科学技術・イノベーション政策の展開にあたっての課題等に関する懇談会(第4回) 議事録

1.日時

平成21年2月18日(水曜日) 10時00分~12時30分

2.場所

文部科学省16F特別会議室

3.議題

  1. 我が国の競争力に関する俯瞰について
  2. 国際競争力の強化のためのアンブレラ産業の創造・育成について
  3. その他

4.出席者

委員

門永座長、飯塚委員、川上委員、角南委員、妹尾委員、高橋委員、出川委員

文部科学省

泉科学技術・学術政策局長、岩瀬科学技術・学術総括官、森本大臣官房政策課長、戸渡科学技術・学術政策局政策課長、近藤調査調整課長、柳科学技術・学術戦略官(地域科学技術担当)、柿田計画官、角田科学技術政策研究所総括上席研究官、渡邊科学技術政策研究所企画課長 ほか

5.議事録

 (1)事務局から懇談会におけるこれまでの主な意見及び我が国の競争力に関する俯瞰についての議論の叩き台について説明があった後、全体討議が行われた。(○:委員、●:事務局)

○ 資料2のスパンとして考えている2025年までにはまだ16年もある。諸外国に比べて海外で学ぶ学生が少ない我が国においては、グローバルな人材をいかに育成するかが重要であり、もっとスペースをとって人材育成の問題を書き込むべきではないか。

○ 資料2の10ページについて、我が国の特徴を強みとしていかしていくときには、人材や研究開発拠点等の既存の基盤の活用を考えていかないといけない。特に「国際的なネットワーク力の弱さ」、「社会システムの硬直性」、「非英語圏」といった点について、貢献が可能だろう。また、11ページでは目指すべき方向性として3つの選択肢が示されているが、既存の産業を前提としないまったく新しいモデルが出てくる可能性について議論する余地を残しておくべきではないか。

○ 全体的にもう少し突っ込んだ議論をすべきではないか。資料2の4ページに我が国の競争優位の現状とあるが、競争劣位の現状であると認識しなければならない。新興国企業・ベンチャー企業も「乱入」しているのではなく、オープン・イノベーションの流れの中の必然にすぎない。また、比較的シェアが高い産業という表現も、比較的シェアが低くなっていない産業というほうが適正である。先日、15年後にはトヨタでさえもその事業基盤が危うくなると講演したが、そういう認識が世間にないこと自体が日本の危機である。ビジネス誌では自動車産業の危機が取り上げられてはいるが、リーマン・ショック以降の不況による影響と若者の自動車離れという2点に尽きており、最大の危機である電気自動車時代の到来については一切触れられていない。電気自動車時代の到来は自動車産業を支えてきた従来のインテグラル型のすりあわせモデルが、まったく新しいモジュラー型の組立てモデルに変えられてしまうことを意味するが、日本の大企業経営者のほとんどがそのことを自覚していない。すなわち、インテグラルからモジュールへ、垂直統合から水平分業(プロセス分担)へ、クローズからオープンへという流れ自体は理解しているが、環境が「変わった」という認識にとどまっており、欧米諸国によって環境が「変えられた」という認識が欠如しているのである。この点は非常に重要であり、「イノベーションモデル・イノベーション」、すなわちイノベーションモデル自身が大幅に変わってしまったことを自覚しないと、企業の戦略や国の政策も間違った方向に向かってしまうだろう。そういった観点からは、資料2の11ページにあるグローバル・クローズドモデルとグローバル・オープンモデルを全くの別物と区別してどちらを目指すのかという議論をするのではなく、いつの時点でクローズドモデルからオープンモデルへ移行するべきかという議論をするべきである。

○ 日本ではイノベーションについて議論をするときに、過去のデータに基づいて議論を行う傾向があるが、それでは不連続な未来を描くことはできない。また、すべてに白黒をつけようとする傾向もあるが、未来は灰色であり、灰色をバラ色に変えるのがイノベーションであるとも言えるかと思う。

  私はロードマップやビジネスプラン作成について企業にアドバイスをしているが、企業は未来のあるべき姿、目指すべき姿を描くことがなかなかできていない。これができないとロードマップを描くのは難しい。この懇談会においても、未来起点での我が国の目指すモデルは何なのかについて一度は議論していくべきであろう。

○ 産業構造や社会構造の未来を正しく描くことはできない。むしろ現在明らかになっているのは、過去のモデルや知見が通用しない世の中になってきているということである。そうした中で若者は人がやっていないことをやるべきであると認識しはじめており、彼らが行動変容をもたらす価値観をつくり出し、未来の人類に貢献していけるよう、我々が初等中等教育の段階で多様性のある考え方について教えていくことが重要である。

  また、内向き志向のままでグローバル社会への対応を語ってもうまくいかず、まずは異なる文化を持つ外国人と接触して視野を広げることが必要である。その際、皆が平等に海外に行きポストを得られるとは限らないため、いかにして外国から優秀な人材を呼んでくるかが重要となるが、残念ながら、現在の日本は英語で生活ができる環境が整っておらず、「行きたい」と思われる国にはなっていない。今後は日本人にとっての教育と外国人にとってのインフラ整備の両面について考えていく必要がある。

○ 資料2はよくまとまっているが、イノベーションシステムが変化している中で、企業の組織としての境界線があいまいになり、アクターとしての企業を定義しづらくなっていることを考えれば、官の役割をもう少し前面に出すべきではないか。すなわち、水の技術を見ても分かるように、要素技術を持つ企業だけではなく、それをシステムとして提供する自治体をイノベーションの主体として一体にとらえていかないといけなくなっている。日本では企業、大学、行政、政治の間の人材の流動性がないために、こういったシステム全体を語れる人間が育っておらず、問題である。

○ 官の人材についても同じことが言えるかもしれないが、企業や大学から日本で一旗揚げようと考える人が出なくなった。この事実は重要で、日本では起業して頑張ろうとする人は米国や中国などの諸外国に出て行ってしまっている。このことの原因を考えることもイノベーションについて検討する切り口になるのではないか。正確な分析に基づく意見ではないが、これまで正しいと思われて作られてきた税制等の政策の中には、実はイノベーションを抑制する方向に働いているものが色々とあるのではないか。パラダイムが変化した今、見直すことが重要であるが、もちろん単に規制緩和すればよいという問題ではなく、ダブル・スタンダードやトリプル・スタンダードで規制と緩和のバランスを考えていく必要があるのではないか。

○ 資料2の8ページにベンチャーの乱入とあるが、表現が不適切である。ベンチャーは1980年頃に米国で生み出された古い仕組みであるが、企業の研究開発費が膨大になる中で、非常に安くかつ短期間にトライアルアンドエラーを行わせることができる仕組みとして、成功をおさめたイノベーションのからくりの一つである。過去の分析としてすりあわせやモジュールの議論も重要だが、今後のイノベーションのからくりをどう作るかが最も重要であり、そこを議論しなければならない。そういう意味で、本懇談会では、イノベーションのからくりを作るための前提として、どのように人を育てていくかという問題をしっかりと取り上げるべきではないか。

○ イノベーションのからくりを考える際に、米国が過去に取り組んできた技術経営とプロパテント政策を軸にしたからくりを考えても仕方がない。これはすでに古いモデルである。

産業政策としては、大学発ベンチャーや企業発ベンチャー、中小企業の第2創業によってイノベーションを生み出そうという政策を経済産業省が打ち出しているところであるが、我々は科学技術政策として何が必要かを考えないといけない。その際、いくつかのポイントがあるが、1つ目のポイントは科学技術が強ければイノベーションを起こせる時代、あるいはインベンション・イコール・イノベーションの時代は終わったということを認識すべきであるということである。2つ目としては、オープンとクローズをどのように使い分けるかを考えて、インベンション(発明)からディフュージョン(普及)に至るまでの全体のシナリオを描くときに、シナリオの中に科学技術をどう位置付けていくべきかを十分に考える必要があるということである。関連して、3つ目として、科学技術はイノベーションの必要条件であるが十分条件ではなく、十分条件は何かと言うと科学技術を生かすようなビジネスモデルと、それを可能にする知財マネジメントであるということである。最後の4つ目のポイントは、ビジネスモデルと知財マネジメント、急所を押えた技術開発を三位一体として進めていくためには、官民一体での取組が非常に重要であるということである。内側はインテグラル型にして徹底的に強くし、外側は標準化することで市場拡大・普及をめざす「内インテグラル外標準」において、欧州では、内側の研究開発に対して競争的資金をきちんと手当てしているだけでなく、民による標準化のフォーラム開催のために国が全部資金を出すなど、まさしく官民一体となって取り組んでいる。また、米国でも、ビッグスリーの転落を契機にエンジン車から電気自動車への産業構造の転換が図られようとしているが、その際、政府は科学技術も含めて実に80兆円という巨額の資金を投じることとしている。欧米に共通して言えるのは、科学技術から企業誘導まで、イノベーションに関する全体の戦略が描かれていて、その中で科学技術政策として徹底的な資金投入を行っているということであり、日本でもそのような戦略を描く体制が必要である。

  また、先日テレビでも紹介されていたが、シンガポールでは「場」としての魅力を高めるだけでなく、海外の優秀な研究者をリストアップし、国策として積極的にリクルートしている。20年以上前にシンガポールを訪れたときに話を聞いて驚いたが、その政策を今も続けていることはまさに驚愕である。日本でも海外の人材の活用方策を考える必要があるのではないか。

○ シンガポールでは海外から呼んできた研究者であっても、結果が出なかったり、期待に応えられなかったりした人は簡単に切っており、この点もすごいことである。

 イノベーションにとって科学技術は非常に重要であるが、ある分野ではシーズをもとにして研究を進めることでニーズを満たしていくという時代は完全に終わっていることを認識しなければならない。医薬品の分野でも十分にラインナップがそろっているものもある。

良い例として、大塚製薬は医薬品事業で培ったノウハウをいかして(日々の健康の維持・増進をサポートする)「ニュートラシューティカルズ」の研究開発を行い、ポカリスエットやソイジョイなどの行動変容につながる製品を生み出しているが、どの分野が転換期を迎えているのか、転換期において行動変容を引き起こすために必要な能力は何なのかといった点を見極めていかないといけない。

 また、研究のからくりについて、日本は伝統と保守とをはき違えている感がある。具体的には欧米である研究分野が注目されると、同じ分野の研究室が日本にもできるが、欧米では教授の退職に伴って研究室が廃止され、その時点で求められている新しい分野の研究室が立ち上がるのに対して、日本では伝統の名のもとに教授の後継者が研究室を引き継ぐことが多く、タコつぼ型の研究に陥りやすいという問題がある。企業の世界でも同様で、100年以上続いている企業が一番多いのは日本だそうだが、起業家精神に乏しく、大企業への就職傾向が強かったために、新しいビジネスが生まれてこなかったというだけにすぎない。着物などの伝統文化を守ることは重要であるが、大学の教育研究を保守していては新たなイノベーションが阻害されてしまう。

○ これまでの議論を踏まえると、資料2について、人材や教育、官の役割に関する観点があるといいだろう。

  また、この機会に以下の3点を強調したい。1点目は2025年にはこうなっていたい、こうなるべきだという将来の目標設定が重要であるということである。将来が見えないとき、人間は今やっていることを一生懸命やるという目標設定をしがちである。例えば、車が売れない場合、本来はこのままこういう車を作っていていいのか、将来求められる車は何であるかを考えるべきなのに、目標設定を誤り、もっと売れるにはどうすればよいかを考えてしまう。こういった誤りに陥らないよう、まずは将来のあるべき姿や目標をしっかりと定める必要がある。

  2点目は、将来どうなるかはわからないが、絶対に必要になることはやっておかなければならないということである。今回の意見では人材の話などが該当すると思われ、2025年にはこういう人材がこの程度必要であるといった目標設定を議論してもよいのかもしれない。

 最後に、将来の絵を描いた上で、その実現に向けて動き出すことが重要であるということである。将来の絵の中には文部科学省の領域を超えている部分があるのかもしれないが、それでも、将来のあるべき姿に近づくために今後何をやっていくべきか、何が必要なのかを頑張って考えていかなければならない。

● 多くの御意見をいただいて大変感謝している。引き続き、科学技術・イノベーション政策という広い視点からの御議論をお願いしたい。

  特に御意見をいただいた人材や官の役割については今後詰めていき、課題を整理することができればいいと考えている。これまでは国際競争力という観点から議論をお願いしてきたが、今後は国際競争力の強化に向け、科学技術・イノベーション政策としてどういう課題があるのか、どうしていけばいいのかといった点に議論を移していきたい。

 

(2)科学技術振興機構研究開発戦略センターシニアフェローの安藤健氏から国際競争力の強化のためのアンブレラ産業の創造・育成について説明があった後、質疑応答が行われた。(○:委員、●:説明者)

○ インテルはCPUというエレメントを主導することで、PCというアンブレラを操作している。日本はすぐれたキーエレメントを有しているが、いかにしてエレメント主導でアンブレラを操作できるようになるのか。

● エレメント産業の関係者を集めてワークショップを開催し、日本の強いエレメントがイニシアチブを取り、アンブレラを操作するためには何が必要かを考えたこともある。本日御紹介した内容については、4月頭に報告書ができあがる予定である。

 

(以上)

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