科学技術・イノベーション政策の展開にあたっての課題等に関する懇談会(第3回) 議事録

1.日時

平成21年1月29日(木曜日) 10時00分~12時30分

2.場所

文部科学省16F特別会議室

3.議題

  1. 我が国の国際競争力の現状について
  2. その他

4.出席者

委員

門永座長、飯塚委員、川上委員、角南委員、妹尾委員、高橋委員、出川委員、長岡委員

文部科学省

泉科学技術・学術政策局長、岩瀬科学技術・学術総括官、戸渡科学技術・学術政策局政策課長、近藤調査調整課長、柿田計画官、角田科学技術政策研究所総括上席研究官、苫米地評価推進室長、西田安全・安心科学技術推進企画官 ほか

オブザーバー

永野政策研究大学院大学教授

5.議事録

 (1)長岡委員からサイエンスと国際競争力について説明があった後、質疑応答が行われた。(○:委員等、●:説明者)

○ 医薬品産業の競争力が低いというのはおっしゃるとおりだが、国民皆保険制度などの制度上の要因もあることに留意が必要である。また、競争力が低い産業を底上げすべきという主張と競争力が高い産業を維持・強化すべきという主張とがあるが、どのようにお考えか。

● 国際競争力が弱い例として医薬品産業があげられるのは事実であるが、日本は世界的に通用する新薬もたくさん出しており、実際にはより詳細な分析が必要である。すなわち、国際競争力は比較優位で決まってくるが、それは産業単位では必ずしもなく、医薬品等の特にテクノロジーが重要となる産業では産業内貿易が盛んに行われていることに留意しなければならない。したがって、特定の産業をピックアップするというよりは、個別の産業について、テクノロジーとサイエンスとイノベーションの関係やそこに存在する問題点を分析するのが適切である。また、サイエンスの中でライフサイエンスをどの程度やるべきかいう点については、非常に重要な問題であるが、現時点でお答えすることはできない。

○ 日本は人材の流動性が低いために、国外はおろか、国内でもコラボレーションが起こりにくい。アイルランドは、米国からのIT企業の誘致等を進めてキャッチアップしてきたとのことだが、技術移転の促進、国際分業体制の構築等の国際的なコラボレーションが大きく寄与したのではないか。詳細をお伺いしたい。

● アイルランド経済を専門にしているわけではなく、詳細は承知していない。

○ どれだけ優れたサイエンスや組織があっても、リスクを負いながらマネジメントをリードしていく人がいなければイノベーションにはつながらないと思うが、その点についてはどのようにお考えか。また、世界中から人々が集まってできあがった新しい国である米国と、伝統を守り続けてきた日本とを同じように考えるのは無理があるため、米国型のイノベーションはやめて、日本型のイノベーションに特化したほうがよいという議論もあるが、その点に関する考え方をお伺いしたい。

● 1点目について、今回紹介した研究は、起業家ではなく発明者を対象としたものであり、質問に答えられる分析結果は持ち合わせていないが、御指摘の起業家人材の重要性はよく認識されている。米国でスタートアップの支援をしている人の多くは、過去に支援を受けた経験がある人だと言われており、ある種の正の循環が起こっている形になっている。シーズを持つ発明者とリスクマネーを供給する起業家が相互補完的な関係を築いていくためには、まずはこのような循環をある程度蓄積していくことが必要ではないか。2点目について、1970年代、日本は急速にキャッチアップし、米国を追い越す勢いだったが、実際には80年代以降の25年間はついていくのがせいぜいだったわけである。このことは、日本型のシステムのほうが米国型よりも優れているとは言い切れないことを示しており、日本型の何が優れていて、どこを直すべきかを議論していく必要がある。

○ サイエンスとテクノロジーの関係として、サイエンスはリサーチ、テクノロジーはディベロップメントといった区分けや、あるいはサイエンスは基礎、テクノロジーは応用といった区分けが通常なされているが、この議論はそういった図式をそのまま適用できるものなのか。

● サイエンスをどのようにイノベーションにつなげるか、というのが議論の中心ではあるが、イノベーションとサイエンスとの関係は双方向といったほうが正しく、お話にあった図式をそのまま適用することはできないと理解している。米国の半導体産業の発展が、固体物理学の発展をもたらした例もあり、産学連携でも、大学で発明されたものを産業に教えるばかりではなく、逆のケースがあってもおかしくはない。

○ 「サイエンスは国際公共財である」とおっしゃっていたが、それを使って特許を取っている側面もあることを考えれば、特許取得の背景には、国が投入した公的資金を自国ないしは関連企業へ回そうとする各国の政策や企業の戦略もありえると考えてよいのか。

● サイエンスとサイエンスの成果の一つである論文は別物である。すなわち、論文自体はグローバルな公共財であるが、研究で培ったノウハウなどはグローバルな公共財ではなく、技術移転や特許のライセンシング等により、ローカルに波及していく可能性が高いと考えられる。

○ サイエンスとテクノロジーのどちらに公的資金を投入すべきかという議論があるが、どちらに投入すべきかを議論するよりも、サイエンスへ投入した公的資金とテクノロジーへ投入した公的資金とをどのように関係づけるかを議論するほうが重要であると考えるが、いかがか。

● iPS細胞のようにグローバルな競争力を有するサイエンスを生み出せば、ノウハウや特許を使って産業化に結びつけるファースト・ムーバー・アドバンテージ(先行優位性)がその国に発生することは確かである。

○ 科学技術予算を投入するところまでが国の役目であり、その後は企業の問題であるという考え方ではなく、国としても産業化につなげていく道筋を作らなければならないと考えるが、いかがか。

● 御指摘のとおり、国としても制度を整備・改善していかなければならないが、企業側もサイエンスを活用できる能力を高めていく必要がある。

○ サイエンス・リンケージをもとに産業を分類し、産業政策を議論することに意味があると言えるのか。米国のイノベーションシステムも、1980年代の日本の追随に対抗するために様々な改革を行った結果、派生的に生まれたものであり、全体がデザインされたものではない。また、現在の日本の強みであるサイエンス・リンケージが低い産業が、この先もサイエンス・リンケージが低いままであるとも思えない。

● サイエンス・リンケージの指標に着目して産業を選別する政策は、あまり生産的なアプローチではないと考えており、各産業の中でサイエンスの吸収能力を高めていくことが重要である。

○ バイオ医薬分野では新規参入組の特許シェアが高まっているが、新規参入組たるVery small companyのスタートアップを支えるようなインフラ整備が必要なのか。それとも、既存企業に対して新規参入を促すようなインフラ整備を行うべきなのか。

● 新規参入企業について、米国では大学発の企業が多いが、日本では既存企業の異業種参入のケースが多い。技術面で見れば、米国の新規参入企業はかなり強いテクノロジーを持っており、倒産する企業も多いが、生き残る企業も多く、大企業に育つ例もある。一方、日本の場合は、新しいビジネスの場を求めて異業種に参入しており、テクノロジーでの優位性を持って参入する例は少ない。このように、日本と米国では新規参入のシステムはかなり異なっているが、日本のシステムにも効果的な部分があり、否定するつもりはない。

○ 大学と共同研究を希望する企業の中には、何を大学と本当にやりたいのか、どの程度の規模でやりたいのか、意図がわかりづらい企業も多いという教員の声がある。また、自分自身の経験からもそう感じることがある。単に成果を全部所有したいということなのか、人材を育成したいのか、アイデアを求めているのか、といった点が明確でないために、せっかくの共同研究の成果が十分に企業で生かされていないように感じる。現在の日本の企業研究者が置かれている雇用体系を考慮すれば、企業研究者が大学に来て、研究室に身を置いて一緒に研究することで、有形無形の知を吸収し、企業に帰って実用化するというスタイルが、成功確率の高い日本型の産学連携システムにとって、重要なポイントの一つであると思う。このようなスタイルは、流動性を高める仕掛けとしても効果があると思っているが、特許に関する分析から、日本型の新たなスタイルについての示唆があればお伺いしたい。

● 御指摘のとおり、日本型の出向制度はモビリティーを作るために非常に重要であると考えている。きちんとした実証研究成果に基づく結論ではないが、個人的には、企業が人材育成も兼ねて若い人を大学に送り出す論文博士制度がかつての産学連携システムの中で非常に重要であったと考えている。そこで行った基礎研究が、論文のみならず、特許や技術、さらには商業化につながったケースもあったわけであり、日本型の産学連携システムとしてうまく機能してきた証であると言えるのではないか。教育課程の修了に係る知識・能力の証明であるという学位の位置付けや学位の国際通用性を重視するばかりに、論文博士が減っていることは残念である。

 

(2)飯塚委員から半導体・電子産業から見たわが国の国際競争力の現状について説明があった後、質疑応答が行われた。(○:委員等、●:説明者)

○ ベンチャー育成という観点から見た日本の問題点は何か。

● もちろん、証券市場やビジネス市場にも問題はあるが、プレーヤーの問題や文化の問題等も無視できない。君子危うきに近寄らずという言葉があるが、優秀な人材ほどリスクの少ない人生設計をしようとするため、労働力の流動性が低くなっている。また、長い期間と莫大な費用をかけて教育した人材も、企業に入ると一部の能力しか使用していないと言われている。さらに、優秀な人材層は韓国や上海など、海外でビジネスをしており、国内の空洞化がますます進行している。なにごともソフトランディングに向けて、ゆっくりやっていこうというのが日本の美徳のようであるが、激動の時代には不利であり、様々な問題を短期間で変えていく必要がある。

○ 米国と違い、日本企業の場合は、事業を縮小しても研究所までは廃止しない場合が多い。しかし、そこにいる優秀な人材は、その能力を発揮することなく悶々と暮らしているのが実態である。団塊の世代が退職することで、残された人材は自分たちで様々なことを考えなくてはならなくなり、イノベーションが起こる一つのチャンスになると考えていたが、定年延長などでなかなかそうはなっていない。今後、イノベーションを起こすための仕組みはどう変わっていくとお考えか。

● 円高という状況であるからこそ、海外企業を対象にM&Aを行うなど、海外に積極的に展開する企業が出てくると思っており、それが一つの力になるのではないか。また、長期的な話をすれば、もっと若い人が海外に行って、ショックを受け、それをパワーに変えることが必要だが、日本の学生は海外に行こうとしない。例えば、米国やアジアの大学との単位互換を充実させるなどして、学生が海外に行きやすい環境を整えることが必要ではないか。

○ 組織を動かすのに全員の人を動かす必要はなく、20~30%の人が動けば組織が動き出すと感じている。ある程度の人が動けば、きちんと組織としても動くというのは、日本の強みでもあるのではないか。

● 全く同感である。ある程度のチームでやるということは日本人に向いており、家族の賛同も得られやすい。ベンチャーファンドを立ち上げているが、メインプレーヤーを中心にして、ある程度の規模でカーブアウトを行うような例を支援していきたいと思っている。

○ 若い人が海外に行かないのは、中国、台湾、韓国では海外での経験がないと就職が難しいのに対し、日本では就職活動が早期化し、留学している余裕がないのが一因ではないか。また、早い段階に入社して、同一組織で定年まで過ごす終身雇用制度の下では、海外経験者は組織のコアに入り込みづらいという側面もあるのではないか。

● 海外で社会経験を積んだ人材が母国でコアの役割を果たしている台湾のように、海外を活用しながら成長していくという構造が必要である。また、日本は戦後、国際政治や軍事などには口を出さず、専ら経済活動のみに注力するというスタンスを採ってきたため、対外的なアピールや交渉が苦手になってしまっているのではないか。国際会議でもインド人、中国人やアングロサクソンばかりが発言しており、日本人は寡黙である。言語の問題もあるだろうが、グローバル社会の中でしっかりと発言できるような人材を育成することも重要である。

○ 有名なノーベル賞受賞者を大学生や大学院生が知らない時代になってきており、これは知的ヒーローが不在であることと、従来の立身出世モデルが崩壊していることを意味している。しかし、立身出世モデルの崩壊は我が国に限らず、先進諸国に共通する傾向であり、今後、どのように優秀な人材を育てていくのかを真剣に議論しなければならない時代になっているのではないか。グローバルに活躍する人材が求められているが、例えば、知的財産の分野については、弁理士や特許審査官などの専門的人材にはある程度の英語レベルを資格要件にする必要があると考えている。

また、オープン・イノベーションの時代にあっては、誰がイノベーションのイニシアチブを取るのかが非常に重要である。パソコンについては、CPUという基幹部品を握っているインテルがイニシアチブを取っていると言えるが、部品産業が強い我が国が部品を通じてイノベーションのイニシアチブをきちんと取っているのだろうか。部品の生産を下請けするだけではイノベーションの果実にはありつけない。

● 日本はビジネスモデルの重要性に対する認識が低く、全体的にイニシアチブを取れているとは言えない。そもそも競争を否定してきたため、国際的な場で議論ができる人材が少なく、デジュールスタンダードを取ることができない。当面の対応としては、いかにしてデファクトスタンダードをつくるかが重要であるが、将来的には海外で議論できる人材をきちんと確保していかないといけない。そういう意味でも、海外に行って、アングロサクソンや華僑等の考え方を学び、国際的な人脈を培うことが大事である。

○ 関連する話題として、2025年には水ビジネスの市場規模は100兆円になるが、日本企業のシェアは1兆円程度にとどまると言われている。ろ過技術などの個々の技術では勝っていてもマーケットが取れない典型例である。

● iPhoneを取ってみても、ハードディスクを提供している東芝の利益は小さく、アップルの利益のほうが大きい。また、それだけでなく、事業利益のほとんどはハードウェア製品そのものではないサービスの部分で稼ぎ出されている。現在、シャープはソーラーパネルだけでなく、発電事業も始めようとしているが、すばらしいチャレンジである。匠の技や匠の心も重要であるが、発想を変えて、新しいビジネスモデルを構築できる人材を育てていく必要がある。

○ シリコンバレーでは大学とベンチャー、サイエンスとビジネスが非常によい関係を築いているということだが、日本と米国の大学は研究開発面でどのような違いがあるのか。

● 産業界では、数歩先ではなく、来年くらいにビジネスになる半歩先の研究成果が非常に重要であり、そこに激しい競争がある。しかし、米国の大学と違い、日本の大学は半歩先への興味・関心が薄く、数歩以上も先ばかりを見ている気がする。米国では人材の流動性が高く、大学から企業に行って事業を始める人も多いが、こういった点が日米のマインドの違いにつながっているのではないか。

 

(3)事務局から我が国の国際競争力に関する議論の叩き台について説明があった。

 

(以上)

 

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