○現行制度 教育を担任する者及び授業を受ける者は,その授業で使用するために,一定の限度で,著作物を複製することができるとともに(第35条第1項),当該複製物の譲渡をすることもできる(第47条の3)。しかし,当該複製物は,「その授業の過程」においてのみ使用できることとされており,他の目的に使用することは,原則として許容されていない(第49条)。 ○問題の所在
第35条第2項が新設されたことにより,同時中継型の授業は,より円滑に展開し得るようになったが,同項の規定は,サーバ内に授業内容をあらかじめ蓄積しておき,任意の時間帯,任意の場所(在宅も含む)で学習できる形態のeラーニングには適用できない。そこで,そのような授業形態のeラーニングを推進するためには,現行第35条第2項は存置したまま,新たに,要件をより厳格化した上で,当該授業を受ける者に対して著作物を公衆送信できるようにすることが適当であるとの要望がある。
第35条第1項の規定に基づいて授業の過程で使用された複製物について,学内で有効活用し,教育的効果の向上を図るため,当該複製物を「当該教育機関の教育の過程」においても使用できるようにする(目的外使用ではないこととする)とともに,当該教育機関内のサーバに蓄積して,見ることができるようにすることが適当であるとの要望がある。
有線LANのように,有線電気通信設備での同一構内における著作物の送信は「公衆送信」としては原則的に位置付けられていない(第2条第1項第7号の2)。これは,従来より同一構内で行われる著作物の有線送信については,演奏権,上演権等で捉えるべき行為と考えられてきたからである(同条第7項)。一方,無線LANを利用した著作物の送信については,無線による送信は一般的に同一構内に限定されるものではなかったことから,有線LANと異なり,法律上は「公衆送信」から除外されていない。
○審議の状況
eラーニングの実態を勘案すると,異時送信による利用にも権利制限を及ぼすべきであるとする意見もあった。しかし,履修者の数が大きくなれば,実質的に「著作者の利益を不当に害することとなる場合」に該当してしまうのではないか,著作物が授業を受ける者以外の者に流通し著作権者の利益に悪影響を及ぼすのではないかなどとして,慎重な検討が必要とする意見があった。また,仮に法改正を検討する場合には,恣意的な解釈による運用を回避するために,教育機関の種別や態様に応じたガイドラインを設けるなど明確化を図る措置が併せて講じられるべきとする意見があった。一方,教育現場における著作物の利用に関しては,一部私立学校関係者等において補償金による権利処理の実験的な取組みが行われているところでもあり,実態も十分踏まえた上で検討する必要があるとの意見があった。
授業の質を高めるために,同じ教育機関の内部で情報の交換・相互利用は有意義であり,可能な限り認められるべきだとする意見もあった。しかし,「当該教育機関の教育の過程」の定義が不明確ではないか,教育機関のサーバに蓄積することにより得られる利益に比して目的外使用の危険性がきわめて高いことなど権利者の利益を不当に害することがないかという点の検証が必要ではないか,教育機関(利用者側)のサーバに大量の他人の著作物を蓄積することの意味を明確にする必要があるのではないかなどとして,慎重な検討が必要であるとする意見があった。また,サーバへの情報の蓄積及びその情報の利用に関する詳細なガイドラインを設定することが必要ではないかとの指摘があった。
教育機関においては,普通教室のLAN整備率が全学校種合計で37.2%であり,特に高等学校においては61.2%と,過半数の普通教室で整備されている。また,無線LANは,個人においては17.1%,LANを導入している企業においては62.1%の企業が導入している。 無線LANは,通信の安全性等の技術や送信の機能等が有線LANと同等のものになっていると評価できるという観点から,有線LANと同様に,無線電気通信設備で「同一の構内」にあるものによる送信についても「公衆送信」の定義から除外することが適当であるとする意見があった。ただし,公衆送信に当たらないとすることの妥当性・影響を検討すべきとの意見もあり,無線LANについて「公衆送信」の定義から除外することの実際上の必要性,除外することによる影響について検討する必要がある。 【参考:LANの導入状況について】 <学校におけるインターネット及びLANの整備状況(平成15年度)> 出典:文部科学省『データから見る日本の教育2005』31頁 <個人の無線LAN導入率(平成17年1月調査実施)> <LAN導入企業の無線LAN導入率(平成17年1月調査実施)> 出典:総務省編『平成17年版 情報通信白書』(ぎょうせい,2005年)88頁
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