資料2−1
本小委員会では、私的録音録画に関する権利制限のあり方や補償の必要性を考える前提として、次のように利用形態を分類した上で、特に指摘があったいくつかの行為類型に関する私的録音録画や契約の実態について、調査し整理した。
関係団体が行ったファイル交換実態調査や携帯電話向け違法配信実態調査等から、違法な配信や利用者の複製の実態が報告され、また、正規商品の流通前に音楽や映画が配信され複製される例が紹介されるなど、正規商品等の流通や適法ネット配信等を阻害している実態が報告された。
「私的録音に関する実態調査」(平成18年 私的録音補償金管理協会)では、音源別の総録音回数比率として、他人から借りた音楽CDから録音(約24.3パーセント)は、レンタル店から借りた音楽CDからの録音(約28.6パーセント)に次いで多く、その比率は過去に調査した結果(平成9年、平成13年)と比べて大きくなっていることから多くの録音物が作成されている実態が推測される。
適法な音楽配信事業のビジネスモデルを精査した結果、現状としては、
という実態が分かった。
レンタル事業のビジネスモデルを調査した結果、最初に権利者とレンタル事業者間の貸与使用料を決める際に、著作権等管理事業者である社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC(ジャスラック))の録音使用料を参考に決められた事実は認められるが、
などが分かった。貸与使用料の中にどのような利用に対する対価が含まれているかは、当事者間の意思解釈に係る問題であるが、当事者の認識として、私的録音の対価が含まれていると確認できる材料はなかった。
また、レンタル店と利用者との契約(会員規約)では私的録音に関する条項は一般になく、レンタル業界としては利用者の支払うレンタル料には私的録音の対価は含まれていないとの認識であることが分かった。
映画会社等と有料放送事業者の契約は、放送の対価であることが明示されていること、また有料放送事業者と視聴者との契約約款(放送法により総務大臣の認可が必要)においても、視聴者から徴収する料金は視聴の対価であることが明示され、視聴者が行う録画に関する記述は一切ないことから、私的録画の対価が含まれていることは確認できなかった。
現行法制定当時の第30条は、使用目的が私的使用であること、著作物等の複製物を使用する者が複製することを条件として、無許諾の複製を認めていたが、その後昭和59年には、高速ダビング機器等の公衆が使用する目的の自動複製機器を用いて行う私的複製、平成11年には、技術的保護手段が施されている著作物等を回避の事実を知りながら行う私的複製について、第30条の適用範囲から除外し、権利者の許諾が必要な行為とした。
これらの行為が第30条から除外されたのは、いずれの行為についても権利者の経済的利益を不当に害し、通常の利用を妨げる行為と考えられたからであるが、複製技術の開発・普及に伴い、立法当初想定していなかった複製の実態が生じた場合は、第30条の適用範囲も見直しの対象になるのは当然のことと考えられる。
また、このことは、著作権保護の基本条約であるベルヌ条約において、著作者は著作物の複製を許諾する排他的権利(複製権)を享有するとした上で、スリー・ステップ・テスト(特別な場合、著作物の通常の利用を妨げない場合、かつ著作者の正当な利益を不当に害しない場合)の条件を満たした場合に限り、権利制限を認めていることとも合致する。
この利用形態については、具体的には、海賊版からの録音録画、複製物の提供を目的とした違法なダウンロード配信サービスを利用した録音録画、ファイル交換ソフトを利用したダウンロード等が想定される(注4)が、前述の利用実態を踏まえれば、
などから、第30条の適用を除外することが適当であるとする意見が大勢であった。なお、この点について、仮に補償金制度で対応するとすれば、莫大な補償金が必要となることも理由の一つではないか、とする意見があった。
これに対して、違法対策としては、海賊版の作成や著作物等の送信可能化又は自動公衆送信の違法性を追求すれば十分であり、適法・違法の区別も難しい多様な情報が流通しているインターネットの状況を考えれば、ダウンロードまで違法とするのは行き過ぎであり、インターネット利用を萎縮させる懸念もあるなど、利用者保護の観点から反対だという意見があった。
違法サイトであることを知らないで利用した者についてまで権利侵害にするのは行き過ぎではないか、あるいは権利侵害といっても個々の利用行為ごとに見れば権利者に与えている被害は軽微なものではないかなどの指摘があり、利用者保護の観点から、次の点について法律上の手当が必要であるとされた。
なお、これに対して、権利者が利用者に対し本当に権利行使できるかという疑念が残るが、今の状況を放置しておくわけにはいかないので、例えば「著作物の通常の利用を妨げるものであってはならず、かつ著作者の正当な利益を不当に害するものであってはならない」との但書を加え、個別の事案に即して違法性を判断するのも一案ではないかという意見があった(注8)。
この利用形態については、関係団体の調査等から、大量の私的録音が行われていることは認められるが、私的領域で行われる録音行為について利用者との契約により管理をすることは事実上不可能であり、仮に第30条の適用範囲から除外しても違法状態が放置されるだけであることから、第30条の適用範囲から除外することについては慎重な意見が大勢であった。
第30条が制定された理由の一つとして、閉鎖的な範囲で行われる行為であり、権利者の権利行使が事実上できないことがあげられているが、録音録画の場合、最近においては著作権保護技術と契約の組み合わせ等により、利用者のプライバシーを損なうことなく、権利者の利益を確保できるようになってきた。もっとも、関係権利者が利用者と直接契約することは難しい現状では、全ての利用形態についてこのような契約が可能になってきたわけではないが、現状においても利用形態によっては、権利者が著作物等の提供者(例えば配信事業者)と契約をし、この契約内容に基づき、当該提供者と利用者が契約を結ぶことにより、利用者の録音録画を管理することが可能である。
このようなことから、著作物等の提供者が利用者の録音録画行為も想定し、著作権保護技術と契約の組み合わせ等により一定の管理下においてこれを許容しているような実態であれば、著作物等の提供者との契約により録音録画の対価を確保することは可能であり、このような利用形態について仮に第30条の適用範囲から除外したとしても、利用秩序に混乱は生じないと考えられる。
こうした観点から、将来において、著作権保護技術の普及やビジネスモデルの展開により、権利者が契約によって録音録画の対価を徴収できるような状況が拡大した場合には、改めて第30条の適用範囲の見直しをすることが必要である。
なお、文化審議会著作権分科会報告書(平成18年1月)では、第30条以下の権利制限規定が定めている自由利用の態様や範囲を契約により「オーバーライド」する(ひっくり返す)ことが可能かどうか等について、
等の見解をまとめ、権利制限規定を維持しつつ、契約によって対象行為の対価を徴収することは、原則として認められるとした。
また、同報告書では、オーバーライド契約に基づく私的録音録画の対価と補償金の二重取りの懸念が指摘されているところであり、第30条の適用範囲を上記のように見直すことは、このような懸念を解消する意味もあることに留意すべきである。
前述した利用実態から、配信事業者の一定の管理の下で私的録音録画が許容されており、また、それに伴う対価には私的録音録画の対価も含まれうるとすれば、契約による解決に委ねる趣旨から第30条から除外するのが適当であるという意見が大勢であった。
現状では、利用者と権利者が録音録画について直接契約することは、取引コスト等の関係でまだ事実上困難であり、現状では権利者は配信事業者との契約により、録音録画に対する対価を確保する必要があることになるが、配信事業者が利用者の録音録画行為について一定の管理責任を負っているような事業形態に限定して第30条の適用を除外すべきである。利用者の録音録画について配信事業者に一定の管理責任がないような形態まで第30条の適用を除外した場合、利用者が直接権利者と契約できない現状では、違法状態が放置されるだけになり問題がある。
具体的な配信事業については、様々な類型が考えられるが、適法な事業であることを前提とし、営利性の有無、有償・無償の別、配信事業者と利用者との配信契約の有無等を参酌しつつ、要件を決める必要がある。
これらの利用形態については、前述のとおり、私的録音録画の対価が徴収されている実態は確認できなかった。
また、今後、契約により私的録音録画の対価を徴収する可能性については、
から、このような状況の中で、これらの利用形態について第30条の適用範囲から除外するとしても、結果として違法状態が放置される状況を生み出すだけであることから、第30条の適用範囲から除外することについては慎重な意見が多かった。
なお、現状において私的録音録画の対価が徴収されていることは確認できなかったが、アについては貸与権創設の趣旨(注9)、イについては著作権保護技術の状況(注10)などから、著作権者等とレンタル事業者、有料放送事業者との間の契約においては録音録画の対価についての記載はなく、関係者は録音録画の対価を徴収しているとの認識をしていないかもしれないが、事実上録音録画の対価を含んだ貸与料または視聴料を徴収しているのではないかという意見があった。