戻る

高等教育

制度の見直し  
4  制度の見直し

   マルチメディアの活用に関する取組のうち、例えば、遠隔授業の実施に当たっては、それを単位として認定することができるかという問題も生ずる。したがって、マルチメディアの円滑・適切な活用を促進するためには、大学設置基準等の制度面の見直しが必要である。
  大学設置基準等の在り方は、最終的には大学審議会において判断されるべきものであるが、本懇談会としては、マルチメディアの技術の進展や教育への活用の意義等を踏まえ、以下のような観点からの見直しが必要と考える。大学審議会においては、設置基準等の具体の規定の在り方等も含め、速やかに議論されることを期待する。 


(1)通信制以外の高等教育機関における遠隔授業

【提言】
  現在は、ネットワークを活用した遠隔授業は、授業の方法として想定されていない。しかしながら、マルチメディアの特性である同時性・双方向性等を活かし、ネットワークを活用した遠隔授業を実施できるようにすべきである。

  • 現行の高等教育機関(通信制を除く)における授業の方法の概要 
    • 例えば、大学の場合は、大学設置基準の第25条において、授業の方法として「講義・演習・実験・実習・実技」が挙げられている。設置基準上、こうした授業は、必ずしも、遠隔授業による実施を禁止していないものの、直接の対面授業として行われることを想定している。(短期大学、大学院、高等専門学校についても、規定の仕方の違いはあるが、考え方は同様) 
  • 提言に当たっての考え方 
    • マルチメディア技術の進展により、教員と学生が離れた場所にいても、直接の対面授業と同じような環境で授業を行うことが可能になっている。 
    • したがって、授業の形態としては、今後も、キャンパスにおける直接の対面授業を中心としながら、メディアを活用することで十分な教育効果があげられると見込まれる遠隔授業については、直接の対面授業と同様に取扱い、授業の形態として認めていくことが望ましい。 
    • なお、遠隔授業を実施する場合には、各高等教育機関において、教育上の配慮を踏まえ、オフ・キャンパスとオン・キャンパスの適切な組合せの検討が必要である。 
  • 遠隔授業の実施に当たって配慮すべき事項 
    • 遠隔授業を実施する際には、 
      • 直接の対面授業に近い環境において行うことが必要であること、 
      • メディアの活用による遠隔授業の実施に当たっては、現時点では、技術的な問題や教育効果の問題等について、未知数な点があること、 
    • から、当面、以下のような事項について配慮して行うことが適当である。(なお、利用するメディアが、無線系(地上波、通信衛星)か有線系か、ということは関係ない)。 
      1. 授業中は、教員と学生が、互いに映像・音声によるやりとりを行うこと 
      2. 学生の教員に対する質問の機会が確保されていること 
      3. 受講場所は、教室・研究室(又はこれに準ずる場所)であること 
      4. 受信側に、システムの管理運営を行う補助員を配置していること(必ずしも、受信側に、教員を配置する必要はない) 
      5. メディアを活用することにより、一度に多くの学生を対象にして授業を行うことが可能となるが、受講者数が過度に多くならないように配慮すること 
  • 遠隔授業による単位の修得 
    • 遠隔授業により取得できる単位数については、大学の学部の学生の場合は、一人当たり30単位までとすることが適当である。 
    • 大学院、短期大学、高等専門学校の学生についても、当面、修得単位数に一定の目安を設けることが適当である。 
    • 複数の高等教育機関の間で遠隔授業を行う場合は、単位互換制度を活用することになる。大学の学部教育では、一人の学生の単位互換による修得単位数は、30単位までとなっている(大学設置基準の第28条)。 

  • 【単位互換の概要】 
    • A大学の学生が、A大学における履修の一環として、B大学で開設する授業科目を履修する。(大学においては、特別聴講学生となるのが一般的) 
    • 授業を行う大学の側(B大学)が、学生の履修に応じて単位を認定する。 
    • A大学では、B大学において修得した単位について、A大学で修得したものとみなすことができる。 
    • みなすことができるのは、大学の学部の場合は30単位まで。 
    • 外国の大学に留学する場合も同様の措置が可能。 

  • 授業料の取扱いについて 
    • 複数の高等教育機関の間で遠隔授業を行うことにより、単位互換を行うところが従来以上に増加することが見込まれる。そのために、マルチメディアを活用した遠隔授業が円滑に行われるよう、高等教育機関の間の授業料等の問題について検討することが必要である。 

(2)社会人を対象とするリフレッシュ教育の遠隔授業

【提言】
  社会人が、リフレッシュ教育として、企業の会議室等において、衛星通信等による遠隔授業を受ける場合に、単位を修得できるようにすべきである。

  • リフレッシュ教育の概要 
    • 高等教育において、社会人が、生涯にわたり最新かつ高度の知識・技術を修得することを目的とする教育(リフレッシュ教育)が推進されている。 
    • リフレッシュ教育の推進のための施策としては、社会人を対象とする特別選抜入試の実施や、夜間大学院、昼夜開講制の実施等があげられる。 
  • 「科目等履修生」制度の概要 
    • 「科目等履修生」制度とは、正規の課程の学生でない者が、各高等教育機関で開設されている授業科目の一部を履修し、正規の単位を修得することを認めた制度である。大学におけるフルタイムの学習が難しい社会人等に対して、パートタイムの形式で高等教育を受ける機会を提供している。 
  • 提言に当たっての考え方 
    • リフレッシュ教育の実施例として、上記の他に、近年、大学が、通信衛星等により、企業に対して公開講座等を送信する取組が始まっている。これは、 
      1. 時間的制約の多い社会人にとって、企業にいながら学習することが可能になること、 
      2. 企業の社員研修のニーズにも合致すること、 
    • から、高い潜在的ニーズが見込まれる。こうした取組を一層進めるために、社会人の単位の修得の道を開き、学習意欲を高めることが望ましい。 
    • したがって、社会人が企業の会議室等において、通信衛星等による遠隔授業を受講する際に、前ページの「遠隔授業の実施に当たって配慮すべき事項」について十分な配慮がなされている場合には、科目等履修生として単位を修得できるようにすることが望ましい。 

(3)通信制の高等教育機関における新しい授業形態

【提言】
  通信制の高等教育機関において、通信衛星やインターネット等のマルチメディアを活用した新しい授業形態を行う場合に、その制度上の位置づけを検討すべきである。

  • 現行の通信教育の概要 
    • 通信制の大学における授業の方法については、大学通信教育設置基準において、「印刷教材による授業」「放送授業」「面接授業」の3つとなっている。 
    • 現在の、通信制の大学・短期大学の規模は以下のようになっている。 
    (平成7年度) 
       学校数 正規の課程の学生数(人) その他の学生数(人) 
    大学(私立) 14 147,221 6,934
    放送大学 1 25,763 32,216
    短期大学(私立) 10 40,630 1,285
    合計 25 213,614 40,435
    出典:平成7年度学校基本調査  

    • 通信制の大学を卒業するためには、30単位以上を「面接授業」により修得することが必要となっている。なお、この30単位のうち10単位までは「放送授業」で代替することが可能になっている。(通信制の短期大学も同様の考え方) 
  • 提言に当たっての考え方 
    • 通信制の大学における「面接授業」の趣旨や効果としては、以下のことが指摘されている。 
      • 印刷教材による授業では、十分な学習効果が期待できない科目への対応 
      • 教員との触れ合い、学生間の交流による人間形成 
    • 通信制の大学においては、これまで、「印刷教材による授業」が中心であったが、放送大学が「放送授業」を開始して10年以上にわたって実績を上げており、また、近年、通信衛星による「放送授業」を行う大学も見られるようになってきた。 
    • また、ネットワークの普及により、生涯学習ニーズが高まることが予想されるが、こうした学習ニーズに対応するため、社会人等が大学通信教育を受講しやすく、学習意欲を継続させやすい環境の整備が求められる。 
    • マルチメディア技術の進展により、学習形態の多様化と効率化が両立し得る状況になってきた。そこで、通信教育の授業の形態について、多様な学習の在り方を認める方向で検討することが必要である。 
    • 例えば、通信制の大学の学生については、過去の学習経験が多様であること、また、通学に困難なところに住んでいることもあることなどから、一律に面接授業を卒業要件とすべきかどうか、検討することが必要である。 
    • これらについては、マルチメディアの進展という観点だけでなく、現在、「印刷教材による授業」を中心としている通信制大学の在り方や生涯学習社会における多様な学生のニーズも考慮する必要がある。したがって、大学審議会において、今後の通信教育をどう考えるかという課題の一つとして、マルチメディアを活用した新しい授業形態の通信教育への位置づけについて議論されることを期待する。 

通信制の大学院の可能性

【提言】
  我が国では、通信制の大学院は制度として存在していない。しかしながら、マルチメディア技術の発達等により、通信衛星等を活用した形での通信教育の可能性が高まってきたことを踏まえ、その可能性を検討すべきである。

  • 現行の制度の概要  
    • 我が国では、現在、通信制の大学院は、制度として存在していない。 
  • 提言に当たっての考え方 
    • 昭和63年の大学審議会答申「大学院制度の弾力化について」の中で、「通信による教育を行う大学院については、その設置を認める方向で、今後、研究指導の在り方等について調査研究を行う必要がある」と指摘されている。 
    • 大学審議会の答申時と比べて、マルチメディアの進展等により、通信衛星等を活用した形での通信教育の可能性が高まってきた。 
    • アメリカでは、NTU(National Technological University) をはじめとして、通信衛星により大学院教育を行う教育機関が登場し、社会人を主な対象として成果をあげている。 
    • 国内でも、連合大学院など通学制の大学院において、マルチメディアを活用した遠隔教育の実験が行われている。 
    • 大学院の教育方法は、大学院設置基準において、 
      • 授業科目の授業 
      • 研究指導(学位論文の作成等に対する指導) 
    • とされているが、特に「研究指導については、通信教育のみで行うことができるか」など、学部教育とは別の配慮も必要である。しかし、遠隔教育は、例えば、知識習得型の学習等において十分な効果が期待されるなど、専攻分野によっては通信による教育を行う大学院を創設することも可能ではないかと考えられる。 
    • ただし、通信制の大学院の検討に当たっては、印刷教材による授業方法や研究指導の方法をどうするか、必要な施設・設備の在り方をどう考えるかなど、マルチメディアの進展という視点以外にも多くの検討が必要である。このため、大学審議会において、通信制の大学院の在り方について具体的な議論を始めることを期待する。 

(高等教育局  企画課)

NEXT UP


ページの先頭へ