32.日本知的財産協会

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100ページ 第7章 第2節 著作権法第30条の範囲の見直しについて

●意見

 補償金制度の検討にあたり、「利用者のニーズを尊重し、円滑な利用が妨げられることのないように配慮」しつつ、「著作権保護技術や配信事業等の音楽・映像ビジネスの新たな展開などとの関係を十分考慮」して(p.99)、著作権法第30条(以下、単に第30条とする)の適用範囲を見直すことについて大きく異論はない。しかしながら、具体的な要件の明確化なしに一定の行為形態について第30条の適用範囲から外すことを結論付けることにはやや抵抗感を覚える。補償金制度見直しの前提として第30条の適用範囲を議論しているがためにある程度やむをえない部分もあると思うが、同条見直しの議論にあたっては、第30条そのものの全体設計も考慮したうえで、個々の利用形態につき具体的な要件に踏み込んだ議論がなされることを希望する。
 各論として、まず違法録音録画物、違法サイトからの私的録音録画(p.104〜)についてであるが、ベルヌ条約のスリー・ステップ・テストに照らし、権利者に著しい経済的不利益を生じさせ、著作物等の通常の利用を妨げる利用形態であることが明確である場合に第30条の適用除外とすべきという考え方はある程度理解できる。しかしながら、利用者の立場からは、仮に「情を知って」等の要件を課すことを念頭におくとしても、それだけをもって一利用者がその違法性を充分に認識することは極めて難しいのではないかと思われる。著作物の円滑な利用をはかることも著作権法が目指すところであり(第1条)、著作権者等の権利行使が利用者への不意打ちとならないよう、より具体的な要件の明確化が必要である。とりわけ、法制問題小委員会で議論されている著作権等侵害の非親告罪化が仮に法制化されることとなれば、その内容と相まってかかる不意打ちの懸念はより大きくなるものと思料する。
 また、「契約モデルによる解決」の例として適法配信からの私的録音録画(p.106〜)を第30条の適用範囲から除外する点についてであるが、家庭等の一定の閉鎖的な範囲で行われる私的録音録画について著作権者等の権利行使が事実上できないことから同条が制定された立法趣旨に鑑みれば、近年の著作権保護技術の活用等により著作権者等の権利行使がある程度可能な場合には、私法領域における私的自治の原則を優先させるべきという方向性には賛同できる。その一方で、このアプローチは、契約による第30条のオーバーライドを認めることを前提とする側面も有することから、第30条そのものの問題として、「適法配信以外の契約モデル」についても、さらに踏み込んだ具体的な検討がなされるべきであると考える。中間整理では、レンタル店から借りた音楽CDからの私的録音(p.108)について、対価の中に私的録音の対価が含まれているかどうかは「当事者間の意思解釈に係る問題であるが、当事者の認識として、私的録音の対価が含まれていると確認できる材料はなかった(p.102)」と明言している。このレンタルCDに関わる契約に果たして対価が含まれていないと言い切れるのか、少なくとも利用者の認識とは乖離していないか等、やや疑問も残る。適法配信からの私的録音録画に限らない様々なビジネスモデルにおける契約との関係も踏まえた第30条全体の制度設計を念頭においた検討がなされることを望む。

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