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第1章 地域文化を振興する意義

1. 地域文化の本質的意義
(1) 心の豊かさの創出
 文化は,人々に楽しさや感動,精神的な安らぎや生きる喜びをもたらして人生を豊かにするとともに,豊かな人間性を涵(かん)養(よう)し,創造性をはぐくむものである。また,すべての国民が真にゆとりと潤いの実感できる心豊かな生活を実現していく上で不可欠なものであり,文化芸術の振興が求められている。

(2) 住民の身近な文化芸術活動の機会の確保
 文化を創造し,享受することは人々の生まれながらの権利であることを踏まえ,地域文化の振興に当たっては,住民がその居住する地域にかかわらず等しく文化芸術を鑑賞できる機会が得られるとともに,文化芸術活動に主体的に参加し,文化芸術を創造していく機会を拡充することが重要である。
 しかしながら,現在の日本では,文化芸術の鑑賞機会の提供や文化関連産業の活動は東京及びその周辺部に集中している。例えば,オペラや演劇等の公演活動のうち約37%,企業によるメセナ活動の約40%が東京都で実施されている(芸能白書2001,メセナ活動実態調査2004)。文化芸術活動が全国のどこにおいてもそれぞれの地域の特性に即した形で存在し,国民が地域の特色ある文化芸術に触れる機会を確保するためには,文化芸術の東京一極集中を緩和し,地域文化の振興を図ることが強く求められている。

(3) 地域社会の連帯感の形成
 地域の豊かな自然や言葉,昔から親しまれている祭りや行事,歴史的な建造物や町並み,景観,地域に根ざした文化芸術活動等は,それ自体が独自の価値を持つだけでなく,住民の地域への誇りや愛着を深め,住民共通のよりどころとなり,地域社会の連帯感を強めることにも資することから,地域づくりを進める上で重要な役割を有するものである。

(4) 地域文化の振興による日本文化の振興
 地域文化が有する文化の厚みが日本文化の基盤を成しており,地域文化が豊かになればなるほど日本全体の文化も豊かになり,日本の魅力が一層高まっていくことにつながると考えられる。そのため,地域の歴史,風土等に培われた特色ある伝統的な文化を継承・発展させるとともに,地域から新しい文化芸術活動を創造し発信していくための環境を整備することが重要である。

(5) 世界的な視野での文化多様性の確保
 情報技術の進展や経済のグローバル化(地球規模化)による文化の画一化に伴う文化的アイデンティティ(独自性)の危機や対立が懸念されている。日本は古来より,多種多様な外来文化を受容しつつ独自の文化を形成してきたが,それは日本の各地域がそれぞれの自然や歴史を反映した特色ある文化を営んできたことが一つの要因であったと考えられる。各地域で独自性のある文化が振興されることは日本全体として文化多様性の確保につながるものである。

2. 地域社会を活性化させる文化
 文化には人を動かす力がある。地域社会の住民一人一人が文化に触れたり,創造にかかわったりすることは,それぞれの持つ個性を発揮させ,元気にするばかりでなく,他者への発信や協働を通じて多くの人々を元気にする力がある。また,長年にわたり培われてきた伝統文化や地域の特色ある文化芸術活動には,その地域内外の人々を魅了する力がある。
 このように,文化には,人々に元気を与え地域社会全体を活性化させて,魅力ある社会づくりを推進する力がある。このような文化の持つ力(「文化力」)は,文化芸術以外の様々な分野の活性化にも貢献し得るものである。
(1) 地域経済を活性化させる文化
 文化芸術活動は,経済の活性化につながる側面も有している。例えば,地域において行われる文化芸術活動は,文化施設の利用や文化財の保存と活用による消費の拡大,観光等による交流人口の増大等のように地域経済に対して経済波及効果をもたらすと言われている。また,経済のソフト化・サービス化が進展する中で,文化芸術活動にかかわる余暇関連産業や映像情報産業等の文化関連産業のように,付加価値の高い財やサービスの提供等を通じて,文化が新たな需要を喚起し,知識集約的産業として雇用を創出するなど,地域経済を活性化させる効果があるとの認識も強まってきている。

(2) 観光資源としての文化
 観光は地域活性化の有力な切り札であるが,文化は魅力ある観光資源として重視されている。内閣府が平成16年に実施した「観光立国に関する特別世論調査」によれば,海外に発信すべき「日本ブランド」としてどのようなものに魅力があるかとの問いに対して,「神社,仏閣など歴史的建造物や街並み」が65.9%,「伝統芸能や祭り,伝統産業」が52.5%を占めている。歴史や伝統に基づく文化が海外に対して大きな魅力を持ち,我が国を代表するブランド(象徴)であると国民が考えていることがわかる。さらに,「観光立国」を実現するための要望として,「個性ある地域づくりの支援」(42.0%)が最も多く回答されていることを見ても,地域の歴史や伝統に基づく文化に着目して,特色のある地域づくりを進めることが日本の魅力を高めるとの意識を有する者が多いことがうかがわれる。
 平成16年11月に政府の観光立国推進戦略会議が取りまとめた「観光立国推進戦略会議報告書」においても,地域の魅力を高め,国内外に発信するに当たっては,伝統文化など地域の特色ある文化資源の活用を図ることが重要であることを提言している。

(3) 教育や福祉などの分野でも大きな効果を持つ文化
 「文化力」には,教育や福祉などの分野が抱える課題に対しても効果がある。
 例えば,子どもたちが本物の文化芸術に触れ,日頃味わえない感動や刺激を直接体験することによって,豊かな人間性と創造性を育むことにつながる。また,文化芸術活動への参加を通して,自己の感性を磨き,他者との共感を育むことによって,自己形成やコミュニケーション能力を伸ばすことができる。このような表現活動に注目した取組みが大きな教育的効果を持つことを踏まえ,学校教育においても表現活動が重視され始めている。
 福祉の分野においても,大声を出して歌うことや,舞踊や演劇等を通じて身体を動かすことは,心身の健康の維持や増進にも役立つ効果があるとの指摘もあり,高齢者に対する福祉活動に文化芸術を取り入れることが注目されている。
 こうした文化芸術活動の持つ力を他の分野に積極的に活用していくことも,社会全体の活力を高める上で有意義である。


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