科学技術・イノベーション政策の展開にあたっての課題等に関する懇談会(第7回) 議事録

1.日時

平成21年5月12日(火曜日) 13時00分~15時30分

2.場所

文部科学省3F 3特別会議室

3.議題

  1. 我が国の科学技術・イノベーション政策に係る課題について
  2. 全体討議
  3. その他

4.出席者

委員

門永座長、飯塚委員、川上委員、角南委員、妹尾委員、高橋委員、出川委員、長岡委員

文部科学省

戸渡科学技術・学術政策局政策課長、角田科学技術政策研究所上席研究官、川端科学技術・学術政策局基盤政策課長、近藤調査調整課長、柿田計画官、苫米地評価推進室長 ほか

5.議事録

 (1)出川委員から我が国の科学技術・イノベーション政策に係る課題(日本の製造業におけるイノベーションの課題 -開発・事業化のプロセスと人材発掘現場から-)について説明があった後、質疑応答が行われた。(○:委員、●:説明者)

○ ベンチャーを作るタイミングは早すぎてもいけない。これは我々医学、薬学の分野でも同様であり、タイミングは非常に重要である。現在、JSTがベンチャーを支援しようとしているようだが、支援のタイミングについては検討されていないようである。そこは政策で何とかなるかもしれないが、いかがお考えか。

● 政策で何とかなるかどうかについていろんな役人と話してきたが、研究に対してはお金を出せるが、事業に近いところにはお金は出せない等、いろんな言い訳をされていた。企業では、早く事業化するようにと社長が指示し、次々に事業化プログラムを立ち上げるが、成果が出ないと3年から5年でプログラムを終わらせてしまう。そこで私は助走期間として開発ステージをロードマップ型に示し、その後にビジネスプランを作るようにアドバイスしている。事業計画は作るが、本気でやる時期を誤ってはいけない。また、技術者は100%の出来でないと納得いかない傾向にあるが、70%の出来であってもお客さんに売るようにコンサルティングしている。

○ 理科の面白さが十分に伝わっていないことも関係しているためか、最近、明らかに人材の質は低下し、また優秀な人材の数も減っており、危機感を感じている。「社会貢献」は技術者にとってエネルギーとなるはずだが、そう考えることのできる教育構造になっていないようだ。したがって、技術立国というのは容易ならぬことであり、何とかしなければいけないという思いがある。また、コア・コンピタンスを持ち、新しいものを生み出すことができるベンチャーにとって今はチャンスであるが、客観的に見て良い人材は巨大企業に偏っており、それらの人材は、“机の下”で好きなことを開発しなくなって久しく、かつ、イノベーション力を失う年齢にさしかかっている。そのような人材をいかにして組織から追い出しイノベーションを起こさせるか、また、机の下でやるのが義務だった時代が終わった今、理科少年の熱さを思い出させる必要があるのではないか。

● 企業規模が大きくなると、企業を維持しようとする力が働き、例外を嫌うようになる。知り合いのドイツの経営者をみると、儲かって面白がってやっているのは、2~300人規模の会社である。きちっとする部分と自由にする部分を分けており、こういうダブルスタンダードが日本でできたら面白い。また、3~5人の固まりを作るとそれが核となって新規のプロジェクトが進んで行くが、大企業は社会的責任(CSR)や管理のため技術者のこだわりや情熱を踏みつぶし、新しいことをするのをためらわせ、かつ、“善意の邪魔”をすることもある。

○ (資料1の)P17、P18が非常に面白い。どのようにして事業化、産業化が短縮されたのか。要するに、MOTの学習による短縮効果・加速効果があらわれたのか、それともビジネスモデルの変化によるものなのか。あるいは、イノベーションモデル自体が変わったという見方もできると思うが。

● その点については、現在分析しており、簡単には言えないところである。

○ 基幹部品を基軸にして完成品を支配することにより短縮化が行われるインテル・インサイド・モデルに近いのかもしれない。つまり、インベンションとデフュージョンをする企業が異なり、オープン・コラボレーションが行われたのではないか。

● そうかもしれない。ただし、モデルが変わったかどうかについてはっきりとお答えすることはできない。

○ 基幹部品であるからこそ新しいイノベーションモデルに乗りやすく、デフュージョンしやすいと推測できるが。

● そうかもしれない。しかし、ここで言いたかったことは、マネジメントや戦略、モデルの転換等によってかなり早くすることができるかもしれないが、やはり研究ステージは時間がかかるということである。

○ (資料1のP19、P20、P21について)死の谷の期間をできるだけ短くするために事業化、産業化のラインを前倒ししようとする場合、垂直統合型では前倒ししにくいためデフュージョンパートナーを使うことで対応できるだろう。

● 付き合いのあるボストンのベンチャーは、まさに死の谷を渡らないベンチャーであり、開発のみをやっている。シリコンバレーでもこのような企業が増えている。

○ 岡山の林原はインターフェロンを開発まで持ってきたが、事業化段階で持田製薬と大塚製薬に手放した。そのスタイルに似ているのでは。

● その通りである。しかし、IPOの場合には死の谷を渡らないと(渡るふりをしないと)お金を出してもらえないのが現状である。

○ 資金不足だけでなく、開発した技術の用途を見みつけることができないことも死の谷の原因の一つではないか。

● その通りである。私がコンサルティングをするときも、当たり前であるがまずお客さんの欲しがるものをやるようにとアドバイスをする。しかし、マーケットは技術よりも不確定要素が大きく、どうしても死の谷が出るのが現実である。

○ 開発化をした人と事業化をした人はどの程度一致しているのか。そのデータはあるのか。

● データは持っていない。

○ 研究ステージでは、産と学の共同研究のようなものをイメージされているのか。

● 企業の開発を大学がサポートするイメージである。しかし、大学は研究や論文作成よりも、企業に対しプロトタイプをいかに早く作るかをサポートするので、大学教授に対する評価軸を変えなければならない。アメリカでは実際に評価軸を変えている。イノベーションを最後まで到達させるプロセスの一部として産学連携を考えることは非常に大切な点である。

○ 日本人は発明はするが事業化が得意でないと言われているが、実際に企業の研究者の話を聞くと、事業化までは関係のないことで、自分はひたすら発明をやっていればいいと考える風潮があるようだ。

また、政府が太陽光発電に対する補助をやめていた間に、ドイツのメーカーは規模、技術の両面で日本のメーカーを抜き世界トップになった。政府は補助を再開するようだが、改善余地はまだまだあるのでないか。

私は東大大学院で企業戦略論を教えていたが、学生は勘違いしているように感じた。私としては、それぞれ専門分野を持った技術者がいて、その人たちが出口を見やすくするために横に広げてあげようとお話をしていたつもりだが、技術戦略とは何かを学びたいと尋ねる人が多くいた。また、自分の専門分野を忘れ、横ばかり広げればゴールドマン・サックスやマッキンゼーに就職できるのではと勘違いする人もいた。

● 日本のマーケット、日本人のメンタリティーを考えると、私は日本人が事業化を苦手にしているとは思わない。むしろ皆、事業化をやりたがるのではないか。私としては、事業化ができる人材を発掘し、磨いてあげようと思いながらコンサルティングしている。

 

(2)妹尾委員から我が国の科学技術・イノベーション政策に係る課題(技術で勝って、事業で負ける日本 ~競争力モデルとしてのイノベーションの変容とその処方箋を探る~)について説明があった後、質疑応答が行われた。(○:委員、●:説明者)

○ 今回の補正予算におけるある施策について、先日シリコンバレーにいるインド人から電話があったが、おそらく日本をどう使うか考えているのだろう。日本でもそのような発想のできる人材、すなわち軍師の育成は可能か。

● 可能である。例えば、ここにいるこの人をイチローに育てるのは難しいが、何万人に一人をイチローのような人材に育て上げるような環境を整備すれば、必ず軍師は現れるだろう。

○ そのような環境が海外で整備されるようになると、日本にとって危機的ではないか。

● 危機的であるが、日本は今から速成する以外にないだろう。

○ 95年くらいから水平分業が活発化し、半導体の集積度は何倍にもなったが価格は低下した。そして、水平分業を行った企業の利益率はその後12、3年で約23%伸びているのに対し、垂直統合型半導体メーカー(IDM)の利益率の伸びはわずか6%ほどである。水平分業をすれば、売り上げが低くても利益率は高くなるという構造に変わっている。

● 広い意味でのオープンイノベーションモデル、すなわち水平分業とオープンイノベーションモデルで世の中が動いているため、それに追いつかなければならないという雰囲気がある。しかし、オープンイノベーションがブームであるからと言って、何となくやればいいというわけではない。オープンイノベーションは明らかに勝つモデルではあるが、どういう順序でオープンイノベーションにもっていくかの政策誘導が必要である。そうでないと、単に日本の強みの秘密をさらけ出すだけである。

○ 常に論理的な思考をすることや、軍師を育てることは重要であり、また成功事例を教えることは簡単であるが、撤退が必要なときにどうやって撤退したか、あるいは撤退するときの評価系をどのように作ればよいのかを教えることも重要である。例えば、承認されていない薬を使うことを混合診療で認めるときに、評価系がないがために有識者に安全性・有効性の判断を委ねる高度医療評価制度というものがあるが、評価に時間がかかるため、海外に先に承認されることがある。このような制度は維持せずに撤退するべきであって、撤退の定義、ポイントを作ることは非常に重要であると考える。

● なぜ勝ったか、なぜ負けたかを徹底的に解析することも重要である。インテルやアップル、そしてオープンイノベーションの標榜であるIBMも徹底的に負けたことがあるが、IBMはなぜ負けたのかを徹底的に解析している。

○ 政策であれば政策評価が重要であるということか。

● そういうものをなぜやらなければいけないかを考えることが重要である。

○ 大企業ベースであればお話の通りであるが、中小企業にとっては少し違うのではないか。また、イノベーションモデルが変容しているのはその通りだと思うが、そのモデルを追いかけるのは少し無理がある。私もアメリカに行った経験があるが、軍師を育てようと思ってもアメリカ人にはどうしても勝てない部分があるため、日本としては次のステップに踏み込むことが重要となる。大企業が今苦戦している一方で、利益を上げている中小企業やベンチャーがいるが、それは戦略を作っているからというよりも試行錯誤できる環境を彼らなりに作り上げているからであると理解している。

● インテルのインテル・インサイド、アップルのアップル・アウトサイドによる成功を見ればわかるように、中小企業やベンチャー企業でも大企業をひっくり返すチャンスはあるだろう。要するに、今は総合的な体力や特許を持っていれば勝てるという状況ではない。急所さえ押さえることができれば勝てる。逆に、一つ間違えれば大企業でさえも中小企業に逆転される下克上の世界になっている。

また、今あるイノベーションモデルをキャッチアップすべきか、それともイノベーションジャンプすべきかについては、イノベーションジャンプをする前にまずイノベーションキャッチアップをせざるを得ないと考える。なぜなら、現在のイノベーションモデル自身が成長期であり、成熟期でないため、成長期のときに相手を止める以外にない。そう考えると、現在のインテルや第4期のイノベーションモデル(新規ビジネスモデルの展開による水平分業型イノベーション)を辿りながら対抗してく必要がある。

○ 我々はそのモデルを勉強する必要があるが、同じことをやっても勝てないので、やはりジャンプせざるを得ないのではないか。

● 例えば、インテグラルとモジュラーは対比ではなく、ある種の移行論である。インテグラルからスタートし、モジュラーにいつ移行させるかという見極めが重要であるという議論である。それができるのは軍師ではないか。

○ 軍師のいないモデルが日本の強みであると考えることもできるのではないか。

● 軍師というのは人ではなく、軍指的機能が必要であるというお話をしているので、そこのところはわからない。

○ 戦略として将来を見渡すロードマップや基軸を作ることは重要であるが、ロードマップ通りに進むとは限らない。ロードマップ通りに進むとは限らないという前提で何をするか考える、これが試行錯誤であり中小企業が得意とするところである。これも一つのイノベーションモデルであると考える。

● 試行錯誤は、気づき、学び、考えるという、要するに学習型の人間でないとやっていけないだろう。仮説検証型ではなく、探索学習型でないといけない。中小企業は探索学習をしやすいようだが、探索学習の途中で踏みつぶされる可能性がある。

○ 本懇談会は第4期科学技術基本計画の策定準備の一環であると思うが、第4期科学技術基本計画の策定にあたって、どのようなパースペクティブをお考えか。

● 例えば重点推進4分野のナノテクと言ったとたんに、工業系のナノテク、医学系のナノテクを区分せずに一括して予算を取りに行くのは疑問を感じる。そうではなく、社会問題・課題を起点とするスタイルの政策誘導について考えなければならない。また、科学技術が活きるのは科学技術以外にあるというパラドックスが生まれてきたので、そこを押さえない科学技術政策はありえない。科学技術政策であるがゆえに科学技術が活きる他の素材についての政策を考えなければならない段階に来ている。したがって、ビジネスモデル、知財マネジメントの人材育成、軍師養成まで含めないと総合科学技術政策とは言わないくらいまでラジカルにしてもよいのではないか。

○ 課題設定型のアプローチをするべきということか。

● そうである。そこで、出口を見通した基礎研究こそ重要になるわけであるが、現場レベルとお話をすると安易に事業計画の話にすりかわることが多い。

○ 大学の社会における位置づけに関連する質問であるが、科学技術政策があるように、科学政策があり得るのか。それとも知の創造されるプールから生まれた何かが、出口から考えて活用されるルートに乗るイメージなのか。

● サイエンスとテクノロジーとエンジニアリングの話が一方にあり、一方でリサーチとディベロップメントの話があり、その組み合わせをどう見るかという議論であると思う。大学の研究者として、知の世界に恣意的な政策誘導が入るべきでないという思いが半分あるが、現実を見ると、それぞれが研究しているだけでは食べていけなくなる。また、ノーベル賞は社会普及をしたものが受賞する世界であるので、政策誘導はある程度必要であり、現実には達成しなければならない課題、対処しなければならない問題があるので、やはり学術誘導はあっても仕方がないと考える。

○ オバマ政権の予算配分を見てもわかるように、アメリカでは大学に対する漠然とした期待が大きいように思える。大学に資金を投入すれば何か生み出してくれるのではないかという期待が大きいため、フラットで無色なお金が大学に入りやすいと考えるが、日本もこのような考え方をしていく必要があるのではないか。

● アメリカのトップクラスの大学とそれ以下の大学とでは全く状況が異なるため、一概に言えない。トップクラスの大学、例えばハーバードやMITは何かを生み出す力を十分に持っているのでお金が注がれるが、二番低下の大学には、大学を外部研究機関と考えるGEがお金を出している。また、アメリカのグリーンニューディール政策はビッグスリーの電気自動車対応、あるいは太陽光・エネルギー政策対応ではないか。つまり、産業化への資金投入ではないかと考える。日本は企業とそれ以外の話を分けて考えるが、一方でアメリカは分けずに一体として考えているのは明らかである。アメリカはカリフォルニアのベンチャーにお金を出しているが、そのベンチャーの実証実験を受け入れているのは横浜である。日本は牧歌的に良いことをしていると思っているが、結局敵に塩を送っている状況にあることに気づく必要がある。



(以上)

 

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