東アジアにおける交流に関するワーキング・グループ(第3回) 議事要旨

1.日時

平成22年2月24日水曜日17時から18時半

2.場所

7F1会議室

3.議題

  1. 東アジアにおける科学技術協力のあり方等

4.議事要旨

配付資料

資料1 東アジアにおける科学技術協力のあり方について

出席者

(委員出席者)

白石委員、角南委員、田中委員

(文部科学省出席者)

中川文部科学副大臣、後藤政務官、坂田事務次官、土屋総括審議官、泉科学技術政策局長、森田国際交流官、木曽国際統括官、芝田大臣官房国際課長、坪井大臣官房政策課長 他

議事概要

(1)東アジアにおける科学技術協力のあり方について

•   森田国際交流官より東アジアにおける科学技術協力のあり方について発表が行われ、その後、質疑応答が行われた。概要は以下の通り。

【委員】  

 アジア・リサーチ・エリアというビジョンを追及し、東アジア全体でファンディングを行うという方向性はよい。東アジア共同体を形成する上での一つのシンボルになる。ただし、日本だけが出資するのではなく、中韓にも可能な範囲で負担を求めるべき。リサーチ・ファンドは研究という観点が最優先されるべきであり、政治的配慮により資金配分が左右されると、科学技術のクレディビリティが低下する恐れがある。

 ASEAN+3の枠組みで科学技術協力を検討する場合、メリットベースとなるか否かが議論になる。世界トップレベルを目指すプロジェクトに教育的観点を盛り込み、例えば、各国、少なくとも1プロジェクトは実施するなどとなると、研究者や技術者にとって、プロジェクトに参加するインセンティブが阻害される。共同体形成という外交上の目標と、科学技術の実質的成果の向上とのバランスが重要。

 東アジア協力を進め、日本の研究者等がもっと東アジアに行くようにすべき。アジアに滞在する研究者は約5万人だが、1カ月以上の滞在者は約600人とのことで、少ない。欧米に滞在する研究者も減少傾向にある。東アジア共同体を考えるだけではなく、我が国の科学技術力を世界最高レベルで維持するためにも、欧米の超一流の大学・研究所等に行く研究者を増やすべき。フィールドワーク、感染症研究など、最高水準の研究がアジアでできるということであればよいが、宇宙やナノ、バイオ分野等となるとどうか。そのバランスをどう考えるか。

【委員】  

 文科省の科学技術学術審議会国際委員会において、アジア地域における共同研究の推進を目的に、科学技術振興調整費の特別枠設置を検討した際、経済水準の異なる国と共同研究を行う場合は資金力、研究環境等の相違からマッチングファンドの実現が難しく、相手国に対する技術移転あるいは教育的要素を盛り込むべきだとされた。そこで、ODAとの連携により、相手国の経済支援をある程度行いつつ、共同研究もサポートする二段構えの政策に転換した。

 リサーチ・エリアの目標や理念については今後の検討課題。関係諸国の資金的負担のあり方を含め共通のファンドをどう考えるかを理念の中に明記すべき。

 国際的に認められた世界トップレベル研究は、政治的介入が少なく、透明性が高く、研究レベルも担保されているため、制度としてわかりやすい。ただし、アジアにおいては、防災、感染症等世界トップレベルではないが、市場に近く、技術移転も伴うような研究分野に対するニーズもある。

 ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムでは、政治家ではなく、世界レベルで見識の高い科学者のコミュニティが決めていたが、アジアでは具体的に目に見える成果が要求されるのではないか。この二つは別々の枠組みで検討する、あるいは、優先順位を決める等し、分けて考えるべき。

【中川副大臣】  

 一度政治レベルで各国を訪問し、日本の考えている構想について感触を探る必要がある。従来のODA型の協力から一歩進み、「一緒にやろう」というイコール・パートナーシップの交流施策を提示できれば、中国のプライドをくすぐり、より広範な協力を行えるのではないか。ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムは研究者が他国に出向くときだけ研究費が支給されるしくみであり、各国のエゴを打ち消す面もあるのでよい。基礎研究分野よりも、防災、疫病等も含めた実益的分野に対するニーズが高くてもよいのではないか。どのようにプロジェクトとして整理し、域内で協力体制を構築するかが課題。ご経験等を踏まえ、示唆をいただきたい。

【座長】  

 東アジア共同体と同時に、今後の日本の科学技術振興について考えなければならない。2020年、2030年の世界やアジアにおける日本の位置を考えると、研究者として最も活躍できる年齢層が現在の4分1ほど減少する見込み。仮に、民間含めGDPの4%の科学技術関連投資が行われたとしても、世界の研究開発投資に占める日本の割合は、18%から16%程度に減少すると考えられる。2020年頃には大学間競争が更に激化し、分野別競争の加熱が予想される。地域的課題に対処するために、東アジア共同体を検討するのはよいが、日本の科学技術の制度強化と競争力向上のためにどうするかという観点も必要。今回の提案も日本としてどうすべきかという視点が弱い。若手研究者の国際競争力を向上させるためには、アジアよりも世界トップレベルの研究拠点で、トップレベルの研究者たちと共に仕事をさせるべき。また、今後分野別の大学間競争が重要になることを見据え、日本国内の分野別大学ランキングトップ5をつくるべき。アジアや世界における国内の各大学の位置を把握し、どことタイアップすべきかを念頭に置き、ファンディングを行う必要がある。従来の教育協力は、面識のある者同士のバイの枠組みで行われており、国家戦略的観点は希薄だった。研究者中心であるべきだが、国としてどのくらい意味があるのか把握しておくべき。

 J-PARC(大強度陽子加速器施設)をハブとして使うのは大事。国民に対する説得力も増すと思うが、そのためにはサポートを行う研究支援者や技術者の人材育成をきちんとすべき。

【委員】  

 South East Asia EU NET(EUが東南アジアと研究交流をするためのマッピング・スタディ)は分野別トップレベル研究者を選ぶ基準が極めてオープンである。従来の共同研究では、研究者個人の共同研究ネットワークにより推進してきた取組をボトムアップで積み上げてきた。リサーチ・エリアを考える際、目標や対象分野をどうするかが課題。EUのように予備的調査から段階的に積み上げていくことも重要。

【座長】  

 地域的課題について協力するという考え方はよいが、ASEAN+6全てが参加する必要ない。例えば、3カ国以上の国から国際競争力の高い3つ程度の研究機関が参加するといった仕掛けを考えるべき。

 国内ではできない、例えばGMO(遺伝子組替え作物)のような研究については、食糧安全保障やライフサイエンス、グリーンイノベーション等の観点から重要であり、国として取り組むべき分野として選択すれば、国民に対して説得力がある。テーマによってはASEANの中で関心持つ国もあるのではないか。副大臣が諸国を訪問される際、その辺りについて具体的に聞いていただくとよいのではないか。

【委員】 

 リサーチ・エリアは、地球規模課題対応国際科学技術協力事業、アジア・アフリカ科学技術協力の戦略的推進等の流れの先にある構想である。今までにはない国境を越えた枠組みをつくる意義を明確化すべき。例えば、他国で研究する場合のファンディングを行う、三カ国以上が集まり別の第三国で行う、実験器具や技術者を調達する上での資金援助を行うなど、これまでの二国間やODAの枠組みでできなかったことに取り組むことが可能になる柔軟性のあるファンドになれば、枠組みもわかりやすくなるのではないか。

【委員】  

 今回、「東アジアにおける科学技術協力のあり方について」という資料をまとめていただいた意味は大きい。これまで国際的な科学技術協力のプロジェクトについては、色々な場で様々なアイディアが出る度に事業化してきたため、全体像が不明瞭だった。日本が主体となり、東アジアにおける戦略を明確化する好機である。地域形成というビジョンは大事だが、各国や個々の研究者にとって有益な制度設計をしないと持続しない。リサーチ・エリアについても、日本の研究にとっても有益で、日本が世界最先端を維持する上で重要となる分野を軸に、検討を進めやすい枠組みを骨太に形成していくことがのぞましい。

【座長】  

 例えば環境、生命、原子力の平和利用など、分野を厳選し、新成長戦略と東アジア共同体形成とを連携させつつ検討を進めるべき。

【木曽国際統括官】  

 共同のファンディングについては主要なパートナーと意見交換しながらつくっていくべき。EUが知識社会・知識経済の基盤を形成する上での戦略的位置づけとして、リスボン戦略の目標を共有しているように、東アジアにおいても、域内共通の目的設定が課題。質保証と域内の合意形成の実現に向け、科学技術としての成果をメリットベースで測るシステムと政治的意思で動くトップダウン的なシステムの2つが必要。途上国を抱えており、資金拠出できる国が少ないアジアではODAの活用が現実的な課題。ファンドをつくる場合、ASEANの事務体制が脆弱なので、事務局体制についても今後検討する必要がある。

【委員】  

 東アジアの国際協力は元来事務局を不要とするもので進めてきたものであり、事務局をつくると予算が一桁増加する。EUでも事務局体制のあり方が課題になっているようだ。強固な事務局体制を形成する場合、日本の国益はどうなるのかも課題。英語主体の強力な事務局を作った時、日本は域内に影響力を与えつつ事務局を運営していくことができるのか。日本が中心となって作り影響力を行使している国際組織としてアジア開発銀行があるが、科学技術分野で同様の組織をつくる場合、世界トップレベルの人材を配置すべきか、そうした人材は米国や欧州との競争の場に充てるべきか悩ましい。

【座長】  

 トークショップレベルであれば、既存のネットワークを利用し再検討を図ることは比較的容易。だが、具体的検討を行うような場合、事務局体制を最初から考えするのは難しい。科学技術分野の取組においては、メリットベースで質を保証するとしても、人材育成の要素も入れる必要がある。目的は知識経済の発展というよりも、地域共通の課題にどう取り組むかではないか。テーマを絞り込み、具体的な事業を幾つか走らせてみて、物になりそうなものから着手していくべき。東アジア共同体協力で過去に成功してきたものは、事業が具体的に走ったものであり、先に枠組みをつくろうとすると、大体消えてしまうことが多い。

【委員】 

 分野選定は重要。人材育成を行ってでも取り組みたいという意欲のある研究者のいる分野でないと続かない。日本では、伝統的に、社会基盤、土木の分野がそうだった。こうした分野を特定して、東アジア協力を集中的に進めていくことが必要。

【泉科学技術・学術政策局長】  

 地球規模課題対応国際科学技術協力事業は、ODAの側面と、ピア・レビューに近い、科学技術としてのメリットを審査し、JSTがファンディングしている部分とのマッチングの側面の両方をクリアしないと支援が行われない事業である。アジアとの協力を進める上で、現段階では有効なメカニズムの一つである。東アジアの枠組みで考える場合、資料1「東アジアにおける科学技術協力のあり方について」のp9にもあるが、日中韓においてはこれまで3~4年の間に大臣級の会合を2回実施し、具体的な協力を進めている。中韓からは協力分野を決定する際、ナノテク、IT、ロボティクス等に対するニーズが出てくる。

 分野選定も重要だが、協力方式や対象国の選定も課題。地球規模課題対応国際科学技術協力事業を立ち上げる際、通常のファンディングでは不可能な基礎分野や、農業、土木などフィールドがないと日本では研究のできないものなども対象になるということで、当初は12課題程度しか採択できない程度の予算額だったが、倍率は10倍程度と高かった。予算は20年度~21年度にかけて倍増し、21年度~22年度は頭打ちになったものの、相変わらずニーズは高い。

【委員】  

 日本の科学技術政策のあり方を考えた場合、中韓は特別であり、戦略的に対応すべき。特に、中国は重要なパートナーであると共に強力な競争相手である。中国の中の科学技術拠点それぞれとの間の関係について精査すべきではないか。日中の共著論文も増えているが、日中それぞれでどの分野が世界トップレベルとなっているか等についても精査すべきである。中国との科学技術協力は、それだけで独立の検討課題となりうるほど、大きな課題ではないか。

【座長】  

 2020年頃には、中国の研究者数、研究開発投資、論文数とも桁違いになっているのではないか。

【委員】  

 中韓のトップレベルは欧米と連携しており、日本に対しては産業技術の移転に近いものを要求するのではないか。東アジアのリサーチ・エリアが目指すものは、ODAの延長線上にあるのか、あるいは、世界をリードする科学技術を東アジアにおいてつくっていくというものなのか。アジア・アフリカ科学技術協力の戦略的推進などで拾いきれない研究をリサーチ・エリアが拾うという考え方はわかりやすい。ただし、その場合相手国から財政支援を引き出せるか。

 イコール・パートナーシップで進めるならば、足下の課題ではなく、将来世界レベルの研究になりそうなアジア共通課題について、世界レベルの視点でアジアで一緒に取り組むという方向もあるのではないか。

【土屋総括審議官】  

 東アジアとの協力は、昨年の臨時国会における総理の所信表明や今年の施政方針演説等においても、総合戦略、総合外交として重視されており、新成長戦略のキーワードの一つである。我が国と東アジアとの協力を考える際、世界の国際競争力評価を見ても一桁順位であり、日本のセールスポイントでもある科学技術を利用するのは当然である。地域の共通課題の解決にも貢献する。アジア地域限定で世界レベルの研究に取り組んでも成功しないかもしれないが、感染症や地震等は東アジア共通課題であり、戦略的に分野を選定すれば、日本にとってもメリットは大きいのではないか。

【委員】  

 日本の科学技術の水準が世界の中で一桁順位であると評価されるのは、東アジアと協力してきたからではなく、欧米と競争を続けてきたからである。この点を踏まえた上で、「東アジアも大事だから重要な分野に戦略的に投資する」という形をとるべき。

【座長】  

 今後10年で、日本の科学技術人材や予算等自前の研究資源は縮小する。若手研究者の育成は重要であり、優秀な人材に来てもらうか、無理であればこちらが出ていくべき。大学間交流の場合も科学技術同様、国益の観点が重要。アジアを利用して日本の大学の国際競争力の向上や研究の強化をいかに図るかを考えるべき。

【委員】  

EUもASEANの豊富な研究資源と自らの国際競争力向上を念頭に、ASEANと良好なパートナーシップを構築している。リサーチ・エリアを考える場合、日本の科学技術にとって重要かという側面と、ODAの延長線上で地域共通課題の解決を図るという側面と、両者の整合性がとれるよう、二つの別の目的が一本につながればよい。

【座長】  

 アメリカの大学でPhDを取得した、競争力のあるアジア系の人材がたくさんおり、その中には日本に来たい人が結構いる。日本人が内向きになる中、そのような人に日本に来てもらうことを考える必要がある。

【委員】  

 日本だけが世界の頭脳循環から取り残されることを懸念。東アジアの中で閉じた頭脳循環を日本中心に形成しようとしても各国は相手にしない。欧米も含めた巨大な頭脳循環の中で、優秀な研究者に日本にとどまってもらい、成果を出してもらうことが重要。

【委員】  

 若手研究者の支援について、アジアや欧米等の枠を越えた、国際スタンダードのメリット・システムが重要。

【土屋総括審議官】  

 文科省として頭脳循環の実現に重点を置いている。いかにして優秀な人材に日本に在留してもらうかが課題。キャリアパスを描く上で魅力ある国とする必要があり、世界的なベンチマークによる研究活動の運営や評価が重要。研究開発法人制度の改革等の議論でもこれを全面に出していく予定。リサーチ・エリアに関する具体的検討は今後の課題だが、エリア内の知的人材や高度職業人等の流動性を高めることも日本にとってメリットになる筈。

次回以降の日程等

•   第4回ワーキング・グループは4月頃に開催予定。開催日時、議題等は後日連絡。

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大臣官房国際課