文化審議会著作権分科会過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会（第9回）議事録・配付資料［参考資料2］

　保護期間の延長は、利用者はなるべく自由に使える方がよいと考え、権利者はなるべく長く保護してほしいと考えるために、50年がいいのか、70年がいいのか、100年がいいのかという議論は、永遠に結論がでない。
　今は、保護が50年で切れて、アーカイブやネット利用などが許諾無しにできる現状から、70年になると困るという利用者側の意見があるが、データベースの整備や裁定制度の簡略化、意思表示システムの整備などがうまく動けば、50年以後70年までのものだけでなく、死後50年経っていないものについても非常に便利になる。
　利用を促進するシステムでは、権利制限を含むようなものも出てくると思う。権利制限の拡大については通常であれば権利者は一致団結して大反対をするが、保護期間延長の議論の中での話であるので、このチャンスをうまく使って利用者にとっても使いやすいシステムを構築する絶好の機会であると思う。
　いたずらに年限をいくらにするという議論を長引かせるよりも、早く決着をつけて利用者にとっても便利なシステムがとなるよう、具体的な議論を進めるべき。
　諸外国との関係でハーモナイズが必要だという議論なら納得できるが、保護期間の延長によって創作のインセンティブを高めるべきだという議論であるとするなら、既に作られている作品について遡及的に延長することについての説明がされていない。その疑問について納得できるような議論をすべき。

第8回過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会（平成19年9月27日）

（著作隣接権の保護期間関係）

　著作権と著作隣接権で、利用ごとの権利の面で格差があることは事実だが、保護期間に関して格差があることの根拠が分からない。
　実演については、著作物について保護期間を延長することの弊害として挙げられていることは、不明権利者の存在やコストの問題はあるが、ほとんどは当てはまらない。
　実演家の権利処理について、相続によって複数人になる場合は実務的には、代表者を決めてもらっており、権利が分散するわけではない。
　著名な巨匠のような場合には、意識的に相続分割をするだろうが、著作権があることを意識して相続していない場合が圧倒的に多く、一部の巨匠の例だけを前提に制度を考えるべきではない。
　映画が、著作権の中での格差是正のために70年に保護期間が延長されたとすれば、レコードについても格差の是正が必要なのではないか。
　著作権と著作隣接権は保護期間の違いだけではなく、その他様々な相違点があるので、期間だけを著作権と同じにするのは問題がある。各国でも最初に著作権を延長してしばらくして、著作隣接権にも当てはめるかどうかという段階がある。当面は著作権の保護期間のみを議論すればよいのではないか。
　例えばアメリカは、レコードを著作権として保護しており、権利の強弱は当然あるが、保護期間は保護期間として、著作隣接権についてもしっかり議論すべき。
　将来的にアメリカから著作隣接権についての延長について圧力がかかるかもしれないということも検討していく必要があるのではないか。
　アメリカから圧力があるかもしれないというのであれば、今やってはいけない。外交交渉のカードは、ギリギリまで待って、相手から何かを取ってから切るべき。
　この文化審議会では、文化の問題と経済の問題とをバーターにする前提で議論すべきでない。
　著作隣接権と著作権とを分ける説明は、完全に説明しきれていない部分もあり、隣接権者として4者ある中でも差があり得る。実演家についてはより少し創作性が高い者として人格権を与えられていたり、そもそも著作権に比べると相対的には強くないことを考慮すると、実演家の保護期間延長を検討することも選択肢の一つではないか。ただし、ハーモナイゼーションの観点からは日本だけが突飛なことをすることになる。

（その他保護期間関係）

　現在流通しているコンテンツは大体が今作られたものである。相当期間たった著作物で流通しているものは全体のごくわずかな部分に過ぎず、著作権が切れたとしても使われるものは全体のごくわずか。保護期間を延長することによって利用者に生じる損失は、ごくわずかではないか。
　登録を条件に権利を保護するという提案があるが、経済的権利を得たい者はデータベースに登録し、経済的利益を放棄して自由に利用できるようにしたいという者はデータベースに登録しないというような形で、円滑に利用できるようになる。
　例えば写真であれば十万点の作品を作るような人は、ひとつひとつ登録することは困難であり、原則として登録はない方がいい。
　裁定制度については、無料であるところに意味がある取組にとっては、簡略化しても大変なことである。データベースの整備は、そもそもデータが集まらないのではないかとも思うし、データを集めるにも莫大な費用がかかってペイしないのではないか。
　データベース自体は、今後の著作物流通にとって必要なことであり、保護期間の延長との関係で必要だという考え方はとりたくない。保護期間の延長は、インターネット等の国際的な流通において不都合を起こさないように、という観点から考えるべき。
　著作権が各国で異なるのは保護期間だけではない。ある国で合法なことがある国では違法になるという問題は、保護期間の問題だけではなく、まだ権利が存在しているものでも問題が生じることがある。インターネットの特質から来る問題であって、70年のことだけを考えるのは理解できない。
　手のつけられるところから1つずつでも改善していくべき。
　特許法に代表されるように、そもそも法律が国ごとに違っているのだから、保護期間が異なるだけで日本のコンテンツの流通が阻害されているとは考えにくい。ビジネスを行う側としては、市場規模やマーケットとしての価値で判断するはず。
　保護期間を死後50年と定めた時点と現時点で何が変わったのかを検証することが必要ではないか。例えば、ネット利用等の著作物の利用方法の多様化したことや寿命の伸長などによる影響があるとは思うが、それは保護期間を延長しなければ解決しない事柄なのか議論する必要があるのではないか。
　表現の自由、公正な利用の確保について、今の制約が過剰というのであれば、保護期間が30年でも同じ問題がある。保護期間ではなく、著作権の存在自体の問題であり、20年の差によって生じるものは程度問題。保護期間について論じるより、存続期間中の自由を確保する方がメリットがある。二次創作やパロディーのための権利制限、非営利無償のアーカイブ、フェアユース的な一般条項などがあり得るが、延長問題とセットにすれば、フェアユース的な規定を入れる千載一遇のチャンスではないか。
　権利を強くするのだからどこかを引っ込めるという議論ではなく、延ばすべきか延ばさないべきかで議論すべき。権利制限を併記していくべきではない。
　パロディー条項のような権利制限を議題に入れると議論が対立しそうで、現実的なのか疑問はあるが、インターネット時代にあって二次創作のモチベーションは生じてきており、是非議題に入れるべき。
　権利の強さは「権利の幅×保護期間」で考えられ、長さを伸長するなら代わりに幅を縮めるという考え方は成り立ち得るが、権利制限となると全部の著作物に関わる話であり、当小委員会ではなく法制問題小委員会で検討すべきではないか。
　確かに著作権が強すぎる部分がないわけでもないが、データベースの整備や裁定制度の簡略化といった利用円滑化プランを提示しているのだから、その議論をしてからでないと話は先に進まない。
　既に十分設けている少数の者のために保護期間延長する必要があるのか、という批判については、少数者の立場を尊重することが、より広く、今は売れていない人たちのインセンティブになる。
　延長すべきという主張は、20年後にも同じ問題が生じるもので、これを突き詰めると著作権は永久に保護すべきという言い方をした方がクリアになるのではないか。
　保護期間の決定には、文化と経済原理の兼ね合いがあって、欧米で70年になっているが、日本の経済原理と欧米の経済原理とがそれほど違わないにも関わらず、日本だけ50年にしている合理的な理由はないのではないか。
　永久著作権がよいとは思っていない。時代の流れが欧米に代表される70年であるからそれに合わせるべきということ。長ければ長い方がいいという主張ではない。
　50年がいいか永久がいいかという議論をされると、ほとんどの人は、著作権者だって50年がいいと思うだろう。著作権者の思いが消えるまでの期間ということでは、せいぜい100年である。
　保護が切れるのを待って大量に流通するというのは、文化を守るのではく経済的利用しようという人がそれだけ多いということ。売り出すためのコストに比べれば著作権料は安い。なぜ、少々の手間と料金を払って、保護期間内に出さないのか、あと10年待ってから出そう、というのではなく、保護期間を長くして、30年も待たなければならないから真剣に権利者を探そうとなるなど、気持ちのいい付き合いになるとよい。
　著作権料が負担になって、著作権フリーのコンテンツを用いざるを得ないケースもある。延長による影響がないとは言えない
　著作権法の目的である文化の発展について、ここで言う文化とは、特許の場合であれば良い・悪い、進歩性等の評価を付けられるが、文化は評価を付けられないと言うことを大前提にすれば、文化の発展というのは情報の豊富化であると考えられる。
　キャラクターの盗用については、本来、著作権でなく、商標や不正競争など保護期間がない、あるいは期限延長ができる仕組みで保護すべきもの。
　人格的利益のために延長すべきかどうかという話は、確かに、使われ方によっては許諾しないことは、著作者人格権でなく、著作権でないとできないが、そのような思いの実現を本人でない者に、70年まで保護することが必要なのかという問題だろう。
　財産権でも人格権的な場面で使える側面もあるという意見があるが、事実としてはあるとしても法律としてそれを全面から認めていいのか。逆に人格権を財産権利的に使ってもいいのかという問題や、そもそも人格権と財産権を分けて考えている現在のシステムの意味は何なのかという根本問題になる。

第23回著作権分科会（平成19年10月12日）および第8回過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会（平成19年9月27日）において出された意見の概要

第23回著作権分科会（平成19年10月12日）

第8回過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会（平成19年9月27日）

（著作隣接権の保護期間関係）

（その他保護期間関係）