18.インターネット先進ユーザーの会

■104ページの「第30条の適用範囲からの除外」の項目

この項目について私たちは反対の意見を提出いたします。理由は下記の通りです。

○ストリーミングとダウンロードの区別は曖昧になっている

  YouTubeやニコニコ動画という特定のサービスは、動画がストリーミングで提供され、ダウンロードするものではありませんので、今回の報告書では、違法化の対象外であるとされています。しかし、ダウンロード形式で動画を共有するサイトにとっては今回の「違法化」は問題になりえます。ストリーミング技術を実装するRealPlayerには、その新しいバージョンで、ダウンロード再生を可能にする機能が追加されています。
 このように、昨今のブロードバンド インターネット環境において、ストリーミングとダウンロードは技術的に根本的な違いがあるわけではなく、両者を法律的に大きく意味の異なるものとして扱うと、むしろ、サービスを支える技術的な選択の幅を、不必要に狭めることにもなります。
 さらに言うならば、YouTubeやニコニコ動画も、キャッシュという形でダウンロードはされているわけで、そのようなファイルをハードディスクの別の場所に移動すれば、立派なダウンロードと見られてしまいかねません。同じサービスでも利用態様によって、異なる判断になる可能性があるわけです。
 また、YouTubeが相当数の著作権侵害ファイルを公開しているということになると、YouTubeのビデオダウンローダーを開発する行為が、Winnyの開発と同様、違法ダウンロードの幇助として民事上の共同不法行為者とされてしまうおそれもあります。今回は含まれていませんが、刑事罰が導入されたら、Winny事件のように、著作権侵害罪の共犯とも見なされる可能性もあるでしょう。
 そもそも、YouTubeのような疑似ストリーミングでダウンロードされたキャッシュが複製扱いされるか否かについては、専門家の間でも争いがあり、ストリーミングは今回の議論の対象ではないとする立場は判例と矛盾するという指摘もある以上、一般ネットユーザーの法的地位は甚だ不安定なものとなり、やはり合法的なダウンロード行為が萎縮させられることになります。
 先にも取り上げた裁判官の判断の問題もあります。映画の保護期間延長に関して、文化庁が言っていたことを、裁判所がひっくり返したということがありました。そのような事例を考えると、法文にストリーミングは対象外と明記されない限り、やはりストリーミングも違法と判断される可能性があるでしょう。
 これでは、せっかくユーザー生成コンテンツ(UGC)が伸びてこようとしている状況を、破壊してしまうことになりかねません。

○国際的な法規制の不整合

 また、国際的な法制度の整合性を考慮しなければなりません。その意味では、インターネットというものはそもそもグローバルなものであり、さらに権利制限というものは国によって異なっているものであるため、コンテンツがどの国の著作権法に違反していたらアウトとなるのか、ユーザーには容易に判断することができません。プロバイダ免責の違いも問題となります。たとえば、米国サイトがDMCA免責を満たしており米国では合法であれば良いのか、そのようなコンテンツが日本の基準に照らして違法と判断されたりしないのか、といったことがまずもって議論されていません。

○通信の秘密の侵害に繋がる

 ダウンロード違法化に実効性をもたせようとすると、「合法的な」ダウンロードの際に、受信者情報をどのように確実に入手するか、という問題が生じてくることでしょう。その結果として、ダウンロード者のトラッキングについて法制化(例えば、プロバイダ責任制限法改正による受信者開示制度の創設)を求める動きにつながる可能性がありますが、それでは通信の秘密が侵害されることにもなりかねません。

○学問・研究・報道が制限される

 日本にはフェアユース規定が存在せず、列挙されている権利制限も多くないため、調査研究目的で「違法サイト」にアクセスする行為すらも、違法と評価される可能性があります。ここで問題にしているのは、商業的コンテンツ調査研究の入手手段として正規手段によらず違法サイト上の侵害コンテンツを用いるような場合ではなく、権利侵害を伴う二次著作物の調査研究や、あるいは「違法サイト」それ自体を調査研究の対象としている場合です。
 そもそも、このような目的でアクセスするさいに付随する複製は従来から私的使用のための複製ではないと評価されうる領域です。しかし、従来はダウンロードによる私的複製が広く権利制限されてきたことから大となります。
 そうなると、権利者の意向に場合によっては反するような、実態の調査研究が困難になり、ひいては不偏不党であるべき学問の発展が損なわれることにもなります。
 また、報道についても同様の問題が起こります。報道については第四十一条における権利制限がありますが、第四十一条の権利制限は「時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物」を複製する場合に限定されており、サイト等の取材過程においてダウンロードする著作物がこの範囲に限定されうるとは必ずしもいえないと考えられ、やはり、ダウンロード違法化によるリーガルリスクが生じます。
 そうなると、権利者の意向に場合によっては反するような、実態の報道が困難になり、自由な報道による民主主義の実現にマイナスになります。

○送信可能化権で十分であるはず

 後に詳しく述べる通り、ダウンロード違法化は一般ユーザーに無用な負担をかけるものです。しかし、一般ユーザーに売り手が負担をかけるのは、本当に最後の手段であり、そのためには他の方法による対策では不可能である、という、疑いの余地のない綿密な議論が示されなければならない、と私たちは考えます。
 ダウンロード違法化の議論には、その前提として、違法にアップロードされたコンテンツというものが存在しているはずですが、日本の著作権法には、まさにこのような問題に対処するために創設された送信可能化権というものがあります。著作者の利益を大きく損なっていると言えるのは、個々のダウンロード行為ではなくアップロード行為であり、それは既にこの送信可能化権によって規制されているはずです。権利者はこれまで違法アップローダーに対して十分な法的対策を取ってきたと言えるでしょうか。私たちは懐疑的に考えています。
 著作権法に求められているのは、一部の権利者が権利侵害を便利に主張できることよりも、一般ネットユーザーが著作物を変なかたちで妨げられることなく便利に利用できることであると、私たちは考えます。

■105ページの「第30条の適用範囲から除外する場合の条件」の項目

 この項目について私たちは反対の意見を提出いたします。理由は下記の通りです。

○適法公開の識別が困難である

 今回の「ダウンロード違法化」が審議会に持ち込まれた経緯としては、「YouTube」や「ニコニコ動画」といった動画投稿サイト、いわゆる「着うた」の「違法」公開サイトなどのWebサービスサイトに、著作権(送信可能化権)を侵害するかたちで著作物が公開される場合があるため、と私たちは理解しています。
 しかし、わが国の著作権法は無方式主義であり、必ずしも外観上権利表示を伴うわけではないのですから、外形上は権利侵害コンテンツなのか合法的な公開コンテンツなのか、分からない場合があります。また、ダウンロードしたファイルの内容は結局のところ入手するまでは分かりませんが、入手時点で違法となってしまうおそれがあります。この状況において、「権利侵害コンテンツでありうるという情を知りつつ、そうであるとしてもそれを容認してダウンロードする」行為には、違法性の意識の可能性があるとして故意があると判断されうることになるでしょう。これは合法的に振る舞おうとする一般ユーザーにとって、合法的なダウンロードを萎縮するに足るリーガル・リスクになってしまいます。
 また、権利者の許諾を伴う公開であるかどうかという問題も、ほぼ同様に考えられます。YouTubeというサイト1つをとっても、そこに公開されている動画が、合法的に公開されているかどうかは、ストリーミングで閲覧したりVideoDownloaderなどを使用してダウンロードしたりする一般ネットユーザーにとっては、自明ではありません。「違法アップロードであるかもしれないという情を知りつつ、そうであるとしてもそれを容認してダウンロードする」行為には、故意があると判断されうることになり、やはり合法的なダウンロード行為が幅広く萎縮されることにも繋がります。

○違法性判断に疑問のある裁判例が少なくない

 また、私たちは、インターネットの仕組みや実際の利用態様を必ずしも適切に把握してしない裁判所・裁判官の判決等も少なくないと言わざるを得ません。実質的に権利侵害性の無いWebサービスに対しても、実態にそぐわない拡張的な解釈に基づいて権利侵害を認める判決が見受けられます。たとえばMYUTAや録画ネットといったサービスサイトは、裁判所によって著作権侵害を認定されましたが、一般ユーザーにとっては、既に対価を支払って入手している著作物の複製物を、自分の必要とする利用形態に合わせて複製するだけのものであり、これが違法サイトでありそこからのダウンロードが違法であるとして権利侵害を認定されるというのは、著しく納得できないものであろうと思います。

○架空請求の踏み台にされるおそれがある

 さらにおそろしいのは、ダウンロード違法化は、さまざまな手法で架空請求に用いられる可能性が高いという事です。たとえば、著作権者本人が同意して公開しているがその旨明示していないため、客観的には著作権侵害であるようなコンテンツをダウンロードした者に対して、第三者が(パケットスニッフィング等によって同者がダウンロードした事実を把握したうえで)違法ダウンロードであり対価を請求する、といった例が考えられます。また、そこまでしなくても、通常の振り込め詐欺同様、10,000人に請求してほんの数人でも引っかかる人がいれば、それだけでも重大な問題です。

○「合法マーク」は不適切な対応である

 「合法ダウンロードマーク」を付ければ識別できるという主張もあります。これは、同マークを売り込もうとする生野委員率いる日本レコード協会にとっては都合の良い議論であるものの、以下に示すとおり、数多くの問題点があります。
 消費者およびコンテンツ提供者にとっては、ダウンロード時に本来不必要である確認を強いられたり、費用をかけて対応する(さらに同マークが同協会から「有償にて」提供されるものではないと信じたいところです)といったことが要求されます。このような、著作権法の制度趣旨にも合致しない、本来的に不必要な負担を強制できる正当な理由は、何もないはずです。
 この合法マークというものが、コンテンツではなくサイトごとに設定されるということを前提としているのであれば、そもそも原理的にマークが設定できないサービスが多々存在します。YouTubeWikipedia、各種ブログサービスといった、一般ユーザー投稿型のサービスは、この「合法マーク」市場から閉め出されることになります。これは事実上の排他的な取引慣行であり、独占禁止法やWTO各種条約に牴触するおそれがあります。そもそも、国際的な法の整合性という観点で、この「合法マーク」は海外サイトには当然適用されるはずもなく、実質的に意味のないマークになるか、WTO各種条約に牴触するかのどちらかになることでしょう。
 「合法マーク」は、法制化されないのであれば、「勝手合法マーク」を規制する事が許されませんから、いかなる違法サイトも「勝手合法マーク」を設置する事により、実質的に利用者が違法ダウンロードの故意が認められないことになり、意味のない法改正ということになります。

■59ページの「ファイル交換ソフトを利用した私的録音録画の現状について」の項目

 この項目について私たちは現在の疑問ある形でのまとめには「反対」いたします。理由は下記の通りです。

○不透明な「ダウンロードによる被害」

 違法アップロードによる被害とされるものが、本当に実態を反映していると言えるのか、疑問を持たざるを得ない部分があります。違法サイトによる被害額とはどんなものであるか、十分な根拠をもって示し、それによって初めて議論の俎上に乗せることができるものであると、私たちは考えます。
 統計データも、どちらかと言えば印象操作のために作られているものがあるように思います。たとえば、ファイル交換ソフトを「過去に利用していた」ユーザーの数は、「若い頃にロック音楽を好んで聴いていた」音楽愛好家と同様に逓増し、いずれは現役のネットユーザー総数に対して200パーセント、300パーセントといった数字になることでしょう。
 そもそも、ファイル交換ソフトの利用に関しては、そもそもユーザー自身が発信者になるわけですから、既に公衆送信権を侵害しているもので、ダウンロード違法化の根拠とする合理的な理由にはなりません。

■71ページの「違法な携帯電話向け音楽配信からの私的録音の現状」の項目

 この項目について私たちは反対の意見を提出いたします。理由は下記の通りです。

○不透明な「違法サイト」の範囲

 こちらも統計上の疑問ですが、ネット上でも批判の多いMYUTA事件判決のことを考えると、一般ネットユーザーの理解から乖離した「違法サイト」判断が、本報告書でまとめられているアンケートで行われているかもしれません。私たちが権利者団体であれば、MYUTAや録画ネットのようなサイトも「違法着うたサイト」「違法動画配信サイト」としてアンケート結果をまとめ、一般ネットユーザーは法規範意識に欠けると印象づけようとするでしょう。しかし、それでは本当の一般ネットユーザーの法規範意識を反映しているとは言えません。

■104ページの「検討結果」の項目

 この項目について私たちは反対の意見を提出いたします。理由は下記の通りです。

○潜在的な違法ユーザーという危険性

 以上で議論してきたように、ダウンロード違法化は、一般ユーザーを潜在的に違法ユーザーとするものであり、これは国民の法規範意識にも合致するものでは言えず、法治国家として非常に好ましくない事態となります。これは、権利者団体にとって優先度の高い一般ネットユーザーを、恣意的に民事訴訟の対象とできたしょう。それでは、公正な法運用に支障を来します。潜在的違法ユーザーを大量に生み出すことになれば、その「違法ダウンロードを行ったかもしれない」という一般ユーザーの意識につけ込んで、偽の権利侵害を主張する詐欺や恐喝をする者が現われることになるでしょう。米国では既に現実化しています。ダウンロード違法化というのは、善人である一般ユーザーを詐欺師の餌食にするとっかかりにする、悪人に資する法改正となる可能性が低くありません。

○著作権者がインターネットで流通させていないのが一因

 そもそもコンテンツの違法なアップロードは、著作権者がそのコンテンツを死蔵し、あるいはコンテンツホルダーの都合での市場分割によって、日本でのみ適法コンテンツが流れないといった、日本人の利益に適わない事態があるためである、という例も多いように思います。たとえばApple iTunes Store for Franceで販売されている楽曲が、iTunes Store for Japanでは販売されていない、といった事例が報告されています。このような問題が生じるのは、ロングテール、超流通といった経済的に合理的なモデルに移行できない一部コンテンツホルダーが、前世紀型コンテンツ販売モデルに依存しているためではないでしょうか。

○「一億総クリエイター」「一億総ユーザー」の理念と矛盾

 そもそも著作権法がその目的とする創作性の拡大は、過去の著作物に多かれ少なかれ影響を受けるかたちで行われるものです。文化庁でもそのことを意識して「一億総クリエイター」「一億総ユーザー」といった理念を打ち出して、政策を立ててきたのではなかったでしょうか。
 過去の著作物へのアクセスを狭めるという発想は、これらの高尚な理念に基づく従来の方針とは相反するものであるように、私たちには思えます。過去の作品に依拠した創作は、公表され私的使用の範囲をこえた時点で、いずれにしろその依拠への相当対価を支払うことになるのです。場合によっては原作品以上に市場に浸透し、原作者の利益にも資するような派生作品の誕生の可能性を、あえて潰してしまうような法制度は、日本の国益に適うものと言えるのか、私たちは懐疑的です。

■108ページの「1.第30条の適用範囲からの除外」の項目

 この項目について私たちは反対意見を提出いたします。理由は下記の通りです。

○私的録音録画は補償か契約による対価を伴うという考えに反対します

 オーバライド契約と補償金との二重取りを防ぐ必要がある、という本項目の趣旨そのものについては反対ではありませんが、本項目には、第30条による私的録音録画は補償か契約による対価のいずれかを必ず伴うという考え方が読み取れます。次の節以降で問題となる、タイムシフトやプレイスシフトが補償ないし対価が必要なものであるかどうかは、議論が尽くされていないと考えます。また、他の権利制限範囲の前段としての私的録音録画が対価を必要とされるかどうかについても、議論されていないと考えます(この点は補償についての意見として別に詳述します)。その部分について反対し、文言の修正を求めます。

■108ページの「2.第30条の適用範囲から除外する場合の条件」

 この項目について私たちは反対意見を提出いたします。理由は下記の通りです。

○私的録音録画は補償か契約による対価を伴うという考えに反対します

 最初の文の前段「現状では、利用者と権利者が録音録画について直接契約することは、取引コスト等の関係でまだ事実上困難であり、現状では権利者は配信事業者との契約により、録音録画に対する対価を確保する必要があることになるが」と、それに続く「配信事業者が利用者の録音録画行為について一定の管理責任を負っているような事業形態に限定して第30条の適用を除外すべきである。」は、全ての私的録音録画について補償か契約による対価のいずれかを必ず伴うべきであるという考え方を補わない限り、論理的な飛躍があります。この点、次の節以降で問題となる、タイムシフトやプレイスシフトが補償ないし対価が必要なものであるかどうかは、議論が尽くされていないと考えます。また、他の権利制限範囲の前段としての私的録音録画が対価を必要とされるかどうかについても、議論されていないと考えます(この点は補償についての意見として別に詳述します)。その部分について反対し、文言の修正を求めます。
 また、配信業者が一定の管理責任を負っている場合には、コピーネバーのケースもあり、この場合は私的録音録画の対価が契約に含まれません。配信業者の管理が第2条20号で定義する技術的保護手段によるものである場合の迂回行為は、現行法においても第30条から除外されていますが、無反応機器の利用や、不正競争防止法における技術的制限手段の利用などによる私的録音録画を第30条から除外することについては、十分な議論が行われていません。
 また、この場合は、現状においても利用者を受信契約違反を問うことができると考えられ、重ねて著作権法違反とする必要性は薄いのではないかと考えられます。
 そもそも、本項目の趣旨は、補償と対価の二重取りの回避にあり、複製禁止ではないので、コピーネバーのケースについては、「第30条の適用範囲から除外する場合の条件」から外すよう、文言の修正が必要であると考えます。これは、続く「b レンタル店から借りた音楽CDからの私的録音、適法放送のうち有料放送からの私的録画」において、有料放送を第30条の適用範囲から除外することを見送っていることと整合性があるものです。

■116ページ〜119ページの「第3節 補償の必要性について 3.補償の必要性の有無」の項目

 この項目について、私たちは、議論が尽くされていない現状で結論を出すことには「反対」いたします。理由は下記の通りです。

○私的録音録画は他の権利制限のために必要な手段

 インターネットの普及と技術革新により、多くの一般の人々がネットユーザーとして、著作物としてのコンテンツを消費するだけではなく、大量に生成する時代となっています。
 著作物の創造は、何もないところから生じるものではなく、むしろ既にある著作物の上に生じることが多いことはよく知られています。そのような著作物の利用は、原著作者の権利の及ぶものも少なくありませんが、第32条の引用や、第41条の報道目的の利用など、権利制限されているものもあります。さらに、引用などのない形でも、著作物を批評・論評するといった形での著作物の創造もあります。第41条の適用は「市民ジャーナリズム」といった言葉が一般化しつつある現在、一般のネットユーザーを担い手とする著作物として今後のさらなる増加が見込まれます。
 このような利用は、147ページ〜149ページ「参考資料2 ベータマックス事件の概要」において、米国の連邦控訴裁判所判決(148ページ)や連邦最高裁判所少数意見(149ページ)において「生産的利用」とされているものにあたると考えられます(連邦最高裁判決は、非生産的利用にもフェアユースを及ぼしたものであり、生産的利用がフェアユースにあたることを否定するものではない)。
 配信コンテンツについて前述のような生産的利用を行う場合、それを録音・録画して固定する必要があります。利用の場合は、著作物全体の中から必要な箇所を切り出すために必要ですし、評論評においても、特定箇所を繰り返し確認するなどの作業が必要になる場合があります。
 職業的著作者やメディア企業のみが著作物を創造するのであれば、このような作業全体はそもそも私的録音録画とはいえない、ということになると思われますが、前述のように今や一般の人々が著作物を生成するようになったので、生産的利用の前提としての私的録音録画は無視できない存在となっています。このような場合の私的録音録画は、創造のサイクルを促進させるためには欠かすことのできない肯定的な意味を持っています。
 著作権が制限されるべき創作のための活動があるという事実を無視して、それらの前提となる私的使用複製行為を、著作権の制限対象外とするということは、事実上、引用や報道の自由を奪うということになります。
 しかしながら、本項目においては、もっぱら、職業的著作者やメディア企業の経済的利益にのみ着目する形で、「補償の必要性」の有無について検討を重ねており、議論を尽くされているとは考えられません。

○プレイスシフトとタイムシフトについての議論が尽くされていない

 プレイスシフトとタイムシフトについての補償の必要性の議論については、将来についての不確かな予測を交えたものとなっており、議論が尽くされているとはいえないと考えます。特にタイムシフトは、他の目的と区別しがたいことから補償の必要性を肯定するという議論になっており、強引さを否めません。
 そもそも、一般家庭の視点で評価するなら、TVを見られる時間に自宅に居る人に比べて、自宅に居ないから録画して見なければならないという人が、特別に「経済的不利益」の代償として補償金を支払わされるべきというのは、明らかに間違った結論です。結論が間違っているのであれば、前提ないし議論の過程が間違っているというより他にないと考えます。

■123ページ〜125ページ「第4節 補償措置の方法について」

 この項目について私たちは「議論が尽くされていない」とする意見を提出いたします。理由は下記の通りです。

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