資料4

著作隣接権に関する裁定制度について(2回目)

1.これまでの主な意見の概要

(運用による対応策)

  • ア 少なくとも、今後製作されるコンテンツについては、コンテンツホルダーが権利者情報を管理すべき。
  • イ 事後的に権利者が現れた場合に支払いができるように、関係者間でファンドを用意して対応すればいいのではないか。
  • ウ 今後は二次利用を想定して、出演者リスト等を権利者団体間で共有すれば、集中管理で対応できる。また、現在(権利者不明の場合に対処するための)第三者機関の創設について民民の間での取組が検討されている。裁定によって解決を図るというのは時期尚早ではないか。

(裁定制度の必要性について)

  • エ 現在の裁定制度は、著作権に関するものであるが、過去の放送番組等の利用の際には、実演家の所在不明の場合等もあり、著作隣接権についても裁定制度が必要ではないか。
  • オ 実演家の裁定制度について必要という意見があるが、実は二次利用を想定していない状態であったり、二次利用のビジネスモデルが成立しないから、二次利用が進まないだけであるのに、実演家の許諾権が原因等と言われることがある。保護期間の話をしている中で、実演家だけは、権利を切り下げる話が出てきている状態は、非常に遺憾。
  • カ 実演家の裁定制度については、過去の放送番組について、端役で出演していて、現在役者を辞めた方などは、全て把握、追跡できないため、所在不明という事態はどうしても生じる可能性がある。
  • キ その他の手段で解決できる場合には、裁定制度は使われないが、その他の手段で解決できるかどうかと、最終手段としての裁定制度が必要かどうかは別の話ではないか。
  • ク レコードについては、企業が発売していることが大半であり、著作権者が不明になることはほとんどないので、レコードの裁定制度は必要ないと思われる。
  • ケ レコードについても、廃盤の復刻などにおいては、レコード会社が分からずに結局復刻できなかったという事例もある。また、インディーズ盤、自主流通盤などもあり、裁定制度で解決する仕組みはレコードについても必要である。
  • コ 隣接権の裁定制度に関しては、ローマ条約において、国内法に委ねる旨の明文の規定がない限り、強制許諾を設けることができないのではないか。

2.著作隣接権の裁定制度と関係する国際約束

3.議論のポイント

 国際約束との関係については更なる精査が必要であるが、仮に、権利者不明の場合の制度について、国際約束に抵触しない形で設けることが可能である場合には、

 また、仮に導入する場合、実演家のほか、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者の不明についても想定すべきか。

【参考1】関係する国際約束の規定

○実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約

第15条  (保護の例外)
1  締約国は、国内法令により、次の行為については、この条約が保障する保護の例外を定めることができる。
  • (a) 私的使用
  • (b) 時事の事件の報道に伴う部分使用
  • (c) 放送機関が自己の手段により自己の放送のために行う一時的固定
  • (d) 教育目的又は学術研究目的のためのみの使用
2  1の規定にかかわらず、締約国は、国内法令により、実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関しては、文学的及び美術的著作物の著作権の保護に関して国内法令に定める制限と同一の種類の制限を定めることができる。ただし、強制許諾は、この条約に抵触しない限りにおいてのみ定めることができる。

○実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約

第16条  制限及び例外
  • (1) 締約国は、実演家及びレコード製作者の保護に関して、文学的及び美術的著作物の著作権の保護について国内法令に定めるものと同一の種類の制限又は例外を国内法令において定めることができる。
  • (2) 締約国は、この条約に定める権利の制限又は例外を、実演又はレコードの通常の利用を妨げず、かつ、実演家又はレコード製作者の正当な利益を不当に害しない特別の場合に限定する。
第1条  他の条約との関係
  • (1) この条約のいかなる規定も、1961年10月26日にローマで作成された実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(以下、「ローマ条約」という。)に基づく既存の義務であって締約国が負うものを免れさせるものではない。

○世界貿易機関を設立するマラケシュ協定・附属書一C(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)

第14条  実演家、レコード(録音物)製作者及び放送機関の保護
6  1から3までの規定に基づいて与えられる権利に関し、加盟国は、ローマ条約が認める範囲内で、条件、制限、例外及び留保を定めることができる。(以下略)

○許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約

第6条  (保護の制限、強制許諾)
 著作権その他特定の権利による保護又は刑罰による保護を与える締約国は、レコード製作者の保護に関し、文学的及び美術的著作物の著作者の保護に関して認められる制限と同一の種類の制限を国内法令により定めることができる。もつとも、強制許諾は、次のすべての条件が満たされない限り、認めることができない。
  • (a) 複製が、教育又は学術的研究のための使用のみを目的として行われること。
  • (b) 強制許諾に係る許可が、その許可を与えた権限のある機関が属する締約国の領域内で行われる当該複製についてのみ有効であり、かつ、当該複製物の輸出については適用されないこと。
  • (c) 強制許諾に係る許可に基づいて行われる複製について、作成される当該複製物の数を特に考慮して(b)の権限ある機関が定める公正な補償金が支払われること。

【参考2】著作権に関して設けられた裁定制度に関係する条約の規定

○文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約

第9条  (複製権)
  • (2) 特別な場合について(1)の著作物の複製を認める権能は、同盟国の立法に留保される。ただし、そのような複製が当該著作物の通常の利用を妨げず、かつ、その著作者の正当な利益を不当に害しないことを条件とする。
第11条の2  (放送権等)
  • (2) (1)に定める権利を行使する条件は、同盟国の法令の定めるところによる。ただし、その条件は、これを定めた国においてのみ効力を有する。その条件は、著作者の人格権を害するものであつてはならず、また、協議が成立しないときに権限のある機関が定める公正な補償金を受ける著作者の権利を害するものであってはならない。
第13条  (録音権に関する留保等)
  • (1) 各同盟国は、自国に関する限り、音楽の著作物の著作者又は音楽の著作物とともにその歌詞を録音することを既に許諾している歌詞の著作者が、その音楽の著作物を録音すること又はその歌詞を当該音楽の著作物とともに録音することを許諾する排他的権利に関し、留保及び条件を定めることができる。ただし、その留保及び条件は、これを定めた国においてのみ効力を有する。その留保及び条件は、協議が成立しないときに権限のある機関が定める公正な補償金を受ける著作者の権利を害するものであつてはならない。

【参考3】外国の立法例

○カナダ著作権法(注8)

  • (注8)駒田泰士・本山雅弘 共訳『外国著作権法令集(26)-カナダ編-』(社団法人著作権情報センター、平成11年3月)

所在不明の権利保有者

委員会によって許諾証が発行されうる事情

  • 77.(1) 著作権が存続する次の目的物について、その利用に係る許諾証の取得を希望する者の申請があったとき、委員会が、その申請者が著作権の保有者の所在を確認するために相当な努力を払っておりかつ同保有者の所在が確認できない旨の確信を得た場合には、委員会は、第3条、第15条、第18条又は第21条のいずれかに掲げる行為を行う許諾証を、その申請者に発行することができる。(注9)
    • (a) 発行された著作物
    • (b) 実演家の実演の固定物
    • (c) 発行されたレコード
    • (d) 伝達信号の固定物
    • (注9)第3条は著作権、第15条は実演家の権利、第18条はレコード製作者の権利、第21条は放送事業者の権利の内容を、それぞれ列挙している規定である。

許諾の条件

  • (2) (1)の規定に基づき発行される許諾証は、排他的でなくかつ委員会が定める期間及び条件に従う。

権利保有者への支払い

  • (3) 著作権の保有者は、当該著作権に関して(1)の規定に従い発行される許諾証の期間満了後5年以内に、当該許諾証に裁定される使用料を徴収し、又は、その支払いに不履行が生じた場合には、裁判管轄権を有する裁判所において、その回収の訴訟を開始することができる。

規則

  • (4) 著作権委員会は、(1)の規定に基づく許諾証の発行に関する規則を制定することができる。

○イギリス著作権法(注10)

  • (注10)大山幸房訳『外国著作権法令集(34)-英国編-』(社団法人著作権情報センター、平成16年6月)

(ある種の場合に実演家のために同意を与える審判所の権限)

第190条
  • (1) 著作権審判所は、実演の録音・録画物の複製物を作成することを希望する者の申請を受けて、複製権について資格を有する者の身元又は所在を合理的な調査により確認することができない場合には、同意を与えることができる。
  • (2) 審判所が与える同意は、次の規定の目的上、複製権について資格を有する者の同意としての効力を有し、また、審判所の命令に明示されるいずれの条件にも従うことを条件として、与えることができる。
    • (a) 実演家の権利に関するこの部の規定
    • (b) 第198条第3項(a)号(刑事上の責任――資格ある実演に関する十分な同意)の規定
  • (3) 審判所は、第150条(一般的手続規則)に基づいて定められる規則が要求することができる通知又は審判所がいずれかの特定の場合に指示することができる通知の送達又は公表の後を除き、第1項(a)号に基づく同意を与えない。(注11)
  • (4) 削除
  • (5) いずれの場合にも、審判所は、次の要因を考慮する。
    • (a) 原録音・録画物が実演家の同意を得て作成され、かつ、以後の録音・録画物を作成することを提案する者がそれを適法に所有し、又は管理しているかどうか。
    • (b) 以後の録音・録画物の作成が、原録音・録画物がそれに基づいて作成された協定の両当事者の義務と一致しており、又はその他原録音・録画物が作成された目的と一致しているかどうか。
  • (6) この条に基づく同意を与える場合には、審判所は、申請者と複製権について資格を有する者との間に合意がないときは、与えられる同意を考慮してその者に対して行われる支払いについて適当と認める命令を定める。
  • (注11)(3)の中に、「第1項(a)号」との記述があるが、原文も同様であり、1988年法の第190条(1)は、以下のような条文であったため、その当時の条項引用を指しているものと思われる。

    • (1) The Copyright Tribunal may, on the application of a person wishing to make a recording from a previous recording of a performance, give consent in a case where-
      • (a) the identity or whereabouts of a performer cannot be ascertained by reasonable inquiry, or
      • (b) a performer unreasonably withholds his consent.