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資料5

文化審議会著作権分科会 私的録音録画小委員会 資料

平成19年6月22日
私的録音録画小委員会
委員  亀井 正博(社団法人電子情報技術産業協会)
委員  河野 智子(社団法人電子情報技術産業協会)

 資料「私的録音録画に関する制度設計について」に関し、以下のとおり社団法人電子情報技術産業協会の意見を述べさせて頂きます。

1. 本資料に示された考え方について(全体)
:理念無き制度設計へ猛進をすべきでない
 現行の私的録音録画補償金制度は、著作物の利用の責任につき、その受益者たる利用者が負うのが原則であるとの理念の下で、一定の機器・媒体を用いた利用について補償措置が必要であるとの判断に基づき策定されたものである(著作権審議会第10小委員会報告書)。その制度策定時には、そのような理念についての審議がなされ、その理念に沿って、制度として必要な要件が定められたと理解される。
 しかるに本資料においては、いかなる制度であるべきかについての理念を論点として掲げているわけでもなく、ただひたすらに汎用機能を有する機器を補償金制度の対象とすることを目的として、それに必要な制度的手当てを議論することを意図して作成されているものと見受けられる。その根拠として「負担の公平性」のみを主張しているが、汎用機能を有する機器へ拡大すれば、私的録音録画を行わない利用者の負担の不公平性は拡大するのみであること言うまでもない。
 現行法の拠って立つ理念を覆し、異なる理念の下で制度設計を行うというのであれば、まずはその理念についての議論がなされ、整理されるべきではないか。
 当協会としては、著作物利用の責任をその受益者たる利用者が負うとする原則につき、これを変えるべき理由はないものと考える。

2. 「1.前提条件の整理」(P.1)について
:第三者による実態調査の必要性
 前提条件以前に、従来から私的録音録画の実態調査の必要性が複数の委員から意見として述べられていたはずである。しかしながら、実態調査については利害関係団体による調査結果があるだけである。したがって、小委員会として、利害関係のない第三者機関への委託等により、早急に実態調査をする必要性がある。調査項目については委員の意見を聴取して決するべきである。

:前提条件の議論は終わっていない
 そもそも、審議において多いに議論のあった補償の必要性についての事項等が、全く書かれておらず、前提条件として不十分である。ここでは、二つの「前提条件」が挙げられているが、これらの事項についての審議が十分になされたわけでもなく、またこれまで表明された関連の意見等が整理されているわけでもない。「(2)著作権保護技術と補償の必要性との関係」については、平成19年第2回小委員会で提出された事務局作成の資料7の記載が殆どそのまま前提条件の整理として掲げられており、当協会が申し上げた意見は一顧だにされていない。これらを所与のこと、すなわち既に議論が終わったこととして結論を急いでいるようにしか読めず、全く適当とは思われない。
 「仮にピン留めをして議論を進める」という意見があることも承知しているが、公平な調査を行った上で、私的複製の範囲の明確化、態様毎の補償の要否の検討及び補償措置と著作権保護技術の関係整理を行わなければ、本質的な問題解決を図ることはできないと考える。

:複製があるからといって、直ちに経済的損失があるわけではない
 これまでも小委員会で繰り返し意見を述べたところであるが、著作権保護技術が利用されているかどうかという観点は別として、態様毎の補償の要否について、経済的損失の有無等、補償の要否を検討していくべきである。
 複製がなされたならば直ちに補償が必要であるとの考え方には賛成できない。すなわち、例えば自己が購入したCDや自己がレンタルしたCDなどから、携帯オーディオプレーヤーや媒体に自己や家族が利用する目的で行う複製については経済的損失が観念できないからである。
 なお、補償金制度のあり方を検討するにあたっての考え方として、EUで採択されている、いわゆる「著作権ディレクティブ」(Directive 2001/29/EC of the European Parliament and of the Council of 22 May 2001)の規定が参考となる。
Directive 2001/29/EC of the European Parliament and of the Council of 22 May 2001 (太字は筆者)>
 (35)In certain cases of exceptions or limitations, rightholders should receive fair compensation to compensate them adequately for the use made of their protected works or other subject-matter. When determining the form, detailed arrangements and possible level of such fair compensation, account should be taken of the particular circumstances of each case. When evaluating these circumstances, a valuable criterion would be the possible harm to the rightholders resulting from the act in question. In cases where rightholders have already received payment in some other form, for instance as part of a licence fee, no specific or separate payment may be due. The level of fair compensation should take full account of the degree of use of technological protection measures referred to in this Directive. In certain situations where the prejudice to the rightholder would be minimal, no obligation for payment may arise.

2.1 「(1)第30条の範囲の縮小」について
1 違法複製物・違法サイトからの録音録画
:「違法サイト」とは何か、問題にすべきは個々の違法複製物
 違法に利用(複製・譲渡・公衆送信等)され、更なる複製が可能な状態に置かれている複製物を由来とする録音録画行為について、一定の要件(主観的要件など)の下に第30条の適用をしないこととすることに、基本的に賛成ではあるが、議論が尽くされているとは言えない。たとえば「違法サイト」とはいかなる定義のものであるのか、議論が必要である。一部の委員の発言からは、適法な利用許諾を有しないサイトを識別できるようにする試みがあると理解されるが、自ら撮影した映像など、第三者の著作権・著作隣接権のないコンテンツが想定されているサイトに、一部たまたま違法な複製物が混じった場合、その瞬間にサイトそのものが「違法サイト」となるのか。違法な複製物と適法な複製物が同一のサイトに掲載されていた場合、適法な複製物の録音録画については30条の対象とすべきであるところ、違法な複製物(Webサイト上の複製物も含む)を問題とすれば必要にして十分ではないか。

2 適法配信・有料放送からの録音録画
:利用者の録音録画を想定して契約締結し得る場合には30条の適用不要
 インターネットでの音楽配信ビジネス等、利用者の録音録画を想定して契約を締結し得る場合に、第30条の適用を不要とする考え方に賛成であるが、「適法」とはいかなる状態を言うのか、議論が必要である。
 契約内容が公表されない場合が殆どであり、また業界慣行その他の理由によって明文の契約書を作成しない例もあるようであるが、このような場合であっても、コンテンツ提供後、利用者がコンテンツをどのように利用・複製し得るかが明らかである場合においては、第30条の適用は不要であると考える。

3 その他の場合について
:無料放送・レンタル等の議論は不十分、ヒアリング結果と議論を反映すべし
 ここに挙げられた以外の態様(無料放送、レンタル等)に関する、平成19年第2回小委員会で提出された事務局作成資料2について、十分な議論はなされておらず、第30条の適用是非についての結論を得るのは困難である。平成19年第3回小委員会で行われたレンタルに関するヒアリング結果とその際の議論の内容も、適法配信と同様な扱いの可否という視点で検討されたのであるから、ここで言及されるべきではないか。

2.2 「(2)著作権保護技術と補償の必要性との関係」について
:著作権保護技術を利用して提供された場合には補償は不要である
 平成19年第4回、第5回小委員会でも申し述べたが、著作権保護技術と補償の必要性との関係についての当協会の意見は以下のとおりである。なお、著作権保護技術には、コンテンツに対するアクセスをコントロールするものから、コピーをコントロールするもの、その両者を重畳的に用いる場合等、その種類は多様であることを前提に述べる。
 著作権者等の明示的または黙示的意思に基づき、著作権保護技術を利用してコンテンツが提供される場合には、その後の利用者によるコンテンツの利用及び複製は、その保護の程度が厳しいか緩やかかといった保護の程度に関わらず、著作権者等らの予測の範囲内でコントロールされていると言え、補償は不要と考える。その多くの場合には、コンテンツを提供する際に、利用や複製に対する対価の回収が可能であるし、また、自己が自ら選択した著作権保護技術によりコンテンツがコントロールされている以上、不当な利益の侵害というものを観念できない。

:制度廃止の基準「ア」「イ」は適切に修正されるべし
 著作権者等の選択により著作権保護技術を利用してコンテンツが提供されている場合には、補償はそもそも不要であるのだから、「ア」について、緩やかな技術的コントロールがなされている場合には補償が必要という意図で記述されているのであれば、不当である。「イ」についても、著作権者らが選択権を行使できる実態が普及したかどうかに条件の成就を係らしめているが、技術的コントロールが施されている場合には、著作権者らが権利行使しているのと類似の状況といえるため(著作権法第30条1項2号参照)、そもそも補償が必要な場合には当たらないはずである。したがって、いずれの基準も適切な表現に修正されるべきである。

3. 「2 仮に補償の必要性があるとした場合の私的録音録画補償金制度の基本的あり方」(P.2以下)について
 仮に制度として存続必要性があるとされた場合には、現在対象となっているものも含め、存続が必要とされた制度の前提に照らし、改めて対象となるべき機器等の考え方につき、議論する必要がある。具体的には、新たな私的複製の範囲内となる複製ならびに補償が必要とされた行為態様による複製に、当該機器等がどの程度供されていればそれは補償金制度の対象機器とするのが妥当か等の議論が必要と考える。また、著作権保護技術の採用と補償の関係についても同様に議論し、整理する必要がある。

3.1 「(2)1対象機器・記録媒体の範囲について」について
:「ラフジャスティス」を更にラフにすれば憲法問題は拡大する
 現行制度は、著作物の利用の責任につき、その受益者たる利用者が負うのを原則とし、他の利用可能な手段がないための「ラフジャスティス」の制度である。汎用機能を有する機器・媒体を補償金の対象とすることは、この「ラフジャスティス」を更にラフにすることに他ならず、憲法上の問題が生じるおそれが強く全く賛成できない。
 汎用機能を有する機器を、「主たる用途」によって区分しているが、現行政令において用いられている「主として用に供される」とどのように異なるのか、事務局提案をもっと説明して頂き、その上で議論される必要がある。また、「主たる用途」につき、客観的に基準が示されない限り、その区分は曖昧となる。かように客観的基準が示されずになされた本資料の区分けは意味をなさない。
 なお、本資料で示されている区分は意味をなさないが、ここでいう「専用機器」についても、プレースシフト・タイムシフト等、権利者に重大な利益の損失を生じさせないと考えられる複製にほぼ用いられている機器もあると考えられ、上述のように、私的複製の範囲の明確化、態様毎の補償の要否の検討及び補償措置と技術的保護手段の関係整理を行った上でなければ、対象機器等の範囲を拡大することに「課題が少ない」とすることはできないと考える。

:「負担の公平性」だけでなく「負担の正当性」も議論すべし
 本資料では、一体型機器や汎用機器を用いて行う録音録画が増加し、これを補償金制度の対象としないことには負担の公平性の問題があるために対象とすべき旨記載されている。しかしながら、例えば、インターネットの配信ビジネスで音楽を入手するために用いる携帯型音楽プレイヤーや、録画をコントロールし得るデジタル放送の録画に用いる機器の購入台数が増えてきていることは、そもそも補償金を負担する必要がないと考えられるケースが増えていると解することもできる。つまり負担の正当性も同時に考慮すべきで、これらを全く考慮せずに単純に「負担の公平性」に問題があるとし、そのことから対象機器の範囲を見直す必要性があると結論づけることはできないのではないか。
 さらに、平成18年1月の文化審議会著作権分科会報告にて、ハードディスク内蔵型録音機器等や汎用機器・記録媒体について、現行制度の問題を抱えたままの追加指定や録音録画を行わない購入者からの強制的な一律課金には反対の意見が多く、結果、補償金制度に関してその廃止や骨組みの見直しを含めた抜本的な検討を行うとされたが、その後、一転してこれら機器・媒体の補償金対象化を合理的とするような、私的録音録画の実態等における大きな変化があったのか、疑問である。

:私的録音録画を行う者と行わない者の間の「公平性」も同時に議論すべし
 さらに、ここでいう「公平性」とは、課金されている機器媒体と課金されていない機器媒体を比較したものであるが、それらの機器媒体の購入者で私的録音録画を行う者と行わない者の間の「公平性」の問題を解決せずに、他方のみの解決を図ることは、著作権法一条の目的にそぐわないのではないか。ちなみに、事務局から提案されている公的評価機関方式によっても、私的録音録画を行う者と行わない者の間の「公平性」の問題は解決困難と言わざるをえない。

3.2 「(2)2対象機器・記録媒体の決定方法について」について
:法的安定性、対象の明確性を担保するために政令指定方式は維持すべし
 現行法における政令指定による対象特定の枠組みは、様々な観点からの政策調整が必要であるという前提から決められたものと理解される。法的安定性、対象の明確性を担保するためにも、政令指定方式は維持すべきものと考える。
 政令指定方式の問題点として記述されている、「技術方式により対象を特定する方式では対応が難しい」「迅速に対応できない」「消費者からみて決定プロセスの透明性が必ずしも確保されていない」については、政令での規定の仕方の検討、利害関係者や各省庁の協力による迅速化、検討プロセスの公開によって、一定の解決が得られるのではないかと考える。また、「消費者に理解しづらく制度理解を妨げる」との指摘については、消費者が政令を眺めて対象であるか否かを判断するケースは希であると考えられることから、以前より指摘されている、補償金管理協会によるPRの問題であって、政令指定方式の問題ではないと解される。
 さらに、現行の政令指定方式による対応の可否を十分に検討することなく、新たに評価機関を設置することが提案されている点は、現在、行政改革が推進されている中で、行政の組織・事務の減量・効率化の観点から問題があるのではないか。

3.3 「(2)3補償金の支払い義務者」について
:機器製造事業者を支払い義務者とする点に理念・根拠無し
 汎用機器を対象とする場合、利用者が支払い義務者では対応できず、機器の製造事業者等が支払義務者となることが適切、と記述されているものの、その正当化根拠が一切示されていない。特に汎用機器等については、機器製造事業者が、その製造した機器につき販売後、実際に消費者が主に私的録音又は録画を目的とし、使用するのかどうかを判断することは困難である。その製造事業者が支払い義務者となるのは不合理である。
 仮に、製造事業者等が補償金を支払うとした場合、結局は機器の価格への転嫁がなされることとなろう。現行法では、消費者が義務者として補償金を負担する一方で、私的録音録画を行わなかった消費者については返還制度によって整合を図ることを目指していたものの、平成18年1月の文化審議会著作権分科会においても返還制度が機能しづらいと報告されたところである。しかしながら、支払い義務者を製造事業者等とした場合には、機器価格への転嫁によって消費者が事実上補償金を負担することとなるにもかかわらず、返還請求の道すらも閉ざされることとなり、消費者の憲法上保障される財産権にかかる問題は現状よりさらに拡大するのではないか。
 支払義務者を検討するにあたり、欧州の一部の国の制度が参照される例が多い。しかしながら、ドイツは元々、機器製造者の間接侵害責任を追及する議論があり、その点に因果関係等を認められ現在の制度が成立しており、わが国の現行制度の考え方とは、大きく異なっている。

:返還制度の問題点を解決するために制度そのものを無くすのは本末転倒
 そもそもこれまで指摘されてきた返還制度の問題点は、「将来にわたり私的録音・録画をしないことを証明させる」こと(著作権法第104条の4,2項)、返還にかかるコストを「(利用者に)負担させること」等であると考えられる。また何より、補償金制度の認知度が低い中で、まして返還制度がどこまで認知されているかという問題がある。これらの問題は、法104条の4の規定ぶりを修正、例えば、通常の侵害訴訟においては著作権者が立証責任を負担することに鑑み、利用者には主張責任のみを負担させる等、現在の制度運用を改めることによって、解決できるものもあると考える。こうした議論を行うこともなく、汎用機器に対象を拡大する結果、返還制度の問題点がより拡大するために支払義務を機器製造者に負わせようとするという考え方は、理念がないというだけでなく、返還制度は忘れてしまえばよいと言っているに等しく、無責任の謗りを免れないのではないかと考える。

:利益を論じるのは議論のすり替え
 最後に、「30条の存在により利益を得ており」製造事業者等に支払義務を負わせるのが適当との記述がなされているが、第30条の存在により利益を得ているのは製造事業者等だけではないし、利益を得ていることを以って補償金の支払義務者とすべきこととの論理的なつながりがなく、全く受け容れられない。またそもそも上記のとおり、補償制度を維持していく際にかような制度変更をするための理念や原則が全く議論されていない中で、断定的に結論を示されていることは疑問である。平成19年第3回小委員会の「著作権者に重大な利益の損失が生じうる場合は、著作権者に何らかの補償を与えるべきとされている」(参考資料2)との記述からも明らかなとおり、重大な利益の損失が補償金制度の必要条件である。それに対し、利益を論じることは議論のすり替えを行うものではないか。

4. 「(3)録音源・録画源の提供という行為に着目した制度設計」について
:問題点の提示に考え方の整合性なし
 「イ.改善点と問題点」では、「録音録画できる商品等を提供したから・・・私的録音録画問題の本質を根本から見直す必要が生じる」とあるが、汎用機器を対象とすることについても、同様に制度の本質に関わる問題なのであり、考え方の整合性がないものと考える。
 また、「私的録音録画の可能性を一切無視して補償金を徴収することになるなど、制度の不合理さが目立つ」とあるが、仮に、最終的消費者のレベルでまったく録音・録画をしない人が実際にはいるのに補償金を徴収するということをもって「録音・録画の可能性を一切無視する」としているのであれば、上述のとおり、汎用機器を対象とすることや製造事業者等に支払い義務を負わせるとした場合も、同様に「私的録音録画の可能性を一切無視して補償金を徴収」することになるのであり、考え方の整合性がないものと考える。

5. 「3 私的録音録画補償金制度以外の方法について」について
:契約により解決可能な部分は補償金の対象外となるはず
 契約により解決可能な部分についてはオーバーライドが認められ、又は、補償金の対象外とすべきとの意見が多数であったはずである。しかるに、本資料では契約による処理が可能な場合であっても制度上強制されない補償金の支払いはその実現性がないとする。そもそも契約で処理が可能なものについては私的自治の原則から法の干渉はなされるべきではなく、市場原理に委ねるべきではないか。

以上


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