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資料2

私的録音録画小委員会における議論の整理メモ(1)

平成19年8月24日

1   私的録音録画問題の解決方法に関する基本的視点
(1)  現行制度は長い間の経緯を経て、国際的動向も考慮しながら、関係者の合意の上に設けられたものである。

(2)  しかし、制度導入後の事情の変化も踏まえて、平成18年1月の文化審議会著作権分科会報告書では、制度上の問題点を指摘しつつ、「私的録音・録画についての抜本的な見直し及び補償金制度に関してもその廃止や骨組みの見直し、更には他の措置の導入も視野に入れ、抜本的な検討を行うべき」と提言した。

(3)  本小委員会として、補償金制度の導入時は現行制度が最適な制度と考えられてきたが、時代の変化にあわせて見直されるべきであり、その見直しに際しては、以下のような基本的視点に基づき議論をすることが必要である。
  1 私的録音録画は社会に定着した社会現象であり、原則的には尊重
2 第30条の範囲の見直しや補償の必要性、具体的な制度設計を考える場合には、著作権保護技術や配信事業等の音楽・映像ビジネスの新たな展開などとの関係を十分に考慮
3 仮に補償金制度を維持するとした場合、できる限り公正かつ合理的な制度を目指す

2   著作権法第30条の適用範囲の見直しについて
(1) 利用形態ごとの契約の実態
録音録画実態の変化に伴い、第30条の適用範囲も適切な見直しが必要である。
私的録音録画の形態を分類し、調査・検討した結果は別紙のとおり。
第30条から除外することが大勢であった利用形態は、次のとおり。
 違法録音録画物や違法サイトからの私的録音録画
権利者に著しい経済的不利益を生じさせ、著作物の通常の利用を妨げるのではないかとの観点から
 適法配信事業者から入手した著作物の録音録画物からの私的録音録画
オーバーライド契約の意義を積極的に評価し、それによって確保しうる録音録画の対価と補償金の二重取りのおそれを回避するとの観点から

(2) 違法録音録画物、違法サイト(注1)からの私的録音録画について
違法録音録画物、違法サイトからの私的録音録画については、
 通常の流通を妨げる利用形態であり、権利者側としては容認できる利用形態ではないこと
 違法サイト等からの録音録画が違法であるという秩序は利用者に受け入れられやすいこと
 利用者に対する権利行使は困難だが、違法サイト等への対策により効果があると思われること
 効果的な違法対策が行なわれ違法サイト等が減少すれば、録音録画実態も減少することから、違法状態が放置されることにはならないこと
などから、第30条の適用を除外することが適当であることがおおむね了承された。
なお、利用者保護の観点から、次の点について法律上の手当てが必要であるとされた。
 違法サイト等と承知の上で(「情を知って」)録音録画する場合や、明らかな違法録音録画物からの録音録画に限定するなど、適用除外する範囲について一定の条件を課すこと
(また、権利者側は、運用を容易にするため識別マークをサイトに付けるなどの工夫が必要であること)
 罰則の適用を除外すること
なお、これに対して、次のような慎重な意見があった。
 海賊版を作成したり配信したりする者を追求すれば十分であり、適法・違法の区別も難しい多様な情報が流通しているインターネットの現状を考えれば、利用者のダウンロードまで違法とするのは行き過ぎではないか。
 「著作物の通常の利用を妨げるものであってはならず、かつ著作者の正当な利益を不当に害するものであってはならない」との但書を加え、個別の事案に即して違法性を判断するのも一案ではないか。

(3)   適法配信事業者から入手した著作物等の録音録画物からの私的録音録画について
オーバーライド契約(権利制限の態様や範囲を契約により「ひっくり返す」契約)は原則として有効。
現状では、権利者は利用者と直接契約を結ぶことは事実上できないが、著作物等の提供者が利用者の録音録画行為も想定し、一定の管理下においてこれを許容しているような場合であれば、著作物等の提供者との契約により録音録画の対価を確保することは可能であり、仮に第30条の適用範囲から除外したとしても、利用秩序に混乱は生じないと考えられる。
また、このことによって、私的録音録画の対価と補償金の二重取りの懸念を払拭することも可能である。
以上の点から、このような場合については、第30条の適用範囲から除外することが適当であることがおおむね了承された。
なお、配信事業については、今後もますます著作権保護技術が多様化し、権利者の選択肢は拡大すると思われるので、権利制限(第30条による)が権利者に与える不利益の議論を解消するためにも、第30条の適用範囲から除外することが必要であるとの意見があった。
また、著作権保護技術やビジネスモデルの新たな展開によって、利用秩序に混乱を生じさせることなく、権利者が契約によって私的録音録画から使用料を徴収できることになれば、権利制限(第30条)の存在がかえってビジネスを阻害することにもなりうるので、必要に応じ第30条を縮小していく必要があるとの意見があった。

(注1)  違法サイトからの私的録音録画とは、権利者に無断で自動公衆送信された著作物等からの私的録音録画のことをいう。

3   補償の必要性について
(1) 権利者が被る経済的不利益について
制度導入時の著作権審議会第10小委員会の認識としては、権利者に補償措置を講ずべき経済的不利益があることを前提に、関係者合意の下で一定の結論が出されている。
権利者が被る経済的不利益がなければ補償の必要性がないのは言うまでもないが、私的録音録画による権利者の経済的不利益のとらえ方について法律的な視点からは次のような整理が示された。
  私的録音録画のために権利者の許諾を得る必要があるとすればそこで支払われたであろう使用料相当分が経済的不利益であるとする考え方(権利制限の代償)
  権利者は録音録画権を認められているので、利用者は、権利制限(第30条)がなければ、本来私的録音録画の都度権利者の許諾を得て、使用料の支払いをしなければならないことになるが、そうなると利用者が不便なため、権利制限が設けられた(権利者の利益と利用者の利益との調整)との立場である。
このような権利制限の代償という立場からは、一般論として権利制限された場合は経済的不利益があるということになり、具体的に厳密な不利益の立証が必要であるということにはならない。
この考え方は、第10小委員会の基本的考え方であるが、この立場では、私的録音録画の形態によって、経済的不利益の濃淡はあるものの、経済的不利益が全くないということにはならない。
なお、昭和45年の現行法制定時は、無許諾・無償で私的録音録画ができたが、それは録音録画機器がまだ普及しておらず、経済的不利益が問題にならなかっただけであり、今日とは状況が違うだけであるとの考えになる。

  私的録音録画によって、権利者の許諾を得て行われる事業(販売、配信、放送等)に与えた具体的な経済的損失が経済的不利益であるとする考え方(新たな権利の付与)
   私的録音録画は本来無償で自由にできるものであり、補償金制度は権利者に新たな権利を付与するのと同じであるから、権利付与の前提となる経済的不利益が具体的に立証されることが必要である。
いずれの考え方に立っても、利用形態によっては、経済的不利益の程度の違いがあるのではないかという観点から、次の点について評価を明確にすべきとの意見がある。
1  購入した音楽CDからのプレイスシフト(注2)のための録音、放送番組からのタイムシフトのための録画の評価
2  レンタル事業者から借りた音楽CDからの私的録音の評価

(2) 著作権保護技術と権利者が被る経済的不利益の関係について
著作権法上の技術的保護手段は、「権利者の意思」に基づき用いられるものであることが要件である(第2条第1項第20号)。ある録音録画制限手段を施したシステムに権利者が著作物等を提供するということは、当該要件を満たす限りにおいて、権利者は、当該技術的保護手段の下でどのような録音録画が可能かについて一定の予見は可能である(注3)。
ただし、この「権利者の意思」はあくまで技術的保護手段の内容を決める意思であるので、「許諾の意思」すなわち「無償で著作物等の利用を認める意思」とは異なる。利用者の録音録画が第30条の範囲内であり、権利者と利用者の間で利用許諾に関する契約を結べず、使用料の徴収ができないということであれば、技術的保護手段の内容等に照らし、経済的不利益の有無を考えていく必要がある。
この点について、次のとおり類型ごとに整理した。
  録音録画禁止の場合
   権利者が録音録画禁止を選択した場合、経済的不利益はないものと考えられる。

  録音録画回数等に一定の制限があるものの、その範囲内の録音録画は認める場合
   一定の範囲内で私的録音録画を認めることは権利者も支持、許容するものであり、著作権保護技術の多くは、私的録音録画自体を制限するというより、通常の利用者の必要とする利便性は確保しつつ、デジタル録音録画された高品質の録音録画物が第30条の範囲を超えて私的領域外へ流出するのを抑制するという意味が強い。

イの場合について、どのような場合に経済的不利益が生じ、どのような場合に生じないのかについて、意見が分かれている。関係者の意見を整理すると以下のとおりである。
1   著作権保護技術の現状では通常の利用者が必要とする第30条の範囲内の録音録画はできるので、3(1)の基準に戻って権利者の経済的不利益及び補償の必要性は判断すべきであるという意見
   著作権保護技術は録音録画回数等の上限を決めるものであり、その範囲内の録音録画は第30条に基づき行われるので、オーバーライド契約により私的録音録画の対価を徴収できる場合は別として、補償措置が不要であるという議論に直ちにつながるものではない。また、現状では権利者が主体的に、かつ自由に著作権保護技術を選択できる場合は少ないので、著作権保護技術が施されていれば、権利者はその範囲内の録音録画から補償を求めるべきでないとするのは不適切である。

2   権利者は提供された著作物等がどのような範囲で録音録画されるかを承知の上(著作権保護技術の内容により想定できる)で提供しているので、重大な経済的不利益はなく、補償の必要性はないとする意見
   著作物等が暗号化されたうえで録音録画されているパッケージ商品、デジタル放送、ネット配信サービスなどは、著作権保護技術により利用者の録音録画が想定されており、また当該信号等は権利者の意思に従い付されているので、録音録画の制限回数に係わらず権利者に重大な不利益は与えていない。

上記のとおり、著作権保護技術と権利者が被る経済的不利益の関係については、意見の相違が見られるところであるが、仮に1の見解に立ち、現状では補償の必要性があると判断したとしても、著作権保護技術は変化しうるものであり、その内容いかんでは補償が不要となることも考えられる。試案として次のような整理が提案されている。
1   著作権保護技術の効果により私的録音録画の総体が減少し、一定の水準を下回ったとき(→私的録音録画が著作権保護技術によって厳しく制限されれば、権利者の不利益も少なくなるため)
   具体的には、利用者に許された録音録画回数等(例えば権利者の不利益が少ないといわれるプレイスシフト、タイムシフトのための回数が一つの目安と思われる)が厳しく制限される著作権保護技術が広く普及した場合である。

2   著作権保護技術の内容について権利者の選択肢が広がり、コンテンツごとに関係権利者の総意として権利者側が選択権を行使できるようになり、そのような実態が普及したとき(→権利者がその意思に基づき私的録音録画をコントロールできる場合には、その結果として生じた録音録画は権利者にとって不利益を生じさせないため)
  権利者が録音録画回数等について自由な選択権を持つか、1)のような厳しい制限を含むいくつかの選択肢から選択できる場合である。厳しい利用制限も含めて選択できたにもかかわらずそうしなかった場合、権利者に経済的不利益が生じるかもしれないが、それは権利者の受忍限度内であり重大なものではなく、補償の必要性があるとまではいえない。
なお、この考え方に対しては、
私的録音録画が行われれば原則として補償の必要性があるとする意見
厳しい利用制限の選択肢があるとしても市場がこの方法を受け入れなければ権利者はそうした選択ができないこと、著作物等の提供者の優越的地位により、権利者に自由な選択肢が確保されない場合も想定されるので、権利者の意思のみに補償の要否を委ねるのは問題とする意見
があった。

3   著作権保護技術と契約の組み合わせにより、利用者の便を損なうことなく個別徴収が可能となり、そのような実態が普及したとき(→録音録画の対価を確保できる状況となるため)
   著作物等の提供者と利用者の契約によって処理されるケースが主要となり、それによって経済的利益を確保できるようになった場合である。

なお、著作権保護技術と補償金制度が併存する状態であったとしても、著作権保護技術の影響度を補償金額や、場合によっては対象機器等の特定に反映することについては、おおむね異論はないものと思われる。

(3) 補償の必要性の有無について
3(1)で整理された権利者が被る経済的不利益の考え方を前提に補償の必要性を考えた場合、
 3(1)アの場合は、この経済的不利益の程度が権利者の受忍限度を超えているかどうかが補償の必要性に結びつくことになる。私的録音録画の総体に着目して補償金制度を導入した平成4年当時と比べて私的録音録画の総体がどのように推移したか、また、先進諸国における評価も参考となると思われる。
 レンタル事業者から借りた音楽CDからの私的録音については、利用者にとって、レンタルは音楽CDの購入の代替手段であり、レンタル料金には録音の対価は含まれていないことを考慮すれば、友人等の他人から借りた場合や図書館等から借りた場合と同様に、経済的不利益はあると考えられるとの意見が多かった。
 また、録画については、タイムシフト録画のみならず、保存目的の録画実態も多く、両者は区別し難いこと、映像作品はごく少数の録音録画でも権利者に与える不利益が大きいといわれていること、映画や放送番組の録画は二次利用に影響があると考えられること等から、録画物の保存や特定少数の他人への録画物の譲渡は、レンタル事業者から借りた音楽CDの場合と同様と考えられることでおおむね了承を得た。
 ただし、この場合、購入した音楽CDからのプレイスシフトのための録音や放送番組からのタイムシフトのための録画については経済的不利益が相対的に低いということに異論は少なく、これらの点は、補償金の額の設定に当たって考慮事項とすることが考えられる。
 3(1)イの場合も、仮に購入した音楽CDからのプレイスシフトのための録音や放送番組からのタイムシフトのための録画が権利者に経済的不利益を与えていることが充分立証されていないとしても、一人の利用者が行う私的録音録画は一つの利用形態に限定されないので、これら以外の形態の私的録音録画が存在することは否定できないことから、利用者の行う私的録音録画の全体に着目すれば、経済的不利益を生じさせることがあるということについてはおおむね共通理解があると考えられる。
 この場合、権利者の受忍限度を超えて補償の必要性があるかどうかについては、平成4年現行制度導入時の状況を基準にして考えざるを得ないが、前述の利用形態を除く私的録音録画の量について平成4年当時を下回っているかどうかが判断材料となるのではないか。

なお、以上の整理とは別に、著作権保護技術が施されている場合には補償の必要性がないという意見があることは前述のとおりである。

(注2)  プレイスシフトは自分の購入したCDからの録音についてのみ定義され、他人から借りたCD、レンタルCD、違法複製物・違法配信からの録音については定義されない。
(注3)  当該コンテンツに利用されている音楽等の著作物、実演等の権利者については、少なくとも録音録画行為が第30条の範囲内である限りにおいては権利行使ができないので、特段の契約がない限り、権利者の意思の表示はコンテンツホルダー(レコード製作者、映画製作者など)に任されている又は同様であると見るべきであると考える。

4   補償措置の方法について
 仮に補償の必要性があるとして、考えられる補償措置の方法としては、補償金制度による対応と契約による対応の2つに大別される。

(1) 補償金制度による対応について
この補償金制度による対応としては、以下の2つの考え方について検討した。
  録音録画機器・記録媒体の提供という行為に着目した制度設計
  補償金制度を採用している全ての国と同様の制度であり、私的録音録画が行われるのは録音録画機器と記録媒体が普及したためで、権利者の被る経済的不利益と機器等の普及には因果関係があるので、機器等の製造業者にもその責任の一端を担ってもらうという考え方を基に制度設計されている。著作権法の原則では利用者がその利用について責任を負うことになるが、私的領域の録音録画については事実上権利者が権利を行使できないので、機器等の製造業者に一定の責任を負ってもらい権利者と利用者の利益調整をしようとするものである。
制度設計としては、包括的な制度にならざるをえないが、できるだけ実態に即した制度になるよう、対象機器、記録媒体の範囲及びその決定方法、補償金の支払い義務者、補償金の決定方法、補償金の徴収・分配の仕組みなど幅広い点について法的又は運用面から整理する必要がある。

  録音源・録画源の提供に着目した制度設計
  世界に例がない制度であり、録音源・録画源が提供されるから私的録音録画が行われるので、権利者の被る経済的不利益と私的録音録画と録音源・録画源の提供とは因果関係があり、録音源・録画源の提供者にもその責任の一端を担ってもらうという考え方に基づく。この考え方は、著作権保護技術の普及により、著作物等の提供者が著作権保護技術、又は当該技術と契約を組み合わせることによって、利用者の行う私的録音録画を管理することが可能となってきており、著作物等を提供する段階で補償金を支払えば合理的・効率的であるという考えに通じる。
制度設計としては、権利者と提供者が契約する際の対価に補償金を上乗せして支払えばよく、機器等の範囲、補償金額の決定も、補償金管理協会や共通目的事業も必要なくなるなど極めて単純になる。

イの制度については、私的録音録画問題の本質を根本から見直す必要が生じる。また、録音録画機器を所有していない者からも事実上補償金を徴収することになること、対象機器の決定の論点は解消されるが、私的録音録画の可能性を一切無視して補償金を徴収することになることなど、制度の不合理さが目立つ制度にならざるをえず、仮に補償金制度を導入するとすれば、アの制度が適当であると考えられる。

(2) 権利者と録音源・録画源提供者との契約による対応
補償金制度による対応を考える前に、権利者と著作物等の提供者との契約で対応する方法を考慮すべきであるという意見がある。
この意見は、著作物等が消費者に提供される場合、著作権保護技術の発達により、その著作物等がどの程度録音録画されるかは事前に想定でき、また想定されないまでも録音録画されることが不可避であるとすれば、あらかじめ権利者と著作物等の提供者の間でそれを見越した契約をすることで権利者は利益を確保できるという考え方に基づく。このような契約によって権利者の利益が確保される利用実態が増加すれば、相対的に補償金制度の必要性は減少するというものである。ただし、この考えは、先述のイのように著作物等の提供者に補償金の支払い義務を課すことまでは求めず、あくまでも民間同士の契約関係に委ねることになる。
しかしながら、次のようないくつかの問題があり、権利者と著作物等の提供者の契約に委ねることによって解決できるかについては課題が多いものと考えられる。
 一般に著作物等の提供者側は、利用者の録音録画を含めて契約をすると、第30条の範囲の内外にかかわらず、著作権保護技術の範囲内で行う利用者の録音録画行為全てについて責任を負うことになりかねず、積極的に契約をしようとするインセンティブに欠ける。
 著作物等の提供者への作品供給価格はビジネス上の交渉により決定されているので、法律上の補償金請求権が与えられない限り、民間同士の契約に任せても権利者の要求が実現できるかどうか疑わしい。
 民間同士の契約に任せても、利用者から料金等を徴収している場合は、録音録画機器を有しない人も事実上その経費を負担することになること、第30条が改正され無許諾無償の録音録画が再び認められるようになったのに事実上録音録画の対価が徴収されることについて、利用者の納得が得られるかどうか疑問が残る。
 コンテンツホルダーである権利者は、著作物等の提供者とのコンテンツの供給契約の中で録音録画の対価を徴収できる可能性があるが、それ以外の権利者は、音楽等の一部を除きコンテンツホルダーと交渉することになり、イの場合と同様に要求が実現するか疑わしい。



別紙

利用形態ごとの第30条の適用範囲の見直しについて

平成19年8月24日

(1)  利用形態の分類
 私的録音
(ア) 購入した音楽CDからの録音
(イ) 他人から借りた音楽CDからの録音
(ウ) レンタル店から借りた音楽CDからの録音
(エ) 違法複製物からの録音
(オ) 違法配信からの録音
(カ) 適法放送からの録音
(キ) 適法ネット配信からの録音

 私的録画
(ア) 購入したVHS・DVDからの録画
(イ) 他人から借りたVHS・DVDからの録画
(ウ) レンタル店から借りたVHS・DVDからの録画
(エ) 違法複製物からの録画
(オ) 違法配信からの録画
(カ) 適法放送からの録画
(キ) 適法ネット配信からの録画

(2)  権利者に著しい経済的不利益を生じさせ、著作物の通常の利用を妨げる利用形態との指摘があった形態(注4)
1 違法複製物や違法サイトからの私的録音録画
 ファイル交換実態調査や携帯電話向け違法配信実態調査(平成19年2回小委員会参考資料1、参考資料2参照)等から、違法な配信や利用者の複製の実態が明らかになり、また、正規商品の流通前に音楽や映画が配信され複製される例が紹介されるなど、正規商品等の流通や適法ネット配信等を阻害し権利者に深刻な被害を与えている実態が明らかであるとして、第30条の適用範囲から除外することが適当であるとする意見が大勢であった。

2 他人から借りた音楽CDからの私的録音
 他人から借りた音楽CDから録音した録音物は、正規品購入の代替品といえるので権利者に大きな影響を与えるとの意見があったが、私的領域で行われる録音行為について、利用者との契約により管理をすることは事実上不可能であり、仮に第30条の適用範囲から除外しても違法状態が放置されるだけであることから、第30条の適用範囲から除外することについては慎重な意見が大勢であった。

(3)  著作物の提供事業として私的録音録画の対価も確保できる可能性があり、補償金との二重取りの懸念から指摘があった形態
1 適法配信事業者から入手した著作物の録音録画物からの私的録音録画
 適法な音楽配信事業のビジネスモデルを精査した結果、現状としては、
 レコード製作者と配信事業者間の契約は音源供給の契約であり、利用者が支払う配信料の中に録音の対価が含まれているかどうかは曖昧さが残ること
 配信事業者と利用者の配信契約では、ほとんどの場合、利用者の録音録画の条件を定めており、その条件は必ずしも第30条の適用範囲内にとどまっていないが、一定範囲の録音録画を許容するものであること
という実態となっているが、配信事業者の一定の管理の下で私的録音録画が許容されており、また、それに伴う対価には私的録音録画の対価も含まれうるとすれば、契約による解決に委ねる趣旨から第30条から除外するのが適当であるという意見が大勢であった。

2 レンタル店から借りた音楽CDからの私的録音
レンタル事業のビジネスモデルを調査した結果、最初に権利者とレンタル事業者間の貸与使用料を決める際に、JASRAC(ジャスラック)の録音使用料を参考に決められた事実は認められるが、
レコード製作者、実演家及び著作者の契約とも使用料が貸与行為の対価であることは、契約書に明示されており、契約当事者もそのように認識していること
平成4年の補償金制度導入以後、使用料引き下げの交渉は行われていないこと
などから、私的録音の対価が含まれていることは確認できなかった。
また、レンタル店と利用者との契約(会員規約)では私的録音に関する条項は無く、レンタル業界としては利用者の支払うレンタル料には私的録音の対価は含まれていないとの認識であることが分かった。
なお、仮に第30条の適用範囲から除外するとしても、新たな許諾ルールを構築しなければならないがその秩序形成は困難であり、結果として違法状態が放置される状態を生み出すだけであることから、第30条の適用範囲から除外することについては慎重な意見が多かった。また、例えば他人から借りた又は図書館から借りた音楽CDからの録音とのバランスの問題もある。

3 適法放送のうち有料放送からの録画
映画会社と有料放送事業者の契約は、放送の対価であることが明示されており、かつ有料放送事業者と視聴者との契約約款(放送法により総務大臣の認可が必要)においても、視聴から徴収する料金は視聴の対価であることが明示され、視聴者が行う録画に関する記述は一切ないことから、私的録画の対価が含まれていることは確認できなかった。
また、一般に録画についてはコピーワンス運用がされているが、これについては、米国の映画会社が自国の録画に関する法律ルール(注5)を我が国でそのまま適用して欲しいという要望に基づき実施しているということである。ただし、これは契約の条件ではなく、契約書にも明記されていないということであった。
なお、仮に30条からの範囲から除外するとすれば、放送番組は多種多様な著作物等を利用することから、2と同様に新たな許諾ルールの構築は困難と考えられる。

(注4)  市販用又はレンタル用のDVD又はビデオについては、おおむね複製禁止の技術的保護手段が施されているため事実上複製できないことから、2は私的録音となっている。
(注5)  米国では、視聴者のタイムシフト利用はフェアユースで認められるがそれ以外は違法である。


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