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文化政策部会文化多様性に関する作業部会第4回会合

1 日時 :平成16年8月4日(水曜日) 14時〜
2 場所 :文部科学省 10F−3会議室(10階)
3 議題
(1) 文化多様性に関する基本的な考え方(案)ついて
(2) その他

配布資料
    文化多様性に関する基本的な考え方について(案)
    文化多様性に関する基本的な考え方について(案)概要(PDF:25KB)
    今後の予定

午後2時1分開会
池原課長 ただいまから文化審議会文化政策部会 文化多様性に関する作業部会第4回会合を開催させていただきます。ご多忙の中ご出席をいただきまして、まことにありがとうございます。
 本日は根木先生が、当初よりご出張ということでご欠席でございます。また、小寺先生についても、出席の予定でございましたが、急遽ご欠席ということでご連絡をいただいております。
 それから、本日は文部科学省の井上国際統括官にご出席をいただいております。

井上国際統括官 7月1日付で国際統括官を拝命いたしました井上でございます。国際統括官というのは日本ユネスコ国内委員会の事務総長も兼務いたしておりますので、そういう点からこの会議に出席させていただいております。よろしくお願いいたします。

池原課長 それでは富澤座長の方に進行をお願いいたします。よろしく願いいたします。

富澤座長 それでは早速議事に入りたいと思います。
 最初に、まず事務局から配布資料の確認をお願いいたします。

(事務局より配布資料の説明)

富澤座長 今事務局からご説明がありました資料等について何かご質問ございますでしょうか。――では、ないようですので議事を進めてまいります。
 前回、関係の各省及び文化関係団体から、文化多様性についてそれぞれのご活動の内容あるいはご専門の立場からお考えを述べていただきました。本日は、前回のご発言をはじめ、第1回から今までの議論を踏まえまして、「文化多様性に関する基本的な考え方について」という資料の作成をいただいております。この資料をたたき台とさせていただいてご議論いただき、この作業部会の報告として取りまとめていきたいと思います。
 まず事務局より、この「文化多様性に関する基本的な考え方について」についてご説明をお願いいたします。

池原課長 それでは、資料の1及び資料の2をごらんをいただきたいと思います。
 資料の1でございますが、委員の先生方には事前に送付をさせていただいておりますので、この場で全文を朗読することは省略をさせていただきたいと思います。全体としては、「まえがき」と3つの章で構成をしております。
 まず1ページ「まえがき」でございますが、ここでは事実を述べております。1つは、「ユネスコにおける検討の経緯」について、平成13年に「文化多様性に関する世界宣言」が採択されたこと、また平成15年の第32回ユネスコ総会で、今後文化多様性に関する国際規範の策定作業を開始することが決議されたこと。
 またもう1点、「我が国の文化財保護と文化振興の取組状況」について述べております。下の方の第3パラでございますが、我が国は無形文化遺産を対象とする文化財保護法を昭和25年に整備をした。この無形文化遺産の分野では、先進国として従来からその重要性を訴えてきている。特に昨年のユネスコ総会において、我が国がこうした経験を踏まえて、無形文化遺産保護条約の採択に向けてリーダーシップを発揮し、大きな貢献を果たすことができたということです。一方、芸術文化活動への支援、また映画、マンガ、アニメーションを初めとするメデイア芸術への支援なども行っている。
 こういったユネスコの状況、また我が国の状況に鑑みながら、文化審議会に文化多様性に関する作業部会を設置して検討を行ったという記述をしております。
 次に、第1の章でございますが、文化多様性についての総論を記述してあります。
 第1に、文化多様性とグローバライゼーションの関係ですが、まず文化多様性についての定義を述べております。その上で、(1)の第2パラで、文化多様性を保護、促進することが、心豊かな社会を形成し、経済の活性化を促し、ひいては世界の平和に寄与することにつながると考えるということで、文化多様性の意義について述べております。
 次に、(2)では、グローバライゼーションが進む中での文化多様性との関係について述べております。特に第2パラでございますが、例として、文化財に関しては、世界遺産条約によって世界的な枠組みがつくられる中で、石の文化だけではなくて木の文化についての認識も広がってきているということを例にし、多元的な価値観を認める文化多様性の意識が国際社会で生まれているといったことを述べております。
 2ページの最後の行から3ページにかけてですが、こういったグローバリゼーションの進展によって、文化多様性の認識が広がるというプラスの面がある一方で、言語の急速な消滅、製品、法規範、社会構造やライフスタイルの画一化などで、文化的なアイデンティティの危機をめぐる緊張が高まり、文化多様性が脅かされているという指摘がある。
 また、次のパラでは、同じく地域文化の創造性やアイデンティティが失われてしまっているといった指摘もあるという、マイナスの面も記述をしております。
 最後に、グローバライゼーションと文化多様性の関係について、あまりグローバライゼーションによる問題を過度に意識をすることはなく、むしろすべての人々が他の人々の文化と価値観を自らの文化と価値観と同等に尊重しつつ、共存できるような魅力ある社会を構築していくということの重要性、また文化交流を通じて異文化間、異文明間の新たな対話の条件を整備していくということなどを指摘しております。
 次に、2番目として「文化と経済」との関係です。文化と経済との関係は、近年ますます密接になり、経済力と文化力は車の両輪として社会を発展させる原動力として考えられるようになってきております。
 (2)としては、まず、前々回小寺先生からお話がありましたようなGATTウルグアイラウンドの問題、あるいはWTOのサービス貿易交渉の問題を取り上げ、最後の3ページの下から2行目の行から、文化的財、サービスの流通が進展することは、人々が、他文化に接する機会をよりふやすというプラスの面を指摘すると同時に、4ページで、逆に、文化的財、サービスをすべて自由無差別の原則に委ねた場合には、競争原理の働きによって、多くの財、サービスの市場からの退去を促し、結果的に文化多様性を損なう可能性があるといったマイナスの面を指摘しております。文化的な財、サービスの流通と文化多様性との関係については、相互補完的な関係を構築ができるように、経済、貿易の観点からのみではなく、文化そのものの観点から検討していくことが必要であるという指摘です。
 次に、第2章ですが、それでは我が国においては文化多様性の保護・促進についてどういう取組みをこれまでしているかということで、まず、これまでの取組みを含めた基本的な方向ですが、1行目に、日本文化の特質は、文化の多様性の確保に向けて大きな可能性を秘めているということです。
 1の一番下のパラでございますが、今後の我が国の文化政策においては、他文化の受容も心がけつつ、国際的評価に値する独自の文化を創造することが必要である。日本は、まさに魅力ある文化を持つ国として、国際文化交流を通じて文化面での国際的な貢献を積極的に展開することが重要であるという、今後の基本的な方向性を述べております。
 次に、2つ目として、前々回にもご意見を頂戴しましたが、文化の分野は幅広いものがございますので、その中で分野を分類した上で、国としてはどういった支援が必要かということを検討する必要があるということを述べております。
 5ページでございますが、それを踏まえて、文化の分類を3つに分けております。
 まず第1が、「文化遺産」でございますが、文化遺産については、国家的な財産として将来の世代にこれらを残していくように十分な保護及び継承のための措置を講じることが必要であるということで、これまでの無形文化遺産の条約への我が国の働きかけなども紹介しつつ、我が国としては、これまでの我が国の知見を生かし、さらに積極的に貢献をしていく必要がある。
 また、国内においての人材育成や文化遺産に関する情報発信などの充実も必要であるということでございます。
 次に、2つ目の分野である「オペラ、オーケストラその他の舞台芸術等」ですが、これらについては、市場のグローバル化によって各国間での摩擦が多くなることも予想される。また、自由無差別の原則が導入されると、国際競争の激化の中で国内における活動が衰退する恐れもあるということで、今後の取組みとしては、日本の文化的、社会的な実情に合った独自の評価軸を確立した上で、国内での人材育成、関連情報の整備、市場の充実などに取組む必要がある。
 また、アジアの伝統的な文化を日本が積極的に発信をしていくということも期待されるということで、これは前回芸団協からのヒアリングを踏まえつつまとめたものです。
 第3の分野として、「メディア芸術」でございますが、映画、音楽、アニメ、コミック、ゲームソフトといったメディア芸術については、我が国は国外からも高い評価を受けておる。ただ、前回の会合で、日本レコード協会や映画、CG-ARTS協会などの団体からのヒアリングで紹介がありましたように、メディア芸術についての海外発信がまだまだ現状は十分ではないという状況でございますので、本年の5月に成立いたしましたコンテンツ促進法、あるいは知財推進計画なども踏まえながら、我が国として適切な支援を行う必要があるということです。
 具体的には、日本の文化的、社会的実情に合った独自の評価軸を確立をするということ、また6ページに、人材の育成、特に若い才能を生かすシステムの構築、また国際文化交流の観点からは、海賊版への対応とか、また中国、韓国を初めとするアジア諸国との共同制作の促進といったことを、ヒアリングの結果も踏まえてまとめております。
 次に、第3章でございますが、これは今後ユネスコで検討されるユネスコ文化多様性に関する条約への我が国の取組みの方針をまとめたものです。
 1つは、我が国の基本的なスタンスでございます。(1)「我が国の基本的なスタンス」ですが、まずユネスコで文化多様性に関する世界宣言をし、また無形遺産・世界遺産条約などの取組みをしているということを踏まえ、文化多様性の保護、促進のための取組みをユネスコの枠組みで行っていくことについて、国際的な合意があると考える。今後ユネスコにおいて文化多様性の保護、促進のための国際的な枠組みが構築されることを支持すべきであるということです。
 しかし、今後の検討に当たっては、他の国際約束と法的な抵触がないこと、例えばWTOの協定など、他の国際約束との法的な抵触がないということ、また、文化的財、サービスの国際的な流通の促進を妨げることがないといった点に配慮する必要があるということです。
 (2)としては、文化多様性条約の対象範囲ですが、これまでのいきさつから、特に今後文化多様性条約の中では音響・映像サービスについて焦点になると考えられるわけですが、それに限らず、対象範囲については、これまで既に採択されている世界遺産条約や無形文化遺産保護条約なども勘案しながら、今後の人類の文化のあるべき姿を理念的に示すものとすべきであるということです。
 この部分について、小寺委員からコメントをいただいておりまして、この文化多様性条約の対象範囲の記述については、対象の範囲、つまりAVサービスのほかにどういったものを対象の範囲に加えるかということと、この条約の目的とが若干整理されてない面もあるので、もう少し整理をした方がいいのではないかというコメントをいただいております。
 次に、(3)「各国の権利義務」でございますが、各国は基本的に自国文化を保護するために一定の措置を講じる権利を有すると考えるということがあります。
 その上で、あまり過度に保護主義的な状況に陥らないように、ユネスコにおいて各国が行う文化政策についてのデータベースを構築し、また、各国の文化政策担当者が集まって議論する場を提供するということが有益ではないかという指摘をしてあります。
 次に、(4)ですが、それでは具体的にこの条約の中で各国に認められる措置というものはどういう内容かという点について、文化については市場の失敗の問題や外部性の問題があるということで、補助金、規制措置、税制控除などの公共政策が不可欠であるという一般論を述べた上で、文化遺産や舞台芸術については助成措置を今後さらに充実をしていくことが考えられる。一方、メディア芸術については、一部の国においてはクォータ制の導入や外資の市場参入規制などを提案する国もあるということを踏まえつつ、クォータ制などの規制措置は文化多様性の障壁となる恐れが考えられるために、基本的は規制措置をとるのではなく、各国が人材育成、資金調達、税制控除等の環境整備を行うことが望ましいという方針ではいかがかということです。
 これについても小寺委員からコメントをいただいておりまして、この最後の行の「人材育成、資金調達、税制控除等」の中で、特に資金調達や税制控除等についてはWTOの例外措置ということで、具体的にどういう場合に例外としていくのかということについて、報告の文章としてどこまで書き込むかは別にして、ご検討された方がいいのではないかというコメントをいただいております。
 次に、2つ目として、我が国は今後どういうふうな取組みを行っていったらいいか、特に文化庁はどのような取組みをこれから行うべきかということでの提言ですが、これについては8ページにありまして、3点ございます。
 1点は、文化庁においては、今後文化多様性の保護、促進の観点から、さらに芸術文化活動への助成の充実を図る、あるいは人材育成、それから国民が芸術文化に触れる機会の提供、あるいは情報の収集、データベースの構築、国際会議等への積極的な対応に努める必要があるという一般論でございます。
 2つ目は、前回の会合で経済産業省の方からもご意見がございましたように、今後は日本と中国、韓国等との間、アジア諸国との間でコンテンツに関する人材育成とか共同制作等を行う中で、コンテンツについての創造、交流促進のメカニズムを構築していくことが重要ではないかということです。
最後に、「ユネスコを通じた国際協力への貢献」については、ユネスコにおいて今後各国が行う文化政策についてのデータベースの構築や、各国の文化政策担当者が情報交換をする場の創設、あるいは途上国への支援といったことが議論されることになると思われますが、その中で我が国として積極的にそのあり方について提案をしていくことが重要ではないかということです。
 以上でございます。

富澤座長 ありがとうございました。
 それでは、今池原課長から詳しく説明いただきましたが、この「文化多様性に関する基本的な考え方について」、順次意見交換をしていきたいと思います。
 まず最初に、全体を通じて何かご質問等ございましたらお出し願いたいと思います。

渡邊委員 自分の理解をどうすべきかということで、確認をしたいのですが、全体の文章の流れについてはこういう動きであろうと認識していますが、問題点として絞り出せるところは、現在の文化的産業の軋轢に焦点がありそうだと感じます。そういう構図を一応皆さんで認めていくのかどうか、それも重要な課題であって、文化の多様性というのは、実際はもっと深い問題があるのだろうという気がしておりますので、その問題をこういう文章の中でどの辺まで書き込めるのかというのが、私自身もなかなかいい考えが出なくなって、悩みどころです。
 例えば文化財保護の問題、法律的な整備の問題をずっと書いており、無形文化遺産の保護というのが1つ優れた特色としてここで述べられているわけですが、日本の文化財の特色というのはもう1つあって、自然的遺産を文化財保護法の中で保護するということをやっているわけです。厳格に言うと、文化財というのは人工物であるという概念ですが、有形の文化財云々というのは、例えば名勝・天然記念物というようなことで、自然的遺産を取り込んでいる形になっています。その1つの結果が最近の世界遺産委員会の政策的運動で、文化的景観の保護というところへいくわけで、そういう名勝という、今までの日本の概念の中で若干ですがそれをこなそうとしてきたわけです。それをもう少し根本的な問題を検討して、文化的景観というのをもっと積極的に位置づけた方がいいというのが我々の文化財分科会の中で主導的に行っています。
 これは、例えば棚田の指定というのがありまして、現在日本では行ったわけですが、一方で農水省は棚田の指定について全国的な規模で関心を持って助成措置をしている。つまり別なもののような動きですが、人間がつくり出した文化、それと自然というのは非常に密接に関係しているというところで、実際の行為としては文化庁がやる仕事と農水省のやることとはかみ合ってくるということがあります。
 その点を基盤としてこういう作文の中に入れていただけると、日本の文化財政策というのが非常に幅広く層の厚いものであるという認識が出て、特質も出てくるので、その辺を少し考慮していただけるとありがたい。しかし文章をどういうところに入れるかというのは難しいと思いますが。
 言葉として無形文化遺産云々と言っているが、問題点からは何らほとんどこれは絡み合うことがなく終わってしまうことが残念だというところです。これは全体的なことでございますので、個々別々にまた皆さんのご意見があれば、自分自身の認識も含めて改めるところは改め、また学ぶところは学んでいきたいと思っております。
 以上でございます。

富澤座長 ありがとうございました。大変貴重な、重要なご指摘だと思いますが、全体の構成にも絡むわけですが、私もどこかにそういうものを入れた方がいいのではないかと思いますが、これは日本全体としてはそういうとらえ方でしょうが、役所になると、まあ確かに農林省とか、環境省なんかも……。

渡邊委員 環境省もです。厚生省は国立公園を所管しています。だから自然と人間とのかかわり合いを早くから認識して、文化として見ている、あるいは文化財という言葉を使わなくても、文化遺産として見ているということは日本の大きな特色だったと思います。

富澤座長 そうです。

渡邊委員 そこで一生懸命やることによって、逆に言えば、自然の開発というところを何とか自己規制するということも出てくるわけです。それで、1つそういう日本の特色ある行政措置・行為、その基盤になっている法律というものをもう少し宣伝してもいいのだと、日本の特色だと思います。

富澤座長 そうです。
 どうぞ、河野委員。

河野委員 関連して、私も似たようなことをちょっと考えたものですから、渡邊先生のご意見に続いてちょっと述べさせていただきます。
 具体的には5ページのところ、この中身に入ってしまいますが、よろしいでしょうか。

富澤座長 どうぞ。

河野委員 「分野別の我が国の取組み」の「文化遺産」のところですが、私もここのところを読みまして、ちょっと物足りないという印象を受けました。と申しますのは、無形遺産条約のことは書いてあるのですが、有形と無形が割にぱっと分かれる形で書いているのですが、先ほど言及されました文化的景観や、無形と有形が融合する方向に、現在では世界遺産の運用でも動いていると思います。例えばそのもの自体は有形の保護対象になっていないが、その場がなくなると無形が伝承できないという場の確保、つまり無形を確保するための有形の保護という発想も出てきていまして、個としての建物の方ではなく、もっと空間としての保護、あるいはもっと広げて面としての保護という動きになっていると思うのですが、私個人はそこのところが日本の文化財保護行政では弱かったのじゃないかと思っております。
 さらに申しますと、日本の神社や寺の裏に森があったり、山があったりしますが、あれが森であり山であり続けるのは、文化財保護法というよりはむしろ宗教法人法に事実上、あれは森になっていて切り売りが防がれているというのを実務の担当の人から伺うことがありました。例えば世界遺産に提出いたしました京都や奈良の地図を見ますと、十何色ぐらいで色づけがしてあります。それは何かと申しますと、いわゆる世界遺産条約でも要求されている緩衝地帯というものの保護が求められているわけですが、それがありとあらゆる法律を総動員して行っているわけです。都市計画法上の風致地区や美観地区、あるいは森林法など、いろいろな省庁の管轄になっている法律を総動員してやらないと面としては保護できないという現状があります。無形遺産条約では文化的空間などの保護もうたっておりますので、今までやってきたことをベースにし、もっと新しい前向きの方向で文化遺産の保護に取組むという姿勢が出てもいいのではないかというふうに思いました。
 また、無形遺産の保護についての経験についてほかの国と共有できるような客観的なデータ化やノウハウ化など、まさに条約ができた後の体制として日本として貢献できる大きな点ではないかと思いましたので、その点も何らかの形で盛り込まれればと思った次第です。
 以上です。

富澤座長 ありがとうございました。
 今の件に関してでも結構ですし、また別のご意見でも。統括官どうぞ。

井上国際統括官 ここのまとめられた文章をこれから条約の策定に当たっての政府専門家会合やあるいは来年のユネスコ総会など、いろいろな場でこれからまとめようとしている考え方を使っていくと思います。その場合、今までの経緯をいろいろと拝聴すると、非常に厳しい対立があると思います。日本はその対立の中でできるだけこれをまとめていこうという考え方で来たと思うのですが、そうするとこのペーパーを結局どのようにまとめていくか重要ですが、例えば英文にするのかどうかということがあります。英文にする目的は何かというと、これは日本では今いろいろな、渡邊先生、河野先生からもお話がありましたが、我々はこういう観点でこの多様性を考えているのだということを各国、特に対立する各国に訴えながら、そのコンセンサスをまとめていくことに努めていく、その1つの大きな考え方を示すペーパーになるのではないかと思います。だから、そういうことを訴えるようなものにする必要があるのかなという感じがいたしております。これも全体なり部分なりを、例えば政府間会合や総会などいろいろな場の発言にも使っていくということになろうかと思います。
 そういうことを考えると、例えばよくわからないことは、日本の文化の特質を挙げているところに、中空的というようなことを書いているのです。中空構造、これを外国の方にどうやって説明したらいいのか、仮に英語にした場合を考えると少し気になりました。

渡邊委員 補足しておきますと、この中空構造というのは、河合隼雄先生が唱えている論説で、日本というのは要するにもともと多信教の国であって、いろいろなものを受け入れる要素を最初から持っている。いわゆる土地土地のものを非常に大切にする。ですから外来のものも、多少の抵抗はあってもすぐそれを自分のところに同居させてしまう。つまり追い出さないということです。

井上国際統括官 この文章で、中空構造と書いてもわからないと思うのです。

渡邊委員 海外に向けるとしたら、この中空構造というのは私もわかりにくいし、注釈つきじゃないと大変だなと思います。ご指摘のとおりだと思います。
 日本文化の特色、それが日本の多様性、多様な文化性を築き上げたということで説明し、河合先生に敬意を表して使っているということです。ご指摘のようにこのままでは、英語としてどう表現するのか。

富澤座長 文章的にまだこなれていない部分もあるのでしょうが、基本的にはさっき統括官が言われたように、日本の考え方として当然世間にも発表するし、発表するということは当然英文にもして外国にもアピールする、そういう考え方でいいのじゃないかと思いますが、それにはもう少し言葉の選び方も必要でしょうし、それをもう少し議論していきたいなと思っております。

渡邊委員 言葉のことで少し、例えば1ページの「まえがき」のところですが、少し言葉を補った方が、誤解がないかなというところがあります。「そして80年代以降」というところがあって、そこから始まる3行目に、「文化的中央と文化的地方の解消や、」と言ったときに、これはここでの議論としては理解できると思いますが、いわゆる均一化に向かってしまうという表現にもとれるわけです。ここにある文化的中央と文化的地方の解消というのは、本来優劣の差の解消を意識していることだと思います。そこと、地域性を非常に大切にするというための価値観と、ここは文章的に少しぶつかってしまう恐れがある。誤解を生む恐れがあるので、少し言葉を補った方がいいかと思います。中央が偉くて地方は劣るという、そういう意識は文化多様性の概念の中に入らないということです。

富澤座長 もう既にかなり具体的な意見交換に入っていますが、この基本的な考え方というのは、まず「まえがき」、前文があって、その上で3つの観点で書かれているわけですが、この構成自体はこういうことでいいのかどうか。あるいはいいということであれば、逐次、「まえがき」はこれでいいかということから皆さんのご意見をお聞きしていくというのがいいのではないかと思っておりますが、どうでしょうか。佐藤委員どうぞ。

佐藤委員 3人の方々のご意見、全くそのとおりだと思いますが、全体の構成としてはこれでいいのではないでしょうか。もちろんいろいろとコメントは具体的にはありますが、全体はよく書けていて、ご苦労がにじみ出ていると思います。
 1点だけ、今日は井上国際統括官も来ておられるし、それから河野先生もおられるので、今までそういう問題が出なかったのかどうかということをお聞きしたいのです。ユネスコには非常に厳しい試練の時代がありまして、ニューインフォメーションオーダーというコミュニケーションの問題について、要するに先進国のメディアが後進国の方へやってきて、悪いことばかり世界に報道する。それは困る、バランスを欠いているという批判が後進国からありまして、規制をかけるというよりは、何らかの意味でユネスコが自国のマスコミを育てていく、そしてそこから自国の状況について発信をするという方向をとったらどうかという議論が出たのです。それが問題の発端でアメリカ、イギリスが脱退をするという動きになりました。
 今回、マスメディアとして、この多様性がカバーするのは、ラジオ、テレビと書いてあるのです。ところが、今回の報告の中には、この基本的な考え方に何も触れられていない。あるいはこれまでのユネスコでの専門家会合でもその議論はしてこなかったと理解をすればいいのでしょうか。

富澤座長 河野先生何か。

河野委員 テレビ、ラジオを含む放送について、専門家会議の段階ではことさらそれを取り上げた議論というのはなされておりません。GATSの関係でいいますと、日本もこれは自由化約束していないと認識しております。放送につきましては、日本も自由化はしておりませんので、そのところについて、私は発言をいたしませんでしたけれども、暗黙の了解があるのかなと思って考えておりました。

渡邊委員 今佐藤先生のおっしゃったことは大いに関心のあるところで、例えば一般論として、例外なき自由というのがいわゆる国際間の大きな不平等感をつくり出す大きなもとにあるという事実がある。ただそれが1つ個別的に一体何なのかという問題があります。また、いわゆる現在、国単位の外交が行われ、国際社会が構築されている。そうすると力の強い、エネルギーをたくさん持ったところが一方的に情報を発信していく。片方はそれに対抗できないから、それを受けとめるしかないというところにまた大きなトラブルの原因がある。それはかつてアメリカのユネスコ離脱というようなことがあったということに関連すると思いますが、ただ、例外なき自由というのが大変不平等をつくり出す大きなもとになっているということは、今だれもがそう思って認めているだろうと思うのです。ただこの報告書でどういう表現でそれを載せられるかについて、国際経験豊かな方々に少しお教えをいただきたい、教えていただかなければならないと思っておりますが、佐藤先生はどのようにお考えですか。

佐藤委員 井上さんのご意見をお聞きしたいと思います。

井上国際統括官 もう大分昔の話のことですので余り記憶も定かでございませんが、今、米英がユネスコを脱退した理由は佐藤委員が言われたとおりです。あのときはアフリカと、ちょうど冷戦下でございましたので、ソ連があった。イメージが間違って伝わるというアフリカの主張と、国営通信がやはり言論統制をしたという、そういう意向があって、それに対してアメリカ、イギリスの自由な情報の流れというのがあった。それがガチャンとぶつかって、結局アメリカ、イギリスの脱退につながったわけですけれども、ちょうどそれを変えたときの総会というのが1989年だったと思いますが、総会で、それまでのアフリカ選出のムボウ事務局長がマイヨール事務局長にかわったとき、この扱いをどうするかというのが、過去のしがらみ、しかも冷戦もだんだんなくなってきたとき、扱いをどうするかというのが、そこは英語で言いますと、ここはフリー・アンド・バランスド・フロー・オブ・インフォメーション、問題はこのバランスというのが問題だったわけです。バランスというのは何なのか。バランスを強調すると結局統制とか、あるいはいろんな規制とか、そういうことになる。
 そのときに、フリー・アンド・バランスド・フロー・オブ・インフォメーション、報道の自由を阻害することなしにという1項を入れて、それでコンセンサスが成立して、この問題は一応棚上げ、お蔵入りということになったという経緯がありました。ただ、これがまたこの問題で、当時と違うのは、既にソ連はございません。ソ連はございませんが、ここで見ていると、フランスとカナダ、それとまた他方におけるアメリカとか、いろいろ新しいまた別の対立軸ができてきているという感じがいたしております。ご参考になったかどうかわかりませんが。

富澤座長 今の問題、先ほどの河野委員のお話で、現在はそういう問題は出てないということですので、とりあえずは置いておきたいと思います。構成についてはこれでいいという佐藤委員の意見がありましたが。

渡邊委員 私も全体のあり方はこれでいいと思っております。あとは部分的に修正が必要かと思います。

富澤座長 河野委員その点はいかがですか。

河野委員 全体の構成はご苦労なさって、バランスのよくとれた構成になっておると思っております。

富澤座長 それでは、全体のこの構成の中で逐次議論していきたいと思うのですが、まず「まえがき」、すなわち前文から入っていきたいと思います。
 私の印象ですと、少し食い足りないなと。例えば、今の世界の情勢が書いてあるわけですが、「地域的、文化的な運動が世界各地で広がっている。」ということですが、最近の非常に特徴的な、経済の社会だと、グローバリズムということよりも、EPAという言葉をよく使います。経済連携協定というのですか、アジアでは特にそのような動きが出てきていて、さまざまな、いろいろなレベルで国境を越えた相互依存関係を広げようとしています。これも世界の地域によって随分違い、ヨーロッパのようにもう何十年、50年以上もそのような運動を続けてきて、それが今のEUになったという歴史もありますが、アジアは全くそういうものがないわけです。ここへ来て急速にそういうEPAみたいなことが言われてきている。そのような新しい動きなどももう少し書き込んだ方がいいのではないかというような印象を私は持ったのですが、この「まえがき」のところはいかがでしょうか。
 先ほど渡邊委員が言われた自然的遺産ということですが、我が国の文化の大きな特徴である自然というものの話も、「まえがき」に多少触れた方が、また、本論のところでもきちんとどこか柱を立てて書いた方がいいと思います。

渡邊委員 文化や地域性というのはやはり自然と無関係でないです。自然が大きな条件になっており、産業の構造も大分影響されているところがあって、自然というのは基盤的な文化の要件です。それを1つ今強調したということです。
 あと、今座長がおっしゃっているような地域的な文化的運動が立ち上がっているというくだりは、EPAなどもう少し具体的に出した方が、連携というのは一体どういうものか、いかなるものかというものを見えやすくするということになる。

富澤座長 グローバリズムというのは、メディアの発達もあるのでしょうし、それから人間の行き来の頻繁になってきたということもあります。また、科学技術の発達もあるでしょうし、いろいろなことによって非常にお互いに依存関係が強まっているのだというようなところです。

渡邊委員 それが1つの組織体でもつくれれば、それがまた何がしかの調整機能を果たすということになる。

富澤座長 多分それが最後の8ページの2番にある、アジア諸国との国際的な協調関係というところにもつながっているのじゃないかと。そのことに限らずどうぞご自由に議論をしていただきたいと思います。

井上国際統括官 先ほどの佐藤委員の質問に対して説明が少し不十分だったところがありまして、お蔵入りになったというお話を申し上げたのですが、そのとき2つお蔵入りになったプラスの要因がありまして、1つはユネスコの中にIPDCというプログラムをつくったのです。これはインターナショナル・プログラム・フォー・ディベロップメント・コミュニケーションというプログラムですが、途上国のマスメディアの人たちがその能力をどう上げていったらいいか、あるいはその人材の養成をどうしたらいいのか、あるいはそのための機材をどうしたらいいのかという、一種の特別会計のプログラムをつくりまして、それをつくったことによって、各国がお金を出し、途上国の人たちの先鋭な意見を持っていた者が幾分なだめられたという経緯がございます。
 もう1つは、これは当時の1980年代の終わり、90年代というと、幾らいろいろバランスとかとかいっても、今座長が言われましたように技術発展がありまして、もうそんなこと言っていられなくなったという状況もあるのではないかと思います。
 そのIPDCのことはその後どうなったかというと、とりあえずそこでお蔵入りを非常に助けたわけでございますが、それから15年たった現在、各国もだんだんその拠出を減らしてきておりまして、現在それほど動いてないのではないかなと私は思っております。ただそのときはそういうお蔵入りにかなり貢献をした。
 ここで挙げているユネスコを通じた国際協力の貢献など、いろいろ書いてありますが、これは条約でどういう書き方になってくるのか知りませんが、それならば途上国、例えばアフリカやほかの国々が、では、このために何かやってくれるのか、財政的な負担をどうするのかというところについてもある程度考えながらやっていく必要もあるのではないかと、その当時のことを振り返ってそういうふうに思っております。

富澤座長 「まえがき」のところはよろしいでしょうか。
 それでは次に、2ページの総論、「文化多様性について」というところに入っていきたいと思うのですが、まずこの文化多様性の意義、定義について、これでよろしいでしょうか。佐藤委員どうぞ。

佐藤委員 言葉じりだけ気になりましたので。1行目、「文化多様性とは、」云々とありまして、「独自の歴史的文化的背景を有する様々な文化を」という、文化がここで二度でてくるのです。前の方を別の言葉にするか、あるいは文化を消してしまうか考えております。後は別にコメントはございません。

渡邊委員 私もこの辺は以前より少し気になっており、この「歴史的文化的背景」云々というのがやはり重複感があるので、文章としてどうかなということを指摘しておいたのです。ここは何かもう少し言い方を変えることでいけると思います。
 先ほど私が自然のことを強調しましたけれども、文化の多様性の根源は何かというと、自然があって、そこに地域性が生まれて、そこに人間社会が生じて、そこに生活の中から様々な文化が生じる、これは多様性の1つの動きの原理です。そこを認識して書けばいいのではないか。
 ですから、歴史というのはさまざまな概念を含む包括概念であるといえば、そこに文化を特に「歴史的文化的」と重ねなくても、あるいは歴史と風土を背景にというような言葉で、さまざまな文化が誕生したのだと。その事実的な成立というのを我々がもう少し尊重するというようなことがあれば文化多様性が維持できるわけで、そういうふうな考え方で文章をさわってもらったらいい。

富澤座長 例えば「文化多様性とは、民族、地域及びコミュニティが独自の歴史や風土を背景とした文化を有すること」でもわかるかと思います。「そういう文化を有することと、そのさまざまな文化が存在する状態を意味する。」ということで十分意味は通ると思うのですけれども、どうでしょうか。よろしければ、そのような形で文章を変えていただきたいと思います。その後ろは、私は非常に格調高くていいと思っているのです。「文化の多様性を保護、促進することは、心豊かな社会を形成し、経済の活性化を促し、ひいては世界の平和に寄与する」という、非常に格調の高い文章になっている。

渡邊委員 ただ、ここで急に「文化芸術」と出てきたことが少し気になります。特にここで芸術と出てくると、芸術だけではないでしょう。そこで、芸術と入れないとこの文章が成り立たないかどうか少し検討していただいたらよろしいかと思っています。

富澤座長 芸術を取ってはいかがでしょうか。
 その後の「グローバリゼーションと文化多様性の関係」というところも、決して西洋の石の文化だけではないのだという最近のユネスコの動きについて書かれておりますし、いろんなプラス面、マイナス面両方あって良いと思いますが。
 どうぞ佐藤委員。

佐藤委員 3ページ目、全体的にこれは難しい問題だからプラス・マイナス両方書かなくてはいけない、こういう問題があって、ご苦労の跡がにじみ出ているのですが、1つ、最後の2の下から2つ目の段落、「グローバリゼーションと文化多様性の関係については、このようなグローバリゼーションによる問題を過度に意識することなく、」という、この言葉に引っかかるのですが、何がいいかというのは難しいので、今思いついたのは、変えていただいて結構ですが、意識としては「バランスよく把握し」という程度のことではないかなと思います。
 以上です。

富澤座長 ここで書いてある「このようなグローバリゼーションによる問題」というのは、池原さん、我々が念頭に置いているようなことがここで問題の中に入っているわけですか。

池原課長 これはその上の文化的アイデンティティの危機の問題、それから画一化の問題、それから地域文化の創造やアイデンティティが喪失するということを述べております。

富澤座長 前段に書いてあるところの問題ということですか。

池原課長 はい。

渡邊委員 文化の多様性を強調すると常にグローバリゼーションというのは悪玉のようにされてしまうのです。しかしそれは問題があるところだと思います。世の中、新聞紙上に出てくる評論などを見ても、グローバリゼーションとはそういうものではないのだと。私もそういうものだろうと思っています。だからその辺は今の佐藤委員のお話のように、やはりバランスを考えて把握しておかないといけない。
 つまり、グローバリゼーションと文化の多様性というのは相互補完的な面があって、先ほどの中空構造ではありませんが、たくさんのものを受けて全部存在させてきた、だけどそれはその当時としては一種のグローバリゼーションを受け入れてきたのです。言うなれば、技術もそうですし、その上で1つの独特の文化をつくってきたというわけで、やはり文化というのは、大きな取り込みをできる装置だと思っておりますので、やはり敵対関係を強調しない方がいいと私も思っております。

井上国際統括官 ここの2つのパラグラフは、ある種のこのペーパーの中核的な部分、恐らく海外的に説明する場合、中核的な部分の1つじゃないかなと思って、大変な難しいところだと思いますが、この下の「文化の交流を通じて」という、この後段の段落は、ここに書いてあるのは、これはユネスコ憲章そのものです。前段のところは、これは我々が重要であると言い切っているわけですが、国によって、例えばイスラムの国を私すぐ思い浮かべるのですが、イスラムの国で、グローバリゼーションでテレビが入ってくると、そうすると女性がチャドルをしていない映像が入ってくる。それは中東でも、あるいはもしかしたらインドネシアとか、そういうところかもしれませんが、インドネシアの人にこれを、おれたちこのことについてこう思うのだけどなと言ったときに、インドネシアの人、あるいは中東の人は、うん、そうだそうだというふうにすんなりと言うかどうかというのが、恐らくそれが、先ほど佐藤委員が言われた難しいところなんじゃないかと思うのです。しかし、我々がこう思うのだといったら、それはもう言わなくではいけない、主張しなくではいけないとは思いますけれども、どういうふうに書いたらいいかというのは難しい問題だと思います。

渡邊委員 コンテンツの問題になるとなかなか難しい。ただここで言っているグローバリゼーションというのは、概念をどうするかということだと思うのですが、今のお話のようにその内容を深く入っていくと、きっととても書ききれないでしょう。ですから、技術社会を構築するという意味では、例えばテレビを一生懸命受け入れているということ自身は1つのグローバリゼーションの波を受け入れたということだろうと思います。あとはその内容については、自分たちで規制が必要であるとすれば、それをマイナス的にどんと切るのかどうかわかりませんが、フランスのように何時間は自分のものを放映するなど、何か援助策に近いような形の政策をとるということで補完しよう。これがいわゆる先進国の行き方だろうと思うのです。直接それを抑えこんでしまうというのではやはりいけない。それをやるといろいろな弊害が出てくる恐れがあるので、そこのところは用心しないといけないのだろうと思うのです。今言った厳しいイスラム系における女性の映像問題などの話は文化多様性条約策定の会議の場ではどうなるのですか。そういう個別的な問題はやはりそういうところでは議論はされないのでしょうか。

河野委員 専門家会合で、レバノンの女性の専門家が出てみえましたけれども、そういう極めて特化された議論にはならなかったですね。

渡邊委員 グローバリゼーションというのは、やはり文化的思想的な面までとらえていくと、それはせめぎ合いが出てしまうので、今起きているグローバリゼーションというのは1つの技術世界の問題ではないか。私は生活技術にかかわる部分でのグローバリゼーションというくらいに考えておきたいような気がしているのです。

富澤座長 一般的にグローバリゼーションと言った場合には、交通手段がものすごく変化する、スピード化するということと、もう1つは通信でしょう。通信も、先ほどからテレビのお話が出ていますが、さらに進んで、インターネットの世界、デジタルの世界になるとなかなか、宗教の違いなどでも阻止できない、つくれないような社会になっています。

渡邊委員 「過度に意識する」というこの文章はある意味で複雑な心象形を見せているわけです。

井上国際統括官 このパラは、先ほど申し上げましたように下の方はユネスコ憲章そのものです。上の方は、読む国の人が読むと何だということになるかなという感じがしたため、上のパラグラフがなくてもいいのではないか。

池原課長 これはこれまでの議論の中で、文化多様性とグローバライゼーションというのは相互補完的な関係にある、それでバランスをとって取組んでいくことが必要だというご指摘を文章化してみたのです。

森口審議官 我々として日本の考えを出すわけですから、何か主張はしないといけないと思います。佐藤委員が言われたようにバランスということで、両者を対等に書けばいいのかなという気はします。全く無味乾燥な文章だけ書くのではなく、日本としてこう考えるというのが何かないといけないと思います。

富澤座長 我々の考え方がユネスコ憲章そのものでもまずい。

河野委員 今の「過度に意識することなく」というのをちょっとこの辺に置いてもう一度読みますと、奈良ドキュメントのことは確かに我が国の貢献だと思いますが、グローバル化によってもたらされるプラス面がもう少し出てくると「過度に意識することなく」と言えるのだと思うのです。そこが割に一般的な記述で、だけど緊張が高まり、多様性が脅かされ、文化が損なわれということになりますと、でも「過度に意識することなく」と言われると、もう少しプラス・マイナスのバランスのところで「過度に意識することなく」のところが浮くような気もしますので、グローバル化によってもたらされるプラス面というのがもう少しクリアにストレートに出た方がいいのじゃないか。
 例えば2ページの「新たな文化の創造の環境が作られることが期待される。」というのは、弱いのじゃないか。つまりもっとこれも現実に、例えば第2次大戦前のベルリンや、あるいはパリなど、要するにロシア革命によって流れてきた人たちがヨーロッパに入ってくることによって新たに生まれてきた文化というのがあるわけですし、過去にもやはりそういう、人のグローバル化によって生まれてきた文化というのはあるのだと思うのです。そういうのがもう少し具体的に出てきて、それがやはり世界を豊かにしてきたのだということが出てくれば、過度に意識しなくてもいいですよと言えるのだと思うので、そこをもう少し具体的にお書きいただければと感じました。

渡邊委員 私もそれでいいと思います。グローバリゼーションに一定の評価を与えるということです。人間の生活を豊かにする1つの大きな動きであり、別に拒むものではない。ただし、文化の多様性ということも、もう1つの概念なので、これがうまく組み合えばより豊かな人間社会、文化の社会が誕生されるのであろうという期待でしょう。だから、グローバリゼーションに一定の評価を与えるような形でして、例えば「過度に意識する」云々という言葉がなくてもいいのかもしれないと思います。

富澤座長 どうでしょう、今のような方向でこの文章をまとめていただいて。
 「文化と経済」についてはいかがでしょうか。

佐藤委員 次の「文化と経済」の(1)ですが、この1番目の文章についてわからないのは、「文化の在り方は、経済活動に多大な影響を与えるとともに、文化そのものが新たな需要や価値を生み出し、多くの産業の発展に寄与するものである。」この「経済活動に多大な影響を与えるとともに、」というのは、次の需要や価値を生み出すこととどういう関係にあるのかがよくわからないのです。しいて言えば、私は2番目の文章、「文化と経済の関係は、」云々というのが例えば最初に来る、そして「文化の在り方」から「影響を与えるとともに、」というのを外しまして、その2番目の文章の後に「特に文化そのものが新たな需要や価値を生み出し、多くの産業の発展に寄与することが強く認識されてきている。」と見ているのですが、この原案では「多大な影響を与えるとともに、」という点はどのようにお考えでしょうか。

富澤座長 私はこういう理解をしたのですけれども、文化というのは経済活動にそのまま影響を与えるのではなく、経済活動を営む人間の、経済活動というのは人間が営むわけですが、その人間の精神、あるいはその行動に大きな影響を与えるものではないかという理解をしています。だからこそ人間にとって、豊かな生活を送るための手段である経済と文化、精神を豊かにする文化というものは車の両輪のように大事なものだという理解をしていたのですが、その辺が少し舌足らずというか、説明不足なのではないかなと思うのですが、いかがでしょうか。どうぞ河野委員。

河野委員 私は専門家ではございませんので、あまり突っ込んだことを申し上げられないのですが、私がいわゆる文化政策を専門にしておられる先生方と若干議論をしたときに伺ったことは、文化力というのが、いわゆるマーケットの観点からではないが、マーケットではない別の観点からはかれる経済的、的のところにかぎ括弧が要るのかもしれませんが、いわゆるマーケットと文化とをすみ分けているのではなく、マーケットでは計れない別の活力なりバリューがあって、そこがその先生によりますと日本ではまだまだ分析不足だと。だから日本の抱えている文化にも与えられるべき評価がまだ十分与えられていないというお話だったのです。それを思い出しながらこれを読みますと、ここの「経済と文化の関係」につきましては、ある意味で言うと相当慎重な書き方が必要なのかもしれないと思っております。
 私、大阪の出身でございますが、文化庁が関西文化で元気にしようというのをしておられてうれしく思うのですが、文化の持つ経済に与える影響とかあるいはその関係は、何か調整などという関係ではないのではないか。もっと複雑で、もっと分析が必要で、もっと考えていかなくてはいけないというようなことを将来に投げかけるようなことが入っていてもいいのかなと思いました。少しきれいに整理され過ぎているような感じをいたしました。実際起案するのは大変難しいかと思いましたが、何かまだまだこれから解明していかないといけないものがあるのだというようなことが盛り込まれればいいかなと思った次第です。
 1つだけつけ加えますと、専門家会合に出ておられましたオーストラリアの専門家の、ご専門が文化経済学であられますので、文化と経済というのに分けますと、文化経済学というのを、というのはまさに文化と経済がクロスオーバーしている分野の存在を強く暗示しているのではないかと思います。

富澤座長 最近は文化と経済と並立した場合、今文化経済学というお話がありました、大体この2つというのは車の両輪であるとか、人間生活を豊かにする非常に大事なものだということが1つの定説になりつつありますから、2段落目のところは、私はいいのではないかと思います。その前段については、文化のあり方がどういう形で経済活動に絡むのか、あるいは関係があるのか、どういう相関関係があるのか、そういう観点が必要だと思うのですが。

池原課長 これはそのものは基本指針ですが、文化審議会の答申では、「文化のあり方は人間の生き方や暮らし方、生活様式に大きなかかわりのある経済活動に多大な影響を与えます。同時に今日の社会においては、文化そのものが経済活動になっています。文化の持つ創造性は経済の発展に欠かせませんし、製品におけるデザインなど、さまざまな産業において文化は高い付加価値を生み出す源泉となっています。また、知識集約的な産業として多くの雇用を創出することが期待されます。文化は経済を活性化して、より質の高い経済社会への転換を促します。このように、経済活動と文化は不可分の関係にあるわけですが、」といった記述になっております。

渡邊委員 やはりその文章の方がいいです。少し短くし過ぎかと思います。それでやや説明が飛んでいるような感じになっているのではないか。少しここは長くなっても、重要な部分だということで、文章を足したらどうでしょうか。今のところを、この文章をもう少し長くすればおさまりがよくなるような感じです。

富澤座長 では、今のところはもう少し説明を加えるということで、その次のGATT,WTOとの関係ですが、ここのところは、これは事実関係を書いているわけです。

渡邊委員 こういう世界の情勢、それと実際の意味するところ、発するところの影響というのがどんなのかというのは全体はつかみ切ってないのです。きょうはWTOの専門の先生が来てないのですが、「EC諸国はWTOのサービス貿易交渉において音響・映像サービスの貿易自由化を約束しないことで妥結した。」という、その音響・映像サービスというものの意味、具体的にはどういう範囲なのか、あるいは内容なのか教えていただければと思います。

富澤座長 ここのところは、ご専門の小寺委員から特にご指摘はなかったのですか。

池原課長 全文をごらんいただいてコメントいただいたわけではないものですから、この後またコメントはいただけるようにお願いはしてありますが、そこまでは確認しておりません。

富澤座長 それ以外特にないようでしたら次に進みたいと思うのですが、第2の「文化多様性を保護・促進するための我が国の取組み」、これが大事なところです。ここに先ほどの「中空構造」あるいは「文化の多様性空間」という言葉も出てきますが、それとその後、「分野別の我が国の取組み」というところ等、詳細に書いてあるわけです。先ほど渡邊委員から提起された自然的遺産というものをどのように盛り込むかという点。これはもう1つ項目、例えば「文化遺産」というものの次に2でそういう項を立てた方がいいのか、あるいはこの中に書き込んだ方がいいのか、その辺のところはいかがでしょうか。

河野委員 私は文化遺産のままで書かれた方がよろしいかと存じます。と申しますのは、世界遺産の実務でも、漏れ聞くところによりますと、自然遺産で推薦して落ちたものを今度は文化的景観で、文化遺産で出すというケースもあるようには聞いておりますので、2つに分けて書きますと最近の融合傾向というのが書きづらいかなと思いました。

富澤座長 渡邊委員いかがですか。

渡邊委員 私は産業遺産であるとか、いろんな文化財行政が広がっている中で、自分自身の頭が少しずれて、革命を起こしつつあります。もともと私はいわゆる郷村文化というものがいろいろな文化から成り立っていると考えているので、その前提を余り崩したくない。その前提は何かというと自然的、地域的特色というものです。例えば棚田なんというのは地域的特色であって、そこから郷村文化らしい1つの農業土木あるいは土地の崩落を防ぐための技術を発生させる。それは1つの形式になっているのですが、それを単純に名勝というふうに評価してしまうことについて、文化財保護の立場からではありますが、意識をもう少し変えてもいいのではないかと思っているのです。
 それで、広く言えば、今こういう文化遺産という問題を大きく取り上げるようになってから、日本の文化財保護、財という言葉もちょっとどこか引っかかりがあるのですが、言うなれば文化の国土論に結びついているのです。人間がかかわってきた自然をどのように評価し、あるいはそれを維持していくのかということが文化財行政の1つの新しいテーマであり、そこのところで日本の文化財行政の新しさ、新しい取組みがあるのだ。これは地域社会、地域のつくってきた景観というものを守りあるいはそこから発生してきた郷村文化というもののいわゆる原型を維持するという大きな役割を果たすものであるというふうに認識しているわけです。
 これは長々とこの報告書で書くものではないのですが、日本の文化財行政がかなり先進性を持っているということは、無形の文化遺産という面だけではないのです。つまり今世界遺産がたまたま棚田というもので、フィリピンの棚田を文化的景観ということ強くアピールしている。それをすぐ日本は取り入れて、しかし文化的景観という概念を文化財保護法で持っていませんので、名勝でやったのです。しかしここで、新しい概念を打ち立てるべきであるというのが文化財分科会の大勢であるということです。これについては行政としては難しいだろうが、そういう面を意識してこれからいた方がいいという意見が大勢であったわけです。
 そういうことで、日本の省庁との利害得失も含めて、統合的に何か調節できる1つの大きな価値観は何かというと、やはり文化遺産という大きな概念ではないかということです。それで、こういう問題に関しては、恐らく環境省も農水省も皆協力的にやってきておりますので、そういうことが世界にもし影響を与えるとすれば、今地域改造というのがよその後進国でもどんどん起きてくるでしょうし、フィリピンの棚田は本来どこまで維持できるのかという大きな問題も、危機意識も出ています。やはりここで日本の文化行政の先進性というかを少しうたえれば、ユネスコにもある好感を持って迎えられるのではないかと思いますけれども。
 たくさんのことを書く必要はない。そこで何か1つ言葉をどこかに織り込めるかどうか、検討していただければ結構です。これからの問題の展開というのは、文化遺産といっても、ここに出てくるようにみんなオペラ云々という、いわゆる日本で言えばグローバリゼーションの中で受けとめてきた文化活動、あるいは現代の機械文明を前提としたメディア芸術というような点が強く打ち出されてしまうので、その面だけで文化の多様性を意識しているというようなことは難しいのではないかと。やはり文化の多様性というのは、最初にありましたように歴史というのは全く無視できない概念である、文化の多様性の中に当然歴史の概念が入っているのだということだと思いますので、双方を強調できるのはここでしかない。あとは問題は現代の大きな問題になってくる。

富澤座長 それでは、今までの議論で「文化遺産」というところを、今までのお話に出ていたような自然的遺産というものを盛り込んで、もうちょっと幅を持たせる。日本の大事にしてきた文化というものに幅を持たせる、そういう形にしていきたいと思いますが、どうでしょうか。

渡邊委員 この書き込みに、言葉を足すのかというのはなかなか難しい。

河野委員 具体的な文章は思いつきませんが、渡邊先生のおっしゃった自然という意味での、個の建物ではなく、それを取り巻く空間や場といった、もっと広がりのある方向という考えは全く賛成でございます。

渡邊委員 私も文化財行政の文章を書くときに、しきりに場を大切にしなさい、場の概念を文化財行政の中にいかに取り込めるかが問題であるというようなことを書いて、今河野先生が場という言葉を出してくださったので、大変私は共感をするわけですが、自然的条件をやはり大きな意味では場、文化的装置でもあるわけです。そういうことを意識して何かここで補強していただけると、日本の文化財行政を土台にした文章らしくなると思うのですけれども。

富澤座長 その「文化遺産」のところは、渡邊委員のおっしゃることを盛り込んでいきたいと思います。
 オペラ、舞台芸術等はこれでよろしいでしょうか。もう1つはメディア芸術の問題のところですが、佐藤委員どうぞ。

佐藤委員 1つだけですけれども、この最後の6ページの第3の上のところ、メディア芸術の海外発信が「楽しい文化を創造する日本の魅力」という、この言葉は既に文化庁がブランドにして使っている言葉ですか。

池原課長 この間のヒアリングでCG-ARTS協会の方から言っていただいただけで、文化庁で特にオーソライズしたものではありません。

河野委員 2点ちょっと発言させていただきます。
 1点目は、「舞台芸術等」のところですが、これは1つ前のところですが、オペラ、オーケストラに助成が必要だというのはよくわかりますが、例えば恐らく商業的には十分成り立っているのだろうと思われるような演劇なども、この書きぶりですと入りそうにも読めますので、何か芸術性の高いとか何か書かれた方がいいのかもしれません。
 また、3番目のメディア芸術のところで、6ページのところでございますが、これを読んでちょっと物足りなく思いました。それは、こういうメディア芸術を生み出す国としての日本に行ってみようと思わせる感じがこのままではしないわけです。例えば日本に行かないと見られないアニメや、町じゅうがアニメで埋まるような映画祭など、東京映画祭にアニメ部門の大変立派なものができる、何か日本という国に行ってみたいと思わせるほどのものが出てくれば、観光客をふやすことにも役に立ちますし、やはり国としての魅力をだすべきだと思います。顔の見えない、何かアニメだけが出てくるだけではなくて、何かもう少し総合的、包括的なものに発展できないかという感じがいたしました。その意味で言いますと、海外映画祭への出品とか共同製作ではまだ物足りないという感じを受けました。

井上国際統括官 文化庁の方にお聞きしたいのですが、この5ページで2カ所、オペラとメディアのところで「日本の文化的、社会的実情に合った独自の評価軸」という言葉を2カ所で使っているのですが、これははどういうことですか。これを英文にしたときに外国の方に説明を求められたとき、この2カ所はどういうふうに説明したらいいのでしょうか。
 つまり、例えばオペラのところは、グローバル化で摩擦が多くなりますよ、活動が衰退しますよと。だからそれを回避するために独自の評価軸を確立しますよ、あと人材育成等々をやりますと。それからメディア芸術の方は、独自の評価軸を確立するということ、なぜこれをしなきゃいけないのかということがよく書いてないのですが、ここはどういう意図があってここを書かれたのか。あるいはどのように外国の人にこれを説明したらいいのか、教えていただけるといいのですが。

富澤座長 文化庁いかがでしょうか。

池原課長 これもヒアリングで出たことですが、まず舞台芸術の関係では、どうしてもオペラやオーケストラなどは西洋が一番で、どうしても西洋にどこまでキャッチアップするかという考えがあるのですが、むしろそういう意識をもっと変えていくべきではないか、日本としての軸というのをきちんと置くべきではないかということ、何でも西洋がいいということではないだろうということです。その視点も、むしろアニメなどの中に日本の日本らしい文化というものが盛り込まれていて、そのようなアニメなどをつくり出すことによって日本の文化あるいは日本自体が受け入れられる、そういうことも考えられる。そういう日本らしいアニメとか日本らしい映画の芸術というものをつくり出していくということが日本の理解につながるのではないかというようなご発言が団体の方からありましたので、こういう言い方をしておきました。

井上国際統括官 ありがとうございました。

河野委員 私ばかり発言して恐縮でございますが、今朝の日経新聞だったと思いますが、アメリカのアニメ製作会社がシンガポールの企業と提携をするという小さい記事が載っておりました。これはかなり焦ってやりませんと、どんどん頭越しにアジアというのは日本を通り越して直接アメリカとくっついたりすると思うのです。
 この間のヒアリングのお話でも、まだ5年ぐらいだったら日本の言うことを聞いてくるのではないかというお話がございましたが、そこの点につきましては相当立ち上げを早くして、いろんなアクションを起こしていかなくてはいけないのではないかと思った次第です。

富澤座長 ほかにありますでしょうか。
 それでは、時間の関係もありますので、第3の「文化多様性の保護、促進のための国際的体制の構築」というところに入っていきたいのですが、この間の外務省からのお話でも、我が国の基本的スタンスとしてはユネスコの枠組みで検討していく、これについては異論が全くなかったと思いますので、こういう形で進めていくということでいいと思うのですが。
 佐藤委員どうぞ。

佐藤委員 全体によく書かれていると思います。2〜3ちょっと細かいコメントを申し上げますと、1の(1)のところは、「平成13年に文化多様性に関する世界宣言を採択し、世界遺産条約や無形遺産条約など文化多様性の保護、促進に資する国際的な規範の策定や」とありますが、時系列的に言うと、世界遺産条約は1972年ですので、この文章の流れが気になります。
 それから、(1)の一番最後の段落は非常によく表現されていると思います。
 同じように、6ページの一番最後の、(2)の最後の「このため、」云々もよく書かれていると思います。
 次の7ページでございますけれども、(3)の「各国の権利義務」の「しかし、」の2番目の段落でございますが、これがやや冗長に過ぎると思われるのは、「しかし、各国が、それぞれの判断で、文化的財、サービスの流通についての規制措置を講じることについては、それを認めると情報通信や言論の自由を侵しかねないとか、各国が排他的な規制措置を進めると、それぞれの国の国民が、」とありますが、この「各国が排他的な規制措置を進めると、」というのは要らないのではないかという気がするのです。最初のところに「規制措置を講じることについては、」という文章があるので、これは取った方がスムーズに読めるのかなと思いました。
 その下の「このため、ユネスコにおいて、」という表現も非常によくできていると思います。
 それから、(4)でございますが、これは「措置の内容」として、まず一般論として文化全体を覆うということについては、「補助金、規制措置、税制控除等の公共政策が不可欠である。」全体がそうだと基本論を立てて、あとそれぞれ別個に文化遺産やオペラ、オーケストラ、メディア芸術と分けてきています。メディア芸術についてだけ、「基本的には規制措置をとるのではなく、」と読んでいいでしょうか。

富澤座長 そこのところは、クォータ制、スクリーンクォータ制とかいうのはメディア芸術だけですが、それ以外のところでそういうクォータ制をとるというのはあるのでしょうか。

佐藤委員 これは実務家の移動などはどうでしょうか。例えば日本にフィリピンの音楽家というか、ダンサーというか、そういう人たちが入ってきていますが、そういうものに対して何ら規制はないのでしょうか。

河野委員 出入国管理法の規制がかかっていますから、もちろん法文上の文言をうんと広く解釈するから今現実に問題がいろいろあっているわけですが、全く自由化にはなっていないと思います。私も専門家会議のときに、自由化するとそれはイミグレーションの問題が出てくるので、人の移動についての自由化を強くサジェストするような文言には反対であるということを発言しました。

富澤座長 それと、先ほど佐藤委員のご指摘の、(4)のところですけれども、メディア芸術だけ別扱いというのもちょっとおかしい気がします。これを読むとそのようにもとれますが、多分それはクォータ制などがメディア芸術にかかっているからそのようになっていると思うのですが、やはり措置の内容としてはあらゆる文化に、普遍的にそういうことでないとおかしいのではないかと思う。ですから、文章的にそういうようにとられるとすれば少し変えた方がいいのではないか。

井上国際統括官 6ページの一番下の行なんですけれども、「条約の対象範囲は、」「今後の人類の文化のあるべき姿を理念的に示す」と書いてあるのですけれども、その上でこの条約の対象範囲を音響・映像サービスと、こう言っていて、それに限定されてはいけませんよと。そうすると、ではそのかわりに対象範囲を理念的に示すというのは、これはどういう文脈でとらえたらいいのか、よくわからないのです。例えばここの流れから言うと、世界遺産条約や無形文化遺産条約を勘案した上で、人類の文化のあるべき姿を念頭に入れた幅広い対象を考えるべきというふうに書いたらいいのか。条約というのはやはりリーガルなドキュメントですから、理念というのを言ってもなかなか難しいのではないかなと思います。

河野委員 今の点でちょっと発言させていただきます。
 私も今のご発言と似たような感想を持ちまして、条約の間口を広げて考えるということになりますと、特にユネスコのほかの条約との衝突の有無を丹念に精査する必要が出てまいります。今現在各国に配られております事務局案では極めて間口の広い例示表がついておりまして、ユネスコがこれまでつくってきた条約の対象を、少なくとも対象面だけに限定して考えますと、ほとんどオーバーライドしてしまうぐらい大きな例示表がついております。
 そうしますと、ここでこういうふうに広く窓口を広げますと、それまで何度も、例えばこのペーパーで言及しております無形条約などは下手すると吹っ飛んでしまう可能性があるわけです。無形条約は発効するまでにまだ二十数カ国の批准が必要でございまして、恐らく3年ぐらいは優にかかるであろうと。仮にこういう間口を広げた多様性条約ができますと、無形条約の批准はやめてこっちにするという国が出てまいりますと、我が国が貢献したということをうたっている無形条約は消えてなくなってしまう可能性がございますので、私はここのところは書きぶりがかなり難しいなと思って読んでおりました。

富澤座長 ここのところは小寺委員からもご意見があったようですが。

池原委員 はい。今井上統括官からありましたような、目的とその対象範囲が混ざっている感じがすると。

井上国際統括官 今の河野委員のコメントですが、これは条約でございますので、条約というのはやはり国の権利義務を定めるもので、ただユネスコの条約の中には非常に宣言に近い条約もありまして、各国の法令を遵守した上でやればいいとか、職業技術教育の条約というのはそういう条約だったのですが、この場合、これを条約にしたとき、もちろん宣言がありますが、宣言を踏まえて条約をつくったときに、どれだけその権利義務が、あるいはリーガルにバインディングなものをこの中に入れ込むのか、あるいは入れ込まないのかというのは、これから恐らく条約をつくっていく上での今後の政府専門家会議とかの1つの大きな論点になるのではないかなという感じがいたします。ほかの条約とかはよく精査して見ておりませんが、ユネスコの今までの条約の扱いでそういうものがあるということを申し上げておきます。

佐藤委員 座長、この報告書で我々が対象範囲を限定しなくてはいけないのでしょうか。要するに文章として、慎重な対応をしなきゃいかないということはわかってきたわけです。そういう条約審議の展開とこれまでの既にでき上がっている国際規範、そういったものを踏まえて慎重に対応するということではいけないのかという気がするのです。ただ、そうすると前の方で文化遺産とかオペラだとかはっきり言っているのです。つまりそういうのはもう明確になっているが、その他のものについてはまだ不明確な点があるというようなことで逃げることができるなら。議論すると少ししんどいと思います。

富澤座長 条約の対象範囲の整理までなかなかできないだろうと思うので。そこのところは佐藤委員のおっしゃるように、表現にするかどうかは別として、慎重に対応していくというような感じで取りまとめましょうか。

渡邊委員 今こういう文章で初めて問題の複雑な部分が出てきて、私も意識したのですが、最初に会合のときにコメントをいったときには、余り個別的云々ということは、その次に同類のものが次から次へ出てきて、掌握しきれなくなるのじゃないか。だから本来なら文化の多様性というような大きな概念があって、無形文化遺産云々というのは、河野委員が言ったように場合によっては切り離されてしまう可能性があって、概念的にはないわけではないのです。ただ行政行為として切り離すということは方法として可能でしょうか。国際間でそういう切り離すというのは難しいのではないですか。

河野委員 そこが国際統括官おっしゃったように、射程範囲の問題と権利義務のところのバッティングを両にらみですり合わせていくということになるのだと思います。だから技術的にはかなり細やかな議論を、権利義務のところで細やかな技術的な議論をすることになるのだろうと思います。その技術的な議論はしながら、同時に射程範囲がはっきりしないというのは、逆に言うと極めて議論のしにくい話になってくるのです。射程範囲が決まりますと逆にすり合わせもしやすくなるのですが、極めてこの対象範囲のところは、恐らく条約交渉になっても大変な交渉になるのだろうと思います。

富澤座長 今のところはまた次回に議論をするということで、最後のところはこれでよろしゅうございますか。提言部分というところでございます。河野委員どうぞ。

河野委員 修文でございますが、8ページの上から2行目のところですが、今の書きぶりですと、「これまで以上に外国からの文化の受容を積極的に行い、」と読めますが、これは恐らく外国からの文化の受容をもっとやろうということではなくて、恐らく後ろに、全部にかかってくるのだろうと思います。私は少なくともそのように読みたいなと思いましたのは、日本はもう十分に外国からの文化の受容はしているのであって、さらに積極的に行う必要はもうないのではないか。むしろやらなければいけないのは、その後の独創的な魅力ある文化の創造であり、海外への発信であり、存在感の向上であろうと思いましたので、「これまで以上に」というのを「積極的に行い、」の後ろに持ってきていただいた方が私はよろしいかと存じました。

佐藤委員 今の河野先生の意見に追加したいのは、フランスなど文化国家と称するところは、自分の国で国際的に開かれた場を提供しています。例えば国籍を問わずアーティストにすごく安いアパートを提供する。あるいはアトリエを提供することをしている。日本では余り考えられてないと読めるのです。だから日本が通過地点ではなく、自分たちだけで日本で文化を創造し、それを海外に発信しますよというのではなく、恐らくこの多様性条約ができますと、外国人にも同じ機会を提供せざるを得ないことになると思うのです。ですからそこは少し何かオープンにできるのかどうか。今までの文化行政の中で、そういう外国人グループに対して助成が恐らく行われてなかったという気がする、招待をするとか、そういうことはあったと思うのですが、日本の中で何かするということが今後ふえるだろうと思います。それが多様性を尊重するという意味だろうと思うのですが、その辺についての書きぶりが1つあるのではないかなというふうに思うのです。

富澤座長 ほかにはいかがでしょうか。
 それでは、議論を尽くせなかったところも多々あるわけですが、次回もまたございますので、本日の会合はこれまでにいたしたいと思います。
 今後の日程について事務局よりご説明をお願いいたします。

池原課長 その前にお願いでございますが、今日いろいろご意見をいただきましたが、さらに追加でこういったことを書いたらいいといったご意見がございましたら、大変時間が短くて恐縮ですが、今週中に国際課の方にご意見をご連絡いただければと思いますので、よろしくお願いをいたします。
 それでは、次回でございますが、資料3をごらんをいただきたいと思いますが、次回第5回会合は8月27日10時から、この10階の会議室で行う予定にしております。本日ご議論いただきました内容を踏まえまして、報告案として再度整理をしたものを、27日までにもう一度各委員の先生方にもご相談をさせていただきながら、その上で取りまとめたものを第5回会合に提出をさせていただきたいと考えております。
 また、本日配布しました資料の1については、明日より文化庁のホームページに掲載をして、一般に意見募集を行い、その意見についても整理をして次回の会合にご提示をさせていただきたいと考えております。
 次回会合におきまして、できましたら報告案についてご審議をいただき、お取りまとめをいただき、資料3にございますように9月の上旬に開催を予定しております「文化審議会文化政策部会」で富澤座長の方からご報告をいただき、9月20日から始まるユネスコでの第1回政府間会合に向けて対応させていただければと考えておりますので、どうぞよろしくお願いをいたします。

富澤座長 それでは、ただいまの今後の段取りというか予定についてご質問ございますか。なければこれで文化審議会文化政策部会の文化多様性に関する作業部会第4回会合を終了したいと思います。
 どうもありがとうございました。
午後4時8分閉会


(文化庁長官官房国際課国際文化交流室)

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