資料3

間接侵害等に関する中間まとめ

平成19年9月21日
司法救済ワーキングチーム

1 問題の所在

 著作権法においては、同法上の権利を「侵害する者又は侵害するおそれがある者」に対し、同法第112条第1項に基づき、差止請求を行うことが認められている。しかし、著作物等につき自ら(物理的に)利用行為をなす者以外の者に対して差止請求を行うことができるかどうかについては、現行著作権法上、必ずしも明確ではないと考えられる。
 従来の裁判例においては、著作物等につき自ら(物理的に)利用行為をなすとは言い難い者を一定の場合に利用行為の主体であると評価して差止請求を肯定したもの(クラブ・キャッツアイ事件(注1)等)や、一定の幇助者について侵害主体に準じるものと評価して差止請求を肯定した下級審裁判例(ヒットワン事件(注2))や、著作権法112条1項の類推適用に基づき差止請求を肯定した裁判例(選撮見録事件(注3))も見られる。
 しかし、これをめぐっては様々な議論が展開されているほか、従来の裁判例においても、自ら(物理的に)利用行為をなす者以外の者に対して差止請求を肯定できるかどうか、肯定できるとすればその相手方となる主体はどのような者か、そしてその差止請求の根拠は何か、ということについて一致した認識があるとは必ずしもいえない。
 特許法においては、第101条において、1特許発明の実施にのみ用いられる物の生産・譲渡等する行為(1号・4号)および,2発明の実施に用いられる物でその発明の課題の解決に不可欠なものを情を知りつつ生産・譲渡等する行為(2号・5号)を侵害行為とみなすこととされ、これらの行為が、第100条に基づく差止請求の対象となることが明示されている。
 そこで、著作権法上、物理的な利用行為の主体以外の者に対しても差止請求を肯定することができるかどうか、また、その立法的対応の必要性等について、検討課題とされてきた(注4)。
 この点、これまでの法制問題小委員会において、従来の裁判例からのアプローチ、外国法からのアプローチ、民法からのアプローチ、特許法等からのアプローチのそれぞれにより、基礎的な研究及び検討を行った上で、平成19年1月の著作権分科会報告書において、以下のような検討結果をまとめた。

 特許法第101条第1号・第3号(注5)に対応するような間接侵害を何らかの形で著作権法上も認めるという基本的方向性については特に異論はなかったが、それを超えるような間接侵害の考え方については、前述のような比較法研究を含めた徹底的な総合的研究を踏まえた上で、今後も更に検討を継続すべき

 また、損害賠償・不当利得については、デジタル・ネットワーク化の進展により、侵害行為の発見や損害額の立証が極めて困難になっており、そのために権利者が損害賠償請求を事実上断念する場合もあるとの指摘がある。このような状況も踏まえ、権利者による損害額の立証負担を軽減するための法定損害賠償制度等を含めて、損害賠償請求や不当利得返還請求の役割・機能等に関して、総合的に検討することとされている。

2 検討結果

(1) 現行規定の適用による対応の状況

 1.で述べたクラブ・キャッツアイ事件以降、著作物等につき自ら(物理的に)利用行為をなす者以外の者に対して、いわゆる「カラオケ法理」の採用により差止請求を認める内容の裁判例の蓄積が見られたが、その判断基準は必ずしも一致しているとは言えないと考えられる。
 このような状況を踏まえ、カラオケ法理の過度の拡張適用は、差止請求可能な範囲を広すぎるものとし、予測可能性の欠如を招くことから、立法的対応が必要であると考えられる。
 ただし、カラオケ法理における報償責任的な要素(利得性)を物権的請求権的な領域に持ち込むことは、民法理論に混乱を招きかねないことから、この法理をそのまま立法に反映させることは必ずしも適当ではないのではないかとの意見があった。
 また、諸外国においても差止の相手方を直接侵害者(自ら侵害を行う者)に限定しているわけではないが、カラオケ法理の適用のない行為であっても、差止請求を認めるのが適当と考えられる場合があることから、適切な範囲で直接侵害者(自ら侵害を行う者)以外の者に対しても差止請求を認めるよう立法的対応が必要であると考えられる。

(2) 立法の方向性の検討

1 立法の方向性について

 立法の方向性については、以下のような選択肢について検討を行った。

 これらのうち、侵害とみなす行為について、第113条に行為類型を追加するイやウのような考え方については、同条は、著作権の支分権の及ばない範囲まで権利の効力を実質的に拡張する規定であるため、具体的に列記することによって反対解釈を招くおそれがあるとの意見があった。また、一般的に規定することについては、著作物の利用形態が多様であることから、外縁が不明確となりかねないなどの問題が考えられる。
 また、特許法との関係については、101条において、権利侵害を惹起する物に着目し、当該物の提供行為を侵害とみなす旨の規定となっているが、著作権法においては、特許法と異なり、その権利侵害の態様が、物の提供によるもののみならず、多岐に渡っていることから、特許法と同様の制度設計を採ることは、必ずしも適切ではないとの意見があった。
 また、これらの検討に加え、前述の通り、自ら(物理的に)利用行為をなす者以外の者についても、112条に規定する侵害主体として同条の(直接)適用を認める形で従来の裁判例が多く蓄積されてきていることを踏まえれば、法的継続性の見地からも、アに示すように、112条において差止請求の対象を明確化することが妥当であり現実的であると考えられる。
 立法に向けた検討のポイントとしては、112条の「侵害」者の範囲が、自ら(利用)行為を行う者のみに限定されないことを明確化するとともに、一定範囲の者に限られる旨を明確化することが重要であるとされた。

2 差止請求対象として想定される範囲について

 本立法の方向性の検討にあたっては、従来の裁判例の状況を踏まえ、例えば以下のような事例が差止請求の対象となることを念頭におきつつ、条文上具体化を図ることが適当であると考えられる。

 上記の他にも、権利侵害目的以外の用途も有する物の提供についても、一定の要件の下で、その物の提供を通じて侵害を行っていると言える場合は、差止請求の対象となるべき可能性はあると考えられる。
 ただし、コピー機のような一般品の提供や、電力供給や一般の住居等の賃貸のような一般サービス等の提供を行う者については、これらを理由に差止請求の相手方とするのは不適切であると考えられる。
 なお、本小委員会で別途検討された海賊版の広告行為に関し、その場を提供している者についても、その実態によっては、一定の要件の下で侵害主体性が認められる可能性があると考える。

3 差止請求の対象とすべき「間接侵害」の判断基準について

 立法の方向性の検討にあたり、いかなる行為をもって「侵害」と評価するか、その構成要件及びその判断基準について検討が必要となる。その点については、以下のような意見があった。

 これらの意見については、

といった指摘があるなど、一定の結論を導くには至らず、今後引き続き検討することとされた。

(3) 間接侵害に係る一例としての立法案の検討

 前述のaの方向性の検討例として、従来の裁判例のうち自ら(物理的に)(利用)行為を行う者以外の者について侵害主体性を認めたものにおいては、当該者が「他者に行為をさせることにより侵害する」旨を判示したものが相当数あることから、このような「他者に行為をさせることにより侵害すると認められるような場合」について、112条の差止請求の対象とすることとする案について、検討された。
 そして、その一例として、以下のような案が示された。

(4) 損害賠償・不当利得等について

 権利侵害に係る損害の回数ないし損害額の立証困難性に対応するための措置については、外国法の状況も参考にしつつ、損害の推定規定の新設の可能性並びに不当利得及び準事務管理構成での対応の可能性について検討を行った。
 これらについては、民法における損害賠償・不当利得等の基本理論との関係や他の知的財産法における損害賠償制度の現状を踏まえれば、著作権法のみにおいて固有の制度を設けることの可否を含め理論的検討が未だ十分ではなく、引き続き慎重に検討を進めるべきとされた。

3 まとめ

 以上のとおり、著作権法に係るいわゆる「間接侵害」については、著作権法固有の性質や、判例の蓄積の状況に着目しつつ検討を行った結果、特許法における間接侵害に関する規定を参考としつつも、同法とは異なる法制によって差止請求の対象の明確化を図ることが適当と考えられる。
 具体的には、112条の「侵害」に該当する行為は、著作権等を自ら侵害する行為に限定されるものではなく、一定の要件を満たす他者の行為もこれに該当しうることを、法律上明確化すべきと考えられる。
 ただし、当該他者の範囲について、無限定に認められるべきではないとの考え方から、いかなる要件を満たす者をその対象とすべきかについて、裁判例の状況や民法における物権的請求権等の基本理論との整合性にも配慮し、慎重に検討を進める必要がある。今回、一案として前記2(3)の案について検討を行ったが、今後、同案の妥当性も含め、引き続き検討をする必要がある。
 また、損害賠償・不当利得については、民法や他の知的財産法における損害賠償制度等における検討状況にも十分留意しつつ、これらの制度との整合性に配慮し、引き続き慎重に検討を進めるべきものと考えられる。