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5.

「脳科学と教育」研究の推進に当たっての体制整備

   「脳科学と教育」研究をより積極的に進めるためには、組織体制の整備、具体的な研究方法の改善・確立を図ることが必要である。また、倫理的な配慮のもとに研究を行うことや、社会の理解と協力を得ることとも必要である。

(1) 教育の場と脳科学に関連する学問領域の架橋と融合による研究体制の構築

1教育の場との連携
   現在のところ、一般的に脳科学分野と教育分野では用語や考え方にかなりの相違があり、また脳科学の研究成果をそのまま教育現場に応用することは困難が予想される。そこで、「脳科学と教育」研究の成果を教育課程・教育方法などへ具体的に応用していく手法の開発が必要である。
   また、教育に関わる諸問題を解決するための基本は、教育の場での問題の実体を把握し、その原因を究明し、解決策を現場に反映することにある。そのためには、脳科学が周産期医療、育児・保育、学校教育、生涯教育、体育・スポーツなどの多くの教育の場と密接な連携を構築し、問題の所在を共有して研究を進めることが必要条件である。

2異分野との連携体制の構築
   人の生涯にわたる発達においては、様々な要因が複雑に関連しあうため、個別の教育の場や個別の学問分野で閉じた研究では、その研究の対象外の要因を扱えないという問題が生じる。したがって、多くの教育の場や学問分野を組織的に結び付けた研究体制の構築が必要である。

(2) 長期的・戦略的研究を可能にする研究体制の整備

1長期的な縦断研究・コーホート研究を実現するための体制づくり
   様々な環境要因が脳に与える影響などを調べる場合には、長期的な縦断研究やコーホート研究が有効である。そのためには、周産期医療機関との連携、乳幼児健診の活用、大学及びその附属小中高等学校などとの連携、自治体との連携など、研究体制を整備する必要がある。

2人を対象とする研究を行うための基準と手続きの整備
   人を対象とする実験などを行う場合、倫理的な問題が生じ得る。特に、意志判断を自ら行うことができない乳幼児や高齢者などを対象とした実験には一定の配慮が必要である。具体的には、インフォームド・コンセントに関する基準や手続きの整備、個人情報保護に関する問題に関する基準や手続きの整備などが不可欠である。
   また、人を対象とする場合又はヒト由来の試料を利用する場合には、研究機関内に倫理委員会を設置し、研究の科学的正当性及び倫理的妥当性について検討を行うことが必要である。その構成員には、研究機関外の者、専門以外の者などが含まれるべきである。

3脳の計測にともなう倫理的問題の検討
   最近の機能的磁気共鳴描画による人の脳の計測においては、刺激に対する一定の反応だけでなく、個人の知覚、思考、情動などの状態を可視化できるようになりつつある。このことは、従来外部からは分からなかった個人の心の内的状態の一部を観測できることを意味しており、今後、新しい種類の倫理的問題などが生じる可能性がある。こうした問題の取り扱いを慎重にかつ幅広く検討することが必要である。

(3)

長期的な研究活動の活性化に向けた環境条件づくり

1「脳科学と教育」研究を専門に行う研究機関あるいは組織の設立
   「脳科学と教育」研究を本格的に実施するには、特定の教育現場や、大学・研究機関の研究室の枠を超えた問題が多く存在する。したがって、長期的かつ大規模な研究を行うには、それを専門とする研究機関あるいは組織の設立を視野に入れることが望まれる。

2「脳科学と教育」研究を行う研究者の教育と育成
   「脳科学と教育」研究は、既に述べたように従来の脳科学でも教育学でもない新しい研究分野の創設を目指している。そうした分野の専門家を大学や研究機関で育成することが長期的な分野の発展にとって不可欠である。

3中長期的な研究を推進する研究者の意欲に関わる環境づくり
   現在の研究者は、できるだけ短期間に優れた科学雑誌に多くの研究を発表しないと生き残れないような競争を強いられている。しかし、多くの教育の課題は短時間では結論の出にくい課題を抱えていると考えられる。したがって、研究者が中間的評価を経た上で中長期的な研究にも携わることのできる制度を整備することが望まれる。



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