倉橋委員提出資料

0. はじめに(自己紹介)

 私はブラジル人学校を経営しています。学校名は Escola Alegria de Saber と申します。日本での法人名は有限会社イーエーエス××(××には各校舎在市名が入ります。例・有限会社イーエーエス浜松など・5法人です。)です。2010年2月に学校法人イーエーエス伯人学校を設立予定です。東海地方(静岡・愛知・三重)に5校ございます。現在2010年1月現在の生徒数は約1000名です。私は在日ブラジル人学校協議会(以下AEBJ)の日本語渉外担当です。私は弊校だけでなく、AEBJの一員としてブラジル人学校全体の利益代表者として以下、申し上げます。

1. 2009年ブラジル人学校の現状(出典AEBJ)

 2009年のブラジル人学校を取り巻く環境は非常に厳しいものでした。

 2008年までは学校間競争の激化・日本の公立学校へ通う子供の増加等のマイナス要因もありましたが、ブラジル人学校は好景気及び保護者の高額負担に支えられて(デカセギ労働者の増加)、経営は安定していました。しかし、2009年は16校のブラジル人学校が閉鎖しました。これは在日ブラジル人学校の19%に相当します(83校中の16校)。また、在籍児童数は2008年6月の11429人から2009年6月には4380人へと減少しました。

2. 2010年ブラジル人学校の展望(協力AEBJ)

 さて、2010年のブラジル人学校を取り巻く現状はどうなるのか?多くの方が「より悪くなる」もしくは、「変わらない」と答えているようです。在日ブラジル人の仕事はその殆どが派遣労働者(主に工場労働者)です。派遣会社での働き口が少ない現状では、生徒はさらに減るのではないかと心配するのも理があるように思います。

 2010年も引き続き多くのブラジル人学校が閉校すると予想しています。上記AEBJ資料作成時より、4校のブラジル人学校が新たに閉鎖を決めています。(ニポブラジレイラ・静岡県磐田市/コレジオピタゴラス・山梨県/コレジオピタゴラス・栃木県/コレジオピタゴラス・長野県)

3. ブラジル人学校の役割

 学校は文化的再生産の機構だと考えています。日本の学校へ通う子供は将来日本人になります。ブラジル人学校へ通う子供は将来ブラジル人になります(私は在日ブラジル人学校は在日ブラジル人を再生産してはいけないと考えています。在日ブラジル人という言葉は否定的なイメージを数多く持ちます)。ブラジル人学校が2008年まで経営してこられたのは、一定の保護者が「デカセギ」であり、将来はブラジルへ帰国すると考えていたからです。しかし、現状では、ブラジル人学校は「日本の学校では適応できない、もしくは日本の学校を続けることで非常に不利益を被る可能性が高い」と考える子どもを預かることも多くなりました。また、「ブラジル人学校へ通わせ、大学進学時点で母国へ帰る」と思っていた家族が日本で就職し、大学進学を後回ししているケースも非常に多いです。さらに「日本の学校にはない、独自のサービス(送迎・延長保育・休日保育など)が必要」だと考える方もいます。日本の教育の枠の外にありながら、学校として(それが受け皿としての役割だとしても)機能していたことは評価してもいいのではないかと思います。

 いずれにせよ、ブラジル人学校の月謝は高額です。通わせる保護者の方々にはそれなりの事情(家族によって様々)があり、収入の大きな部分を占める月謝を支払わなければならない理由があります。敷衍して言えば、その理由があるにも関わらず、収入の十分でない家族は「自宅待機」を選択する可能性が高まります。AEBJの調査でも2688人の10.5%にあたる283名が「自宅待機」となっております。この数字は調査対象のブラジル人学校からはじき出された数字です。実際の数字はAEBJ非加盟校、日本の学校からの退学者も合わせますので、大きな数の子どもが現在でも「自宅待機」だと考えます。(集住都市のブラジル人教会(イグレージャ)では、自宅待機の子どもたちを対象に保育所を開催しているところもあるようです。)

4. 提言

 ブラジル人学校の立場から見て、非常に強く感じることは「私たちは疎外されている」ということです。もちろんこれは、「昔は疎外されていたが、急速に改善しつつある」と言いかえられます。在日ブラジル人の増加は、急激でした。そして、行政の追い付いていない部分は、彼ら独自のコミュニティを形成し、フォローして来ました。「多文化共生」を謳う各公共団体・NPO・個人も追い風になりました。その副産物として、日本に永住しようと考える方々も多くなりました。日本は住みよくなりました。彼らは「仕事がないなら帰ればいいや。」と簡単に割り切れなくなりました。(簡単に割り切れる人たちは帰国しました。帰国支援金は彼らの背中を押すとともに、選択肢のない人々に逃げ場を与えました。)

 彼らの形成してきたコミュニティを保存しつつ、「デカセギ」の新しいステージを用意することが必要だと感じています。それは「ゆるやかな共同体意識を共有する」ことによって達成するべきだと思います。日本にいて、日本に対し税金を納める限りは「日本人」とほぼ同格に扱ってほしいです。

 ブラジル人学校へは「進路指導(特に就職希望者・中卒・高卒)」及び「日本語力」の手助けが必要です。及び「教育内容」の可視化及び一定の水準保証が「義務」として課せられるべきです。

 また、各市町村においてブラジル人学校の存在意義の理解に差がある(在日ブラジル人の存在理由についても同様)ので、その扱いのガイドラインがあると嬉しいです。

 

以上 2010年1月3日記

倉橋 徒夢

 

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