭男  (東京大学大学院法学政治学研究科)
      (幹   事) 笠井正俊  (京都大学大学院法学研究科)

 


目次

まえがき

1   第三者評価基準と設置基準についての基本的な考え方

2   法科大学院の教育内容・方法

 

  

(1)教育課程の全体像

(2)カリキュラム

        

1カリキュラム編成に関する基本的な考え方

2カリキュラム編成に関する規定の骨子

3各科目群の内容、配当単位数、留意事項等

       

(a) 法律基本科目群

(b)実務基礎科目群

(c)基礎法学・隣接科目群

(d)展開・先端科目群

  (3)教育方法

3   法科大学院の教員組織

   (1)教員組織に関する基本的な考え方

   (2)教員の資格と専任教員数

   (3)実務家教員

資料1   公法系のカリキュラム・モデル案

資料2   民事系のカリキュラム・モデル案

資料3   刑事系のカリキュラム・モデル案

 


1   第三者評価基準と設置基準についての基本的な考え方

   司法制度改革審議会意見書(以下「意見書」という。)は、新たに設置される法科大学院について、その法曹養成の中核的機関としての水準の維持・向上をはかるために、第三者評価(適格認定)を継続的に実施することとし、このような第三者評価の基準が、法科大学院の大学院としての設置認可に関する基準と、それぞれ独立した意義と機能を有しつつも、相互に有機的な連携を確保して、法科大学院の入学者選抜、教育水準、成績評価・修了認定等に関する全国共通の統一的な基準となることを提言している。法科大学院の教育内容・方法等に関する第三者評価基準と設置基準は、法科大学院が法曹養成制度の中核的機関としての使命を適正に果たし、その水準の維持・向上をはかる上で極めて重要な位置を占めている。また、これらの基準の策定と運用は、各法科大学院関係者の自発的創意を基本とし、法科大学院の独自性・多様性を促進するようなものでなければならない。

   法科大学院の第三者評価基準は、基本的にアメリカ法曹協会(ABA)ロー・スクール認定基準の仕組みのように、「基準」と「指針」の二段階構成とするのが適切である。

   「基準」は、意見書における法科大学院の理念・目的や基本的な制度設計に関する提言内容を基礎に、ABA基準等を参考に策定することとし、原則として抽象的な規定にとどめるべきであろう。また、「指針」は、ABA基準の「解釈」に当たるものであり、具体的な数値等、基準の具体的運用に関わる内容をかなり詳しく定め、適宜改訂することを予定すべきであろう。したがって、第三者評価基準の実質的内容は、指針として規定されるものが中心となると考えられる。

   他方、法科大学院の設置基準は、大学院設置に関する各種基準の現行の内容、および、大綱化という最近の策定方針との整合性を確保しつつ、専門大学院に関する基準をも参考に規定されることになる。その際、設置基準と第三者評価基準の実質的内容が重なり合う事項については、規定内容が矛盾せず、相互補完的になるように配慮されなければならないことは言うまでもない。

   以上のような第三者評価基準と設置基準に関する考え方に基づいて、本研究会における調査研究は、第三者評価基準の指針として規定されるべき事項に焦点を合わせて行うことになるが、法科大学院の教育内容・方法の具体的な在り方の検討に必要な限りにおいて、設置基準に関する事項も適宜取り上げることにする。

   以下においては、基準という言葉は、基本的に、第三者評価の基準と指針および設置基準を含めた、広い意味で用いている。

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2   法科大学院の教育内容・方法

   (1)教育課程の全体像

   研究会は、意見書が法科大学院の教育理念として掲げている内容を実現するための教育内容・方法およびそれと密接不可分な教員組織の具体的な在り方の調査研究を先行させてきているが、法科大学院の教育課程の全体像については、以下のような前提で検討を進めている。

   教育課程の在り方に関する基準は、法科大学院が法曹養成に特化したプロフェッショナル・スクールとして一つの完結した教育課程として位置づけられていることから、3年標準型を中心に検討するが、修業年限に関して、3年標準型と2年短縮型の併存が前提とされていることから、いずれの型にも共通して妥当するものでなければならない。

   3年標準型と2年短縮型の教育課程の相互関係について、原則として、3年標準型の1年次のカリキュラム編成以外は、共通とすべきである。しかし、カリキュラム編成や入学者選抜にあたっては、3年標準型の1年次修了者の学力が2年短縮型入学者と同レベルであるという考え方を必ずしもとる必要はなく、各法科大学院が、それぞれの教育方針に従って、法科大学院修了時点で全員が同じレベルに達するような教育を行うという考え方のもとに、カリキュラム編成や入学者選抜を行えば十分である。したがって、これらの点に関する第三者評価および設置認可の基準も、必要最小限にとどめ、各法科大学院の教育方針の独自性・多様性を尊重するべきである。

   法科大学院の授業期間・日数、単位の計算方法等については、基本的に、現行の大学院設置に関する各種基準が適用されることを前提とするのが適切である。

   これまでに公表された案では、学期制についてはセメスター制(年2学期制)をとる法科大学院が大半であり、授業時間については50分制と100(または90)分制が分かれているが、学期の分け方や授業時間については、基本的に、各法科大学院の教育方針にゆだねるのが適切である。

   単位の計算方法については、法科大学院のカリキュラムに関してこれまでに公表された各大学の案においては、平成3年の設置基準の大綱化に伴う変更の趣旨が十分に浸透していないきらいがある。法科大学院の設置による教育方法の転換を機会に、従来の学部法学教育の単位計算の慣行を改め、教員が教室等で授業を行う時間と学生が事前・事後に教室外において準備学習・復習を行う時間の合計で、標準45時間の学修を要する教育内容をもって1単位とするという設置基準の規定(大学院設置基準15条、大学設置基準21条以下参照)の趣旨を徹底させるべきである。

   法科大学院の授業期間・日数、単位の計算方法等について、上記のように理解するならば、1年間に通常の授業時間・学期内で修得できる単位は、概ね30単位を標準とすることになる。しかし、法科大学院の場合は、学期外の実務家教員による集中講義科目、通常の授業時間・学期外に履修するクリニック、エクスターンシップ等の科目を相当数修得することが可能であり、また、必要であるため、法科大学院の修了に必要な総単位数については、これらをも考慮して、若干加重するのが妥当である。

   以上のような考え方から、法科大学院の修了については、3年標準型は、3年以上在学、93単位以上修得、2年短縮型は、2年以上在学、63単位以上修得を必要とするのが適切である。

   なお、学生に上記単位計算の趣旨を徹底させるために、いわゆるキャップ制を導入し、各年度に学生が履修できる総単位数の上限を36単位とすることが考えられる。しかし、3年次については、配当される科目のほとんどが選択科目であること、学生が1年次と2年次の学修を経ていることなどを考慮して、キャップ制の上限を44単位程度まで緩和することも考えられる。

   上述のように、これまでに公表された大学等のカリキュラム案においては、単位計算の基準に十分配慮しないままに修了要件単位数や必修科目単位数が設定され、法科大学院の教育を充実させるための方策について、主として修了に必要な総単位数や各科目に配分される単位数を増加させる方向で検討されてきたきらいがある。しかし、1年間に修得可能な単位数が概ね30単位であることからすると、その標準的な枠内で、授業方法や学生の受講姿勢の転換によって教育内容の充実と教育効果の向上をはかることをめざすべきであり、従来の学部法学教育における単位の計算や配分を当然の前提として、法科大学院における単位の計算や配分の在り方を検討するのは適切ではない。

   (2)カリキュラム

1カリキュラム編成に関する基本的な考え方

   意見書では、法科大学院においては、1法曹に共通に必要な専門的資質・能力の習得、2豊かな人間性の涵養・向上、3専門的な法知識の確実な習得、4法知識を批判的に検討・発展させていく創造的な思考力と事実に即した具体的な問題解決に必要な法的な分析・議論能力の育成、5先端的な法領域についての基本的な理解、6法曹としての責任感・倫理観の涵養と社会貢献の機会の提供等の基本的理念を統合的に実現するものとされている。

   法科大学院のカリキュラムは、これらの基本的理念を効果的に実現できるように編成することによって、従来の司法試験という「点」のみによる選抜の弊害を是正し、司法試験・司法修習と有機的に連携される「プロセス」としての法曹養成制度の基幹的機関としての教育を行うのにふさわしいものでなければならない。

   意見書では、以上の基本的理念を統合的に実現することによって、理論的教育と実務的教育の架橋をはかるものとされ、具体的には、少なくとも実務修習は別に実施することを前提として、法理論教育を中心としつつ、実務教育の導入部分(例えば、要件事実や事実認定に関する基礎的部分)をも併せて実施することとされている。法科大学院の具体的なカリキュラムも、このような制度設計を前提に行われるべきであることは言うまでもない。

   法科大学院における実務基礎教育については、とくに司法修習のうち集合教育(前期)との役割分担の在り方に配慮し、随時見直すものとされているが、さしあたりは、現行司法試験が並行して実施される期間(5年間程度)が終了する時点に照準を合わせて基準を作成し、その間に法科大学院において充実した実務基礎教育を実施するための前提となる制度的・人的条件の整備を急ぐべきである。

   第三者評価基準および設置基準は、意見書の提言するように、法曹養成のための教育内容の最低限の統一性と教育水準を確保しつつ、具体的な教科内容等については、各法科大学院の創意工夫による独自性・多様性を尊重し、競争による教育内容の向上を促進するようなものでなければならない。

2カリキュラム編成に関する規定の骨子

   法科大学院の教育理念を統合的に実現するために必要とされる科目群を、(a)法律基本科目群、(b)実務基礎科目群、(c)基礎法学・隣接科目群、(d)展開・先端科目群に大別し、(a)法律基本科目群の全部と(b)実務基礎科目群の一部の教育内容について、一定単位数を必修とし、それ以外については、部分的に選択必修制をとることを義務づけるが、(d)展開・先端科目群を中心に、各法科大学院が創意工夫して多様性・独自性を発揮することを促進するような基準とすることが適切である。そして、各科目群については、その主な科目ないし教育内容を例示し、必修ないし選択必修の最低総単位数のみを定め、科目ないし教育内容の具体的な編成、必修ないし選択必修の単位数の加重は、法科大学院の基本的理念の実現を損なわない範囲内で、各法科大学院の教育方針にゆだねるべきである。

   各法科大学院のカリキュラム編成における創意工夫を尊重し促進するために、科目群やその内部の科目系列等(以下「科目群等」という。)の区分は、科目群等の間のバランスに配慮しつつ、できるだけ概括的なものにとどめることが望ましい。また、各科目群等に配分される単位数についても、それぞれにつき最低限必要な単位数を検討するにとどめ、細部にわたる具体的な単位配分はできるだけ各法科大学院の教育方針に基づく裁量にゆだねることが望ましい。

   以上のような考え方に基づき、3年標準型のカリキュラム編成における各科目群等への単位配分については、以下のように規定するのが適切である。

   必修科目は、(a)法律基本科目群54単位(公法系10単位、民事系32単位、刑事系12単位)、(b)実務基礎科目群5単位相当(法曹としての責任感・倫理観を涵養するための教育2単位相当、法情報調査1単位相当、要件事実と事実認定の基礎に関する教育2単位相当)の59単位とする。それ以外については、(c)基礎法学・隣接科目群から4単位選択必修を可能とする数の科目を開設すること、(b)法曹としての専門的技能の教育に関する実務基礎科目群(法文書作成、ローヤリング、模擬裁判、クリニック、エクスターンシップ等)から4単位相当選択必修を可能とするように努めることを義務づける。

   なお、各法科大学院における法律基本科目群の必修単位数の加重は、15%以内とするのが適切であり、また、実質的に法律基本科目群の教育内容に当たるものが、基礎法学・隣接科目群、展開・先端科目群として開講されることにも何らかの歯止めが必要である。

3各科目群の内容、配当単位数、留意事項等3各科目群の内容、配当単位数、留意事項等

   各科目群について、その基本的な教育内容、配当単位数の考え方、留意事項等に関して検討した結果を補足的に説明しておきたい。

(a)法律基本科目群

   主として意見書の掲げる上記教育理念の134に関わる科目群であり、「プロセス」としての法曹養成制度において法科大学院が司法修習との役割分担において期待されている使命からみて、この科目群が中心的となる。もちろん、法律基本科目による法理論教育も、意見書の言うように、実務上生起する問題の合理的解決を念頭におき、体系的な理論を基調として実務との架橋を強く意識した内容でなければならず、法律基本科目群内部において、理論的教育と実務的教育の架橋を実効的にはかるよう工夫されなければならない。つまり、法律基本科目群は理論的教育、実務基礎科目群は実務的教育というような二分法的な考え方をすべきではない。

   法律基本科目群は、公法系、民事系、刑事系に分け、以下のような内容と単位配分とする。

       ・公法系 (憲法、行政法等の分野に関する科目)・・・10単位
  ・民事系 (民法、商法、民事訴訟法等の分野に関する科目)・・・32単位
  ・刑事系 (刑法、刑事訴訟法等の分野に関する科目)・・・12単位

   *公法系・民事系・刑事系それぞれについてのモデル案と解説については、資料123を参照されたい。

   法律基本科目群は、ほとんど1年次と2年次に配当されることになるが、各系の内部での1年次と2年次への具体的な科目配当や単位配分の仕方は、基本的に、各法科大学院の教育方針にゆだねるのが適切である。いわゆる基礎科目と基幹科目の区別のような段階的な区別は、基準では設けないが、3年標準型と2年短縮型の修了要件総単位数の差(30単位)によって、配分の仕方には事実上一定の制約がある。

   各法科大学院が、それぞれの教育方針に沿って法律基本科目群の必修単位数をある程度加重することは認めるが、カリキュラム全体の適正なバランスを確保するためには、必修科目における法律基本科目群の比重が高まりすぎることは不適切であり、法律基本科目の必修単位数の加重は、全体として15%以内にとどめるべきである。また、同様の趣旨から、実質的に法律基本科目群に当たる内容の科目が、基礎法学・隣接科目群や展開・先端科目群の中で開講されることも、不適切であり、何らかの歯止め策が必要である。

(b)実務基礎科目群

   主として意見書の掲げる上記教育理念の46に、さらに12にも関わる科目群である。実務基礎科目群に配当する単位数は、法律基本科目群の教育も、実務との架橋を強く意識した内容となること、展開・先端科目群のなかで、実務家が担当する実務関連科目が相当数開講されること、その後司法修習制度のもとで相当期間実務修習が行われること、さらに実施のための人的・制度的条件の整備に一定期間かかることなどを考慮すると、法科大学院設置当初は、5単位相当を必修とし、現行司法試験が並行して実施される期間(5年間程度)が終了する時点で、それに加えて4単位相当を選択必修とし、合わせて9単位相当程度を必修ないし選択必修とするのが適切である。

   実務基礎科目の教育内容には、大別すれば、法曹としての責任感・倫理観を涵養するためのものと、法曹としての専門的技能の教育のためのものが含まれる。後者についてこれまで各方面のカリキュラム案で示された科目区分やそれぞれの教育内容には、かなりばらつきがみられるが、ほぼ共通して挙げられているものは、法情報調査、法文書作成、要件事実と事実認定の基礎、ローヤリング、模擬裁判、クリニック、エクスターンシップ等である。

   各方面の案で示されている各科目の教育内容は、暫定的に整理すれば、おおよそ以下のようなものである。

    ・法曹倫理 ・・・ 法曹の役割と倫理について、現在の日本の法制や実態を検討するとともに、歴史的・比較的視点をも盛り込んで、批判的に分析させ、法曹としての責任感・倫理観を養う。弁護士法・弁護士倫理等の規定をめぐる事例分析も行う。
  ・法情報調査 ・・・ 法令、判例、学説等の探索・整理・分析の技法、判例の意義・読み方等、法曹としての最も基礎的な専門的技能を学ばせる。
  ・法文書作成 ・・・ 契約書・遺言書あるいは法律意見書・調査報告書等の法的文書の作成の基礎的技能を、添削指導等により修得させる。
  ・要件事実と事実認定の基礎 ・・・ モデル訴訟記録を用いたり、訴訟関係書面を作成したりするなどの方法で、要件事実論(民事)、証拠法・事実認定(民事・刑事)等について基礎的な教育を行い、訴訟実務の基礎を学ばせる。
  ・ローヤリング ・・・ 依頼者との面接・相談・説得の技法や、交渉・調停・仲裁等のADRの理論と実務を、ロールプレイをも取り入れて学ばせ、法律実務の基礎的技能を修得させる。
  ・模擬裁判 ・・・ 民事・刑事裁判過程の主要場面について、学生にロールプレイ等のシミュレーション方式によって学生に参加させ、裁判実務の基礎的技能を身につけさせる。
  ・クリニック ・・・ 弁護士の監督指導のもとに、法律相談、事件内容の予備的聴取り、事案の整理、関係法令の調査、解決案の検討等を具体的事例に則して学ばせる。
  ・エクスターンシップ ・・・ 法律事務所、企業法務部、官公庁法務部門等で研修を行う。

   実務基礎科目群の以上のような教育内容は、アメリカのロー・スクールのカリキュラム等をみても、科目の編成や名称等はかなり多様であり、また、相互に重なり合っており、それぞれ独自科目として十分に分化確立していないものもある。したがって、どのような科目編成で実施するかについて、現時点で細かく基準化して規定することは適切ではない。実務基礎科目群の教育内容をどのように組み合わせて科目編成をするか、また、法律基本科目群や展開・先端科目群の科目に付加して一体的に実施するかどうかなどについては、アメリカのロー・スクールのカリキュラム等が参考になるが、わが国の実情に合わせて教育内容を具体的に検討して確定していかなければならず、現時点では、各法科大学院の創意工夫にゆだね、科目編成や教育内容についてある程度の共通の理解が出来上がった時点で、改めて基準化することを検討するのが適切である。

   実務基礎科目群の教育内容の具体的な実施の仕方については、例えば法曹倫理は、実務基礎科目群の中では比較的その教育内容が確立しており、独立の科目として実施しやすいが、独立の科目と併せて、あるいはそれに代えて、模擬裁判やローヤリングあるいは刑事訴訟法等に付加して一体的に実施したほうが効果的な部分もあり、必ず独立の科目として実施することまで義務づける必要はないと考えられる。その他の実務基礎科目群の教育内容は、相互に重なっていたり、教育内容が不確定であったりするものが多く、それぞれ独立の科目として実施することを義務づけることは適当でないであろう。また、要件事実と事実認定の基礎教育は、民事系や刑事系の法律基本科目に付加して一体的に実施してはじめて、理論的教育と実務的教育の架橋がはかれるところもある。法文書作成、ローヤリング等も、例えば、企業法務や家族紛争処理等の展開・先端科目と一体的に実施することが考えられる。

   実務基礎科目群の教育内容については、その核心的部分を中心に、教育方法と併せて、共通の理解が形成されるように各方面で検討を進め、基準化になじむようなものにするよう努めることにし、本研究会でもモデル案の策定等を検討したい。

   実務基礎科目群については、以上のように、それぞれの教育内容・方法についての共通の理解が必ずしも十分に確立されておらず流動的であること、また、とくにクリニックとエクスターンシップについてはその実施のための制度的・人的条件の整備の見通しが明確でないことなどを考慮すると、その修得単位の規定方式は、法科大学院設置当初は、以下のように、2段階構成とするのが適切である。

   まず、法曹としての責任感・倫理観を涵養するための教育内容2単位相当、法曹としての専門的技能の教育内容のうち、法情報調査1単位相当、要件事実と事実認定の基礎に関するもの2単位相当を何らかの仕方でカリキュラムのなかに必ず含まなければならないが、これらの内容をそれぞれ別個の科目として実施することは義務づけず、具体的な科目編成や配当年次等は、各法科大学院が、教育方針や教員構成に応じて適宜具体化することとする。

   次に、以上の必修の教育内容以外の実務基礎科目群については、その実効的な実施のための人的・制度的条件の整備状況を見定めつつ、各法科大学院が、その教員構成や地理的条件等を考慮して、科目編成の仕方や実施方法等を創意工夫し、5年間程度以内に、4単位相当の教育内容を選択必修とすることができるようなカリキュラム編成に努力することを義務づける。

(c)基礎法学・隣接科目群

   主として意見書の掲げる上記教育理念の4に、さらに2にも関わる科目群である。各法科大学院は、選択必修制または必修制によって、学生がそれぞれの関心に応じて効果的に相当科目を履修することが可能となるように、一定数の科目を開講することを義務づけるのが適切である。

   基礎法学科目群は、法哲学、法史学、法社会学、比較法等の科目だけでなく、外国法科目も含み、隣接科目群は、公共政策や法と経済等、政治学・経済学科目が中心となるが、これらに限らない。法学部出身者については、とりわけ隣接科目を学ぶことがその視野を拡げるために重要であり、法学部以外の学部出身者については、基礎法学科目の学習によって法学全体の体系的な理解のための様々なアプローチを学ぶことが肝要であるので、各法科大学院は、他学部・研究科等とも連携をはかり、これらの科目群の充実に努めるべきである。

もっとも、各法科大学院は、これらの科目群を万遍なく開講する必要はなく、それぞれの教育方針に従って独自性のある科目編成をすることが望ましい。また、基礎法学・隣接科目群は、展開・先端科目群と一体的に実施するほうが教育効果が上がる場合も多く、必ずしも別個の科目群として選択必修制をとることを義務づける必要はないという考え方もありえよう。実際上、法科大学院では、例えば「アメリカ法における生命倫理と法」などのように、科目横断的な教育内容を含んだ科目が開講され、いずれか一つの科目群等に属させることが適切でない科目が増えることが予測される。しかし、そのような科目編成だけに偏ると、基礎法学や隣接科目の独自の教育効果が発揮できないおそれもあることから、法科大学院のカリキュラム全体のバランスを最小限確保するためには、4単位程度の選択必修制を義務づけることが適切である。もちろん、各法科大学院が、それぞれの教育方針に従って、それ以上の単位修得を義務づけることを妨げるものではない。

(d)展開・先端科目群

   主として意見書の掲げる上記教育理念の45に関わる科目群であり、とりわけ各法科大学院の創意工夫による独自性・多様性が発揮されるべき分野である。各法科大学院は、それぞれの教育方針に従って、法科大学院修了者が、裁判関連実務だけでなく、行政・企業・国際関係をはじめ、社会の様々な領域における法的ニーズの増大・多様化に対応できるための基礎教育を実施し、わが国の法曹の狭すぎる活動領域の拡充に寄与するように努めなければならない。

   展開科目としては、労働法、経済法、税法、倒産処理法、国際私法等、先端科目としては、知的財産法、国際取引法、環境法等が考えられるが、両科目群は重なり合っており、区別が困難であるだけでなく、法科大学院設置後は、ますます多様な科目が開講されることが予測されるから、基準レベルで区別することは不適切であり、また、その必要もない。各法科大学院の創意工夫による独自性・多様性の発揮を促進するために、できるだけ概括的に規定し、修了要件として必要な総単位数の4分の1から3分の1程度これらの科目群に配当することを促進するような規定とするのが適切である。

   これらの科目群は、学生にそれぞれの関心に応じて自由に選択させることが理想的であり、選択必修科目等として基準レベルで規制することは、本来必ずしも望ましいことではない。しかし、一定の規制を設けないと、実質的に法律基本科目群に当たる内容の科目が展開・先端科目群として開講され、法科大学院の教育内容が偏り、法科大学院の基本理念の統合的な実現が損なわれるおそれがあるから、カリキュラム全体のバランスを確保するために、一定単位の選択必修制をとることなど、最小限の規制を設けることも検討する必要があるかもしれない。

   さしあたりは、各法科大学院が、法律基本科目群や実務基礎科目群の一定の必修科目を共通の基礎としつつも、展開・先端科目群及び選択必修制をとる実務基礎科目群や基礎法学・隣接科目群における独自の科目編成と組み合わせて、学生の進路希望に応じたモデル履修案の提示・コース制の導入等によって自主的に対応することが期待される。

   展開・先端科目群に選択必修制をとる実務基礎科目群や基礎法学・隣接科目群を加えると、法科大学院修了に必要な総単位数の約3分の1が、各法科大学院の教育方針に沿った裁量にゆだねられていることを最大限活用して、各法科大学院が理想とする法曹養成に適合的なカリキュラム編成に努め、多様な法科大学院が展開されることが望ましい。

   (3)教育方法

   意見書は、法科大学院の教育方法について、少人数教育を基本とし、双方向的・多方向的で密度の濃いものとし、厳格な成績評価及び修了認定の実効性を担保する仕組みを具体的に講じるべきであるとし、授業内容・方法や教材の選定・策定等における実務家教員との共同作業による連携協力、少人数の演習方式、調査・レポート作成・口頭報告、教育補助教員による個別的学習指導等の活用などを指摘している。

   これらの提言内容のうち、基準レベルで規定する必要のある事項について具体的な内容を確定しなければならないが、基準化が難しい内容もある。基準化の全体的な構造をはじめ、厳格な成績評価や実務基礎教育の方法の具体的な在り方等は、重要事項ではあるが、今後の課題として残し、カリキュラム全体の編成や教員配置の前提として不可欠な事項について、検討を先行させた。これまでの検討結果の主な内容は、以下のようなものである。

   法科大学院の教育方法については、意見書の提言に沿って充実した教育を行うためには、従来の学部法学教育において常態化しているような大教室での講義中心の授業方法の転換が不可欠の前提である。したがって、法科大学院のカリキュラムの中心となる法律基本科目群の授業は、50〜60名を標準とするのが適切であるが、入学者選抜等との関連である程度の幅をもたせざるを得ないであろう。

   実務基礎科目群の授業方法は、各科目の性質に応じて、学生の積極的参加を促進し十分な教育効果を収めうる方式で行うことを義務づける必要があり、その多くについては、法律基本科目群の授業規模よりも少人数で行わないと、十分な教育効果が期待できないと考えられる。また、実務家教員の任用形態、学生のクリニック、エクスターンシップへの関与の制度的手当等が現状のままでは、実施が極めて困難な教育内容も多い。したがって、各科目の教員対学生比率や実務家教員の関与形態等については、人的・制度的条件の整備状況を見定めながら、現実的に可能な方式を検討する必要がある。

   クリニックやエクスターンシップを実施する場合は、法科大学院の外で行われたり、通常の授業時間や学期の期間外に行われたりすることを認めるべきであるが、単位認定要件等を、その特殊性を考慮して、ABA基準等を参考に別途規定する必要がある。

   学生の文書作成・討議能力を養うために、修了認定に必要な所定の単位のなかに、小論文(レポート)作成とそれについての討議を伴う授業1科目(2〜4単位)を含むことを義務づけることが検討に値する。具体的には、従来の大学院修士課程で提出を要求されている論文やそれに代わるリサーチペーパーとは異なり、開講されているいずれかの演習方式の授業に出席し、一定のテーマについて小論文を作成して、それについて討議することに対して、授業に対する単位に付加して2単位程度を与えるという制度が考えられる。

   法科大学院の教育水準の維持・向上にとっては、教材の作成や教育方法の改革が極めて重要であることに鑑み、個々の法科大学院だけでなく、法科大学院全体について、充実した教育を可能とする教材の作成や教育方法の開発等の絶えざる改善を促進・支援する何らかの方策が講じられる必要がある。

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3   法科大学院の教員組織

   (1)教員組織に関する基本的な考え方

   法科大学院の教員組織については、2のような教育内容・教育方法を円滑かつ効果的に実施するのにふさわしい数と質の教員が現実に配置されなければならず、そのためには、意見書の趣旨に沿って充実した教育体制を整備することを促進するような内容の基準が定められるべきである。その基準は、専門大学院に関する基準をも参考にしつつ、法科大学院の特殊性に配慮して定められるが、意見書でも指摘されているように、移行期における法科大学院の設置を円滑にし、その教育水準を確保するために、当分の間、基準を柔軟かつ現実的に運用する経過措置を講じる必要がある。

   専任教員数や実務家教員に関する基準については、法科大学院設置後一定期間が経過すれば、その教員の相当数が実務経験を有するようになり、また、同一教員が複数の科目を担当し、法律基本科目と同時に展開・先端科目あるいは基礎法学科目を担当したりすることになると予測される。したがって、基準の策定にあたっては、このように教員の教育研究スタイルが変わっていくことを考慮に入れるべきであり、現在の教員の教育研究スタイルを当然の前提にした規定にならないように留意する必要がある。

   (2)教員の資格と専任教員数

   法科大学院の教員資格に関する基準は、意見書の言うとおり、教育実績や教育能力、実務家としての能力・経験を大幅に加味したものとすべきであり、すでに大学院の指導適格教員と認定されている者についても、法科大学院の趣旨に照らして再審査することを検討すべきである。

   専任教員数については、意見書の趣旨に沿って充実した教育を現実に実施できる数と質の教員を配置することを基準で義務づけ、各法科大学院は、可及的速やかにそのような数と質の教員を任用するよう努めることを当然の前提とした上で、法科大学院設置当初から基準をそのまま適用することから生じうる各種の弊害(人事の硬直化、教員の全般的なレベル低下、教員の教育研究スタイルの転換の障碍等)を抑止し、法科大学院の教育水準を下げることなく、教員組織の充実を弾力的にはかるための経過措置を講じる仕組みとするのが適切である。

   以上のような点を考慮すると、専任教員数は、大学院設置基準の規定方式と同様に、最低数基準と学生比率とに分けて、以下のように規定するのが適切である。

    1最低数基準 専門大学院に関する現行告示でも、最低10名(専攻を分割したときは各々6名)の研究指導教員が必要とされており、法科大学院についても、最小規模のものでも、公法系、民事系、刑事系、実務基礎科目群、基礎法学・隣接科目群、展開・先端科目群にバランスよく教員配置をするためには、12名以上の専任教員を置くことを義務づけることが適切である。ただし、上記のような考慮から、当分の間、その3分の1以内の教員は、学部・大学院の専任教員としても算入できるものとする経過措置を講じる必要がある。
  2専任教員対学生比率 専門大学院に関する現行基準(1対10)は、法科大学院では個別的な研究指導は行わないこと、また、アメリカのABAロー・スクール認定基準と比べても厳しすぎることなどを考慮すると、これをそのまま法科大学院に適用することは適切ではなく、教員1人当たりの学生定員は15人以下とし、科目群間のバランスに配慮しつつ、専任教員を配置することを義務づけるのが適切である。ただし、当分の間、最低教員数の場合と同様、その3分の1以内の教員は、学部・大学院の専任教員としても算入できるものとする必要がある。

なお、上記のような経過措置による場合でも、法科大学院の教育を担当する教員が、自己の所属する法科大学院以外の学部・大学院等における教育に一定限度を超えて関与することは、個々の教員の負担過剰を招き、法科大学院の教育体制の充実の妨げになりうるから、このようなことが生じないように十分に留意すべきことは言うまでもない。

   (3)実務家教員

   意見書は、実務家教員の数及び比率については、カリキュラムの内容や新司法試験実施後の司法修習との役割分担等を考慮して、適切な基準を定めるべきであるとし、また、実務家教員の確保を円滑にするために、弁護士法や公務員法等にみられる兼職・兼業の制限等について所要の見直し及び整備を行うべきであるとしている。

   法科大学院においては、実務家教員は、実務基礎科目群だけでなく、展開・先端科目群の相当科目、さらに法律基本科目群の一定科目をも担当することになるから、いずれにしろ、非常勤の教員を含めれば、相当数の実務家教員が不可欠である。どのような形態であれ、実務家教員の配置を義務づける以上、現実にそれだけの実務家教員を確保することを可能とする制度的・人的条件が整備されていることが、具体的な基準の策定の前提条件であろう。

   専門大学院に関する実務家教員の比率(専任教員の概ね3割程度以上)に関する現行基準を法科大学院にそのまま適用することは、司法修習による実務修習を別に実施するという制度設計のもとでは必ずしも適切ではなく、また、専任教員にこだわることは、最新の実務に通じた実務家が法科大学院の教育に関与することを困難にしかねない。専任実務家教員の比率自体を緩和するとともに、実務家教員の任用形態を多様化・弾力化したり非常勤の教員を一定の要件のもとで専任扱いとしたりする措置を講じて、法科大学院全体として、実務基礎教育を中心に、理論的教育と実務的教育との架橋をはかるカリキュラムを円滑に実施できる数の教員を配置することを義務づけることが適切である。

   長期的にみても、法科大学院教員と実務家との兼業緩和や人事交流が促進されるならば、法科大学院修了者が法科大学院教員になる頃には、実務経験をもつ教員が増え、実務家教員の数や比率を規定することの意味は乏しくなるであろう。制度的・人的条件の整備が不十分な現時点では、数や比率による厳格な基準を設けて専任実務家教員の配置を義務づけるよりは、兼業緩和や人事交流の促進等により、実務家教員が多様な任用形態で弾力的に法科大学院の教育に関与し、法科大学院の実務基礎教育体制の充実をはかる条件整備を急ぐべきである。

   したがって、法科大学院設置当初は、実務家教員に関する基準としては、5年以上の実務経験をもつ専任教員を少なくとも1名以上配置することを義務づけ、学生数に応じた実務家教員の数については、学生数に応じて必要とされる全専任教員の概ね2割程度以上の実務家教員を配置することとするのが適切である。併せて、そのうち概ね3分の1以上は専任教員でなければならないが、当分の間、一定の人数を限って、年間6単位以上の授業を担当し、かつ、実務基礎科目を中心に、法科大学院全体のカリキュラムの編成と実施に責任をもって関与する非常勤の教員をも、専任教員とみなす経過措置を講じることが望ましい。

   第三者評価にあたっては、以上のような専任実務家教員数の要件が充たされているかどうかだけを評価するのではなく、非常勤の教員をも含めて、実務基礎科目をはじめ、法科大学院のカリキュラム全体における理論的教育と実務的教育との実効的な架橋に必要な実務家教員が適正に確保されているかどうかを、各法科大学院のカリキュラムの内容や学生定員・地理的条件等を個別的に考慮して評価することを重視すべきである。

   なお、法科大学院において充実した教育を現実に実施するためには、教育補助教員の具体的な活用方法を検討することが重要であり、基準レベルで何らかの規定をして、その位置づけを明確にし、その人的・制度的整備をはかる必要があり、本研究会でも今後の検討課題としたい。

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資料1   公法系のカリキュラム・モデル案

1   公法系科目の必修総単位数

   法律基本科目のうち、公法系科目(憲法・行政法)の必修総単位数は10単位とする。

2   公法系カリキュラムの考え方

・公法系科目の必修総単位数を各科目にどのように配分するか、どのような科目をいずれの学年に配当するかについては、各法科大学院の選択にゆだねられるべきである。10単位を超える必修総単位数を要求することもありうるものと考えられる。

・公法系科目に限らず、必修科目の履修の仕方については、限られた単位数の中で受講者の負担が過大とならないような配慮をしつつ、しかも授業の効果をあげる工夫が必要である。本モデル案では、その工夫として、憲法と行政法を一体化した科目を置くこと、そして、複数の科目のバスケットの中から一定単位数になるまでの単位の修得を要求する方式について検討を加えている。

・以下で述べるカリキュラム・モデル案では、1年次で公法分野の基本的な知識と考え方の修得をめざし、2年次以降で法的分析能力、議論の能力などのさらなる発展をめざすという考え方がとられている。もとより、カリキュラム編成の基本的な考え方は多様でありうる。本カリキュラム・モデル案は、他の考え方の可能性を否定するものではない。

3   公法系カリキュラム・モデルの一例

   (1)1年次の科目

   1年次の科目はいずれも、法学未修者に、公法分野での基本的な知識とものの見方・考え方を身につけさせることを目標とする。下記の2科目のいずれも、憲法あるいは行政法に特化せず、その一体化(ないし融合)をはかっている。

・前期   統治の基本構造(2単位)

   「統治の基本構造」は、公法分野に共通する最少限の基礎知識としての国家機構の概要とその諸原理について見取り図を与えることを目標とする。立憲主義の起源と内容、民主政原理、法の支配、権力分立、議院内閣制と官僚制、国と地方との関係などを取り上げる。具体的な授業構成において、憲法および行政法の基礎にある基本原理の考察を重視するか、あるいは実定制度の基礎的な理解に重点を置くか等については、各法科大学院の工夫と選択にゆだねられるべきであろう。

・後期   人権と国家作用(4単位)

   日本国憲法下における権利保障の基本的構造を理解させ、各人権規定に関する基礎的な知識と考え方の修得をはかるとともに、基本的人権に関わる行政活動のあり方やその紛争処理の方法についての基礎的な知識と考え方の修得をめざす。各法科大学院における人員の構成等によっては、主として憲法上の権利に関わる授業と、主として行政活動とその紛争処理の仕組みに関わる授業(各2単位)に分離して科目を置くことも考えられる。

   (2)2年次の科目

   2年次の科目はいずれも、受講者が1年次の各科目、あるいはそれに相当する科目の履修により、法律学の基礎的な知識と考え方をすでに修得していることを前提としながら、法曹実務家として必要な公法分野の専門的知識の修得とともに、法的分析能力および法的な議論を遂行する能力等のさらなる育成をはかるものである。各科目に関する網羅的な知識の教授ではなく、具体的な素材に基づく双方向・多方向の授業を少人数で行うことが想定されている。

・憲法総合(2単位)

   法曹実務家が訴訟等を通じて人権救済等、憲法規範の実現を図るために必要な専門的知識と法的な思考能力、議論の能力等のさらなる育成をはかる。司法審査制の基本構造、法律上の争訟の概念、違憲審査の対象、違憲判断の方法等を対象とする「憲法訴訟論」や違憲審査の基準とそれに対応する違憲主張の適格論などを扱う「人権保障論」等が主な主題として想定できる。

・行政法総合(2単位)

   法曹実務家にとって必要と思われる行政過程および行政救済に関する専門的知識と法的思考・分析能力等をさらに深めることをめざす。具体的な素材に基づく双方向・多方向の授業を少人数で行うことが想定されている点は、憲法総合と同様である。行政活動に関する訴訟の提起の仕方に焦点をあてる授業や、本案の審理のあり方に焦点をあてる授業等を想定することができる。

※   なお、憲法総合および行政法総合については、2単位の授業科目を複数用意し、それら一群の科目のバスケットのなかから、一定の単位数(たとえば4単位あるいは6単位)に達するまでの科目の履修を要求する方式をとることも考えられる。

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資料2   民事系のカリキュラム・モデル案

1   民事系科目の必修総単位数

   法律基本科目のうち、民事系科目(民法・商法・民事訴訟法)の必修総単位数は32単位とする。

2   民事系カリキュラムの考え方

・民事系科目の必修総単位数を各科目にどのように配分するか、どの科目をどの学年に配当するか、民事系科目の編成をどのように行うか等については、各法科大学院がその教育方針にしたがって判断すべきである。

・民事系科目に限らず、必修科目の履修の仕方については種々の考え方があり、とくに、法科大学院の1年次においては基礎的な法分野に関する基本的な体系的理解を主眼とし、2年次以降に応用的・先端的な問題や法分野を学ぶべきであるとする考え方と、このような、基礎と応用を区別するカリキュラムでは1年次における履修が受動的で知識偏重型となる危険が大きいとして、この区別を排して、1年次から相当程度深化した内容を理解させ、問題解決能力、事案分析能力を修得させるべきであるとする考え方が対立するが、第三者評価基準や設置基準を定めるにあたっては、いずれかの立場を是とするのではなく、各法科大学院が、それぞれの考え方と教育方針にしたがい、これらの基準の枠内で、創造的・批判的な法的思考力・分析力を備えた法曹を養成するにふさわしいと考えるカリキュラムを開発することが相当と考えられる。

3   民事系カリキュラム・モデルの一例

   2で述べた考え方の相違にしたがい、民事系カリキュラム・モデルも多様でありうるが、その一例として、以下のようなカリキュラム・モデルを考えることができる。

   このモデルは、1年次における基礎科目と2年次における応用科目とを段階的に区別する考え方にしたがったものであるが、このような区別を否定する考え方によれば、これとは大きく異なったカリキュラム・モデルとなりうることは、いうまでもない。

   (1)民事系科目の単位配分

   民事系科目の必修総単位数32単位の内訳は、民法12単位、商法4単位、民事訴訟法4単位、民事法総合12単位とする。

   民事法総合科目をどのような編成とするかについては種々の考え方がありうる。民法を主たる対象とするもの、商法を主たる対象とするもの、民事訴訟法を主たる対象とするものというように分野を原則として区別することも可能であるが、民法・商法を一体的に取り扱う科目、実体法と手続法を統合する科目などの編成も考えられる。また、単位数の配分についても、2単位ごとに区分する、4単位で行うなど、多様でありうるが、本モデル案では、6つの2単位科目を想定している。

   (2)1年次の科目

・1年次においては、基本的な体系的理解を主眼とした法律基本科目を以下のように履修する。

   前期   民法8単位

   後期   民法4単位、商法4単位、民事訴訟法4単位

・これらの科目における基本的な体系的理解は、各法分野全体に関わるような、あるいは各法分野を超えて相互に関連するような応用的・発展的な問題を理解するために不可欠であるのみならず、法律基本科目以外の展開科目・先端科目を履修する場合にも、その前提として必須のものである。

・1年次の民事系科目においても、単に法的知識の受動的な修得が目的とされるのではなく、創造的・批判的な法的思考能力・分析能力の育成がめざされるべきであることは当然であり、少人数教育の利点を活かした教育方法を工夫することが肝要である。

・民法の科目をどのように編成するかについては、これまで一般的であった、民法典の編別を科目編成にも反映させるべきであるとする考え方、対象となる法律関係の相違に着目して、たとえば、契約法、不法行為法(ないし法定債権関係法)、物権法、家族法といった編成をとるべきであるとする考え方など、種々の考え方がありうる。

   このモデル例では、前期の民法8単位で、契約法を中心とした取引法を、後期の4単位で、比較的独立性の高い分野と考えられる不法行為法を中心とした法定債権関係法(2単位)と家族法(2単位)を学修することが想定されている。また、従来、物権法は独立した科目とされることが通例であったが、その主要部分である物権変動の問題は、契約による権利変動の問題として、また、担保物権の問題は、人的担保とあわせて債権の履行確保の問題として位置付けられ、いずれも前期8単位の民法科目で取り上げられることになる。

   前期に契約法の基礎を修得することにより、後期配当の商法や民事訴訟法の理解がより容易になると期待される。

・後期配当の商法(4単位)では主として会社法を、民事訴訟法(4単位)では主として判決手続を学修する。

   (3)2年次の科目

・2年次においては、1年次における法律基本科目の履修を前提として(法学既修者については、これにおおむね対応する法的思考能力・分析能力が備わっていることを前提として)、応用的・発展的な問題を取り扱い、創造的・批判的な法的思考力・分析能力をより高度なものとすることが主眼となる。

   前期   民事法総合(2単位)   ×   4
   後期   民事法総合(2単位)   ×   2

・2年次の民事系科目では、各法分野を超えた制度相互間の関係を理解することが必要となる。たとえば、上掲の民事法総合科目を民法総合、商法総合、民事訴訟法総合というように、分野を区別した名称に変更したとしても、他分野に属する問題もその対象に含まれうることは当然である。

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資料3   刑事系カリキュラム・モデル案

1   刑事系科目の必修総単位数

   法律基本科目のうち、刑事系科目(刑法・刑事訴訟法)の必修総単位数は12単位とする。

2   刑事系カリキュラムの考え方

・法科大学院により、刑事法関係を重点的な専門分野とする法曹養成をめざすことはありえ、その場合、上記より多くの刑事系科目群の履修を義務づけたり、そうでなくともその履修を推奨することが考えられる。また、基礎法学・隣接科目群や展開・先端科目群のなかで刑事法関連の科目を充実させるということもありえよう。これらの点については、各法科大学院の創意工夫により、独自性のあるカリキュラム編成が認められるべきである。

・同様に、必修総単位数の内訳として、どの科目に何単位を配分するか、また、どの科目をどの学年に配当するかについては、各法科大学院がそれぞれの教育方針にしたがって独自に決定していくことが望ましい。

・必修総単位数の配分につき、ここで提示するモデル案は、体系的・基礎的理解を主眼とした科目としての「刑法」6単位を1年次に配当し、その履修を前提として、2年次には、「刑事訴訟法」4単位と、さらに、「深化と統合」を目ざした科目としての「刑事法総合」2単位を履修させるものであるが、これとはやや異なり、たとえば、1年次に「刑法1」4単位、2年次に「刑法2」2単位、「刑事訴訟法」4単位、「刑事法総合」2単位を履修させることや、科目をより細分化し、1年次と2年次にそれぞれ配当して履修させるということも考えられる。

・さらに、基本的考え方を異にしたカリキュラム編成もありうる。すなわち、1年次の「基礎」と2年次以降の「深化と応用」とを分断すること、刑法と刑事訴訟法とを分けて教えることは適切でないとして、1年次の最初から統合的かつ応用的な内容の授業を行うべきだという考え方もありえ、たとえば、1年次には、刑法と刑事訴訟法、さらに刑事政策を統合する「刑事法総合1」を6単位科目として提供し、2年次には「刑事法総合2」6単位を履修させることも考えられる。

・第三者評価基準や設置基準を定めるにあたっては、以上のいずれかの考え方に固定してしまうのではなく、多様なカリキュラム案の実現が可能となるようにし、それぞれのカリキュラム編成の間での「競争」が行われうるようにすることこそが望ましいと思われる。

3   刑事系カリキュラム・モデルの一例

(1)刑事系科目の単位配分

   刑事系科目については、必修総単位数12単位のうち、「刑法」に6単位、「刑事訴訟法」に4単位、「刑事法総合」に2単位を配分することが考えられる。

(2)1年次の科目

・「専門法曹になるための基礎的な法知識を確実に修得させ、基本的な考え方を体系的に理解させること」に主眼を置いた科目として「刑法」(6単位)を履修させる。その内容は、刑法総論、すなわち、刑法の基礎理論、犯罪論、刑罰論、および、刑法各論、すなわち、刑法典の処罰規定および重要な特別刑法上の処罰規定の解釈論である。

・6単位でこのような広い範囲をカバーできるかどうか、疑問に思われるかもしれないが,法科大学院においてはこれは可能だと考えられる。なぜなら、第1に、法科大学院生はすべて、当初から実務法曹になることをめざして、明確な目的意識と強い学習意欲を有しており、授業への能動的参加が期待され、教育効果も高いものと想定される。第2に、法科大学院生は、学部卒業者ないし社会人であり、学部学生に比し、より本質的事項に集中した、より効率的な授業が可能である。

・とはいえ、授業内容自体にも、大幅な見直しが必要となろう。

   まず、単なる知識の伝達ではなく、時間の制約はあるにせよ、問題領域を限定した上で「深化と応用」が可能となるような一連のテーマを取り上げることが必要である。刑法総論、とりわけ犯罪論は、基礎的な法的思考力・問題解決能力を鍛えるのにきわめて有効であり、網羅的ではないにせよ、重要テーマのいくつかを選択し、掘り下げた内容の授業を行うことが望ましい。たとえば、理論的な射程の広い問題である「被害者の同意」、事実関係の分析にも密接に関わる「過失犯」や、実務的重要性が高く、理論的にも総合的な理解を要求する「結果的加重犯」等のテーマを詳しく取り上げることが考えられる。

・これに対し、たとえば錯誤論についてはよりスリム化し、共犯については、実務上の重要性に鑑みて共同正犯に的を絞ることも考えられる。反対に、罪数や犯罪競合等、いわば「犯罪論と刑罰論の繋ぎ目」に位置する問題、刑の適用・量刑等の刑罰論に属するテーマには、従来よりも多くの時間を割くことが必要となろう。

・刑法各論についても、刑法典上の罪であっても、その主要なもののみを取り上げれば足りると考えられる反面、特別刑法の規定、たとえば経済犯罪や薬物犯罪に関する諸規定は、その実務上の重要性から、より詳しく扱うことが望ましい。

・授業の方法については、単なる解釈論に終始してはならず、従来よりも、刑事訴訟法との関連、犯罪現象論や犯罪対策論、刑事立法論との連繋を強く意識したものとすべきである。単に知識の受動的な修得ではなく、批判的・創造的な法的思考力・分析力の育成がめざされるべきであること、少人数教育の利点を活かした教育方法を工夫すること等は、他の法律基本科目の場合と同じである。

(3)2年次の科目

・2年次においては、1年次における刑法の履修を前提として、また、法学既修者については、これに対応する法的思考能力・分析能力が備わっていることを前提として、「刑事訴訟法」4単位の集中的な授業を行うことが考えられる。さらに、刑法と刑事訴訟法の融合的な論点に関する総合科目として「刑事法総合」(2単位)を履修させることが考えられる。

   刑事訴訟法(2年次、4単位)

・単位数としては、従来の法学部授業と異ならないが、それに比べて、格段に内容の濃い授業が期待される。また、これまでの大学の刑事法教育が手続法をやや軽く見る傾向があったとすれば、これを改めることにも役立つと考えられる。

・この授業では、刑罰法令を実現する手続の流れ、個々の制度の仕組みとその趣旨、基本的な解釈論上の問題と、判例あるいは学説による問題解決を取り上げ、それらの確実な修得を前提として、刑事法が機能する「場」を明確に意識させ、そこでの刑法・刑事訴訟法の働き・機能を把握させることがめざされるべきである。これは、実務における刑事法の「使われ方」を理解させることにほかならず、最終的には、刑事手続関与者、すなわち、裁判官、検察官、弁護人等により相対的な、しかもどれかに偏ることのない多面的な見方を理解させることにまで及ぶものでなければならない。

・また、この授業は、刑法と刑事訴訟法との連繋を正確に修得させるとともに、既存の実定法規の解釈論や実務の運用、基本判例の理解だけでなく、政策的・立法論的視点からのアプローチを加味し、刑事政策や刑事立法論との連繋に留意したものとなることが要請される。

・授業の進め方として、手続の流れを理解するうえで、モデル事例を設定し、その処理を手続の流れにそってたどっていくという方法が有効であると考えられる。とりわけ、事例に即して作成されたモデル書式やビデオ等の教材との組み合わせにより、学習効果が高まることが期待される。

   刑事法総合(2年次、2単位)

・刑事法総合は3つのねらいをもつ必修科目として位置づけられる。すなわち、第1に、既修の刑法の学識を深めること、第2に、刑法と刑事訴訟法とを結びつけて統合的に理解させること、第3に、実務関連科目ひいては実務修習へと架橋する科目として、そこにおける学習に不可欠な前提知識と理解を修得させることである。

・この授業では、従来の学部教育で手薄となりがちであった事実関係の把握・分析の能力が育成されるように配慮することが必要である。

・具体的テーマとしては、実体法の側からは、たとえば、過失犯、責任能力、共同正犯、財産犯ないし経済犯罪、薬物犯罪などのテーマが考えられる。教える側には、これまでと異なった新しい論点やテーマを「発見」し、これらへのアプローチを展開させることが要請される。

・この授業の主要な教育目標は、すでに修得した体系的知識を具体的な事例との関係で「使いこなせる」レベルにまで高めること、基本的な判例について、その事実関係との対比から、その射程を見極める能力を涵養すること、判例の事例と類似のケースにつき判例に基づく立論の技法を体得すること、それを前提としたうえで批判的・発展的思考を展開できるようにするための訓練をすること、複数の刑事法分野にまたがる複合的な論点、民法や行政法などと関わる論点を含む事案について、事実関係を分析して解釈論上の論点をみずから発見し、説得的な解釈論を展開する能力をつけることである。

-- 登録:平成21年以前 --