科学技術・イノベーション政策の展開にあたっての課題等に関する懇談会(第5回) 議事録

1.日時

平成21年3月18日(水曜日) 13時00分~15時30分

2.場所

文部科学省16F特別会議室

3.議題

  1. 欧米諸国の科学技術・イノベーション政策の展開の方向性について
  2. その他

4.出席者

委員

門永座長、飯塚委員、川上委員、角南委員、妹尾委員、高橋委員、出川委
員、長岡委員、永野先生、Gerald J. Hane先生

文部科学省

泉科学技術・学術政策局長、岩瀬科学技術・学術総括官、森本大臣官房政策課長、戸渡科学技術・学術政策局政策課長、近藤調査調整課長、柿田計画官、角田科学技術政策研究所総括上席研究官、長野科学技術政策研究所上席研究官、渡邊科学技術政策研究所企画課長 ほか

5.議事録

 (1)政策研究大学院大学教授の永野博氏から欧州委員会の科学技術政策動向、英国の科学技術動向について説明があった後、質疑応答が行われた。(○:委員、●:説明者)

○ 欧州委員会は、そもそも欧州における公共サービスを提供するための組織であると理解しているが、欧州委員会が科学技術政策を行うということについてどうお考えか。また、イノベーションのプラットフォームについて、イギリスからEUに対して意見を述べているということだが、それは研究のみの視点ではなく地域の底上げを意図しているのではないか。

● 基本的にEUができた当時の枠組みは世界大戦を起こさないことが出発点にあり、そこから石炭や鉄鋼などの議論の大枠ができ、そのとき同時にEuratomを設立し原子力開発を共同で行うということにもなっている。EU全体として科学技術政策に関与するということは単に政策立案だけでなく、実施もその対象になっている。また、イギリスを引き留めておくためにお金を多く出しているのではないかという意見もあるが、イギリスはEUの政策へのアイデアも結構出している。

○ 目標設定、目標に向かうために何をするか、投資、環境整備の4つに区分すると、米国では政府が目標を設定するが、目標に向かうために何をするかについては一任している。そして、目標に向かうものについては補助金を出すというイメージだが、イギリスについては環境整備に投資するというイメージでよいか。

● ウィンブルドン効果と言われるように、世界の科学者、あるいは企業にとって魅力ある拠点を形成するために、環境整備に投資しているのではないか。しかし、近年、スイス、米国の製薬会社が研究所をイギリスから引き揚げているように、虎の子というべき製薬産業についても魅力ある研究拠点になっていないという意見もある。

○ 欧州におけるこれまでと違う点の一つとして、需要側のニーズに基づき、必要な製品をより早く市場化する「リードマーケット・イニシアティブ」を2007年12月から開始されたという点でよいか。

● 少なくともイギリスはそう感じているはずである。なぜなら、リードマーケット・イニシアティブにおいては、まずイギリスのアイデアがEUで議論され、その後EUが各国を支援するという流れになり、イギリスの発言が重要視されているからである。

○ イギリスは根源的な科学を得意としているとうイメージがあるが、科学を技術に持っていき、イノベーションにつなげることのできる人材の育成・発掘について、イギリスではどのような取組がなされているのか。

● 例えば、NESTAは、ローカルガバメントのある部局で働く人が新しいことをやりたいにも関わらず、ガバメントからお金が得られないと考えている場合には、そのような人をサポートする取組に見られるように、日本では行っていないようなことも行っている。

○ 端的に言うと、日本とイギリスのどこが違うのか。

● イギリスの場合、とにかくアイデアを次々に出して議論し、よければすぐにそれを実行する点が日本と異なる。

○ (資料1P 10の)「欧州のニーズを政策に反映する仕組み」のうちの「34の重要な分野を発展させるための戦略を検討・実施」とあるが、「戦略」が何を意味するのか、また、P16にも「包括的な取組」とあるが、包括的に並んだものをどう関係づけようと戦略を立てているのかが重要である。つまり、ビジネスモデルと研究開発と知財マネジメントを三位一体で行うことが重要であり、欧州においてもそれらを三位一体に行うようなシステムが構築されているのではないか。

● 34分野の件は、経済界から見て不可欠と思われる施策をどう実現させていくのかという観点からの話である。また、成功しているかどうかは別として、「包括的な取組」とは、少なくとも規制のあり方も含めたビジネスモデルと研究開発と知財マネジメントを三位一体に行っているという意味である。

○ 例えば、欧州では産学官連携によって携帯電話市場からNTT等を追い出したように、表向きには出ないが何らかの布石が打たれているのではなかろうか。

● ETPもその一つと思われ、欧州ではそのような意識は強いと思う。

○ イノベーション創出のための一つの要素として、研究者を含む人材の流動性を高めることが重要であると考えるが、日本と比べて流動性は高いのか。

● 欧州各国は距離的に近い、または陸続きであるが必ずしも流動性が高いというわけではない。日本に比べれば流動性は高いと思うが、大学制度が欧州各国で異なり、2010年までに統一する政策も、流動性の向上を一つの大きな問題として取り上げたうえでのことである。

 

(2)キュー・パラダイム社常務取締役のGerald J. Hane氏から米国の科学技術動向(「Big Deals」)について説明があった後、質疑応答が行われた。(○:委員、●:説明者)

○ グリーンニューディールの科学コミュニティへのインパクトに関心がある。NSFのプログラムでは、科学者の新規雇用を創出するものもあるようだ。グリーンニューディールは中長期的な投資ではあるが、若手の科学者やエンジニアの新規雇用がどの程度増えるとお考えか。

● 新卒者をいかにして雇用創出するかは非常にプライオリティーの高い問題である。オバマ大統領がエネルギーに関するパッケージについて話した時にも、雇用創出への関連性の大きさを指摘している。

しかし、(資料1P 14の)イノベーションシステムのアプローチに関するリサーチによって雇用創出を測定するということに対しては議論の余地がある。なぜなら、企業は長年にわたっていろいろな研究開発を実施しているので、グリーンニューディールのような特定の領域での雇用効果を測るのは困難である。

○ Steven Chu氏は、DOEにベルラボのような組織、施設を作らなければならないと言っているが、それはDOEの中にベルラボのような組織を作ることを意味するのか、それとも制度的にベルラボのような機能をDOEに持たせようとすることを意味しているのか。

● 景気刺激法に伴う補正予算では、ARPA-Eへ4億ドルが投資されることになっている。ARPA-Eは新しい組織で、1年目からこれだけの規模の予算が割当てられるのは驚きである。DOE内部だけでの研究は困難であり、大学でも研究が実施されることになる。この場合、プログラムマネージャーの役割が極めて重要となる。下院はARPA-Eの失敗は許さないという態度をとっているが、ハイリスクな研究であるため、失敗を許容することも必要である。Chu氏は研究者出身なので、このあたりの事情を下院議員に納得してもらうように努力することがARPA-Eの成功につながるのではないか。現政権のこのような新しいイノベーションモデルに基づく、例えばCO2削減イニシアティブはとても良いと思う。   

○ 例えば、創薬は他の分野に比べ規制が必要であるが、ヘルスケア関係の研究と規制について、政府ではどのように考えられているのか。

● 前NIHのディレクターであるZerhouni氏は、ヘルスケア関係の研究と規制についてのロードマップを出している。米国では様々な企業が臨床研究に対して支援を行っているものの、ブラックボックス的なものがある臨床研究に対する支援を得ることは容易でない。そこで、Zerhouni氏はロードマップを策定することで政府から臨床研究や変革的な研究に対する支援を得ようとしたわけである。

○ ベンチャー投資という観点から考えると、エネルギー効率に対する投資はベンチャー企業やスタートアップ企業を活性化させると思うが、その点についてはどのようにお考えか。

● 2007年のオバマ案では、ベンチャーキャピタル向けに投資をすることになっていたが、現在では市場をより刺激するということで、むしろ新たな技術開発に投資をする方向で予算が使われることになるだろう。

私自身、かつてDOEのラボで働いていた経験があり、ラボでも優れた技術開発が行われていたが、市場に普及するような技術はあまりなかった。このような経験から、企業家が投資を行うことができるように、大学やラボからメッセージを発信することが可能であれば、優れた技術を市場に投入することができるだろう。ベンチャーにとっては、このような川下領域に対する投資が非常に重要となる。大きな投資により、ベンチャー企業を活性化し、イノベーションにつなげ、ベンチャー企業が市場参入できるようにすることが重要である。

○ イノベーションシステムを推進する者に資質として求められるのもは何か。

● ARPA-Eのプロジェクトマネージャーが本当に十分な資質を持っているかどうかは、実のところはよくわからない。ARPA-Eのモデルでは、プロジェクトマネージャーは王様である一方、NIHのようなファンディング機関では必ずレビュー委員会があり、プロジェクトマネージャーは委員会の決定に従わなければならない。DOEプロジェクトマネージャーは中間にある。プロジェクトマネージャーは提供できる資金の額を決めるという裁量があるので、市場から発せられる投資が必要というメッセージに対して適切なソリューションを見つけられるような起業家である必要がある。

○ 過去のデータベースから将来を見ていくというアプローチが一般的であるが、イノベーションの場合はそれが難しい。イノベーション政策を推し進めるにあたって、将来こうなるであろうという推測(データ)をいかにして説明するかが重要であると思うが、この点についていかがお考えか。

● 例えば、米国では、政府のアクションにより、気候変動は人工的な要因によってもたらされたとようやく理解され始めたところであり、また、中東の情勢からわかるように、石油を一地域に依存することがいかに危険であることかについても国民は気づき始めており、これらは政策を推し進める上での重要な要素になっているのではないか。

○ イノベーション創出の源泉として大学の役割がますます重要になり、我が国においても目的指向型の研究費・プログラムが増えているが、米国においてはどのように議論されているのか。

また、米国、欧州、日本の3極で、社会における大学の位置付けについて違いはあるのか。

● 大学の有する能力を考えると、イノベーション、教育、応用研究などの刺激策が大学にとってマイナス効果になるのではないかとの意見もある。私がOSTPに在籍していた時に、ナショナル・アカデミーズの人と、技術移転が大学にとってどれだけのインパクトがあるかについて調査研究を行おうとしたことがある。その際に、大学の総長から大いに反対されるのではないかとの警告を受けた。大学という独立した組織が外部、特に政府からそのよなインパクトについて言及されることに対して抵抗感があるのではないか。

また、米国、欧州、日本における、社会における大学の位置づけの違いについて、個人的な考えであるが、日本の場合、学術的には優れた大学教授が多くいるが、研究成果を産業に応用できる者は少ないように思える。

○ イノベーションのコンセプトを新しいモデルに変えることだとすると、イノベーションが雇用を創出すると同時に既存モデルの産業の雇用を喪失させることもあり得る。このようなイノベーションの負の影響について、どのような議論が行われたのか。

  また、新しく電気自動車が導入された場合、オイルメーカーやビッグスリーをはじめとする自動車メーカーは非常に大きな打撃を受けるだろう。(資料2P 10に)プラグインのハイブリッド車を100万台導入するという話があったが、ハイブリッド車よりも電気自動車を作るほうが簡単であることを考えると、ビッグスリーとしてもガソリン車から電気自動車に転換することで、ハイブリッド車に転換するよりも収益を得られると思うが、いかがお考えか。また、それを可能ならしめるためにオバマ大統領のグリーンディール政策が寄与する可能性があると考えるが、いかがか。

● IBMがかつてハーバード大学に対し、コンピュータを社会に導入したときの影響を研究させようとしたことがある。コンピュータを社会に導入することで、雇用が喪失されるという懸念があったからである。イノベーションにより常に雇用が創出されるわけではなく、失われることもありうることから、サイエンス・オブ・サイエンス・ポリシーはその点を評価しなければならない。電気自動車が普及した場合、何らかのマイナス影響はあるかもしれないが、石油業界は非常に大きな産業体であるため、近い将来に大きなマイナス影響を受けることはないだろう。また、電気自動車よりもハイブリッド車が選ばれているのは、電気自動車に比べコストがかからず、燃費も良いからであり、平均的なアメリカ人の通勤スタイルを考えても、電気自動車ではバッテリーがもたないからである。

(了)

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