第6章 外国における私的複製の取扱いと私的録音録画補償金制度の現状について

 以下は、「私的録音・録画と著作権に関する海外調査報告(1)(平成18年5月8日〜19日)社団法人私的録音補償金管理協会・社団法人私的録画補償金管理協会」及び「私的録音・録画と著作権に関する海外調査報告(2)(平成18年10月9日〜20日)社団法人私的録画補償金管理協会」の内容と事務局で入手した情報等を加えて整理したものである。

 整理の方法は次のとおりである。

第1節 ヨーロッパ連合(EU)

 EUは、1991年のマーストリヒト条約で成立し、現在、27ヶ国で構成されている。EUにおける私的録音録画問題への最近の対応については次のとおりである。

(1)2001年のEU理事会指令

 EU議会は、デジタル技術の進展による著作物の創作・利用手段の多様化に伴って、EU域内市場における情報社会の発展を妨げる国内規定を調整し、加盟国全体の調和を図るため、「2001年の情報社会における著作権および関連権の一定の側面のハーモナイゼーションに関する欧州議会及び理事会の指令」(以下「EU理事会指令2001」という。)を2001年に可決した。

 特に、EU理事会指令2001第5条(2)(b)(注)では、複製権の例外と著作権保護技術との関係について規定しており、著作権保護技術の使用の程度を考慮し、権利者が公正な補償を受けることを条件として複製権の例外を規定できることを認めている。

 なお、EU加盟国は、EU理事会指令2001を国内法化する義務を負っているが、指令は各国国内法の調整を目的とするため、すべての加盟国の法令が完全に同一になるわけではなく、各国は独自の判断に基づき法令を制定できることとされている。

 また、加盟国がこの義務を遵守しているかどうかはEU委員会によって調査され、義務違反が確認された場合は、当事国に義務の履行を求めることができ、改善されないときはEU裁判所に訴えることができることとされている。

(2)欧州司法裁判所への提訴

 EU理事会指令2001の国内法化の実施期限は2002年12月22日であったが、フランスやスペインなど計10ヶ国の国内法制化は大幅に遅れたため、EU委員会は、2004年から2006年にかけて各国を欧州司法裁判所に提訴している。
 これを受け、同裁判所は、提訴された国はいずれもEU理事会指令2001が課す義務を履行していないと判断している。

(3)EU理事会指令2001公表後のEUの動向

 EU委員会は、EU理事会指令2001を公表した後、EU域内市場に与える影響や問題点を把握するため、2004年10月、加盟国へ質問調査表を送付した。

 調査の結果、補償金の対象範囲や補償金の決定方法、補償金額など、国により多岐にわたっていることが明かになったため、2005年10月に補償金制度の改革に関するロードマップをまとめ、改革への取り組みを開始した。

 その後、EU委員会は、特にダウンロードサービスと補償金制度との関係において近年のデジタル機器・記録媒体の多機能化や著作権保護技術の活用により、EU加盟国が採用している補償金制度は、技術革新に十分対応できていないとして、EU理事会指令2001の複製権の例外の趣旨を明確化するため、EU理事会指令2001第5条(2)(b)に規定する権利者への公正な補償とは、必ずしも補償金制度に限られる訳ではなく、権利者は自らの利益に最もかなう制度を選択できなくてはならないとする勧告案を2006年12月の定例会議で採択する予定だった。

 しかし、同年12月、フランスのドビルパン首相が、権利者の権利と文化的多様性を保護するためには補償金制度は維持すべきと主張し、EU委員会委員長宛に補償金制度の改革案の採択延期を求める書簡を提出したため、勧告案の採択は見送られた。

第2節 ドイツ

(1)沿革

 西ドイツ(当時)では、1965年の現行法制定時に、世界で初めて補償金制度を導入し、今日に至っている。
 最近の動向としては、EU理事会指令2001を受けた著作権法の改正が二段階に分けて行われており、第一次包括草案が2003年に成立した。その後、2007年7月に第二次包括草案が下院を通過し、今後、上院の審議が行われる予定である。

(2)私的複製の取り扱い

 ドイツ著作権法では、私的使用のために著作物の複製物を作成することは許されることとされている(第53条(1))が、2003年の第一次包括草案の成立により、明らかに違法に作成された著作物からの複製は、許されないこととされた。

 なお、現在国会で審議されている第二次包括草案では、2003年改正を明確化するため、インターネット上で明らかに違法に提供されているものからの複製は、私的複製の範囲から除外することとしている。

(3)補償金制度の対象

 対象行為は、私的録音・録画(アナログ・デジタルの区別なし)である。請求権は著作者、実演家及びレコード製作者に認められており、機器及び記録媒体の製造業者等に対し行われる(第54条(1))。

(4)支払義務者

 補償金の支払義務は、製造業者、輸入業者及び販売業者が連帯して負うこととされている(第54条(1))。なお、実際には、製造業者や輸入業者が補償金を支払わない場合に販売業者から徴収することになる。

(5)対象機器・記録媒体の範囲

 補償金の対象とされる機器・記録媒体は法定されており、第54d条の別表に掲げられている。
 この別表はアナログの機器・記録媒体を念頭に置いて作成され、その後別表の改訂は行われていないが、実際には、関係者の合意により、デジタル機器・記録媒体についても補償金の対象とされている。

 なお、パソコンについては、2007年7月、ドイツ特許庁が補償金の対象とすることを決定し、現在、補償金額を巡って管理団体側と製造業者側で協議が行われている。

(6)補償金額の決定方法

 補償金額は、管理団体が利害関係団体から意見を聴取して定めることとされているが、特約がない限り、第54d条の別表に定める額が適用されることとされている。

 なお、現在国会で審議されている第二次包括草案では、補償金の対象とされる機器・記録媒体及び補償金額を著作権法で定めるという方法ではなく、市場調査を踏まえて管理団体側と製造業者側との協議により決定する方法に変更することが予定されている。

 また、補償金の額については、補償金の対象とする機器・記録媒体が私的複製に使われる程度、著作権保護技術の適用の程度、記録媒体の性質・性能の内容、製造業者・輸入業者の負担について配慮することとされている。

 なお、ドイツ法務省は、第二次包括草案の当初案において、補償金は録音録画機器の価格の5パーセントを上限とする規定を盛り込んでいたが、権利者団体の反対により上限は撤廃されている。

(7)報酬の徴収・分配方法

 補償金請求権は、集中管理団体によってのみ行使することができると規定(第54h条(1))されており、ZPÜ(私的複製権センター)が補償金の徴収分配業務を行っている。ZPÜは、補償金の支払義務者である製造業者や輸入業者と包括的な契約を結んで補償金の支払いを求めているが、その事務の全てを音楽著作権の管理団体であるGEMAに委託している。

<徴収額の推移>

徴収額(単位:万ユーロ) 徴収額(単位:百万円)
2005 約14,700 約20,580
2004 約10,200 約14,178
2003 約7,700 約10,395

(8)補償金の返還制度

 ドイツ国外へ輸出される機器・記録媒体に係る補償金については、返還制度の対象とされているが、一般消費者からの返還請求に応じる義務はない。

(9)共通目的事業

 ドイツでは、徴収した補償金の一部を共通目的事業へ支出することに関する法律上の義務はないが、実務上、GEMAなどの管理団体が、構成員の同意を得て社会・文化的な目的の事業に支出している。

第3節 フランス

(1)沿革

 フランスでは、1976年に、録音用機器に販売価格の4パーセントを課税し、この税収から芸術家の育成援助などに支出することを目的とする法律案が提案された。しかし、権利者へ分配がなされないという問題から財政法の分野では限界があったため、著作権制度の枠内で解決を図ることとなり、1985年に補償金制度を導入した。
 その後、EU理事会指令2001を受けた2006年改正では、私的複製や補償金制度と著作権保護技術との関係の調整規定等を新たに整備した。

(2)私的複製の取り扱い

 著作者は、公表された著作物の私的使用を目的とした複写又は複製であって、集団的使用が意図されない場合、当該行為を禁止できないこととされている(第122-5条1項)。

 なお、2006年改正により、著作物の通常の利用を妨げるものであってはならず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害するものであってはならないとする、いわゆるスリー・ステップ・テストの要件が追加規定された。これは、違法なソースからの複製など、私的複製の範囲から除外すべきものを念頭に置いて規定されたものと考えられている。

(3)補償金制度の対象

 対象行為は、私的録音・録画(アナログ・デジタルの区別なし)である。補償金請求権は、レコード又はビデオグラムに固定された著作物の著作者、実演家、レコード製作者、ビデオグラム製作者に認められており、記録媒体の製造業者等に対し行われる(第311-1条)。

(4)支払義務者

 記録媒体の製造業者又は輸入業者に補償金の支払義務が課せられている(第311-4条)。

(5)対象記録媒体の範囲

 補償金の対象とされる記録媒体の範囲は、国の代表を委員長とし、補償金請求権団体代表(2分の1)、製造業者・輸入業者団体代表(4分の1)、消費者団体代表(4分の1)で構成される私的複製委員会において多数決により決定される(第311-5条)。

 具体的には、機器から取り外しが可能な記録媒体だけでなく、機器に内蔵された記録媒体も補償金の対象とされている。
 ハードディスク内蔵型の携帯オーディオレコーダーについては、2002年に補償金の支払いが義務付けられた。外付けのハードディスク及びフラッシュメモリについては、私的複製委員会で補償金の対象とするかどうか検討がなされていたが、2007年9月に補償金の対象とすることが決定された。

 なお、パソコンに内蔵されているハードディスクについては対象とされていない。

(6)補償金額の決定方法

 補償金額についても、前述の私的複製委員会で決定される。具体的には、記録媒体の種類及びその記録可能時間に応じて決定されるが、2006年法において、著作権保護技術の使用の程度及びそれらの影響を考慮に入れて補償金額を決定すること及び既に契約等により対価を得ている利用形態については補償金を徴収できないことが新たに規定された(第331-4条)。

(7)補償金の徴収・分配方法

 法律により、補償金の徴収は徴収分配団体によって行われることが定められており(第311-6条)、徴収分配協会であるSORECOP(私的録音報酬徴収分配協会)及びCOPIEFRANCE(私的録画報酬徴収分配協会)が徴収分配業務を行っている。
 ただし、両協会とも、SDRM(音楽録音権管理団体)へ事務を委託し、SDRMはSACEM(音楽演奏権管理団体)に事務を再委託している。

<徴収額の推移>

徴収額(単位:万ユーロ) 徴収額(単位:百万円)
2006 約15,600 約24,492
2005 約15,500 約21,700
2004 約16,800 約23,352

(8)報酬の返還制度

 フランスでは、業務目的や福祉目的に記録媒体を使用又は取得する場合には、補償金が返還されることとされている(第311-8条)。

(9)共通目的事業

 法律により、補償金の25パーセントは、創作援助活動、生の興行の普及及び芸術家養成活動に使用しなければならないこととされており、SACEMやSACD等の権利者団体によって文化目的事業に支出されている。

第4節 イギリス

(1)沿革

 イギリスでは、1977年のウィットフォード委員会報告書、1985年のグリーンペーパー、1986年のホワイトペーパーにおいて、いずれも補償金制度を導入する方向が示唆されたが、権利者、製造業者、消費者等による議論の末、補償金制度の導入を盛り込まない形で1988年改正法が制定され現在に至っている。

(2)私的複製の取り扱いと補償金制度への対応

 イギリスでは、研究又は私的学習を目的とする文芸、演劇、音楽、美術の著作物の公正利用(fair dealing)は、著作権を侵害しないこととされており(第29条)、娯楽目的のために行われる私的録音録画には原則として適用されていない。

 ただし、1988年の改正により、放送番組及び有線放送番組をより都合のよい時に見又は聞くことを可能とすることのみを目的として放送又は有線番組の録音録画物を私的及び家庭内の使用のために作成することについては、著作権侵害の責任は問わないこととされた(第70条)。
 以上のとおり、イギリスでは70条以外に娯楽目的での録音録画を認容する規定はい。現在も補償金制度は採用されておらず、権利保全については全て権利者に委ねている。

(3)EU理事会指令2001への対応

 EU加盟国の多くは、私的使用目的の著作物の複製を容認する規定と公正な補償に関する規定を採用しているが、イギリス政府は、他のEU加盟国が採用している補償金制度を制定しなくても、イギリス著作権法はEU理事会指令2001が求める水準をすでに満たしているという考え方を示している。
 これは、補償金制度は最適な制度ではないため、包括的な補償金制度よりも著作権保護技術と契約の組み合わせにより、権利者のライセンスによって権利者の利益を確保する方向を期待しているという考え方が背景にある。

第5節 アメリカ合衆国

(1)沿革

 アメリカ合衆国では、1981年からアメリカ合衆国議会において補償金制度に関する審議が始められたが、いわゆるベータマックス裁判(「参考資料2」参照)の結果、私的録画を除く私的録音に係る機器・記録媒体に課金するAHRA法(家庭内録音法)が制定され、1992年に発効した。その後、技術の進展により新しい製品が登場しているにもかかわらず、アメリカ合衆国では、同法に基づく対象品目の追加はなされていない。

(2)私的複製の取り扱い

 アメリカ合衆国では、包括的な権利制限規定を置き、著作物の性質、使用の量・程度、潜在的な市場又は価値への影響等の要素を勘案し、「公正な使用(fair use)」を認めている(第107条)。

 なお、2001年2月にアメリカ連邦第9巡回区控訴裁判所は、ファイル交換ソフトを利用した著作物のダウンロードはレコード会社の複製権を侵害すると判断している。

(3)補償金制度の対象

 対象行為は、私的録音(デジタル録音に限る)である。請求権は、著作者(レコード製作者を含む)に認めており、機器及び記録媒体の製造業者等に対して行われる(第1003条(a))。

 なお、同法は、汎用コンピュータやその関連の機器・記録媒体は対象とされていないが、これは、同法制定当時、コンピュータを介して音楽を録音する行為を想定していなかったためである。

 また、デジタル録音機器にデジタル複製の世代コントロールを可能にするコピー制御装置の組み込みを義務づけており、具体的には、SCMS(Serial Copy Management System)によるものでなければならないこととされている。

(4)支払義務者

 デジタル録音機器及び記録媒体の製造業者及び輸入業者に補償金の支払義務が課されている。

(5)対象機器・記録媒体の範囲

 現在、家庭内録音法の対象とされている機器・記録媒体は、DAT、DCC、MDの録音機器・記録媒体であるが、これらの製品は年々売上額が減少しているため、補償金の徴収額も減少している。

 なお、1998年にアメリカ連邦第9巡回区控訴裁判所は、MP3形式のポータブルレコーダーは、コンピュータを介して音楽をMP3形式のレコーダーにダウンロードしているため、そのような行為を想定していない家庭内録音法の対象とはならないと判示している。

(6)補償金額の決定方法

 私的録音に係る補償金の額は、法律で録音機器・記録媒体ごとに一定率を定めている。

<徴収額の推移>

徴収額(単位:千ドル) 徴収額(単位:百万円)
2006(前半期) 約1,433 約169
2005 約2,420 約286
2004 約2,667 約275

(7)補償金の徴収・分配方法

 製造業者や輸入業者が、録音機器・記録媒体の頒布報告書を添えて補償金をアメリカ著作権局に支払っている。
 権利者に対する分配については、家庭内録音法で規定されており、分配対象者は、レコード製作者、実演家、ソングライター・音楽出版社である。これらの分野の徴収管理団体を通じて個々の権利者に分配されている。

(8)補償金の返還制度

 補償金の返還制度は存在しない。

(9)共通目的事業

 徴収した補償金を社会的・文化的事業に使用することは行っておらず、全て権利者へ分配されている。

第6節 その他

1 スペイン

(1)沿革

 スペインでは、1987年に著作権法を改正し補償金制度を導入した。その後、EU理事会指令2001を受け、2006年に私的複製及び補償金制度等に関連する著作権法の改正が行われた。

(2)私的複製の取り扱い

 スペインでは、複製物を集合的な使用又は営利目的の使用に供しないことを条件として私的使用のために複製する場合は、著作者の許諾を要しないこととされている(第31条3項)。

 なお、2006年の改正において、インターネット上で明らかに違法な態様で提供されているものからの複製は、私的複製の範囲から除外することが明確化された。

(3)補償金制度の概要

 対象行為は、私的録音・録画(アナログ・デジタルの区別なし)である。請求権は著作者、レコード製作者、ビデオ製作者、実演家に与えられる(第25条)。

 支払義務者は、機器及び記録媒体の製造業者又は輸入業者とされており、流通業者や卸売・小売業者は、製造業者等と伴に連帯責任を負う(第25条(4))。

 補償金額の決定方法は、2006年改正により、デジタル方式の録音録画機器・記録媒体については、徴収団体と製造業者等による市場調査の後、両者の交渉を経て政府が決定する方法に改められたが、法改正後に行われた両者の協議は合意に達しなかったため、スペイン文化省は、今後、経済大蔵省との調整を経た後補償金額を決定することとしている。

 また、同年の改正により、著作権保護技術の使用度合いに応じて補償金額を決定することとされた。

 なお、徴収・分配方法、返還制度、共通目的事業等については、後掲の一覧表を参照されたい。

2 オランダ

(1)沿革

 オランダでは、1991年に補償金制度を導入している。その後、EU理事会指令2001を受けて、2004年に補償金制度等の関連の著作権法の改正が行われている。

(2)私的複製の取り扱い

 オランダでは、個人が商業目的でなく、かつ、個人での使用や研究のみを目的として著作物の複製を行う場合は、著作権の侵害とはみなされないこととされている(第16条(c)(1)(2))。

(3)補償金制度の概要

 対象行為は、私的録音・録画(アナログ・デジタルの区別なし)である。請求権は著作権者等に与えられ、補償金の支払義務者は、記録媒体の製造業者と輸入業者とされている。

 補償金は、権利者の利益を代表する機関として法務大臣により指名された私的複製協会(Stichting de Thuiskopie)と製造業者とによって構成されるSONTと呼ばれる組織が、補償金の対象品目及び補償金額を決定している。

 なお、2004年改正により、著作権保護技術を考慮して補償金額を決めることとされ、2004年11月以降は、DVD+R/RWに係る補償金額について66パーセントの減額が行われている。

 なお、徴収・分配方法、返還制度、共通目的事業等については、後掲の一覧表を参照されたい。

3 オーストリア

(1)沿革

 オーストリアでは、1980年に西ドイツに次いで世界で2番目に補償金制度を導入している。なお、オーストリアの特徴として共通目的事業への支出割合が50パーセントと他国に比べて非常に高い割合になっている。

(2)私的複製の取り扱い

 私的使用のために、文学、音楽、美術の著作物の複製物を作成することができることとされている(第42条)。

(3)補償金制度の概要

 対象行為は、私的録音・録画(アナログ・デジタルの区別なし)である。請求権は著作権者等に与えられる(第42b条)。

 支払義務者は、製造業者や輸入業者など、国内で最初に記録媒体を商用有償流通させた者とされているが、輸入業者が捕捉できない場合には、記録媒体の卸売業者や小売業者が保証人としての支払義務が課せられている(第42b条3項)。

 記録媒体には、一体型機器に内蔵されたハードディスクやMP3プレーヤー内蔵のメモリカードが含まれるが、パソコンのハードディスクは対象とされていない。

 補償金の額は、法令で決定されている訳ではなく、音楽録音権管理団体(Austro-Mechana)と連邦商工会議所との協議により決定する。なお、2006年の管理団体法の改正により、協議が整わなかった場合の特別仲裁手続が設けられた。

 なお、徴収・分配方法、返還制度、共通目的事業等については、後掲の一覧表を参照されたい。

4 カナダ

(1)沿革

 カナダでは、補償金制度が導入されるまで、調査研究目的での複製を認める公正使用(fair dealing)の規定しかなく、私的使用目的であっても権利者の許諾を得ずに複製する行為は全て権利侵害とされていたが、1998年に補償金制度が導入された。

(2)私的複製の取り扱い

 カナダでは、調査又は私的研究を目的とした公正使用は、著作権を侵害しないこととされており(第29条)、さらに、音楽の著作物、実演、レコードを聴覚的記録媒体に複製する行為は、著作権の侵害にならないこととされている(第80条(c))。なお、娯楽目的の私的録画については特別な規定は置かれておらず、違法とされている。

(3)補償金制度の概要

 対象行為は、私的録音(アナログ・デジタルの区別なし)である。請求権は、著作者、実演家、レコード製作者に与えられる(第81条(1))。

 支払義務者は、聴覚的記録媒体の製造業者及び輸入業者とされている(第82条)。

 補償金額は、徴収団体であるCPCC(Canadian Private Copying Collective)が補償金の対象品目と料金表案を独立行政審判所であるカナダ著作権委員会に提案し、同委員会による料金表案の公告の後、異議申し立てがあれば、同委員会は必要に応じて料金表案を修正し決定する。

 2003年12月、カナダ著作権委員会は、メモリー内蔵型オーディオレコーダーのメモリーを補償金の対象とする決定をしたが、連邦控訴裁判所によって否定され、その後、カナダ著作権委員会は考え方を変更し、2007年7月、再度、メモリー内蔵型オーディオレコーダーの追加を決定した。現在、料金表案の公告、異議申し立ての受け付けが行われている。

 なお、徴収・分配方法、返還制度、共通目的事業等については、後掲の一覧表を参照されたい。

第7節 世界知的所有権機関(WIPO)

 世界知的所有権機関(WIPO)事務局における私的録音録画と補償金制度についての見解は次のとおりである。

1 ベルヌ条約との関係

 私的録音録画については、ベルヌ条約第9条第2項により、いわゆるスリー・ステップ・テストの下で認められる。著作者の正当な利益を不当に害する事情がある場合には、適切な補償措置を導入することによりスリー・ステップ・テストの要件が満たされる。しかし、補償金制度自体は条約上の義務ではないので、条約を根拠に補償金制度を設ける国もあれば、そうでない国もある。

2 補償金制度の対象外とされるべきもの

 補償金制度を採用すべきでない例としては、違法なソースからコピーしたり、権利者の許諾を得ていないものを私的録音録画する場合が挙げられる。しかし、違法な使用かどうかの区別は困難という課題がある。

3 補償金制度について

(1)補償金額の決定

 WIPOとしては、どのように額を決めるべきかを奨励する立場にないが、多くの国で権利者側と支払者側で交渉して補償金額を決定する方法を採用しており、額が決まらない場合には仲裁(調停)手続に入るなど国によって方法は様々である。

(2)支払義務者

 製造業者又は輸入業者としている国が多い。補償金を支払わなかった場合の制裁については国によって異なり、国際ルールは存在しない。

(3)共通目的事業

 徴収した補償金を完璧に権利者に分配することは不可能であるので、音楽、アート、文学の伝承といった共通目的のため、補償金を支出することは正当化される。徴収団体による共通目的事業への支出割合について国際的な共通ルールはなく、WIPOとしては各国内法によるべきと考えている。

4 著作権保護技術と補償金制度との関係

 著作権保護技術の将来性は十分考えられるが、著作権保護技術が広く適用されるかどうかは不透明であり、現時点において著作権保護技術と補償金額を調整するメカニズムが確立しているわけではない。
 WIPOとしては、補償金制度を廃止するのではなく、補償金の額を下げるという方向性が現実的であると考えている。また、多機能な機器が登場した場合に自動的に補償金を課すことは適切ではないと考えている。


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