国際教育協力懇談会(2006年2月17日~)(第3回) 議事録

1.日時

平成18年3月30日 12時30分~14時30分

2.場所

文部科学省 省議室

3.議題

  1. 開会
  2. 事務局より資料説明
  3. 有識者からのヒアリング 牟田東京工業大学大学院社会理工学研究科長 加我東京大学医学教育国際協力研究センター長
  4. JICA(ジャイカ)加藤国内事業部長より説明
  5. 自由討議
  6. 閉会

4.議事録

1.開会

(事務局)

2.委員等紹介

出席者

 木村座長、荒木委員、片山委員、工藤高史委員、千野委員、廣里委員、弓削委員

欠席者

 内海委員、工藤智規委員、白石委員、渡辺委員

オブザーバー

 国際協力機構国内事業部・加藤部長、
 国際協力銀行開発セクター部・宮尾次長

ヒアリング有識者

 東京工業大学大学院社会理工学研究科長 牟田教授
 東京大学医学教育国際協力研究センター長 加我教授
 北村教授、武田助教授

事務局

 近藤文部科学審議官、井上国際統括官、渡辺大臣官房国際課長

3.進行について

【木村座長】
 議事に入ります前に、今後の懇談事項につきましてご提案させていただきたいと思います。これまでの予定では、我が国の大学等が有する「知」の活用についてというアジェンダについては、第2回、第3回の2回で一応決着をつけようということでございましたが、前回申し上げましたように、2時間の会議で3つのプレゼンテーションをしますと、どうしても議論が不十分になりますので、次回の第4回の懇談会でも引き続きこのテーマで話し合うことにさせていただきたいと思います。よろしゅうございましょうか。(一同賛同)

4.資料説明

 (事務局)

5.議事

有識者からのヒアリング1(牟田教授「国際教育協力に対する大学等の貢献」)

【牟田教授】
 ただいまご紹介いただきました、東京工業大学の牟田でございます。15分でということですので、できるだけ時間厳守でやらせていただきます。私の発表については、資料5というパワーポイントの資料がございますが、パワーポイントそのものは使いませんので、この資料に沿ってやらせていただければと思っております。
 文部科学省が拠点システム構築事業をやっているというのは、委員の先生方ご存じかと思います。私は運営委員と評価の担当をしております関係で、これを少し利用しまして今日のお話をさせていただければと思っております。
 この拠点システム構築事業は、日本のいろいろな大学等にお願いいたしまして、日本の教育経験を集約して国際協力に生かそうということで、様々なプロジェクトを立ち上げたわけでございます。例えばデータベースを作るとか、あるいは国際協力の経験の豊かな理数科の教育についていろいろ調べてみるとか、あるいは協力経験の少ない幼児教育とか学校保健、あるいは特殊教育といった分野で、これまで日本がどういった成功事例をおさめたか、それがどういうふうに開発途上国で活用できるかということを取りまとめたものでございます。3年間の事業のまとめということで、いろいろな報告書、データベース、ウェブサイト、人的ネットワークの形成、あるいは具体的な協力の実践等、いろいろな成果物を評価するわけでありますけれども、そういうものがどの程度当初の目的に沿ったものとなったかということで、自己評価をやっていただいたものを評価ワーキンググループが2次評価をしたということでございます。
 「日本の教育経験を集約して国際協力に生かす」というのは非常に漠とした言い方でございまして、そういう漠とした目標に対してそれが達成できたかどうかを測るのはなかなか難しゅうございます。それぞれの拠点ではそれぞれなりに自分で目標を決められて頑張られたということでございまして、当初運営委員が期待しました以上のものもあれば、大体こんなものだろうというのもあれば、もう少し何とかならなかったかというものもあったということでございます。
 ただ、このように我が国の強いところを、特に過去の経験を整理して途上国に生かしていこうという姿勢はそれはそれで良かったと思うのですが、日本の経験を生かしてこういう成果物ができたことが、ODAの世界で本当に役立つのだろうかということを考えますと、多分、それはそう簡単ではないだろうと思うのです。
 1ページめくっていただきますと、これはもう釈迦に説法で恐縮でございますが、国際教育協力のようなODAの世界では、俗にアウトプット、アウトカム、インパクトということを言います。アウトプットというのは、例えば学校建築プロジェクトで作った学校のようなものであります。しかし、学校を作ることが最終の目的ではなくて、そこに児童・生徒が来て勉強して、就学率が上がって、成績も上がってというのが本当の、次のステップでありまして、そういうものを通してその国の生活水準が上がっていくことがねらいなのです。建設された学校は単に最終的なインパクト、あるいはアウトカムへいくまでの入り口にしかすぎない、と通常言われています。
 同じ考えを、拠点システムで作りました成果物にも適用できます。いろいろな分野の教育経験の蓄積はできたのですが、それによって日本がやっている国際教育協力の質が向上するのか、あるいはそういうものを通じて開発途上国に貢献できるのか、時がたてば、この3年間、数億円を使った事業がほんとうに役に立つのだろうかということを考えたときに、多分それほど簡単なものではないのだろうと思うのです。
 どうすればアウトカムとかインパクトが、例えばこの拠点システムで出るかということを考える必要があります。やはり拠点システムは国際協力の供給側の立場であって、日本の経験を生かしましょうというのは大変結構なのですが、あくまでも日本の立場でまとめたものだということです。開発途上国で使ってもらおうということですが、果たして使ってくれるかどうかは未定です。要するに、これはお店に品物を並べておけばだれか買いにくるだろうという話でありまして、JICA(ジャイカ)も使ってくれるだろう、JBIC(ジェイビック)も使ってくれるだろうということですけれども、ほんとうに作ったものがそういうニーズに合ったものかどうかということは、まだよくわからないところだと思うのです。
 どうすればこういうものを使ってもらえるか。日本は非常に長い年月をかけて貴重な経験をして、せっかくそれを集約したわけですけれども、データベースに登録したからといって待っていればお座敷がかかるものではありません。
 やはりしなければいけないことはまず広報だろうと思います。使う人に興味を持ってもらうことが必要でありまして、JICA(ジャイカ)とかJBIC(ジェイビック)だけではなくて、世界中のいろいろなドナーにこういったものがあるけれども使ってくれないかといったことで売り込みをしていく努力がないと、待っていても、ウェブサイトを作っても、役に立たないということだろうと思います。
 そして、もしおもしろそうだという話があったとして、日本の経験がそのまま途上国で生きるわけではありませんので、そこの途上国に合わせてカスタマイズするということがないと、どんな立派な日本の経験も生きていかないでしょう。あるいはお客が来てからカスタマイズするのでは少し遅いかもしれませんので、ケース1、ケース2とか、いろいろな場合に合わせてカスタマイズした事例を用意したほうがよりアトラクティブなのだろうと思います。
 一歩進めば、具体的な国とか地域を念頭に置いて、日本の経験を基礎にしたプロジェクトを企画して売り込んでいく、単に日本の経験とかデータベースにお客がつくのを待つのではなくて、そういうものを活用するとこういうことができるということで売り込んでいく事が必要です。あるいは、国際教育協力のさまざまな公募が今は国内でも国外でもあるわけですから、そういうものに積極的に手を挙げていく。国際市場の中で日本の経験、比較優位のあるものを武器して売り込んでいかないと、やはり役に立たないと思うのです。
 ここまではよく言われることですが、ここから先が、今日、私が強調したいことなのです。それは、プロジェクトの企画と同時に、一部実際に実施することが大学人にとっては興味もあり、やりがいのあることではないかということです。
 拠点システムは来年度から新しい2期目に入るわけですけれども、その中で実施することもできると思います。あるいは科研費などをとってやることもできると思います。ただ、科研費というのは非常に使い勝手の悪いものでございまして、特に海外でお金を使うということになりますとなかなか大変です。渡航費用とか、そういうものは出ますが、現地でのいろいろなオペレーションのお金はなかなか出しにくいかもしれない。そうすると、例えば民間の資金を得てそれとうまく組み合わせながら小型のプロジェクトを走らせるのが実際的ではないかと思うのです。
 これはODAをやるのかと言われるかもしれませんが、そういうことではないのです。実際の国際協力と国際協力研究は必ずしもきちんと分けられるものではなくて、私がここで言っているのは、要するに国際協力研究をしようと提案しているわけです。国際協力、ODAということであれば、やはりしかるべく政府対政府のいろいろな手続をもってやらなければいけませんが、研究であれば比較的簡単にできます。そういう研究の中でいろいろな実践を積み重ねたものを、JICA(ジャイカ)とかJBIC(ジェイビック)、あるいは世銀とかアジア開発銀行というところに売り込むことはできないだろうかということです。
 国際協力というのは、確かに崇高な目的があってやっているわけですけれども、しかしよく考えてみれば、ある意味で社会実験のようなものだと思います。ある状態のところに特定の部分に対していろいろな介入、インターベンションをやる。そういう介入によって何が変わります。当然いいことがあるという前提で介入するわけです。そういうことで何が変わったかということを測るのが評価だと考えますと、国際協力の中に研究の側面が非常にあります。例えば白石先生の先ほどのメモでも、大学人にとってのメリットは何かということですが、大学人というのはお金とか名誉よりも、何よりも自分の研究に一番燃えるわけで、研究のためなら身銭を切ってでも何でもやるのです。ですから、国際協力の中の研究の側面に注目して、ここにもう少し日が当たるようなことがあれば、大学人がこの世界にもう少し入っていけるのではないかというのが提案の趣旨であります。
 こうして、研究として国際協力を行う。では、研究として行う国際協力はODAとどう違うかというと、これはカテゴリーの問題でありまして、ODAと呼んでもいいですし、ODAではなくて科学研究だと呼んでも一向に構わないと思います。裨益者にとっては同じことであります。研究という名のもとの、ODAもどきのようなものでもやはり住民に裨益はするわけです。そういうものの中で具体的な成果を出して、具体的な成果を基礎にしてもう少しスケールアップのために本来のODAにつなげていって、GGベースのいろいろな支援ができるのではないかということを考えたわけであります。
 それから、アウトプットだけではなくてアウトカム、インパクトが大事であるということから考えれば、スポット的に行います小さなプロジェクトでは目に見えるようなアウトカムやインパクトは出せません。JICA(ジャイカ)でもJBIC(ジェイビック)でも、あるいは他のドナーでも、あるアウトカムとかインパクトという大きな目標に向かって、いろいろなプロジェクトを束ねて、全体として目標を達成しようという動きがございます。国際教育協力のプロジェクトも単発のプロジェクト協力から総合的なプログラム協力へと進んでいくべきものだと思いますので、今回の拠点システムの成果も、そういうものを幾つか束ねて、もう少しアウトカムとかインパクトが出るような方向でこれから進んでいけば良いだろうと思います。
 そのためにも、さらに進んで、他分野との協力が必要だと思います。特に教育協力であれば、私はサステナビリティが非常に大きな問題だと思います。JICA(ジャイカ)でもJBIC(ジェイビック)でもそうですけれども、サステナビリティというのは単に知識、技術を移転すればそれが使われ続けるということはなくて、それが使われるような組織をつくる、制度をつくる、あるいは財政的な基盤もつくるというところまで含めてサステナビリティの確保をする必要があるのだと思うのです。教育は大事だからお金を出すべきだ、途上国ももう少し教育にお金を支出しろという提案を出したところで、ない袖は振れないわけですから、せっかく行った援助も日本が引き上げたら元の木阿弥になってしまうということは日常茶飯事であります。
 教育はよく投資だと言われます。確かに長期的には投資です。しかし、短期的には消費です。ですから、何らかのインカムジェネレーションなり、あるいは教育プロジェクトをサポートするような仕組みがない限り、決してうまくはいきません。私は仕事柄、いろいろな教育プロジェクトを見てまいりましたが、どんな立派なプロジェクトもやはりサステナビリティがなければ、プロジェクトが終わればそれでおしまいです。プロジェクトをやった人はそれなりに満足感があるかもしれませんが、現地には結局何も残らなかったというものが、もう山ほどあるわけです。
 そういうことで、例えば農村の開発とか、保健衛生という他の分野と一緒に教育の改善を図るようなことをもう少し考えないといけないだろうと思います。特にこれからアフリカの援助を多くする、アフリカの援助に対する研究をするということになっているわけですが、アフリカのような貧困の問題が大きい場合はなおさらそうであります。東南アジアのようなところであれば、教育のプロジェクトだけをやっておけば社会が自然と成長していますから、特にサステナビリティなんて考えなくてもいいのですけれども、アフリカの場合には考えませんと線香花火に終わってしまうと思います。
 スライドの16枚目に変なものが書いてあります。東京工業大学の中に太陽熱エネルギーを研究している先生がいらっしゃるのですが、そういう先生とお話しをして、大変燃え上がって、一緒にプロジェクトをやろうという話をしたのです。例えば教育協力のようなプロジェクトに対して、こういう太陽熱エネルギーのようなプロジェクトをかませたら面白いと言うことです。これは何かというと太陽熱を利用して発電するということなのですけれども、大体2,000万円ぐらいで途上国でしたら小さな村1つの電気を供給するぐらいの電力をとれるようなことを考えているのです。そういう、従来だったらとても太陽が熱くて何もとれないようなところで、逆に太陽熱を利用して電気を起こして、その電気をもとにして産業を起こす、そして教育も振興するといったおもしろい、これまでなかったようなアイデアを考えました。東京工業大学のような、木村先生が学長をされたころに大学院社会理工学研究科をつくっていただきましたけれども、理系の人もいる、文系の人もいて、新しいことをやろうという気概もあるところで、違った分野の人がこれまでにないようなプロジェクトを考えようではないか、どこかで資金をとってきて、実際にやってみよう、すぐにはJICA(ジャイカ)やJBIC(ジェイビック)も飛びついてくれないだろうから、どこかで試してみて、うまくいったらあちこちに売り込もうということを話しているのですけれども、そういうことがいろいろな大学でできるのではないかという気がしているわけです。
 国際協力というのは、私は非常にチャレンジングな課題だと思います。チャレンジングというのは問題が多いという意味でもありますが、将来性もあるということで、国際協力を何とか研究につなげていきたい、あるいは、そういうものの資金を獲得したいと思っております。そのためには、そういうところにお金を出せば何か遠くにある目標に近づきそうだと、お金を出すほうが、財務省も文部科学省も思っていただかないとできないわけでありまして、一歩ずつ進んでいることがわかるような形で何かプロジェクトができないものかと思っております。
 大学としての貢献ということで、次のスライドの2枚を申し上げたいと思います。18枚目のスライドはこれまでよく言われていたことで、要するに大学が社会貢献、あるいは業務として国際教育に協力することです。これは端的に言えば、JICA(ジャイカ)とかJBIC(ジェイビック)の仕事のお手伝いをするというお話であります。社会的な貢献ということで、ODAという人道的なもの、あるいは社会正義というものに貢献する、これら自体は確かにすばらしいいいことです。そのために、いろいろな実施機関からプロジェクトの受託をすることも最近よくやられております。
 それと同時に、評価事業の受託もございます。JBIC(ジェイビック)からはいくらかの大学が評価事業の受託を行っております。プロジェクトの受託をするのはなかなか規模が大きくて大変で、年限も2年とか3年かかります。しかし、評価の事業であれば大体半年ぐらいで終わるのです。実際に現地に行くのは2週間か3週間で済むということで、大学としては、簡単とは言いませんが、比較的とっつきやすい貢献ではないかと思います。しかも、大学にはいろいろな専門の先生がいらっしゃいますので、評価の専門の人とそういう事業内容の専門の人が組んで評価の事業を受託すれば、私はかなりいい仕事ができるだろうと思っています。現実に、今のODAの評価はかなり外注するという形がだんだんできておりますが、思ったほど手が挙がっているわけではないのです。ですから、たくさんの人に手を挙げていただいて、その中から選ぶのがやはり質のいい評価をするためには大事なことでありますので、プロジェクトはなかなか難しくても評価であればかなりできると思いますので、ぜひいろいろな大学で、手を挙げていただけないものかと思っております。
 そういうときに、大学の先生は業務実施能力がありませんから、それを自分で向上することも大事でしょうけれども、手っ取り早くはどこかのコンサルタント会社とジョイントベンチャーをやるということで、もう少し手が挙がってほしいと思います。それと同時に、いろいろなネットワークを利用する。あるいは、大学発ベンチャーというのがありますが、私は大学発NGOということで、大学が自分でこういう国際貢献をしていくことも大事なのだろうと思います。
 私が先ほどから言っておりますもう一つの提案というのは、国際協力を業務としてではなくて、研究や調査として考える部分をもう少し大きくできないかということです。特に、外務省ではない、文部科学省がおやりになるということであれば、私はこちらの面を強調した国際協力がある得るべきだと思います。研究調査として、例えば理論の検証、先ほどの太陽熱エネルギーもうそうですけれども、理屈としてはあるわけですが、例えば今考えておりますのは、それをモロッコとかエジプトというところに持っていって、ほんとうにそういう砂嵐が吹くようなところできちんと恒常的にエネルギーがとれるかを検証してみる必要があります。理屈ではとれるのですけれども、実際にやってみると目詰まりして機械が動かなくなるかもしれません。そういったことを理論と社会的応用を国際協力の場で試していく、あるいは社会科学の人であれば社会の実験として、どうやったらもう少しみんなの暮らしがよくなるかということを研究していくという中で、研究のデータをとっていく。そして、例えば大学院の学生も一緒に連れていってスタッフとしての訓練をするということが考えられます。教育協力の中でもプロジェクト形成とか、企画調査とか、開発調査といったものはODAの中にあるのですが、ODAの中のこういった部分に特に大学人として積極的にかかわっていくことが必要です。
 そのためにぜひ私が文部科学省にお願いしたいのは、科研費の細目に国際協力という細目を作っていただいて、多くの人がここに手を挙げて、現場で実際に協力をしながら、研究もしながら、そして開発途上国の人に役立つような研究分野ができないものだろうか。あるいは最低限、キーワードに国際教育協力とか、国際協力評価とか、これだけというわけではないのですけれども、こういうたぐいのものを研究費の申請の際にぜひつけていただいて、多くの人がこういう分野を目指していただくことができないだろうかと考えるわけであります。
 大学にはいろいろなリソースがあると思います。これをどう活用するかということで、白石先生のメモにもあったことでありますけれども、個人が、好きな人が何か勝手にやっているということではなくて、やはり大学の大事な仕事の一部としてやっていることを学内で認知していただく。それから、学外との交渉の窓口をつくってもらう。また、一部の人ではなくて、できるだけ数が多く、それもグループ化していくという組織化を各大学でやっていただく。そして、学内諸制度の改善ということで支援体制もしてもらいますし、こういった活動をすることが評価や処遇にも結びつくという、当然、学内のいろいろな仕組みの改善もあるだろうと思うのです。
 こういうことであれば、先ほどから何度も申し上げていることでありますけれども、大学の先生がもう少し国際協力にかかわれるのではないかということで、ご提案させていただいたということでございます。
 少し時間が超過いたしまして、失礼いたしました。

有識者からのヒアリング2(東京大学 加我センター長)

【木村座長】
 ありがとうございました。新しい視点からのご意見を賜りました。
 いつも通りに、すべてのプレゼンテーションをいただいてから、議論に入りたいと思います。それでは、引き続きまして、東京大学医学教育国際協力センターから、3人の先生にお見えいただいておりますが、加我センター長から、東京大学医学教育国際協力センターの活動の概要についてご説明いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【加我センター長】
 私、加我と、北村、武田で参りました。
 我々のテーマは既に実践しておりまして、その経験からアフガニスタン医学教育支援を中心にお話しいたします。
 我々のセンターは3つの部門からなっていますが、目標としては国際協力研究、医学教育研究、それから人材の育成にあります。我々のセンターは欧米に顔を向けた面と、発展途上国に向けた面とあります。その理由は医学教育という分野、すなわち医師の教育や医療というのは世界的に非常に速く変化しています。我々としてもその変化を絶えず情報として知りたく、現在ニューメキシコ大学のコスグルーブ教授を6カ月お招きして、全部で6回の講演をしていただいています。最初は主体的学習を促進する医学教育のテクノロジーから始まりまして、来月は最後にプロフェッショナリズムと医学教育ということで予定しています。我が国の医学教育は、一たん決めると変化が少ないのが特徴です。特に米国の場合は多様な教育がさまざまな大学で行われていることがよくわかってまいりました。
 そういう中で、我々は同時に、発展途上国の支援としてアフガニスタンの医学教育プロジェクトに取り組んでいます。この経緯を少しだけお話ししたいと思います。もともとは2002年の東京アフガニスタン復興支援会議、議長は緒方貞子先生だったわけですが、2年半に最大5億ドルの支援を決定して、保健医療分野はかなり重点的に行うとなっており、医療機器とか、ワクチンとか、保健医療政策とかがあります。
 そして、この復興支援会議から、我々の東京大学医学教育国際協力センターには文部科学省とJICA(ジャイカ)からの要請があり、活動を開始しました。2003年8月に、まずセンターから保健医療の基礎調査団分遣隊を派遣しまして、センター、文部科学省、JICA(ジャイカ)のコンソーシアムを形成することにいたしました。以来、さらなる派遣と、それからアフガニスタンのカブール医科大学の教授から講師までの6名の方が毎回研修に東京大学に来まして、我々のほうでつくった約1カ月の教育に関する研修プログラムに参加して勉強してもらっております。既に2回実施し、この11月にまた第3回があります。
 アフガニスタンは、1747年に建国され、その後、1850年にはイギリス・アフガニスタン戦争がありました。そして1979年には旧ソ連軍が侵攻して、約10年間ソ連との戦争がありました。それが終わると、今度はタリバンの時代になりまして、約10年もの間、非常に国民が弾圧される時代となりました。2001年にタリバンに対する米軍の空爆があって、アフガニスタン・イスラム共和国が発足して、現在に至ります。そしてその1年後に、先ほど言いました復興支援会議が東京でありました。現地へ行ってみますと、爆撃を受けた病院などがありまして、とても使える状態ではなく、非常に気の毒な状態であったわけです。
 アフガニスタンという国ですが、人口は2,700万人、上水道の完備はたった13パーセント、医師の数は人口10万人当たり1.1。日本は22人おります。ナースになりますと、1万人当たり1.5人ぐらいです。日本は1万人当たり12人というふうに、何でも日本の10分の1から20分の1ぐらいの差であります。
 さらに我々を非常に驚かせたものは、保健医療の指標として、この国は非常に医療保健状況の劣悪な国の1つであることがわかりました。妊産婦の死亡率は、10万人に対して1,700というのは1.7パーセントです。乳児死亡率になると、1,000人に対して165ですから、16パーセント。これをわかりやすく言いますと、出産があるとお母さんは50人に1人亡くなって、かつ子供は5人に1人亡くなっているという、極めて悲惨な状況にあることがわかります。栄養不良の子供が40パーセント、平均寿命は47歳という、日本でいうなら江戸時代ぐらいの状況であります。
 現地に行ってみないとわからないのは特に病気であります。ワースト3は、1位結核。日本も今結核が増えていますが、一番悪い病気が結核ということはありません。がんとか循環器病が日本では一番です。二番目のチフスは、日本ではもう消えたような病気です。それから、またこれも日本では消えたような病気である寄生虫による皮膚リーシュマニア症というものがあり、大変衛生状態が悪いことから生じていることがよくわかりました。
 アフガニスタンの医療の現実は、診断、治療、手術の機器が不足し、電気も不足。そうすると、例えば基本的な診断機器に心電図がありますが、これも電気で調べるものですが、こういう検査ができなくなります。薬がない。病気がわかって、診断できても薬がない。ナースが全然足りない。タリバンは女子には教育は要らないという方針でやってきましたから、その大きな影響があらわれています。それから衛生状態が、上下水道とも極めて劣悪である。そうすると、もうこれだけで想像できますが、保健医療を改善するには単に我々医者だけが行くと何か解決するものではなくて、もう総合的に、工学領域とか、薬学とか、教育とか、上下水道完備のための土木というインフラが大きく発展しなければ、先ほどのような結核、チフス、寄生虫も解決できないことにつながります。
 例えば今のアフガニスタンの手術室ですが、写真を見ると、一見できそうな気がします。電気があって照明がないと手術はできません。麻酔器らしいものがありますが、これもものすごくシンプルな、日本では動物実験に使うような麻酔器です。こういう状況なのです。
 では、我が東大病院はといいますと、今週、私が手術したときに撮ってきたのですが、もう電気だらけです。近代的な機械は電気で動いて、コンピューターで制御されているもので、我々はそういうものを使いながら手術をしています。ナースも手伝ってくれます。ここにちょうど挿管といいまして、麻酔は気管チューブという管を入れてやるのですが、アフガニスタンの先生方が来て、我々が話を聞いて驚いたことの1つに、アフガニスタンではこういう道具があまりないことが多く、道具を使わずに指で口をあけて無理やり管を入れてしまうのだそうです。それで救命するのだそうです。特に戦場では、救急でもそういうことがしばしばある。このように知恵と工夫でかなりしのいでいるということを、やはり現地のアフガニスタンの先生から聞くと、我々に対する教育効果は極めて大きいものがあります。
 アフガニスタンの医学教育、医療の課題ですが、タリバンによる女子の就学禁止政策による人材不足。それから医療機関がカブールに集中して、地方にはほとんどない。それから医師の養成機関が、大学がカブールに1つと地方に6つあるだけ。それから、教育の制度が旧ソ連の影響を極めて濃く受けていること。7年の教育システムで行われていて、それを今改革しようとしています。我々もそれに協力することにしております。学生数も、タリバンから解放された直後は1学年600名もいましたが、今は近代的な教育をするために100名に減らし、欧米並みの濃い教育に発展させようという努力が始まっています。カブール医科大学の学長さんもこの前来られて話をしたところです。
 次が大学の役割ですが、大学の知とは何か。我々が発信と受信をするには、我々の特徴は、例えば医学という専門性があり、我々のところは総合大学ということで各学部の協力を得ることで発展させることができます。人材の養成は大学の非常に重要な役割だと思います。我々の中の人材養成と、相手側の人材の養成です。こういうものを通して、先ほど東京工業大学の先生が言われましたように、我々は研究に発展させることを非常に重視しております。そうすることで全体がよく活性化するからです。また、医学部の場合、臨床という、病気を治すということが使命ですが、これも診断、治療そのものをやりながら研究の対象にすることで発信と受信を実現したいのです。
 東京大学でどのぐらい理解されるかですが、東京大学では学内から海外拠点研究ということで募集しています。我々はアフガニスタンの医学教育に関して拠点を置いて研究を続けたいということを応募しました。そうしましたところ採用されまして、今年の2月にカブール医科大学にスライドのような大きな看板が出ました。東京大学とカブール医科大学のコラボレーションする研究室です。
 同時に、東京大学で研修に来た彼らを再度、現地で生かして、問題解決型のワークショップを行う。ですから、東大で研修する、かつ現地でもワークショップを行うことで人材の養成をしています。
 この計画は向こう3年間でありますが、まだ実質的には1年が始まったところであります。しかし、我々はその成果は大変大きいと考えています。例えば、今年終わったばかりですが、この中の6名がカブール大学からの教授、助教授、講師です。その方々を教育しています。1カ月、教育に関する研修をしてもらって、最後の発表会がありました。発表会にはバーレーン大使も来ていただきました。この人は小児外科医であるということで関心を持ってきていただきました。それからアフガニスタンの駐日大使も来ていただきました。こういう国を代表する大使の前で研修生が発表したことは、彼らにとっても非常に名誉なことだったのです。全員、張り切って帰国されました。
 我々が今回さらに試みたことがあります。第1回の全国医療系学生のための国際教育フォーラムを行ったことです。これは全国の医学部の学生に対して、カブール医科大学の6名の先生方とのフォーラムを行いたいということで呼びかけたところ、私どもは少数しか応募しないのかと思ったらそうではなく、医学生、看護学生約20名、医師、その他10名が参加しました。こういうことに関心のある人たちが全国に存在することが初めてよくわかったのです。スライドがその風景ですが、医学生もやはり現地の先生が来てディスカッションするということは随分強い刺激となり、非常にいいフォーラムになりました。
 最後ですが、我々、東京大学医学教育国際協力研究センターは東京大学全体、医学教育学会などの医学教育関係、欧米の外国人教授、それからJICA(ジャイカ)をはじめとする国際協力関係、その他と一緒に動くことで、大学などが有する知の活用の例として、現在さらに発展させようとしているところです。
 以上です。

有識者からのヒアリング3(JICA(ジャイカ) 加藤国内事業部長)

【木村座長】
 ほかの先生方、よろしゅうございますね。ありがとうございました。今まで伺った中では、最も実質的な活動がなされているプロジェクトだと拝聴いたしました。
 それでは、最後になりますが、JICA(ジャイカ)のほうからお願いしたいと存じます。オブザーバーとして出ていただいておりますが、加藤国内事業部長のほうから、国際協力機構と大学との連携ということでお願いしたいと思います。

【加藤部長(JICA(ジャイカ))】
 オブザーバーで参加させていただいております、JICA(ジャイカ)の国内事業部長の加藤でございます。
 資料7に簡単なメモを用意してございますので、こちらをごらんいただきたいと思います。極めて手短にお話しさせていただきたいと思います。今日は実施機関、ODAをなりわいとしているものが、大学の先生方にどういう期待を抱いているかということをお話ししたいと思います。
 まず、大学に私どもODA実施機関が何を期待しているかという話です。先ほど牟田先生からも同様の趣旨のことが若干述べられたかと思いますけれども、プロジェクトの受注というのは結構大変な話でございまして、そこに一足飛びに行き着くのはなかなか容易ではないという事情があると思います。やはり大学というのは、長期的な視野に立った人材育成と知の創造ではないかと、私は少なくとも考えております。
 前回、渡辺利夫先生がここにいらっしゃったときに、インドネシアからの留学生の話を聞かれて、長期的な人材育成を通じた友好関係の重要性を訴えられましたけれども、私も実はそれを改めてとらえ直すべきだと考えております。それが(イ)1の部分ですけれども、この国のこの分野でどこに重要な人材がいて、その人たちと日本とのネットワークをどう構築するかという戦略が必要ではないかということでございます。
 それから、単にたくさんの人を日本に招き入れてやるだけではなくて、やはり生きたネットワークであるからには仕事が一緒に続いていくこと、あるいはEメールでも何でも連絡がつく状態を保っていく必要があるのではないかということでございます。それが2でございます。
 それから、先ほど牟田先生、あるいは今の加我先生からのお話もありましたけれども、総合的に協力することの重要性を私どもは非常に考えております。これまでODAは主として自然科学系、あるいは工学系が多かったと思いますが、それをいかに社会に応用していくかという意味で、社会工学とか、木村先生が文理の総合を重視されたというお話もございましたけれども、大学としての総合性を生かした形で大学の知を途上国にもたらすことができないかという問題意識もございます。あわせて、日本人の学生さん、あるいは若手の研究者の方についてもできるだけ途上国に目を向けていただきたいというのは、私ども実施機関の立場としての希望でございます。
5番は、私が個人的には非常に強調したいところなのですけれども、前回この場で私は、大学の方をあたかもコンサルタントさんのかわりとして扱うのは必ずしも生産的ではないのではないかと申し上げたのですが、大学が研究と教育と、そして社会貢献という三位一体型の活動を志向されているところにこそ、大学の強みがあるのであって、知識の切り売り的なものを大学人に期待するのはちょっと期待の仕方が違うのではないかというところを、私としては申し上げたいと思っております。
 以上が、人材育成についての実施機関に勤める私の考え方でございます。
 2つ目の知の創造、新しい知をつくるという大学のコンピタンスに関して申しますと、当然、牟田先生がハイライトされましたように、あるいは加我先生も最後のところでおっしゃっておられましたように、研究というところにある価値、あるいは展望を見出していらっしゃると思います。研究することによって途上国の人材が新たな知を生み出していくところをサポートするのが、大学の先生方に期待されるところだと思いますが、翻って、あるいは副産物的なものとして、我々自身が日本の経験なり考え方なりを伝えていただく過程で、さまざまなプロダクトが出てまいります。論文であったり、著書であったり、あるいは研究成果であったり、いろいろあると思いますが、それらをできるだけ概念的にまとめて、かつ英語で、あるいは外国語で出すことが活動の過程において生まれてくる。これが日本にとっての1つのストックになるのではないかという、大学の先生に対する期待がございます。このような概念化、相対化、あるいは英語化という仕事は、官僚機構にいらっしゃる実務家、あるいはコンサルタントの方ではなかなかよくなし得ないところではないかと考えておりまして、こういうところに先生方のアドバンテージがあるのではないかと思っております。
 先を急ぎますが、どういうふうに進めるかという話で、これまでもいろいろございましたが、私の感じでは、いきなりプロジェクトを受注するために外に飛んでいくのはやはり現実的ではないと思っております。やはり加我先生のほうでもやっていただきましたように、まず研修員をしっかり受け入れていただいて、それを現地でのワークショップ等で発展させていただくやり方が最も堅実的だと思います。それを超えて、あたかもコンサルタントがやるかのようなプロジェクトの受注をいきなり期待しても難しいであろうと思います。特に、先生方は大学を長期間離れることができないという大きな制約がございますので、そのような現実をよくよく見据えてやる必要があると思います。
 それから2つ目、私ども実施機関として大学の方に期待する場合に、どういう単位でおつき合いいただくかという問題があります。従来、一人一人の先生に一本釣り的にお願いしていた反省があって、文部科学省さんも組織的にやるべしということをプロモートされていらっしゃいますが、それに加えて、ネットワークという形で先生方におまとまりいただくのがいいのではないかという話でございます。
 加我先生がプレゼンテーションの最後のスライドでおっしゃられた、東大を中心としたネットワークはまさにその可能性を示唆していると思いますけれども、ある問題意識を持っておられる方が中心的な大学のもとに集まって力を出してくださることによって、国際協力に向けての知の活用の大きな展望が開けるのではないかと、今、加我先生のお話を伺って強く感じた次第でございます。
 2(ウ)ですが、インセンティブ・システムにつきましても、白石先生のメモにもございましたけれども、大学人とってのメリットは金銭ではなくて、やはり知的な関心への満足、あるいは人的なネットワークをつくるところ、あるいはみずからの学生さんの教育に役立つところが最も強く求められているところだと思います。そこに配慮しないシステムは決して長続きもしないし、発展もしないと考える次第でございます。
 以上、1及び2の問題意識を具現化するためにどのようなことを今思い描いているかということについて、若干ご紹介させていただきたいと思うのですが、資料の4ページに色刷りのポンチ絵を用意してございます。まず受け入れをベースとして大学のコンピタンスを生かしていただくという意味では、留学生の受け入れとか、研修員の受け入れをまず皮切りにしていただくのがよろしいかと思うのですが、それに加えて、一人一人の先生ではなく、あるいは単体の大学ではなく、ネットワーク型でそういうものにご対応いただけないかというのが、私ども、JICA(ジャイカ)内部でブレーンストーミングをしているもののコンセプトでございます。
 加我先生が先ほど例示されましたような、例えばアフガニスタンの教育に関心を持っていただくコンソーシアムをつくっていただいて、JICA(ジャイカ)と何らかのかかわりを持っていただく。活動としては本邦に受け入れる研修を中心にいたしますけれども、その過程でさまざまな教科書を整備するとか、そういう情報整備、図でいうと左側に伸びる部分をやっていただく。あるいは、日本国内の、あるいはアフガニスタンとの、その他のネットワークをコンソーシアムとして発展させ、メンテナンスすることがもし可能であれば、それをベースにより別の活動に広がっていく可能性もあるのではないかというところでございます。
 この辺が、私どもがぜひ関係省庁のご指導、関係大学のご協力もいただきながら具現化してまいりたいと強く念じているところでございます。もし、このアイデアがよいと、ここの先生方がおっしゃってくだされば、実施機関といたしましてはこのような方向でいろいろと可能性を探ってまいりたいと思います。
 どうもありがとうございました。

自由討議

【木村座長】
 ありがとうございました。ネットワークづくりの重要性を強調していただきました。
 今日は大変手短にご発表を賜りましたので、時間が大分残っております。特にどのプレゼンテーションということを特定いたしませんが、どういう見地からでも結構でございますので、ご意見、あるいはご質問を賜ればと思います。なお、今日はプレゼンテーションをしていただいた先生方にも議論にお加わりいただきたいと思います。よろしくお願いします。いかがでございましょうか。どれからでも結構でございますが、ご質問等がございましたらお願いしたいと思います。
 前回からご意見が出ておりますが、やはりこういう協力が研究に結びつかないとなかなか全学的な雰囲気づくりができないのではないかと思っております。その点、今日、東大、それから牟田さんのプレゼンテーションでも、その辺のことを大変はっきりとおっしゃっていただいてよかったと思います。いかがでしょうか。どなたからでも結構ですが。どうぞ、荒木さん。

【荒木委員】
 文部科学省の中でも、ほかの領域で、最近、国際協力に関するニーズ対応型の地域研究というものを、もうオープンにしてそれを公募していますが、例えば中身が日本ないしは日本人に関する研究ということで、我々はアジアの中の日本とかよく言うのですけれども、アジアが日本をどう見ているかということについてはあまり研究していない。そういう流れの中で我々が国際協力をやっているのですけれども、果たして効果的な国際協力をやったのだろうか、つまり相手のほんとうの日本に対する期待値をわからずにやってきたのではないか。いろいろな分野において、それは研究の対象になるのではないかということを、一つ掲げたわけです。つまり、こういう研究が文部科学省の中でもだんだんと広がってきているので、もっと大胆なことを言いますと、長い間、国際協力においては国際開発、あるいは戦略研究所という発想で、産官学という言葉がありますけれども、やはり現場と政策と学問が一体となって、かなり実行可能な、実施可能な研究に結びつくようなものもやっていこうではないかという話が出てから20年ぐらいを経ているものの、そうした知的インフラ整備がうまくいかなかった。
 ご存じのように、対外的には非常に気前よくODAは供与していくのですけれども、国内で、つまり協力する側の人材の育成についてあまり議論せずに、相手の国の人材育成についていろいろ議論することが多かったので、こういう契機をとらえて、ぜひ大学の研究というものがやはりこの世界でもうちょっと現実性を帯びて現場とリンケージするような仕組みづくり、財源を張りつける必要があるのではないかと、今聞きながらつくづく思った次第でございます。

【木村座長】
 今の点は非常に大事な点ですね。私もそこのところが欠けていると思っています。
 弓削さん、どうぞ。

【弓削委員】
 前回2回いなかったので、もう既に議論された点かもしれないのですが、荒木さんがおっしゃった点は非常に重要だと思います。また、プレゼンテーションの中でも日本からのメッセージの発信ということが出ていました。今日、審議する3つのポイントの中の一番目の、「国際協力分野において大学が担うことが適当な役割」には、いろいろな範囲のものが含まれますが、プロジェクトや研究、留学生についてはすでにいろいろとご議論されたと思います。一番マクロな視点から見ると、国際社会での開発援助の潮流という、援助の方向性とか議論がどういう方向に動くかというところでの日本からの発信と、知的なインプットがもっと強く出てもいいのではないかと感じております。欧米のシンクタンクや大学などはかなりいろいろな意見・提言を出しています。もちろん日本も政策面では外務省をはじめとしていろいろな方や組織がなさっていますが、ここの部分で、世界を引っ張っていくという形での日本の政策面での提言がもっとあればいいと思っておりますので、このためにどうしたらいいかということが1点目でございます。
 先ほど、産官学という話がありましたけれども、これもやはりオールジャパンでやらなくてはいけないことですので、その中での大学の役割をどういうふうに高めるか。これと関連して、全体の国際援助の潮流ということだけでなく、その一部として援助の理念の形成のところでの大学の参加も、もっと積極的にできる余地があるのではないかと感じます。例えば、人間の安全保障については、UNDPが1994年に人間開発報告書の中でこの概念を紹介した後は、日本が非常に活発に世界にこの概念を広めていきましたし、今は日本のODAの中心的な概念にもなっております。日本の大学でもこのテーマについての研究が進められていて、日本が人間の安全保障ということに関しては世界でリーダーシップをとっていて、存在感も随分アピールしているという、非常にいい例だと思うのです。
 このような形で、国際協力分野のほかの概念や援助手段を、日本がリーダーとなって引っ張っていくことがもっと行われてもいいと思います。例えばUNDPは、人間開発報告書を1990年から発行しておりまして、その作成に当たっては、日本の大学の研究者や専門家からのご意見をいただきました。最近、中央アジア人間開発報告書が執筆されましたが、その作成においては、大学の方ではなかったのですが、日本人の方がアドバイザリー・グループのメンバーとなりました。そして報告書作成に知的なインプットをされて、国際社会に感謝されたということもありますので、そのような形で世界の開発の動きや概念づくりにより積極的に参加して、もっと影響していく必要性というのが第2点目でございます。
 それから第3点は、途上国の大学、研究機関、NGOとの協力を通じて、日本がどのように南南協力を推進していけるかということです。最近アフリカを含め、最貧国への援助に力が入れられていて、アジア・アフリカ協力の推進は日本がリーダーシップをとってアフリカ開発会議(TICAD)の枠内で進めていらっしゃいます。そこでの南南協力、つまり途上国と途上国の協力という中で、日本の大学と途上国の大学が協力して、最貧国の大学、または教育制度や事業を支援するというところでももう少し広げていく余地があるのではないかということを感じております。
 今まで日本が援助してきた途上国の多くの教育機関や大学は、今までは被援助国の援助の対象としての大学であったわけですが、今度は南の援助国・機関として日本と一緒に組んで、連携して、ほかの途上国を支援していくことができます。日本は今まで援助していた途上国の大学との広いネットワークがあるわけですから、連携の内容を変えて、それらの大学がドナーとして―最近エマージングドナー、新興援助国ということで、タイ、マレーシア、シンガポールですとか、中国、韓国がどんどん援助を受ける側から援助する側に回っていますので―そういう国々でのネットワークをどういうふうに生かしていくかということも、いろいろな可能性がこれから期待される部分ではないかと感じましたので、ちょっとコメントさせていただきました。

【木村座長】
 ありがとうございました。
 ほかにございませんでしょうか。廣里さん。

【廣里委員】
 少し具体的なコメントになるかと思いますが、牟田先生から知の活用例として、拠点システム事業についてご報告いただいた中で、拠点システムの構築と今後の方向性として、成果、アウトカム、それからインパクトの段階まで見据えた貴重なご指摘をいただいたと思います。
 ところが、その段階まで到達できるには時間的なラグが出てくるということがあります。そうしますと、将来、援助思潮も変化していくでしょうし、そもそも途上国の教育改革全体の方向性という点で、例えば基礎教育とポストベーシック教育の発展バランスをどうするかとか、それから主な教育開発の政策課題もいろいろあり、分権化とか市場化の流れの中で教育行財政をどうしていくとか、カリキュラム改革とか、教員養成といった様々な将来的なことを見据えての、拠点システムの再構築が必要ではないかと考えております。今は個々の拠点システムで成果を積み上げてこられていますが、今後、全体としての方向性について、既にご指摘いただいたようなプログラム化を目指すこと、あるいは方向性をどのように明確にしていくかに加えて、途上国や内外の援助機関との戦略的な広報とか、あるいは国際協力研究として具体的に実施することは非常に同意するところです。より具体的に、例えば2015年までのMDGsとかEFAの目標達成と、それからグローバル化の中で知識経済社会化に対応するために援助機関や途上国は教育開発戦略の再構築をやっており、既存の拠点システムの内容が果たして将来の途上国の教育改革ニーズに合致したものなのかどうか、もし既存の拠点システムの内容を加工するのであれば、新たにどういった分野とか内容が相応しいのかということで、もしご示唆を賜れれば非常にありがたいと思っています。

【木村座長】
 どうですか、牟田先生。最初の質問はお答えが非常に難しいと思いますが。

【牟田教授】
 最初に言いましたように、日本の教育経験はすばらしい歴史があるわけですから、それを体系化してみようということで始まった拠点システム構築事業は、それなりの成果はあったと思うのですが、それなりしかなかったというところだと思うのです。それをどうしようかということで、先生が今ご指摘になったようなことなのですけれども、1つはそこの中で出てきた成果を実際に試してみるというプロジェクトが幾つか立ち上げられないかということで、今日はそれを中心にお話ししたわけです。もちろん、既にできた拠点をすべてそのまま生かすということではないだろうと思います。文部科学省の中でどういうふうにお考えかということにもよるのですけれども、私個人的には全部を使う必要は全然ないわけで、3年間やってみたけれども、このプロジェクトはもうここまでで発展しないというのもあるのです。資料をつくっておしまいという拠点のプロジェクトも正直ございました。それから、これであれば、ちょっとこのままでは使えないけれども、実際に小さなプロジェクトをやってみて、ほんとうに使えるということであればそれを今度はJICA(ジャイカ)のほうに移していくということが可能なものもあると思うのです。
 私が国際協力の中の研究の面ということを申し上げたのですけれども、文部科学省がやることはODAそのものではないわけです。それはJICA(ジャイカ)とかJBIC(ジェイビック)という実施機関がなさっているわけで、それをサポートすることはできますけれども、独自に新たなODAを文部科学省がやるべきだということは、私は全然思っていないわけです。ただ、今の、例えば拠点システムでつくったような成果と実際の実務との間には大分差がある。この差を研究ということで少し埋められないか。そこまでは、私は大学の研究としてやっていけるのではないかと思うのです。
 そこから先は、例えばJICA(ジャイカ)やJBIC(ジェイビック)だって研究の部門も持っておいでになるわけで、研究をされていないわけではないのです。ですから、そこはお互いに、大学人も研究するし、実施機関も研究はされている中で、あと規模の問題もあるわけで、拠点システム構築事業の持っている予算規模から考えれば、何でもかんでもができるわけでは決してないということです。そこで、加藤さんがご提案になったように、国際協力のCOEのような巨大なものを考えていただければ、今、廣里先生がおっしゃったようなことで非常におもしろい、拠点システムでやったような小さいものではなくて、非常に大きな、それこそCOE並みの新しい拠点ができるのではないかと感じております。
 ただ現実的な問題として、今の拠点システム構築事業が来年度得た予算の規模からいえば、私が申し上げたようなことがせいぜいで、廣里先生がお考えのようなことであれば、加藤さんがご提案になったような新たなCOEを、例えばここの懇談会の結論としてこういうものをつくりましょうということで、それこそ1件1億というものが10ぐらい、これを5年ぐらいやってみようではないかということであれば、私は十分可能な話だと思います。それは今の拠点システム構築事業とはちょっと違う性質のものになるのではないかとは思っております。

【木村座長】
 ありがとうございました。
 ほかにございませんでしょうか。どうぞ。

【荒木委員】
 今、牟田さんから話があったのですけれども、拠点システムについては最初から私も関係していまして、最初のときの論点としては、これを文部科学省単独でやるのか、あるいは一種のコンソーシアムというか、ある意味において、とにかく経験をアーカイブにしておくのはそれで重要なのだけれども、やはり使われなかったらしようがない。どうやって使っていくかとなると、やはり実施機関、JICA(ジャイカ)等との連携を深めて、一種のJICA(ジャイカ)-文部科学省のグループと大学とのコンソーシアムを形成して、実際に使える形の研究を進めていったらいいのではないか。
 そうすると、積み上がってきた拠点システムの中のいろいろな経験とかをもう少しあぶり出して、何が問題であるか。逆に日本における経験をまとめるときの1つのまとめ方についてもいろいろと参考になるのではないかという議論があったのですけれども、それはさりながら、とりあえず日本の経験のデータをまとめようということだけに終始してきたわけなので、これは次の課題だという話に実はそのときはなったのです。一番最初に僕は問題提起したのですけれども、そういうことのようでした。

【木村座長】
 ありがとうございました。
 千野さん、どうぞ。

【千野委員】
 東大の加我先生のお話を大変興味深く伺わせていただきました。それから派生的に1つ教えていただければと思ったことがあります。
 日本はアフガニスタンの復興支援を、当初から大変目に見える形でいろいろな分野でやってきたと思います。この医学教育もそうだったと思うのですけれども、アフガニスタンにおいてほかの援助国が医療の分野で東大と競合するような形とか、あるいは全然違う形で行われているのか、その辺の他国との比較をちょっと教えていただければと思います。

【加我センター長】
 医療協力というものは各国も熱心に行っています。日本からも結核の予防とか、周産期予防と。我々が行っているのは医学教育の協力であって、医療そのものをやるわけではありません。文部科学省の文部科学省たるゆえんというか、教育を協力しているということです。それが他国との競合でいいますと、国を挙げて協力しているところはありませんが、アメリカのロマリンダ大学とか、ドイツはミュンヘン大学とであったと思います。単独の大学として協力しているところがありますが、それは1つの事業を受け持つということ、あるいは言葉が悪いですが、参加することに、自分の大学の旗を揚げるために行っている感じで、我々のようにある程度の時間的スパンを持って教員を育て、そしてアフガニスタンにおいてアフガニスタンが必要とする医者を育てるシステムをつくろうとしてやっているところは他になく競合ではありません。

【木村座長】
 ありがとうございました。
 ほかに。どうぞ、工藤さん。

【工藤(高)委員】
 いろいろと貴重なお話を牟田先生から、そして加我先生から伺い、それに対し若干コメントを述べさせて頂きます。まず、牟田先生の話を聞いて思ったのは、最後に結論として書いていますけれども、日本の大学は国際協力に対して、現状は先生方のあくまでもボランタリーであるので、それを大学の仕事として制度的に認知させたいと述べています。本当に遅れているな、こんなにグローバリゼーションが進んでいるのに、国際化が一番おくれているのは大学なのかと思いました。先ほど弓削さんも言ったように、やはり日本からメッセージを発信する必要がある。援助の理念の発信でも構わないし、むしろ日本はこれだけ援助を行い、円借款というすばらしいツールがあり、それによって、世界銀行もリポートで称賛した東アジアの奇跡があったわけでしょうから、ODAについてもっと日本の考えを、日本のメッセージを出す必要がある。その点で大学の先生方の役割も大きい。もう少し大学の先生方がボランタリーではない形で知的貢献できるようにしてほしいと思います。大学の先生が国際協力の目的で海外に出て、例えばリーブ制があるかどうかわかりませんけれども、1年でも半年でも先生が海外に出かけられるように大学が変わってほしい、国際化してほしいと思いました。
 それから、加我先生の東大のアフガニスタンにおけるプロジェクトの話を聞いて、一言申しあげれば、これまでの医療分野でのODAというのは、機材の供与が中心であったと思います。医療施設をどんと供与して、それでおしまい。場合によっては、技術協力で、機材の使い方を教えるだけにとどまっていた。つまり、ハード中心のODAだったと思うのです。これからはソフトが重要で、東大のプロジェクトはその先駆けになるかもしれません。先ほど写真を見せていただいて、説明ではひどい手術室だとおっしゃいましたけれども、しかし彼らには東大にある医療施設を供与したとしても使えませんよね。ですから、彼らのレベルに合った医療器具が求められる。つまり、その国の医師が使えなければ無駄に終わるのでしょうから。これからの援助は、機材だけではなくて、ソフトの面での協力も重要だと思いました。ですから、先ほど加藤さんがおっしゃった、JICA(ジャイカ)が絡んだ形でいろいろな機材の供与も、大学の先生方の協力を得ながら、無償そして技術協力、あるいは場合によっては円借款も絡ませていく必要がある。それは文部科学省の話、外務省、JICA(ジャイカ)の話ではなくて、トータルとして日本がその国に対してどのような協力をしていくかということに結びつくと思います。

【木村座長】
 ありがとうございました。
 ほかにございませんでしょうか。どうぞ、片山さん。

【片山委員】
 私も拠点システムの運営委員で、牟田先生と一緒にずっとやってきて、1つの事業、大学とNGOの連携という1つのテーマがありまして、それをやってきました。そのときに、大学の先生方に、大学はほんとうにこういうことをやりたいのですかと正直に伺ったことがあるのです。そのお答えは、やりたい人もいるし、そうでもない人もいるというので、個々の大学によっても違うのですというお話でした。
 今、私たちはぜひ日本の知的な分野で国際的に貢献したいし、大学はそのために非常に有効だと考えて、NGOも大学と連携したいし、大学ももっとネットワークを組んで貢献していくように進めていきたいと思っているけれども、実は一番中心の先生方がどう思っていらっしゃるか、どういうふうに取り組んでいらっしゃるかという意識といいましょうか、意思といいましょうか、その辺がかなり根本の問題としてあるのではないかというのが正直な感想です。
 先ほど、牟田先生の最後のところで、やはりボランティアではなくて仕事とするとか、あるいは制度的な改善が必要だとか、それからインセンティブ、特に身分的なものとかが必要だというのはほんとうにそうなのですけれども、こういうものを整えていくことができればおのずと大学がこういうことに進んでいくのか、あるいは大学間のネットワーク化がどんどん進んでいくのかというところが、鍵といいましょうか。そういう先生もいらっしゃるし、あまりそういう意識のない先生もいらっしゃるのであれば、その辺の全体的な意識改革をどうしていくかというのも優先的な課題ではないのかというのが、正直な気持ちです。
 願いとしては、やはりもっと大学が積極的にかかわり、かつコンソーシアムを組むというところまでいけばいいのかもしれませんけれども、お互いの持っている得意分野が大学によって違っていますので、そういうものを分かち合うような情報交流のシステムがもっと進んでいくことができればいいと思います。多分それは拠点システムの次の段階でやるような感じを持っています。

【木村座長】
 牟田さん、何かコメントはありますか。

【牟田教授】
 拠点システムは3年間やったわけですけれども、はっきり言ってしまいますと、いろいろなところにお願いしたわけですが、すべて随意契約なのです。つまり、言い方が悪いかもしれませんけれども、面倒な仕事をお願いするということで、お願いできそうなところに何とかやってくださいという形だったのです。私の主張は、この次、来年度以降についてはそういうのをやめて、全部公募型にする、それからネーミングもちょっと考えてくださいとお願いしているのですが、拠点システム構築事業GPとか、COEとまではいきませんけれども、何かそういうことで公募型にして、全国から手が挙がるようにしてもらえばどうかと考えています。
 国立大学は独立行政法人化しました。いろいろ問題はありますが、効率化係数がかかって財政が厳しくなったということはあるのですが、ある意味では逆に、そういう大きな外部プロジェクトに対して、みんなが手を挙げてお金をとってくるというマインドはかなり定着したのだろうと思います。そういう意味で、先ほど科研の細目というお話もしたのですけれども、国際協力ということで文部科学省のほうで政策的に予算をつけて、誘導していくことは従来よりもずっとやりやすくなりました。多くの大学で、そういう予算項目があればそこで頑張ってみようという気になってきていると思うのです。
 ですから、この次の拠点システム構築事業は従来からのデータベースの構築をやったところは継続してもらわなければいけませんから、そういうところは一部随意契約でお願いすることがあるかもしれませんけれども、それ以外は原則公募でお願いして、多くの人にこういう機会があることをわかっていただいた上で、予算をつけていく。そして、こういうものをできればもっと幅を広く、そして厚くしていただいて誘導していけば、先ほど言いましたような学内の認知についてもやはりGPに手を挙げて、そこで予算をとってきた人は、今は学内での認知度も随分違うのです。そういうことで、私は独法化をしてよかった面もあると思いますので、これからはこれまでとはやはり大分違うのではないかという期待はしております。

【木村座長】
 ありがとうございました。
 ほかに。

【加藤部長(JICA(ジャイカ))】
 幾つかございます。
 最初に、荒木さんがおっしゃった人材とインセンティブの話に関連して一言申し上げたいのですが、国際協力に必要な人材というのはどういう人だろうかと考えますと、国際協力をなりわいとする人が要るということでは必ずしもないと思うのです。ちょっと誤解を恐れずに申し上げますと、日本でほんとうに一流と言われる方が援助をなりわいとしている事例はあまり多くはなくて、実際にいい仕事をして途上国に喜ばれたというのは、まさに先生方のようにそれぞれの実践で活躍されている方が国際協力に携わってくださったことによって生まれているわけなのです。したがって、国際協力の人材というのは国際協力をなりわいとする人を育てることではなくて、まさにそれぞれの道で一線を張っていらっしゃる方が国際協力に入りやすいインセンティブ・システムをつくることが、本質であると思っております。
 それから、第2点の私のポイントですが、先ほど弓削さんがおっしゃったことのフォローなのですが、日本が援助の国際的なコミュニティで存在感が必ずしもなくて、発信が弱かったというのは、そのとおりだと思います。それは2つの領域があって、ちょっとテクニカルになりますが、ワシントンコンセンサス云々かんぬんという援助のあり方についての議論と、それから国が開発される、発展するというのはどういうことかという、もう一つ下がった次元の議論があります。この二つ目の点に関して、どういう国の成り立ちがいいのか、どういう国の発展の仕方がいいのかという価値観は、おそらく欧米と日本とでは違うだろうと思うのです。そこに、日本はこういう発展をしてきたということを世界に発信する、途上国に発信することによって、それが間接的に欧米にも発信されることが、日本の国際協力のほんとうの意味だと思っております。そういうことに必ずしも外務省さん、文部科学省さん、あるいはJICA(ジャイカ)のような実施機関も含めて、十分熱心ではなかったところはおそらく反省すべきだと思います。過去10年間、世界最大のODA大国であったときにこそそれをやるべきだったのですが、それがもしできていなかったとすれば、これからもう一度頑張ってやる意味があるのではないかという点です。
 それから、先ほど、工藤さんの医療協力は機材中心という話がありました。今は必ずしもそうではないと思います。かつては病院プロジェクトが花盛りでしたけれども、今では病院プロジェクトはかなり減ってきていまして、むしろソフト型になってきていると思います。
 ただ、やはり日本に対して、ハイテク、先進的な技術に対する期待が高いのも事実でございまして、それを例えば東大で教えてくださるというのは1つの日本の魅力です。だけど、それではなくて、例えば30年前までは日本にも回虫がいっぱいあったということも含めて、しかし日本はそれをどのように克服して、開発してきたのかということをあわせて、日本は示せる。そこに日本の強みがあるのではないかと思います。
 ですから、私の第2点で申し上げたいことは、開発のあり方というもの、あるいは国のあり方ということで日本の発信できるものが多々ある。医療技術、インフラ重視の意味、社会保障、平等な、社会格差の比較的少ない社会の貢献ということについて、日本は発信すべき価値と、大げさに言うと世界史的な責務を負っているのではないかと考えております。
 失礼いたしました。

【木村座長】
 ありがとうございました。
 東大のケースで、医学教育ということで国際教育協力をされているのですが、聞くところによりますと、最近、日本の中でも医学教育は随分盛んになったようですね。これは東大の中で閉じた形でおやりになっているのですか。私の友人で女子医大に神津君というのがいましたけれども、神津君はかなり医学教育のほうにのめり込んでやっているようですね。ああいう人たちのノウハウも入っているというか、協力を仰いでいると考えてよろしいのですか。

【加我センター長】
 そうです。アフガニスタン・カブール医科大学から教授、助教授、講師の6名の研修生がこれまで2度にわたって来られましたが、1カ月の研修の中にそういうものが入っています。
 日本の医学教育が最近盛んとおっしゃられるのは、これまでが伝統的なドイツ医学教育に根差してどこの大学もやっていたのが、それでは現代に対応できないということで、どちらかというと米国型の問題解決型とか、昔でいうインターンにより近い実習を学生のうちにさせるというのが、実は盛んになっているということなのです。
 我々の場合は、そのような動きをアフガニスタンの先生方に教えると同時に、もっと基本的な、例えばカリキュラムのつくり方というのはどういうことに根差して行うとか、評価というのはどのようにして行うということを研修してもらっています。最近はやりの医学教育よりも、もっと地道に根本からやっております。
 先ほど、医療機器のことでご指摘がありましたが、全くそのとおりでして、現地も見ないでいい機器を送るのに近いことをされてきたのではないかと思います。医師の中のあるグループは、病院が倒産すると機器を全部安く買って、後進国に送るという事業をしているところがあります。しかし、それも人がついていかない限りは送ったとしても使われずに、ただあるだけだろうと思うのです。アフガニスタンの場合、電気があまりないのですから、機器が動かないことが頻繁です。先生が言われるように、現実に応じていろいろな工夫があり得ると思います。
 それから、私が1つ強調したいことがあります。先ほど千野先生からほかの国と言われました。おそらくJICA(ジャイカ)の加藤先生は、発展途上国には特に米国、それからドイツ、フランス、スイスというところから医学生がボランティアで来ているのに随分出会ったのではないかと思います。日本の医学生にはめったに出会うことはなかったのではないかと思います。
 これはどういうことかというと、特に米国の場合は医学を目指そうとすると、まず4年制の学校を1つ卒業する必要があります。その後、受験し、医学部に入る。各医学部はたとえば、ハーバードとか、ジョンズホプキンズとかははっきり、自分の大学はこういう人材が欲しいとうたっているのです。我が国は、国立大学は特にうたっているというわけではありません。こういう人材を求めるというときに、面接時間を1時間以上、一人一人行うのです。それから、応募者の履歴書等を見て評価します。その中で極めて重要なものの1つは発展途上国でどのような経験をしたかということがあります。
 例えば私の非常に親しい、昨年ハーバードの医学部を出たある女の先生は、ハーバードの経済を一番で卒業し、奨学金が出ました。そのお金を使ってどこへ行ったかというとアフリカなのです。アフリカのエイズ多発地帯に行きまして、半年ボランティアの経験をしたのです。その経験は医学部に入るのには極めて有効な評価項目だったのです。彼女は、ハーバードの医学の学生のときに、今度は中南米にも実習に自分の希望で行きました。今後ヒスパニックの人たちを診なければいけないと思うのでヒスパニックの文化と言葉を経験するためです。このように、学生に、ほんとうに医者になりたいのであれば過去のそういう経験が極めていい評価項目になるということで、随分行っています。それからヨーロッパの場合は、また大学でいろいろな方針があって行きやすいように工夫しています。そういう経験を学生のうちにすれば、進学もよりしやすいようになると考えています。
 日本は今までそういうことがなかなかできなかったのは、ドイツ型の教育で、もう朝から晩までびっしり講義と実習があったわけです。今やっと欧米型の教育を東大でもやるようになりまして、学生は最終学年の1つ前の学年に対して、1月から3月は東大病院で実習してもいいし、欧米、発展途上国、どこで実習してもいいようにしたのです。そうしたら、私はみんなアメリカに行くのかと思ったら、全然そうでなかったのです。アフリカに行く学生、タイに行く学生というふうに途上国で学ぼうとする動きがある。学生に自由を与えることによって、教育が変貌しつつあるように思います。
 今、1つ、我々にとって差し迫った問題はそういう費用なのです。アフリカに行くならどうするか、援助できるかというと、今のところそういうお金は用意できません。何か公募制で奨学金でもあると随分、今後の人材養成にいい効果があるのではないかと思います。もし学生のうちからあればきっと良い結果につながります。
 以上です。

【木村座長】
 どうぞ、荒木さん。

【荒木委員】
 加我先生、いろいろとアフガニスタンで教育をされて、私の1つの問題提起なのですけれども、教育した人たちをどういうふうにフォローアップしていくのか。我が国の場合のいろいろな研修にしても大量生産方式でやっている傾向が今までありましたけれども、やはり質を重んじて、かなり重点的に人材のネットワークをやっていくためには、相当緻密なフォローアップが必要だと思うのです。先生、それはどういうふうにお考えでしょうか。

【北村教授】
 かわってお答えさせていただきます。フォローアップは我々が評価のために毎年、私、あるいは助教授の武田、講師の大西等が行って評価するというのが短期的なものです。それから、このプロジェクトの終局的な目的として、アフガニスタンの僻地医療、日本でも僻地というか、地方に医者が足りません。アフガニスタンの場合はより足りなくて、医師の過半数が首都カブールにおります。そういうところに行く医者のマインドを育てるということで、究極のアウトカムとして地方の医療がよくなることというのを、プロジェクトの終局的な目的にしてあります。地方に何人の医者がカブール医科大学、あるいは医師数として行ったかという数的な目標も置いて、これをフォローしようと思っております。
 それから、先ほどの座長のご質問ですが、このプロジェクトは加我教授からもあったように、一応オールジャパンです。医学教育学会の国際委員会とのタイアップでやっております。お名前が出たついでで、神津先生は医学教育学会の重鎮でもありますし、我々のセンターのボードの1人にも入っていただいております。そういう意味で、医学教育という業界そのものが小さいので、オールジャパンというのはつくりやすかったと思います。ただ欠点は、学会でやっても、学会に対して資金援助や何かをするというシステムは、学会そのものが中途半端な組織ですので、結局、東京大学を介して何らかをするということで、学会の人たちに対しては、簡単に言うと100パーセントボランタリーな報いになってしまっているのが現状です。

【木村座長】
 そのところなのです。北村さんからご指摘がありましたように、ボランタリーシステムだけではなかなか続かない。そこの仕組みをどうつくるかということだと思います。先ほど、牟田さんからCOEは無理だという話がありましたが、COEでもつくったらどうですか。JICA(ジャイカ)と国土交通省がやっている地震工学のトレーニングセンターは、多分40年ぐらい続いているのではないでしょうか。地震工学と地震と両方で20名ずつぐらいですが、二つのコースともこれまで800名くらいの卒業生を出しています。私、何度か事後調査に行きましたけれども、彼らは日本の2年間の教育を非常にアプリシエイトして、それを生かして、現地で活躍しています。私も15年ぐらい活動をやりましたが、あれはまさしく国際的な教育協力だと思います。非常に大きなアウトプットが出ています。この事業にはかなりの資金が出ていますが、やはりある程度資金の背景がないとうまくいかないと思います。今、牟田さんが遠慮がちにCOEは無理だとおっしゃいましたが、文部科学省もCOEとして選んでもいいのではないですか。1つか2つCOEを作ると、随分元気になるのではないかと思います。

【牟田教授】
 今でもそうですけれども、COEをつくるということであれば、例えばCOEに対して手を挙げる条件として、複数の大学が連合して申し込まなければいけないとか、いろいろな条件をつくっていけば、ネットワークもおのずとできると思うのです。1つだけではだめだ、2つ以上なければだめだ、審査の対象だということで、非常にうまいイメージがあって、それに合わせて募集をやれば、私はかなりうまくいくのではないかという気がします。

【木村座長】
 ここのところ、見ていると、もっぱらCOEは先進国対応ですが、そうでない器もぜひつくる必要があるのではないでしょうか。もちろん専門によって、そういう発展途上国援助とは全く別の分野にいる人も多いとは思いますが、発展途上国分野に関わる専門の方もたくさんいるわけですから、相当動くのではないかという気がします。
 ほかにご意見、ございませんでしょうか。どうぞ。

【廣里委員】
 今、国際協力COEという非常に大きなお話がありまして、そういった大きなお話の流れを崩さないように気をつけながら発言したいと思います。加藤さんのご報告、それから後のコメントに対する感想というか、意見でもあります。大学との連携による開発課題への知的リソース結集のための基盤整備とイメージを拝見しまして、ここで改めて感じたのは、JICA(ジャイカ)がこれまで主になさってこられた技術協力は、やはり途上国の能力開発を究極には目指しておられるものと思いました。能力開発はそもそもアメリカが60年代、もっと以前かもしれませんが、研修生の訓練プログラムを中心に始めた組織能力強化を起源にしていると思いますが、いまや考えも進化してきて、UNDPが非常に貢献している能力開発の新しい考え方は、個人とか、組織とか、社会システムまで視野に入れた能力開発を目指しております。これから日本のODAも、いろいろなモダリティとかスキームが連携していくとすれば、実施機関と大学の連携で考えますと、途上国の能力開発を進めるという文脈で何か再構築ができるのではないかと思っています。最近の援助思潮や在り方も能力開発を非常に重視している点と、先ほど少しありました議論はそもそも国の発展のあり方で、能力開発はそういったことにもつながる。
 日本はまさに戦後復興して、自立してきたプロセスの中で、技術協力をこれまで供与してきたわけですが、その再構築を能力開発という切り口でできるのではないでしょうか。実は有償資金協力は経済社会インフラ整備を主に行ってきましたが、自助努力を誘発させるということを理念にしてきたわけで、途上国の能力開発を進めるという方向性と合致するものです。ですから、技術協力だけではなくて、有償を含めたもっと大きい考え方で能力開発を捉えれば、実施機関と大学の知の連携ということが包括できるのではないかと思いました。

【木村座長】
 ありがとうございました。
 ほかにございませんでしょうか。いかがでしょう。
 やはり、1つの大学で見た場合、全部の先生にこういう意識を持ってもらうのはなかなか難しいと思います。それぞれの専門分野がありますが、しかるべき分野の先生方に完全にボランタリーベースではなくて、自分の研究にある程度結びつくような形にすれば何とかなるのではないでしょうか。そういうことからいうと、前回の名古屋、今日の東大が比較的そういうことに結びついているので、今後とも大いに発展が期待できると思います。そういう分野を発掘するためにはCOEのようなプロジェクトを仕掛けて、外から見えるようにしていくということに効果があると思います。
 いかがでしょうか、何か。どうぞ、加藤さん。

【加藤部長】
 オブザーバーでありながら申しわけございません。
 2つございまして、今ボランタリズムの話がありましたけれども、座長がおっしゃるように、ボランタリズムでは長続きしないと思うのですが、逆に私はボランタリズムが必要条件ではないですが、その「意気に感じていただく」という部分があってこそ、国際協力が生きるわけでございまして、意気に感じる部分がないのはやはりよろしくないと思います。ボランタリズムをいかに長続きさせていただくシステムをつくるかというのが実施機関であり、あるいは政府の役割ではないかと思います。
 それから、COEという話は、私は資料の最後で、文部科学省のブランドでありながら勝手に僭称させていただいて申しわけないのですけれども、JICA(ジャイカ)でもこのようなことができればいいと思いまして、資料の5ページにつけさせていただいたのですが、これは別に文部科学省さんがやってくだされば、それはそれで大変ありがたいですし、もしこういうアイデアそのものが、国際協力に関心をお持ちになる日本の大学人の皆様がサポートしてくださるのであれば、実施機関として、例えば今日は外務省の方はお見えになっていないようですが、外務省ともご相談して、これをご提案していくように持っていきたいと思っております。
 このポンチ絵は全くのご参考でございますが、以上ご紹介申し上げたいと思います。

【木村座長】
 先ほどの牟田先生のプレゼンテーションの16ページ、こういうことができればいいですね。1つの大学で、東京大学なんかことにやりやすいと思うのですが、ある方はかなりボランタリーベースになるかもしれないし、ある方はまともに研究に関係するかもしれない、こういう状況ができれば非常にいいですね。こういうものをCOEで取り上げてもらうということですね。これは非常にいいと思います。

【牟田教授】
 玉浦先生。

【木村座長】
 玉浦さんね、彼ならやりそうですね。
 よろしゅうございましょうか。大体議論も出尽くしたようでございますが、これまでのヒアリングで大体の方向が見えてきたような気がします。実際のポリシーに結びつくのかなという気もし始めました。
 それでは、少し時間が残っていますが、本日は以上としたいと思います。

6.事務連絡

 次回は、4月18日(火曜日)15時から17時、文部科学省省議室に於いて開催する。

-了-

お問合せ先

大臣官房国際課国際協力政策室

(大臣官房国際課国際協力政策室)