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はじめに


 情報技術の発達・普及等により、著作物の創作手段・利用手段等が社会全体に普及するとともに、多種多様な著作物等が広く流通するようになったため、極めて多くの人々が著作権と関わりを持つ時代を迎えているが、これに伴い、広範な施策を総合的に推進することが必要になっている。

 まず第一に、権利に関する基本的な法制の整備については、我が国の著作権法による権利の付与は、累次の法改正によって国際的に見ても非常に高い水準に達しており、例えば、インターネットやファイル交換ソフトウェアに対応できる権利を著作権法に明記しているのは先進諸国中でも日本とオーストラリアのみとなっている。しかしながら、実演家や放送事業者の権利の拡大など、新たな条約の採択に向けて国際的な検討が進められている事項を含め、社会や技術の変化に対応するために残された課題もあり、今後ともこれらの課題について検討を進めていく必要がある。

 また、前記のような変化に対応し、従来の権利制限規定を見直して、その拡大又は縮小を行う必要性も指摘されており、この点についても検討を進めることが必要である。

 第二に、法定された権利の実効性を確保しつつ、著作物等の円滑な流通を促進するための施策の必要性も、拡大しつつある。

 例えば、いわゆる「コピープロテクション」や「電子透かし」などの技術を活用して権利を実質的に守っていくことについては、既に法整備を行っており、同様の法整備を行っているのは先進諸国中で日本、オーストラリア、米国のみとなっているが、新しい技術の開発・普及等に対応して、新たな法制の在り方を検討する必要がある。

 また、他国に比して我が国が遅れていると言われる契約システムの開発は、極めて多くの人々が著作権に関わるようになった今日、非常に重要な課題となっているが、今日「著作権問題」と呼ばれるものの多くは「著作権法問題」ではなく「著作権契約問題」であるとの指摘もある。契約システムの改善については、平成12年に著作権等管理事業法の制定を見たところであり、関係する業界・団体等においても様々な努力が行われているが、今後ともその充実が望まれる。

 さらに、著作権に関する教育の充実も重要である。平成14年度から完全実施される新学習指導要領により、中学校及び高等学校において「情報」に関する内容が必修となり、著作権を含む情報モラルの育成について指導がなされることとなるが、多くの人々が著作権と関わりを持つようになる中、広く国民一般を対象として普及啓発に関する施策を総合的に講じていく必要がある。

 第三に、権利の侵害に対応できるよう、司法救済制度の充実を図ることが必要である。著作物等の利用形態の多様化に伴い、権利者が権利侵害行為を発見・立証することや、損害額を算定・立証することが極めて困難になってきているため、平成12年に裁判手続の改善と罰則の強化のための法整備が行われているが、今後とも、その充実について検討を行うことが必要である。

 第四に、情報技術の進展に伴い、著作物等が国境を越えて自由に流通するようになってきているが、このような時代にあって、権利保護の実効性を確保するためには、国内法制の整備を進めるばかりでなく、国際的な枠組みづくりに積極的に参画するとともに、諸外国における法整備等の取組みを支援していくことが重要である。例えば、海外から日本への送信については日本の著作権法は適用されないため、各国においてインターネットに対応する権利の付与等の法整備を行うことが必要であり、そのような権利を明記していない国に対しては、保護の明確化等を求めている。このような取組みも含め、著作権に関する国際的な課題に対して積極的に対応していく必要がある。

 このような時期にあって、文化審議会著作権分科会は、従来の著作権審議会の所掌事務を引き継ぐ形で設置されたが、平成13年においては、当面の課題として、著作権審議会の各小委員会において既に検討が開始されていた事項を中心に、分科会の下に4つの小委員会を設け、それぞれの小委員会において検討を進めた。

 平成13年における各小委員会の検討の概要は、以下の各章に示されているとおりである。



(別紙)


著作権法制に関する基本的課題について


1 法制の基本に関わる検討を必要とする事項

著作権と著作隣接権との関係
 関係条約の構成も含め、現在の著作権制度は、「創作性」に着目した「著作権」(著作者の権利)と、「行為」に着目した「著作隣接権」に分けられており、様々な点で後者は前者よりも弱い権利とされてきた。
 しかし近年、著作隣接権における許諾権の増加や実演家の人格権の創設など、著作隣接権を強化する動きが生じている。また他方で、著作隣接権には創作性が求められていないことから、投資の成果物である商品(例えば、創作性のないデータベース)を業界保護の観点から著作隣接権の対象としていく傾向も生じている。
 このようなことから、「著作権」と「著作隣接権」との関係や、「著作隣接権」そのものの在り方などにつき、将来に向けて基本的な考え方を整理しておく必要があるのではないか。

アクセス権(著作物を「知覚」することに関する許諾権)の創設
 著作物は、視覚的・聴覚的な方法等により「知覚」されることによってその価値が発揮されるものであり、使用者が複製物の入手等に対価を支払うのも、通常は著作物を知覚するためである。しかし、個々の知覚行為に権利を及ぼしても実効性を確保することができない等の理由により、内外の著作権法制は、知覚の前段階である複製や公衆送信等について権利を及ぼしている。
 しかしながら、近年の情報技術の発達により、デジタル化されて流通する著作物について、知覚行為そのものをコントロールすることができるようになってきた。このため例えば、いわゆる「技術的手段」の回避を防止する制度に関し、複製等ではなく「知覚行為」をコントロールするための技術的手段を対象とするかどうかについて、国際的な論争も生じている。
 知覚行為をコントロールするための技術的手段の回避を制度的に防止することは、実質的に著作物へのアクセス(知覚)に関する新たな権利の創設に近い効果をもたらすが、そのような制度の新設や、全く新しい「アクセス権(知覚権)」の創設を含め、知覚行為を著作権の対象とすることの可否・必要性等について、検討する必要があるのではないか。

公衆伝達系統の権利の整理・統合
 「公衆伝達」系統の権利には、「公衆への提供」(譲渡、貸与など複製物の占有の移転を伴うもの)や「公衆への提示」(実演、送信など複製物の占有の移転を必ずしも伴わないもの)に関する権利などが含まれるが、「複製権」とは異なり、これらは、「公衆に伝達された」という「結果」ではなく、「公衆に伝達されるような行為を行った」という「行為」に着目して設定されている。このため、著作物等の伝達手段の急速な発達・多様化により、この系統の権利は、条約上も各国国内法上も増加の一途をたどってきた。
 著作物等の伝達手段が今後も拡大・多様化していくことを踏まえ、また、法律の規定内容を単純化してよりわかりやすくするという観点から、「公衆伝達系統の権利」の整理・統合を検討する必要があるのではないか。

権利制限規定全体の在り方
 著作権法には種々の「権利制限規定」が置かれているが、著作物等の利用形態の多様化等を背景として、個々の具体的な利用行為に係る適用関係をより明確にする詳細な規定ぶりを求める声や、これとは逆に、(米国の著作権法に強く残る「フェア・ユース」という考え方のような)法律の規定はむしろ曖昧・単純にして具体的な適用関係は司法判断に委ねるべきとする声が、上がるようになっている。
 これは、権利制限の及ぶ範囲の縮小・拡大ということとは別に、権利制限規定の基本的な在り方の問題として、検討する必要があるのではないか。(権利制限の縮小・拡大に関する個別の課題については、情報小委員会等で検討する。)
 なお、これとあわせて、いわゆる「強制許諾制度」の在り方に関しても、必要性の変化、改善すべき点等について基本的な検討を行う必要があるのではないか。



2 法制の基本と実態の評価・分析とを関連づけて検討を行うことが必要な事項

中古品流通と著作権との関係
 著作権法は、いわゆる「中古品」の流通について著作者等に排他的権利を付与する考え方はとっておらず、また、このことは種々の著作権関係条約においても基本的に同様である。(日本の著作権法における「映画の著作物」の「頒布権」は、結果的に中古品の流通をコントロールできる効果も持ち得るが、本来はそのような趣旨で設けられたものではない。)
 しかし近年、中古書籍やゲームソフトなどを中心に、中古品の流通が著作者等の利益を著しく損なう状況が生じているとの指摘がなされており、著作権制度によって著作者等に中古品の流通をコントロールできる権利を付与すべきであるとの主張も一部にある。
 譲渡権についていわゆる「ファースト・セール・ドクトリン」が国際的に採用されていることからも明らかなように、この問題はあらゆる商品の流通一般に重大な影響を与え得る大きな問題であるが、著作権制度による対応の可能性や適切さ等を含め、検討を行う必要があるのではないか。

映像の著作物の保護の在り方
 著作権法においては、動く映像の著作物としては「映画の著作物」のみが例示されており、これには「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」が広く含まれるものとされている。また、この「映画の著作物」については、いわゆる劇場用映画を念頭におき、著作者、頒布権、著作権の帰属、実演家の録音・録画権などについて、特別な規定が置かれている。
 近年の情報技術の進展に伴い、例えばゲームソフトの映像、いわゆるマルチメディアに部分的に組み込まれた動く映像、ホームページに登載された動く映像など、多種多様な(動く)映像の著作物が創作・流通されるようになっている。これに伴い、「映画の著作物」の範囲・分類や、上記の特別の規定を見直す必要性、固定要件の必要性など、動く映像の著作物の保護の在り方を検討する必要があるのではないか。

「商業用レコード」という概念の必要性
 一般に、「レコード」は著作物と同様の無体物、「商業用レコード」はレコードを複製した有体物であると理解されているが、後者の概念は、条約上も国内法上も、放送に係る報酬請求権など限られた場合にのみ用いられている。
 近年の情報技術の発達・普及により「商業用レコード」以外の「音源」が増加しているが、これらの中には、「エンハンストCD」、いわゆる「マルチメディア」、直接サーバーやパソコンのハードディスク等に蓄積された音など、「商業用レコード」とは言いがたいものが増えてきている。(これらを用いて放送を行った場合には、報酬請求権の対象とはならない。)
 このため、「商業用レコード」という概念を廃止して「レコード」に一本化することが、1996年のWIPO外交会議でも議論されたが、採用されるに至らなかった。
 このような「商業用レコード以外の音源」は今後とも増加していくものと考えられるため、著作権法の規定を単純化する観点からも、「商業用レコード」の概念を廃止することを検討する必要があるのではないか。

間接侵害規定の導入の必要性
 権利の実効性を確保するため、権利侵害を行う者に対して当該行為の場所や手段を提供する者に関し、差止請求や損害賠償請求の対象となることを明確にする間接侵害規定の導入が必要であるとする意見がある。
 間接侵害の考え方については、その実態には様々なケースがあり、また、司法の場において一定の規範形成がなされているところであるが、これらも踏まえつつ、著作権法に間接侵害一般に関する規定を導入することの可否・必要性等について、検討する必要があるのではないか。

情報技術の発達に伴う権利侵害に対する救済の在り方
 近年の情報技術の発達に伴い、デジタル化されて流通する著作物等を技術によって守ることが可能になってきており、著作権法においてはいわゆる「コピープロテクション」などの「技術的保護手段」の回避や、「電子透かし」などの「権利管理情報」の除去等を規制することによって、権利の実効性の確保を図っている。
 しかし、例えば技術的保護手段の回避装置等の公衆への譲渡等については、行為が行われる時点では特定の著作物等について権利侵害のおそれが明白であるとは言えないことから、差止請求権の対象とはされず、刑事罰のみが科されている。
 個々の権利侵害行為の把握・立証が困難になってきていることに伴い、侵害を事前に予防する技術を活用する必要性が増大していることから、このような予防技術の回避等を防止するために、上記の例も含め、今後出現する新たな予防技術の動向も見極めつつ、どのような救済措置を法制度として設けるべきかについて、検討する必要があるのではないか。



3 実際の実務を踏まえて検討することが適当な事項

契約秩序の構築と著作権法の役割
 著作者等の権利を保護しつつ著作物等の円滑な流通を促進し、権利者・利用者双方の利益を増進させるためには、権利の付与が既に国際的な水準に達した今日、むしろ「契約システム」の構築が最も重要な課題の一つとなっている。
 このような「契約システム」の構築は、基本的には、本来当事者同士の努力に委ねられるべきものであるが、例えば「著作権等管理事業法」などの場合は、法律による契約秩序の構築が図られている。
 さらに著作権法にも、例えば、第61条第2項のような契約に関する特別の規定や、「指定団体」等を通じた権利行使を義務づける規定などがあるが、著作物・利用形態の急速な多様化等に対応するため、契約による自助努力や「選択と自己責任」の考え方が普及されていく中で、契約関係に関わる法律の規定の在り方について検討を行う必要があるのではないか。

司法救済制度の見直し
 著作権を含む私権の侵害に関する司法救済については、基本的に、権利者自らが侵害の事実を発見・立証すること等が必要であるが、情報技術の進展に伴い、著作物等の利用形態の多様化が進むにしたがい、権利侵害行為自体を捕捉・立証することや、損害額を計算・立証することが極めて困難になってきており、著作者等の権利の実効性を確保するためには、司法救済制度の充実が必要であるとの意見がある。
 本年6月に公表された司法制度改革審議会意見書においては、民事司法制度の改革の一つとして「裁判所へのアクセスの拡充」があげられているが、著作権に係る司法救済制度の基本的な部分について検討を行う必要があるのではないか。

裁判外紛争処理の在り方
 種々の情報技術の発達・普及等に伴い、著作物等の利用形態の多様化が急速に進むとともに、従来の著作権関係業界(出版、レコード、放送、映画等)以外の多様な利用者が「電子商取引」等により著作物を利用する状況が生じつつある。これに伴い、著作権侵害や契約違反などの紛争案件の増加が予想されるが、そのような場合について、我が国では直ちに訴訟に訴えるという風土が存在しないことから、いわゆる裁判外紛争解決手段(ADR)に対する期待が高まっている。(司法制度改革審議会意見書においても、多様な紛争解決方法の整備という観点から、ADRの拡充・活性化が提言されている。)
 著作権法には、第105条以下に「あっせん」に関する規定があるが、従来必ずしも有効に活用されていないとの指摘もあり、日本知的財産仲裁センターなどの既存の取組みや、WIPO仲裁・調停センターの状況も踏まえつつ、法制面での対応の必要性等について検討を行う必要があるのではないか。



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