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第3章   放送小委員会における審議の経過


  審議の経過と国際的動向の概要

放送小委員会は、次の事項を検討する小委員会として設置された。
   
(1)「放送」「放送事業者」の定義の在り方
(2)放送事業者の権利の在り方
(3)有線放送事業者の権利の在り方
(4)その他放送、有線放送に関する著作権問題

   放送小委員会は、平成13年4月10日に第1回の会議を開催し、3回にわたり検討を行ってきた。本年は、著作権審議会マルチメディア小委員会放送事業者等の権利に関するワーキング・グループにおける検討を踏まえ、主として放送事業者の権利の在り方について検討を行ったほか、放送に関するその他の課題についても、適宜検討を行った。
   本年は、5月に、放送事業者の権利に関する条約について検討する世界知的所有権機関(WIPO)著作権等常設委員会が開催され、日本政府から条約案を提出するなど、国際的にも放送事業者の権利に関する検討が行われた。WIPOにおける条約採択に向けた検討は引き続き行われる予定であり、このような国際的動向を踏まえつつ、検討を行う必要がある。

   
  放送事業者等の権利の拡大について
   
検討課題について

   放送小委員会では、放送事業者の要望等を踏まえ、次に掲げる権利等について検討を行ってきたが、これらの課題については、今後とも、国際的な動向や技術の進展を注視しつつ、引き続き検討を行うこととする。また、これらの課題の検討に当たっては、有線放送事業者の権利についても併せて検討するものとする。

(1)送信可能化権
   受信した放送を、インターネット等を通じて自動公衆送信する行為に関して、放送事業者に送信可能化権を付与してほしいとの要望がある。
   この要望の理由としては、通信回線の大容量化、情報機器の普及・高機能化など、最近の情報通信技術の発達・普及により、放送を受信してインターネットで送信することが技術的に容易になり、無断送信が多数行われるようになってきていることがあげられている。
   この事項については、特段の反対意見はなかった。

(2)放送の固定物の譲渡権・貸与権
   受信した放送を固定した物(以下「放送の固定物」という。)を公衆に譲渡し、又は貸与することについて、放送事業者に権利を付与してほしいとの要望がある。
   この要望の理由としては、著作隣接権の分野においては、実演家及びレコード製作者に譲渡権及び貸与権(商業用レコードに限る。)が付与されているが、放送事業者には放送の固定物の譲渡又は貸与に関する権利が付与されていないことがあげられている。
   この事項については、違法複製物を情を知って頒布(頒布目的の所持を含む。)することを複製権侵害とみなす「みなし侵害」による対応が可能であり、特に新しい権利を付与しなければならないような実態がないという意見が出される一方で、国際的動向によっては権利を認めても差し支えないという意見も出されている。

(3)有線放送権等
   放送を受信して行う有線放送を受信し、さらに有線放送・放送を行うことについて、最初の放送を行う放送事業者に権利を付与してほしいとの要望がある。
   この要望の理由としては、現行の著作権法では、放送を受信してこれを放送・有線放送する場合、第一段階(放送を直接受信して行うもの)の放送・有線放送についてのみ放送事業者に権利を付与しているが、情報通信技術の進展に伴い、従来想定されていなかった第二段階(第一段階の有線放送を受信して行うもの)の有線放送が出現しつつあり、第一段階の有線放送と、第二段階の有線放送との間で、権利の及び方について不均衡が生じていることがあげられている。
   この事項については、放送を受信して行う有線放送を受信してさらに有線放送等が行われているケースはまだ普及していない、放送事業者と有線放送事業者との契約で解決可能である等の意見が出されている。

(4)放送前送信
   スポーツ競技などの生中継を行う際には、中継現場から放送局まで影像・音声の送信が行われており、また、全国ネットワーク等で放送を行う場合には、キー局からネットワーク局まで影像・音声の送信が行われているが、公衆を対象とする送信でないため、著作権・著作隣接権が及ばないこれらの送信行為は、一般に「放送前送信」などと呼ばれている。このような「放送前送信」において送信されるものについても、放送事業者の権利の対象としてほしいとの要望がある。
   この要望の理由としては、キー局・ネットワーク局間の送信は、放送と同一の内容であることが多いが、まだ「放送」されていないために放送事業者の権利が及んでおらず、これを傍受・録画等された場合に、放送事業者の権利の実効性が損なわれるおそれがあること、また、生中継を行うに当たっては、多額の放映権料や中継費用が必要であり、この投資が適正に保護されなければ、放送を行うインセンティブを著しく損なうおそれがあることがあげられている。    この事項については、従来「放送行為」を対象として付与されていた放送事業者の著作隣接権の範囲をまだ放送されていないものにまで拡大することは、放送事業者の著作隣接権の本質そのものの重大な変更をもたらすため、慎重な検討が必要であるとの意見や、「放送前送信」の範囲をどのように画定するかさらに検討すべきとの意見が出されている。

(5)技術的保護手段等
   現行の著作権法においても、放送事業者が、「複製」などその権利の及ぶ行為に関して施す技術的保護手段の回避行為や権利管理情報の改変等は規制の対象とされているが、これに加えて、暗号化された放送について暗号を解除して「視聴」する行為を技術的保護手段の回避として規制の対象としてほしいとの要望がある。
   この要望の理由としては、いわゆる有料の「スクランブル放送」の増大に伴い、不正受信を規制する必要性が生じていることがあげられている。
   この事項については、現行の条約や著作権法における技術的保護手段の回避に対する規制は、既に法定されている権利を守るために導入されたものであり、権利の対象でない放送の視聴行為に係る暗号等についても規制の対象とすることについては、著作物等一般の知覚行為等との関係も含め、慎重に検討する必要がある等の意見が出されている。
   
早急に法制化を進めるべきものについて

   1(1)の送信可能化のうち、固定物を用いた放送の送信可能化については現在でも複製権による対応が可能であるが、受信した放送を固定せずにそのまま送信可能化する行為(インターネット等により公衆に送信し得るようにする行為)については、現行の著作権法では放送事業者に送信可能化権が付与されていないため、その法制化が早急に必要である。また、有線放送についても同様の状況にあり、有線放送事業者にも同様の権利を付与することが必要である。
   なお、固定物を用いた放送の利用に関しては、送信可能化権に限らず、再放送・有線放送、譲渡、貸与等に関する権利についても、国際的な検討が行われていることから、WIPOにおける条約の検討状況等を踏まえつつ、引き続き検討するものとする。

   
  その他
   
放送に係る実演家・レコード製作者の権利について
   現行の著作権法では、「レコードに録音された実演」及び「レコード」の放送については、実演家及びレコード製作者は、「許諾権」ではなく「二次使用料を受ける権利」のみを付与されている。しかし、放送の形態の多様化が進み、受信者による録音を前提としたデジタル放送といったものが出現したため、少なくとも一部の形態の放送について、実演家及びレコード製作者の権利を「許諾権」とすべきとの要望がある。
   この事項については、現在、関係者間で協議が行われているところであり、その状況を踏まえ、検討を行うものとする。
   
放送番組の二次利用の促進について
   既に放送され、保存されている放送番組をインターネット等を活用して二次利用することについて、これを容易に行えるようにすべきとの意見が近年高まりつつあるため、現行の法制度、条約上の義務、保存・二次利用の実態等を踏まえ、この課題についての検討を行った。
   既に放送され、保存されている放送番組については、我が国では、当初の番組の制作・放送時の契約等が二次利用の促進という観点から見て適切なものになっていないために、二次利用が困難な場合が少なくない。このような二次利用を拡大・円滑化するためには、放送事業者等の番組制作関係者の努力により、当初の番組の制作・放送時における契約を二次利用の促進という観点から改善することや、二次利用に関する関係団体間の契約システムを改善・拡大することなど、契約ルールの整備が必要である(条約上の義務からも、権利制限を拡大してこれを認めることはできない)との結論を得た。
   
  今後の検討について
   放送小委員会においては、主として放送事業者の権利の在り方について検討を行ってきた。本年結論に至らなかった事項を含め、放送、有線放送に関する著作権に係る課題については、今後とも、WIPOにおける条約の検討状況等を踏まえつつ、検討を行う必要がある。

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