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資料4−3

2003年6月6日      

日本経団連ブロードバンドコンテンツ流通研究会

中間とりまとめ



   日本経団連は、2002年2月、ブロードバンド常時接続環境下における多様なコンテンツの円滑な流通を目指して、コンテンツの権利と利用に係る15団体の参加を得て「ブロードバンドコンテンツ流通研究会」を設立した(研究会の設立趣旨については、参考1を参照)。本研究会は、これまで一堂に会して議論することのなかった権利者団体と利用者団体が、迅速かつ簡易な著作権等の利用ルール(映像等のコンテンツを初期目的以外に利用する場合に、映像等コンテンツに係わる著作権等の権利者から利用許諾を取得する際のルール)づくりに一致協力して取り組むことを目的としており、今日まで相互理解を深めながら、諸般の活動を行なってきた。
   数多くの会議や関係者へのヒアリングなど、1年余りにわたる活動を受け、現段階における参加団体の共通の認識をまとめたのが本稿であり、参加団体の間に醸成された相互理解の証でもある。これを踏まえて、今後、より具体的な課題について検討を進める。
   新しい成長産業として期待の大きいブロードバンドコンテンツ流通事業が、一日も早くビジネスとして確立され、わが国の経済、社会、文化の発展に寄与することを切に期待するものである。

1.これまでの検討経緯
   本研究会では、ブロードバンドコンテンツ流通をめぐる諸課題について共通の認識を醸成するため、コンテンツ流通ビジネスの現状、コンテンツ配信に係るセキュリティ技術の動向、ブロードバンドコンテンツの視聴性向、既存テレビ番組のブロードバンド配信実証実験の結果などについて、既にブロードバンドコンテンツ流通ビジネスに取り組んでいる事業者や有識者から説明を受けた。また、研究会参加団体より、インタラクティブ送信に係る権利処理上の課題と対応、着信メロディやアニメ配信の具体的ビジネスモデル、権利者リスト、データベースの整理の動向などの現状について説明を聞いた(主要コンテンツの権利関係およびコンテンツとビジネスモデルの関係イメージは参考2(PDF:18.0KB)を、音楽の権利処理問題は参考3(PDF:273KB)を参照)。
   以上の研究会と並行して、ワーキンググループ(以下「WG」)や利用者9団体からなる利用者団体会合などを開催した。WGでは、具体的なビジネスモデルをイメージしながら、利用許諾のあり方について意見交換し、関係団体の相互理解の増進に努めた。また、利用者団体会合では、WGで出された意見を踏まえつつ、本研究会に参加している権利者団体へのヒアリングなどを通じて、使用料率の設定にあたっての基本的な考え方などについて検討した(以上、これまでの検討状況については、参考4を参照)。

2.ブロードバンドコンテンツ流通市場の早期立ち上げ
   ブロードバンド常時接続環境の進展には目覚しいものがある。本研究会が検討を行ってきたこの1年間においても、ブロードバンドインターネット接続サービス(DSL、CATV、FTTH)の加入者数は、研究会が設立された昨年2月の約178万件から約940万件(2003年3月末現在<速報>)へと急増し、世界で最も安価な料金で利用が可能となっている。しかしながら、このように発展を遂げるインフラを活かした、視聴者にとって魅力あるコンテンツが十分提供されているとは言いがたい。一方、適正な利用許諾が行なわれていない、いわゆる海賊版のコンテンツがネットで流通しており、このままでは「コンテンツの暗黒大陸」という負のイメージが定着しかねない状況にある。したがって、コンテンツに係る権利者、利用者双方にとって、正規に利用許諾がなされた良質のコンテンツが流通する健全な市場を一日も早く形成することが喫緊の課題となっている。
   ブロードバンドコンテンツ流通市場の早期立ち上げの前提として、著作権等の適切な保護と違法コピーの防止等の技術的保護の確立が特に重要である。まず、著作権等の適切な保護については、多数の権利者が関与する「権利の集合物、権利の束」とも言える映像コンテンツに係る利用許諾が迅速かつ円滑に行なわれるような環境整備を求める声が大きい。本研究会の目的もそこにあり、これについては「3.迅速かつ簡易な利用許諾のあり方」で触れることにする。また、権利者が安心して許諾を行なえるよう、強固な技術的保護手段が提供される必要がある。知的財産基本法では「国は、インターネットの普及その他社会経済情勢の変化に伴う知的財産の利用方法の多様化に的確に対応した知的財産権の適正な保護が図られるよう、権利の内容の見直し、事業者の技術的保護手段の開発及び利用に対する支援その他必要な施策を講じるものとする」とされており、これに沿った関係省庁の適切な取り組みが求められるとともに、民間における技術的保護手段の開発・実用化を推進することが重要である。
   草創期には外国のソフトや映画を多用していたテレビ放送が今や独自のコンテンツを制作・供給しているように、著作権等の適切な保護とそれを担保する技術的保護手段がブロードバンドコンテンツの流通を促すことによって、新たな市場が形成され、創作活動への再投資が可能となる。そうした好循環が文化の発展につながるものと考える。

3.迅速かつ簡易な利用許諾のあり方
   デジタル化・ネットワーク化時代にある今日、著作権等の利用許諾について、アナログ時代には考えられなかった問題が生じている。アナログ時代の著作権等の取引は、出版者、レコード製作者、映画製作者、放送事業者など著作物等の利用に精通した業界と権利者団体との間で、長い交渉の過程を経て形成された合意を基にしてきた。これに対し、ブロードバンドコンテンツ流通ビジネスでは、映像等コンテンツが視聴者に提供されるまでの過程に、コンテンツホルダー、コンテンツアグリゲーター、プラットホーム事業者、配信事業者といった様々な事業者が介在し、しかもこれらの事業者に新規参入事業者が多く、利用許諾を得る当事者や利用許諾料の徴収方法も多様化してきている。権利者団体にとっては、それら多くの関係者の誰から利用許諾料を徴収するかが大きな課題となっている。なお、権利者団体は、著作者から権利行使を一任されている権利者団体(日本音楽著作権協会、日本脚本家連盟、日本シナリオ作家協会など)と、非一任型の権利者団体(実演家著作隣接権センター、日本レコード協会)とに大別される。利用許諾の検討にあたっては、このような権利者団体の性格と権利者との関係にも十分配慮しなければならない。
   現状では、主要な権利者団体のうち、ブロードバンドコンテンツの配信に関して、使用料規程を定めているのは、日本音楽著作権協会などの音楽(作詞・作曲家)団体のみである。しかしながら、上述の通り、ブロードバンド常時接続環境の急速な広がりに伴って良質なコンテンツの需要が高まってきており、このような好機を逃すことになれば、権利者と利用者は得べかりし利益を損なうばかりか、新たな著作物等の創作活動やブロードバンドならではのオリジナルコンテンツの製作意欲にもマイナスの影響を及ぼすことになる。
    本研究会では、このような認識にたって検討を進めてきたが、その過程において、
1ブロードバンドコンテンツ流通市場が未だ確立されていない現状に鑑み、暫定的(例えば2003年度から2005年度)な料率を検討する必要があること、
2利用許諾を得る当事者は、コンテンツホルダー、コンテンツアグリゲーターなど多岐にわたっているが、いずれにしても、コンテンツに責任を有するコンテンツホルダーなど、視聴データのログを集約できる者が許諾を得るのが望ましいと考えられること、
3利用許諾料の算定方式として、「利用者が支払う利用料金に一定率を乗じる方式」、「コンテンツアグリゲーターやコンテンツプロバイダーに対するコンテンツ単位の販売価格に一定率を乗じる方式」、「両方式と併用して、ミニマムギャランティを設定する方式」などが考えられること、
4著作権等管理事業法上の利用区分としては、劇場用映画、テレビ映画、テレビアニメなど映像コンテンツの種類を問わず、一つの利用区分とすることが考えられること、
5利用許諾を得た利用者側より権利者側に対し、映像等のコンテンツに利用された著作物等の使用報告が正確になされる必要があること、
などの意見や今後の対応姿勢が示された。
なお、今後の検討課題については、「5.今後の本研究会の活動について」で後述する。

4.その他の課題
   ブロードバンドコンテンツ流通市場を早期に立ち上げるためには、迅速かつ簡易な利用許諾とともに、上記2で指摘した違法コピー防止等の技術的保護手段の確立が必要である。また、配信コストや視聴環境に関する課題もある。特に、違法コピーへの懸念から現在主流となっているストリーミング型の映像配信においては、以下のような課題の解決が不可欠である。
(1) 技術的保護手段
   違法コピー防止のための保護手段としては、ストリーミング配信、DRM(Digital Rights Management)、電子透かしなどがあげられる。コンテンツ配信時の保護については、ストリーミング方式に加えて、複製が防止できるダウンロード方式も利用可能となっていることから、動画配信に適した配信技術の標準化が必要である。コンテンツの暗号化を行なうDRMは、技術的保護手段の最たるものであるが、動画コンテンツに適したDRMは選択肢も限られるため、低価格で汎用性の高い保護技術の開発や利用にあたっての保証範囲や責任の明確化など、運用に関するコンセンサスの形成が不可欠である。電子透かしについては、動画コンテンツへの挿入に関する技術開発が必要である。
(2) 配信コスト
   ブロードバンドコンテンツ流通においては、エンコーディング費用、配信設備費用、回線使用料、サービスプロバイダー経費などの配信コストがかかる。特に配信設備費用、回線使用料については、視聴者の増加に比例して増える構造となっている。また、有料課金ビジネスを行なう上では、回線品質保証(QoS:Quality of Service)が不可欠であるが、ベストエフォート型を特性とするIPネットワークでは、その実現には多額の費用を要するといった問題がある。
(3) 視聴環境
   パソコンによる視聴を前提にした動画コンテンツ配信では、高性能なパソコンが必要とされる。伝送スピードを落とした動画コンテンツ(500kbps)に限ってみても、フル画面表示で安定視聴できるパソコンは全体の3割程度といわれている。また、パソコンにインストールされているソフトウエアの組み合わせやバージョンによっては、様々な障害が発生する可能性がある。動画の配信フォーマットやプレーヤーの標準化、安定化は市場拡大のための大きな課題であり、そのためには、コンテンツ視聴に特化したセットトップボックス(STB)などの安定した視聴環境が求められる。

5.今後の本研究会の活動について
   以上が本研究会に参加する権利者・利用者団体の共通認識である。今後は、この共通認識の下に、e-Japan戦略に基づく著作権等の利用ルールや権利情報の整備などに向けた関係省庁の取り組みを踏まえつつ、上記3で整理した迅速かつ簡易な利用許諾のあり方について、「利用者団体協議会(仮称)」を設置する可能性も含めて、課題解決のための具体的なスキームを作ることとする。その上で、利用者団体と権利者団体との間で、ブロードバンドビジネスが健全な産業として成り立ち得る範囲での暫定的な料率の設定、ならびに下記の(1) 〜(4)に示す課題等について、検討を深めることとする。
   本研究会においては、「4.その他の課題」で取り上げた課題について、関係事業者も交えて検討を進めることとする。

(1) 脚本、原作等
   暫定的な料率の設定について。
(2) 音楽
1 国内音楽:配信用記録媒体に新規に連続した映像とともに音楽を固定する場合の扱いについて。
2 外国音楽:外国音楽をビデオテープ等に複製する上での利用許諾条件や利用許諾料の幅の設定などについて。
   外国音楽をビデオテープ等に複製するためには、海外のオリジナルパブリッシャーと交渉して映画録音権の利用許諾を得ることが必要であり、利用許諾手続が煩雑で、統一的な料金規定もなく、利用の対価も高額となる実情がある。
(3) レコード音源
   国内レコード音源に関する権利の集中管理の範囲等、ならびに外国原盤のレコード音源の権利者からの利用許諾について。
   国内のレコード製作者を代表する団体として、日本レコード協会があるが、現状では、権利の管理が一任されていない。国内レコード音源が利用されている映像コンテンツをブロードバンドで利用するためには、各レコード音源製作者から音源ごとに利用許諾を得なければならない。
   また、外国原盤のレコード音源の権利者から利用許諾を得るには交渉に時間がかかり、利用許諾の対価も高額となり、利用許諾を得られないケースもある。
   以上を踏まえて、現在、日本レコード協会は、集中管理する権利の範囲等について検討中である。
(4) 実演
1 映像実演:実演家の権利の集中管理体制について。
   放送局等が製作するテレビ番組は、製作時に実演家から放送の許諾しか得ていないものが多い。したがって、テレビ番組をブロードバンドで利用する場合には、出演契約によって、放送局等が実演家から利用許諾を得ている場合を除き、実演家から録音・録画権(実演を録音・録画する権利)や、送信可能化権(公衆からの求めに応じて自動的に送信できるようにする権利)の許諾を得なければならない。実演家を代表する団体である実演家著作隣接権センターは、現在、権利を集中管理すべく検討中である。
2 レコード実演:実演家の権利の集中管理体制について
   レコード音源を利用する場合にも、実演家から録音・録画権、送信可能化権の許諾を得なければならない。実演家著作隣接権センターは、現在、権利を集中管理すべく検討中である。
3 声優の実演(テレビアニメ映画):声優の権利に関する実態把握のための調査・研究
   テレビアニメ映画に声の出演をしている声優の権利については、日本動画協会、日本音声製作者連盟が、日本俳優連合、日本芸能マネージメント協会と協定を結び、声優の実演を当初の目的外に利用する場合の追加報酬料率を定めている。現行の協定の適用可能性を含めて調査・研究し、実態を把握する一方、関係者における協議が望まれる。


以上
   

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