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文化審議会国語分科会国語教育等小委員会の意見のまとめ

平成11年8月22日
 

1   国語教育の基本的な考え方

(1)国語力の向上を目指す理由

   国語の果たす役割は極めて広範囲にわたり,文化の中核である国語の重要性はいつの時代においても変わるものではない。その意味で,国語力の向上に不断の努力を重ねることは,いつの時代においても大切なことである。

   しかし,人々の生活を取り巻く環境がこれまで以上に,急速に変化していくことが予想されるこれからの時代を考えるとき,国語力の重要性について改めて認識する必要がある。社会の変化は様々な方面で同時並行的に進行しているが,これらはいずれも国語力の問題と切り離せないものと考えられるからである。
   例えば,都市化,国際化により増加した見知らぬ人や外国人との意思疎通,少子高齢化によって変化しつつある異なる世代との意思疎通,近年急速に増加した情報機器を介しての間接的な意思疎通などにおいて,多様で円滑なコミュニケーションを実現するためには,これまで以上の国語力が求められることは明らかである。また,少子高齢化や核家族化に伴って家庭や家族の在り方が変容し,従来,家庭や家族が有していた子供たちへの言語教育力が低下していると言われていることも大きな問題である。

   さらに,近年の日本社会に見られる人心や政治・経済などの荒廃が,高次の情緒力の欠如に起因する部分が大きいと考えられることも問題である。高次の情緒力とは,例えば,他人の痛みを自分の痛みとして感じる心,美的感受性,もののあわれ,懐かしさ,家族愛,郷土愛,祖国愛(日本の文化,伝統,自然を愛する心),名誉や恥といった高次の情緒を解する力である。これは自然に身に付くものではなく,国語教育で教えるべきものである。国語教育の本当の重要性は,この高次の情緒力を身に付けさせ,それによって確かな教養や大局観を育成することにある。そのためには,高次の情緒力の形成に欠くことのできない読書が大切であり,「自ら本に手を伸ばす子供を育てる国語教育」が必要である。

   現在,国際化の進展に伴って,自分の意見をきちんと述べるための論理的思考力の育成,日本人としての自己の確立の必要性,英語をはじめとした外国語を習得することの重要性が盛んに言われるが,論理的思考力を獲得し自己を確立するためにも,外国語の習得においても,母語である国語の能力が大きくかかわるものである。更に言えば,国際化された世界とはオーケストラのようなものであり,日本人は日本の文化や伝統を身に付けて世界に出ていくことが必要である。自国の文化や伝統の大切さを真に認識することが,他国の文化や伝統の大切さを理解することにつながっていく。このことは日本に限らず,どの国にも当てはまることである。各国の文化と伝統の中心は,それぞれの国語であり,その意味で,国際化の中核は国語であると言ってよい。高次の情緒力と論理的思考力の育成を中心に国語教育をまとめ,それを世界へ発信していくことも大切なことである。

   また,情報化の進展に伴っては,膨大な情報を素早く正確に判断・処理する能力の大切さや,自らの考えや主張を的確にまとめて情報として発信していく能力の重要性がつとに指摘されている。この情報の受信・発信能力の根底にあるのが国語力であることは異論のないところであろう。

   上述のような社会状況の変化は,言葉の在り方や人間関係の在り方にも大きな影響を及ぼしている。すなわち,言葉の変化のうち語彙に関するものの多くは,新語,流行語や,外来語,外国語,専門用語等の増加であり,そのことが語法等の変化とあいまって世代間で使用する言葉の差を広げる結果ともなっている。言葉が伝達手段として十分に機能するには,相手や場面にふさわしいものでなければならず,不適切である場合には伝達機能ばかりか,人間関係の阻害にさえつながりかねない。
   また,若い世代においては,言葉を適切に用いて人間関係を築き維持していく,人間関係形成の能力が衰えているとの指摘もある。近年,頻発する子供をめぐっての社会的な諸問題の根底には,異世代間や同世代間で円滑な人間関係を築いていくための国語の運用能力(特に話す,聞くなど)が十分に育成されていないことが,大きくかかわっているのではないかとも言われている。

   国語はすべての活動の源であり,国語力がその人間の能力の大きな要素となっている面もあるが,近年の日本人の国語力をめぐっては,言葉遣いや語彙,発表能力や文章作成能力などに種々の問題点を指摘する声がある。これらの問題点の要因の一つとして,中学生以降の年代における読書量の低下を挙げることもできよう。例えば,全国学校図書館協議会と毎日新聞社が毎年行っている全国の小・中・高等学校の児童生徒の読書状況の調査によれば,平成14年度における5月の1か月間の平均読書冊数は,小学校では7.5冊であるのに対し,中学校では2.5冊,高等学校では1.5冊という結果が出ている。また,1か月に1冊も本を読まなかった者の割合は, 小学校では8.9%にすぎないのに対し,中学校では32.8%,高等学校では実に56.0%に達している。

   これまで述べてきたような種々の社会変化やそこから引き起こされている様々な問題に柔軟に対応していくためには,国語の重要性やその果たす役割を踏まえて,一人一人がこれまで以上に国語力を高めていくことが必要である。これからの時代の中で,各人がより良く生きるために国語力を一層向上させていくことが求められているゆえんである。国語教育は,この極めて大切な国語力を確実に身に付けさせるものでなければならない。


(2)国語力を向上させる国語教育の在り方

<国語教育は社会全体の課題>
   国語教育に関し,特に重要な役割を担うのは学校教育であるが,その中でも初等教育段階における国語教育は極めて重要である。しかし,言葉にかかわる国語教育の問題は学校教育だけに限定できるものではない。家庭や地域社会における言語環境が,子供たちの国語力に大きな影響を及ぼすことも考慮し,学校教育,家庭教育,社会教育などを通じて,国語教育を社会全体の課題としてとらえていく必要がある。

<高次の情緒力・論理的な思考力・語彙力の育成を>
   今後の国際化社会の中では,まず論理的な思考力が重要であり,自分の考えや意見を論理的に述べて問題を解決していく力が重要である。しかし,論理的な思考を展開していくときに,その出発点となる最初の仮説を選ぶのは,その人の高次の情緒力によると考えられる。したがって,論理的な思考力を育成するだけでは十分でなく,それ以前に高次の情緒力の育成を考えていくことが必要である。これに加えて,漢字・漢語を含め国語の語句・語彙力の育成が重要である。人間の思考は言葉を用いる以上,その人間の所有する語彙の範囲を超えられるものではない。高次の情緒力と論理力を根底で支えるのが語彙力である。

<「自ら本に手を伸ばす子供」を育てる>
   高次の情緒力,論理力,語彙力を身に付けるためには読書が重要である。本年1月にまとめられた「審議経過の概要」にも示されているように,読書は,国語力を形成している「考える力」,「感じる力」,「想像する力」,「表す力」,「国語の知識等」のいずれにもかかわり,これらの力を育てる上で中核となるものである。また,すべての活動の基盤である「教養・価値観・感性」などを生涯を通じて身に付けていくために不可欠,というより読書なしに教養等を形成していくことはあり得ないと言えるほど重要なものである。読書によって高次の情緒力や論理力などの知的能力が身に付いた子供たちが親になった時,初めて自分の子供にきちんとした国語の教育ができるようになる。そういう長い目で国語教育をとらえていくことが大切であり,そのための読書の重視を考えていかなければならない。

<「聞く・話す・読む・書く」と国語力の関係>
   「審議経過の概要」では,国語力の中核である「考える力」「感じる力」「想像する力」「表す力」の四つの能力が機能として発現したものが,「聞く」「話す」「読む」「書く」であるとしている。したがって,国語力とは単なる「聞く」「話す」「読む」「書く」のスキル(技能)ではなく,「聞く・話す・読む・書く」の背後にある「考える力」などの四つの能力が複雑に絡み合ったものである。その意味で,「聞く・話す・読む・書く」の力を伸ばすには,国語力の中核である「考える力」などの四つの能力を伸ばすことが必要であるという認識に立つことが求められる。
   また,日常の言語生活においては,「聞く」「話す」「読む」「書く」という機能(言語活動)が複雑に組み合わされて用いられている。この点に配慮して,国語教育においても,「聞く」「話す」「読む」「書く」というそれぞれの言語活動を有機的に組み合わせて指導していくという観点が特に重要である。

<発達段階に応じた国語教育を>
   その上で,国語力の効率的な向上を目指すためには,一人の人間がどのように発達していくのかという観点から,各発達段階でどのような国語教育を行うべきかを考えていく必要がある。学校段階に余りこだわることなく,子供の発達段階をきちんと踏まえて,高次の情緒力や論理力を育てていくためには,どのような力が必要なのかを具体的に考えていくことが求められる。
   その際に,国語力のうちの言語の運用能力(聞く・話す・読む・書く)にかかわる部分は基本的に双方向の交流としてのコミュニケーションを通じてしか育たないという視点も大切である。また,コミュニケーション能力は社会生活を送っていく上で欠かせないものであるだけでなく,最近の脳科学の研究成果によれば,コミュニケーションを行う際に活性化する脳の場所は国語力とかかわる部分でもあることが判明している。このことから,コミュニケーション能力を鍛えることで,国語力を支える脳の部分も鍛えられることになると考えられる。

<発達段階に応じた国語教育の具体的な展開>
   発達段階に応じた国語教育を考えていくためには,次のような脳科学の知見を参考にすることが大切であると言えよう。
   すなわち,生後から3歳にかけては前頭前野の神経細胞に急激な成長が見られるが,その後大きな変化が見られなくなる。前頭前野に再び大きな変化が表れるのは,小学校高学年から中学にかけてである。この時期には,論理力・表現力にかかわる前頭前野に血流・代謝の大きな変化が起こり,成人と同じような脳の使い方をするようになる。論理力・表現力の教育・指導は,上述の前頭前野の発達段階を踏まえて,「3歳までの乳幼児期」「3歳〜11・12歳(小学校高学年くらい)まで」「13歳(中学生)以上」と3段階に分けて考えることができる。
   一方,「審議経過の概要」で「国語の知識等」に位置付けられている語彙力は側頭葉と関係している。側頭葉は前頭前野と違って,早くから大人と同じような働きをするようになるので,語彙力の教育・指導は子供の時から大人になるまで,直線的に同じ調子で行ってもよいと考えられる。なお,「聞く力」についても側頭葉がかかわっている。
   以上のような基本認識に立って,「3歳までの乳幼児期」「3歳〜11・12歳(小学校高学年くらい)まで」「13歳(中学生)以上」と3段階に分けて,それぞれの段階において重点を置くべき「国語教育の内容」を「イメージ図」とともに大まかに示せば,次のようになろう。

発達段階に応じた国語教育のイメージ図


ア   3歳までの乳幼児期   【コミュニケーション重視期】
       生後から3歳にかけて,前頭前野の神経細胞は急激に成長する。乳幼児期の脳発達に最も重要なのは,親子のコミュニケーションである。「話す・聞く」を中心とした親子のコミュニケーションを通じて,家庭の中で言葉を育てることが重要である。乳幼児は親とのコミュニケーションによって語句・語彙力を身に付けることができる。また,親が子供に心を開くことで,まず,子供の感性・情緒を育てながら,言葉を発達させていくことが重要である。子供の言葉を育て,豊かな感性をはぐくむことのできるコミュニケーションの在り方を親をはじめ子育てにかかわる人たちに教育することも考慮すべきであろう。

イ   3歳〜11・12歳(小学校高学年くらい)まで   【土台作り期】
     この時期には,前頭前野の神経細胞には大きな変化は起こらないが,語彙力など言葉の知識をつかさどる側頭葉や頭頂葉などの神経細胞は成長を続ける。
   幼稚園児では,読み聞かせや可能であれば読書により言葉の数を増やし,さらに言葉と社会や事物との関係を習得するために,家庭や地域で多くの様々な経験を積ませることを意識すべきである。これにより,情緒力や想像力も身に付けることができる。
   小学校では,「話す・聞く」に加えて「読む・書く」の繰り返し練習により,国語力の基礎となる知識を確実に身に付けさせることが重要である。特に,「読み」の学習を先行させることで,言葉の知識(語彙力)を増やすことに重点を置くべきである。

ウ   13歳(中学生)以上   【発展期】
     個人差はあるが思春期を迎えたころから,前頭前野の神経細胞は再び急激な成長を始める。これにより,それまでに培ってきた国語力の基礎(土台)を用いて,自らの経験など様々な情報を複合して,論理的な思考を行うことが可能となる。
   国語科の学習においては当然のことであるが,様々な社会体験や社会科や理科の学習などを通して,論理力の育成に努めることが重要である。また,脳の情報処理能力が飛躍的に伸びる時期であるので,多くの読書体験により,情緒力・想像力・論理力・語彙力の総合的な発達を促すべきである。


2   学校における国語教育

(1)基本的な考え方

<国語教育を中核に据えた学校教育を>
   学校教育においては,国語科はもとより,各教科その他の教育活動全体の中で,適切かつ効果的な国語の教育が行われる必要がある。すなわち,国語教育を学校教育の中核に据えて,全教育課程を編成することが重要である。その際には,国語科で行うべきことと他教科で行うべきこととを相互の関連を踏まえて整理していくこと,学習の進度についても様々な子供たちが存在しているという現実を踏まえること,目的を明確にした上で子供たちの意欲を喚起させるような在り方を考えることが必要である。
   また,発達段階・学校段階を考慮すれば,国語教育の重要性についてもおのずとそこには濃淡が生じることになる。すなわち,小学校段階,中学校段階,高等学校段階の順にその重要度は相対的に低くなる。小学校段階は発達段階から考えて最も国語力の向上に重要な時期である。したがって,小・中・高全体のカリキュラムを見渡して,小学校では国語の授業時間を大幅に増やし,逆に,高校では個人差に応じて選択科目を中心にするといった考え方も必要であろう。
   さらに,<発達段階に応じた国語教育の具体的な展開>で述べたように,小学校では「読む・書く」の繰り返し練習により国語の知識を確実に身に付けさせること,中学校や高校では論理力の育成に努めることが特に重要である。

<言葉への信頼を育てることが大切>
   国語教育の在り方を考える場合の根本的な問題として,日本人の多くが言葉の力を信じていないという深刻な問題がある。言葉によって物事が変わるのであり,また,変えていくことができるという言葉への信頼を国語科だけでなく,学校教育全体の中で教えていくことが大切である。このような言葉に対する信頼がないと,国語教育そのものが成立しにくくなるだけでなく,日本の社会そのものが危うくなるおそれがある。言葉への信頼については,コミュニケーションを通して形成されていく面もあり,学校教育の中で,話す,聞くについても配慮していく必要がある。特に,人間関係形成の能力としての「話す」「聞く」「話し合う」の力を確実に育成することが求められる。


(2)国語科教育の在り方

<国語科で身に付けさせる大切な能力>
   学校における国語科教育では,今後,「高次の情緒力」,「論理的な思考力」,「思考そのものを支えていく語彙力」の育成を重視していくことが必要である。
   高次の情緒力を身に付けるためには,初等教育段階の国語科の授業の中で文学作品を中心とした読むことの授業を意図的に組み立てていくことが考えられる。この時期においては「読む」ことを重視し,同時に,読めるための「書く」を重視する必要がある。
   また,論理的な思考力の育成は国語科が大きな役割を担うべきである。日常生活の論理は言葉の論理でもあるので,言語を通して身に付けるのが最も効果的であると考えられるためである。具体的には,文章を書くことの指導や自分の考えや意見を述べる機会を多く設けることなどにより,論理的な思考力を高めていくことが必要である。
   さらに,思考そのものを支える語彙力を身に付けるためには漢語文化の重要性を見直した上で,漢字の指導に力を入れていくことが大切である。
   上記の三つの能力の育成に当たっては,国語嫌いの子供を増やさないような指導方法を一層工夫改善していくことが特に重要である。

<教科内容をより明確にする>
   国語科の根本の部分にあるのは感性に基づく情緒力の育成であり,これが大きな領域となっているが,小学校段階でも説明文を学びながら論理力を養い,更に中・高では感性・情緒と論理とを並列的に養い続ける形になっている。情緒力と論理力を十分に能力として使えるところまで確実に養う必要がある。そのために,国語科の授業時間を増やすとともに,「文学」(あるいは「読書」)では読みを深める,「言語」では「書く」と「聞く・話す」を取り上げるというように,教科内容を「文学」と「言語」という2分野に整理することも考えられる。また,国語科教育は明確な主張を持っていることが大切であり,教科書教材も主張があるものを入れる必要がある。

<指導の重点は「読む・書く」にある>
   初等教育段階の国語科においては,「読む」「書く」「話す」「聞く」のうち,「読む」「書く」が確実に身に付くようにしていくことが必要である。これは,いわゆる「読み・書き」の徹底を図ることが重要であること,基本的に「読む」ことで高次の情緒力が身に付けられること,論理的な思考力の育成は「書く」ことが中心になると考えられることによる。今以上に,「読み・書き」の定着を図ることが重要である。
   さらに,「書く」ことは,考えを整理し,考えることそのものの鍛錬にもなる。したがって,まとまった話をするためにも書くことは大切である。また,「読む」「聞く」「話す」と「書く」を組み合わせて指導していくという観点も重視すべきである。
   しかし,最近の子供たちは書くことを嫌う傾向がある。これは我慢する力が不足しているためでもある。我慢や忍耐を描いた文学作品を読んで,その大切さに触れることも必要であろう。なお,中学校や高校の国語科においては授業内容が教師による個人的な感覚の押し付けにならないよう,特に留意することが必要である。

<演劇などを取り入れた授業を>
   演劇を国語科の授業に入れると,読む,書く,話す,聞くのすべてが有機的につながる授業ができる。言葉は本来有機的につながってこそ使えるものである。文学作品として習うだけでは不十分で,歌にして歌うとか,ドラマにして演じるということが大切である。これらは初等教育においても重要である。
   言葉の美しさを再発見するという視点を大切にして,国語科の授業の中で,暗唱し,身体で表現することのすばらしさを体験させる必要もあろう。

<音読・暗唱と古典の重視>
   読み・書き・計算の基礎的なトレーニングによって,国語力や独創力とかかわる脳の場所が活性化するという脳科学の知見もあり,特に音読が効果的であることから,積極的に音読を取り入れていくことが大切である。また,音読することによって,漢字の読みや文章の内容を確実に身に付けることもできる。
   さらに,朗唱や暗唱を重視すべきであり,朗唱や暗唱にふさわしい文章を初等教育段階から積極的に入れていくことを考えるべきである。特に,日本の文化として,これまで大切にされ継承されてきた古典については,国語の美しい表現やリズムを身に付ける上でも朗唱や暗唱にふさわしいものであり,高次の情緒力を身に付け,豊かな人間性を形成する上でも重要なものである。現在以上に,古典に触れることのできるような授業の在り方が求められると言えよう。

<漢字指導の徹底を考える>
   国語の授業時間を増加して,小学校6年生までに常用漢字のすべてを読めるように,現在の学年別漢字配当表を検討することも考えたらどうか。

(3)国語科と他教科との関係

<国語科以外の教科でも国語力の育成を>
   国語力の育成を直接担うのは国語科の役割である。したがって,国語科で国語力の基礎・基本を確実に身に付けさせて,他教科でも応用できるようにすることが大切である。しかし,国語力は算数でも理科でもすべての教科の中で養われるものであり,国語科の枠を超えて国語力の育成を考えることが必要である。例えば,社会科や理科でレポートを書いたり,調べたことを発表したりすることは国語力の育成に大切なことである。
   さらに,学校教育の全体を通じて,言語環境を整え,あいさつや敬意表現など生活に密着した言葉を身に付けさせることにも配慮すべきである。

<国語科と他教科>
   「話す」「聞く」の指導については,国語科だけでなく,すべての教科で一層意識的に行っていくことが大切である。そうすることで,国語科は「聞く・話す・読む・書く」のバランスに配慮しつつも,「読む」「書く」に重点を置くことができ,現在以上に効率的・効果的な教育を行うことができると考えられる。
   「書く」ことについては,「書く」ことの基本を身に付けさせるとともに,自己表現としての「書く」や論理力を育成する「書く」は国語科を中心に行い,実生活における「書く」は他教科などで行うという考え方を採ることが大切である。その上で,どの教科でもメモやノートを取ることなどをこれまで以上に指導していく必要もある。
   総合的な学習の時間は,国語科との関係を踏まえることも重要であり,教科の学習内容との関連を大切にしながら,子供たちに知的刺激を与えることが大切である。
   また,他教科では用語及びその意味用法が国語科と違うものがかなりあるので,国語科は他教科の用語まで考慮していくことが求められよう。


3   家庭や社会における国語教育

(1)基本的な考え方

<生涯学習的な観点を大切にする>
   国語力を効果的・効率的に向上させるためには,学校教育だけでなく,家庭や社会における国語教育が重要である。特に,家庭や社会の国語教育においては言語環境としてのマスコミの影響を考慮する必要がある。
   また,国語力の向上は,生涯にわたって追求される課題である。したがって,各人が高次の情緒力をはじめ国語力の向上に対して,自覚的に継続して取り組んでいくような社会的な雰囲気を醸成していくことも極めて大切なことである。

<コミュニケーションを重視する>
   家庭や地域においては,まずコミュニケーションを増やす努力が大切である。そのことが,子供たちの国語力を育てることに直結すると考えられる。最近ではテレビやビデオを使って,子供たちの国語力を育てようとする例も増えているようであるが,何よりもコミュニケーションの重要性を考えるべきである。これは,<発達段階に応じた国語教育の具体的な展開>にあるように,親子のコミュニケーションが乳幼児の脳の発達に最も重要であり,子供の言葉を育てることになるからである。
   したがって,家庭においては子供が言葉を覚えコミュニケーション能力を獲得していく上で,子供にとって何でも話せる対象である両親,特に母親との関係が重要である。子供の言葉を大切にし,子供の言葉が人間関係の裏付けを持てるように配慮する必要がある。家庭では親子のコミュニケーションを通じて,まず子供の情緒力を育てることが大切であるが,子供が言葉を学ぶための大切な機能を社会全体で担っていくという考え方も重要である。
   地域社会の中で,子供たちの国語力を育てることが少なくなってきている。これは,地域社会におけるコミュニケーションが少なくなっているということであり,この問題の深刻さについても考える必要がある。国語が文化の基本であることを踏まえ,地域のだれもが子供たちとのコミュニケーションを通じて国語力を育てる責任を有しているという意識を喚起していくことも大切である。地域社会との交流を進め,学校と地域社会との双方向の活動を生かすことが国語力を付けることにつながるものと考えられる。


(2)家庭や地域における取組等

<家庭で言葉を育てる>
   家庭における本の「読み聞かせ」やお話などは子供の言語獲得に結び付く極めて大事なものである。国語教育の第一歩は,乳幼児期における親の言葉掛けであり,家庭内のコミュニケーションである。子供にとって読書が可能になれば,読書により言葉の数を増やすとともに,家庭や地域で様々な経験を積ませることで,言葉と社会や事物との関係を習得できるように配慮する必要がある。
   家庭内のコミュニケーションを確保するためには,家庭においてテレビを消す時間を作るべきである。また,若い親が子供の言語形成に関心がない,あるいは関心があったとしても,仕事を持っているためにうまくできないという問題に対して,施策の面で若い親を助けていくという取組を考える必要がある。

<地域社会を大事にする>
   地域においては,高齢者と幼児が一緒に行う音読会のような社会システムを作るべきである。また,自治体が支援して,地域の人が「読み聞かせ」をするといった活動を強化していくことも大切である。
   さらに,母親の存在が社会から切り離されているという問題もあるので,母親同士を結び付けることも必要である。また,母親同士で子育てを支援するという活動を行っているNPO(民間非営利団体)もあるので,そのようなNPOを支援するということも考えられる。

<マスコミの影響力を考慮する>
   特に子供たちの国語力に対しては,言語環境としてのマスコミの影響が大きい。このことを念頭に置いて,国語力育成の問題を検討する必要がある。現実を見ると,テレビなどのメディアが普及し,読書をしなくても生活できるようになっている。このような状況にどう歯止めを掛けるかが大切であるが,逆に,国語力向上の上でマスコミの影響を積極的に考慮していくことも重要である。
   例えば,古典に出てくるような古い言葉であっても,提供の仕方によっては子供たちに相当浸透していくはずである。また,テレビを用いて正しい日本語を普及していく取組なども考えられる。具体的には,民放やNHKなどで言葉遣いに関する15秒のスポットを流すようなことを考えてほしいと提案することも有効な方策となろう。テレビなどマスコミの影響の大きさについても十分に考慮していくことが大切である。


4   その他

(1)漢字とルビ

   国語力の育成において,語彙力との関係から漢字の問題は特に重要である。ワープロなどの情報機器の急速な普及もあって,「憂鬱」「顰蹙」など,書くことはできないが,よく使われるという語を目にする機会が増えている。このような常用漢字表にはないがよく目にする漢字の扱いについて,その考え方を国語施策の面から打ち出す必要があるのかどうか検討することも考えられる。
   その際に,ルビの積極的な活用についても考える必要があろう。ルビを振ることは,それだけで漢字の勉強になる。また,子供たちはルビの振られた漢字を何度も見ることで,その漢字を覚えてしまうものである。


(2)その他

   国語力の効率的な育成を考えるためにも,脳研究のような実証性を伴った研究を積極的に進めていくべきである。
   また,「千円から」「〜の方(ほう)」などのいわゆるマニュアル言葉については,その安易な使用に対して再考を促していくことも大切である。国語力の向上という観点から,国民の言葉遣いに対する意識や関心を高めていくことは極めて重要である。


5   目指すべき国語力の具体的目安

   国語力の具体的目安について,国語教育等小委員会では,昨年7月に実施した委員アンケートを基に以下のように目安を整理し,検討を加えた。その結果,国語教育等小委員会で国語力の中でも特に重要であるとした「高次の情緒力」「論理的な思考力」「語彙力」の三つの力に対応する形で示したらどうかという意見が多かったものの,大変難しい問題であり,現在のところ結論を得るには至っていない。
   読書活動等小委員会でも議論が行われているところであり,今後,文化審議会国語分科会全体で更に議論を深める必要があると考えられる。

1   読む力

1   論理的・説明的な文章において,論理を読み取る力
       1 新聞や雑誌などを読んで情報を正確に理解できる。
  2 文章の構成や論理の展開に沿って読み取ることができる。
  3 事実や意見等を区別して読み取ることができる。
  4 課題解決のために必要な情報を収集し,情報を処理するための読み方ができる。

2   文学的な文章において,気持ちや感情を読み取る力
       1 登場人物に感情移入し,その心情を理解できる。
  2 比喩的,多義的,含意的な文章表現を読み味わうことができる。
  3 書き手の思考や心情に迫ることができる。
  4 様々な描写をとらえ,内容を的確に理解できる。

3   初歩的な古典(古文,漢文等)の文章を読み取る力
       1 有名な古典作品のリズムや響きなどを理解できる。
  2 必要な古典の素読や暗唱を重視し,日本の文化を理解できる。


※    上記の力を支えるものとして,語彙力,文法力,漢字力等がある。

2   書く力

1   自分の考えや意見などを正確に伝える論理的な文章を書く力
    1 自分の考えや意見について客観的な根拠や理由を示した文章が書ける。
  2 帰納法や演繹法を用いて,構成を意識した文章が書ける。
  3 事実や根拠などを明らかにした論理的な文章が書ける。
  4 単なる感想文ではなく,思考,分析,判断を伴う小論文が書ける。

2   伝統的な形式や書式に従った手紙や通信などの文章を書く力
    1 自分の気持ちなどを正確に相手に伝えられるように書ける。
  2 社会生活に必要な実用的な文章をそれぞれの特徴を踏まえて書ける。
  3 社会的な関係を考えて,適切な敬語を使って書ける。
  4 和語,漢語,外来語の特質を理解して使い,慣用句を適切に使って書ける。

3   様々な情報を収集して,それに基づいて明確な文章を書く力
    1 本やインターネットなどから的確な情報を収集し文章作成ができる。
  2 収集した情報を生かした意図の明確な文章を書ける。


3   聞く力

1   話の要旨を的確に把握して,その内容を理解できる力
    1 事実や根拠などに注意しながら,話の内容を正確に聞き取ることができる。
  2 聞いた内容をメモに取ったりして,話の構成や展開を理解できる。
  3 話を分析的・批判的に聞き,自分の意見や考えを組み立てることができる。

2   話し手の気持ちや主張だけでなく,言外の思いや真意を感じ取る力
    1 話し手が何を言いたいのかを探りながら,話を聞くことができる。
  2 話し手に共感でき,言外の思いも感じ取るように聞くことができる。

3   場面に応じて最後まで集中して,聞くことができる力
    1 話の形態や話し手との社会的関係に対応した聞き方ができる。
  2 話し手の意図を考えながら,講話や講演を集中して聞くことができる。
  3 話をじっくりと聞き入り,確認すべき情報を整理して質問できる。


4   話す力

1   自分の考えを明確にして,説得力を持って論理的に伝える力
    1 意見や考えを整理し,順序を整えて,論理的に話すことができる。
  2 自分の主張や意見を根拠や理由を明らかにして的確に伝えられる。
  3 相手の話を受け,その内容を踏まえて自分の意見や考えを話すことができる。
  4 企画の提示説明(プレゼンテーション)が適切にできる。

2   相手や場面,目的に応じ,伝えるべき内容を分かりやすく話せる力
    1 他者に配慮した(不快感を与えない,傷つけない)話し方ができる。
  2 話すことによって人間関係を深めることができる。
  3 場面に応じて言葉を選び表現に注意しながら情報を伝えることができる。
  4 敬意表現を適切に使った話し方ができる。

3   発声・発音・態度等を場面に応じて,コントロールできる力
    1 他者の前で落ち着いた態度で話すことができる。
  2 聞き取りやすい音声(声量・速さ・声の調子など)で話すことができる。
  3 大事なところを強調したり,間の取り方を工夫したりできる。




国語教育等小委員会所属委員名簿


  青   木   紀久代     お茶の水女子大学助教授
       
  阿      哲   次   京都大学教授
       
  井   出   祥   子   日本女子大学教授
       
  沖   山   吉   和   大田区立大森第三中学校長
       
  川   島   隆   太   東北大学教授
       
小   林   一   仁   桜美林大学名誉教授
       
  五   味   陸   仁   元東京放送解説委員
       
  田   村   哲   夫   学校法人渋谷教育学園理事長
       
  藤   田   慶   三   荒川区立峡田小学校長
       
  藤   原   正   彦   お茶の水女子大学教授
       
  松   岡   和   子   翻訳家・演劇評論家
       
水   谷         修   名古屋外国語大学長
       
       
  注)◎は主査,○は副主査

-- 登録:平成21年以前 --