「災害補償と保険」研究会 報告

 「映像コンテンツ大国を実現するための検討委員会」が2007年2月に取りまとめた提言において、今後の取組として、「事故補償」に関し「保険の枠組みに関する検討の開始」があげられた。これを受け、「放送番組における映像実演に関するWG」のもとに研究会「災害補償と保険」が設置され、事故補償と保険について計6回検討が行われた。
 本研究会で出された主な意見の概要と確認された事項は次のとおりである。

1.主な意見の概要

(1)事故補償の現状について

 放送事業者・番組製作会社が事故補償をどのように行っているのか、また、保険加入状況やその内容について以下の報告が行われた。

  • 1安全管理について
    • 事故報告を速やかに行うなどの安全管理体制は整っている。
  • 2補償の考え方について
    • 放送事業者・番組製作会社はその責任下で事故が起きたとき、責任を持って補償している。対応しないと危機管理の面で重要な問題であり、不安があれば解消する。
  • 3保険について
    • 保険は補償のための道具である。製作者の責任を補うものであり、すべてという考え方ではない。また、保険をかけず直接補償を行う事業者もある。
    • 包括傷害保険、約定履行費用保険、海外旅行傷害保険、賠償責任保険に加入、出演者、社外スタッフも対象とし、通院、入院、死亡、後遺障害をカバーしている。補償額は保険料により異なるが、一定の金額は出る。

(2)事前の提示について

 実演家側から、出演時に補償内容が示されていない現状について、報告書で提案されたガイドライン等に明記し透明化を図る必要があるのではないかとの意見が出された。これについては以下の意見が出された。

  • どのように明示するのか、毎回、その必要があるのか。契約書がない場合もあり一律に示すことは現実的でなく、むずかしい。
  • 保険について明記するのは不自然である。補償するスタンスが決まっていれば明記の必要はない。
  • 報告書では「各契約書に明記することが望ましい」との努力義務になっており、これを発展させていけばよいのではないか。契約書に代わるものとしてガイドラインを利用する。

(3)補償条件および補償内容について

 実演家側から、補償が自動的・無条件に行われること(過失の有無の問題)、一定水準の額が確保されること、所得保障が行われること、事故対応のための現場とは別の一本化された専用窓口が明らかにされていること、事故が内々で処理され交渉において力関係が働かないようにすること、が望まれるとの意見が出された。これについては以下の意見が出された。

  • 放送事業者としては無条件にすべて補償することはできない。傷害保険の範囲内であれば、出演者に故意や重大な過失がなければ保険金が支出される。しかし、傷害保険の範囲外であれば過失の問題は重要になってくる。そのための「対応窓口」である。
    • *傷害保険は過失の有無に関係なく(故意を除き)契約時に設定した補償額が保険金として支払われる。治療費など必要な補償にあてることができる。(損保協会)
  • 対応窓口は明らかにしなければならない。一義的には事情を一番よく知っているプロデューサーが責任者として対応すべきであり、「専用」窓口を新たなセクションとして設けることはむずかしい。現場には事故報告義務があり、現場から業務部、総務部に報告が上がり行うことになっている。向き合えるルールができれば力関係の問題は自ずと消える。
  • 窓口としては、1現場と総務・労務との中間的な位置にある各現場部局の総務セクションや業務セクション(NHK、TBS)、2管理部門である総務局総務部(日本テレビ、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京)、を考えている。

(4)補償責任者について

 事務局作成の製作パターン図――1持込番組・購入番組で放送契約の形態のもの、2製作委託契約の形態で全部委託・複数委託・一部委託のもの、3放送事業者が番組を直接製作する自社製作、を確認し、意見交換を行った。

<参考図>製作パターン

  • 局製作、発注製作等それぞれの補償責任はどこが負うのかという問題である。
  • 実演家としては、どこが補償責任を負うのかグレーゾーンになっている場合が問題である。また、プロデューサーが責任者となると力関係なしに話ができるのか。たとえば台本に安全衛生管理者としてプロデューサー名を明記してはどうか。
  • 放送事業者・番組製作会社は安全衛生管理を行うとなっているが、安全管理対策の面で、プロデューサーが統括安全衛生責任者であり、番組製作において事故が起きた場合、責任者はその番組のプロデューサーだと、中央労働災害防止協会が明快なガイドラインを出している。ひとつの尺度として、プロデューサーが仕事をしている会社が事故補償責任を負うというようにすればグレーの部分はなくなる。台本等への明記はなじまない。

(5)新たな事故補償制度について

 報告書で問題提起された、保険会社等を交えた「新たな事故補償制度」について、研究会では社団法人日本損害保険協会の方に話を聞いた。以下はその概要である。

  •  製作者サイドが共同で利用できる傷害保険システムの構築については次のような課題があり、実現のハードルは高いであろう。
    • 対象となる出演者である被保険者すべての保険料の徴収と名簿の管理が必要。そのための新たな機関を設ける必要がある、
    • 保険の契約期間は通常一年であるが、契約時点において一年間分の出演者を把握することは困難ではないか。
    • 被保険者を特定しない無記名の包括傷害保険は、リスクが均一な集団を対象としている。実演家の場合、スタントマンなどリスクの高い出演者もいるため、被保険者を特定しない保険を保険会社が受けるか疑問。また、できたとしても相当高い保険料となるだろう。
  •  共同システム構築以前の方策としては、保険加入の最低基準を設けるなど業界共通のガイドライン作成により保障に対する意識を高める方法がある。ただし、保険加入を強制することは独禁法により問題となるので努力義務とすべき。
  •  また、出演者サイドが団体保険契約を結び一定のカバーをかける方法もある。
  •  政府労災保険の適用については、出演者の実演を労働提供と捉えるとすると、明確な雇用関係になくとも、厚生労働省が示す使用従属関係の考え方に合致し、実態として事業主と被用者との関係が認められれば、適用はあり得るかと思う。ただし、責任関係の明確化が大きな課題だろう。

2.確認事項

(1)事故補償制度について

  • ◆ 放送事業者・番組製作会社は安全衛生管理を行う。
  • ◆ 安全衛生管理を行う放送事業者・番組製作会社が事故補償責任を負う。
  • ◆ 放送事業者・番組製作会社は事故補償を行う対応窓口を設ける。

(2)ガイドラインの周知徹底について

 研究会での主な意見の概要と確認された事項について、参加各社・団体および関係団体等において、報告等の周知徹底を行う。

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