3. 提言

 本調査研究では、外国人学校からは、各種学校設置・準学校法人設立に伴い、補助金や税制といった金銭面での利点に加えて、地域に開かれた学校になることにつながった、対外的な信用度が増したといった意見があり、各種学校設置・準学校法人設立が教育環境の改善につながることが確認された。しかし、各種学校の認可には、校地・校舎や保有資産の要件、認可申請書類の作成等の手続の負担等が多くの外国人学校にとって課題となっており、外国人学校からは、県において外国人学校の各種学校認可の基準緩和がなされたため、各種学校の認可を得ることができたという意見もあった。都道府県の一部では、外国人学校の安定的な経営や教育の質の確保の観点から、校地・校舎や運用資産の要件等を緩和することに慎重な意見が出されているが、既に各種学校認可審査基準の弾力化を図った県においては、弾力化に伴う外国人学校の教育や経営について、問題は生じていないという回答が得られた。(別添 外国人学校の各種学校設置・準学校法人設立の認可に関する調査研究 関係団体、外国人学校への調査結果、参照)

 グローバル化が進展する今日、多くの外国人が日本の社会で共に生活する状況で、外国人の子どもの教育の充実を図ることが必要となっている。また、高度外国人材が就労する国を選択するにあたっては、子弟の教育環境が整備されていることも重視される。このため、外国人学校の各種学校設置・準学校法人設立認可を促進する取組みを行うことにより、外国人の子どもの教育環境を整備していくことが必要である。上記の観点からは、今回、調査の対象としたインターナショナルスクールに加えて、欧州系の外国人学校、インド人学校等についても、配慮することが重要と考えられる。具体的には、以下のような対応が考えられる。

 校地・校舎の所有要件の弾力化

 国としては校地・校舎の借用により学校を設立する場合、民間からの借用であったり、短期借用であっても差し支えないとしている。しかし各都道府県においては、校地・校舎は自己所有物件であることを原則とする場合が一般的で、その例外として、国や地方公共団体からの借用を条件付けたり20年以上の借用期間を設けている事例が見られる。一方、外国人学校の各種学校化を促進し、教育環境を改善するため、校地・校舎の自己所有要件の緩和が進んでいる県においては、市町村が地域社会の特殊事情等により外国人学校の各種学校の設置を要望している場合に、借用期間を10年以上とする公正証書による賃貸借契約が締結されていること、国または地方公共団体からの借用であること、借地借家法の規定による借地権が設定され、当該借地権が登記されていること等を条件とする緩和を図っている。これらの基準は、他県の基準の状況や、各県内における外国人学校の資産の保有実態を踏まえ、各県において定められたものである。これらの取組を国が各都道府県に積極的に情報提供することを通じて、校地・校舎について民間からの借用や短期借用を弾力的に認める対応を促すことが求められる。

運用資産の保有要件の弾力化

  国としては、学校の運用資産について「毎年度の経常支出に対し収支の均衡が保てるものであること」を示しているのみで、運用資産についての定めはない。しかし、各都道府県の基準では、設置認可の申請時において開設年度の経常経費の4分の1年~1年分の保有資金を求めている場合が多い。外国人学校の各種学校化を促進し、教育環境を改善するため、例えば長野県、愛知県、三重県、滋賀県では、外国人学校の経営に著しい支障が生じ、または生ずるおそれがある状況において、当該外国人学校の所在する市町村が、当該外国人学校に在学する者の適切な就学を維持することができるように、転学の斡旋その他の必要な措置を講ずることを明確にしている場合には、経常経費の6分の1年分の保有資金で可としたり、岐阜県では運用資産の保有要件を定めない(ただし、準学校法人を設立するためには経常経費の6分の1年分の保有資金が必要)こととしている。これは、他県の基準の状況や、各県内における外国人学校の資産の保有実態を踏まえ、各県において定められたものである。国はこれらの取組を各都道府県に積極的に情報提供することを通じて、経営悪化の場合に市町村が必要な措置を講ずる場合には、より少ない額の運用資産でも各種学校設立を認める等の対応を促すことが求められる。

外国人学校を対象とした基準の制定

  在留外国人の増加、財政状況の厳しい外国人学校の経営への対応、多文化共生社会の推進、在日外国人の地域づくりへの参加などを背景として埼玉県、長野県、岐阜県、愛知県、静岡県、三重県、滋賀県においては、外国人学校を対象として校地・校舎の自己所有要件や運用財産の保有要件等について弾力的に取り扱う基準を制定している。

 外国人学校を対象とした基準がない都道府県においても、高度外国人材の子弟の教育環境の整備にあたって必要があると判断される場合には、既に制定された県の事例を参考に、同様の基準を制定していくことが求められる。

  また、各種学校設置・準学校法人の設立にあたり、認可申請の書類が多量で理解が困難という意見が学校より挙げられている。既に、日本語・ポルトガル語版の申請手続のマニュアルが作成されているが、認可申請手続きをより円滑にするために、今後、文部科学省において、各都道府県の事例を含めた多言語版の事務手続きマニュアルを作成することも有効と考えられる。

  こうした取組により、外国人学校が地域社会から支援を受けやすくし、また認可手続きを通して自治体との信頼関係の醸成や必要な情報交換を行う効果が期待できるとともに、地域社会と外国人学校の関係を深め、日本人と外国人の地域内での交流強化が期待される。

 (参考意見)

  今回の調査は、各種学校設置・準学校法人設立の認可基準の検討に関して行ったものであるが、インターナショナルスクールやブラジル人学校からは、学校制度等に対する要望、意見が出された。

   例えば、1)今後の課題として、各種学校とは異なる形で適切な認証を受けられるようにすべきであること、2)地域の教育委員会から子どもの安全その他に関して必要な情報の提供を要望すること、3)日本語だけでなく英語を加えた多言語での情報提供を希望すること等が挙げられた。また、インターナショナルスクールは、8月開始、7月終了であるため、日本の会計年度に合わせて事務処理をすることが負担になっているという指摘もあり、各種学校の会計事務のあり方を検討する際には、このことに留意することが必要である。さらに、インターナショナルスクールはグローバル人材の育成にとって重要であり、その地域への貢献を認識することが日本にとって利益になるのではないかという意見や、日本ではインターナショナルスクールへの公的支援がほとんど行われていないため、外国企業の誘致に際して影響を及ぼすのではないかという指摘もあった。

   また、調査研究委員会においては、外国人学校の教育の質を確保する観点から、外国人学校における教員資格の明確化、外国で取得した教員資格の取扱い、1条校への進学を考慮した履修科目の設定、健康診断や災害共済給付等の子どもの健康や安全を守る環境の改善等についての意見が出された。これらの指摘の中には、外国人学校の法的位置付けなど、我が国の学校教育制度の根幹に関わる問題もあり、長期的に検討していくことが求められる。

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