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資料3

私的使用目的の複製の見直しに関するプログラムの著作物等の取扱いについての論点

1.これまでの検討経緯

 私的使用目的の複製の見直しについては、録音・録画に関する検討が私的録音録画小委員会において進められており、その検討経過として、以下のとおり論点整理がなされている。

【「著作権法第30条の適用範囲の見直しに関する論点の整理について」(平成19年12月18日私的録音録画小委員会資料2)】

1.違法複製物又は違法配信からの録音録画の取り扱い

(1)改正の必要性
  • 1 これらの利用は、一般に通常の流通を妨げる利用であり、国際条約、先進諸国の動向等を勘案すれば、第30条の適用対象外とする方向で対応すべきと考えられるがどうか。
  • 2 ファイル交換ソフトによる違法配信からの録音録画については、違法な送信可能化や自動公衆送信を行う者を特定するのが困難な場合があり、送信可能化権や公衆送信権では充分対応できないと考えられるがどうか。
(2)利用者保護

 ダウンロードした利用者の保護については、次のような措置により、充分対応可能と考えられるがどうか。

  • ア 仮に法改正された場合における法改正内容等の周知徹底(政府、権利者)
  • イ 権利者が許諾したコンテンツを扱うサイト等に関する情報の提供、警告・執行方法の手順に関する周知、相談窓口の設置など(権利者)
    (詐欺的行為の防止にも効果あり)
  • ウ 適法マークの推進(権利者)

 なお、法執行については、仮に民事訴訟を提起する場合においても、立証責任は権利者側にあるので、実務上は権利者は利用者に警告をした上で法的措置を行うので、利用者が著しく不安定な立場に置かれ保護に欠けることにはならはない(法律においても、例えば違法複製物等からの録音録画であることを知って行う場合に限定することとしている)と考えられるがどうか。

(3)キャッシュの取扱い

 ストリーミングに伴うキャッシュについては、著作権分科会報告書(平成18年1月)における一時的固定に関する議論の内容等を踏まえた上で、必要に応じ法改正すれば問題がないと考えられるがどうか。

(4)適用対象外の範囲

 コンピュータソフトについては、ダウンロード被害が大きいと言われるが、第30条の適用対象外にすべきであるとの意見についてどのように考えるか。

2.適法配信事業から入手した著作物等の録音物・録画物からの私的録音録画等

  • (1)配信事業に限らず契約で対応できる利用形態については契約に委ね、将来に向かって諸条件が整った利用形態については、第30条は縮小する方向で考えるということでよいか。
  • (2)レンタル店から借りた音楽CDの録音や有料放送を受信して行う録画については、契約環境が整っていない等の問題があることから、直ちに第30条の適用除外にすることは困難と考えられるので、将来の課題とすることでどうか。

 本課題の検討の対象については、理論的には、私的録音・録画の分野のみに必然的に限定される性質のものとは言えないことから、平成19年1月の著作権分科会報告書においても、「私的録音・録画に関する私的録音録画小委員会における検討の状況を見守り、その結論を踏まえ、必要に応じて、私的複製の在り方全般について検討を行うことが適当」とされていた。
 この点、昨年10月12日の著作権分科会やその後の意見募集においては、違法複製物や違法配信からの複製については、ゲームソフトやビジネスソフトの被害による権利者の不利益も顕在化しているとして、私的複製の範囲の見直しの検討の対象を録音・録画に限定せず、著作物全体を対象として議論を行うべきとの指摘もあった。
 このことを踏まえ、前期の著作権分科会への法制問題小委員会審議経過報告では、「録音・録画以外にも、例えばプログラムの著作物等に関して同様の検討が必要であるか等について、その私的複製の実態を踏まえながら、精査を行うことが適当」としたところであり、これを受けて、今期第一回の法制問題小委員会では、社団法人コンピューターソフトウェア著作権協会(以下「ACCS」という。)から、プログラムの著作物を初めとする著作物のファイル交換の実態等について聴取を行った。

2.プログラムの著作物等の私的複製の実態について

 ACCSからの聴取によれば、違法なプログラムの著作物等の流通の実態は以下のとおりである。

1ファイル共有ソフトを通じた流通について

 ACCS、社団法人日本レコード協会及び日本国際映画著作権協会の行った調査(注1)によれば、調査日における24時間にファイル共有ソフト「Winny」を通じて流通していたファイルの中からランダムに抽出した約20,000ファイルのうち、約3パーセントがプログラム関連ファイルであった。その他の分野では、映像関連ファイルが19パーセント、音楽関連ファイルが13パーセント、書籍関連ファイルが9パーセントであった。また、これらのファイルの大半が権利者の許諾なく流通されていると推測される旨報告された。
 併せて、特にWinnyのような仕様のファイル共有ソフトを通じて行われるファイルの流通においては、ファイルの送信可能化行為が、そのユーザーの意思に基づくものなのか、「中継」と呼ばれる機能によって自動的に行われるものなのかの判別が困難である、との報告があった。

  • (注1)「インターネット上で流通している違法コンテンツの実態について」(社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会、第1回法制問題小委員会(平成20年3月24日)資料4)

2アップロードwebサイトを通じた流通

 ファイル共有ソフト以外の違法コンテンツ流通の実態としては、ゲームソフトなどのファイルのアップロードwebサイトがアジアやヨーロッパのサーバーに設置されていることが確認されており、日本からもアクセス可能な状態におかれている旨報告された。

3.30条におけるプログラムの著作物の取扱いについて

 1.及び2.のことを踏まえれば、違法複製物等からの複製を30条1項から除外することを検討するに当たって、プログラムの著作物等については、どのように取扱うべきか。
 例えば、私的録音録画小委員会の検討における1改正の必要性、及び2利用者保護の観点では、以下のように分析できると考えられるがどうか。

1改正の必要性について

ア 違法複製物等の流通量及び権利者の不利益の状況について

 ACCSから報告されたファイル共有ソフトを通じた著作物の流通割合を見ると、音楽・映像関連と比べ、プログラム関連等については、相当の差が見られる。
 この点、コンピュータープログラムに係る私的複製による権利者の不利益の状況については、以下のような趣旨の意見があった。

  •  全体の3パーセントに当たるプログラム関連のファイルは、数字として少ないように思われるが、どの程度の経済的価値を有するのか。
  •  コンピュータープログラムやゲームのマーケットにとって、どのような損害や影響が有るのかが示されるべき。

 一方、ACCSからは、以下のような趣旨の説明もなされている。

  •  流通しているファイルには現在外貨を獲得している重要な価値を持つものがある。ダウンロード利用されれば、正規ビジネスも抑制されることになる。
  •  ファイル数では3パーセントに過ぎないが、1つのファイルに100のゲームがまとめてある場合もあり、著作物の数の総体を比べれば、少ない数字ではない。
  •  コンピューターソフトウェアはその販売でしか収入が上がらないため、流通形態が豊富な映画等とは異なる。

 これらの意見を踏まえると、現時点で、プログラムの著作物等については、権利者の不利益の存在は認められるものの、著作物の通常の流通を妨げる利用実態があると言えるところまで、十分な分析ができていると言うことができるかどうか。

イ 違法複製物等の流通形態について

 録音・録画分野における違法複製物等の流通実態としては、ファイル交換ソフトの他に、着うたのダウンロードサイトなど、ユーザーが違法複製物のアップロードを行う形態のサイトからの著作物の違法複製の実態について、調査結果とともに報告されている(注2)。
 他方、プログラムの著作物等については、国内で同様の形態での流通実態があるかどうかについては、現時点では必ずしも詳細が明確にはなっていないと思われる。
 これらの点から、違法複製物等の流通実態の面でも、録音・録画分野とプログラムの著作物等では、同様の整理ができる状況にあると言うことができるか。

  • (注2)「違法な形態電話向け音楽配信に関するユーザー利用実態調査【2007年版】」(2007年12月25日、社団法人日本レコード協会)(私的録音録画小委員会第1回(平成20年4月3日)資料4-2)

2利用者保護について

 30条の改正を行う際に措置されるべき利用者保護対策については、上記1.のとおり、私的録音録画小委員会では、

  •  権利者が許諾したコンテンツを扱うサイト等に関する情報の提供、警告・執行方法の手順に関する周知、相談窓口の設置など
  •  適法マークの推進

といった対応を権利者が行うこととされている。
 これについては、録音・録画の分野においては、例えば、社団法人日本レコード協会が、適法な音楽配信事業者であることを識別するための「エルマーク」を導入するとともに(注3)、エルマーク配付先である当該事業者に関する情報をHPに掲載し、利用者への情報提供に努めるなど、その取組みが進められている。
 プログラムの著作物等については、現時点では、そのような利用者保護の取組みが十分に進められているとの状況は確認されていないと思われるがどうか。

  • (注3)「識別マーク(呼称:エルマーク)概要説明資料」(第一回法制問題小委員会(平成20年3月24日)参考資料3-6)