著作権者不明等の場合の裁定制度(第67条)
【 |
現行制度】
著作権者不明等の理由により,相当な努力を払っても,著作権者に連絡できないときに,文化庁長官の裁定により,補償金を供託し,著作物の適法な利用を可能とする制度である。
補償金については,通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額であり,額の決定については,文化審議会に諮問しなければならない(第71条)。
なお,裁定を受けて作成した著作物の複製物には,裁定に基づく著作物である旨及び裁定のあった年月日を表示しなければならない(第67条第2項)。
|
【 |
検討結果】
当該制度については,貴重な著作物を死蔵化せず,世の中に提供し活用させるために有効なものであり,制度は存続すべきである。ただし,制度の存続に異論はないものの,制度を有効に活用するためには,制度面や手続面での改善を行う必要があるとの意見があった。 |
特定機関による裁定の実施 |
裁定制度を簡便化するため,例えば,氏名表示が無い写真や著作物の複写等のように頻繁な利用ではあるが,小規模な利用分野において,特定の機関に裁定の権限を委ねるような仕組みを求める意見があった。
これについては,例えば現行制度においても,著作権に関する登録業務を民間の指定登録機関に実施させる仕組みはあるものの(プログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律第5条),裁定のように他人の私権を制限し,他人に代って利用者に許諾を与えるような業務について民間の指定機関に運用を任せるというような制度設計は難しいところであり,慎重に検討すべき課題だと考える。
著作権の制限規定での対応 |
一旦許諾を受けて利用したものの限定的な再利用(例えばデータベース化)等特別な場合については,裁定制度ではなく,著作権の制限規定で対応すべきという意見があった。
これについては,現行の著作権制度においても,たとえ著作権者が不明等の著作物であっても,例えば私的使用(第30条),教育目的の利用(第33条,第35条等),図書館等における利用(第31条),障害者の福祉の増進のための利用(第37条等)等の著作権の制限規定に該当する場合には,著作権者の許諾なしに利用できるのはいうまでもない。
しかしながら,例えば,著作物の再利用に限定するとはいえ,商業目的の利用も認める著作権の制限規定を新たに創設することは,国際著作権関係条約や制限規定の趣旨に照らし問題が多いと思われるので,慎重な検討を行う必要がある。
なお,現行制度の枠組では,このような結論はやむを得ないと考えられるが,インターネット時代における著作物の利用促進という面から,将来的には制限規定の導入を積極的に考えた方がよいという意見があった。
手続面の問題 |
手続面の改善であるが,この裁定の手続については,厳格すぎて利用しづらいという意見があり,政府の「知的財産推進計画2004」においてもその見直し等が求められたところである。これについては,文化庁で見直しを行い,不明な著作権者を捜すための調査方法を整理した上で,従来新聞広告等を要求していた一般や関係者の協力要請については,インターネットのホームページへの広告掲載でも可とするとともに,併せて,(社)著作権情報センター(CRIC)では,不明な著作権者を捜す窓口ホームページを開設したところである。なお,裁定の手続については,「著作物利用の裁定申請の手引き」を作成し 文化庁ホームページで公開している。
この裁定制度の手続の見直しにより,利用者に求められる調査の方法が明確になり,また従来に比べて調査にかかる事務的又は経済的負担も軽減されたと考える。
なお,個人情報保護法に関連し,不明な著作権者を捜す作業の困難さを懸念する意見もあったが,このことを理由として,著作物を利用しようとする者が通常行うであろう調査方法に足りない方法でよいとすることはできず,例えばインターネット上の尋ね人欄に掲載しただけで調査を尽くしたとすることは難しいと考える。
ただし,CRICの事例のような著作権者を捜すための手段を提供してくれる仕組みの創設,専門家や問い合わせ先の団体を紹介してくれる窓口等の充実,調査を代行してくれる団体等の設置等により利用者の事務的負担の軽減が図れると思われる。
その他(著作物を裁定で利用した旨の表示) |
第67条第2項では,裁定を受け作成した著作物の複製物に,裁定で作成した複製物である旨等の表示を義務付けている。最近では著作物のデータベース化にかかる裁定の申請が増えているが,送信された著作物が裁定で利用された旨を周知させるために,当該著作物の画面表示やプリンターで印刷した際にその旨の表示がされるよう,文化庁は制度の運用を考慮する必要がある。
|