科学技術・イノベーション政策の展開にあたっての課題等に関する懇談会(第8回) 議事録

1.日時

平成21年6月4日(木曜日) 13時00分~15時30分

2.場所

文部科学省6F 国立教育政策研究所 第1特別会議室

3.議題

  1. 欧州の科学技術政策等について
  2. これまでの議論のとりまとめ骨子(案)について
  3. その他

4.出席者

委員

門永座長、飯塚委員、川上委員、角南委員、妹尾委員、高橋委員、長岡委員

文部科学省

泉科学技術・学術政策局長、岩瀬科学技術・学術総括官、戸渡科学技術・学術政策局政策課長、川端科学技術・学術政策局基盤政策課長、堀田科学技術・学術政策局基盤政策課企画官、近藤調査調整課長、柿田計画官、苫米地評価推進室長 ほか

5.議事録

(1)事務局からこれまでの議論のとりまとめ骨子(案)について説明があった後、質疑応答が行われた。(○:委員、●:事務局)

○ 「分析型基礎研究者」「構成型基礎研究者」の定義は何か。

● これは産業技術総合研究所の前理事長で、現在、研究科発戦略センターの吉川センター長が使っている言葉である。分析型基礎研究者とは、新発見、新法則、新理論、革新的着想を見出すことを目的に分析する研究者である。また、死の谷を越え、基礎研究を開発研究につんなげる役割を果たすのが構成型基礎研究者である。純粋な基礎研究をする者、基礎と開発をつなぐ者、開発研究をする者が一体となった研究を推進することが重要である。

○ 分析型基礎研究者の多数はアカデミーに所属しているという理解でよいか。

● 多数かどうかは別として、要するに基礎研究をやっている人、開発研究をやっている人、基礎研究を開発研究につなげる人が一体となり、同時的かつ連続的に研究開発を進めていく必要があるという意味で骨子(案)に書かせていただいた。

○ 研究者は分析型基礎研究者、構成型基礎研究者、応用研究者のどれかにカテゴライズされるという理解でよいか。

● カテゴライズすることが重要なのではなく、専門性の高い基礎研究者が開発研究に移ることは難しいので、基礎と開発をつなぐ人材が必要だという一つの考え方を示している。

○ 出口を見据えた研究開発はリスクが高く、ロードマップの設定が難しい。その結果、テーマが小粒化されてしまうのではという印象を持ったため、分析型基礎研究者について質問させていただいた。

● 1点補足すると、産学官が一体となった科学技術イノベーション政策において重要なのは、社会の未来像を産学官で共有することである。

● 基礎研究の成果をイノベーションにつなげる目的指向型基礎研究だけでなく、基礎を支える自由な発想に基づく基礎研究の両輪が必要であるため、※で書かせていただいた。

○ 産業界からただ大学にロートルな人が来て教員職に就くのではなく、産業との連携の窓口・調整機能役となる人材は重要であるが、どのような人材を必要としているのかを大学側が提示する必要がある。

○ 1点目として、産業界の研究者の中には、大学のほうがあまりにも安易な結果主義に走り、産業界にとってあまり役立たない応用研究が行われる傾向を心配している方もいる。出口を見据えた基礎研究だけでなく、革新性が高く、出口の見えない基礎研究にも目配りすることが重要である。例えば、心臓手術を可能とした先行文献の多くは、当初心臓手術を想定していなかった基礎研究であるというリサーチもある。また、出口の見えにくい研究の査定は通りにくいといった研究費の査定についての問題もあり、国際的な水準にオリジナリティのある研究を評価することが重要である。2点目として、大学の良い研究成果を使いこなせるよう、企業はサイエンスの吸収能力を強めていかなければならない。例えば、日本企業で博士号を持っている研究者の比率はアメリカの約4分の1しかいない状況であり、先端分野のサイエンスを吸収してそれを競争力に活かしていないのが実態であるため、企業自体の能力の問題も非常に重要である。

● 本懇談会では最初に現在の経済危機を乗り越えるための議論をさせていただいたので、目的型基礎研究を書かせていただいた。ただし、自由発想型基礎研究の裾野を広げることは重要であると認識しているので、そのことをどこかにしっかりと書きたい。企業のサイエンス吸収能力については追加で書かせていただく。また、先ほどの委員からの御指摘に関連して、産学官が国際トレンド等を踏まえた将来のビジョンを明確にし、それを踏まえたロードマップを作成する際のポイントとして、応用研究だけでなく基礎研究の重要性を提示したい。

○ どの種類の基礎研究が残っていくのかを最初から予測することは困難であるため、基礎研究に多様性を持たせることが重要である。「目的型」や「出口」を書きすぎると、実はイノベーションを起こすことができた自由発想型基礎研究まで捨ててしまうことになるのではないか。また、分析型研究「者」、構成型研究「者」という表現はやめたほうがよい。一人の研究者が、分析型から構成型に移行することもある。

● 基礎研究の多様性については検討させていただく。また、分析型基礎研究者と書いたほうがわかりやすいと思ったが、ここではあくまで分析型基礎研究の「機能」が重要であることを示したかった。

○ 私は日本の現状を、両翼の翼が片翼の翼で飛行しているという言い方をしたが、日本は各部門間の連携がほとんどなく、タコつぼ国家のようである。研究と産業をつなぐ部分のあらゆるところが分断されており、タコつぼ国家をどうにかしなければならない。

○ これまでの議論を網羅的にまとめることで終わるのではなく、この中で強調したいものを取り上げ、優先順位をつけられればよい。そういう観点で考えると、これまでの議論の中でいくつキーワードがある。例えば、死の谷を越えるためにどのような仕組みが必要か。さらっと「死の谷を越える研究者」、「死の谷を越えるための開発施策支援」と書くのではなく、死の谷を越えるために民間、公的研究機関、政府はどのように努力していかなければならないか、また、死の谷を越えるために他国はどのような工夫をしているかについてお話いただいたことを踏まえ、もう少し深く書いたほうがよい。「出口論議」についても「出口を見据えた基礎研究の推進」だけでは具体性に欠けるので、出口をどう定義づけるかが重要となる。規制先導型の出口、目の前の課題を解決するための出口など、多様な出口は具体的に何種類あり、どう使い分けるかを伝える必要がある。また、投資についてはハードウエア重視から人材を含むソフトウエアへシフトすることも重要である。

● ポイントの優先順位づけ、また死の谷、出口、人材の3つに絞り、それを課題として整理し直すことができるかについて議論していきたいと思う。

○ 3つに絞るという意味ではなく、例えば日本が不得意とする共同作業型のオープン・イノベーションの話など、他にも重要な要素はある。

● 何をするかではなく、何の対応をするのかという課題の整理について検討していきたい。

● 今年の科学技術白書で、イノベーションのためには基礎研究に対する投資が重要であることを書かせていただき、また、第1回基本計画特別委員会でもそのような議論があった。今年は科学研究費補助金が2%ほど伸びたが、大学の経常研究費になる私学助成や国立大学法人運営費交付金はどんどん減らされている。そういう状況を打開していくためにも基礎が重要であることをうまく論理立てして説明しなければならない。科学技術基本計画でも自由発想研究は重要視されているが、「一定規模確保する」としか書かれておらず、それを超えるロジックが必要である。そこで、これまでご議論されてきたように、主に基礎研究を担う大学が浅薄で安易に成果主義に走るのではなく、厚みとバラエティーを持った基礎研究を進めなければならない。また、企業はサイエンスを吸収する能力が必要であるという点も踏まえ整理していきたい。

 経済危機の深刻化等への対応を考えると出口の話は重要であるが、経済危機を乗り越えた後に備えて何をすべきかを念頭に置く必要がある。日本は5年後には経済危機を乗り越えるだろうという議論もあるが、今後留意すべきトレンドとして経済情勢以外に何があるのか、また、経済情勢だけでなく国際政治情勢や、ポスドク問題、産学の人材育成と需給のマッチングに対する人材政策についての議論を織り交ぜられるとよい。

○ 昨年、私はがんだけでなく炎症疾患など応用のきくハイブリッドペプチドを発明したが、研究費の申請をしようとしても細目が無いため、既存の細目に無理やりあてはめるしかなかった。細目の在り方は人の研究を誘導するものだと痛感した。新しい自由発想研究を決められた枠以上にやらなければならないというお話があったが、ファンドの枠を考え直すことが必要なのではないか。

● それは、基礎研究費や科学研究費補助金を増やすためにどのようなステートメントを発すればよいかという話に関係している。例えば、新しい学問領域を開拓できるようなジャンルを設け、それに対応可能な審査体制を構築する必要があるのではないかという問題に直面していると感じている。その方策として、既存の細目をさらに細分化するのではなく、細目の拡大につなげるにはどのようなステートメントを発すればよいかを考えなければならない。

○ はっきりとしていない学際領域については、独自の軸だけで評価しても良いのではないか。文部科学省の事業で、当初事業趣旨はきちんと書かれているにもかかわらず、審査の段階になると矮小化された目標で評価されてしまうことがある。オープン・イノベーションの最初のステップでは、専門家を信じてチャレンジするのがあっても良いのではないか。それがきちんとできれば、源泉の多様性を担保しつつ、出口を見据えたパイプラインを通していくシステムになるのではないか。

○ ファンドが科学研究費補助金しかないのも問題である。米国では多様な制度があり、研究者には何度もアプライするチャンスがある。

 先日、あるワークショップで、『OPEN INNOVATION』の著者ヘンリー・チェスブロウ氏が、じょうろを例にオープン・イノベーションのメカニズムを説明していた。入口には可能性を有する多様な基礎研究があり、出口までの過程で外へ出ていく基礎研究もあれば外から入ってくる基礎研究もある。つまり、内外の基礎研究を選択しながら実用化に近づけることがオープン・イノベーションのメカニズムであると。

○ 業種によるが、民間企業の場合でも基礎研究の一定量を自由にやらせている。しかし、何をやっているのかを明確にし、決してブラックボックス化させないことが必要である。研究者には説明責任があり、自分たちの研究に出口があるか、あるいは今は出口を求められていないが、出口を見出すことができるか等を考える仕組みがあると、基礎研究の活性化や研究者の士気の向上につながる。

 これはシンガポールの元首相リー・クアンユーが言っていたことであるが、中国とインドが眠っている間に日本や韓国、シンガポールが発展しただけであり、各国が同時にスタートしていたら中国やインドに負けていただろう。つまり、国力というのは人口比例な部分があることを留意しておく必要がある。

 また、オープン・イノベーションに参加するのであれば、もっと英語を勉強するべきである。

○ 日本は科学技術大国であるが、科学技術立国はできていない。科学技術大国であり続ける政策をするのか、それとも科学技術大国を科学技術立国へ持ち込む政策をするのかがポイントとなる。科学技術立国に持ち込むには、まず競争力モデルが変わっていることに気付かなければならない。70年代、80年代のインプルーブメントモデルからイノベーションモデルに変わり、なおかつ「イノベーション=インベンション」から「イノベーション=インベンション×ディフュージョン」に変わったように、イノベーションモデル自身も変わっている。しかしながら、そのために、現在のイノベーションモデルは企業の話であり、国家政策の話でないと言われてしまうように、マクロの話(国家の政策)とミクロの話(企業の事業戦略)が乖離し始めた。これが問題なのではないか。

 また、インベンションの段階において脱自前主義を進めることをオープン・イノベーションと呼ぶ人がいる一方で、インベンションしたものをオープンにしてディフュージョンさせるビジネスモデルをオープン・イノベーションと呼ぶ人がいる。オープン・イノベーションという言葉の意味を一度整理するべきである。

 現在のイノベーションモデルを実践できる人材をどう育成するかが重要である。経済産業省や文部科学省でもMOT教育が進められてきたが、現在のイノベーションモデルに対応するためには、MOT自体のイノベーションを起こさなければならないだろう。骨子(案)の2ページ目(6)に「製品開発、知的財産・標準化戦略、ビジネスモデルを一体的に推進できるイノベーションマネジメント(MOT)人材の育成(企業経営経験者の活用等を含む)」と書かれているが、企業経営経験者を再教育して活用するならともかく、これまで失敗してきた企業経営経験者を活用するだけなら失敗を繰り返すだろう。ここは事業系の人材を入れることを意味しているのだと思うが、誤解を招く恐れがあるので書きぶりを工夫したほうがよい。

 ここまで総論をお話したが、各論としては第1章「1.世界経済の変化」の(3)に「水平分業等が進む分野では、製品開発、知財・標準戦略、ビジネスモデルの三位一体が必要」と書いてあるが、水平分業等が進む分野以外はやらなくていいように読める。垂直統合で

あり続けることは不可能であるため、現在、水平分業以外の分野でも、将来を見越して三位一体経営を進化させる必要がある。

 「4.日本の現状と課題」の(2)で、「部品・素材・製造装置のシェアは高い」「部品・素材・製造装置は強い」と書いてあるが、強いとは何を意味するのか。シェアが高ければ強いというのではなく、例えばインテルのように、ある程度シェアが高く、かつ収益性があり、部材として完成品を従属させるという位置を占めたとき、始めて「強い」と言えるのではないか。書きぶりを工夫すべきである。また、アップル・アウトサイドでiPodの部材のほとんどを日本が製造しているが、収益の半分以上をアップルが取っている。しかも、iPod nanoに関しては部材のほとんどを台湾メーカーに取られ、日本は中身さえ作れなくなっていることも認識すべきである。(3)で、「サービス業は生産性等に課題」とあるが、生産性だけでなく新しいサービスそのものを作れない点も課題である。さらに、「→サイエンスの製品開発への活用の促進、これらに関する研究開発の必要性」と表現すると、サービス・サイエンスによるサービスの生産性向上を示しているのか、それともサイエンスベースのサービスを示しているのかがわからない。

 イノベーションにおける出口のイメージを描くことは重要であるが、基礎研究の出口はイメージにとどめ、事業計画として縛ってはいけない。第Ⅱ章「3.我が国の研究開発システムの現状と課題」の(6)「→基礎科学力の強化、最終的な利用の姿も視野に入れた出口を見据えた基礎研究の展開に課題」という表現では、基礎研究を計画化するよう意味が取り違えられる可能性がある。

 第Ⅲ章の「背景」と「課題」が混在しているので整理すべきである。「我が国の強みと弱み」については、強みをより強くする戦略は何か、弱みとならないようヘッジをかける戦略は何かまで書かないとSWOT分析とは言わない。強み、弱みに分類することが本分析の本質ではなく、強みをどのように強くするか、弱みをどのようにして弱みとしないか、機会をどのように利用するか、脅威をどのように除去するか等々を考えるきっかけとして思考を整理するのがSWOT分析の役目である。例えば、脅威と見える状況のまま進み、その結果として我が国の特徴が弱みであった場合にどうすべきか、という書きぶりにしていただきたい。強み、弱みを起点として考察を深め、政策形成の背後の基盤自体を研究する段階に来ている。

 

(2)小川先生から欧州の科学技術政策等について説明があった後、質疑応答が行われた。(○:委員、●:説明者、◎:事務局)

○ 米国はアジアと組んで地域分業、国際分業を成功させたように、オープン・イノベーションで重要なのは水平分業であると考えるが、欧州のエレクトロニクス産業はそれほど勝てていないように思える。1984年のFramework Programに象徴されるように、日本よりも先んじてオープン化に向けた動きがあったが、エレクトロニクス産業において日本と大差はないのではないか。

● データはお見せしていないが、横軸に研究開発投資、縦軸に営業利益をとると、2007年の全産業を合計した欧州の研究投資効率は日本のそれとほぼ同等である。しかし、2005年頃までのデータでは、欧州の研究投資効率が全体として日本よりも低かった。東ヨーロッパ諸国を統合した影響が出ていたのである。Framework Programを活用した人的交流、オープン化により、研究投資効率の伸び著しく、投資効率の絶対値が日本や米国並みとなった。日本の産業の研究投資効率は、全体として非常に高い。しかしエレクトロニクス産業や半導体産業など、オープンな国際分業が急速に進む産業では研究開発の投資効率は非常に悪い。そこで、例えばエレクトロニクスを捨てればいいという意見もあるが、エレクトロニクス産業でおきたオープン国際分業構造が他の産業へも急速に広がっている。例えば、電気自動車が普及したときにこのままでは日本の自動車企業が耐えられなくなる。

○ エレクトロニクス産業と半導体産業だけでなく、製薬業界でも同じ事が起きている。これがいろんな業界で起きると、日本でイノベーションを作る仕組みは生まれないのではないか。

● その通りである。

○ エレクトロニクス産業だけでなく、全ての産業が遅かれ早かれ同じ方向に流れている。例えば、三菱化学が素材をディフュージョンまで組み込んでDVDメディアで一気に拡大したように、素材系でも新たなビジネスモデルが動き出している。

● 液晶の材料系もそれ自体は強いが、パネルのレイヤーになると日本のシェアはどんどん落ちる。またオープン標準化を避けて垂直統合型を徹底させてきたキヤノンは、ここ10年、ほとんどイノベーションが起きていない。キヤノンの収益を支えるはずのカラープリンターは2006年ころから海外市場で一瞬のうちに劣勢にたった。

○ 材料系以外にもネットワーク系でも日本は負けている。例えば、携帯電話がネットワークの中で位置付けられたとたんに日本が負けるなど、製品や部品のレベルではわからなかったことが顕在化している。したがって、エレクトロニクス産業は先行した負けモデルであって、次の負けモデルはすぐに控えているのではないか。

● 彼らが携帯電話でオープンと言っているのは基幹インフラ以外の部分であり、基幹インフラはブラック・ボックス化されている。ブラック・ボックス領域の周辺に巨大なオープン・サプライチェーンが生まれて国際分業構造ができている。このブラック・ボックスを握った企業がオープン市場を支配するビジネスモデルになっていた。これによって過去にシーメンス、アルカテル、フィリップスなどの大手企業も負けている。日本だけではなかったのである。日本が強みとする素材産業でブラック・ボックス領域主導のビジネスモデルを構築できれば、インテルのオープンモデルと同じよう勝てるのではないか。三菱化学の色素が広い意味でインテルと同じ経営思想でビジネス展開されている。

◎ 欧州の研究開発投資効率が急激に上昇したのは何故か。また、欧州にならうポイントは何か。

● EUが東ヨーロッパを統合したことで経済的なマイナスが起こったが、人的ネットワークの拡大や、企業から大学教授になるなどのコラボレーションが行われたことで急激に伸びることができたのではないか。ドイツでは、例えば企業からシュツットガルト大学の教授になり共同研究を行う代わりに、企業は大学に期間限定で資金提供を行い、共同研究の成果や研究人材を企業に提供するなどの交流が頻繁に行われていた。

○ インテルモデルで成功している日本企業はあるのか。

● 世界シェアが90%以上あるシマノの自転車の技術モジュールは完全にインテルモデルである。また、DVDの基幹部品である光ピックアップで三洋電機がインテル型のビジネスモデルを展開し、圧倒的な市場支配力を維持・拡大している。部材では上記の三菱化学が代表的な成功事例である。

○ 日本では企業と大学間の人材流動性はまだまだ低い。大学や研究所のテクノロジーを市場へ翻訳する、あるいは顧客・市場の要求を研究へ翻訳するために、人材がセクターを越えて交流する以外に方法はあるのか。

● 方法はある。例えば異なる分野、異なる地域にある大学や研究機関同士、日本とアジア諸国の大学・研究機関の共同研究、あるいは目的基礎研究を担う工学系の大学とMOTの間の共同研究や企業との産学協同研究などに対して、柔らかなインセンティブを与えれば、人材流動性が一気に高まる。移動費等を国が負担するなども含めて、コラボレーションや人材交流を促進させる仕組みが必要なのではないか。この意味でヨーロッパのFP7が参考になる。

なおIBMなどの企業は、外部の有識者を招きながら人類社会の将来像とここにIBMの果たす役割について何度も議論を重ね、またIBM内部ではこの未来像とIBMの姿を多くの研究者がWebで常時議論し、これらの結果がIBMの基礎研究の方向を決めている。これを毎年続けているのである。ここには死の谷もダーウインの海も観察されない。同じようにフィンランドのノキアも類似の視点から研究開発を捉えており、世界中のイノベーションを自社の製品群に直結させる仕組みができている。ここにも死の谷やダーウインの海はない。我々はここから学べるのではないか。

アメリカでも1970~1980年代になって、それまでの基礎研究に対する疑念が生まれた。死の谷やダーウインの海はこのような背景で生まれた表現であるが、1990年代にはこのような視点が注目されなくなっているように思う。欧米が産業構造を強制的に変え、1990年代には1970年代と全く違った姿になっていたからである。我々はこの経緯についても学ぶ必要があると思う。

(了)

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