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公法系カリキュラムのモデル
   
2−1カリキュラムの全体像
   
       上記の考え方をふまえつつ、法科大学院における公法系のカリキュラムの標準的なモデルを提示してみることとする。その全体プログラムは、大要、以下のとおりである。
   
 
基礎科目――1年次、必修
  「人権の基礎理論」 2単位
  「統治の基本構造」 2単位
  「行政活動と訴訟」 2単位
(「裁判法(または裁判制度論)」2単位・共通科目)
   
 
基幹科目――2年次、4科目のうち3科目必修(後述)
  「憲法演習T・憲法訴訟論」 2単位
  「憲法演習U・人権保障論」 2単位
  「行政法演習T・違法判断」 2単位
  「行政法演習U・訴訟方法」 2単位
   
  展開科目――主として3年次、選択(場合によっては選択必修)
   
     モデル構成の前提として、授業科目の編成は、基礎科目・基幹科目・展開科目の3段階編成を原則とした。また、そのうち基礎科目と基幹科目については、その両者の関係をどのように組み立てるかは前述のように工夫の余地がありうるが、ここでは一応、基礎科目を1年次に置いてその上に2年次科目としての基幹科目を積み上げるという考え方をとった(ただし、全体的調整の観点から科目配当年次の若干の移動を行う可能性はあろう)。
     基礎科目(必修)としての、1年次の「人権の基礎理論」、「統治の基本構造」、「行政活動と訴訟」は、いずれも、法学未修者に公法分野での物の見方に慣れさせ、基幹科目および展開科目の履修の前提となる共通的な諸原理についての最小限の知識を身につけさせようとするものである。「裁判法」(ないし「裁判制度論」)は、民事法系・刑事法系・公法系のすべてに共通の1年次基礎科目として位置づけられる。なお、以上のうち「統治の基本構造」は、憲法の統治機構の部分が、行政法システムの要素でもある各種の事項(立法と行政の関係、内閣制度、地方自治、等々)に関わることから、憲法・行政法の区別なしに一体的に科目を構成するものである。その具体的な授業内容の定め方については、たとえば原理面を重視するか制度面に重点を置くか、制度に関してもどの部分に時間を割くか等々、かなり広い幅がありえよう。
     2年次の「憲法演習T・憲法訴訟論」、「憲法演習U・人権保障論」、「行政法演習T・違法判断」、「行政法演習U・訴訟方法」は、それぞれ、前述のような法科大学院の公法系教育の目標のもとに、実務法曹に求められる問題分析・問題処理の能力を育成するための基幹科目として位置づけられる。これらの科目は、今後の司法が果たすべき役割にてらしての公法系教育の必要性や、展開科目の履修の前提としての重要性に鑑みれば、それぞれを必修とすべきものとも考えられる。しかしここでは、科目履修の負担の増大を抑制する見地に立って、上記4科目・8単位の“必修科目群”のうちから学生の選択により3科目・6単位以上を履修させるという方式を採ることとする。
     展開科目(選択、場合によっては選択必修)としては、応用的ないし先端的な公法系の諸科目や、同じく応用的・先端的な分野での、公法系と民事法系または刑事法系との融合による諸科目が、主としては3年次に開設されることになる。そのような展開科目としての開設が想定されるものには、憲法ないし行政法のより専門的な領域に関する科目や、あるいは、たとえば租税法などのように実務の重要な一分野としてすでに確立している科目や、また、たとえば環境法や情報法や国際人権法などのように現時点で重要な分野になりつつあるものなど、種々ありえよう。
   
     本報告書においてモデルとして提示する公法系のカリキュラムの全体プログラムは、以上のとおりである。以下、基礎科目および基幹科目とされる各科目と、それに加えて展開科目の一例としての情報法につき、それぞれの科目構成の考え方を述べ、かつ、授業モデルの例を示すこととする。
   
   
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