科学技術・イノベーション政策の展開にあたっての課題等に関する懇談会(第1回) 議事録

1.日時

平成20年11月13日(木曜日) 10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省 16F特別会議室

3.議題

  1. 懇談会の設置について
  2. 懇談会の検討事項について
  3. その他

4.出席者

委員

門永委員、川上委員、妹尾委員、高橋委員、出川委員、長岡委員

文部科学省

泉科学技術・学術政策局長、戸渡科学技術・学術政策局政策課長、
近藤調査調整課長、川端基盤政策課長、柿田計画官 ほか

5.議事録

 (1)懇談会の開催にあたり、泉局長から挨拶があった。

● 今年度は第3期科学技術基本計画の3年目であり、第4期科学技術基本計画に向けて、今後、科学技術・学術審議会、総合科学技術会議等でも検討がなされていくことになるが、本懇談会ではそういった検討に先立ち、そもそも我が国における科学技術・イノベーション政策の展開にあたっての課題には何があるのかといったことについて、御議論をいただきたい。

   今年の科学技術白書では「国際的大競争の嵐を越える科学技術の在り方」を特集として取り上げ、BRICs諸国の台頭や諸外国の科学技術に対する投資の拡大を紹介した。それらを受けて、我が国としてどういった手を打っていくのかについて考えることが求められているという認識である。また、世界的な金融危機等、最新の情勢とその推移が科学技術政策に与える影響といったことも視野に入れる必要があると考えている。

 

(2)事務局から委員の紹介があった後、門永委員が座長に選出された。

 

(3)事務局から懇談会の設置の趣旨等及びその背景となる事務局の世界情勢の認識として、平成20年版科学技術白書の特集テーマの内容について説明があった。

 

(4)事務局から懇談会の検討事項案及び当面のスケジュール案について説明があった後、自由討議が行われた。(○:委員、●:事務局)

 

○ 懇談会の開催にあたり、科学技術・イノベーション政策が何のためにあるのか、誰のためにあるのかを考えた。個人的な考えとしては、日本の国力の維持・向上のためにあるのではないかという結論に至ったが、科学技術・イノベーション政策によってどのようになっていたいのかについて、懇談会としての議論も必要である。その上で、我が国のGDPや一人あたりのGDPの増加等に科学技術やイノベーションが大きく貢献するような状況を作り出していくためには何が足りないのか、何を解けばいいのかを明確にしていきたい。解決策自体の議論はできないと思うが、逆に出口となる制度論等を意識することなく、広い発想で議論を行っていきたい。その際、話が発散しないように気をつけたい。

 

○ イノベーションには良い制度と良い教育が不可欠である。どんなに良い技術があっても制度が悪ければ意味がなく、基礎的な学力がないと良い発想は生まれない。

  医療制度に特化した話をすれば、日本は医療費にシーリングがかかっているため、先端医療に用いる薬や医療機器をつくるインセンティブが働かなくなっている。また、医学教育や保険制度の影響もあって、狭い付き合いで閉じこもってしまっている医師が多く、例えばインドでは胆のう癌が多いといった海外の医療事情に対応していくような医薬品の研究開発は行われにくい状況にある。こういった状況を改め、シーズではなくニーズに基づいた研究開発が行われるようにしなければならない。さらに、薬事法では治験と臨床研究が分けて規定されており、製薬会社は大学で行われた臨床研究のデータをもとに医薬品の承認申請を行うことができない状況にある。医療分野における産学連携や大学へのサポートが行われにくいばかりでなく、製品化後の特許の残存期間の短縮まで引き起こしてしまっている。安全を守るということはもちろん重要であるが、製品化の遅れによって医薬品の恩恵を受けることのできない患者がいることを念頭に置かなければならない。

  日本はネットワークがオープン化されておらず、英語も通じにくいため、海外から人が集まりにくい。小学校からコミュニケーション能力、特にディベート能力、プレゼンテーション能力をしっかりと培うようにしないといけない。

 

○ 全般的な要望として、懇談会では科学技術とは何か、イノベーションとは何か、競争力とは何か、といった“そもそも論”を行う必要がある。また、安易に議論を取りまとめず、問題群と課題群の整理にフォーカスしたい。「問題」と「課題」の両者は問題を解決するために課題を達成するという関係にある。

  懇談会のキーワードは「競争力」だと思っている。なぜ競争力が必要なのか、何の競争力が必要なのか、どこで競争してどこで協調するのかなど、幅広い議論を行いたい。ややもすれば産業競争力に偏りがちだが、我が国は科学技術創造立国のほか、文化立国、観光立国、知的財産立国など、多くの立国政策を掲げている。それらにおける「競争力」「協調力」等も視野に入れてはどうか。

  よく「我が国の競争力を高めるためにはイノベーションの創出が必要」と言われるが、そこには成長と発展を同一視することによる論理の飛躍がある。本来、成長とは従来モデルの量的拡大を指すのに対し、発展とはモデルチェンジを指す言葉である。イノベーションは新規モデルの創出・普及・定着であり、後者を指す。まずは我が国としてどのモデルを成長させ、どのモデルを発展させるのかを議論すべきである。

  検討に際し「強み」「弱み」「チャンス」「脅威」というキーワードが出てくるが、「強み」と「弱み」、「チャンス」と「脅威」は条件で変わるものであり、我が国の特徴は何か、それを強みとするための方策は何か、といった戦略的な検討を行うべきである。

 

○ 基盤的経費が減らされる中、各大学は十分な戦略もないままに外部資金の獲得に奔走しており、中期的に大学の基礎体力の低下につながることが危惧される。もちろん大学側にも問題はあるが、有名な教授ほど大学運営に時間を取られて研究時間の確保が困難になるといった問題について、間接経費を使うなどしてすべて大学側で解決しなさいと言われても極めて難しいものがあると言わざるを得ない。体力のない現場でも問題解決ができるような仕組みについて、考えていきたい。

  イノベーションにおける大学の役割は何か、大学と企業の研究活動の違いは何かを考えることが多いが、企業が行わないような研究を含め、様々な研究を行ってイノベーションに貢献することが大学の大きな役割だと思われる。そのような大学が魅力的な大学なのであり、そのために何ができるかを考えていきたい。

 

○ インベンション(発明)はひとりでできるが、それを役に立つ形に変え、マーケットにおいて新しい価値を生み出すというイノベーションを引き起こし、達成することはひとりではできない。そのためにマネジメントが必要になるが、そのことを理解しているのはイノベーションの主な担い手である企業でも少ない。イノベーション創出の最終的なエンジンは人であり、不確定な将来に対する挑戦意欲を持ち、また、挑戦する能力がある人が自立・自律的に様々なチャレンジを行える環境をつくっていくことが重要である。そのためには、常識的なミッションや役割を明確にしすぎて活動を枠にはめることは得策ではなく、新しいことを自らやりたくない人には何もしてもらわないのが一番よいのではないか。

 

○ 企業の競争力は技術格差で議論できるが、一人あたりの所得という意味の国の競争力は技術の相対水準ではなく、その絶対水準に主として依存しており、両者を区別した議論が重要である。国の競争力という場合、懇談会ではイノベーション創出力といった観点に絞って議論するのがよいのではないか。

  議論においては産業応用の視点だけでなく、環境問題、エネルギー問題など、世界全体が直面している成長限界へ対処するために国際協力が必要な事項についても取り上げていくことが必要ではないか。また、サイエンスのイノベーションへの貢献を高める方法についても議論が必要である。産業界はブレイクスルーにつながる大学の基礎研究に期待しているが、日本企業の発明者ではドクター出身者が米国の約4分の1の比率であるなど、企業がサイエンスを吸収する力にも課題があると考えられる。また、米国では大学発の発明の35%がスタートアップ企業で活用されているのに対し、日本は5%にとどまっているなど、産学連携の経路の多様化・強化も課題である。

  人材が重要であり、英語ができないために機会損失が生じていることも事実である。また、米国における発明者の3割は誕生国が米国以外となっており、国際的な人材の活用についても考える必要がある。

 

○ 国の競争力は議論しづらいというのは同感である。現実には個々の企業や研究機関等における競争力であり、それらの多くがボーダーレスになっている。イノベーションがチームワークであることや現場の体力についての留意が必要なこともまったくの同感である。

  また、医療分野における研究開発をニーズに基づいたものにしていかなければならないという主張も同感である。その際、コスト意識も重要である。

 

○ 学校教育に限らず、教育の本質は「皆と同じことが言えるか」「他人と違うことが言えるか」を問い、それらの2つの能力をバランスよく育てることにある。そのためにはオリジナリティーの尊重が重要であり、既存知識の蓄積ばかりを求めてはならない。なお、人材育成はスタートとして必要な議論であり、「人材育成が重要」ということを結論としてはならない。

  ある場で、日本は国際基準に取り残されてガラパゴス化してしまうという話に対し、若い研究者が「ガラパゴス化して何が悪い。徹底してやれば注目される」と述べたのを聞いた。賛成はできないが、こういった人材がもっと出てくれば議論を多面的に行うことができる。

 

○ 他人と違うことが言えることは重要であり、そのためには自信をつけさせないといけない。よく毎年のTOEIC受験を義務づけている企業があるが、点数が上がっていくことで自信をつけさせることを目的としていると聞く。

  思いつきだが、少子高齢社会を救うことが必要ならば、子どもを増やすための科学技術からのアプローチ、イノベーションというものもありえるのではないか。

 

○ イノベーションは人が背負っており、新しいことをできる人とできない人とが、逆の立場も理解した上で、お互いに邪魔をしないようなコミュニケーションを行うことが基本である。これからの時代には、チャレンジ精神といえども戦後復興を支えたハングリー精神ではなく、多数の協力を勝ち得るような起業家精神を養えるような環境条件を整える制度が必要である。

 

○ 今年いくつかの大学院における講義の際に、大学院生のほとんどが江崎玲於奈氏を知らないことが分かり、ショックを受けた。詳しく聞いたところ、ノーベル賞受賞者で良く知られているのは湯川秀樹氏と佐藤栄作氏であり、受験に頻出するからということであった。これは、「知的ヒーロー」が出にくい時代となったことを象徴しているのではないか。

 

● 何を目指した科学技術政策かを議論することは重要である。第3期科学技術基本計画では3つの理念と6つの大目標が掲げられているが、時代や状況の推移の中でこういった点をどう認識し、どう掲げるか、あるいは、社会的なニーズをより意識した分野の設定など、重点分野をどう掲げるかといったことについても、議論が必要ではないかと考えている。懇談会では、こういった点についても、幅広い御議論をお願いしたい。

 

(以上)

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