II  日本語教育能力検定試験の改善について
  2  日本語教育能力検定試験の内容の改善について



(1)日本語教育能力検定試験の基本的な在り方
1日本語教育能力検定試験の内容及び水準
  『教員養成について』において,日本語教員養成課程編成の基本的方針として従来設けられていた主専攻・副専攻の区分は設けないこととし,基礎から応用に至る選択的な「日本語教員養成において必要とされる教育内容」が示されている。このことにより,日本語教育能力検定試験の内容は,現行の試験における専門家としての最低限の知識・能力を測定するという水準を保った上で,幅広い知識とより実践的な能力を測定することもできる試験を目指すことが期待される。
  また,水準については,「日本語教員養成において必要とされる教育内容」に基づいて大学や日本語教員養成機関等がこれから設置・改編していくであろう養成講座の修了生と同等程度の者が国内外に日本語教育の専門家として活躍していくための基礎的・基本的な知識・能力の必要条件を満たしているか否かを測定するものとすべきである。

2日本語教育能力検定試験の受験資格
  日本語教育能力検定試験の創設当初は,副専攻課程ができる以前から日本語教員であった人たちが副専攻の水準の知識や能力があることを審査するという目的のため,受験資格は,学歴は問わず満20歳以上の者を対象としてきた。今後は,大学入学年齢について規制緩和の方針にある現在の教育改革の動向を勘案し,日本語教育の場に広く教育者・指導者等としてふさわしい知識・能力を有する多くの人材の受け入れを促すため,年齢制限は設けないことが望ましい。
  なお,この日本語教育能力検定試験は,教員の資格を認定するものではない。また,日本語教員としての適性・資質等についても,この試験だけで認定できるものではなく,採用する各々の機関・施設等がそれらの点について評価することが望まれる。

(2)日本語教育能力検定試験の出題範囲
  日本語教育能力検定試験の出題範囲は,基本的に「日本語教員において必要とされる教育内容」において示された5区分を踏まえ「社会・文化・地域」,「言語と社会」,「言語と心理」,「言語と教育」,「言語一般」とし,その5区分は緩やかな関係ととらえ,また優先順位を設けず,いずれも等価と位置付けることが望ましいと考える。
  また,出題範囲の内容は,多様な学習需要や社会状況の変化等を踏まえ実施団体において必要に応じて検討し,出題範囲に変更すべき内容が生じた場合は,受験関係者に対して変更の内容と時期についてできるだけ速やかに周知を行うべきである。
  本協力者会議において提示する出題範囲は,おおむね次のとおりである。




出題範囲

  次のとおりとする。ただし全範囲にわたって出題されるとは限らない。
区分 主要項目
1 社会・文化・地域

1.世界と日本
  (1)諸外国・地域と日本
  (2)日本の社会と文化
2.異文化接触
  (1)異文化適応・調整
  (2)人口の移動(移民・難民政策を含む。)
  (3)児童生徒の文化間移動
3.日本語教育の歴史と現状
  (1)日本語教育史
  (2)日本語教育と国語教育
  (3)言語政策
  (4)日本語の教育哲学
  (5)日本語及び日本語教育に関する試験
  (6)日本語教育事情:世界の各地域,日本の各地域
4.日本語教員の資質・能力

2 言語と社会

1.言語と社会の関係
  (1)社会文化能力
  (2)言語接触・言語管理
  (3)言語政策
  (4)各国の教育制度・教育事情
  (5)社会言語学・言語社会学
2.言語使用と社会
  (1)言語変種
  (2)待遇・敬意表現
  (3)言語・非言語行動
  (4)コミュニケーション学
3.異文化コミュニケーションと社会
  (1)言語・文化相対主義
  (2)二言語併用主義(バイリンガリズム(政策))
  (3)多文化・多言語主義
  (4)アイデンティティ(自己確認,帰属意識)

3 言語と心理

1.言語理解の過程
  (1)予測・推測能力
  (2)談話理解
  (3)記憶・視点
  (4)心理言語学・認知言語学
2.言語習得・発達
  (1)習得過程(第一言語・第二言語)
  (2)中間言語
  (3)二言語併用主義(バイリンガリズム)
  (4)ストラテジー(学習方略)
  (5)学習者タイプ
3.異文化理解と心理
  (1)社会的技能・技術(スキル)
  (2)異文化受容・適応
  (3)日本語教育・学習の情意的側面
  (4)日本語教育と障害者教育

4 言語と教育

1.言語教育法・実技(実習)
  (1)実践的知識・能力
  (2)コースデザイン(教育課程編成),カリキュラム  編成
  (3)教授法
  (4)評価法
  (5)教育実技(実習)
  (6)自己点検・授業分析能力
  (7)誤用分析
  (8)教材分析・開発
  (9)教室・言語環境の設定
  (10)目的・対象別日本語教育法
2.異文化間教育・コミュニケーション教育
  (1)異文化間教育・多文化教育
  (2)国際・比較教育
  (3)国際理解教育
  (4)コミュニケーション教育
  (5)異文化受容訓練
  (6)言語間対照
  (7)学習者の権利
3.言語教育と情報
  (1)データ処理
  (2)メディア/情報技術活用能力(リテラシー)
  (3)学習支援・促進者(ファシリテータ)の養成
  (4)教材開発・選択
  (5)知的所有権問題
  (6)教育工学

5 言語一般

1.言語の構造一般
  (1)言語の類型
  (2)世界の諸言語
  (3)一般言語学・日本語学・対照言語学
  (4)理論言語学・応用言語学
2.日本語の構造
  (1)日本語の構造
  (2)音声・音韻体系
  (3)形態・語彙体系
  (4)文法体系
  (5)意味体系
  (6)語用論的規範
  (7)文字と表記
  (8)日本語史
3.コミュニケーション能力
  (1)受容・理解能力
  (2)言語運用能力
  (3)社会文化能力
  (4)対人関係能力
  (5)異文化調整能力


(注)「1 社会・文化・地域」「2 言語と社会」「3 言語と心理」「4 言語と教育」「5 言語一般」の5区分は,緩やかな関係ととらえ,また優先順位を設けず,いずれも等価と位置付ける。




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