○現行制度 著作物は,裁判手続のために必要と認められる場合には,その必要と認められる限度において,複製することができる(第42条)。ここにいう「裁判手続」には「行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続を含む」とされ(第40条第1項),このような準司法手続としては,例えば,特許審判,海難審判あるいは行政不服審査が含まれる。一方,「立法又は行政の目的」のために必要な場合については,「内部資料として必要」と認められる限度においてのみ複製が許容されている(第42条)。 ○問題の所在
薬事法では,医薬品の使用によってもたらされる国民の生命,健康への被害を未然に防止するため,医薬品の品質,有効性及び安全性を確保するために必要な各種関連情報の収集,評価,報告,保存を製薬企業等に義務付けている。具体的には,薬事法上の手続として,製造販売を行う医薬品の承認・再審査・再評価手続における申請書への研究論文等の添付(薬事法第14条,第14条の4,第14条の6),副作用・感染症の報告にかかる制度(薬事法第77条の4の2)や治験に関する副作用等の報告制度(薬事法第80条の2第6項)がある。また,医薬品等の製造販売業者には,医薬品等の適正使用に必要な情報の収集,検討及び医療関係者への提供について,努力義務が課せられている(薬事法第77条の3)。 【薬事法上の各種手続の概要】 承認・再審査・再評価制度の概要 副作用・感染症報告・治験副作用報告制度の概要 医薬品等の製造販売業者による研究論文等の配布 ○審議の状況
国等への迅速な情報伝達により国民の生命,健康への被害を未然に防止するという観点から,権利制限を行うことが必要とする意見が多かった。
本件は,国民の生命・健康を守るために,薬事法に規定された努力義務を果たすために行われる医療関係者への情報提供であり,複製した者が複製物から直接的な利益を得るものではないことから,権利制限の対象とすることに賛成する意見があった。また,権利制限を認めない場合には,権利者の許諾を得るのに時間がかかりすぎるのではないか,権利者が探索できない場合は利用ができず,結果的に患者にしわ寄せがいくのではないかとの意見もあった。医薬品等の製造販売業者による情報提供が果たしている社会的役割にかんがみ,権利者側においては,利用者側の利便への一層の配慮が求められる。 現在,権利者側は,著作物の複製利用促進の観点から,日本複写権センター,学術著作権協会並びに日本著作出版権管理システム等の管理団体に対して複写にかかる権利の委託を行い,利用者に許諾を与えると同時に利用料を徴収し,権利者へ分配するという,権利委託と許諾システムに積極的に取り組んでいる。したがって,当面は,構築されているシステムが利用料の徴収の観点から有効に機能していくか注視することとするが,現状のシステムの下では,製薬会社による情報提供に支障が出る状態にあると思われることから,著作物の通常な利用を妨げず,かつ,著作者の正当な利益を不当に害しないことを条件として,権利制限を認めること等について,検討を行うことが適当である。 【理工学書(特許審査関連),医学書(薬事行政関連)出版物の委託状況】
【日本複写権センターと権利者・利用者との関係】
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