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文化審議会

2003年10月29日 議事録
文化審議会著作権分科会  契約・流通小委員会(第6回)議事要旨

文化審議会著作権分科会  契約・流通小委員会(第6回)議事要旨

1.   日  時 平成15年10月29日(水)10:30〜13:00

2.   場  所 文部科学省分館201・202特別会議室

3.   出席者  
      委員)
紋谷主査、安念、飯田、石井、今川、上原、大森、加藤、児玉、佐々木、椎名、寺島、土肥、生野、橋本、森田の各委員、齊藤分科会長

      文化庁)
森口長官官房審議官、吉川著作権課長、吉尾国際課長、川瀬著作物流通推進室長、他

4.   配付資料:

資料1        文化審議会著作権分科会契約・流通小委員会(第5回)議事要旨(案)

資料2   「契約・流通小委員会」報告書 骨子(案)

参考資料   文化審議会著作権分科会各小委員会の検討状況について


5.   概  要:

   事務局から資料に基づき説明があった後、各委員により以下のような意見交換が行われた。(以下、委員:○、事務局:△)


「契約・流通小委員会」報告書 骨子(案)について

△   骨子(案)を整理して、やはり最も大きな論点は、特にコンピュータ・プログラムを取り扱っている産業界が要望している「書面による契約の存在によって対抗要件を付与する」という案について、この小委員会としてどこまで踏み込んだ考えを示すかということであると認識している。
 
○   伺いたいのは、そもそも対抗要件制度を業界が欲しているのか、それほどのニーズがあるのかということ。これは業界に聞かなければわからないが、ひとくちに著作権と言っても、関係する業界の範囲は相当広いと思われるので、ある業界はいらないけれども、別のある業界は必要ということもあるだろう。業界から事実を伺う以外にはない。
   そこで、仮にライセンシーを保護する制度が必要だとして、おそらく業界によってどういう制度が必要なのかは異なると思うが、一般論としては、コストのかからない、使い勝手の良い制度を作るということだと思う。
   もし、とりあえずの必要が破産法59条の話だとすると、これは書面の契約があればそれで十分だという考え方で十分に成り立つのではないか。
   破産管財人の解除権の問題については、破産管財人は、どのような契約があるか、ライセンス契約があるか、わかるに決まっている。破産管財人は、今のライセンス契約を解除してもっと条件のいい相手と契約した方が、破産財団が充実すると思うから解除する。それが破産管財人の仕事。そう考えると、書面による契約があればそれでいいとする案でいいのではないかと思う。
   そうではない著作権の譲受人に対する対抗要件については、別のことを考えなければならないだろうが、しかし公示といっても民法では動産の物件変動の対抗要件は「引き渡し」としている。AがBに引き渡すということを書面上で操作をしているだけの話であって、そのようなものは第三者にはわからない。物理的に外形的にわからなくても公示であるとしている。登記のように、帳簿を揃えて誰が見ても中身がわかるというものでないと公示ではない、と考えに固執しなくてもよいのではないか。
 
○   まず、対抗要件制度が必要性かについては、やはり著作権に関する取引というのは今後非常に重要性を増していくと思うので、制度的インフラとして整備していただきたい。その場合、破産、いわゆる非常時対応ということで考えるのか、それとも著作権譲渡時における一般的な対抗要件を考えるかということだが、我々は、破産時も平時も含めて、一般的な対抗要件制度として、書面契約により対抗できるという制度の実現をお願いしている。もちろん、考え方として破産時の対抗制度と、通常の譲渡取引等における対抗制度のあり方を分けて考えることも、選択肢であろうとは思う。しかし、著作権が今後重要になること、我々の業界では米国との契約が多いこと、米国の法律を準拠法とする取引が多いことを考えると、米国等が採っている制度、すなわち書面契約の存在によって対抗できるという制度があれば非常にありがたい。
 
○   著作権譲渡による問題と破産時の問題は、両方とも利用者にとっては大きなリスクである。契約そのものが承継される制度が利用者保護として定着することが、ビジネスの今後の発展にとって非常に重要であると思う。その場合に、独占等の附帯条件をどう考えるかだが、基本的には、契約内容が全て承継されることが望ましいのだが、独占性を含めて全て承継されなければ全く意味がないかというと、必ずしもそうではない。一部の附帯条件については、何らかの制限があったとしても、基本的な契約の骨子が承継される制度であれば、実質的に機能すると思う。
 
○   対抗要件制度を導入する目的が破産法59条との関係にあるのであれば、そこに焦点を絞った制度を検討してはどうかという意見があったが、これについては破産法の見直しの議論においてある種の整理がなされている。その前提が変わらない限りは、法律の作り方としては、破産時に限定されない全般的なものを検討せざるを得ないのではないか。
   また、実際の問題として、知的財産権の流通や担保化のニーズは現在でもあるのだと思う。先ほど動産の例を挙げられたが、動産についても、担保化する際に占有改定だと公示が不十分だということで、ファイリング・システムの導入について、法制審議会で10月から「動産・債権担保法制」の検討が始まったところ。動産の担保化、特に事業全体を包括的に担保にとるような場合には、登記制度を包括的に設けなくてはならないという議論をしているわけで、そうなると知的財産権についても、同様のファイリング・システムというか公示制度を用意しておくことは、今後他の面でも重要性を増してくると思う。破産法59条との絡みだけではなく、やはり対抗要件制度一般について考えることがよいのではないか。
 
○   この委員会の顔ぶれを見ると、私自身もそうなのだが、自分が著作権を売買する立場になることが比較的に少ない人で構成されている。従って、ここで提示されている譲受人の被る不利益については、十分に状況を把握することができないのではないか。その点はもう少し突っ込んで、きちんと調査、ヒアリングをやる必要があるのではないか。事務局から説明があったように、一番大きな問題というのは対抗要件の付与をどう考えるのかという時に、書面契約の存在をもって良しとするのか、或いは公示によるのかというところ。この点については実際に著作権の売買を行う可能性が高い者からの意見を踏まえて制度設計をしないと、著作権の売買という流通を阻害することにもなりかねないので、その点についてはさらなる検討、審議をお願いしたい。
 
○   我々の業界では、独占的利用は非常に重要なポイント。業界の実態としては、契約は承継されるが独占性は保護されないとなるとかえって困る。
   
○   この報告書の中に書かれている幾つかの問題のうち、契約の承継に関する問題の一部については、契約の仕方によってある程度解決できるところがあるのではないか。
   例えば、我々は、契約中のクリティカルな部分については、権利を譲渡する前には事前に必ず相互承諾をする、権利を担保に入れるときは相互承諾をする、という契約条項入れることで、可能な限り担保するようにしている。そうは言っても譲渡されてしまえば契約違反を主張することしかできないが、一応そういうことを行っている。
   また、契約の中に、契約を譲渡した場合には第何条から第何条までの条項については承継されないというような書き方をすることはできるのではないかと思う。「契約は譲渡できない」ということを担保するのは難しいかもしれないが、「契約が譲渡された場合は、第何条から第何条までは承継されない」いう条項は、契約が承継された場合には意味があるわけで、そういう解決方法もあり得るのではないか。
 
○   これまでに実務上問題になったケースとしては、1つは、世界的なスポーツイベントの販売代理を行っていた会社が倒産するのではないかということが問題になったケース、もう1つは、ある劇場が解散したために、劇場中継その他の利用についての契約がどうなるかが問題になったケースがある。考えてみると、いずれもこれは果たして著作権の問題なのだろうか。劇場主と放送局の問題というのは著作権ではなく、スポーツイベントも著作権が絡むことがあるけれども、一般的には別の問題と考えられるところ。契約の保護の問題であるかもしれない。著作権の問題というよりもっと広い知的財産一般のについての議論かもしれない。
 
○   骨子案には、放送業界等において非独占的な利用であればそもそも契約しないのが通常である、と記述してあるが、おそらく放送局が結ぶ契約全体に占める割合からすれば、非独占の契約が大多数と思う。放送で一番多く使われる著作物は音楽作品。JASRACとの契約は非独占契約。「著作物の利用許諾契約における利用者の保護」の、「利用者保護に対する産業界の考え方」のところの第1パラグラフの記述については書き方を整理した方が良い。
 
○   骨子案の最初の記述だが、「利用者保護に対する産業界の考え方」として二つの業界の考え方が出ているが、一般的な産業界というのは、この二つの業界だけのことを指しているのか。もっと広範な産業界のニーズがあって、そこではもっと別のことが考えられているのではないか。例えば、独占性の保護は全く必要とせず、利用さえできればいいという業界も当然あるのではないか。そういう意味で、ここで産業界というのが二つ対峙されているが、それで必要性の議論が十分に尽くされているかという懸念がある。
   それから破産法59条については、従来から議論があったように双方未履行契約の場合の問題であり、非常に限定された場合の話。したがって、そこに軸足を置いた議論ではなく、もっと広範な議論が必要であるという意見が出ていたが、私もそう思う。
   この問題は要するに、利用許諾契約によるコンテンツの利用が十分に保護されているのか、法的システムが確保されているかという話。著作権の譲渡人、譲受人及びライセンシーの三者があるわけだが、もっと譲渡人にリスクを負担させるべき部分があるのだと思う。その部分を抜きにして、直ちにライセンシーにリスクを全て負わせるということが適当かという問題であると思う。
 
○   ライセンシーを保護するという場合に、著作物の利用は支分権毎に非常に広範にわたるので議論が難しいのだけれども、定型的なケースにおける定型的な保護というのは当然考えなければならない。   
 
○   我々は海外企業と契約することが多いが、通常、相手方の経営権が変わった場合契約を見直したり、解除したりできるとする条項を契約中で担保することが一般的。法制度がどこまで何をしてくれるかというのと無関係に、まずは契約で何か問題が起きたときに備えるというのが実態。
   もう1つ、破産時以外の場合について、あえて対抗制度の議論をする意味があるとすれば、やはりそれが流通促進に何か資するという明確な理由があると議論がしやすいし、進みやすいと思う。例を挙げると、アメリカで大きな映画スタジオが買収されることがあると、当然その映画会社が持っているライブラリの資産を持っており、大きいところでは数千本という過去のタイトルの権利を持っている。制度として、今どういうことをやれば商取引がよりスムーズに進むのかということをこの段階で言うことは非常に難しいと思う。
   何らかの制度を作ることによって、その制度によって契約が当事者のどちらかにとって非常に不利になる、別な問題を引き起こすということもあり得る。
 
○   レコード業界を例にしてみれば、今までにライセンシーの保護の制度がないために困ったとことは余りない。特にレコードが特徴的なのかもしれないが、比較的ビジネスの当事者が、非常に緊密な関係にあり、その人間関係が取引の安全性をある程度担保しているところがある。例えば、ライセンサーが勝手に第三者に権利を譲渡してしまったりすると、その人はこの業界ではその後のビジネスができなくなるだろう。破産の場合も、結局元のライセンシーに許諾するのが一番有利になるということで、元のライセンシーと契約するということもある。対抗要件制度を設けることによって、逆に独占性を認めない、これまでの取引が変わる、というようなことが逆に心配。
 
○   我々は公証制度を不動産登記で考えがちだが、不動産登記は自閉した中に完璧なものをつくろうとしているから、登記手続を行う場合に弁護士が原因証書を書く苦労は大変なもの。要するにわかればいいのを、日本人はものすごく洗練された手続を作ってしまう。
   対抗要件でなければライセンシーの保護が図れないのかということを、まず議論しなければいけない。まずは契約による工夫があって、契約でどうしても工夫できない問題であるかが第一。契約こそ、当事者がそれぞれのニーズに則って行うので、政府が決めるより絶対効率的。それでどうしても解決できない問題について初めて政府が関わる。対抗要件の話についてはできるだけ軽い方がいいのだから、不動産登記のようなて重い制度にするのは、どうしても仕方がない場合の選択肢にすべき。
 
○   我々の業界の立場としては、やはり倒産の場合に現行制度で一番問題だと思うのは、契約でいくら工夫しても双方未履行契約に該当した場合、破産管財人が制度的にはその契約を解除して、ちゃらにしてしまう仕組みがあるということ。契約でいくら工夫しても、全て水泡に帰す。したがって、我々は、破産時の管財人の解除権を制限してほしいというのをまず要望した。
   もう1つは、次に破産の場合何が起こるかというと、管財人による財産の処分が行われる。また平時の場合も、知的財産権の流動化や権利者の任意または強制的に、その知的財産が第三者移転することが当然あるので、そういう場合にも、ライセンシーとしての立場というのを保護する仕組みを是非つくっていただきたいとお願いしていたところ。
   そうしたところ、法務省で検討されている管財人の解除権をどう制限するかという仕組みが、ライセンシーが対抗要件を有していればという形で、破産時と権利の移転時がリンクされた。本来ならば必ずしも相互にリンケージがある課題かどうかわからないが、結果として、我が国の方向性としては、管財人の解除権の制限と、ライセンシーの対抗がリンクされているので、やはり契約だけでは解決しない課題がある。
 
○   利用許諾であるのだからライセンシーはあくまで債権を取得しているに過ぎない。対抗力の問題の議論と独占的利用の問題の議論が重なっているという懸念がある。この問題は、あくまでも権利の新たな譲受人に対抗できるかの問題、継続して利用することができるかの問題であると思う。仮に登録制度を設けたとしても、それによってライセンシーが排他的な利用の権利を取得するわけではない。この部分は、当然整理しておく必要がある。
 
○   骨子案の6ページについて、「著作者人格権の不行使の債務」という記述があるが、不行使の債務という表現振りには賛成できない。これは著作者が同意するという単純な話なので、これを債務という中に閉じ込めること、1本の契約の中に閉じ込めること自体、はなはだ妙なことである。そして、この種の債務は当然に他に移転できる債務ではないのであるから、このパラグラフの中で同列に記述すべきではない。
 
○   7ページ第2パラグラフについて、利用許諾契約の事実を確認できない著作権等の譲受人は不利益を被ることになるので云々、とあるが、不動産取引と関連づけた議論がなされているが、不動産取引においても登記だけを信じて取引をしているかというとそうではなく、ビジネスの実態としては現地の利用状態の調査しているずである。実際の利用形態や現地を見るという、調査義務はビジネスの世界では当然であるはず。
   著作権の方へ話をもどすと、継続して著作物を利用しているのであれば、ある程度ビジネスの世界ではそれを認識できる。従って、譲受人の不利益というのは、そう懸念される問題ではない。
 
○   著作権の譲受人の保護も考えなければいけないという点が、書面契約の存在のみによって対抗要件を付与するという場合の大きな課題になっているわけだが、我々も色々な事業の譲渡取引はよく行っていて、事業を分社化・編入・譲渡する、又は他社から譲り受けることは当然ある。その際、相手の言う事実をそのまま受入れて取引に入るかというと、そのようなことは決してない。デュー・デリジェンスという用語を我々は使っているが、守秘契約を相手と結んだ上で、どういう契約関係があるのか、例えば財産権についてはどういう権利を持っているか、をきちっと確認した上で評価し契約に入る。従って、著作権の譲受人として、譲渡人がどのような契約を有しているか、本当に権利を持っているのかも含め、当然調査をして相手にも質した上で契約をするのが慣行というか、当然そうすべきこと。仮に譲渡人が虚偽の表示をして契約関係に入った場合、当然譲受人は色々な救済が受けられる。従って、そういう点からも、実態論として、書面契約の存在のみによりライセンシーに対抗要件を付与すると著作権の譲受人の地位が極めて不安定なものになるということは考えなくてよいのではないか。そういうこともあって、例えばドイツや米国の著作権制度は、登録を要しないで契約がきちっとあれば非独占的ライセンシーを保護する制度にしているのではないか。
 
○   ドイツの制度は、対抗云々という規定ではなく、権利を譲渡した場合や第三者にライセンスした場合においても、その前にライセンスしたものは影響を受けないという規定になっているはず。対抗という考え方をするのか、権利譲渡等した場合、その前に許諾したライセンスに対して何の影響も与えないという考え方をするかの違いがある。
 
○   4ページ3の最後の○について、書面による契約の場合には契約締結の事実が客観的に証明されるよう確定日附のある証書にしておく必要がある、と断定した記述振りとなっているが、小委員会ではここまでの議論はなされていないと理解している。確定日附のある証書にしておく必要があるかどうかも、検討すべき課題であるとは認識している。
 
○   立法対応をする場合に、コアの部分はこの対抗要件制度を具体的にどう組むかということで、登録制度なのか、それとも書面による契約で公示とか対抗要件とするのかという、そこがポイントだと思う。
   まず不動産が非常に特殊であるということについてだが、現在行われている法制審での動産・債権担保の議論の場では、不動産をモデルに動産等の担保制度考えるので、必要以上に制度が重たくなりすぎている、ということ主張している。不動産をモデルにした制度ではなくもっと軽い制度もあるのではないか。軽い制度というのは、要するに著作権に係る権利関係について帳簿を見れば全て明らかにされているというものではなく、先ほどデュー・デリジェンスの話が出たが、そういう調査をすることは当然であるとして、調査をするときの端緒となる一定の警告機能を与える公示制度であってもよいのではないか。その場合、公示による制度と書面契約の存在による制度とどこが違うのかという点について、時間をかけて詰めていく必要がある。詰めていく際に、対抗に伴う契約関係の承継の問題については、立法対応ではなく解釈に委ねる、判例・学説の形成に委ねるということかもしれないが、一定の整理が必要である思う。
 
○   私の理解したところでは、対抗できるというのは、利用の継続というコアの部分が保証されるということ。それ以外の部分がどうなるかについてのルールが必要であり、整理しなくてはいけない。基本は、不動産の賃貸借と同様に、ライセンス契約が全て承継されると考えるのだけれども、それでは適当でない部分がでてくる。
   その場合に、その債務は譲渡人に残るのか残らないのか、残る場合に債務が履行不能になってしまうかどうか。6ページの最後に、「三者による契約に移行すると考えられないか」ということが書いてあるが、それは、ある部分は譲渡人残って、ある部分は譲受人に承継されるということ。譲受人に承継されるコアの部分は、例えば利用許諾とそれに対する対価だと思うが、それ以外の部分は残るとなると、契約が分属するので整理が必要だというのは、そのとおりだと思う。
   また、譲渡人に残った部分がはたして履行可能な状態で続いていくのか。例えば、保守契約が残ったとして、結局履行不能で消滅してしまうのではないかという問題がある。
   全て譲受人に承継されるというのが原則だけれども、場合によっては債権・債務の一部しか承継されない場合もある。そうなると、もう一つ、契約内容が変容した場合に譲渡人に契約からの離脱の自由を与えるかどうかという問題が出てくる。不動産の賃貸借の場合でいうと、賃貸人が替わる場合であっても賃借人の承諾は不要ということになっているが、一般論としては契約上の地位が移転した場合には、相手方の承諾が必要かどうかという論点がある。賃貸借の場合には契約が丸ごと譲受人に承継され、賃借人の側に全く不利益がないので、賃借人の承諾は不要、というのが最高裁の判断だが、契約内容が一部しか移行しない場合には、ライセンシーが契約を解除する自由をどのように保証するか等、付随する問題が色々出てくると思う。
   しかし、それは契約の問題であって、コアは利用を続けることができるという部分であり、対抗要件制度を考える場合の公示内容であると思う。それを前提に考えると、公示が一体何を公示するのかというところについて、例えば、ライセンス料とか契約の相手方等の第三者に明らかにしたくないことを公示する必要があるかというと、それはコアな部分だけ公示するようにすればよいのではないか。
   書面による契約により対抗させる場合、当初から書面による契約を結んでいなければいけないと思うが、最初に契約書が無かった場合どうするか等、詰めていくと色々な問題が出てくると思う。公示による制度と書面契約のみによる制度の違いについてだが、取引自体の存在を秘密しておきたいという要望に配慮することについては、登録制度による保護の制度であっても、その点に配慮した制度にすれば対応は可能だと思われる。残る違いは、登録免許税の支払の問題などであろう。複数の権利を登録する場合があると思うが、その場合の計算の方法等の問題を詰めていくことが必要。あまりコストがかかる制度にすると使い勝手が悪くなる。
 
○   登録制度を採らないという理由の一つは、登録に係るコストの問題があるということであったが、本当にどれほどコストがかかるのかはよく分からない。また、当事者間の営業上の秘密が第三者に知られるのはまずいといことも理由の一つであったが、公示制度である以上、最低限の部分はやはり知られることを覚悟しなければならない。「知られるのは全く嫌だ」ということと「公示制度が必要」ということは矛盾すること。しかし、コアな部分の公示は必要であろうが、どこまで第三者に明らかにするかについては、契約内容を全て明らかにする必要はないだろう。不動産とは違うという前提で制度を考え、やはり不都合があるということであれば、「書面契約の存在による制度」についても考えるということになるのではないか。
 
○   利用許諾を対抗する効果として、仮に、基本はライセンス契約が承継されるのだけれども、例えば元のライセンス契約において第三者に承継させることが適当ではないと取極めていた債権・債務について、当事者の意思にかかわり無く、譲受人に承継されなければ利用許諾が保護されないということになると、制度の実効性という点で非常に障害になると考える。
   特に、双方が有する技術を相互利用し対価は相互利用によって相殺するような契約であって、契約の相手方が著作権を第三者に譲渡した場合に、自分が相手方に許諾しているライセンスは、著作権の譲受人には及ばないということは、ぜひ確保する必要がある。その場合に譲受人はどうなるのかについては、譲渡人と譲受人の間で考えることになるのではないか。
   例えば、著作権者が日米両国における著作権を持っていて、米国における著作権と日本における著作権を、それぞれ別の第三者に譲渡した場合、そのライセンス契約がニューヨーク州法であった場合に、日本における著作権の譲渡との関係では、契約が承継されるかどうかというのはおそらく日本法に基づいた考え方だと思うが、果たして外国法に準拠する契約関係の場合にはどのように働くのか、よくわからない。
 
○   少なくとも対抗要件制度というのは契約の問題ではなく、対抗力を付与するかどうかは日本法の問題。我が国法上の対抗力があるということを前提に、契約上の地位がどうなるかということ。米国法と日本法は、包括的に契約したとしても同じようにはならないのではないか。国際私法の専門家に詰めてもらう必要があるだろう。
 
○   特許権や著作権を譲渡する場合、通常は自分が既に許諾しているライセンス許諾義務という債務がデフォルトしないような手立てを譲受人との間で講じて譲渡している。その場合、権利の譲受人にライセンス契約上の地位を承継させずに、我々が許諾したライセンシーの利用を存続させる方法は、実務的に2つある。
   1つは、権利は譲渡するのですけれども、自分の利用権と、第三者に既に許諾した相手に対するサブライセンス権については留保するという形で、特許なり著作権を裸で譲渡する。もう1つは、権利の譲受人に対し、我々譲渡人が既に許諾している者に、既に許諾している範囲で許諾するという義務を課し、既存の我々とライセンシーとの契約は動かさず、その前提で権利の譲渡価格を決める方法。
   そういう契約実務と、対抗できる場合には契約関係が承継されるのだという一般的な考え方というのは、どう整理すればよいのか。
 
○   契約上の地位を移転するときには様々な構成がありうる。包括的に移転することも可能であるし、契約内容を変えて移転するという更改を使うやり方もあると思う。一般的に、契約上の地位を移転するときに様々な方法がある。
   対抗力がない場合に色々なアレンジがあり得るというのはおっしゃるとおりだと思う。それ自体は当事者が合意していれば何ら問題ない。
   対抗力があるということは、権利の譲受人に対して利用許諾を主張できる、譲受人は利用許諾を受忍する義務が発生するということ。その義務との関係で一定の前提をとった上で他のことをアレンジしなくてはいけないので、そこが違ってくる。
   例えば、AとCの間に不動産の賃貸借契約があり、Cが対抗力を有している場合に、AがBに不動産を譲渡し賃貸人がBに変わることに伴い、Aが、Cとの今までの賃借関係を維持するために不動産の譲受人BからAが賃借してCを転借人にするというアレンジが可能かというと、これはだめだというのが最高裁の判決。
   つまり、対抗力による保護がある場合には、そういう形で賃借人の地位を弱くしてはいけないという最高裁の判断がある。対抗力が付与されている場合には、従前の地位よりも弱くなってはいけない、転借人だと元の賃貸借契約が解除されると転借人の地位も無くなるのでそのようなアレンジはだめだ、と最高裁は言っている。
   対抗力がない場合に債務不履行を問われないように契約による様々なアレンジがあるというのはそのとおりだが、対抗力があるということは、そのような契約によるアレンジメントの如何にかかわらず、譲受人に対してライセンシーが一定のことが言える、譲受人はライセンス契約のコアの部分を引き受けなくてはならないということが前提になる。その前提と矛盾する契約は成り立たない。
 
○   不動産のように1人しか使えない有体物と、著作物のように多数の者に利用を許諾でき、かつ許諾を受けた者によるサブライセンスも確立したビジネス慣行となっているような無体物とでは、抜本的な意味で考え方が違うのではないか。何らかの対抗制度ができることによって、逆にビジネスの自由度がなくなるようでは大きなデメリットである。
 
○   対抗することができるということは、別にライセンシーに強制されているわけではない。ライセンサーが対抗したくないということであれば放棄すればいいわけだから、ライセンス契約から離脱することも可能である。ただし、利用の継続を望む場合には、それを譲受人が拒否できないということ。その部分だけが強行的に入ってくるだけなので、それ以外は自由。自由という前提で全体がどうなるかということを考えると、様々な可能性があるけれども、様々な可能性があるとうだけだとかえって不安定なので、事務局の骨子案では一定の整理をしているのだと思う。
   従って、どのような債務が承継されては困るかの性格付けを契約で明確にしておけば、承継されないということがあると思う。他方、譲渡禁止特約が効力を持つかというと、債権譲渡についての制度があるけれども、契約上の地位の移転の譲渡禁止特約というのが効力を持つかどうかというのは、まだ議論がない。債権譲渡の禁止特約というのは、比較法的に見て、ドイツと日本だけにある非常に特異な制度であって、当事者間の契約で有効だけれども第三者は縛らないというのが諸外国の大勢であって、譲渡ができないという特約は結べないと思うが、譲渡に適した債務かどうかは、契約内容で明らかにしておくという工夫はできるのではないか。
 
○   特許制度にも、通常実施権について対抗要件としての登録制度があるが、実際に登録制度を利用する場合というのは、契約の相手方に対する不信感・不安がある場合がほとんど。従って、制度としては殆ど利用されていない。著作権の場合に、利用許諾について登録による対抗制度を設けたとしても、相手方に不信感・不安を持った場合ではないか。特許の場合特許権者と通常実施検者の両者で登録しなければならないとなっているので、権利者の方の同意がなくても、ライセンシー単独で登録できる制度にしなければ、あまり利用されないと思われる。登録制度を採用するのであれば、非常に軽い制度にしておかなかればならないと思う。
 
○   仮に軽いものであれ登録制度を考える場合の留意点としては、ライセンサーが登録に協力してくれない場合の問題や、ソフトウエアの世界で最近広がっているリナックスに代表されるオープンソース・ソフトウエアの場合誰がライセンサーか分からないという問題がある。オープンソース・ソフトウエアについては、少なくともある一定の条件のもとで提供を受けた者は、その条件の範囲内で使用する限りは文句を言われないので、例えばどういう権利者が何人関与しているか分からないという世界。一部の権利者が破産する、または権利を譲渡することで譲受人が権利主張できるということになると、今のオープンソースというシステム自体が崩れてしまう。どうしても登録による制度が必要という場合には、このような契約スタイルが非常に重要になってきているという実態を念頭に置いていただきたい。
 
○   著作権等管理事業法のもとで管理事業者が複数化したことによって、委託者が管理事業者との契約を解約し別の事業者と委託契約を結ぶことが頻繁になると、著作物を利用するライセンシーが大変なことになる。JASRACの場合、信託契約を解約する場合は、半年前に通知することを課している。通知があれば、公開しているデータベースに、「JASRACとの契約は○○までです」という表示をする。
   JASRACでは、著作権の信託契約を解約する場合、ライセンシーに対する予告措置的制度を持っているが、他の管理事業者について、文化庁に届け出ている定款や約款に関し、何らかのライセンシーの保護が図られるよう指導等を行うことはあり得るのか。
 
△   今のところそのような指導は行っていない。確かにライセンシーに配慮してそのような規定を置くことを勧めるということは、課題としてはあるのかもしれないので研究したいと思う。
 
○   著作権等管理事業者の問題については、確かに著作権等管理事業者が解散したらどうなるか、権利者が管理事業者との契約を解除した場合にどうなるのかについて、ライセンシーの対抗の問題とは違うが、いずれかの時点で議論する必要があるのではないか。現に今年、文芸著作権保護同盟が解散した。幸いきちんと承継されたが、今後は色々と流動的になると思われるので、その際利用者保護をどう図っていくのかは、著作権等管理事業法上も重要な問題であると思う。

以上



(文化庁長官官房著作権課著作物流通推進室)

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