科学技術・イノベーション政策の展開にあたっての課題等に関する懇談会(第2回) 議事録

1.日時

平成20年12月11日(木曜日) 10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省16F特別会議室

3.議題

  1. 世界情勢の変化と今後について
  2. 今後のアメリカ競争力政策等について
  3. エネルギー・環境を巡る状況について
  4. その他

4.出席者

委員

門永座長、飯塚委員、川上委員、角南委員、妹尾委員、高橋委員、出川委員、長岡委員

文部科学省

泉科学技術・学術政策局長、岩瀬科学技術・学術総括官、森本大臣官房政策課長、戸渡科学技術・学術政策局政策課長、近藤調査調整課長、川端基盤政策課長、柳科学技術・学術戦略官(地域科学技術担当)、柿田計画官、大竹基礎基盤研究課長 ほか

5.議事録

 (1)丸紅経済研究所副所長の美甘哲秀氏から世界経済の行方について説明があった後、質疑応答が行われた。(○:委員、●:説明者)

 

○ インドではヒンドゥー教徒が多く、肉を食べる習慣がないが、それでも中国以外の新興国全体で見ると食肉需要は拡大するのか。

● 中国以外の新興国のうち、インドやパキスタンなど宗教上厳しい規律のある国の食肉消費量の拡大は期待できないが、例えば中南米、東欧、アフリカ諸国などでは一人当たりのGDPが1万ドルを超えるまでは生活水準の向上とともに食肉消費量は伸び続けると考えられる。

○ 水を巡る問題について、具体的にはどういったものがあるのか。

● 水の量はあっても汚染されている地域、例えばインドやパキスタンなどの地域では飲料用の水が不足しており、いかにしてフレッシュウォーターを供給していくかが今後の課題である。

また、水の絶対量が不足している地域に水を分配し、農業用水を提供していくことも大きな課題である。お金のある地域では淡水化プラントを導入することができ、大きなビジネスになっているが、お金のない地域については、ODAを積極的に活用するなどして、水の供給・灌漑設備の導入を進めていく必要がある。

○ 金融危機が起きているが、新興国の成長は今後も期待できるか。

● 金融危機の影響で新興国の株や債券が売られ、通貨安が進むなど、大きな混乱が起きているのは事実であるが、金融危機が未来永劫続くとは考えられず、中長期的には再び新興国に資本が流れると思われる。そういう意味でもやはり新興国の成長は今後も期待できる。なお、実際に成長を続けていくためには、成長の裏側で深刻化する格差問題が社会不安として顕在化しないよう、中央政府が雇用の確保等を適切に行っていくことが重要である。

○ 日本は米国、中国、インドに比べて今後30年のGDP伸び率が低いようだが、日本がGDPを伸ばすためには何が重要なのか。

● 日本は人口の増加による経済成長を見込むことが難しく、今後は技術革新による生産性の向上が経済成長にとって重要となる。限りある資源を有効に使うためにも、省エネ技術で勝負していくのも一つの手ではないか。

 

(2)政策研究大学院大学教授の永野博氏からオバマ次期大統領の科学技術・イノベーション政策等について説明があった後、質疑応答が行われた。(○:委員、●:説明者)

 

○ オバマ次期大統領の主要政策に「民間でのイノベーションの促進」とあるが、日本とどう違うのか。

● 「民間でのイノベーションの促進」は税制と規制が柱である。2007年末に失効した民間企業の研究開発投資に対する税控除を恒久化する動きがあり、民主党、共和党で考えが一致している。一方、規制については、民主党は規制緩和にどちらかというと懐疑的であり、マーケットに任せればよいという共和党と考え方が異なる。中小企業を対象としたプログラムの強化や、初期段階の研究開発や技術開発に対する支援などが行われるのではないか。

○ 「民間でのイノベーションの促進」の中に「永住ビザと一時就労ビザ制度を改善し、海外から理系人材を獲得」とあるが、クリントン政権からブッシュ政権に変わった時、海外からの優秀な理系人材が減ったことに対する反省に基づいているのか。また、米国で育った理系人材に比べ、海外から来た理系人材のほうが優秀だとの考えもこういった取組の背景にあると考えてよいのか。

● 9・11の同時多発テロ以降、海外からの人材が減っており、まずはそれをリカバリーしたいというのが実態であろう。また、米国で育った理系人材に対する御指摘も影響しているものと考えられる。

○ オバマ政権では、イノベーションの民主導部分と官主導部分のバランスはどう変わっていくのか。

● 一般的に、官の役割がより期待される方向へ動くと思われる。

○ 「産業界支援の施策が多く見受けられる」「各施策にITの要素が多く見受けられる」とあるが、中でも特徴的なものは何か。

● 例えば、現在、民主党はテクノロジーイノベーションプログラム(TIP)に力を入れている。以前にも、特に中小企業の技術開発をサポートするTIPに似たプログラムがあり、非常に評判が良かったが、ブッシュ政権時には毎年予算が削られていた。現時点では情報が少ないが、今後の教書等でいろいろ出てくると思われる。

○ 「DARPAによる長期的ハイリスク研究の促進」とあるが、軍事技術の開発に関与してきたDARPAがハイリスク研究のかなりの部分をマネジメントしていくことになるのか。

● DARPAとは国防総省の国防高等研究計画庁で、ステルス戦闘機やインターネットの原型となったARPAnetを開発した。しかし、最近はDARPAの仕事がマイナーになってきているとの認識があり、チャレンジングな役割を果たす機関に戻したいという意図があると理解している。

○ アメリカのベンチャーは世界をリードしていると見なされているにもかかわらず、資本利益税控除等により、さらにベンチャーや中小企業を優遇していく意図は何か。

● 施策の詳細は不明だが、ブッシュ政権では、選挙の支持母体が大企業であることから、ベンチャーをはじめとした草の根的な企業に対する優遇措置が十分に行われておらず、批判が強い。

○ オバマ氏はまだ就任前ということで議会をあまり意識していないように思える。「グリーン・ニューディール」政策で500万人の雇用創出を目指すと聞いた時、ハイリスク研究や基礎研究の部分はリップサービスに近いのではないかと感じたが、実際はどのように考えればよいのか。

● あまり情報がないので、今の段階ではお答えできない。

 

(3)日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット総括・研究理事の森田裕二氏から世界のエネルギー需給について説明があった後、質疑応答が行われた。(○:委員、●:説明者)

 

○ 日本の省エネ技術が技術としてすばらしいことはわかるが、中国やインドに売ることは本当にできるのか。すなわち、商売はニーズを満たしてはじめて成立するものであるが、中国やインドの人たちには彼らなりの正義がある。合理的・論理的に説明しても省エネ技術を買ってくれるのかどうか疑問であり、我々の技術をそのままトランスファーできるとは思えない。

● 日本、インド、韓国等が加入しているアジア・パシフィック・パートナーシップ(APP)という組織があり、そこでは電力や鉄鋼、セメントといった様々な分野で、情報を共有しながら省エネ技術の普及に努めている。例えば、インドに対しては新日鐵が現地で指導を行っており、こういった情報共有が進んでいる分野については、技術移転を行いやすい。

  一方、某自動車メーカーのハイブリッド技術のように、独自に開発した技術であれば、技術移転をすることでわざわざ競争相手を作ることになってしまうため、移転は行われないだろう。要は技術という大きな括りで考えずに、それぞれの分野や技術ごとに適切な普及方策をとっていくことが重要である。

○ 今後の技術革新でどれくらいのエネルギー効率の向上を望むことができるのか。

  また、原子力エネルギーについては、廃棄物の処理も含めたエネルギー生産から消却までのライフサイクルがいまだ確立されておらず、このことが将来的に大きなリスクとなって、エネルギー源としての地位が低下する可能性があると言う研究者もいる。地球環境への影響も視野に入れ、電力、水力等と並べたエネルギー効率比較の議論を専門機関が行う際には、既にこういった観点が折り込まれているのか。

● 産業部門ではすでにエネルギー効率の向上に向けてかなり努力しており、省エネ技術の技術革新が行われている。逆に言えば、エネルギー価格の上昇によって製品のコスト競争力が落ちるのを防ぐために、産業としては努力せざるをえなかった部分がある。

  一方、民生部門や運輸部門では、エネルギーの消費やCO2の排出が増えており、こういった部門で今後どのような対応をしていくかが課題である。日本は電気製品等の省エネ基準を、それぞれの機器において現在商品化されている製品のうち最もすぐれている機器の性能以上にするというトップランナー方式を導入し、省エネ技術を競わせてきたが、このやり方は他国でも適用できるものである。

 原子力について、現在は廃棄物の処理については考えずに話を進めているのが実情ではないか。

○ 農作物のエネルギー使用について、農作物の国家間分配や産業間(分野間)分配の問題に変わってきたと見ているが、バイオ系エネルギーはエネルギー総量からするとわずかな量なのか、それともかなりのインパクトを与えうる量なのか。

● 米国でエタノールをガソリンに混ぜるにあたって、当初、ライフサイクルアセスメント(LCA)的に正しいやり方かどうかが問題となった。今では、例えばトウモロコシの茎や葉など、食料とせめぎ合いにならないセルロースを分解してエタノールを生産しようという動きになっており、世界的にも食料との競合をできるだけ避ける方向になっている。

  しかし、バイオ系エネルギーと食料との競合を完全にうまく回避する方法は見つかっていないのが実情である。例えば、軽油の代替として、毒性のあるジャトロファの種から油をとる試みが行われているが、耕地をジャトロファの栽培に使うことで食料生産が落ちる可能性がある。

米国の運輸部門に限れば、バイオ系エネルギーは大きなウェートを占めているが、世界のエネルギー全体を論じる場合には量的なインパクトは小さい。

○ 日本はGDP当たりのエネルギー消費量が非常に少ないことがわかったが、具体的にはどういった特徴があるのか。

● CO2の削減に向けた経団連の自主行動計画が功を奏しており、産業部門のエネルギー消費がほぼ横ばいになっているのは大きな特徴である。しかし、民生・運輸部門のエネルギー消費が非常に多く、それをいかに抑制するかが課題である。トップランナー方式の対象品目を増やしていく動きにはなっている。

○ 産業部門では実績をあげているが、民生・運輸部門ではまだやることがあるという意味か。

● 高い分だけペイするということを十分に宣伝しなければ、一般の消費者は高い省エネ製品を買わない。このように民生部門は消費者を具体的な行動に移させるためのモチベーションをいかに与えていくかが難しい問題であり、法律で縛る、補助金を出すなどの政策的な対応が大きく影響・貢献できるのではないか。

 

(4)事務局から懇談会の検討事項案及び世界情勢の変化に関する議論の叩き台について説明があった後、全体討議が行われた。(○:委員)

 

○ 製造業におけるモジュール化の進展に関連して、日本が技術で勝って事業で負ける理由がようやく明らかになってきた。これまでは特許が取れないから、特許の使い方がうまくないから、標準化できていないから、といった指摘がなされてきたが、事業戦略(ビジネスモデル)と開発戦略(製品アーキテクチャ)と知財戦略(知財マネジメント)の三位一体がうまくいっていないのが原因だと分かってきたのである。是非このあたりの議論を行うようにしたい。

  また、このような三位一体の議論は製造業とサービス業に共通するものであり、両者を区別せず、一般化した議論を行ったほうがよいのではないか。

○ イノベーションという観点では、「答えがないことに対するマネジメント」ができないと意味がないという課題があり、これまで日本が得意としていた「答えがあることに対するハンドリング(管理)」とは明らかに違う発想が必要ではないか。このため、マネジメントに関する議論についても、是非行うようにしたい。

○ モジュール化やコモディティ化は製造業を巡る変化のほんの一部に過ぎない。産業ごとの特性を踏まえる必要もあり、モジュール化やコモディティ化だけでなく、高付加価値化、差別化等を併せて議論していくことが必要である。

○ すべての議論はグローバル化を念頭において行わなければならない。成長のためには中国をはじめとした新興国とどのように組むかが重要であるのに、日本は学生も含めて内向き志向が強い。製造業やサービス業といった垣根を越えて、グローバルなビジネスモデルをいかにして構築していくかを議論していく必要がある。

 

(以上)

 

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