科学技術・イノベーション政策の展開にあたっての課題等に関する懇談会(第6回) 議事録

1.日時

平成21年4月16日(木曜日) 13時00分~15時30分

2.場所

文部科学省16F特別会議室

3.議題

  1. アジア諸国の科学技術・イノベーション政策の展開の方向性について
  2. その他

4.出席者

委員

門永座長、川上委員、角南委員、妹尾委員、出川委員、長岡委員、Kirankumar Momaya先生

文部科学省

泉科学技術・学術政策局長、岩瀬科学技術・学術総括官、戸渡科学技術・学術政策局政策課長、近藤調査調整課長、柿田計画官、苫米地評価推進室長 ほか

5.議事録

(1)角南委員からアジア諸国の科学技術・イノベーション政策の展開の方向性(「科教興国」中国の取り組み)について説明があった後、質疑応答が行われた。(○:委員、●:説明者)

○ (資料1のP6)「日中の部門別研究開発費負担及び使用割合の推移」において、中国のR&D投資の7割が企業によるものであり、そのイノベーション能力は弱いというお話があったが、その理由として技術本体を自分たちの会社や組織にあるわけではない以外に何が考えられるか。

● ハイテク産業がどれくらい研究開発に投資しているかを示す統計のうち、研究開発弾力性のようなものがあるが、その数値は非常に低い。分野別で見ると、例えば医療機器やITでは非常に低く、唯一5、6%あるのが航空宇宙であった。その場所も上海付近に多く、そこはハイテク産業と言われながらも実際には基本的なコンポーネントを海外から持ってきて中国で組み立てを行っているのが大半である。したがって、売上は伸びてはいるが、研究開発自体のシェアが伸びていない。この形態の企業がほとんどであることが理由の一つ。また、例えば通信関係のスイッチなどの華為という会社は、ロンドンなどでもM&Aをしているが、中国企業が海外に申請しているパテントのほとんどを華為が占めており、全体的に研究開発がされていない。さらに、中国ではベンチャーキャピタルは少なく、若い企業は自己資金、あるいは親戚や政府系のベンチャーキャピタルから資金調達を行っている。そうすると、短期間で収益を上げる必要が出てきてしまうことから、中長期的な研究開発ができない、ということも理由の一つ。

○ 中国では、科学技術論文と比べて特許や技術の面ではそれほど活発ではなく、サイエンスとテクノロジーの間にギャップがあると考える。そこで、マスターやドクターを採用することがビジネスにつながるなどといった人材活用についてはどのようなことが行われているか。

● 中国の優秀な人材が目指すところはトップの大学やトップの研究機関であり、企業に入って研究開発を行う者はほとんどいない。優秀な人材が民へ流れるよう、ポスドクを採用する企業を助成するなど優遇措置をしているが、企業に採用された人材が企業活動に関係のない、自分の好きなテーマを研究しているとの指摘もある。また、若い人は良い研究をしてアメリカに行くという志向もあるが、グローバルに展開する企業は数社しかないことから企業にはなかなか行かない。さらに、中国石化大手のシノペックなどは研究所を複数所有しているが、企業よりは国営の研究所に近いため、統計上R&Dを民間にカウントすることは実態としては疑問がある。今後は、優秀な人材が企業に流れ、企業を発展させていくか、清華大学や中国科学院などから人材がスピンアウトし、そこから企業が発展していくかのどちらかと考えている。

○ (資料1のP15)第11次五ヵ年計画の中に「科教興国戦略と人材強国戦略」とあり、そこに「イノベーションの意識と能力に富んだ人材育成」と書いてあるが、具体的にはどういうことか。

● サイエンティストだけでなく、イノベーティブな人材が必要であるという意味で書いている。チャレンジするとか、失敗した後にそれをまた社会で受け入れるカルチャーを作らなければならず、それができるような人材を育成していかなければならないという問題意識があり、あえてその項目を入れている。そのような人材を育成するための具体的な政策はあまり明らかではないが、最近では優秀な人材に企業させるべくアントレプレナーシップ教育が大学で徐々に始まりつつある。

○ 資本主義的な考え方は、共産主義である中国にとって矛盾しているのではないか。

● 中央の人たちは矛盾に思っていないようである。共産党青年団の学校でもアントレプレナーシップ教育がスタートしている。

○ 中国が科学技術をビジネスにつなぐことのできる人材を育成するようになれば脅威である。今のところアントレプレナーだけのようだが、MOTや知財マネジメントについて本腰を入れるようになれば本当に脅威だと思うが、いかがお考えか。

● 科学技術をビジネスにつなぐことができる時が来るとすれば、それはアメリカにいる中国人が中国と連携しながらやり始めるに尽きるだろう。

○ その意味では、米国における中国人留学生の数字は興味深い。政策的に、意図的に中国人留学生を呼び戻そうとする動きはあるのか。それとも、単純にアメリカに行っている留学生は中国のマーケットが面白いから帰ってきているのか。

● 中国「111計画」の中で、意図的に中国人留学生を呼び戻そうとしている。また、ハイレベル留学生派遣計画もそうである。これはブレインドレインを推進しているのではなく、ブレインが帰ってくる、つまりブレインサーキュレーションのための政策である。先月、スタンフォードで何人かの中国人研究者と話をしていると、年に数回、北京に行っていると言っていた。彼らは共同研究を行っており、おそらく今のところ環境の良いカリフォルニアでアウトプットを出しているが、いずれ中国でアウトプットが出るようになれば、そのノウハウはあらゆる形で共有され、あるいは共有されると思う。

○ そうすると、日本はかなり危機的なのではないか。例えば、パルミサーノレポートとヤングレポートの違いを議論する時に、イノベーションと人材育成の話はヤングレポートにはなかったがパルミサーノレポートには出てきており、それは提案なのか、それとも宣言なのかという話になると、私は勝利宣言であると解説しているが、要するに中国人やインド人とのネットワークを形成し、人材育成について全てやったという自信があったからこそパルミサーノレポートに書かれたのではないかという見方をしているのだが、そういう理解に近いか。

● スタンフォードのケースもそうだが、NIH、NSFが外部資金を導入する際にも彼らは既にプロジェクトの作成に参画している。そういう意味ではおっしゃる通りかもしれない。

○ 急成長中だからかもしれないが、大学を増やしたり、アメリカから中国人研究者を呼び戻したりするなど、中国の政策はやや大雑把であるように思えるがその認識は正しいか。もしそうならば、次の五ヵ年も同じようなことが続き、例えば購買力平価換算の研究開発費が日本を抜くような見通しがあるなど、今後どのようになっていくとお考えか。

● 確かに中国は発展しているので、例えば配分を重点的にしても、全体のパイが伸びている時には、配分されなかった人にもある程度は行きわたる。しかし、こういう伸びはやがて続かなくなるため、重点化と言いつつも重点化から外れた分野にどう手を回すかが問題となる。そうなると、単に発展させるだけでなく、格差をどう解消するかが1つのキーポイントとなるだろう。また、リチャード・フロリダが書いたクリエイティブ・クラスの存在が認められるような都市を中国に作ることができるか、すなわち、失敗を恐れずチャレンジし、多様性を許容する文化にどこまで近づけるかが重要となるが、全体のパイが伸びていない時にどこまで許容できるのか。重点化の兼ね合いが課題となるだろう。

(2)インド工科大学准教授のKirankumar Momaya氏からアジア諸国の科学技術・イノベーション政策の展開の方向性(Cooperation for Technology Innovation : Glimpse of opportunities from the case of India )について説明があった後、質疑応答が行われた。(○:委員、●:説明者、◎:事務局)

○ サイエンス、テクノロジーの面ではインドは勢いがあり、例えば、インド工科大学が毎年大量のエンジニア、サイエンティストを輩出しており、また、ビジネスの世界で遭遇するインド人は基本的に優秀でアグレッシブでアントレプレナールであると、これまで色々なところで聞いていた。しかし、先生の話ではまだまだインドには課題が多く残されており、too lateであるとお話されており、ギャップを感じたが、実際のところはどうお考えか。

● 繊維、鉄鋼、低価格な自動車等の分野、また人材の面においてインドは競争力があるが、科学、技術、イノベーションをベースとした競争においてはまだまだ力不足である。

○ 例えば、労働市場などインドを守るための規則が多く、イノベーションが起きやすい体制の国にしなければならない。プレゼンではペシミスティックなお話をされたが、経済発展を考えてく時にインド政府はどこまで制度を変える意思があるとお考えか。

● インド政府はリスクを恐れるがために制度を変えようとしない傾向がある。しかし、ITでは実績もあることから、リスクを恐れず挑戦的でリーダーシップのある州が出てくれば、それはインド全体の経済発展につながるだろう。

○ イノベーションを起こすようなシステムが足りないインドにおいて、イノベーションをどんどん起こしていくことは困難であろう。しかし、世界中にいる優れたインド人をうまく活用することでインドらしいイノベーション政策ができると考えるが、それに対しどのようにお考えか。

● 企業家、個人の発明などにおいては非常に優れたものがある。しかし、インドの場合、国の政策としてグリーン・レボリューションなどで成功を収めてきたが、それらはインド国民のニーズにこたえるものであったため、必ずしも世界的に大きな貢献をしたとは言い難く、新しい知識、新しいテクノロジーの創造につながったわけではない。国民も懐疑的であるため、国が介入すればするほど失敗に終わるのではないかという心配もある。インドでITが成功したのはIT関係の省庁が設立されていなかったからであり、多くの企業家は国の政策は失敗に終わるであろうと考えているのではないか。また、教授、政府高官、政治家のどれをとっても教育レベルは日本ほど高いわけではないし、国のイノベーション政策が本当にブレークスルーになるかはわからない。

◎ インドに欧米企業の研究所の出先機関が設立されており、インドが研究所のハブになっていると聞く。この点、インドの方から見て今後どのようになっていくとお考えか。また、日本には就職やネットワークがないため、インド人研究者にとって魅力的な環境でないと考えるが、日本が魅力的な場となるために必要なことは何か。

● インドの学生や中小企業にとって、日本の自動車産業等の技術や品質は非常にブランドエクイティがあると考えられているが、日本企業と協力体制を構築し、日本で研究することはあまり考えられていない。それは、アメリカやヨーロッパ、韓国等の企業がインドの大学に出向き、採用活動を行っているのに対し、日本企業はそういうことをしないのが一つの理由だろう。情報が少ないため、日本で研究を行うことは大きなチャレンジとなり、あまりチャレンジをしたがらないインドの若手研究者にとって日本は魅力的な研究環境ではないだろう。今後は日本との協力関係を築き、ブラックボックスを解消していく必要がある。

○ 現在、インドは薬のもととなる化合物(原薬)を日本やアメリカに輸出している。原薬をつくる技術が上がればバイオテクノロジーの遺伝子治療や抗体たんぱく質をつくる技術が上がるとインド政府が考えたからであり、特許の考え方も随分変えてきたと聞いている。しかし、思うほど技術は上がらす、いまだに薬を作ることができていない。そこで、インドはこれまで認めていなかった他の国で行った薬のファースト・インヒューマン・トライアルを認めることで、基盤技術と産業、マーケットを結びつける政策を進めているように見受けられる。このようなトップダウンでの仕組みの変更は非常に大事であり、日本では見られないことである。他の分野でもこのような事例があるのか。

● ナノケミカルズは今後可能性があるのではないか。

○ コメントに近いが、中国、インドをはじめとするBRICs諸国を見るときに、3つの観点があると考える。まず1点目として、マーケットとしてのインド。何十億という人がいるインドに日本企業がいかにして進出するのか。2点目として、ヒューマン・リソースとしてのインド。日本人はIT、数学、英語に強いインド人と一緒にやっていけるか。3点目として、イノベーションパートナーとしてのインド。インドはどのレベルのパートナーか、あるいはどのフェーズのパートナーなのか、すなわちインベンション・パートナー、プロダクション・パートナー、デフュージョン・パートナーのどれになるのかはわからない。おそらくインド人の優秀性を考えるとインベンション・パートナーであり、今後どのようにコラボレイディブ・インベンションしていくかを考えなければならないが、インテルのマザーボードを作っていた台湾のようにデフュージョン・パートナーになるのか、また、今後欧米企業の部品とタタの製造工程を組み合わせた電気自動車がつくられることも考えられるので、プロダクション・パートナーになることもあり得るだろう。

● インド人は英語でのセールストークやマーケティングが得意であるので、日本でのイノベーションをインドに広げることも十分可能であり、インベンション・パートナーだけでなくデフュージョン・パートナーにもなり得るだろう。

 

お問合せ先

科学技術・学術政策局調査調整課

課長 近藤 秀樹(3860)、 課長補佐 原 裕(3861)、 調整・見積り係長 宮地 俊一(3867)
電話番号:03-5253-4111(代表)、 03-6734-4015(直通)