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資料11

過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会における意見発表 資料
‐エンドユーザーの立場から‐

2007年4月27日

IT・音楽ジャーナリスト
津田 大介

 以下、著作物を利用・鑑賞・保存するエンドユーザーの立場から意見を述べる。

1.  過去の著作物等の利用の円滑化方策について
2.  アーカイブへの著作物等の収集・保存と利用の円滑化方策について

 エンドユーザーが著作物を楽しむ際に、もっとも重要となる要素は、「著作物の入手性」と「価格」。そして私的複製を含めた「ハンドリングのしやすさ(利便性)」である。

入手性
再販制度が継続している現在においても、書籍、音楽CDについては「絶版」「廃盤」という問題が常につきまとう。一部の人気商品を除き、通常の商品の出荷ロットは数千レベルであることが多く、そうした商品は発売後1〜2年程度経過すると、店頭で購入することが困難になる。再販制度がないDVDの場合もロットの少ない商品が購入しにくくなるという問題は同様に抱えている。近年、Amazonに代表されるネット通販サイトが登場したことで、入手性については改善された面も見られるが、一度絶版・廃盤になった商品がなかなか再発されないという問題が劇的に改善されたわけではない。「後追い」で知った商品の入手性をどう確保するのか、ということが大きな問題である。また、過去のテレビ番組など、ニーズはあるのに権利処理の問題でそもそも商品化されないものも多い。ユーザーにもよるが、入手性の低い商品を手に入れようと思ったときに「見られればいい」という感覚からオークションなどの違法コピー商品に手を出す者や、友人のつてをたどってコピーさせてもらう、というユーザーは多く存在する。また、違法コピーのものでなく正規の商品でも、入手性が低く、いわゆる「プレミア化」するものは、オークションなどで高額の商品が付くことも多い。しかし、プレミア化したものを購入しても権利者にお金がいくわけではない。「見られればいい」というのではなく、「商品として所有したい」と考えるエンドユーザーも多く、そうしたユーザーに対していかに多様なカタログを適正な価格で商品提供するのか、ということが重要になる。著作物のアーカイブ活動は、エンドユーザーに多様な著作物の入手性を高めるという意味において、商業的、文化的に大きな意味を持つ。エンドユーザーあってのコンテンツ産業という見地に立ち、政策面やさまざまなコンテンツ産業の側が積極的にアーカイブ活動に対してコンテンツを提供・支援する仕組みを作り、エンドユーザーが手軽にそうしたアーカイブに触れられる機会を増やすべきである。

価格
エンドユーザーが著作物を購入する決断を下す場合、非常に大きな要素になるのが「価格」である。自分が興味を持って追いかけているような作家の書籍や、アーティストのCDはいくらでも必ず買うという人はいるが、著作物をたくさん購入するヘビーユーザーほど、価格に対してシビアになる側面も持つ。具体的には「この作家は文庫が出てからでいいや」「このアーティスト、ちょっと興味があって聴きたいけど、3,000円なら買わないかな。2,000円とか1,500円なら買った方が早いから買うけど」といったケースなどが起きる。損益分岐点を超える見込みが薄く、価格が高めになったり、商品化が困難なものは低コストで商品化が可能なデジタル配信を押し進めるなどの方策が必要であろう。

ハンドリングのしやすさ(利便性)
コンテンツの種類によっても異なるが、購入した著作物をどのように利用できるかというのは重要な問題である。一度見ればリピートして見ることは少ない映画のDVDなどはレンタルで十分、という人もいれば、iPodやCD-Rにコピーしていろいろなシーンで音楽を楽しみたいという人もいる。キーになってくるのは音楽においては「プレイスシフト」、動画においては「タイムシフト」という概念だ(書籍はそもそも「プレイスシフト」を当初から備えている希有な媒体である)。これらをいたずらに制限するようなことになると、その分エンドユーザーの利便性が損なわれる結果となり、さまざまな著作物の中で「価格」が安く、「利便性」の高いものに流れていく。また、著作物の重要な要素として、ある著作物をキーに友人と「コミュニケーション」を行うということが挙げられる。自分が良かったものを他人にお勧めしたいときに、「貸す」といった行為は非常に重要なものだ。貸した際に「コピー」できるか(もしくは貸す代わりにコピーしたものを渡す)ということも重要な要素になってくる。こうした行為が制限されるようになると、著作物そのものに対する興味が失われていく可能性が非常に強い。インターネットなどを通じた「不特定多数」への違法コピーと、ごく「特定少数」にコミュニケーション目的で行う複製は、米国のような「フェアユース」的な枠組みを作り、区分けされるべきである。友人同士の著作物に対する情報交換や複製を通して、著作物そのものに対する興味や機会も増大する。こうした行為を厳格に制限するのであれば、「価格」と「カタログ」が今よりも大幅に入手しやすいものにならなければエンドユーザーは納得しない。

3.  保護期間の在り方について

 アーカイブ活動と著作物の入手性という見地に立てば、著作物の多様な流通の促進を阻害させる可能性が高い保護期間の延長については慎重な対応が求められることは言うまでもない。昨年末から保護期間問題が討議されるようになり、いくつかのアンケート調査などが行われたが現状の検討課題として挙げられている「死語50年から死語70年への延長」については、エンドユーザーの間では「反対」とする意見が大勢を占めている(注1)。良くも悪くも、エンドユーザーにとっては著作物というのは、限られた可処分所得、可処分時間といったリソースをどう配分するか、ということが中心になり、価格や利便性が低いものは自然淘汰されていく。エンドユーザーにとって、多くの著作物はコンテンツ産業という大きな枠組みの中で触れざるを得ないものだ。ややもすると、保護期間の議論はロジックではなく、「著作者へのリスペクトが欲しい」「著作権を保護するのは文化を守る上で重要なことだ」といった感情に訴えかけるものに流れやすいが、エンドユーザーにとってそうした議論の多くは、ほとんど意味をなさない。作り手・送り手側にとっては作った著作物は唯一無二のものであるかもしれないが、受け手側にとっては「多くの著作物の中の1つ」でしかないからだ。だが、著作権ビジネスは、作り手・送り手側だけでは成立しないということは自明のことである。作り手・送り手・受け手すべてがそろって初めて成立するものである。文化という観点だけでなく、産業という観点からクールに、ビジネスとして保護期間延長がどのような問題をもたらすのか討議される必要があるだろう。

(注1) インターネットで行われた保護期間延長問題に対する調査結果
http://www.yoronchousa.net/webapp/vote/result/?id_research=833
(※リアヨロホームページへリンク)
http://d.hatena.ne.jp/copyright/20061220/p1
(※Copy & Copyright Diaryホームページへリンク)
http://d.hatena.ne.jp/copyright/20070322/p1
(※Copy & Copyright Diaryホームページへリンク)
http://thinkcopyright.org/enquete.html
(※著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラムホームページへリンク)
http://thinkcopyright.org/enquete_talk01.html
(※著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラムホームページへリンク)

以上


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