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資料5

私的使用目的の複製の見直しについて

平成18年7月31日
文化庁長官官房著作権課

1. 問題の所在

   個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする複製(以下「私的複製」という。)については、実際上家庭内の行為について規制することは困難である一方、零細な複製であり、著作権者等の経済的利益を不当に害することがないと考えられたため、著作物を複製することができるとされている(第30条第1項及び第102条第1項)(注1)。
 著作権法は他方において、昭和45年の現行法の制定以降、技術革新を踏まえ、私的複製の範囲として権利制限を認めておくことが不適切と考えられるものについては、私的複製の範囲を制限し(第30条第1項第1号及び第2号)、あるいは、私的複製の範囲内において行われる私的録音録画については、一定の条件の下で補償金を課すことにより(第30条第2項)、権利の保護と公正な利用とのバランスを図ってきたところである(【別添】参照)。

 

   複製・通信技術の発達は目覚ましく、私的領域においても、大量かつ広範に高品質の複製物が作成されうる状況である。特に、インターネットを通じた著作物等の交換・共有は、大量かつ広範な複製を可能にしている。しかし、技術革新は、複製の拡大ということだけではなく、同時に、私的領域であっても、契約や著作権保護技術を通じて、権利者の利益を確保することも可能性となしうるものである。
 このため、現行著作権法の制定当初は予定していなかったと考えられるこのようなデジタル化・ネットワーク化等の急速な技術革新に対応して、私的複製に関する適切な権利保護の在り方について検討を行うことが必要となっている。
 私的複製における権利保護の在り方については、上記のとおり、立法措置としては、これまで、私的複製の範囲から除外し、又は補償金を課することにより対応してきたところである。しかし、私的複製をめぐっては、立法措置以前に、関係者間の契約や著作権保護技術を通じて、私的複製の範囲を事実上制限することが可能になりつつあることから、まずは、このような場合における契約の有効性や権利者が被る不利益との関係について、整理が必要となる。
 その上で、そのような私的複製の範囲を前提として、問題とされる私的複製について、私的複製の範囲から除外する必要があるのか、あるいは補償金を必要とすると考えるべきか等、立法措置の必要性の有無について、検討が必要となる。

2. 検討課題

 
(1) 解釈上の検討課題

 
私的複製と契約との関係
   例えば契約により私的複製の回数等が制限されている場合には、1その契約(いわゆるオーバーライド)は有効なのか、また、2契約が存在する場合や契約可能な分野における「私的複製」の範囲はどこまでを指すのか。

私的複製と著作権保護技術との関係
   例えば、著作権保護技術のルールに従って、利用者が複製を行う場合も、私的複製の範囲内といえるのか。

(2) 立法上の検討課題

 
私的録音録画補償金
   私的録音録画補償金の対象である私的録音・録画について、大量かつ広範に行われている私的複製の現状に加え、著作権保護技術の普及・適用状況や、そのような保護技術を前提とした契約の存在も踏まえたとき、現在の私的録音録画補償金制度が対象とする範囲等について見直しの必要があるか。

違法複製物の扱いについて
   著作権者等の許諾を得ずに違法に複製・頒布等される著作物等について、現行法では、私的使用のための複製の対象から除外されていないが、このような違法複製物等について、大量かつ広範な複製の可能性が考えられることから、著作権者等の利益の保護の観点からどのように考えるべきか。

3. 各検討課題の考え方等

 
(1) 解釈上の検討課題

 
私的複製と契約との関係について

   私的複製と契約との関係については、「著作権法と契約法の関係について(いわゆる契約による著作権法のオーバーライド)」として、法制問題小委員会契約・利用ワーキングチームにおいて、平成17年以降検討を行った。
 契約・利用ワーキングチームにおける検討では、ソフトウェアや音楽配信等に関する契約において、私的複製を制限する条項については、ユーザーに極めて不当な条件を強いるものでない限り、基本的にはこのような制限を無効とするべき理由がないと整理を行っているところである。

 
 ビジネスの観点から合理性が全く認められないなどの事情により、契約が無効とされるような場合を除いては、私的複製の範囲を制限する契約も有効であると考えられるがどうか。なお、一般に、私的複製に関しては、実際上家庭内の行為について規制することは困難であるということが立法趣旨の一つであることを考えると、私的複製の見直しに係る立法措置の必要性の検討に当たっては、検討の必要性が求められる分野における契約の可能性も勘案する必要があると考えられる

 契約の範囲内における「私的複製」の位置づけについては、当該契約の内容如何によると考えられ、契約があるからといって、それだけで当然に第30条第1項柱書に定める「私的複製」は存在しえなくなるものではない(個々の契約内容に照らして個別に判断される必要がある)と考えられるがどうか。例えば、契約内容が、制限された回数内の複製について私的録音録画補償金を支払うことを前提にしている場合、そのような私的複製は、第30条第1項柱書に定める「私的複製」としての位置づけであると考えられるがどうか。
 なお、そのような契約によって複製可能な範囲が制限されている場合、その範囲内における私的複製によって権利者の利益が害されているか否かについては、実態に照らして別途検討される必要がある。この点について特に検討を要する分野は私的録音・録画であるが、私的録音・録画については私的録音録画小委員会において検討を進めていることから、同小委員会においてこの点にも留意した検討が進める必要があると考えられる

私的複製と著作権保護技術との関係について

   著作権保護技術は、それにより複製可能な範囲が制限されるものであるが、複製可能な範囲内の私的複製については、第30条第1項柱書に定める「私的複製」の枠内にあるものとして位置づけられる。

 
 もとより、そのような著作権保護技術だけではなく、著作権保護技術を前提とする契約があると認められる場合の「私的複製」の位置づけについては、上記の契約に関する議論がそのまま妥当する。したがって、この場合についても同様に、権利者が被る不利益との関係については、実態に照らして別途検討される必要があることから、私的録音録画小委員会において、この点にも留意した検討が進められる必要があると考えられる。

(2) 立法上の検討課題

 
私的録音録画補償金

 
 私的録音・録画については、複製の実態についての急激な変化の中で、上記の契約や著作権保護技術に係る整理も踏まえ、権利の保護と著作物等の公正な利用とのバランスを図る方策について、補償金制度で対応するべき範囲、著作権保護技術等で対応するべき範囲の検討も含め、私的録音録画小委員会において検討を進めることが適切である

違法複製物の扱いについて

   インターネット上で著作権者等の許諾を得ずに複製・交換されている著作物等を、私的複製(ダウンロード)する場面に、特に問題となる。
 もとより、私的使用のための一旦複製したものを、その後公衆に頒布又は提示する場合は、原則に戻り、許諾が必要となる(第49条第1項第1号及び第102条第4項第1号)。したがって、例えば、ファイル交換ソフトを利用して音楽ファイルを自分のパソコンにダウンロード(私的複製)し、さらにアップロード状態にして、インターネットを通じてファイルを自動的に公衆送信した場合には、「目的外使用」として、著作権者等の許諾が必要となる。また、アップロード行為自体、送信可能化権が別途働く(第23条、第92条の2及び第96条の2等)。

 
 現行法における規定以上に、私的複製としてのダウンロードについて、私的複製の範囲から除外する必要性があるかについては、「家庭内の行為について規制することは困難である」との第30条の立法趣旨や、「著作権者の利益を不当に害するか」等の観点に十分留意して検討する必要がある。この課題に関して特に検討を要するのは音楽についてであり、私的録音録画補償金の在り方の議論と密接に関係することから、私的録音録画小委員会において、この点にも留意した検討が進められる必要があると考えられる

(3) まとめ

   私的複製の範囲にかかる立法上の検討課題については、私的録音・録画の在り方にかかる検討を避けては通ることはできないが、私的録音・録画の在り方は、私的録音録画補償金の在り方と密接に関係する課題である。すなわち、私的録音・録画の在り方については、私的録音・録画の現状を踏まえ、私的領域における複製に関し、権利の保護と著作物等の公正な利用とのバランスを図る方策として、いずれの部分を補償金で対応し、著作権保護技術等で対応し、あるいは私的複製の範囲としておくことが適切なのかといったことについて、一体的な議論が必要となる
 したがって、法制問題小委員会としては、私的録音・録画に関する私的録音録画小委員会における検討の状況を見守り、その結論を踏まえ、必要に応じて、私的複製の在り方全般について検討を行うことが適当ではないか


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