国際協力推進会議(第5回) 議事録

1.日時

平成23年12月16日(金曜日)16時00分~18時00分

2.場所

文部科学省16F特別会議室
(東京都千代田区霞が関3-2-2 中央合同庁舎第7号館東館16階)

3.議題

  1. 自由討議 -報告書骨子案について-

4.出席者

委員

木村座長、井上副座長、内田委員、大野委員、讃井委員、草野委員、清水委員、中西委員、平井委員、松岡委員

文部科学省

清水事務次官、森口文部科学審議官、前川総括審議官、藤嶋国際統括官、池原国際課長 外 

オブザーバー

外務省、総務省、独立行政法人国際協力機構(JICA)

5.議事録

○今回の議論に先立って、浅井国際協力政策室長より、報告書骨子案について、資料3に基づいて説明を行った。

○続いて、大野委員から、論点の一つである「ODA卒業国に対する協力の枠組みがない」という点について発言があった。 詳細は別紙「新興国(中進国、ODA卒業国)との協力に関する私見」のとおり。

○引き続いて、委員による自由討議が行われた。概要は以下のとおり。

【委員】 新たなODAの枠組みをつくらない限り、ASEANのODA卒業国やODAが活用できない中東産油国に対しての人材育成は難しいのではないか。新たなODAの枠組みは、すべての省庁が集まるような場で、大きな政策を提言していく枠組みが政府のどこかでつくられなくてはいけないのではないか。その上で、例えばODAがなじみにくいASEAN諸国のどの国に対して重点特化するのか、あるいは中東産油国に関して、どの国に対して特化すればよいのかということが、日本の外交や産業界のニーズと兼ね合わせながら組立てをしなくてはならない。実際に政策ができた後、それをどのようにしてオールジャパンでやっていくのかということに関しては、産官学をコーディネートするハブ組織が日本でも必要であるし、現地でのコーディネートやコンサルタントを行う組織が必要であるだろう。なお、アメリカがカタールで展開しているエデュケーション・シティでは、ランドコーポレーションがコーディネート組織として展開している。
 また、SEAMEOカレッジを中東で考えたらどういうことになるかというと、アラブ首長国連邦のような国々で日本が人材育成を進めていった場合、GCCとして考えていくべきで、つまり、UAEはUAEのことだけを考えているのではなく、カタールを例に挙げながらUAEも取り組んでいるし、サウジアラビアとの関係も考えながら、GCCという単位で人材育成を考えているということを、アラブ首長国連邦の評議会代表の方から伺ったことがある。よって、SEAMEOカレッジに当たるようなものが、中東ではGCCといった単位で構築されていくことが中長期的には考えられるのではないか。

【副座長】資料3、4「現状」・「共通」の国際協力推進をどうするかということについて、根本的に大事なことは、それをやる人材の養成・確保だと思う。仕組み論はいろいろあるが、それを一体だれにやっていただくのかということが、非常に大事なことではないか。例えばここで挙がっている中東を考えた場合、我々は余りノウハウや人材のネットワークを持っていないとため、そういった国に長くいて、ネットワークを築き、彼らのニーズを的確に理解して、発信できるような人の存在が大事だと思う。 
 ただし問題は、長くいると、日本における新しい動き、あるいは他の国における新しい動きについて、どうしてもひとりよがりになってしまう可能性がある。現地に長くいていただくのはいいことではあるが、他方、日本にたまに帰ってきたり、日本から専門家が来て少しブラッシュアップをしていただくといった仕組みや仕掛けが大事ではないか。
 2つ目に大事なことは、帰国留学生、あるいは帰国した研究者をどう活用するかということである。彼らは日本と当該国の両方の文化ないし言語を知っているので、これを使わない手はない。ASEANは比較的交流が活発であるが、中東産油国等においては、留学生や研究者のOBがいないので、彼らの情報、ネットワークは大事である。
 3つ目は、例えばユネスコやUNDP、ユニセフ、ADB、世界銀行等の国際機関をいろいろと経験して帰国された方が日本にもかなりいらっしゃると思う。日本の観点だけではなく、当該国のニーズがどこにあるのか、どこに気をつけなければいけないのか、言語的、宗教的、社会的にもよく御存じの方もいらっしゃるので、そういう方を大事にすることがいいのではないか。
 4つ目として、日本と、ドイツあるいはイギリスの例とを何でもかんでも一緒にすればいいというものではない。それぞれ得意分野があるので、何でも一緒にしようとすると、一緒にする仕掛けだけで大変な労力が必要になって動かなくなってしまうことがある。それぞれの機関等の得意な分野を大事にすることが必要で、逆にコーディネートする能力を持った人や仕組みが大事なのではないか。
 先ほど委員がおっしゃった、プロジェクトマネージャー、コーディネーター的な役割を果たせる人材は非常に大事だと思う。


【委員】新たな枠組みが必要性だということは十分認識しているが、それを実現するにはかなりのエネルギーが必要になってくる。そこで、既存のODAの中で、国際協力をどうしていくのかということを、もう少し考えてみるといいのではないか。一般会計贈与予算は、現在、1985年のレベルの約1,600億円に減少している。そのうち、約35億円の留学生無償を含む、いわゆる一般無償が約700億円である。トータルの無償の半分以下である。他はプログラム無償系や、国際機関への拠出と、人づくりから遠ざかっていっていると認識している。
 円借款については、一般会計が減っていて、回収金がかなり帰ってきている情勢下で、円借款がここ数年かなり伸びている。一方、伸びたからといって、それが人材育成の関係でどのように使われているかというと、使われていないという現状がある。留学生借款と言われる、マレーシアのHELP事業が130億円、インドネシアの事業が97億円程度だと思うが、大体10年弱ぐらいで終わってしまうもので、次期はあるのかどうかは分からない。また、チュニジアにも、30人程度の小さな規模の円借款があるが、それで終わりと聞いている。 あとはプロジェクト借款の中に人材育成予算が数%あるが、人材育成部分にその1割なり2割なりを割り当てろというコンディショナリティをつけている案件はない。
 世銀等国際金融機関の理事会では、最近、どれくらいのポーションの人材育成予算があるのかという質問が必ず出ると聞いているが、今の円借款の枠組みの中で、どの程度の規模を人材育成の方に割り振っていくのかという政策的な議論をきちんと出すべきだし、ここでもそういう提案をもっとしていったらどうか。結局、日本の得意技というのは、ハードよりも、人づくりではないかと思う。ODAでもコンクリートから人へと政策転換すべきである。
 一方、コンクリートの方は、ほとんどアンタイドで、中国、韓国、ASEANの国々にとられて日本の業者はとれない。特別のタイドはSTEPという長大橋のような高度な技術を必要とする案件だけには適用されているが、それはせいぜい全体の1割ぐらいにしかならない。人材育成は、日本で実施することとなるので、タイドとなり国際社会の同意が得にくいとの議論もあるが、日本に対する期待や教育の質の高さ等を、相手国政府が求めているということを、きちんと理屈が立つように説明すれば、国際社会は認めるのではないかと思う。そういう意味で、既存の枠組みの中での国際教育協力を政策的にどの程度にしていくのかということについて、この委員会で何か提言等出せればいいのではないか。私はODAの50%ぐらいは国際教育協力にした方がいいのではないかと思っている。
 人材の問題は重要である。特に中東で売れそうな分野では、しつけ教育、理数科、授業研究、教育手法があるが、これを実際にやってくれる人がいるのかというと、私は今、いろいろな大学の教育学部を回って探しているが、実際にやってくれる人というのは意外といない。どこにいるかというと、協力隊のOBや、定年間近の先生など、シニア人材にはかなりいそうである。そういう訳で、海外をいろいろと経験したシニア人材を、国際協力の中でどのように活用していくのかというところが、供給サイドから見ると、非常に大事な点だと感じている。


【座長】人材については何かいい器をつくらないと、今のままでは個人的なコンタクトを通じてしか方法がない。大野委員が、全省庁が集まって議論する枠組みが必要だとおっしゃったが、そういったものも国で作らないといけない。我々がそういうことを提案するのはいいが、それでおしまいになってしまう可能性が大きい。日本の国際協力について議論をするハイランキングな組織が必要だろう。


【委員】報告書をつくるに当たっては、要するに国際協力推進という課題をやる際に、どういう視点から切るのかを最初に決めないと、議論はうまく成り立たないだろう。1つの議論の出発点はODAの話であるが、ODAの対象国であれば、ハードからソフトに変わっていくという、それが全体的な流れ。それから、ODAが終わった国に対してどういう形でやっていくか。それに関して現在ある組織をどうやってうまく使っていくかという議論がODAの観点からの議論で当然ある。
 もう一つは、高等教育を念頭に置いているとすると、それぞれの国において、とりわけ高等教育の発展は、恐らくその国が当然自発的にやっていかなければならない。そういった自発的な教育の発展をどうやって支援するかという視点である。それはまず当然のことながら、それぞれの国で初等・中等教育をきちんとして、高等教育へという訳であるし、また高等教育の場合でも、それぞれの国の置かれている状況の中で、どういう分野の高等教育を強化していくかで違うだろう。例えば熱帯の現地の風土病のようなものがある国で言えば、そこの公衆衛生や医学、あるいはそこでの農業の展開がその国の高等教育の発展の中で中心的になるだろうし、あるいは製造業を強くしていこうという国もあるだろう。
 2つ目の視点は、それぞれの国における教育、とりわけ高等教育の自発的な発展をどうやってサポートするという観点。そこでは、各国における教育の状況というものをきちんと分析した上で、それに対応する政策ということになる。
 3つ目の視点は、2つ目の視点について行う場合に、どういうメリットが日本の教育機関にあるのかということである。国際協力を推進することが、例えば文科省であれ、経産であれ、外務省であれ、日本全体であれ、特定の大学であれ、それに対してどういう意味を持つのか、そういう議論や観点がないと参加しない。先ほどの人材について言えば、確かにシニアということはあるが、日本に来た外国人研究者がその後どういうふうになっていくか、きちんとした調査があるわけであり、その人たちをどう使うのが一番重要かというと、中には国に帰って高等教育機関に従事したい人が多数いるわけである。そういった人たちをどうやって使うかというふうに、具体的に議論を落とせるよう、最初に議論を切る際の視点を決めておく必要があるだろう。
 当会議での議論の到達点を一体どこに考えるのかということで、非常に大きなグランドデザインを描くことも当然重要だろう。しかし同時に現在ある制度をうまく活用したときに、こういったことができるという、具体的で詳細な提言に落とすこともできると思う。私は後者をすることと、前者をすることは全く矛盾しないので両方やるべきだと思うが、これまでの議論からすると、どうやって具体的な制度に落とせるかという、キーとなる部分を考える必要がある。特に、教育の面で言えば、どういう分野の教育をどのレベルで行っていくのか。それは、それぞれの国にとって、ODAにとって、そして日本の教育界にとってどういう意味があるかということだ。具体的かつ類型的な思考で、制度に落としていくということが一番重要だと思うし、今日もそういう観点からまとめていただくと、もっと全体の到達点と、推進すべき方向性というのは、より明確に出てくるだろう。

【委員】「Beyond ODA」の後の、日本ができる具体的な教育協力の中身というものが、一体何だろうかということが、今ひとつ分からない。ASEANや中東の其々の国で、個別には、こうあるべき、こうあった方がいいという話は、この骨子を読んでいて非常に共有できる部分があるけれど、日本ができるこれからの教育協力の中身、共通して可能なこと、その基礎部分のようなものが見えてこないと、こういう議論は、公民の理解も得られないのではないかと考える。ただ他国のリクエストだけに耳をそばだてている印象になってしまってはまずい。実際に「これなら自信を持ってできる」ということ、こういうものが日本の教育協力の売りだというものを、まずは手を挙げて、こういうものが欲しいところはどこですかと協力を求める、あるいはこちらから売り込みたい国に向けて投げかけていけばいいと思う。個別具体的に、ここではこうやって、あそこではこうやって、と言うことが果たして「Beyond ODA」なのか、疑問に思ってしまう。国際社会の中で、日本はこれができるんだというものを打ち上げないと次の具体的な一歩が見えてこない気がする。

【委員】今、すごく重要で本質的なことをおっしゃったと思う。ずっとこの会議で議論してきたことでもあり、既に幾つかの方向性が見えているのではないか。例えばしつけや日本的な教育、価値観、訓練、そういったものは非常に大事で、それはアブダビなどでも非常に求められているという話があった。、あとは産業人材といった形での工学系の人材育成も日本の比較優位ではないかとの指摘もあった。これについては高等教育の専門性の高い教育研究は既にSEED-Netで取り組んでおり、加えて高専におけるもう少し実務的な技術研修も大事だという議論もあったと思う。今まで蓄積してきた協力経験や日本の人材を生かせることはあると思うので、そこをしっかり強化していくべき。それなしには「Beyond ODA」で商品として売っていくことはできないだろう。

【委員】これまでのノウハウの蓄積でもって言うと、中国や欧米等の他国に比して非常にすぐれた部分があると思う。要はそれを売るべきであって、そしてそれが一体何なのか。

【委員】私のイメージとして、高等教育は理工系分野の人材育成で、まさに留学生の受入れにつながっているのではないかと思う。初中等については、理数科教育において生徒中心でしかも実験中心にいろいろな動機づけを考慮したやり方や、授業研究という先生方が切磋琢磨(せっさたくま)して行う教育の改善システムのようなものがJICAの現地研修で非常に受けているようである。
 それから、しつけ教育については、例えばサウジアラビアの人が小学校へ行くと、まず靴を脱いで上がることやげた箱に驚いたり、給食を見に行って、みんなが白い服に着がえて、食べるときには、頂きますと感謝の言葉を言うことに、イスラムは清潔が一番大事な信条らしいので、非常に感激するようである。是非そういうものを導入したいという話をよく聞く。そういうものをいろいろと挙げて、商品化して、メニュー化して売っていくと。

【委員】国際協力をやっている組織として、何の評判がよかったか、あるいは、自分たちは何をオファーできたのか。そして、これらを提供できる人材がいないと、なかなか商品として輸出できない。同時に、産業界などから見て、こういったことをやっていただけると非常にメリットもあるなど、日本側のニーズについても分かっていなければいけない。その前提のもとに、前半の会議の中で幾つかの事例を紹介いただいて、サウジアラビアやアブダビにおける日本の産官学協力や教育協力の取り組み、ASEANでの取り組みについて理解を深めてきた。また、ニーズはあるけれど、ODA卒業国に対してどのようにして資金協力をしていくのがいいかというような話もあったと思う。つまり、私たちは「日本の教育協力で売れる商品はある」とあるという前提にたって議論してきており、それらについての具体的なノウハウの蓄積がJICAやJICEにないと困る気がする。

【委員】理数科については、アメリカの学者が「Teaching Gap」という本を出して、日独米の3か国を比べて、やっぱり日本は最高だと書いているので、世界でも売れるのではないか。

【座長】例えばサウジは、理科教育や女性教育の振興を日本に助けてもらうことを期待している。日本がこの分野できちんとやっていることを向こうは知っている。松岡委員が言われた高等教育もそうだと思う。良い例がSEED-Netである。日本が工学に強いということでこのプロジェクトは非常に成功している。これとは逆に日本人は全然気づいてないが、外国から見るとこれについてはすごいというところもある。ディマンドベースと、隠れたいい点との両方をどうしていくか、私はやはり、現に見えているところから始めないと、国内のコンセンサスが取れないし、先方も受け取り難(にく)いという問題があるように思う。

【委員】日本の強みが何だというのは、実は、我々企業にも突きつけられている課題である。海外に日本の企業が展開していくとき、今、インフラシステム輸出というのが政策的に大きく取り上げられて、支援政策を頂いているが、そのときに、日本の企業の持っている強みとは何かと。それは、海外に商品として意味を持ってくるのだから、それを後押ししようと、こういう政策的な1つの意味づけがされているわけであるが、日本の企業の強みは何だろうと、実は首を傾(かし)げるところがかなりある。そこはものづくりというところから実は来ているけれども、そのものづくりの強みがどんどん今はキャッチアップされてきて、なおかつ、分野によっては追い越されている部分がたくさんある。そういったもので日本が何を外に見せていくか、その価値を外へ何を出していくかというのは、まさに教育の世界であっても、やっぱり同じことではないか。では、日本の教育の海外に通じる強みは何だろうというところの整理は、しっかりとやるべきである。
 資料3別添の「目指すべき方向性・共通」のところに、日本の教育協力の強みというのは何か、ということも方向性としてしっかりと書き込む必要があるのではないだろうか。それを自問自答することによって、どういうものが共通の1つの教育協力のシーズになってくるのかというのが見えてくるではないか。
 しつけということでもそうだし、我々の企業からすると、日本の工業高等専門学校がかなり評価されている。高専そのものの持つ強みと、日本のシステムが持つ強みと、両方あるのではないかと思うので、そういうところはしっかりと書き込んでいく必要がある。
 制度又は組織と、人材が大きな枠組みとしてあるが、更にもう一つ、私たちの方から見ると、教育分野で協力していくプログラムがどういうものかがもう一つ意味を持ってくるのではないだろうか。大野委員のつくられたメモの新興国への対応戦略、英国、ドイツの例で、戦略と体制が1つになっていて、まず戦略あっての体制ともいうふうに見えるが、では戦略とは何かと言えば、どういうものを相手国に協力をしていくのかというところに、国家戦略がまずある。それから、今、座長がおっしゃったように、相手側のニーズなり、まだニーズにまでなっていないディマンドなりをうまくマッチさせた形での教育協力の在り方というものがあるような気がする。
 先日、出張先のカンボジアのホテルで、カンボジア女性を対象とした保健衛生セミナーの案内書を見かけて、誰が主催しているかというと、オーストラリアのODAの組織であった。カンボジアは、特に首都のプノンペンは衛生問題が深刻で、上水道は発達しているが、下水道はほとんどなく、廃棄物の処理施設もほとんどない。そのような生活レベルのところで、女性の衛生、保健観念をしっかりと養成していくというオーストラリアの企業戦略がかいま見えるような気がした。それは水処理施設1つとってもそうであるし、廃棄物処理施設、あるいは医療機関ということも含めて、そこにつなげていくのかなと印象も持った。日本もそういうような形で教育協力戦略をどのように相手側のニーズと合わせて構築していくのか、そのためは相手側のニーズをしっかりリサーチする努力、あるいは人材や組織も必要ではないかと思う。

【副座長】今の御意見に全く賛成で、それぞれ分野別に、例えば工学の分野なのか、農学なのか、健康保健の分野なのか、それは高等教育レベルなのか、初等中等教育レベルなのかといういろいろなニーズと、それに対してどういう人材がいるのかという、非常にきめ細かくマッチングしていかないといけないと思う。その際にどういう政策ツールがあるのか、有償なのか無償なのか、留学生なのか、あるいは研究者なのか、あるいは協力隊の人を活用するのか、いろいろなレベルの政策ツールがだんだんと出てくるのではないか。そのときに、実は、どういうディマンドがあるのかということを的確に常に把握しておくというのはなかなか難しい。しかも、我々はそれを誰に尋ねるのか。例えば、先方政府の外務省の人に尋ねるのか、先方政府の教育省、あるいは保健省、農業省に尋ねるのか、そういう意味では、このディマンドが非常に大事だといった場合、ディマンドを適切に吸い上げるシステムやニーズのマッチングが、特に教育分野の協力においては非常に大事ではないか。日本のプロジェクトは非常にすばらしいものでも、5年たつと一旦見直そうということになる。それはもちろん、他の分野の予算が限られているからそればかりやっている訳にはいかないということで、そういう意味では、適切なニーズと政策ツールの組合せというのが非常に大事ではないかと思う。

【委員】全部のディマンドに答えることはできないので、日本として何をやっていくのか、どこに重点を置くのかを判断しなくてはいけないが、そのためには、ある程度いろいろな情報が棚卸しされないとできないと感じている。例えば文科省の国際協力はどういうものがあって、各大学では、いわゆる国際協力と言える活動としてどういうことをしていて、企業でCSRというような形で教育分野にいろいろやっているというところもあり、そういうものをうまく組み合わせて、ダブりを排除して、予算も無駄なく使っていくということができれば大変効果的なのであり、それを行うためには、情報や人のネットワークが必要ではないか。
 今、私たち企業がやろうとしているものにパッケージ型のインフラ輸出というものがあるが、先般、経団連で作った国際協力の提言では、重点国はどこにして、売っていくインフラは何にしようということを挙げている。基幹インフラやITのインフラなど、日本の企業の強みを出せるもの、次に、それを進めていくためにはツールとして何が必要かという、そういう持っていき方をしている。やっぱりターゲットがはっきりしないと、それを進めていく手段や効果的なやり方というのはなかなか出てこない。限られた資源の中で何をやるべきか、重点を決めた方がいいという気がする。

【委員】先ほど教育協力戦略会議の話があったが、1つはやはり、重点国や、何を、といったことを考え、戦略レベルで決める。そこでのコーディネートと、あとは実際に実施するときの実務的なコーディネートとが両方いると思う。今、日本政府内に国家戦略会議が設置されており、グローバル人材育成やインフラ輸出など、日本の成長戦略に関係する議論がなされている。こういった国家戦略レベルの議論に附属する形で、国際教育協力についてしっかり方針を決めるべきではないか。そのときに、今まで教育協力に取り組んできた各組織-文科省、JICA、大学や企業や高専を含め-どういう蓄積があるかをきちんと整理すべきである。方針を決めて、日本としてオファーできる幾つかの商品に合意して、知識を整理していかないと、何でもディマンドドリブンというわけにやはりいかないと思う。日本側から相手国にオファーした上で、その国からの、これをやってほしい、あれをやってほしいという要望をベースに協力内容をつめていかなくてはいけない。こうした議論や作業をする仕組みを作らなくてはいけない。
 ミクロレベルの話になるが、大学において国際教育協力プロジェクトをコーディネートをする人材を養成し、更にプロジェクトを運営するオフィスを設けることも重要。そういった人材を確保しやすい人事や評価、給与面の待遇等、大学が国際協力に参画するための体制整備や人材確保の取り組みも、最終的には大事になると思う。先ほど、まとめ方として大きなデザインとミクロの話の両方の話がでたが、目指すべき方向を打ち出すと同時に、現実的にはこういったところから始めるべきだといったエントリーポイントの両方を書いていいのではないか。

【座長】かつて、国際教育協力戦略会議でチェアをしたことがあるが、個々の大学が実に多様な協力をやって成功しているのに驚いた。スケールは小さなものが多いが、私は本当に目からうろこが落ちた思いがした。相当、日本が相手からのリクエストでやっていることが多い。そういうものを一度、徹底的に洗い出すと、先が見えてくるのではないか。

【委員】当然、大学がやっているのであれば、既に「Beyond ODA」が入っていると思う。

【座長】国立大学が法人化してから国際展開を非常に意識してやるようになった。たしか九大の先生がインドの奥地で携帯電話の簡易型をつくって、緊急の際、病院等に連絡できるネットワークを作ったというのをテレビで見たことがある。これは大きな国際貢献だと思うが、そういう例がたくさんあるようなので、そういうものを集めてみるのも1つの手ではないか。

【委員】ここで議論していることを、例えば提言をつくった後、例えば国家戦略会議のようなところにもしリンクができないだろうか。

【座長】そこのところを私も、非常に気にしている。

【委員】そういった国家戦略を議論する場から、これは重要なのでもっと詰めろとか、日本の教育協力の強みに関する情報を整理せよといった指示が来ると、進めやすいと思う。

【座長】それこそ、今御発言があった国家戦略会議あたりに持っていければいいのではないか。

【委員】資料3に、「ASEANは文化的にも経済力の面でも多様。多様性を抱えつつ、ASEAN統合を見据えている」と書いてあるが、例えばASEANも国によって経済格差等がある。そうすると、例えばASEANでもタイやシンガポール等においては、法的な面などである程度充実してきている。ただ、まだ低いところもあって、更に遅れている、例えばこれから注目されているミャンマーやカンボジアと格差がある。そうすると、必ずしもASEAN一本というより、それぞれ同じASEANの国でも彼らが求めるニーズは違うだろう。お聞きしたいのは、このプロジェクトは、例えば経済や産業面もカバーしているという理解でいいのか。

【座長】その理解でいいと思う。

【委員】では、今どこに出ているかというと、ベトナムが終わって、次はもうミャンマー、カンボジアというようなところに日本企業が進出してきている。私どもの事務所には、日本企業の方がいろいろな相談に来られるという流れが出ている中で、国自体の体制が整っていない。そうすると、国として、法律をつくらなくてはいけないというニーズも出てくるし、さらには基本的な産業政策をつくらなくてはいけないというニーズがどんどん今出てきている。そういうところにこういうスキームを使って、例えば産業政策をつくるために現地側の人材を行政官育成のために呼んでくることが考えられる。発展途上国の経済・産業を発展させるためにやるべきところがまだあるのではないかという感じがしている。特にこのASEANで私がこだわっているのは、カンボジアやミャンマー等を見据えながら、もっと底辺のところでやるものがあるのではないかということである。
 これからASEANの後は、バングラデシュが注目されており、繊維関係等で日本企業がどんどん出てきていて、人手不足である。そうすると、やはり現地の人たちを育成していかなくてはいけないが、余り時間がない。そういう国々からは、日本等に、例えば産業政策の作成等いろいろな要望が出てくるが、私どもにはそういうスキームがないので、産業・経済支援のために、日本の大学とカリキュラムを組んで育成するようなことも考えておいた方がいいのではないか。特に貿易というのは、これからもずっと続くので、人的ネットワークが続けば、日本と各国との関係は長続きするのではないか。

【委員】今の委員の御意見を伺っていると、恐らくこの資料3の中に、南南協力という言語があったと記憶しているが、それに当たる話が、実際には実施していくことになると思う。というのは、これまでの日本のODAはJICAを中心としたバイでやっているので、南南協力というのは、恐らくはマルチということになる。ODA卒業国のマレーシアが実際にインドネシアの人材育成をしているというのは、歴史上、既に実績も上げているし、そういうところに日本がどのように支援をしていくのかということだと思う。要するにいまだに日本が出しているラオスやカンボジア、ミャンマー等のODAはそのまま継続されると思うが、今あるODA受益国とODA卒業国の、それはBeyond ODAになると思うが、それをどのように組み合わせながらできるのかということも長期的には必要な視点ではないか。

【副座長】 同じASEANといっても随分進んだところと、カンボジア、あるいはミャンマーというのは全然違う。特にミャンマーは、これは私の個人的な感想であるが、非常に大事な国だと思う。資源もあるし、人口も多いし、やることはたくさんある。先ほどのターゲット国をどこにするかということは、いろいろな外交判断や政策判断があるかと思うが、土木や橋、農業、灌漑(かんがい)、電力、保健等、たくさんあり、それに対する人材が必要だと思う。南南協力も確かに大事なことかもしれないが、こういった国はバイでやらないといけない。先日、カンボジアから教育省の次官一行が来られて、いろいろな教員養成が大事で、また、これからカンボジアが伸びていくためには、理数教育、技術教育、あるいは科学を何とかしてほしいというということであった。先方の強いニーズに、戦略的かつ重点的にこたえていくとしたら、そういうところも1つあるのかなと思う。

【座長】ASEANについてはいろいろなグッドプラクティスの例が出されたが、中東の産油国になると、余り聞かない。中東産油国では、例えば日本の理科教育が注目されているようであるが、現実に日本が実績を上げているケースはあるのか。

【委員】これから参入していくというところだ。ただ、職業訓練分野はGTZインターが何百億円規模で受注しており、理数科教育はアメリカが5か年の契約済みで、また新たにその傘下で小さな契約が出るという状況である。したがって、やはり向こうの教育関係の指導者に日本を見ていただく機会を多くとっていかないと、即参入は難しいと思う。まず、二、三年、日本に来ていただいて、日本のよさを分かっていただく必要がある。
 2年前、サウジアラビアにおいて、ラマダンのときのゴールデンアワーに、「ハワーティル」という5分間番組が、毎日、日本の紹介番組を放送して、そこで、「イスラムの教えをきちんと守っているのがイスラムではない日本人だ」という結論が出た。その後、日本への観光客が増え出し、3月の震災で一時は減少したものの、その後、徐々に教育関係者も来るようになり、私どももお世話をするようになった。すると、先ほどお話したように、小学校のしつけ教育に感動したり、あるいは理数科に感心するといったことがあった訳である。また、今、彼らの関心事項として、日本でやっているスーパーハイスクール制度を見たいという話が結構ある。

【副座長】今のサウジアラビアやその辺の国との協力を考えれば、やはり言語を何でやるのかというのが1つあると思う。例えば日本の専門家が行ったとしても、英語でやるのかアラビア語でやるのかということで、先方の理解の程度も違うと思う。12、3年前に、サウジアラビアの小学校に行ったことがあるが、やはり言語は全部アラビア語であった。これで日本の専門家が英語で教育して、果たして理解していただけるのか。それは直接の場合かもしれないが、教員養成学校に行って、向こうの教員に対して指導するのか、だれに指導するのかということもあるが、その場合、どのくらい言語能力があるのかということは見極めなければいけない。もし、アラビア語でやらなくてはいけないということになったら、サウジアラビアに行って協力しようという人には1~2年アラビア語を徹底的にやってもらうぐらいでやらないと、特に産油国は難しいと思う。

【委員】1つ付け足すと、2007年から学部学生の留学生がサウジアラビアからアブドラ奨学金で毎年100名来ている。それが今度4年で、それも2か年日本語を勉強した後に入って、日本語で教育を受けるのだが、ほとんどが理科系に入っている。そういう人たちが帰ったときに、その一部が理数科の先生になれば、そういうような環境はこれから近い将来はあり得ると思う。また、協力隊の中にはアラビア語ができる人がいる。例えばシリアで理数科教師で行っている隊員も結構いる。

【座長】特に大事なのは、今日本に来ている人達(たち)をきちんととつかまえておくことだ。日本はこれまではそういう努力を殆(ほとん)どしていない。

【委員】中東に限って言うと、今のお話では、国際協力をさせていただくという感じなのか。

【委員】その通り。

【委員】つまり、アメリカやいろいろな国が入っていて、そのすき間を縫いながら国際協力を日本としてさせていただくという状況だとすれば、戦略はおのずと変わってくると思うが。

【委員】 アラビア語なのか英語なのかという話であるが、サウジアラビアやアラブ首長国連邦、カタールは現地人が非常に少なく、サウジアラビアは70%が外国人によって国家運営され、アラブ首長国連邦は85%から90%だというふうに言われている。いかに教育産業や人材育成を強化するかという国家戦略のペーパーを読んだことがあるが、英語ではなく、アラビア語で高等教育を受けることによって、逆に現地人が自分たちのアイデンティティーを再認識するということが重要だということが書かれている。やはりそれは現地のアラビア語で高等教育が進んでいくという方向が本当は求められているのだろうと思う。先ほど、既に欧米が入っているところでどのように日本が入っていくのかという話しがあったが、例えばカタールのエデュケーション・シティにおいてアメリカが入っているところはほとんどが英語でやっている。もちろんアラビア語でやっている教育プログラムもあるが、逆にそこでの反省も起こってきていて、やはり英語ではなくてアラビア語での高等教育が望ましいという意見がカタールでも出ているという報告書を読んだことがある。そのあたりはやはり現地の言語をいかに日本人が習得しながら人材育成していくかということになると思う。

【座長】エジプト・カイロのアメリカンユニバーシティに行ったことがある。大学としてはうまくいってないわけではないが、そこの卒業生のエジプト人は、差別があってなかなかエジプトのコミュニティーに入っていけないという話しを聞いた。そのような意味で、先ほど委員がおっしゃったことは非常に大切なことだと思う。

【委員】JICAがODA対象国の例えばアラブやエジプトに技術協力をするとき、言葉は英語を使うのか。

【委員】英語を使用している。昔、セネガルの職業訓練プロジェクトを行う際、専門家にフランス語を教えて技術協力する場合と、相手方に日本で日本語を学んでもらって、現地で専門家が日本語で行うのと、どちらがいいのかというフィージビリティー調査を行ったところ、先方を日本に呼んで、日本語を覚えてもらった方がコストが安いのではないかという結論になり、理系のための日本語教材として700時間ぐらいのものを作った。そうすると、セネガル人は1年の予定が大体半年ぐらいでできるようになり、目標はきちんとした機械の仕様書が理解できたり、工業新聞が読めるようになるといったレベルであるが、非常に短期間で習得して、1年日本語で1年技術研修の、2年の予定であったが、大体7か月ぐらいで技術研修が始められるようになった。

【副座長】アラビア辺との協力を考える場合、何が日本の協力の良さなのかということがあると思うが、日本人の下心のない協力というのが非常に評価されるのではないかと思う。

【座長】私も同感だ。全くない訳ではないが。

【副座長】アメリカやフランス、あるいは最近は中国かもしれないが、やはりオイルを目指して、歴史的にも関係がある、特にイギリスやフランス、アメリカはやはりオイルの関係がある。しかし、日本人は割合と下心なく、もしかしたらあるかもしれないが、しかしまじめにこのプラントを築こうではないか、まじめに彼らを教えなければいかけないという、その下心のないことが日本のよさなのかもしれない。そこを、現地に行っておられる方にもお聞きしたい。

【委員】教育協力をするということと、では、協力をするときに使う言語の問題は、こんなふうに考えられると思う。要するに、教育協力をした相手国の若者に協力をした後、どうなってほしいのかということだと思う。それがその国の国づくりのために非常に大きな貢献をして、将来、その国の幹部になっていく場合に、日本にいろいろと教育協力をしてもらったということに対して感謝をして、日本びいきになってほしいので教育協力をするという考え方、或(ある)いは下心の強い日本企業に入って、いい人材のリソースになってほしいという考え方もあると思う。その中間もあると思うが、もし前者の方であれば、言語はやはりその国の言語、あるいは、英語のように国際的に通用する言語で教育をする方がその人のためにはなると思う。教育協力した相手が、日本にとって非常に直接的な意味を持つというふうに期待するのであれば、やはり日本語だと思う。というのは、日本語を身につけることによって、日本の企業や機関で、初めて自分の価値が発揮できる訳であるから、英語やアラビア語を身につけて教育を受けた人は、それはどこにでも就職もできるし、どんどんジョブホッピングもできるしということになって、日本に帰ってくるという確率が非常に低くなってしまう。したがって、目的によって、どの言語で教育すればいいのかということは変わってくるのではないか。

【座長】昨年のブラジル移民100年に私も呼ばれていったのだが、二世ぐらいの、日本語を実に流ちょうに話せる方が主にオーガナイザーをされていて、言語について非常に強調しておられた。その人たちの子供でも、今はもうほとんど日本語ができないとも言っていた。東大の医学部を出た方で、何とか自分の孫を東大の医学部へ留学させようと思っても頑として聞かない。要するに日本に全く関心がないので、聞く耳を持たない、日本語ができないから駄目なんだということを言っていた。言語というのは、そういう意味では非常に強い影響を持つようだ。
 先ほど発言にあったが、橋本政権のときに、IP、留学生が一方的に日本から多く、アメリカから日本に留学生が来ないということが問題になり、それを埋め合わせするために先生を呼ぶプロジェクトをつくった。フルブライト・メモリアル・ファンドという、初めは年間1,000人の予定であったが、1年間に600人で11年間続いた。最後の11年目には来なかったが、合計で6,400人ほど、これはかなり大きいものだ。日本にたった3週間ではあるが、地方へ行ってホームステイをしたり、教えてもらったり、交流をして、大半が小学校、中学校の先生で、高校の先生も多少いたが、彼らは日本の初中教育を驚がくの目で見て帰った。都会の学校ではなく地方へ行った人は、すごいしつけであるとか、日本では当たり前だと思うが、しつけや学校での先生方の子供に対する接し方が、日本は随分ティーチャーバッシングがあるけれども、アメリカに比べたら比較にならないと、依然としてそのステータスが高いというのがほとんどの意見である。

【委員】そういう仕掛けをやっているが、まだ放射能の件で来たがらない。

【座長】日本を良く知ってもらって、その中から彼らがいいと思うものを見つけてもらうというのも1つの手だと思う。

【委員】外務省予算で、湾岸諸国の教育者を呼ぶという研修が年に1回あり、小学校等を回って、非常に関心を持って帰ってもらっている。

【委員】そういうのが全部つながっていない。

【座長】私が申し上げたところはそこのところで、ばらばらにやっている。

【委員】目的をはっきり持つべき。例えば、オールジャパンでやる場合は、日本を知ってもらうことを目指すのか、あるいは将来、日本で就職したいと思う人たちを育てていくといかなり絞た目的にするのか、まず決める必要がある。そして、その目的を達成するために、日本との交流にかかわっている事業があるならば、何があるのかを徹底的に洗い出していく必要があると思う。松岡委員にお聞きしたいが、JICAは今の体制で受託事業はできないのか。

【委員】調べないとよく分からないが、できるのではないかと思う。例えば有償技協ができるから、受託できる訳である。

【委員】できる仕組みがあるのであれば、どういった分野であれば「売れる」のか、また日本に来る仕組みも、研修などの既存の仕組みを使いながら、どうすれば今のニーズ、国策に合う取り組みができるのか、などを検討してはどうか。

【委員】お金を受けて、それをきちんと精算処理する事務というのは膨大だ。相手のお金なので、自由に使うわけにいかない。

【座長】確かに今の委員のお話のように、例えばアメリカの先生を招待したフルブライトのプログラムがうまくいったのは、1人の人の努力によるものだ。この方はもうリタイヤされたが、日本人の方で、彼女が、事務局の女性2、3人とともに、日本に来た200人全員を、例えば奈良、宮城、岩手にグルーピングをして、地元の教育委員会にコンタクトして、ホームステイ先まで全部決めてしまうということを実に11年間おやりになった。その手間は大変だ。見ていて、よくできるなと思った。
 いろいろ大所高所からの御意見が出て、この種の議論は続けていかなくてはいけないと痛感した。この会議の座長をお引受けするときから考えていたのだが、例えば、それは科学技術におけるCSTPのような、国際協力のためのヘッドクオーターのようなものがどうしても必要だと思う。そこで戦略を練って、それを省庁におろしていくというような仕組みをつくらないとうまくいかないのではないか。

【委員】今ある国家戦略会議の分科会でもいいと思う。そこにリンクしないと、ここで議論していることについて、結局は誰が決めるのかという話になると思う。

【委員】1つ気になっているのは、この議会のテーマの1つとして、当初、いわゆる日本の若者の人材、グローバル化というものがあったと思う。この整理表を見ると、1か所だけ共通のところに、1行ずつぐらいしか書いていないが、果たしてこれでいいのか。

【座長】その辺は私も強く感じていている。私が委員長をしていた国際協力戦略本部は、1年に4,000万ぐらいで、完全にもう終わったけれど、大変な持ち出しだった。持ち出しになったけれど、そのうちの幾つかの大学は、外国に拠点をつくって、そこで自分のところの学生なり、大学院の学生、あるいは助手等の若い人を訓練しようということをやっておられる大学が幾つかあり、非常にうまくいっているようだ。やはりそういう視点も含めて、少しその辺が弱いと思ったので、その辺も事務局で工夫していただきたい。
 では、ほぼ時間が来たので、今日はこのぐらいにしたい。いろいろ意見が出たので、それを事務局でまとめていただきたい。いずれにしても、大きな枠組みと小さな枠組みとの両方があると思う。今日は大きな枠組みの話が多かったように思うので、その辺をまとめていただきたい。

○最後に、事務局より次回の会議での議題について説明がなされ、閉会した。

 

(別紙)第5回 国際協力推進会議 
――新興国(中進国、ODA卒業国)との協力に関する私見――

2011年12月16日 
政策研究大学院大学 大野 泉

問題意識

  • ASEANや中東諸国のような中進国・ODA卒業国に対して教育協力を行う際に、産官学を含むオールジャパンで取り組む必要性が本会議でも何度も指摘されているが、具体的にどのような枠組みを構築すればよいのか(「Beyond ODA」の実施体制)。
  • 一方で、現実的には大学や民間が単独で相手国政府・機関と協議し、案件形成を行うことは容易でなく、中進国やODA卒業国との協力において、JICAやJICE等が有する知見・ノウハウを積極的に活用する可能性を検討すべきと思われる。
  • 日本とは制度環境は異なるが、中進国やODA卒業国との協力の点で興味深い取り組みをしている、ドイツ国際協力公社(GIZ、旧GTZ)を事例にとりあげ、日本の取り組みへの示唆を考えてみたい。

ドイツGIZの取り組み

  • 2011年1月に技術協力系3機関(GTZ、InWEnt、DED )をGIZとして統合。これにより、技術協力の実施機関から国際協力の実施機関となり、対象も途上国だけでなく、先進国や新興国(中進国、ODA卒業国)、ドイツ国内を含み、マンデートが拡大。
  • GIZは2つのチャネルで新興国に対して国際協力を実施
    (1)商業部門(GIZ IS)の設置: GTZ時代の2001年にコンサルティング部門(IS: International Service)を設置、フィーベースで新興国や他援助機関、民間財団等から受託して協力実施。
    (2)BMZ以外の連邦省庁の予算(非ODAを含む)を動員: 教育研究省、経済技術省、環境省等によるGIZを通じた、新興国向けの国際協力が近年拡大。これによりGIZは相手国がODAを卒業しても、旧GTZ時代にODA業務で培ったネットワークや知見を現場で継承・発展できる。

参考(1): GIZ事業実績 

 

2010

2004

全体実績

1,851.5 million Euro

891.3 million Euro

BMZ予算

1,264.5 million Euro (67.8%)

696.6 million Euro (78.1%)

BMZ以外の連邦政府予算

179.9 million Euro  (9.6%)

48.2 million Euro (5.4%)

International Service

272.4 million Euro   (14.6%)

189.3 million Euro (21.2%)

Co-financing

149.2 million Euro    (8.0%)

17.4 million Euro (1.9%)

(出所)JICA企画部援助協調課。2004年数値はGTZ年次報告(05年)、2010年数値はGIZ年次報告(2011年)による。


※ドイツの開発協力は、ODA政策を所管する経済協力開発省(BMZ)のもと、多数の実施機関が担っているが、2011年1月に、GTZ(技術協力公社)、InWEnt(人材開発・研修実施機関)、DED(人材派遣機関)の統合により、GIZ(国際協力公社)が発足した。資金協力はKfW(ドイツ復興金融公庫)開発銀行が実施。



参考(2) 新興国への対応戦略、英国・ドイツの例

 

英国

ドイツ

戦略・体制

・国家安全保障会議(NSC)の下に、新興国イシューの小委員会を設置。DFID(国際開発省)もメンバーとして参加。
・全政府的アプローチ。NSC小委員会で新興国を3つに分類し、国ごとに重点テーマを定める(最重要のTier1国は中国、インド、ブラジル、アラブ湾岸諸国、Tier2国は南アフリカ、インドネシア、トルコ等)。この枠内で、各省庁はそれぞれの所掌で新興国とパートナーシップを構築。

・関係省庁(外務、BMZ、経済技術、環境省等)の実務レベル幹部が新興国や資源国とのパートナーシップ等の共通の関心事について定期的に意見交換。
・BMZ以外の他省庁が新興国への国際協力を拡大、国際協力公社(GIZ:ODAによる技術協力の実施機関だったGTZを2011年1月に再編)を通じて実施。
・GIZはODA・非ODAを動員し、途上国に限らず新興国、先進国との国際協力も実施。

国際開発

・新興国へのバイ援助を終了。代わりに「グローバル開発パートナーシッププログラム(GDPP)」を立ち上げ、国際公共財の提供、地球規模課題やアフリカ開発への貢献のために連携。
・バイでは三角協力や南南協力を支援。マルチではG20のアジェンダ設定に働きかけ。

・新興国を「グローバル開発パートナー国」と位置づけ、バイ援助や政策協議を継続(現地で行う政策協議には他省庁も参加)。ただし、協力内容は貧困削減から経済協力、地球規模課題へシフト。三角協力も推進。
・グローバル開発パートナー国としてはG20に含まれる、インド、インドネシア、ブラジル、南アフリカ、メキシコを重視。

中国

・対中国援助を終了。ただし、DFIDはGDDPの枠組みで中国との協力・対話を維持(例:アフリカ開発のための三角協力)。

・BMZは対中国援助を終了(パートナー国ではない)。
・一方で、他省庁(外務、経済技術、環境、教育研究省等)はGIZを活用して中国に協力。

出所:2011年9月に実施した英国・ドイツ調査にもとづき筆者作成。

日本の取り組みへの示唆

現行の法令・体制に照らした実現可能性は問われるが、以下、議論の材料として提示したい。

  • ODA卒業国に対する有償技術協力を大規模展開する体制づくり(現在でも、JICAで小規模な協力は実施)。 GIZの取り組みを参考に、JICAが新興国政府、民間を含む外部機関からフィーベースで受託・実施する可能性を検討するのも一案か(←GIZは国策会社であり、独立行政法人のJICAとは異なる?)。同時に、組織のKnowledge Management強化は不可欠(教育協力であれば、文科省、外務省、専門家等を含む官官・官民の知的ネットワーク構築が必要か)。
  • 他省庁の非ODA予算も動員し、JICAが国際協力事業を実施する可能性(←法改正が必要?)。いずれにせよ、オールジャパンで取り組むには、産官学をコーディネートするハブ組織が必要。教育協力の場合、既存のコンソーシアムの活用可能性は如何(いかが)。
  • (既に努力が始まっているように)JICEのような教育・職業訓練等プログラムの形成・実施支援やコーディネート・コンサルティング等を担う組織、及び日本の大学や企業が連携して新興国等のプロジェクトを共同受託するイニシアティブを推進。必要な環境整備を行う。
  • 人材育成分野で借款供与する国・内容を産官学で議論して戦略性をもって絞込む。その上で、JICAの中進国向け借款(+OOFも要検討か)、文科省予算(大学)や経産省予算、民間資金等を組み合わせ、JICEのような組織が大学と連携してプロジェクト・マネジメントを担っていく可能性は如何(いかが)。ただし、ODA卒業の中東諸国の場合は、円借款供与の特例としてパッケージ型(インフラ)協力に関係づける必要ありか。
  • 同時に、日本の大学において、プロジェクトマネージャー、コーディネーター的な役割を果たせる人材(教育職、事務職ともに)を積極的に採用できるように待遇・給与体系を整える必要性。国際的な経験をもちプロジェクト運営ができる専門職人材を集める仕組みが必要。

以上

お問合せ先

大臣官房国際課国際協力政策室

(大臣官房国際課国際協力政策室)