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「脳科学と教育」研究に関する検討会

2004年4月2日 議事録
「脳科学と教育」研究に関する検討会(第8回)議事概要

1. 日時:平成16年4月2日(金曜日)14時30分〜16時30分

2. 場所:文部科学省F2会議室(古河ビル6階)

3. 出席者:
(委員) 伊藤座長、小泉委員、小西委員、佐伯委員、津本委員、野村委員、長谷川委員、星委員、山田委員
(事務局) 有本科学技術・学術政策局長、井上科学技術・学術政策局次長、河村政策課長、倉持基盤政策課長、戸谷ライフサイエンス課長他
(関係者) 植田科学技術振興機構次長他

4. 議題:
(1) 「心身や言葉の健やかな発達と脳の成長」の進め方について
(2) その他

5. 配布資料:
資料1   独立行政法人科学技術振興機構における新規研究「心身や言葉の健やかな発達と脳の成長」について
資料2   「心身や言葉の健やかな発達と脳の成長」概要(案)
資料3   「心身や言葉の健やかな発達と脳の成長」ミッション研究の概要(案)
資料4   「心身や言葉の健やかな発達と脳の成長」に関する研究の倫理的課題への対応について(案)
参考資料   「脳科学と教育」研究の推進方策について

6. 議事要旨:
(1)  委員から開会の挨拶があった。

(2)  事務局より配布資料の確認があった。

(3)  事務局より資料1独立行政法人科学技術振興機構における新規研究「心身や言葉の健やかな発達と脳の成長」を説明後、以下の質疑・応答が行われた。
 総合科学技術会議の見解で「文部科学省に産学官の有識者による検討体制を設け、その検討に基づき効率的な推進体制の構築」とあるが、この検討会とは別に作るのか。

 この検討会で研究の推進・進捗を議論頂きたいと考えている。

(4)  委員から資料2について説明後、以下の質疑・応答が行われた。
 “コホート”は日本語には訳せないのか。

 これから検討するが、“集団的前方視的”に置き換えることはできるが、実は“コホート”は範囲が広く、全てが前方視的ではない場合もある。疫学研究においては限られた定義で使われたり、発達心理学においては非常に拡張した使い方をしたり、様々なので、ふさわしい日本語はない。

 研究期間が5年間とある。コホート研究は通常非常に長い期間をかけて行うものであると思うが、5年間で大丈夫なのか。

 指摘のとおりであるが、今回は5年間の研究なので3年後に中間評価を実施し、5年後に最終評価を実施する。その評価が高かった場合には、更に延長して実施することになる。そういう前提の上で特にデータについて、どういう形で新たなプログラムに移管するか、最初に文面で設定した上で実施したい。
 コホート研究の全期間が終わってからでないと結果が見えないと言うのでは、予算制度の現状に合わないので、ある断面、断面においてクロスセクショナルな研究を実施していく。これらを組み合わすという形で縦断的な論理と横断的な論理を、縦糸と横糸の様に組み合わしていく、これが新しいコンセプトで、日本独自にうまく出来ないかと考えている。そうするとクロスセクショナルな研究で、新しい知見が色々と出せて、評価時に、確かにこれは意味があるということが具体的に見えてくるので、そういう積み重ねの中にある研究が継続できればと考えている。

 地域拠点毎にコホート研究とあるが、地域拠点とはどういう拠点を選ぶのか。乳幼児環境影響、ソーシャルスキルの神経基盤及び発達期における獲得過程に関する追跡研究とあると、例えば、優れた保育を行っている保育所の様な所に限定し、優れた教育・保育を行っているような地域を選んで実施するのか。

 コホート研究は、最初の群の設定時にバイアスがかからないように、理想的にはある地域で生まれた全数に参加頂くというのが基本になる。地域の選び方に関しては指摘どおり工夫のいるところ。その地域で、この研究の規模に見合う様な1つの群を零歳から五百人規模、五歳から五百人規模とすれば、合計千人規模と設定できるので、そういうところをうまく設定し、その時にかなり明瞭な結果が見えそうで、かつ統計的には統計疫学の視点から見てもおかしくない選択をする。

 今回のテーマは『「脳科学と教育」研究の推進方策について』において挙げられた研究領域の図において緊急性・重要性が両方「大」のテーマをカバーしていると考えて良いか。

 今回のミッション研究の中でほぼカバーする。中には足りないものもあるが、出てくるパラメータの中からそれらが読める部分と、補うべきところを公募型で補う形で、公募型とミッション型をうまく連携させてカバーする。

 ソーシャルスキルというのは社会技術と同じか。

 JSTにおいて社会技術は非常に幅広い意味でとらえられているが、ここではもう少し狭い意味の「社会性」というところから出てきたもの。ソーシャリティというニュアンスでのソーシャルスキルという意味に受け止めている。

 JSTの社会技術研究については、本日、パンフレットや今行われている活動をまとめた資料を参考として配布している。ここで社会技術とは、「社会が抱える様々な問題を解決するために自然科学と人文科学の複数領域の知見を統合して、新しいシステムを構築していくための技術」としている。ここでいっているソーシャルスキルとは少し違う意味である。

 「脳科学と社会研究センター」や「研究センター長」について意見はあるか。

 JSTの考えとしては、基本的にはミッション型と公募型の2つを走らすわけだが、今回は、データのセキュリティやデータの処理といったものが発生するので、きちっとしたセンターを作り、そこで公募型とミッション型の連携を図りつつ、きちんと管理しながら研究を進める形になる。センター全体で大きな組織になるのではなくて、今のようなコホート特有の事情から、しっかりした母体を持たないので、こういうものが考えられている。

 インフォームドコンセントがこの研究では非常に重要になってくると思うが、例えば新生児、乳幼児のインフォームドコンセントは母親から取るのか。また、大きくなった時にデータの公開を求められた場合はどうするのか。色々重要な問題はたくさんあると思われるが、これはどこかでまとめた形で実施されるのか、もしくは各々の研究機関が作ってそれを倫理委員会で審査するのか。

 今回その為のルール案というものを先に作るために法学・法律・生命倫理・数々の倫理委員会を処理している方、あるいはゲノムの研究経験の豊富な方など専門家の方々に入ってもらい検討している。今、指摘のあったところは議論のあったところである。自分で承諾できない赤ちゃんだとかは、そういう条件をきちんと明確にした上での代諾という形で、保護者がインフォームドコンセントを代わりに承諾することは、国際的な基準としても一般的になっており、参照した「疫学研究に関する倫理指針」などでもその様に定められている。またインフォームドコンセントを頂いた後で、もし撤回要求があった場合データをどう取り扱うかといったことなど細部にわたり検討頂いている。

(5)  関係者から資料3、資料4について説明後、以下の質疑・応答が行われた。
 資料4の2ページの下から4行目の「本ミッション」は、他の「本ミッション研究」と同じなのか、それとも違うのか。

 倫理的な調査研究については公募型とも関連するので、公募型でもミッション型でもない中立的なものとして考えており、全体としてこの研究プログラムの一環である。

 ミッション研究の中にそういう組織を作るのか。

 「脳科学と社会研究センター」の中に作ることになる。

 研究体制のところで研究統括のリーダーシップの下に多分野の研究者を有機的に組織し、関係機関との協力のもとに研究を進めるとあるが、具体的には誰がどのようにして決めるのか。

 ミッション研究の研究統括についてはJSTとして定められた手続に従って決定する。

 コホート調査を実施するにあたって、大学医学部、大学病院、大規模病院を介して調査を実施することを企画されているが、こういう所が容易に調査を了解してくれるものなのか。

 いきなり、こういう研究を実施して欲しいと言っても難しいと思うが、コホート調査に熱心な先生方がいるのであらかじめ話はしている。そういった先生方を中心に実施してもらうことを予定している。

 今述べたように、サンプリングの際に気心の知れた研究者のいる地域のみから選ばれるとすると、正確なサンプリングができるのか不安である。

 小児神経の医者は普段からかなり検診を行っている。そこの何人かの先生方と話をし、大体、五万人規模の都市もしくは区において、五百人規模の子供を集められる地域ということで何ヶ所か選抜した。

 それでは対象者にバイアスがかかっていて、特定のグループの方々だけを対象としており、必ずしも日本社会を代表していない可能性があるのではないか。

 全国を5ヶ所程度のブロックに分けており大体1つのブロックの中で更に2つの地域を選んで頂くということになっている。郊外と都市部に分けるといった形で出来るだけ偏りのない様に選ぶように考えている。かなり難しいことは事実ではあるが、現段階では許される範囲で概ね平均であると考えている。1年目の予備調査の状況を踏まえてパイロットスタディの段階で検討しようと考えている。

 今指摘の点については、統計疫学の専門家の方にも入って頂いて、可能な範囲で地域についてもサイエンティフィックに検討してもらいたいと考えている。

 これはやはり大変なオペレーションだという感じがする。一度走り出したらすぐに止めることは出来ない。

 今回特に倫理面についてかなり配慮していると認識している。昨年、ゲノム・遺伝子情報の分野で、ユネスコにおいて、ヒト遺伝子情報に関する国際宣言が出ている。その中では、こういうコホート的な研究を行う際は、一般的な方針を決める際に「社会的な合意」といったものも何らかの形で求めるべきではないかと謳われている。どういうプロセスがうまくできるのかということは、私共も検討しており、直ちに具体的な答えがある訳ではないが、対外的な説明やオープンな場での議論、特に今回、ある特定の地域となると、その地域全体の合意といった問題も出てくるので、その点についての検討も願いたい。

 指摘どおり透明性を重視しているが、全てを開示すれば良いかというと必ずしもそうではない。コホート群に対してバイアスがかからないように、どこまで基本的に透明性を確保するかということを、倫理の準備の中で検討している。また、遺伝子は当面取り扱わないことにしており、今回は非常に慎重な形で進めたいと考えている。透明性という点については、こういうことをやっているということをきちんと倫理審査委員会で許可を取った上で、外へ、出来るだけ広く出させてもらい理解を得るということを現在検討している。

 資料3の(3)中に、「上記の対象者全てを対象に以下の調査等を行う」とある3つ目の・に「行動発達検査(ビデオ記録による定量的解析を含む。)」とある。ソーシャルスキルということになると子供の集団をビデオで記録するのか、親子関係に限定するのか。集団ということになると、どういう形の中で集団を作ってビデオで記録するのか。

 時間的な問題があり、親子と医者あるいは親子だけのところを撮らせてもらおうと考えている。

 先程の説明の中で、期間と研究者の誰にお願いするのかということは分かってきたが、幼児を相手にした場合、非侵襲性といっても、その場合、親はすんなりこの研究に賛成するのかどうか。またその為には説明が必要だが、その場合に資料3の5の(1)21)の「心理的過程を抽出しその神経基盤を成人において解析する。」とあるがこの意味がわからない。これをもって親に説明する時にどのように説明するのか。更に、疫学研究とあるが疫学の「疫」は“病だれ”だが、こういう研究は“病だれ”で良いのか。

 いわゆる非侵襲的な脳機能計測を全員に実施するわけではない。最初に親には通常の検診より少し複雑な検査を行うと説明する。これはおそらくケースコントロールスタディという形になると思うが、もう少し積極的に研究に協力しても良いという方がおられたら、そういう方々には更に詳細な調査、脳機能計測をさせて頂くためにもう一度お話をさせて頂く。それから、2番目の心理的過程を抽出しその神経基盤を成人において解析するという部分の指摘については、ソーシャルスキルをいくつかの課題に分けている。それが脳のどの部分で処理されているかということはまだ大人でも解明されていない部分がある。したがって、まず成人で調査し、ローカリゼーション等を見極めたうえで、それを子供に持っていこうということである。まだ研究途上のことなので結果は分からないが成人においてこういう研究を行うことも成果になるのではないかと考えている。“病だれ”に関しては他に良い言葉があればご教示頂きたい。

 「疫学研究に関する倫理指針」の中に疫学研究の定義があり、「明確に特定された人間集団の中で出現する健康に関する様々な事象の頻度及び分布並びにそれらに影響を与える要因を明らかにする科学研究をいう」とあり、健康に関する様々な事象ということであればこの研究も疫学研究のひとつでないかと考える。

 指摘どおり、「疫学」という言葉は親には使えないのではないかと思うので、検討していきたい。

 最初の段階でもし気になるケースがあった場合は病院を紹介した上でケースコントロールスタディとして協力をお願いすることがあるということは勿論話す。本当にそうなった場合はもう一度話をさせて頂きインフォームドコンセントを取る作業をする。最初の段階で全く言わないという話ではない。

 被験者にとってメリットなのかデメリットなのかという点だが、実は通常の検診よりもう少し詳しく検査するというところが基本となっているので、受ける側からするとよりしっかりと診てもらえるというメリットがある。おそらく実際にやると、そのメリットを被験者の方が感じられるケースがあると思う。必ずしも親にとってマイナス面だけではない。しかし、そうするとそれがバイアスになり得るので、その辺りを十分考慮して疫学者と連携を取ってデザインしなくてはいけない。

 実際に調査データを取得するのはどういう方なのか。またその方に対して法的な守秘義務はかかっているのか。
 研究結果の開示については、ゲノム指針その他からいっても今こういう考え方が主流になっていると思われるので、そのこと自体については結構だと思うが、例えば、個人の資質に対する評価に関係する様な事項など、カウンセリング的なことまで配慮しなくてはいけないことになるのか。

 インフォームドコンセントを取得したり、親から色々なことを聞いたりすることは保健士が行う予定だが、出来れば医者が立ち会う。これを基本としたいと考えているが、それが困難な場合には心理の先生あるいは学生、この場合は事前に十分な研修を行うこととなっており、一定の技術を習得している者と契約することで守秘義務を課す形になる。カウンセリングの結果の開示については、個人データの開示なので当然話はするし、障害が発生、あるいはその可能性のある子供の場合も話をさせてもらう。この場合には、話をさせてもらった段階でコホート本体からは離れていってもらうが、ケースコントロールのグループとしてお付き合い頂ければと考えている。我々小児神経医はそういう事を常に行っているので別途カウンセラーが必要とは考えていない。

 そうなると開示請求があって、開示をする時にはまず神経医の先生が開示結果について、必要があれば説明して頂くという事か。

 それが基本となると考えている。

 問題があると離していくということだが、それだと集団としてのひずみが出てこないか。逆に離さなければならない理由とは何か。

 手続に従って地域の病院に紹介させてもらうケースもある。そのケースだとどうしても介入が入ってくるので、その際はケースコントロールのグループに入って頂くということになる。

 全体としては統計的な追跡調査をするということではいけないのか。

 ケースコントロールだが、その方はどうなったかということは何年か追跡し全体としてその中でフォローしていく。

 フォローとかそういう言葉の意味は統計的な追跡調査の中に入れていくという認識でよろしいか。

 今までよく行われている方法として、例えば何か問題が起きた時にその問題が起きた子供を今度は遡って調べる(いわゆるフォローアップスタディ)という方法があるが、そうすると何か起こった子供について調べるので非常に大きなバイアスがかかる。今回はバイアスがかかっていない状態でかなり大きな集団で前方位的に見ていくという意味で非常にサイエンティフィックなアプローチが出来る。

 介入の結果を検討するものではないという意味で申し上げた。

 先程高度発達検査については主に親子関係の行動を観察するとおっしゃったが例えば5歳から観察を始めた場合にはその子供が学校に行く年齢に達した場合、学校における行動も全く無視できないのではないか。

 学校に行ってそういう検査は行わず5歳以上の子供にも検査の場に来てもらう。

 だが、学校における行動の発達は、かなり重要なモーメントだと思うのだがそれは考えなくても良いのか。

 学校の先生からもそういう情報を集めるという意味であればそういうことも考えている。アンケート用紙はこれから作成していくがビデオ撮影とは少し違う。アンケート調査に関しては当然学校の先生方にお願いしても構わないと考えている。

 この計画だとトータルで五千人規模は少し多いような気がする。零歳、五歳に十歳もサンプルに含めて三千人位にするという方法もある。五千人規模を採ることに何か根拠はあるのか。

 逆に、五千人規模では少ないという指摘は当然あるものだと考えていた。当初我々が考えていた自閉症あるいはADHDの発生の頻度から考えると五千人規模でも一万人規模でも足りない。我々の主だった仮説だけで十個位挙げているのだが、そうすると本当は一万人位の規模が必要なのだが、現実にどの程度の数が集まってくるのか分からないので目安としてそれ位にさせてもらっている。

 私は少ないと思う。それは五千人規模であれば大丈夫だと思うが、人によって置かれている条件は様々なので、細分化していくと各セルの中はどんどん少なくなる。

 今の指摘どおりである。疫学的な発生の頻度を考慮して検討した結果この数字とした。米国は十万人規模でスタートしようとしている。米国の様に最初から大規模に実施するのではなくてコストパフォーマンスの高いコホートスタディができるように研究を進めていきたい。

 最終的には全国十ヶ所程度で行われる予定だが実施する全国の研究者に対する意思統一について十分に配慮頂きたい。これは形式的になると初期の目的を達成することができない。

 このデータの開示について対象者と御両親が請求した時の事は書いてあるが、最終的に何年、何十年と経た後でナショナルデータとして一般の研究者のアクセスがどの程度出来るのか、一般的な共有が出来るのかということについて御教示頂きたい。

 連結不可能ということにして、開示することは可能であると考えている。基本的にはそういうやり方をとりたい。

 成果については論文やマスメディアで公開すると思うが、匿名性を確保した上で、データを他の研究者がそれを研究に活用できるという余地はあるのか。

 問題点をよく検討し、匿名化の部分については厳守せねばならないと考えている。そこが崩れないようにセキュリティシステムを確立した上で実施することは可能と考えている。

 あまりにカタカナ語が多い。特に大規模な社会的調査を行う場合には、その点に配慮願いたい。

 指摘どおり、その辺りはよく検討していく。

(6)  事務局より、「今回の研究計画の策定は、非常に大事な問題だと考えており、是非、今回、欠席の先生方にも意見を伺いたいと考えている。その意見を踏まえたうえで、研究計画の取扱いについて座長と相談する」旨の発言があった。

(了)

(科学技術・学術政策局基盤政策課)

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