著作権分科会 法制問題小委員会(第8回)議事録・配付資料

1.日時

平成19年9月21日(金曜日)10時〜12時

2.場所

三田共用会議所 3階 大会議室

3.出席者

(委員)

青山,大渕,潮見,末吉,多賀谷,茶園,道垣内,土肥,中山,森田,の各委員
野村分科会長

(文化庁)

吉田長官官房審議官,山下著作権課長,亀岡国際課長ほか関係者

4.議事次第

  1. 開会
  2. 議事
    • (1)各ワーキングチームからの報告
    • (2)私的使用目的の複製の見直しについて
    • (3)その他
  3. 閉会

5.配付資料一覧

資料1
  検索エンジンの法制上の課題の検討に関する中間まとめ
資料2
  ライセンシーの保護等の在り方に関する論点まとめ
資料3
  間接侵害等に関する中間まとめ
資料4
  著作権法第30条の適用範囲の見直しについて

(参考資料)

参考資料1
  私的録音録画小委員会中間整理(案)抜粋(第12回私的録音録画小委員会 配付資料2より抜粋)
(※私的録音録画小委員会(第12回)議事録・配付資料へリンク)
参考資料2
  文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第6回)議事録
(※(第6回)議事録・配付資料へリンク)

6.議事内容

【中山主査】

 それではただいまから、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の第8回を開催いたします。本日はご多忙中、お集まり頂きまして、誠にありがとうございました。
 議事に入ります前に、本日の会議の公開につきましては、予定されている議事内容を参照いたしますと、特段非公開にするには及ばないと思われますので、既に傍聴者の方々にはご入場して頂いておりますが、このような処置でよろしゅうございましょうか。

(「異議なし」の声あり)

【中山主査】

 ありがとうございます。それでは、本日の議事は公開といたしまして、傍聴者の方々はそのまま傍聴をお願いいたします。
 それでは議事に入ります。まず事務局から配付資料の説明をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】

 それでは議事次第1枚紙の下半分に、配付資料一覧がございますので、そちらと見比べながらお願いいたします。本日は資料4点と参考資料2点をお配りしてございます。それぞれ検索エンジン関係、ライセンシーの保護関係、間接侵害関係、著作権法第30条の適用見直しについて、その4点でございます。過不足等がございましたら、ご連絡下さい。

【中山主査】

 よろしいでしょうか。本日検討して頂きたい事項は、(1)各ワーキングチームからの報告、(2)私的使用目的の複製の見直しについての2点でございます。まず各ワーキングチームからの報告につきましては、各ワーキングチーム座長より、10分程度でご報告を頂戴して、その報告を踏まえて自由討議を行います。それから、私的使用目的の複製の見直しにつきましては、平成19年1月に取りまとめられました文化審議会著作権分科会報告書において、私的録音・録画小委員会における検討の結論を踏まえて、私的複製の在り方について検討を行うことが適切であるとされました。今回の本小委員会では、私的録音・録画小委員会での検討状況につきまして、事務局より説明を頂戴し、その後、自由討議としたいと思います。
 それでは最初に各ワーキングチームからの報告ですが、最初はデジタル対応ワーキングチームでの検討につきまして、茶園座長から説明をお願いいたします。

【茶園委員】

 では、デジタル対応ワーキングチームより報告いたします。
 本ワーキングチームにおきましては、3点の問題を検討することになっております。まず第1点が検索エンジンの法制上の課題、第2点が機器利用時、通信過程における一時的固定、第3点が技術的保護手段の規定の見直し、この3点ですが、今期はまず第1点目の検索エンジンの法制上の課題について検討いたしましたので、ご報告いたします。
 検索エンジンにつきましては、中間まとめの3ページに図が書いてありますので、ご覧頂きたいのですが、一応、3つの工程に大きく分けることができます。1つ目が、ソフトウェアによる情報の収集・格納(クローリング)でして、検索エンジン(クローラー)と呼ばれるソフトウェアによって、ウェブサイト情報を収集しまして、そのデータを下にあるストレッジサーバーへ格納する、こういう工程でございます。2点目は、ストレッジサーバーに格納しましたデータを用いまして、検索用インデックス及び検索結果表示用データを作成・蓄積するという工程ございます。3番目が、検索結果の表示です。これは利用者の検索要求に応じまして、先ほどの2点目で作成・蓄積されました検索結果表示用データをウェブサイトの所在情報(URL等)とともに検索結果として利用者に送信するという工程でございます。
 この3つのそれぞれの工程において行われる行為が、著作権法上の複製あるいは公衆送信に当たるのではないかという指摘がございます。その一方で、インターネット上に存在する膨大な著作物が自動的に検索対象となるために、検索エンジンによるサービスを提供する者が、著作権者から逐一許諾を得ることは現実的に不可能であるということがございまして、この検索エンジンサービス提供者の法的地位の安定性が確保されていないという懸念が指摘されております。そこで本ワーキングチームにおきましては、著作権との調和に十分留意しつつ、検索エンジンサービス提供者の法的地位の安定性確保に資する法制度の在り方の検討を行いました。
 6ページをご覧ください。国際動向を見ますと、検索エンジンにおける著作物の利用行為について特別な規定を設けている国はないようでございます。ただ、裁判例におきましては、著作権侵害の成否が争われたことはございます。ただ、方向性は未だ流動的でございます。
 そして、これらを踏まえまして、対応策と論点整理を7ページ以下に掲げております。
 まず現行法下の解釈によって対応できるかです。著作権法32条1項の引用の規定、そして2番目に黙示の許諾、3番目に権利濫用の法理、この3点から対応の可能性を検討いたしました。時間がございませんので結論だけ申しますと、いずれも著作物の利用に対して、予め適用性を保障するものではないために、検索エンジンに期待される著作物の流通促進機能の安定性確保には至らないのではないかとなりました。
 そこで10ページ以下で、新たな立法措置による対応を検討いたしました。これも3つございまして、権利制限規定の創設、2番目に黙示の許諾の推定規定の創設、3番目にプロバイダー責任法に類似した特別立法の制定、この3点について検討いたしましたが、主たる検討対象が1番目の権利制限規定の創設でございまして、これについてご報告をいたします。
 まず権利制限規定の創設に関しましては、創設にあたって合理的根拠が十分に認められるのではないかと考えられます。例えば検索エンジンは、インターネット上に存在する著作物の所在情報を効率的に提供することを可能とし、いわば著作物の流通を促進する社会インフラの役割を果たしているのではないか。検索エンジンにおける利用行為は、著作物の提示や提供等を目的としているものではなくて、大抵の場合、著作権者による著作物の流通市場と抵触するものではないと思われます。この2点から、検索エンジンについて権利制限規定を設けることで、著作物の流通促進を図り、これによって文化発展に寄与することになるのではないかと考えられます。
 具体的に権利制限について個別的な論点を検討していくわけですが、まず権利制限の対象範囲です。これは11ページから13ページにございます。権利制限の対象範囲につきましては、検索エンジンの目的と行為の組み合わせで規定するのが適切ではないかということです。まず目的につきましては、著作物が存在するオリジナルなウェブサイトへの誘導を専ら目的とするものであることが必要ではないかと考えました。
 行為につきましては、先ほど申した検索エンジンの3つの工程に分けて検討いたしました。1点目のウェブサイト情報の収集・格納、2点目の検索用インデックス及び検索結果表示用データの作成・蓄積、この2つの工程において行われる行為につきましては、これらは検索エンジンサービスを提供する上で不可欠な技術的理由により行われるものでありまして、かつ、この時点では行為自体はシステム内でのみ行われるものでございまして、公衆の目に触れることはございません。そこで権利者への影響は限定的なものに止まり、権利制限の対象とする妥当性は認められるのではないかと考えられます。
 これらに対しまして、3つ目の検索結果の表示につきましては、この工程で行われる行為は公衆の目に触れるものでありまして、検索エンジンサービス提供者は、著作物の提示や提供自体を目的としているものではないですが、場合によっては、表示方法の対応によりまして、利用者に対して著作物の提示や提供と同等のものとして作用し、結果として権利者の利益に悪影響を及ぼす可能性を含んでおります。そこで、どのように対応すべきかなのですが、まず、権利制限は限定的に規定するべきではないかと考えられます。しかしながら、そういたしますと、検索エンジンサービスの多様性を法律によって限定してしまうという懸念も生じますから、限定的に規定するか、あるいは広めに包括的に規定するかにつきまして慎重な検討が必要であるという意見がございました。
 続きまして、権利者保護への対応、これは13ページから15ページなのですが、この点が、その他の通常の権利制限とは違う特徴的な点なのですが、権利制限にあたって、権利者の私権との調和という観点から、権利者保護の対応が特別に必要ではないかということでございまして、権利制限の対象範囲に含まれる利用行為でありましても、著作権者が事前あるいは事後に検索対象として利用されることを拒否する旨の意思表示をしている場合には、このような意思に基づく何らかの措置を講ずべきではないかということで、その対応を検討いたしました。
 まず事前の意思表示ですが、検索エンジンサービス提供者は、ウェブサイトに標準プロトコルが設定されていれば、クローラーが当該ウェブサイトの情報を収集しないという技術的回避手段を用意しているのが通常でございまして、権利者は自分の著作物が検索対象として利用されると自分の利益に悪影響を及ぼされると考える場合は、この技術的回避手段を行使することで容易にこれを回避することができます。そういう現状にあります。また検索エンジンサービス提供者も、技術的回避手段を自分のシステム内に準備しておきましたら、それ以上の何らの負担もなしに技術的回避手段が施されました著作物を検索対象に含めないことができます。そこで権利者が技術的回避手段を行使して、事前に検索対象として利用されることを拒否する旨の意思表示をした場合は、当該著作物は権利制限の対象外とすることが考えられます。
 続きまして事後の意思表示ですが、一旦、検索エンジンによって利用された著作物につきましても、権利者が事後的に検索対象として欲しくないと思いましたら、その時点で先ほど申しました技術的回避手段を行使すれば良いわけですが、ただ、技術的回避手段はクローラーが判別するまでの間に一定のタイムラグが発生せざるを得ません。この間に緊急的に例えば利用停止あるいは削除を権利者が要求することができるかなのですが、仮にこれが要求でき、何らかの措置を講ずべきだと考えたとしても、単に権利者が検索回避の意思表示をしただけで権利制限の効力が制限されることになりますと、そもそも権利制限を設けること自体の正当性、あるいは権利制限の安定性が問われることになりかねませんので、もし仮にこういうものを認めるとしても、正当な理由がある場合に限って、検索エンジンサービス提供者が何らかの対応をする必要があると考えるべきではないかという意見がございました。
 続きまして15ページで、違法複製物への対応です。検索対象となった著作物が違法複製物であった場合、この場合は著作権侵害の拡大を防止する観点からは、本来は権利制限の対象外とすることが望ましいと考えられるわけですが、検索エンジンが検索対象とする著作物が違法複製物であるかどうかを判別することが技術的に不可能です。そこで検索エンジンによる著作物の流通促進機能を確保するために、違法複製物の利用につきましても権利制限の対象としなければならないだろうと。ただ、その一方で、検索エンジンサービス提供者が著作権が侵害されることを知った場合、または他者の著作権を侵害するものであることが知ることができると認めるに足りる相当な理由があった場合には、検索エンジンサービス提供者が事後的に違法複製物の利用停止または削除の措置を講ずるように義務づけることが必要ではないかと。こういう議論がございました。
 同じ15ページで、著作者人格権の問題について検討しているのですが、今まで申していたのは、検索エンジンにおける著作物の利用が著作権の侵害を発生するかという点だったのですが、著作者人格権の関係でも問題を生じ得ます。ただ、公表権、氏名表示権につきましては、これらの侵害が発生する場合は、これまで検討いたしました著作権の侵害の場合と比較すると実際上少ないのではないかという意見がございまして、公表権あるいは氏名表示権の制限を設ける必要性につきましては検討を要すると考えられます。同一性保持権の関係では、詳しくは省略しますが、現行法の解釈論によって侵害が成立しないと考えることができるのではないかと思われます。
 以上の検討から結論ですが、現段階の本ワーキングチームの結論といたしましては、現行の著作権法下では、どのような解釈論に立つにしても、検索エンジンサービスの一連の行為に関する法的リスクを必ずしも払拭することはできない。そこで著作者の権利との調和と安定的な制度運用に慎重に配慮しつつ、権利制限を講ずる適切であるという結論に至りました。今後は先ほど申したような権利制限の対象範囲の在り方とか、あるいは権利者保護の在り方、こういう残された論点について引き続き議論を進めていきたいと考えております。以上、本ワーキングチームの報告を終わります。

【中山主査】

 ありがとうございました。それではただいまのご説明も踏まえまして、自由に意見交換をしたいと思います。おそらく21世紀においては、情報の洪水の中で検索エンジンは極めて重要な問題であると思いますし、知的財産戦略本部の計画からも宿題となっております。情報大航海プロジェクトの実証テストもまもなく始まるのではないかと思いますので、非常に重要な問題であると思います。色々ご意見を頂戴したいと思います。ご意見はございますか。はい、どうぞ、道垣内委員。

【道垣内委員】

 あまり技術的なこともわからずに質問いたしますが、公益性という言葉が何回か出てきたように思いますが、実際に確かにユーザーに支持されていて、不可欠なものであることは確かですが、公益的かと言われるとビジネスではないかと思うので、ちょっと書き過ぎかなと思います。たぶん、現在支持されている検索エンジンを運営しているところの多くは問題がないかもしれませんが、これを認めた場合に、色々な業者がもしかすると出てきて、いかがなものかと思われるような使い方や、それがどうなるものかは私は良くわからないのですが、そういうことも起きてくる恐れがないのかどうか。そのあたりを伺いたいと思います。

【茶園委員】

 公益性は、検索エンジンによって、膨大にインターネット上に存在する情報の中から、ユーザーが望む情報を得ることができ、それによって著作物の流通が促進されるという流通促進機能に着目して申したものですが、あるいは言い過ぎだったのかもしれません。
 2点目ですが、今現在、多くの人が利用する検索エンジンにつきましては、さほど問題はないのかもしれませんが、権利制限を新設するとすると、様々な業者が検索エンジンサービスに参入してくるかもしれず、現在のものとは違うものが出ていることがあるかもしれません。一つの対応策としては、そういうことがあまり起こらないように、権利制限にあたって行為を限定するだとか、あるいは主体たる検索エンジンについて限定をするとかが考えられるかと思います。

【中山主査】

 あまり私見を言っていいかどうかわかりませんが、確かに情報の洪水の中で情報を知ることができるようにすることは公益性はあるとは思います。しかし他方、道垣内委員がおっしゃったように、検索エンジンはビジネス面も強いことはその通りだと思います。しかし仮にもし日本の著作権法で検索エンジンビジネスがだめになると、どうなるか、それは全部、アメリカに行ってしまうだけの話なのですね。アメリカに持ってゆかれて権利者はそこで守られるかというと、結局、アメリカで全てのサイトの複製を行い、日本人は皆アメリカにアクセスするだけなので、制限規定を設けなくても、権利者の利益が守られるということはないのです。結局、日本の将来にとって大事である検索エンジンビジネスを潰すだけなのですね。そう考えると、これは産業政策といいますか、ビジネス上の問題も非常に大きいので、公益性と産業政策と両方の要素があるのではないかと思います。
 他に何かご意見がございましたら。
 では、1点だけよろしいですか。15ページなのですが、権利制限をして、その後、気分が変わったから、それを削除して欲しいということは全面的には認められないで、正当な理由がある場合だけだと書いてあります。なぜなら権利制限の正当性や安定性との関係があると言うのですが、これは検索エンジンに載ってしまったら、後で気分が変わって嫌になったといって取り下げる、消してもらうということは、権利制限の正当性という大上段な問題なのでしょうか。あるいは消した場合に何か安定性に問題があるのでしょうか。載せて欲しくないという人の情報は消すということで安定性とそれほど関係がありますか。

【茶園委員】

 ここは事後と事前という区別がわかりにくいのですが、事前のところで申しましたように、権利者が検索エンジンによって利用されたくないということであれば、今の検索エンジンにおきましては、標準プロトコルが設定されているのが通常ですので、それを使えばいいということでございます。
 事後のところで問題にしていますのは、今、検索エンジンによって利用されていまして、その後で検索対象にされたくないと思った場合、そこで標準プロトコルを使えばいいのですが、ただ、それをクローラーが認識しなければいけませんので、クローラーが認識した後につきましては検索対象から除かれるのですが、それまでの間、クローラーによって認識されるまでの間をどう考えるかということです。当然、そこで何らかの意思表示を認めるとしますと、検索エンジンサービス提供者に対して、メールとか、あるいは郵便等で意思表示がされ、それに対してサービス提供者が対応しなければいけないことになります。なかなか意思を確認することがサービス提供者としては困難でございまして、またいちいち、権利者からメール等で来たものに対して対応するにはコストもかかる。そういう点から、これもちょっと言い過ぎなのかもしれませんが、そういう安定性が損なわれるのではないかと。こういう問題を指摘しております。

【中山主査】

 すると、正当性というよりも、むしろ検索エンジンのビジネス上、非常に難しいという話になりますか。

【茶園委員】

 はい。それと、検索エンジンの著作物の流通促進機能等に着目しまして、権利制限を設けるべきだという結論に至ったのですが、権利者が拒否すれば直ちに検索対象から除かれることになると、そもそも権利制限を定める意味はどこにあるのかが疑問となり、理論的にもあまり整合的なことにはならないのではないかと考えております。

【中山主査】

 おそらく、ほとんどの人は載せてもらって喜ぶわけですが、中には嫌だという人がいるかもしれない。しかし、載せないようにするプログラムを知らないで載ってしまったけれども、後から嫌だ、削除してくれということを請求することが、それほど権利制限の正当性を害することなのかどうかが、ちょっと疑問なのですが。そんなに大それた問題とする必要があるのかなと。はっきり言ってしまえば、そういう疑問なのですが。

【茶園委員】

 先ほど、ここら辺の点が他の権利制限と違うと申し上げましたが、他の権利制限におきましては、権利者の意思にかかわらず利用を自由にするということで、場合によっては権利者がやめてくれと、利用を拒否するという意思表示をしたとしても、利用を認めるということでございます。これに対して、ここでは、権利者が利用を拒否するという意思表示をしたら、直ちに利用者はそれを止めなければいけないとなると、正当性という言葉を使っていますが、他のものとはかなり異質なことになると考えております。

【中山主査】

 恐らく異質なものになるのでしょうね。これぐらい権利制限しても。
 他にご意見がございましたら。

【多賀谷委員】

 今のお話を聞いていると、ここら辺の権利制限の話は、個人情報保護法などの話とかなり似ているような話で、個人情報保護法の場合に、個人情報の第三者利用について、オプトアウトという規定があります。例えば地図販売事業者やなんかは個人情報を本人の同意なしに利用することができる。ただし、利用していることは知らせておいて、利用されている個人が嫌だと言った場合には、すぐそれを止めなければいけないという仕組みというオプトアウトの規定というものを個人情報保護法に入れているのですが、ある意味では、それに近いような感じがします。
 通販業者の場合でも、自分のところには、通信販売のカタログを送って欲しくないというメール・プレファレンスサービスというものがあるのですが、そういう仕組みと基本的には同じような構造ではないかという気がいたしますので、参考にして頂ければと思います。

【中山主査】

 他に何かご意見がございましたら。

【潮見委員】

 1点だけ、ちょっと教えて頂きたいのですが、14ページから15ページにかけての事前の意思表示と事後の意思表示の関係というか、事後の意思表示の場合、後でやめてくれと言った場合には、ここにお書きになっているところによれば、正当な理由が要るのですよね。事前の場合には、これは正当な理由は要らないという形で報告書をおまとめになっておられると理解してよいのかと。そうであれば、なぜ事前の場合には正当な理由も何もなく、私は嫌だと言うことができて、事後の場合にはやめてくれというのに正当な理由が必要なのか。もう一つ言えば、その正当な理由とは一体何なのか。それから、先ほどオプトアウトの話が出ましたが、これは厳密な意味でのオプトアウトではありませんよね。

【茶園委員】

 今の案では違います。

【潮見委員】

 そうですよね。前の2点ほど、教えて頂ければと思います。

【茶園委員】

 後の事後のところで書いている正当な理由というのは、そもそもそれに何を込めるかが、まだ十分詰まっておりませんで、1つの例だけを挙げております。
 事前につきましては、事前の意思表示としては、標準プロトコルの設定に限っているのですが、事前にそもそも検索対象として欲しくないと考えるのは、どういう場合かというと、通常は検索対象として利用されることによって、自らの利益に悪影響を及ぼされると考える場合だろうと思われます。それ以外でもあるのかもしれませんが、それ以外の場合は極めて少ないだろうと思われます。ですから、何らかの理由において限定をすべきであることを考えるとしても、恐らく限定をする必要はないのではないかと思います。
 事前の意思表示につきましては、標準プロトコルの設定をすれば、言うならばコストなしに検索エンジンサービス提供者は検索対象から除外することが可能になります。事後の意思表示は、一旦、検索エンジンにおいて利用された後の話でして、ここでも標準プロトコルを設定してもらえれば、それをクローラーが認識すれば、そこから後は検索対象として利用されなくなります。ですから、事後の意思表示のところで問題にしているのは、一旦利用されていて、標準プロトコルの設定以外の方法での意思表示に基づいて、検索エンジンサービス提供者が何らかの対応をすべきかということになります。先ほど言いましたが、実際上の問題として、この対応をするのはなかなかコストがかかるものだろうということがあるのですが、そうであっても、権利者がやめてくれという意思表示をすれば、常に認めるべきであるという考え方もあり得ると思います。ここで報告した案では、ある程度の場合に限定すべきではないかと考えておりまして、それを正当な理由がある場合と表現しているわけです。この報告書では、正当な理由の一例として、権利者自ら、自分の著作物が他人の権利を害するものである場合を挙げています。そういう場合には検索エンジンサービス提供者は緊急的に対応すべきではないかと考えておりまして、仮にそれが認められたとしても、それ以外でも検索エンジンサービス提供者が対応すべき場合があるかどうかにつきましては、まだ十分に検討を行っておりません。

【潮見委員】

 また、これから先検討して頂ければと思いますが、どうもここに書かれていることと、今、茶園さんが口頭でご説明になったことが若干矛盾しているのではないかというか、説明になっていないのではないかという気はしないではないです。つまり技術上の問題と制度設計をどうするかという話と、それから今ご説明頂いたところでは、コストの問題が出てきましたが、そういうことはこの中には何も入っていないのですよね。そのかわり、ここに書いてあるのは、権利者の自らの権利についての処分とか、あるいは処分の自由をどういうふうに、あるいは意思を尊重するかということで書かれている部分があって、どうもそのあたりは少しずれているというか、書いていることとおっしゃられたことが少しずれているのではないかという感じがしたのですが、また引き続いて検討して頂ければということで、希望ということでとどめさせて頂きたいと思います。

【中山主査】

 確かに検索エンジンのビジネス上、多数の削除要求が出てきたら処理できないという面があるのかもしれませんが、逆に正当な理由が必要ということになると、正当性は誰がどこで判断するのかという問題も出てきませんか。

【茶園委員】

 そうですね。事後の意思表示についての対応は、100パーセント認めるという考え方もあるでしょうし、全く認めないという考え方もあり得ます。一旦始めてしまった後は、クローラーで判別するまで、それは我慢しなさいという立場もあります。この報告書では中間的なことを言っているわけですが、その中間的なところを採るにしても、対応すべき場面を限定的に考えて、その場面を明確なものにしておけば、そう処理は困らないのではないかと思います。それは認めるべき事由をどういうふうに考えるかということによるかとは思います。

【中山主査】

 他にご意見等がございましたら。

【森田委員】

 今の議論に少し関係しますが、ここで問題にしている権利制限の根拠といいますか、その性格は、権利者の意思決定があれば、それを尊重する、つまり、権利者が嫌だと言えば外れるというのがまず基本にあるということなのか、それとも、先ほど公益という言葉が適当かどうかという問題がありましたが、インターネットの世界において、検索エンジンはある種のインフラとして公益性を持っていることが根拠なのか。仮に後者だとすると、個々の権利者が嫌だと言えば権利制限を外してしまうこと自体は、インフラが持っている公益的性格を弱めることになると思います。そうしますと、基本的な発想は、先ほどからのお答えでは、ビジネス上期待可能性があるかという観点からのお答えでしたので、各権利者が意思表示をすれば、権利制限の対象から外すことは自由にできるが、それを自由に認めることによって、ビジネス上の障害が発生する場合には何らかの制約を加える必要がある、そのような方向で考えていくことではないかと思います。権利者の意思表示によって、まず左右できることが出発点であるということで権利制限を考えておいでなのか、その点について、最初のほうの説明と若干齟齬を来しているような感じもしてきたものですから、御質問したいと思います。

【茶園委員】

 報告書の表現が適当ではなかったかもしれませんが、私自身は、森田委員がおっしゃった2つの前者の側面もあるのだけれども、基本的には後者の側面を考えております。まず公益性なりで権利制限が認められると。次に、意思の尊重といいますのは、意思それ自体を尊重すべきであるということはなくて、一定の事情がある場合に認めるべきで、事前の場合には、その一定の事情が認められるべき事情の場合がほとんどだろうから、事前の意思は、限定なしに認めてよろしいのではないか、これに対して、事後の意思につきましては、無限定では適切ではないので、一定の制限をかけるべきではないかということでございます。考え方によりましては、これは現行法での対応の黙示の許諾論ということにもなるのですが、検索エンジンに関して権利制限を設けるとしても、それはネットに載せた限りは、検索対象として利用されることが基本的に許諾されているのだとの考え方もありえます。そして、特段に許諾しないという意思があれば、そこから除かれるとか、あるいは許諾の推定規定という位置付けで定めることも考えられるかと思います。この報告書では、そこら辺が明確化されていないかもしれませんが、前者の意思の推定ということも十分考えられて、それもありうるのだけれども、基本的には後者の公益性の観点から権利制限を定めるべきだと考えております。

【中山主査】

 他に。どうぞ、潮見委員。

【潮見委員】

 希望ということで言わないということでしたが、また言うのは、ちょっと失礼かもしれませんが、今、森田さんの御質問に対して、前者か後者かというので、後者だと最初におっしゃいましたよね。そうであれば、なぜ、前者のアプローチ、権利者の意思にこだわられるのですか。そこが私はちょっとわからなかったので。むしろ後者であれば、とことんそういう権利者の意思とか、あるいは黙示の許諾とか、そういう構成を排する形で仕組みをつくることもあり得るのではないかと。別に、これは取れと言うわけでは決してありませんが。

【茶園委員】

 この書き方が適当ではなかったのかもしれませんが、黙示の許諾という構成は採っていません。意思については、意思があれば、それだけに着目して検索対象から除かれるのではなくて、意思が表示されていることは、権利者の利益が害される場合がほとんどだろうと考えまして、その場合には、権利者の利益との関係から除くということがよろしいのではないかとしています。ですから、利益侵害を表すものとして、権利者による意思を考えております。

【中山主査】

 どうぞ、道垣内委員。

【道垣内委員】

 現在、インターネット上にはたくさん侵害物が掲載されていると思うのですが、著作者の立場からは、そのような侵害物をネットから駆逐する一番強力なツールは、多分、この検索エンジンで検索できない状態にすることではないかと思います。現在、そのような措置をとって欲しいという問い合わせがあった場合、検索エンジン運営者はすべて削除しているのでしょうか。仮に現時点ではそのような措置をとるという対応はしていないとすると、今後、そのような措置を著作権者は要求できるようになるとすることであれば、大きな変化をもたらすことになると思います。そして、それは検索エンジン運営者には大変な負担を負わせることになるのではないかと思います。検索エンジンをきちんと定義して、そういう道具を用いてインターネット上の検索の対象とされることについては、それが著作権侵害物であるか否かは問わず、止めることができないことにすることの方がすっきりすると思います。

【高やなぎ国際著作権専門官】

 実際に現時点で削除の請求があった場合の対応でございますが、ワーキングのほうで実際にプロバイダーの方からお話があったところによりますと、現時点では、やはり色々なケースがあるということで、その事情を踏まえた上で削除するケースもあれば、なかなか事情によっては必ずしも削除するにはふさわしくない場合は、していない場合もあるという形でお話を頂いているところでございます。

【茶園委員】

 道垣内委員の御質問につきましては、この報告書におきましては、違法複製物があれば、侵害されている者がサービス提供者に対して、それを通知し、サービス提供者は、一定の場合、ここでは他人の著作物が侵害されていることを知っている場合、あるいは知ることができると認めるに相当な理由があった場合に限っていますが、その場合には削除しなければならないということになるかと思います。
 それで、先ほどのことの関係なのですが、黙示の許諾論で説明できるかという点については、その考え方もあると思うのですが、今のところ、100パーセント標準プロトコルが周知徹底されているわけではないようであり、違法複製物の取扱いを考えますと、黙示の許諾論ということで貫徹することはちょっと難しいと思っておりまして、私の説明なり、あるいはこの報告書の表現によって誤解が生じていたとしたら、誠に申し訳なかったのですが、基本的にはこの報告書は黙示の許諾論で貫徹しているわけではありません。

【中山主査】

 他にございませんか。恐らく検索エンジンは何とか日本でも発展させなければいけないという点については、大きな異論はないかと思いますが、あとは細かい点について、また議論を詰めて頂ければと思います。本日のところはよろしいでしょうか。
 それでは、検索エンジンにつきまして、デジタル対応ワーキングチームにつきましては、このぐらいにいたしまして、引き続きまして、契約・利用ワーキングチームの検討につきまして、土肥座長より、ご報告をお願いいたします。

【土肥委員】

 それでは、契約・利用ワーキングチームから、資料2に基づきまして、ライセンシーの保護等の在り方に関するご報告を申し上げます。
 まず1ページ、2ページに検討の背景・経緯が述べてございます。ご案内のように、破産法におきましては、双方未履行の双務契約につきましては、破産管財人の解除権が認められておりまして、ライセンサーが破産したような場合、管財人は当該契約を解除できるとなっておるわけですが、ライセンシーが当該権利について、登記・登録などで、第三者に対抗できる要件を備えているような場合には、そうではないと、こうなっておるわけでございます。ところが、著作権法におきましては、ライセンシーが第三者に対抗するための制度がない。従って、著作権者等が破産した場合に、ライセンシーが引き続き、当該著作物等を利用することについて管財人に対抗できない。そういう意味でライセンシーの地位が不安定になっていることが指摘されているところであります。また、この状況は、著作権が第三者に譲渡された場合についても同様であるわけでございます。
 それで、文化審議会著作権分科会といたしましては、平成14年から、この点についての検討を行っておるところでございまして、後ろのほうに13ページ、14ページに別紙が付いておりまして、そこに審議経過報告あるいは分科会の報告書がございますが、ここにありますように、ライセンシーの保護は対抗要件の制度として、登録による公示の制度を基本とすべきこと、それから、他の知的財産権との整合性がある制度にすべきことなどの取りまとめが行われていたところでございます。ところが、そうこうしております間に、一方、特許等の分野で、従来からの通常実施権の登録制度に加えて、包括的なライセンス契約につきまして一個々の特許権を特定しないライセンス契約につきましては、通常実施権登録制度を活用することはできませんから、平成19年に産活法(産業活力再生特別措置法)の改正によりまして、特定通常実施権登録制度が創設されたところでございます。この特定通常実施権許諾契約によって通常実施権が許諾された場合、当該許諾に係る通常実施権について、その登録があった場合、これは特許法99条1項による登録がなされたものとみなされる、こういう制度が新たにできたわけでございます。このような従来からの議論、それから最近の変化を受けて、具体的な制度設計を検討することがワーキングチームに求められていたわけでございます。
 それからもう一点、2ページのところにあります利用権の創設のところもあるわけでございますが、これは平成17年1月24日の今後の検討課題、13ページの下のところからございますように、著作物の「利用権」に係る制度の整備の検討が求められていたところでございます。こういう状況に基づいて私どもとしましては検討を進めたと、こういうことでございます。
 まず3ページでございますが、関係者のヒアリングを行っております。そこで簡単に申しますと、3ページにあるわけでございますが、1エレクトロニクス、IT産業、ソフトウェア産業でのヒアリングとして、コンピュータープログラムの業界では、ライセンシーを保護する制度が必要であるとするという意見が比較的多かったということでございます。ところが、それ以外では、書籍出版産業もそうでございますし、映像でもそうでございますが、そういう対抗要件の具備を求めるような意見はなかったということでございます。更に音楽パッケージの分野も同様ですし、コンテンツについてもそういうことが言えるわけでございます。
 利用権につきましては、これは書籍出版産業では、文書・図画としての出版以外の領域についても、電子出版等についても、その独占的排他的な利用権が創設されることは望ましいと、こういう意見があったわけでございますが、それ以外についてはない。あと、コンテンツ配信産業に関しては、配信利用権のような新しい隣接権のような権利を検討して欲しいという意見があったという状況でございます。
 こういうヒアリングを受けて議論をしたわけでございます。これが6ページ以下、検討結果としてお示ししているところでございます。
 まず検討の方向性でございますが、これはア、イ、ウ、と3つあるわけでございますが、検討いたしましたのは、アの観点を中心に検討しました。つまり、著作物を利用できる地位の保護として、どういう形が著作権法上、望ましいか。これは先ほどの関係業界ヒアリングとの関係でも、コンピュータープログラム業界で、そういう意見もございますし、そういう方向性での議論をまずやったということでございます。それから、先ほど来申し上げております産活法との関係、特定通常実施権登録制度の創設との関係も以下の検討においては十分考えなければならないのではないかということも合わせて折り込んで検討いたしました。
 概要でございますが、登録の概要といたしましては、ライセンス契約で設定された許諾に係る著作物を利用する権利、これを国に備えられた新たな登録原簿に登録することができるようにする。これが望ましいということでございます。その場合に、許諾の対象になる著作権の特定方法が問題になるわけでございますが、これは利用者にとって優しいといいますか、好ましい簡便な手続になるような考慮をすることが必要であろうと考えております。
 それから、登録の対象になる権利でございますが、そこにございますように、ライセンス契約によって許諾された許諾に係る著作物を利用する権利とするということでございます。それから、包括的ライセンス契約において、登録後に発生する著作権も含めて許諾対象としているような場合については、これも含まれるものと考えてみたいということでございます。そういう意味で、登録原簿の調製については、物的な考え方で行くということではなくて、ライセンサーごとの人的な調製が適当ではないかということでございます。
 それから、申請することができる者でございますが、これは原則、共同申請によることが適当であるということでございますが、議論があったのは、法人、個人いずれも申請できるようにすべきか、あるいは法人に限定すべきか、という考え方でございますが、もともと著作物は自然人たる個人が創設するケースが多くございますので、基本的には法人であろうと、個人であろうと、いずれでも申請できるようにすべきではないかと考えたわけでございますが、法人に限定するという考え方も否定したわけではございません。
 登録事項としては、Dのところにございまして、一応、ここでは期間を特定通常実施権登録制度の場合と同じように揃えたところでございます。
 それから、特定方法になるわけでございますが、8ページになりますが、対抗力を得るためには、登録時に権利の内容が特定されていることが必要になります。その特定に必要な事項を記載することをどうすべきかなのですが、題号とか、名称、コード、符号、そういったものを色々考えて、この特定方法という権利の登記対象が何であるかが特定できるようにする必要がある。ここについては、こうでなければならないということは、まだ出しておりませんが、権利の内容が十分特定できるようにする工夫が必要ではないかということがEでございます。
 それから、効果、これはもちろん対抗力があるということでございます。
 それから、Gの開示制度でございますが、これは産活法のほうでも議論がされておりましたが、事業戦略上、営業秘密に関わるような重要な事項等を非開示にして欲しいというニーズがあることは考えたほうがいいのではないかということでございます。当然、この制度が登録によって権利を公示する対抗要件制度でございますから、ライセンシーとの対抗関係に立つ第三者には、その内容を知り得る機会を設ける必要があるのではないかということでございます。
 それから、9ページの3行目でございますが、そこで、ライセンシー名と許諾に係る著作物を利用する権利を除いた部分の事項は、何人にも開示できることにし、登録事項の全部は、当事者とライセンシーと対抗関係に立つ第三者等の一定の利害関係人のみに開示するという考え方を基本とすべきではないかということでございます。一般開示事項として、従いまして、ライセンシー名と許諾に係る著作物を利用する権利の内容については開示をしないということでございます。
 それでHでございますが、登録の対象になる著作物の種類でございますが、ここは、そもそも著作権法においては、許諾により著作物を利用できる者の地位を保護する制度が現在、著作権法上においてございません。従って、特許法と産活法のように、いわゆる2階建ての制度にするか、それとも著作物の全てについて、こういう制度を設けるかという議論があったわけでございますが、ここはニーズとの関係、先ほど申し上げましたが、こういう制度の要望が強いものがコンピュータープログラム業界であることもありますし、産活法の特定通常実施権登録制度の創設によって、特許で保護対象になるようなものが著作権法でも、例えばコンピュータープログラムが被ってくるわけでございますので、そういう緊急性、必要性が高いという点からすると、まずコンピュータープログラムにだけ考えてみて、それから、その後、状況を見て拡大していく考え方があるわけでございます。しかし、筋からすると、いずれの種類の著作物にも登録可能とする考え方がベースになる必要があるのではないかと思われるところですが、制度設計をどういう段取りで進めていくかということからすれば、コンピュータープログラムに限定して考えていくこともあるかなということでございます。
 指定登録機関、これは場合によっては、文化庁長官が指定する者に行わせることも考えられるということでございます。
 それから、3のところでございますが、契約内容の承継等については、これは基本的には判例・学説の蓄積によって秩序形成を図ることでいいのではないかということでございます。
 それで、次の11ページのところにイメージが出ているわけでございますが、少し色々付け加えたりしてバタバタしておりますが、もう少し見やすくなるように、わかるようにすることも考えられますが、一応、ここにイメージ図を挙げておるということでございます。
 それから12ページのところで、利用権でございますが、これは結論的には、もっと考えなければならないだろうということでございまして、今後の課題として、なお引き続いて検討していくことが適当であるということでございます。従いまして、今回はライセンシーの地位の保護、その点について焦点を当てて検討をしたということでございまして、著作物の独占的に利用できる地位の確保を認めるような検討には十分時間が割けなかったので、これを今後更に機会を見て検討していただければという法制度小委員会に対してご報告する内容でございます。

【中山主査】

 ありがとうございました。それでは、ただいまの説明を踏まえまして、自由な意見交換を行いたいと思いますが、何かご意見あるいはご質問がございましたら、お願いいたします。
 登録原簿は、物的編成主義ではなくて、人的編成主義で行くということなのですか。

【土肥委員】

 はい。

【中山主査】

 ということは、作詞家とか、作曲家がいる場合には具体的にどうなるのですか。その作曲家のこの曲というのではなくて、作曲家の名前があったら、全部出てくると。具体的にどういうイメージになるのか、よくわからないのですが。

【土肥委員】

 具体的なイメージですか。まず著作物を全ての種類にするのか、あるいはコンピュータープログラムだけに限定するのかがまずあるわけです。もし前者であるとすると、しかも個人にするか、法人にするかという議論があるわけですが、ここでは産活法でやるような人的な編纂をしていくことを想定しています。だから、ライセンスを設定していく場合に、どなたの著作物に利用許諾が設定されているかという具体的なものとなります。

【中山主査】

 その場合の人的とは、特定するために名前を出すだけですか。古賀政男のこの曲についてライセンスがあるかどうかという話なのですか。

【土肥委員】

 著作権者は出ていますよね。著作権者は出ているわけですから、その著作権者ごとに考えていくことになります。それが包括的であるか、1件ごとであるか、それはそれぞれなのですが。

【中山主査】

 1件ごとであるとすれば、単に古賀政男なら古賀政男という名前は、その作品を特定するための材料でしかないと。

【土肥委員】

 先ほどイメージがありましたよね。11ページですが、こういうイメージになるのですが。Xが、ABCに著作物「いろは」「甲乙丙」「ドレミ」「123」、こういうものについてライセンスを取得するということです。

【潮見委員】

 要するに債権譲渡登記と同じように考えたらよろしいわけですよね。要するに債権者の地位というもの、そこはライセンシーの地位だというように考えれば基本的にはいいと。それを物的か、人的かという形でご理解されていると。いいかどうかは別として。

【野村分科会長】

 今の既存のものとはどうなるのですか。今やっているプログラムの登録との関係は。クロスレファレンスができるようにするとか、そういうことなのですか。

【土肥委員】

 そこがどうなるのかは格別には検討はしておりません。先生がおっしゃっておられるのは、ソフトウェア情報センターがやっている登録でしょうか、あれとつなぐかどうかは全く議論はしていないところなのですが。あるかもしれないし、ないかもしれない。そもそも全ての著作物についての制度となるとそれは難しいですよね。

【中山主査】

 他にご意見がございましたら。はい、どうぞ、道垣内委員。

【道垣内委員】

 国際的な観点からですが、これは日本の著作権だけを対象とするのでしょうか。ライセンスの場合は、色々な国のものをまとめてライセンスすることがあると思うのですが、著作権の場合にも同様なことがあるのではないでしょうか。それから、効果についてですが、外国の著作権について、日本で無理やり、これに入れたところで、外国でどう扱われるかは確かにわからないことはその通りだと思います。ただ、それは、日本の著作権であって、外国で倒産手続が行われれば、このような登録制度があっても評価されるかどうかはわからないことなので、いずれにしてもどうしようもないことです。しかし、実効性の点が効果を確保できない可能性があっても、日本国として、こうしますということであれば、外国法による著作権についても対象とすることは不可能ではないと思いますが、どうなのでしょうか。

【土肥委員】

 外国の著作者がいて、日本においても、その著作物について著作権を保護する義務があるわけですが、従って、日本における複製権とか、そういったものについてライセンスをする場合については、この登録の対象になると考えています。

【道垣内委員】

 私がお聞きしたのはそうではなくて、日本の著作権者が持っている外国の著作権についてまで登録ができるのか、それともそれは全然考えていらっしゃらないのかという点です。

【土肥委員】

 日本の著作権者が持っている外国の著作権について登録できるかということですよね。それは要するに、法的な効果が少しわからないのですが、そこは普通は問題にならないだろうと思うのです。国際私法の先生に申し上げるのも何ですが、ちょっと難しいのだろうと思いますが。

【中山主査】

 日本人であろうが、外国人であろうが、外国での権利を日本のこの制度で登録することは、それはあり得ないでしょうね。逆に言えば、日本人であろうが、外国人であろうが、日本で持っている権利はこれで行くのでしょうが。どこかで作ってしまえば世界中で権利が発生しますから、日本でも発生しているはずですね。ごく若干の条約に入っていない場合は別として。ですから、アメリカならアメリカなりに、ドイツならドイツなりの対抗要件とかあるはずですから、そちらに従うだけであって、それを日本で登録することはあり得ないと思うのですが。

【茶園委員】

 まだ完成されていない著作物の登録も許容するものと理解しているのですが、例えば8ページのところを見ると10行目ぐらいですか、「包括的ライセンス契約の中に題号等がない、または完成途中であるなどの、『上記によっては特定しにくい』」と書いてあるのですが、これだけを見ると、当事者間では、この著作物だという認識はされているのだけれども、まだ題号がないとかという場合を対象とされているようですが、例えば、今後5年間に作られる著作物全体とか、その中のある一分野の著作物とか、そもそもどういうものが作られるかがまだよくわからないという場合も対象に含まれるとお考えなのでしょうか。あるいはまだ完成されていないのだけれども、非常に漠然とだけれども、特定がある程度されているものに限られることになるのでしょうか。どのようにお考えなのか、お教えいただきたくお願いします。

【土肥委員】

 今後創作される著作物は対象外であるとは考えておりません。例えば、あるコンピュータープログラムのバージョンアップ、翻案されたもの、そういったものも入ってくるわけで、それが特定できていることが言えれば入るし、特定できなければ入らない。つまり、特定できないものを入れるわけにはいかないとは思うのですが、今のようなAという名前のコンピュータープログラムのバージョンアップされたプログラム、そういったものは特定されていると我々は考えております。

【中山主査】

 これは産活法の特定と同じと考えてよろしいのですか。

【土肥委員】

 いや、その産活法の特定をどう私が正確に理解しているか、わからないのですが、いずれにしても対抗力を与えるわけですから、その対抗力を与えるだけの特定性は必ず要るとは思っております。

【中山主査】

 例えば、この人の作品全部というのだったら、特定されるから、それもいいわけですか。

【土肥委員】

 それは特定と言うのですかね。言えれば、そういうことですね。

【中山主査】

 それは特定の最たるもので、全部入ってしまうわけですから。

【森田委員】

 「特定」という言葉が文脈で幾つかの違った意味で使われていますので、若干、それによって混乱しているのだと思いますが、今問題にしているのは対抗力を与える範囲であって、対抗力が与えられている範囲とそうではない他の財産との識別可能性があるか、ないかという意味での特定ということであれば、先ほど挙げられた例はすべて、それで十分特定されているのであれば入るという前提で考えていると思います。
 産活法との違いですが、産活法で対象にしているようなものと比べて、著作権法で対象にするようなものは、プログラムに限定するかどうかという議論とも関係していますが、非常に多様ですので、著作物については、特定の仕方についてはいろいろなバリエーションがあるだろうと思います。そのいろいろなバリエーションについて、例えば、特定の四方についてガイドラインをつくるとかというようなことが果たしてできるかというと、これはなかなか難しいのではないかと思います。このように考えますと、基本的には特定の仕方は、むしろ事後的に紛争が起きたときには訴訟になって、識別可能性が十分確保されていると判断するかどうかは、最終的には訴訟において裁判所で判断されるわけですが、そこで負けないように弁護士がちゃんと付いて、特定の仕方を工夫して、これでよいかを検討してやっていく。そういうふうに当事者がある程度リスクを取ってやっていくことも含めて、自由に許容したほうがよいのではないかとも考えられます。このような考え方を採れば、登録申請の際に、入口で、こういうものは駄目だといって窓口ではねてしまうような運用はしない方向で考えることもできるのではないかと思いますが、その中間には色々なバリエーションがありえます。そのあたりは今後、実務的にどうしていくかということですが、要するに登録制度でありますから、申請が来たときに窓口審査で、こういうものは駄目だとはねることができるかというと、なかなかそれは難しいのではないかという感じがしております。

【中山主査】

 大渕委員、どうぞ。

【大渕委員】

 ただいま出ていました特定というのは非常に難しい問題で、産活法のときにも大変議論になりました。先ほど森田委員が言われたように、中に入っているか、入っていないのかが識別すらできない場合には特定しているとはいえないことは明らかなのですけれども、先ほど主査が出された例のように、この人のもの全部と言えば、それはある意味では外か内かはわかるので、そういう意味での特定は最低限満たしているのですが、そのような意味での特定だけ満たしていれば、先ほど言われた特定に当たるのかという点が問題となってきます。このような最低限の点を満たしていれば、特定がされているといってよいのか、それともいわばプラスアルファとして、何かもう少し対抗力を与えるにふさわしいものが必要なのかという点についてはいかがでしょうか。それがまさしく先ほど出された重要な点ではないかと思うのですが。

【森田委員】

 プラスアルファという意味が良くわからないのですが、対抗力を付与するだけであれば、プラスアルファは要らないのだと思います。

【大渕委員】

 最低限、識別性さえあればいいということですか。

【森田委員】

 そうですね。

【大渕委員】

 そちらの方向で説明されるということですか。その人のもの全部というのでよいと。外か内かがわかれば。

【森田委員】

 実際、そういう契約の仕方をする例がどれほどあるか、良くわかりませんが、基本的にはそれで識別可能性が確保されているのであれば、良いということになるのだと思います。

【中山主査】

 これは当事者だけではなくて、第三者に対する影響が大きいから、なかなか難しいと思うのですが、産活法のように、技術で特定しても、その中に入らないものを特によりすぐって、また登録ができるとか、色々な意味で特定ができるようなシステムを作っているわけですね。コンピュータープログラムだけでは産活法に似ているかもしれないけれども、全体となると、産活法のものを持ってきて、うまくいくかどうかは問題もあると思うので、その点は大いに議論してもらえればと思うのですが。

【土肥委員】

 ただ、産活法とこちらのほうのものが、特定性のところで食い違うとすると、いい結果が得られないと考えてはいるわけです。つまり、産活法で入るけれども、こちらでは特定性が足りないとなると、これは結局、こちらのほうでは外れることを意味しますので、そこは少なくとも、その部分については遺漏がないようにする必要があるのだろうと思うのですね。

【中山主査】

 確かにコンピュータープログラムとか、ソフトウェア関係を考えるとおっしゃるとおりで、産活法対象のものに著作権が発生することもあるし、まさに土肥座長のおっしゃるとおりなのですが、仮に著作権法全部となると、コンピュータープログラムと似ても似つかぬものはいっぱいあるわけで、そういうときの特定性は難しいですね。

【土肥委員】

 今後、どういう方向でこの制度が進むのかわからないのですが、そういう意味からすると慎重に、できるところからやっていくというのはあるのかもしれないと思っています。

【中山主査】

 産活法自体も実はまだ施行されてなくて、これからあれがどういうふうになっていくかは見てゆく必要もあるでしょうし、特許法の通常実施権、普通の実施権についても現在改正が議論されておりまして、それはまだ審議会で議論の最中でどうなるかわからないという、少し流動的な状態にあります。仮に特許法に合わせるとしたら、様子を見るのも手かもしれないですね。しかし、こちらはこちらで別なものがあれば、やるというのも手かもしれないと思うのですが。どうぞ、森田委員。

【森田委員】

 産活法の場合には、特許法本体に通常実施権の対抗要件の制度があって、そちらは物的編成主義でありますが、今回、人的編成主義に立つ産活法上の公示制度が設けられたことによって二元的なものになったわけです。このように特許権の場合には過去の経緯から二元的な公示制度になったわけですが、そもそも公示制度が二元的になっているのが果たしてよいのかどうかというあたりの問題があります。これに対して、著作権の場合には、産活法と並びでそれに相当する制度を導入するだけでは足りなくて、特許法本体で定める通常実施権の対抗要件に相当するものがありませんので、そこをどうするかという問題があります。
 理論的には、物的編成主義の著作物全部を対象とする制度と、人的編成主義の産活法に当たる制度を二元的に今から創設することも可能ではありますが、特許法の場合は、意図して二元的な仕組みを作り出したわけではなくて、従来の経緯から仕方なくと言ったら語弊があるかもしれませんが、そうなっているに過ぎないのであって、本来はどちらかに統一してしまうのがよいという考え方もありえます。そして、どちらかに統一するという場合は、人的編成主義のほうに統一せざるを得ないのだと思います。これに対して、著作権法の場合には白地から考えるという点で違いがあるわけです。
 それから、プログラムのみを対象として立法した場合には、他の著作物については、法制度として対抗要件を備える方法が用意されていない状態が残ることになってしまいますが、それでよいのかも問題になります。プログラム以外の著作物についてニーズがあるか、ないかということについてはなかなか難しいところもありまして、この点の実務に詳しい弁護士さんが書かれたものを読みますと、最近、知的財産のライセンスに関わる様々なビジネスとか、ファイナンスの過程では、他の著作物についても潜在的には問題があることを指摘するものもありますので、そこの兼ね合いをどのように考えるかというあたりで、今後、一定の決断していくことになるだろうと思います。

【中山主査】

 著作権は確かにライセンス一般の登録はないのですが、出版権に関してはあると。これまたややこしい状況になるわけですが。
 他に何かご意見がございましたら。今日のところはよろしいでしょうか。
 それでは今日のところはこれぐらいにしまして、引き続きまして、司法救済ワーキングチームでの検討結果につきまして、大渕座長より、ご報告をお願いいたします。

【大渕委員】

 それでは資料3をご覧下さい。「間接侵害等に関する中間まとめ」という6頁のペーパーでございますが、時間の関係もございますので、メリハリを付けて重要なところに絞ってご説明したいと思います。
 まず1の「問題の所在」でございますが、これは釈迦に説法ではありましょうが、著作権法におきましては、同法上の権利を侵害するものまたは侵害するおそれがあるものに対して、同法第112条第1項に基づいて差止請求を行うことが認められております。しかしながら、著作物等につき自ら物理的に利用行為をなす者については、この対象になることは異論がないわけでしょうが、それ以外の者に対して差止請求を行うことができるかどうかについては、現行著作権法上、必ずしも明確ではない面がございます。
 ただ、従前の裁判例によりますと、著作物等につき自ら物理的利用行為をなすとはいい難い者を一定の場合に、利用行為の主体であると価値的・評価的に認めて差止請求を肯定したものといたしましてクラブキャッツアイ事件、これは最高裁判決で、これはカラオケ法理と一般に呼ばれているものでありますが、そういうものもございますし、それから一定の幇助者について、侵害主体に準ずる者と評価して差止請求を肯定したもの(ヒットワン事件)などもございます。それから、他に選撮見録事件の大阪地裁判決では、著作権法第112条第1項の類推適用に基づいて、結局は差止請求を肯定するというように、色々なバリエーションが裁判例でもございます。
 ただ、色々な議論が展開されているわけですが、そもそも物理的な利用行為者以外に対して差止請求ができるかどうか自体、100パーセントクリアというわけではございません。そして、差止請求が肯定できるとすれば、どの範囲の相手方に対して肯定できるのかという点も、まだ一致した見解があるとは言えない状況にあります。
 それから、なおご参考までに特許法について、次のパラグラフにおいて、第101条で間接侵害と呼ばれているものについて簡単に説明しております。ここで関係し得るのは、第101条の第1号・4号型と第2号・5号型であります。これについては時間の関係もございますので、ご覧頂くことにいたしまして、細かい説明は省略いたしますが、特許法ではこのようなパターンの別の形の法制になっております。つまり、特許法では、著作権法とは非常に違う形の、間接侵害規定を伴った法制となっております。特許法の場合ですと第100条に差止請求権がありますが、それから漏れていることを前提に第101条で間接侵害として侵害とみなして拾っていくという構造の法制となっています。みなし侵害という点では著作権法でも似たような規定がありますが、特許法の場合には特別な間接侵害というものでありまして、第100条から漏れたものを第101条で間接的侵害観点から侵害とみなして、結局は差止めを肯定するという、別の形の法制になっております。
 それでは、その点を踏まえまして、1ページの最後のところがポイントでありますが、物理的な利用行為の主体以外の者に対しても差止請求を肯定することができるかどうか、それができるとしたら、どの範囲かということについての立法的対応の必要性について検討課題とされてきたわけでございます。
 ページをめくって頂きまして、それで、四角の中に囲んでおりますのが、昨年、当ワーキングチームの報告書の関係箇所を抜粋して頂いたものだと思いますが、要するに、詳細な外国法研究等も踏まえた上で、昨年の時点では、先ほどご紹介しました特許法第101条の第1号・3号に対応するような、いわゆる、のみ品の関係でありまして、古典的な間接侵害の典型例でありますが、ここは非常に含みを持たせて表現になっておりますけれども、これに対応するような間接侵害を何らかの形で著作権法上認めるという基本的方向性については特に異論はなかったが、それ以上については検討を継続すべきということであります。
 ここでは、時間の関係で、これは括弧付きで「間接侵害」と言ったほうがいいかもしれませんが、その関係を中心にご説明いたしますが、この点以外にも損害賠償、不当利得等についても検討課題になっておりまして、これについてが「また」以下に書いてあるところでございます。時間の関係でお読み頂くことにいたしまして、2の「検討結果」に入って行きたいと思います。
 (1)「現行規定の適用による対応の状況」ということで、これを踏まえて、次に3ページの(2)「立法の方向性の検討」に続くわけですが、現行規定の適用による対応の状況については、色々と先ほど説明したものの延長線上でありますが、カラオケ法理の採用により、裁判例の蓄積が見られるのだけれども、その判断基準が必ずしも一致しているわけではないということであります。ここの関係で、ちょっと省略いたしますが、下にあるような過度の拡張適用は色々問題もあるのではないかということもありまして、できれば、カラオケ法理だけに頼っていくというよりも、もう少し何かしらの形で立法的な対応をしたほうがいいのではないかということがあります。
 それから、その関係で言うと、「ただし」のところは利得性のところで、これは時間の関係で省略いたします。その次の2ページの一番下の「また」と書いてあるところは重要なところなのですが、昨年お示ししましたワーキングチームの報告書で、非常に詳細な外国の主要国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスですが、そこについて詳細な調査をいたしましたが、そういう外国法を検討いたしますと、差止めの相手方を直接の侵害者ないし自ら侵害を行う者に限定しているということは必ずしもない。何かしらの形で絞ってはおりますが、直接侵害者に限定するということはユニバーサルなものではなかろうということです。
 それからあとは、カラオケ法理の適用がない場合でも、差止請求を認めるのが適当である場合もあるのではないかということも踏まえまして、結局は、3ページの一番上にあるように、自ら侵害を行う者以外の者に対して差止請求を認めることができる旨を明示する立法的対応が必要であると考えられた次第であります。
 それで、そういうことを踏まえまして、「立法の方向性の検討」が3ページの(2)のところであります。立法の方向性については幾つか案が出されまして、先ほどの基本的な点をどうやって実現していくかというところです。これについては、アイウエとあるのですが、エは時間の関係で省略いたします。イとウは基本的に第113条のほうで改正していくということで同じようなものですから、これは一括して考えますと、基本的な方向性としては、アと、イ・ウの2つということとなります。第112条という基本となる差止請求の条文でありますが、その差止対象の対象となる侵害に自ら利用行為を行うことによるもの以外にも、一定の範囲のものが含まれるということで、第112条の枠内でまかなっていくというのがアの案でございます。ウは第113条でまかなっていくものでありますが、第113条というのは、先ほどもご説明しましたとおり、あくまで第112条という基本的なものには入らないけれども、一定の範囲でみなして入れ込んでいくということなので、条文の違いだけにとどまらず、基本思想がかなり違っています。第112条のほうだと、基本的な条文の中に、どこまで入るのかという発想ですが、第113条は、第112条では漏れている他のことを、どこまでみなして拾っていくかということで、基本思想の差がかなり出てくるのではないかと思っております。
 それを大きく分けて、第112条の方向で行くか、第113条の方向で行くかというところで検討を色々いたしまして、少し省略いたしまして、その後に「これらのうち」ということで、第113条のほうでやるという考え方につきましては、結局、先ほど説明したのを別の言い方をしているだけですが、著作権の支分権の及ばない範囲まで――第112条はもともとベーシックな規定なのですが、第113条は第112条で漏れるものをみなしで拾っていくということですので、支分権に及ばない範囲まで権利の効力を実質的に拡張する規定であるために、これを列挙いたしますと、逆に言うと、それから漏れているものは、みなしがないから及ばないよという形になります。かといって、第113条を広げすぎると問題があるし、逆に、広がらないように限定して書いてしまうと、今度は大きく漏れてしまうということで、書くのが難しいのではないかということもありまして、そういう意味で、なかなか第113条のほうは実際上、細かく特許法に対応するような形で書いていくのは大変な困難を伴うこととなってしまいます。
 なお、特許法との関係は、もともと特許法は特許を対象にする、著作権法と比較すればシンプルな世界であり、物の提供等を中心として考えた生産等で、比較的把握しやすいシンプルな形のものでありまして、それを非常に詳細に規定しているのが特許法の間接侵害の規定でございますが、それと比べますと、著作権法の場合には、物の提供によるものだけではなくて、例えばカラオケの事例ですと、むしろ侵害が行われるような場を提供するものもあるということで、非常に多岐に渡っておりますので、特許法と同じような形で多岐に及ぶものを制度設計していくのは非常に困難があります。また、そもそも特許法と著作権法では趣旨・目的が違っております。そこで、特許法の規定を一定の範囲で参考にしていくのはよいのですが、これを超えて、特許法の間接侵害規定をベースにして、いわば著作権法のほうに翻訳して持って来るような形のものは適切ではないのではないかということとなりました。
 それから、以上の点に加えまして、先ほど申し上げましたとおり、自ら物理的に利用行為をなす者以外の者についても、第112条に規定する侵害主体として、同条の類推適用等でなくて、直接適用を認めるという方向で、従前の裁判例がかなりの数、蓄積されていることを踏まえましたら、第112条から漏れることを前提とする第113条ではなくて、第112条自体の方向性で差止請求の対象を明確化することが妥当であり、現実的ではないかというように、法的継続性等の関係からも考えられた次第であります。
 それで、立法に向けた検討のポイントとしては実は2つあります。まず、これが実は一番大きな点なのですが、侵害者の範囲について自ら物理的に利用行為を行う者に限定されないということで、この点を明確化するのが1つのポイントであります。ただ、これだけだとその点を明確化するというだけで、あとはどこまで入るのかが無限定になりかねませんので、前者の点のほうが大前提なのですが、侵害者の範囲について自ら利用行為を行う者に限定されないとしつつ、一定の範囲の者に限られる旨を明確化することが重要となってくるのではないかと考えられた次第でございます。
 ページをめくって頂きまして4ページの2「差止請求対象として想定される範囲について」ということですが、これは先ほどのような形で、何かしら立法的に――これは基本的には、従前もカラオケ法理を初めとして、いわば判例法で展開されてきた分野でありますし、もともとあまりにも色々なケースが、最近も新しく次々と出ておりまして、技術も種々雑多であれば、利用形態その他も種々雑多なものでありますので、それを全て網羅し尽くす規定を細かく書き切るのは非常に困難な面がありますので、ある程度枠組み的なものを示して、あとは、その中で判例法的な形成を、従前も現行法のもとで行ってきたわけですが、そこに一定のものを今回加えるにいたしましても、そこから全く離れて、新たに立法で全部書き切って処理するのはあまりに多大の困難を伴うので、そのような意味で、先ほどのような前提のもとで、具体的にどういうものを含めていくべきかから考えたほうがわかりやすいのではないかということで挙げてみたのが、4ページの2「差止請求対象として想定される範囲について」において、代表例としてまるを4つぐらい挙げたものであります。
 まず最初に、これはクラブキャッツアイ事件のような事案において、従業員であるホステスに歌唱させているという場合のほうはあまり異論はないのでしょうが、客に歌唱させている場合など、権利侵害発生の場を提供しているようなケースが一つ考えられるのではないかということです。
 それから2番目のまるも今のものに似ている面もありますが、ピアツーピア方式のファイル交換サービスという中央サーバー型のサービスの提供者など、権利侵害発生の――先ほどのものは、カラオケ店内の物理的な場を提供しているという感じなのですが、今度はネット環境的な非物理的な場を提供している者も、場を提供しているという面で似た形で把握することができるのではないかということであり、こういうものも想定される範囲に入るのではないかと考えております。
 3番目のまるが、著作権侵害が生じているカラオケ店に通信カラオケサービス等を提供するリース業者など、侵害の用に供される物品等を侵害行為が行われている状況を知りながら提供し続けているケースということで、その例としてはヒットワン事件の事案でありまして、このようなケースも差止請求対象として想定される範囲に入るのではないかと考えられます。
 4番目が、また少し毛色が違っておりますが、これは、ときめきメモリアル事件を想定して頂ければ非常にイメージが湧きやすいかと思いますが、専ら特定のゲームソフトの改変のみを目的とするメモリーカードというような、いわば侵害専用品的なものを輸入販売し、他人の使用を意図して流通においた者など、権利侵害のみを目的とする物品、侵害専用品的なものを提供するケースというのも、「差止請求対象として想定される範囲」の中に入れていいのではないかということであります。これはもともと昨年の報告書でも、のみ品的なものは入れていいのではないかとされておりました。もちろん特許法のとおりに持って来るのではありませんが、特許法の規定も参考にして著作権法に入れていいのではないかということは昨年に出してあったわけですが、その例として、ここでも挙げるということになります。
 これらの4つのまるが、今まで裁判例にある比較的わかりやすいものなのですが、それ以外にも、権利侵害目的以外の用途も有する物の提供についても、一定の要件のもとでというのは、認識の度合い等も総合的に考えた上で、その物の提供を通じて侵害を行っていると言える場合には、差止めの対象となるべき可能性は考えられます。
 ただ、他方、コピー機のような一般品の提供とか、電力供給や一般の住居等の賃貸のような一般サービス等の一般的なものについては、これらだけを理由に差止請求の相手方とするのは不適切ではないかということで。原則的に、このようなものは外すべきではないかと考えられます。
 なお、本小委員会で別途検討されました海賊版の広告行為に関しましては、その場を提供している者についても、その実態によっては、先ほどの場提供型ということで――これは特許法とは随分違ったものですが、著作権では、これは1つの典型例なのですが――一定の要件のもとで侵害主体性が認められる可能性はあり得るかと思っております。
 次に3「差止請求の対象とすべき『間接侵害』の判断基準について」という点であります。この「間接侵害」は括弧付きで、今まで間接侵害と呼ばれていたもので、ただ間接侵害と言うと、特許法の間接侵害に対応するものという、若干ミスリーディングなメッセージを与えるので、なるべく使わないようにしているのですが、そうは言いつつ、世間では間接侵害と呼ばれておりますので、括弧付きで、いわゆるという感じでここでは使っております。
 そういうことで、判断基準について検討いたしまして、立法の方向性の検討にあたり、いかなる行為をもって「侵害」と評価するのかという点です。侵害といっても、自ら物理的に利用行為をすることは入るでしょうから、それ以外に侵害としてどこまで入るのかが問題となるわけですが。その構成要件及び判断基準について検討が必要とありますが、その点についてはabcdという色々な意見がありまして、これは今後詰めていかなければならないポイントの1つであります。
 aというのは、まず管理支配性の強さという1つのファクターと、2番目に損害発生の蓋然性の高さ及びその旨の認識の強さなどを総合考慮して判断すべきという考え方です。
 bは、切り口なのですが、権利侵害と行為との間の相当因果関係を有する教唆または幇助行為に当たるかどうかを基準とすべきというものであります。
 cは、相当因果関係とともに管理支配の有無を合わせて基準とすべきというものであり、dは、侵害行為への関与の蓋然性(客観的要件)と当該関与行為の認識(主観的要件)を基準とすべきというものです。いずれも第113条型の、一々、特許法のような細かい規定を書き切るという発想ではなくて、かなり広がりを持った形で相当因果関係にせよ、他のものにせよ、完全に規定し切るというよりは枠組み的なところを示して、今後のより良き判例法の形成を促していくという、いずれも、そういう発想だと言えるかと思いますが、abcdということで、今後も検討していけば、また増えるかもしれませんが、色々な形で案が出たわけでございます。
 これらの意見については、まず最初のaにつきましては、管理支配の内容が多義的であって、例えば直接行為者の自由意思をどの程度拘束するか場合が含まれるか、また物の提供による侵害が含まれるかどうかなど、明確ではないという意見もありました。この点を踏まえた形で、後で「(3)間接侵害に係る一例としての立法案の検討」の箇所で検討した一例を示させて頂いております。
 そのほか、侵害状態を是正できる立場にない幇助者に対して差止請求が認められるのは適当ではないのではないか、あるいは主観的要件と客観的要件を必ず両方とも要求してしまうと、主観的要件が認められないことのみをもって差止請求を認めないことが不適切な場合もあるのではないかという指摘もありました。
 それで、一例について説明させて頂きますと、「(3)間接侵害に係る一例としての立法案の検討」であります。先ほどのaの方向性の検討例なのですが、従前の裁判例のうち、自ら物理的に利用行為を行う者以外の者について侵害主体性を認めたものにおいては、当該者が他者に行為をさせることにより侵害する旨を判示したものが相当数あります。この点については従前は学説等では、あまり注目されていなかったと思うのですが、実は調べてみると、相当数ありますことから、他者に行為をさせることにより侵害すると認められる場合について、第112条の差止請求の対象に含めることを明示することがいいのではないかという案がございます。ただ、これでは外縁がはっきりしないではないかということもありますので、他者に行為させることによるものも侵害に当たるとした上で、その一例として、侵害専用品の提供を例示するということであります。
 実は、この「させる」というのは、今までカラオケ法理と呼ばれているクラブキャッツアイ事件では、客の歌唱をもって、カラオケ店主が発唱と同視するということで、それが擬制的ではないかということで批判も強かったところなのですが、ただ、カラオケ店主自身が歌っているのではなくて、客に歌わせているからこそ、それが侵害だととらえれば、不自然ではない、実態に沿った理論構成ができるのではないかと思いますし、最高裁の判決自体、歌唱させることを侵害していると書いている部分もございますので、その辺をヒントにして、このように構成してみたわけでございます。言い換えのところは下に書いてあります。そういうことで、ここで「させる」というと、何か命令や使役といった、非常に強いものしか入らないような印象を受けるのではないかという話もあったのですが、従前の裁判例で、カラオケで客に歌わせているのは、別に命令的に歌わせているわけではなくて、むしろ誘発に近いような実態かもしれませんが、そういう形のものを、今まで「させる」ということで処理されておりますので、そういうものが入るようにうまく入れながら、かつ明確になるような努力も続けていきたいと思っております。
 ちなみにもう一点だけ。選撮見録事件の高裁判決が最近出ましたが、これを見ますと、物品を販売することによって、入居者に侵害をさせるという形にしておりますので、そういう意味では、「させる」というのは物品提供の場合も含まれ得るということで、このような形で裁判例が見られるところではないかと思っております。
 それでは次に6ページに移って頂きまして、損害賠償、不当利得につきましては、ここにありますとおり、時間の関係で説明は省略しますが、引き続き慎重に検討を進めるということであります。
 最後の「まとめ」でございますが、今まで申し上げたことに尽きるわけですが、結果的には、特許法における間接侵害に関する規定をある程度参考としつつも、特許法とは異なる著作権法の法制において差止請求の明確化を図ることが適当であるというのが1つの今回のポイントであります。それから、具体的には第112条の侵害に該当する行為は、自ら侵害する行為に限定されるものではなくて、一定の要件を満たす他者の行為も含まれることを明確化すべきなのですが、その次にありますとおり、その他者の範囲について、あまり広がり過ぎないという観点からは、いかなる要件を満たすものをその対象とすべきかについて、裁判例の状況や民法における物権的請求権の基本理論との整合性にも配慮して、慎重に検討を進める必要があるということです。今回、先ほど示しました一案を検討いたしましたが、同案の妥当性を含めて引き続き検討を行っていくべきものだと思っております。それから、先ほどの損害賠償、不当利得につきましても、ここにありますとおり、民法や他の知的財産法における検討状況にも十分留意しつつ、これらの制度との整合性に配慮し、引き続き慎重に検討を進めるべきものと考えた次第です。以上でございます。

【中山主査】

 ありがとうございました。これから自由な意見交換を行いたいと思いますが、実は議題が、私的使用目的の複製についてと、もう一件ございますので、よろしくお願いいたします。では、ご意見がございましたら。
 何かございませんか。ご意見がござましたら是非。では、どうぞ。茶園委員。

【茶園委員】

 立法の方向性としては、私も113条に個別具体的な規定を設けるのはなかなか難しいのではないかと思います。間接侵害として禁圧すべき行為を色々定め尽くすのは容易ではないでしょうから、第112条に、物理的行為者以外の者を含めるという方向性でよろしいのではないかと思うのですが、この報告書でも書かれていますように、そのように一般的に規定して漏れをなくすというのも重要なのですが、一方で明確性という点も非常に重要だと思います。その点、この検討された案では、例を挙げるということなのですが、明確性の方向性について例を挙げる以外にお考えのところがございましたら、ご教示ください。

【大渕委員】

 まさしく今、茶園委員が言われた点は非常に重要な点だと思っております。「させる」というのは今まで裁判例でかなり使われているものであって、その意味するところについては一定の裁判例的な蓄積がありますので、一つは、それによりおのずから明確性が図られてくると思いますが、むしろ言葉自体としては「させる」は狭過ぎるようにも捉えられるという意見もありますので、例示をして明確化を図っているということもあります。その点は、これをベースにしながら、できるだけ明確化を図っていきたいと思っていますが、そのような明確化の方法としては、あるいは条文上明確化を図るのか、それとも条文上はこのままにしておいて、解説書等における説明や代表例の提示によって明確化を図っていくのか等については色々検討したいと思っています。ただ、細かく書き出すと、先ほどの第113条と同じ問題が生じてきますので、とりあえずここでは、あまり異論がない専用品の提供を例示して、あとは「させる」で吸収するとしておりますし、言い換えもここに付けておるのですが、まさしく今の点は非常に重要だと思っておりますので、明確化のための色々な工夫を今後検討していきたいと思っています。ありがとうございました。

【中山主査】

 他によろしいですか。

【多賀谷委員】

 当然、御検討されているとは思いますが、他者の侵害行為をコントロール下に置いておりということは、どの程度の意味のコントロールを指しているのかは引き続き検討されたほうがいいかと思います。特にピアツーピア方式のファイル交換サービスの場合とか、あるいは物品を販売するために提供する場合に、そこはコントロールと言えるのかと。恐らくそれでコントロールという概念を狭く解してしまうと、ピアツーピアの場合には、意図的にコントロールを外す形で多分、サービスが提供されることになると思うのですよ。難しいところでしょうが、そこら辺は適切にお願いします。

【大渕委員】

 まさしくご指摘の点はそのとおりだと思いますので、この点については、広過ぎず、狭過ぎないようにするために、更に色々な例を含めて、適切なところに落としていけるように努力を続けていきたいと思います。

【中山主査】

 他によろしいでしょうか。
 それでは次の議題に移りたいと思います。私的使用目的の複製の見直しについて、私的録音・録画小委員会における検討結果につきまして、事務局より、説明をお願いいたします。

【川瀬著作物流通推進室長】

 それでは資料4をご覧頂けますでしょうか。ポイントをご説明させて頂きたいと思います。
 私的録音・録画小委員会は、昨年4月から、私的録音・録画補償金制度の在り方について抜本的な見直しを行っております。これは昨年1月の文化審議会著作権分科会の報告に基づいて行われているものでございます。これに関連しまして、補償金制度の在り方を検討する前に、第30条の適用範囲の見直しについて検討をしているところでして、現在検討している同小委員会の中間整理案における第30条の適用範囲の見直しの方向性についてご説明したいと思います。
 なお、お断りしておきたいのは、参考資料1で今、中間整理案の抜粋を資料として添付しておりますが、これは今月13日に検討した際に事務局から提出しております案の抜粋でして、更に今後、26日に13日の意見を踏まえた上での修正案を出し、そこで検討して頂いてまとめて、10月12日の分科会にご説明をするという段取りになっておりますので、途中経過ということです。
 まず第30条の見直しについては2つの点から検討しております。1が、権利者に著しい経済的不利益を生じさせ、著作物等の通常の利用を妨げる利用形態の問題でございます。2としまして、2ページの下を見て頂くと、音楽・映画等のビジネスモデルの現状から契約により私的録音・録画の対価が既に徴収されている、またはその可能性がある利用形態という2つの観点から第30条の見直しを考えております。
 まず1ページでございますが、1の点につきましては、基本的な方向性としては、昭和45年に現行法ができまして、それ以来、社会実態の変化に伴って権利者の利益を不当に害するような実態が生じた場合については、その都度、第30条の範囲の適用見直しをしてきたわけでして、今回もその必要性があれば見直しをすることについてはいいのではないかという方向性で一致しております。
 それでは、具体的な利用形態についてはどうかですが、委員会で意見が出たのは2点ございます。1つは違法録音・録画物、違法サイト等からの私的録音・録画です。これについては、委員会ではファイル交換ソフトによる違法な録音・録画の実態や違法着うたサイト等の実態が紹介されまして、大量のコピーが行われていることや発売前の作品が利用されているという実態が紹介されました。そういった実態を踏まえて、違法録音・録画物、違法サイトからの私的録音・録画については、第30条の適用範囲から除外する方向で検討をしております。
 ただ、除外する場合については、利用者保護の観点から、次のような条件を付する方向で検討しております。1つは、違法録音・録画物、違法サイトからの私的録音・録画と承知の上で録音・録画する場合とか、明らかな違法録音・録画物からの録音・録画に限定する場合、これはドイツ法に例がございます。なお、一般的な但書を加えて、個別の事案に即して違法性を判断するとする意見もございました。なお、外国の例につきましては、一番最後のところに状況を、2003年から2006年にかけて、特にヨーロッパを中心に相次いで法律改正が行われておりまして、その状況について参考までに提示しております。
 それから、罰則につきましては、昭和59年の改正以来、私的使用目的の個人の侵害行為については罰則を適用しておりませんので、従来どおり適用しないという方向です。
 ただ、一点、方向性としてはそういうものでございますが、利用者の録音・録画まで違法にするのは行き過ぎであるという反対意見もございます。
 それからもう一つが、他人から借りた音楽CDからの私的録音についても、第30条から外したらどうかというご意見もございましたが、この点については、仮に除外としても、違法状態が放置されるだけであり、第30条から除外することについては慎重な意見が多かったということです。
 次に第2点ですが、基本的な方向性としましては、著作物を提供する事業におきまして、提供者が利用者の録音・録画行為を想定して、一定の管理下において、これを許容している場合であれば、権利者が提供者との契約によりまして、録音・録画の対価を確保することが可能です。仮に第30条の適用範囲から除外したとしても、利用秩序に混乱は生じないということから、そのような形態の録音・録画行為については第30条の範囲から除外したらどうかという方向で検討しております。
 3ページですが、この点は平成18年1月の文化審議会著作権分科会報告書でも私的録音・録画補償金制度との関係で、オーバーライド契約による私的録音・録画の対価の徴収と補償金の二重取りの懸念が指摘されているところでありまして、こういった方向で見直すことは、この懸念を解消する意味もあるということです。
 それから、具体的な利用形態についてですが、アとイという2点について検討しました。1つは、適法配信事業者から入手した著作物等からの録音・録画物からの私的録音・録画です。配信業者と利用者との配信契約が通常はあるわけですが、ほとんどの場合、利用者の一定の範囲の録音・録画を許容する条件を定めておりまして、それに伴う対価に私的録音・録画の対価も含まれている可能性もあります。こういうことから、仮に第30条の適用範囲から除外したとしても、利用秩序の混乱を生じないと考えられるので、契約による解決に委ねるという趣旨から、第30条から除外する方向で検討中でございます。なお、第30条の適用範囲から除外する場合の条件としては、配信事業者が利用者の録音・録画行為について一定の管理責任を背負っているという事業形態に限定するために、適法な事業であることを前提に営利性の有無とか、有償・無償の別、配信業者と利用者との配信契約の有無等を参酌しまして、具体的な要件をあわせて検討中でございます。
 最後にレンタル店から借りた音楽CDからの私的録音、もう一つは適法放送のうち有料放送からの私的録画につきましては、これらの利用形態についても、配信事業者と同じように、例えばレンタルの場合ですと、会員契約とか、会員規則とか、有料放送の場合には、これは総務大臣が認可した約款があるわけですが、そのような提供者と利用者との契約形態の内容について私どもで調べたところ、私的録音・録画の対価が徴収されているという実態は確認できませんでした。仮に第30条の適用範囲から除外するとしても、こういう利用形態については、様々な事情から、新たな利用秩序の形成は困難だと思われますので、結果として違法状態が放置される状況が想定されますので、検討においては第30条の適用範囲から除外することについては慎重な意見が多かったということです。

【中山主査】

 ありがとうございました。それではただいまの説明を踏まえまして、自由な意見交換に移りたいと思います。何かご意見あるいは御質問ございましたら、お願いいたします。
 では、一つだけよろしいですか。つい最近、ある弁護士さんから質問を受けたのですが、ユーチューブには放送が多数アップロードされていますが、あれは違法だとみんな知っているが、ある意味ではタイムシフト的に利用している。だけれども、これからは、これ全部、違法になるのですかと。そういう質問を受けたのですが、そういう場合はどうなるのでしょうか。

【川瀬著作物流通推進室長】

 要件の定め方もあると思いますが、そういうものについては違法になるということだと思います。ただ、一方で、ユーチューブに限らず、投稿サイトにつきましては適法化の動きが一方であります。例えば新聞報道ですが、JASRAC(ジャスラック)がヤフーと契約をして、ヤフーが一定の使用料を払うことによって、投稿サイトの合法化をするということです。これは多分、投稿サイトといいましても、既存の映画とか、そういったものというよりも、皆さんが家庭で撮られた映像とか、そういったものについて音楽が入っているというものが中心だと思いますが、投稿サイトについては、削除要求を日本でも何万件ということでやっておられるようですが、そうした動きとは別にこのような動きもあるということです。なお、ユーチューブについても、私が聞いている話ですと、ユーチューブ側と権利者団体のお話し合いをしておられて、一定の合法化に向けての動きというものは聞いておりますので、今後の話としては、必ずしも違法になるかどうかは運用上の問題が大きいだろうと思います。

(注)誤解した回答をしている。投稿サイト等の視聴だけを目的としたストリーム配信については法改正の対象外であり、視聴自体が違法になるわけではない。10月4日(木曜日)の委員会で訂正。

【中山主査】

 他に何かご意見を。どうぞ、茶園委員。

【茶園委員】

 確認と質問なのですが、3ページの適法配信事業者から入手した著作物等の録音・録画物からの私的録音・録画については、第30条から除外するという方向で検討されているということですが、除外されるということは、それについては補償金はかからないということでよろしいわけですよね。

【川瀬著作物流通推進室長】

 はい、さようでございます。

【茶園委員】

 では、適法配信事業者から入手した著作物等の私的録音・録画については、契約処理がされていて、ユーザーにとっては不便なような契約条件が定められていたとしても、それは仕方がないということになるのでしょうか。今だと、私的複製となっていますが、それが契約で処理されることになって、どう言いますか、何か弊害が生じる可能性があるのではないかと思うのです。あるとしたら、何らかの対応が必要となるのではないかと思うのですが、そのような点についてご検討されていたら教えて頂けませんか。

【川瀬著作物流通推進室長】

 配信事業のビジネスモデルを見ますと、基本的には著作権の保護技術と契約の組合せによって、利用者のコピーが管理されていると思います。コピーフリーのものがありますが、ある意味では、それも管理をしている。コピーフリーだということを前提して管理をしていることになると思うのです。配信事業の場合には、そういうことで、配信事業者と利用者の契約があって、コピーの回数とか、質とか、そういったことが決められているわけですが、その範囲でもともと管理下にあるわけですから、また現行の著作権法の規定では、いわゆるコピーコントロールを回避して行う複製は違法だとなっておりますから、基本的には配信事業の場合には、利用者の複製行為は非常に限定的な枠に収められていると思うわけです。したがって現行法では第30条の規定下において、提供者の管理下において利用者がコピーをしているということになると思います。そこで、ビジネスモデルを考えると、特に第30条がなくても、またそれによって利用者のプライバシーが侵害されるということでもなく、今までどおり自由にコピーができるではないかというのが一つの考え方の基本になっているわけです。
 それにプラス、文化審議会著作権分科会の18年1月の報告書の宿題といいますか、指摘事項としては二重取りの議論がございまして、オーバーライド契約で対価が徴収されている一方で補償金も徴収されていることによって、消費者から見れば、使用料が2回取られているのではないかという議論もありますし、そのことを回避する意味もあるということです。その意味では、補償金制度との関係で、録音・録画に関して言えば、特に配信事業者――これから要件をどこまで絞るかはあるのですが――を第30条から外したとしても、消費者といいますか、利用者が不便を感じることなく、今までどおり一定の条件の中でコピーできるのではないかという考え方です。

【中山主査】

 現行法のもとにおいても、配信事業は例えばコピー1回とか、3回とか、5回とかとされていますので、あまりそれは変わらない。ただ、補償金からは外れるということになるのだと思うのですが。はい、森田委員。

【森田委員】

 先ほどの茶園委員のお話ですが、現行法では、私的複製について権利制限がかかっていて、それを契約や技術でオーバーライドしていることになります。オーバーライド契約がどういう場合に有効かという点は、以前にこの場でも議論しましたが、それは、原則は契約自由で認めてよいけれども、まったく契約自由で何でもしてよいかというと、自ずと一定の制限はかかってくる。例えば、民法90条を使って、不合理な利用の制限をするような場合であれば、一般利用者の通常の利用を妨げるような制限は許されない、そのような契約は無効になるという形で、オーバーライド契約の有効性として議論しているところです。茶園委員が指摘されたのは、30条の適用範囲から外してしまいますと、そもそも契約によってオーバーライドされる権利制限がなくなってしまいますので、オーバーライド契約の有効性という形では議論は成り立たなくなるという点ではないかと思います。しかし、たとえ権利制限がない場合であっても、何でも契約で決めればよいかというと、現在と同じように民法第90条その他の一般法理が同じように適用されると考えればよいのではないかと思います。そうしますと、ここでの議論は、従来言われていた権利制限のオーバーライド契約の有効性の問題とは切り離して、もっぱら私的補償の対象となる範囲はどこかということとの関係で議論していると位置付けたほうがよいのではないかと思います。これを30条の適用範囲から外してしまうことによって、契約自由の範囲が従来よりも拡大するという作りにはなっていない。フランスなどですと、そのあたりは両面から議論しているところではありますが、日本のこれまでの議論は、そういうリンクでは議論をしてこなかったのではないかと思います。

【中山主査】

 よろしいですか。

【茶園委員】

 はい。

【中山主査】

 他に何かございませんか。よろしいでしょうか。
 それでは時間も過ぎてまいりましたので、各ワーキングチームの報告内容につきましては、本日の議論を踏まえまして、再度、報告書案の段階で議論することにしたいと思います。また継続検討とされた方につきましては、各ワーキングチームにおきましても引き続き検討をお願いしたいと思います。
 では、本日の会議はこのぐらいにしたいと思います。次回の小委員会ですが、小委員会の中間取りまとめについて議論の整理を行いたいと思います。
 最後に事務局から連絡事項がございましたら、お願いいたします。

【黒沼著作権調査官】

 本日はありがとうございました。次回の法制問題小委員会ですが、10月4日(木曜日)の10時から、場所はアルカディア市ヶ谷を予定しております。よろしくお願いします。

【中山主査】

 次回は市ヶ谷ですので、お間違いのないようにお願いいたします。
 それでは本日はこれで文化審議会著作権分科会の第8回法制問題小委員会を終了いたします。どうもありがとうございました。

─了─

(文化庁著作権課)