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3.外国法からのアプローチ

(4) イギリス法
−間接侵害に係るイギリス著作権法等について−

 
1 イギリス法における著作権侵害責任について

   イギリス著作権法16条1項は,複製権,譲渡権など,著作権の排他的権利の内容について規定し,2項において,著作権侵害の定義を設けている。すなわち,著作権は,著作権者の許諾を得ることなく,著作権により規制される行為(any of the acts restricted by the copyright)を行い,又は行なうことを他の者に許諾した者により侵害される。このような侵害類型は「一次侵害(primary infringement)」と呼ばれている。一次侵害は,我が国における直接侵害の行為類型に該当するものといえる。
 これ以外に,イギリス著作権法は,侵害物品の取引や侵害複製物を作成するための道具を提供する行為なども,一定の要件の下で侵害となることを規定している。これらは,一次侵害があることを前提に成立する侵害類型であることから(注103),「二次侵害(secondary infringement)」と呼ばれている。イギリス著作権法の二次侵害規定は,わが国におけるいわゆる間接侵害規制の一種として位置づけることができる。
 一次侵害と二次侵害も,制定法上の義務違反(a breach of statutory duty)による不法行為(tort)であり,その法的効果は同一である(注104)。すなわち,一次侵害であると,二次侵害であるとを問わず,権利者は,侵害者に対して,損害賠償(damages),差止め(injunctions),不当利得(accounts)など,一般の財産権侵害における救済と同様の救済を受けられることが法律上保証されている(96条)。ただし,一次侵害が行為者の認識に関わりなく成立する厳格責任(strict liability)であるのに対して,二次侵害は,行為者の認識が侵害成立要件となっている点が大きく異なっている。著作権は制定法上,排他的な財産権として創設された権利であるから,著作権を侵害する行為については,行為者の故意過失を要せず,損害の発生の有無を問わずに,不法行為が成立する。
 一方,著作権法で規制された行為を直接行った者以外の者であっても,一般民事法上の法理により,侵害責任が認められる場合がある。すなわち,著作権侵害の教唆者・幇助者は,共同不法行為者(joint tortfeasor)としての責任を負うことがある。特に,被用者が職務として侵害行為を行った場合や,代理人が本人のために行なった侵害行為については,「代位責任(vicarious liability)」の考え方に基づき,侵害者である被用者や代理人と共に,使用者や本人も侵害責任を負うことになる。イギリスでは,わが国とは異なり,不法行為(tort)に対する救済手段として,損害賠償のみならず,差止め(injunction)が認められることから,権利者は,これらの者に対しても,差止めによる救済を求めることが可能である。ゆえに,イギリスにおける間接侵害規制のあり方を検討するには,こうした一般民事法上の法理も,視野に入れる必要がある。なお,著作権法上の侵害行為と一般民事法上の法理に基づく侵害責任とは相互に排斥的なものではなく,両者は重畳的に成立し得る。例えば,侵害行為の「許諾」を与えた者は,著作権法上の許諾責任に加えて(16条2項),共同不法行為者(joint tortfeasor)ないしは侵害を引き起こした者(the man who had procured the infringing act)としての責任を負う場合もある。また,使用者が被用者に指示を与えて侵害行為を行わせたという場合,使用者には,許諾責任に加えて,代位責任(vicarious liability)が成立することになる。
 また,著作権法上,直接の実行行為者以外の間接行為者にも刑事罰の適用が認められている(注105)。また,著作権法の枠外でも,著作権侵害の教唆者・幇助者が,著作権侵害の共犯(accessory)として刑事責任を負うことがある。

(注103)  ただし、一次侵害が現実に生じる必要はなく、一次侵害が現実に生じたであろうと推測できる状況にあればよい。
(注104)  著作権等、知的財産権の侵害が不法行為であることは、一般に広く認められている(John Murphy , Street on Torts(11th ed. 2003), Clerk and Lindsell on Torts(19th ed.2006))。
(注105)  ただし、後述するように、民事・刑事で規制される行為類型には違いが存在するということに注意を要する。

2 著作権法上の「侵害(infringement)」責任

 
ア. 一次侵害としての「許諾(authorisation)」責任(注106)
 
(注106)  許諾責任に関して紹介した邦語文献として、作花文雄「非中央管理型P2PとAuthorization法理の適用可能性−豪州「Sharman」事件連邦裁判所(FCA)判決をめぐる間接侵害責任法理の論点と考察−」コピライト45巻21頁がある。

(ア) 「許諾」の意義
   イギリス著作権法では,著作権により規制される行為を自ら行った場合のみならず,他人が当該行為を行なうことに対して「許諾(authorisation)」を与えたことが著作権の侵害を構成する(16条2項)。ここでいう「許諾」とは,「明示的であると黙示的であるとを問わず,問題となる行為をする権限を与えること(a grant or purported grant , which may be express or implied, of the right to do the act complained of)」と定義されている(CBS最高裁判決(注107))。すなわち,イギリスでは,著作権の排他権の内容をなす行為を直接行った者のみならず,直接行為者に当該行為を行う権限を付与した者も,一次侵害者として責任を負うことになる(以下,このような責任を「許諾責任」と呼ぶ)。例えば,小説家が出版社に小説の出版の許諾を与え,出版社が書籍の複製・販売を行なったところ,小説の内容が他人の著作権を侵害するものだったとする。その場合,出版社は複製権を侵害したことになるが,小説家は,出版社に当該著作物を複製する権限を与えた者として許諾責任を負うことになる(注108)。

(注107)   CBS Song Ltd v Amstrad plc[1988]A.C.1013,HL.
(注108)  わが国ではこうした区別をすることなく、小説家も出版社も当然に複製権の侵害者と考えられている。

(イ) 許諾責任の概要
   許諾責任は一次侵害であるから,許諾者に侵害の事実の認識がなくても,成立する(注109)。例えば,小説家が出版社に小説の出版を許諾する際に,小説家が自己の小説の中に他人の著作物が混在していることを知らなくても,複製権の侵害が発生したことについて,許諾責任を負うことに変わりはない。
 また,許諾の対象となる行為が侵害を構成しなければ,許諾責任は成立しない(注110)。例えば,著作物の複製が公正な使用に該当する場合には,その複製の許諾を与えた者が許諾責任を負うことはない。
 侵害の許諾は,それ自体が著作権法上の義務違反行為であるから,侵害行為とは別個の不法行為(tort)を構成する(注111)。しかし許諾責任の成立について,許諾行為が行われるだけでよいのか,それとも現実の侵害行為が行われることを要するのか,という点をめぐって争いがある。許諾の撤回を認めるために,現実に侵害が行われることが必要と解する見解が有力である(注112)。

(注109)   Hugh Laddle, Peter Prescott, Mary Vitoria, Adrian Speck and Lindsay Lane, The Modern Law of Copyright and Designs(3rd ed.2000)730, 19.27.
(注110)   ABKCO Music vMusic Collection International Ltd[1995]R.P.C.657 ; Nelson v Rye[1996]F.S.R.313.これに加えて、ABKCO Music事件は、許諾の対象となる行為が侵害となりさえすればよいことから、イギリス国内での侵害行為を許諾した者は、その許諾行為が国外で行われた場合でも、許諾責任を負うと判示している。
(注111)   Ash v Hutchinton&Co Ltd, [1936]2All ER 1496.
(注112)   Copinger and Skone James on Copyright (15th ed, Sweet&Maxwell,2005) p.454.

(ウ) 許諾責任の歴史的沿革とその法的根拠
   許諾責任がイギリス著作権法上初めて明文化されたのは,古く1911年法にまで遡る。それ以前の法は,著作権侵害を「侵害を行うこと又は侵害をもたらしたこと(shall make or cause to be made ,or sell or cause to be sold, or import or cause to be imported, or represent or cause to be represented)」と定義し,侵害の直接の原因となった者が侵害責任を負うという考え方を採っていた。具体的には,物理的な侵害行為者の他,侵害行為者を手足として利用する者(被用者に対する使用者,代理人に対する本人)だけが侵害者と看做され,侵害行為の許諾を与えた者は,侵害者ということはできないと考えられていた(注113)。侵害の許諾を与えたとしても,侵害行為が被許諾者自身の自由な判断により行なわれている以上,許諾者が侵害の直接の原因者になるとはいえないからである。
 しかしこうした考え方には,後に疑問が投げかけられることになった。すなわち,著作権の対象となる行為の「許諾」を与えることは,著作権者のみがなし得る行為であるから,「許諾」は,著作権者の排他的権利の一内容を構成していると考えるべきである。著作権者以外の者が著作権者に無断で著作権の対象となる行為の「許諾」を行うことは,著作権の排他的内容を直接侵害するものに他ならない。こうした考えに基づき,1911年法は,侵害の許諾を行った者が直接的な侵害行為を行った者と同様に,一次侵害者としての責任を負うと規定した(注114)。この1911年法の基本的な考え方がその後の1956年法・1988年法に継承され,現在に至っている。

(注113)   Karno v Pate Freres Ltd(1909)100L.T.260(映画フイルムの配給会社の責任を否定)や、Boosey v Whight(1900)1Ch.122(自動ピアノに挿入する録音物の販売業者の責任を否定)など参照。
(注114)  1911年法が許諾責任を法定した趣旨については、Falcon v Famous Players Film supra ; Ash v Hutchinson&Co Ltd, supraなど参照。

(エ) 許諾責任の類型
   許諾責任の法的根拠は明白であるが,許諾責任の成立範囲は必ずしも明確ではない。既述の通り,許諾とは,侵害行為者に侵害を行なう権限(authority)を与えることをいい(注115),単に,侵害を可能にした,侵害を幇助した,侵害を助長したという行為とは区別されるものと説明されている。こうした説明は,先の許諾責任の法的根拠から必然的に導かれるものといえる。しかし,両者の区別はしばしば困難であり,現実にも許諾責任の成否をめぐる紛争が多数生じている。そこで,以下では,実際の裁判例において許諾責任が争われる場面を幾つかの類型に分けて,どのような場合に許諾責任が認められているのか,という点を概観していくことにしたい。
 第一に,実際に侵害行為が行われるであろうことを考慮して,当該行為を行う権利を(明示的又は黙示的に)付与する行為については,一般に許諾責任が認められている。例えば,原稿を印刷し出版する権利を売却する行為について許諾責任を肯定した事例(注116)や,映画館のオーナーに映画フイルムを貸与し,映画を上映する権利を付与したことにつき許諾責任を肯定した事例(注117),著作者が出版社に書籍(違法複製物)の複製の許諾を与え,出版社が印刷業者に書籍の印刷を依頼したという場合に,印刷業者に複製権侵害を,著作者と出版社に複製の許諾責任を認めた事例(注118)などがある。また,音楽の再生装置の提供者は,その使用者が音楽の公の演奏について著作権者から許諾を得ることを前提に装置を提供した場合,許諾責任を負うことはないが,提供者が提供時に必要な許諾は全て得たから,侵害のおそれなしに安心して当該装置により音楽を再生できるという条件で当該装置を提供した場合には,許諾責任があるとされる(注119)。
 第二に,著作権侵害物の作成を委託した者は,たいてい受託者に対して,当該侵害物品を作成する権限を付与していると考えられるため,許諾責任があるものとされる。例えば,原告製品のデザインを知っていた被告が原告の製品に類似した特徴を有するデザインの製作を注文し,完成したデザインに承認を与えた場合に許諾があるとされた事例などがある(注120)。判決は,被告が受託者に対して,原告製品を複製する権限を有すると明示的に言及していなくても,特定のデザインの製造を委託することによって,その製造を是認し,原告製品に類似する製品の製造に必要な権限を付与したものとみるべきであるとしている。
 第三に,被用者が職務として侵害行為を行った場合に,使用者に許諾責任が認められるかどうかは,ケース・バイ・ケースである。この場合は,使用者に代位責任が成立するが,許諾責任が成立するかどうかは,使用者が侵害行為を「許諾」していたと評価できるかどうかにかかっている。代位責任とは異なり,単に,使用者が被用者の行為に一般的な管理監督権限を有しているというだけで許諾責任が認められるわけではない(注121)。例えば,ライブハウスの所有者が実演家を雇用し,実演家の演奏する曲目の選定に関与する立場にあったとすれば,代位責任と同時に,許諾責任も成立するであろう。しかし,雇用者が曲目の選定を実演家の裁量に完全に委ねていたという場合には,代位責任が成立する一方,許諾責任が否定されることになる(注122)。
 第四に,侵害者に対して,侵害に供する物品を提供した者に許諾責任は成立するか。まず,当該物品に非侵害用途がある場合には,当該物品が侵害者により侵害に用いられることを物品提供者が知っていたとしても,それだけで許諾責任が成立することはない。なぜなら,物品提供者は,相手方に当該物品の使用を許諾したとはいえるが,当該物品を利用して侵害行為を行うことについてまで許諾を与えたとは言い難いからである。この点について,詳しく判断した判決として,〔CBS事件最高裁判決(1988年)〕を紹介しておこう。
 事案は,録音機器の製造販売業者(Amstrad Consumer Electrnics plc and Dixon Ltd)である被上告人が通常の録音機器に比べて録音のスピードが速く,二重録音が可能な新しい録音機器の販売を開始したところ,レコード製作者の代表である上告人(British Phonographic Industry Ltd(=BPL))らが,被上告人の提供する録音機器は私人による著作物の録音に適していること,また,被上告人が私人による録音を奨励するような広告を行っていることを理由に,被上告人の許諾責任を追及したというものである(注123)。ちなみに,被上訴人の録音機器には,注意書きとして,録音に際しては許諾が得る必要がある場合があること,被上訴人が録音の許諾を与える権利を有していないことが付記されていた。これに対して,判決は,以下のように判示して,上告人の請求を棄却している。

(注115)  一般に、裁判例では、「許諾」は、“sanction, approve and countenance”と同義で理解されている。ただし、〔CBS事件最高裁判決〕は、“countenance”は“condone”の意味で用いられることがあり、これを基準にすると許諾責任が成立する範囲が過度に広がってしまうため、この言葉を用いて「許諾」を定義することは不適切であると指摘している。
(注116)   Evans v Hulton&Co Ltd(1924)131L.T.534.
(注117)   Falcon v Famous Players Film Co[1926]2K.B.474.
(注118)   Ash v Hutchinson, supra.
(注119)   Copinger and Skone James, supra p.453.
(注120)   Standen Engineering Ltd v Spalding & Sons Ltd[1984]F.S.R.554 ; Pensher Security Door Co Ltd v Sunderland City Council[2000]R.P.C.249.
(注121)  許諾責任は現実の著作権侵害に対する特定された許諾(specific authorization of an actual infringement)でなければならない(MCA Records Ltd v Charly Records Ltd[2000]E.M.L.R.743at807)。包括的な許諾(authorisation at large)では許諾責任は成立しない。
(注122)   Copinger and Skone James, supra p.450参照。
(注123)  イギリス法においては、私的録音・録画も、法律上は、著作権侵害を構成する(本件は1956年法下の事例であるが、1956年法においても、1988年法と同様に、私的複製を適法とする規定が設けられていないため、著作権の存する作品を私人が複製する行為は原則として違法ということになる)。しかし実際に私的録音・録画に対して権利行使することは困難であり、現状は野放しになっている。権利者側は、媒体への課金制度(levy on blank tapes)を要求したが、実現に至っていない。判決は、私的複製を違法とする法は修正ないし廃止されるべきであるとしつつ、現行法の下でレコード製作者に救済が与えられないことは、将来の立法活動に向けて有為な影響を与えるであろうと指摘している。

(一) 上告人は,被上訴人による複製機器の販売,高速の複製機能が付加された機器の販売,ないしは,高速の複製機能に焦点を当てた宣伝広告活動の禁止及び著作権のある作品の複製が著作権侵害となる旨の適切な表示を付することを求めている。しかし,著作権法(1956年法)が上告人に与えた権利は,複製及び他人に複製を許諾することの排他的な権利であり,著作権により与えられる唯一の関連する救済は,上告人の録音物を複製し,又は他人にその複製を許諾する者による侵害行為を抑止するための差止め(injunction)による救済である。合法的にも,違法にも使用できる機器の製造,販売,広告を禁止することは許されない。
(二) 被上訴人の録音機器の販売は,著作権侵害による複製を促しているかもしれないが,被上訴人は購入者に許諾を与えたとはいえない。侵害の「許諾」を与えるとは,明示的であると黙示的であるとを問わず,問題となる行為をする権限を与えることである。合法にも違法にも使用し得る複製機器の提供は,複製についての権限を与えることにはならない。また,いったん機器を売却した後は,機器購入者の行為を制御・管理し得るものではなく,複製するかしないか,何を複製するかは機器購入者が自由に決めることである。被上訴人の機器の機能,ないし被上訴人の広告宣伝の内容から,被上訴人が録音物の複製に必要な許可を与える権限を有すると合理的に推測する購入者は存在しない。したがって,被上訴人の機器の販売,広告宣伝活動をもって「許可」を与えたということはできない(注124)。

  (注124)  同趣旨の判決として、A&M Records Inc. v. Audio Magnetics Incorporated[1979]F.S.R.1, Amstrad Consumer Electronics Plc v The British Phonographic Industry Ltd[1986]F.S.R.159がある。

 では,侵害にのみ用いられる専用品が提供された場合はどうか。裁判例の中には,「ほぼ必然的に侵害に供される物品(イコール専用品)を提供する行為(placing in the other's hands materials which by their nature are almost inevitably to be used for the purpose of an infringement)」について許諾責任を認めるものがある(注125)。しかし専用品であっても,当該専用品の取得者が著作権者から許諾を得た上で製品を使用したり,著作権の制限規定に服する行為(the permitted acts)のために製品を使用するなど,合法的に使用することも考えられる以上,専用品を提供したというだけで,侵害行為の許諾を与えたとまではいえないとされる(注126)。
 ところで,〔CBS事件最高裁判決〕は,侵害に供される物品の提供者が,物品提供後,その物品の取得者による使用行為をコントロールできないということを,許諾責任を否定する根拠として挙げているが,では逆に,物品の提供者が物品の取得者による物品の使用態様をコントロールする権限を有している場合には,許諾責任を負うことになるだろうか。この点については,判断が分かれるところである。
 例えば,コモン・ロー法圏に属するオーストラリア法の裁判例は,侵害行為に対する支配可能性がある場合には広く許諾責任を認める傾向がある。例えば,大学構内に設置した複写機で私人が違法な複製を行った場合に,大学側が複写の素材となる書籍と複写機を提供し,複写機の管理権限があったことから,違法な複写を抑止する能力を有していたとして,大学が違法な複製に許諾を与えていたとする最高裁判決がある(注127)。また,最近では,いわゆるファイル交換ソフトの提供業者の行為について,ユーザーによる違法行為を減少させ得る技術的措置を一切講じていないこと,むしろユーザーの著作権侵害を奨励・誘発する活動を行っていること,広告料収入を得ていること,などを理由に,許諾責任を肯定している(注128)。
 しかしこうしたオーストラリア法の方向性は,必ずしもコモン・ロー法圏において広く受け容れられているわけではないようである。例えば,カナダでは,オーストラリアと同様の事案において,許諾責任が否定されているし(注129)(同判決では,Moorhouse事件判決の立場は,イギリスやカナダの先例と異なるものとして位置付けられている),先に見た〔CBS事件最高裁判決〕も,Moorhouse事件の考え方に慎重な態度を採っている(注130)。また,イギリスの代表的な解説書は,アメリカのGrokster事件で問題となった非中央管理型ピア・ツー・ピアソフトの提供について,CBS事件と同様に,合法にも違法にも使用し得る汎用品の提供が問題となっていることから,侵害責任は認められないと解説している(注131)。
 許諾責任が成立するためにはあくまで許諾者の許諾によって侵害行為が行われているという明示的又は黙示的な状況が必要である。侵害者の行為への支配可能性は,そうした状況を認定する際の重要な考慮要素であることは間違いないが(侵害行為への支配可能性がなければ原則として許諾責任は成立しないであろう),しかし侵害行為への支配可能性があるからといって,常に侵害行為の許諾を与えたとはいえないということであろう(注132)。特にイギリス法では,直接の侵害行為に供される物品の提供に関して,一定の要件の下で二次侵害として規制する構成を採っているため,許諾責任の範囲を拡張的に解釈すると,わざわざ限定的に二次侵害行為を規定した意味が損なわれてしまうだろう。そうしたことから,イギリス法では,許諾責任の成立範囲は限定的に解釈される傾向にあるようである。

(注125)  オーストラリアの裁判例であるが、RCA Corporation v John Fairfax&Sons Ltd[1982]R.P.C.91(Sup.Ct.of New South Wales))参照。
(注126)  前述の〔CBS最高裁判決事件〕も、同判決は許諾責任の範囲を広く捉えすぎであると批判している。特にイギリス著作権法では、専ら侵害複製物を作成するための道具を提供する行為が二次侵害行為として規定されているのであり、専用品の提供者に許諾責任を認めるならば、この二次侵害規定の意味は全くなくなってしまうことになろう。
(注127)   Moorhouse v University of New South Wales[1976]R.P.C.151
(注128)   Universal Music Australia Pty Ltd v Sharman Licence Holdings Ltd[2005]FCA1242.
(注129)   CCH Canadian Ltd v Society of Upper Canada[2004]SCC13(Sup Ct).
(注130)  〔CBS事件最高裁判決〕は、同判決を引用しつつ、同判決の考え方についてどのような立場を採るにせよ(Whatever may be said about this proposition)と断った上で、同判決の基準に照らしても、被告に許諾責任を認めることはできないと結論付けている。
(注131)   Copinger and Skone James on Copyright, p.1020.但し、Grokster連邦最高裁判決が出される前の解説である点に注意を要する。
(注132)  id,p.453.

イ. 二次侵害責任
 
(ア) 二次侵害規定の概観
   二次侵害は,一次侵害と異なり,著作権侵害に対する主観的認識(guilty knowledge)が必要とされる。
 また,二次侵害として規定される行為類型には,1侵害複製物の輸入(importing infringing copy)〔22条〕,2侵害複製物の所持・取引(possessing or dealing with infringing copy)〔23条〕,3侵害複製物を作成するための手段の提供(providing means for making infringing copies)〔24条〕,4違法な実演のための施設の使用を許可する行為(permitting use of premises for infringing performance)〔25条〕,5違法な実演のための機材の提供行為(providing apparatus for infringing performance)〔26条〕,6プログラムに関して,コピープロテクションの回避装置ないし回避情報の提供(supplying a device or information designed to circumvent any anti-copying measure by the owner of the copyright in that software)〔296条〕,7送信の無許諾受信のための機器の製造等(any apparatus or device designed or adapted to enable or assist persons to receive the programmes or other transmissions)〔298条〕がある(※二次侵害に列挙された行為のうち,我が国の間接侵害を論じる際に重要と考えられるのは,35の二次侵害行為であるため,本報告では専ら35を検討対象とする)。二次侵害と一次侵害(特に許諾責任)は相互に排斥的なものではなく,一つの行為が一次侵害と二次侵害の両方を構成する場合もある。なお,二次侵害の「許諾(authorise)」は,許諾責任の対象とはならないが,共同不法行為者としての責任が成立する場合がある(注133)。

(注133)  Id, p.1017.

(イ) 主観的要件(guilty of knowledge)の検討
   二次侵害の成立には,主観的要件が必要である。すなわち,行為者に侵害の現実の認識(actual knowledge)又は擬制的認識(constructive knowledge)が認められる場合にのみ二次侵害が成立する。
 侵害の現実の認識とは,行為者が侵害の事実を現実に認識していたか,又は,そのように確信するに足る事実を有しているか否か(whether the defendant himself had either actual knowledge or any facts which might give grounds for believing that copyright had been infringed)を問題とするものである。行為者が侵害事実を認識できたのに目を背けたturn a blind eye)ために侵害の事実を認識できなかった場合(Nelsonian knowledge)にも,現実の認識があるとされる(注134)。
 これに対して,擬制的認識とは,侵害が発生すると確信する合理的な理由があること(reason to believe)をいう。これは,侵害者の立場にある合理的な一般人がそこから侵害の確信に至るに十分な前提事実を侵害者が知得していたか否か(whether a reasonable man, in the defendant's position and in possession of that knowledge would have believed that an infringement had taken place)をいうものである。侵害の疑義(suspection)が生じる程度では,擬制的認識があるとはいえない(注135)。
 侵害行為当初は擬制的認識がない場合でも,権利者による侵害事実の警告により,侵害の前提事実を知った場合,以後,擬制的認識の成立が認められる。但し,警告によりいきなり擬制的認識が肯定されるわけではない。合理的一般人が調査等を経て侵害の事実を確信するまでの時間的猶予(the allowance of a period of time to enable the reasonable man to evaluate the facts to convert them into a reasonable belief)が与えられる(注136)。この場合,調査の有無や程度は,裁判所による擬制的認識の認定において考慮される(注137)。例えば,警告により侵害の疑義が生じたにもかかわらず,調査等を怠った者は,擬制的認識がありとされる。
 また,いずれの認識が問題となる場合でも,違法性の認識までは不要である。侵害事実を認識しつつ,法の不知・誤解のために違法性の認識が欠如していたという場合も,現実の認識があるとされる。
 以上のような二次侵害における主観的要件は,1911年法において初めて導入されたものである。1911年法以前の裁判例では,二次侵害も一次侵害同様,厳格責任(strict liability)であり,行為者の主観的認識がなくても成立するものとするものがあった(注138)。1911年法は,こうした運用を改めるために,条文上,主観的要件を明確に規定したのである。ただし,1911年法・1956年法は,主観的要件について,「現実に知って(knowingly)」という規定の仕方をしていたため,旧法下の裁判例は,幾つかの例外はあるものの,擬制的認識では二次侵害は成立しないとしていた(注139)。しかし現実の認識を立証することには困難が伴うことから,1988年法は,権利者側の立証責任の負担を軽減化することを目的として,現実の認識に加えて,擬制的認識でも,二次侵害が成立することを明文化したのである(注140)。

(注134)   Columbia Picture Industries v Robinson[1987]Ch.38.
(注135)  ところで、学説には、二次侵害行為は刑事罰の適用もある行為であるから(107条)、擬制的認識の解釈は慎重であるべきであるとし、合理的な一般人ではなく、あくまで行為者自身が知り得たという場合にのみ、擬制的認識を認めるべきであるという考え方もあるようである(Hugh Laddle, Peter Prescott, Mary Vitoria, Adrian Speck and Lindsay Lane, The Modern Law of Copyright and Designs(3rd ed.2000)717, 19-6)。この考え方は、擬制的認識は、権利者側の「現実の認識」の主張立証責任を軽減するために認められたものにすぎないため、権利者側が合理的な一般人であれば、侵害を確信するに足る事実を侵害者が保有していたことを主張立証しても、被疑侵害者がそうした事実から自分自身が侵害の確信を得ることができなかったという特別な事情を主張立証することに成功すれば、擬制的認識の成立は否定されることになる。こうした特別事情としては、例えば、出版社(被疑侵害者)が一次侵害者(小説家)から原典の出所についてもっともらしい説明を受けていた場合などが考えられる。
(注136)   La Gear Inc. v Hi-Tec Sports plc[1992]F.S.R.121,CA.
(注137)   Copinger and Skone James on Copyright, supra p.461.
(注138)   Hanfstaengl v. W H Smith& Sons, [1905]1Ch 519(著作権侵害の事実を知らずに侵害記事を含む雑誌を販売した雑誌販売業者が、権利者による警告後、直ちに出版停止の措置を採ったにも関わらず、損害賠償の責任を負うとされた)。
(注139)   Van Dusen v Kritz[1936]2K.B.176 ; R.C.A.Corporation v Custom Cleaned Sales PtyLtd[1978]F.S.R.576など参照。ただし、旧法下の裁判例の中にも、擬制的認識で二次侵害の成立を認めるものもあった(Albert v Hoffunung&Co. Ltd[1921]22S.R.75 ; Infabrics Ltd v Jaytex Shirt Co. Ltd[1978]F.S.R.451など)。
(注140)  この経緯については、490HL Official Report(5th series)cols 1213,1218参照。

(ウ) 個別の行為類型の検討
 
a. 侵害複製物を作成するための手段の製造・販売等(24条)
   24条は,1項において,特定の著作物を複製するために特別に設計又は適合された物品(an article which is specifically designed or adapted for making copies of that work)を,それが違法複製物の作成に用いられることを知りつつ,製造・販売等する行為を規制している。ここでいう物品とは,複製のための専用機器(dedicated copying equipment)のことであり,具体的には,写真のネガ,鋳型,原盤などが念頭に置かれている。複写機やテープレコーダー,レコード・テープのような汎用的な複製機器・媒体は本条の規制対象とならない(注141)。
 なお,24条1項は,複製権侵害に用いられる物品の所持・販売を規制するものであり,著作権侵害一般に用いられる物品の所持販売を規制するものではないから,例えば著作物の実演その他の伝達方法に用いられる物品については,本条の対象外となる(注142)。ただし,こうした行為が,26条2項により規制される場合がある。また,本条では,「物品(articlesイコール有体物」が規制の対象となっており,無体物の提供については,2項で規制されることとなっている。
 次に,2項では,受信者によって違法複製が行われることを知りつつ,遠距離通信によって著作物を転送する行為(transmit a work by means of a telecommunications system)が規制されている。例えば,侵害複製物を作成させるために,侵害者に著作物をファックスで送信する行為などが考えられる。転送時に著作物の複製が行われる場合や,転送が公衆に向けられたものである場合には,一次侵害が成立する。
 以上が24条の概要であるが,同条の規制対象となる物品の製造や著作物の転送は,それ自体が,一次侵害(複製権侵害)となる場合も多いと考えられる。そのため,同条項が実務上活用されることは,ほとんどないようである。

(注141)  ちなみに、本条の立法過程では、「その種の作品の複製用に設計された物品(an article designed for making copies of that class of works)」をも包括的に規制すべきとの検討もなされたようであるが、拒絶され、最終的に、本文のように「特定の作品の複製物(infringing copies of " that work")」を作成するための物品に限定されている(Hansard, HL, Vol490,col.1217)。
(注142)  例えば、ピアノの自動演奏用音楽ロールは、複製物(copying)ではないから(Boosey v Wright[1900]1Ch.122 ; Mabe v Connor[1990]1K.B.515)、かかる物品の所持等は、二次侵害とはならないとされる(Robert M. Merkin&Jack Black, Copyright and Designs Law, supra 7-12)。

b. 違法な実演のための施設の使用を許可する行為(25条)
   25条は,文芸・音楽作品に関して,公の娯楽の場で,上演・演奏のためにその場所の使用を「許可」した者は,許可を与える際にその上演・演奏等が著作権を侵害するものではないと合理的な根拠に基づき確信を有していない限り,二次侵害となることを規定している。
 実演の「許諾(authorize)を与えた者は,許諾責任を負うが,本条は,これとは別個独立に,実演のための施設提供者の責任を定めた者である。
 本条に基づく責任は,許諾責任とは異なり,許可者が被許可者(実演者)に対し人的な支配権を有する必要はなく,許可者が被許可者(実演者)の使用する施設の管理支配権を有していればよい(注143)。
 次に,本条の「許可」があったというには,特定の実演のために施設が使用されることを許可したこと(gave permission for that place to be used for "the performance")が必要である。公での上演を行なうための施設使用の一般的な許可を与えたという程度では同条の責任は成立しない(注144)。裁判例においても,施設管理者が実演される楽曲を知っていた場合には,その実演のために施設を使用することを「許可」したといえるが(注145),実演される音楽が実演家に委ねられていた場合には,「許可」があったとはいえないとされている(注146)。かりに,後者の場合にも,同条の責任を認めるとなると,施設管理者は,実演家がどのような実演を行なうかを事前に調査したり,確認しなければならなくなるが,そうした義務を施設管理者に課すことは,施設管理者に,多大な負担を強いる結果になると考えられるからである。
 本条に基づく責任は,許諾責任とは異なり,行為者の主観的要件を前提とするが,その主観的要件の規定の仕方については,他の二次侵害規定のように,当該実演が侵害を構成するとの認識がある場合に限り侵害が成立するとするのではなく,当該実演が非侵害であるとの積極的な確信 (a positive belief of non-infringement)がない限り,侵害が成立するとしている。これは,施設使用者が特定の実演のために使用を許可している場合には,当該実演が著作権侵害の有無についての調査が容易であり,施設使用者に対し,実演が著作権を侵害しないと自ら確信を抱くための積極的な措置を講じさせることとし,これに違反して漫然と施設を貸与した場合には,二次侵害として対処する一方で,こうした措置を合理的に行っている場合には,二次侵害を免責するという考え方に基づくものである(注147)。こうした規定振りから,本条の主観的要件の主張立証責任は,被告が負担することとされている。すなわち,原告側が被告が管理権を有する施設を侵害者に実演のために使用することを許可し,現に侵害に用いられたことを主張立証すれば,被告側が当該実演が非侵害であるということについて合理的な根拠に基づいて確信していたことを主張立証する必要がある。

(注143)  裁判例は、ここでいう「施設」の意味を、その場所の性質を問わず、公の実演が行われている間は、その実演のための場所(a place of public entertainment)と解するようである。従って、実際には、公に(in public)と変わらないようである。
(注144)   Halsbury Laws Vol9(2).222.
(注145)  旧法の事例であるが、Performing Right Society Ltd v Bray U.D.C.[1930]A.C.377(許諾責任と同時に二次侵害も肯定).
(注146)  旧法の事例であるが、Performing Right Society Ltd v Ciryl Theatrical Syndicate, Ltd[1924]1K.B.1 ; Performing Right Society v Mitchell and Booker Ltd[1924]1K.B.762(被告の代位責任を肯定しつつ、二次侵害の責任を否定).
(注147)   Hugh Laddle, Peter Prescott, Mary Vitoria, Adrian Speck and Lindsay Lane, The Modern Law of Copyright and Designs(3rd ed.2000)730, 19-27.

c. 違法な実演のための機材の提供行為(26条)
   26条は,公の上演・演奏により,又は,録音物の公の再生や映画フイルムの上映により,著作権の侵害が生じた場合に,そうした侵害に寄与した一定の幇助行為を規制対象とするものである。具体的には,1侵害のために用いられる装置又はその実質的な部分の提供者(equipment suppliers),2自己の管理する施設内に機材を持ち込むことを許可した者(occupiers of premises),3侵害に用いられる録音物や映画フイルムの複製物の供給者(suppliers of sound recordings or films),である。
 まず,26条は,機器提供者の責任として,二種類の類型を規定している。第一に,提供される機器の性質がどのようなものであろうと(例えばジュークボックスのように公の実演に適したものであろうと,通常のハイファイ再生装置であろうと),その機器が侵害に用いられることを認識している場合には,二次侵害となる(26条2項(a))。第二に,提供される機器が公の実演に適したものである場合は,当該機器が侵害に用いられないということを合理的な根拠に基づいて確信していない限り,二次侵害となる(26条2項(b))。すなわち,機器提供者が侵害の認識を有する場合には,対象となる機器が何であれ,二次侵害を認める一方,公の実演に用いられる機器は侵害を惹起する危険性が特に大きいことから,機器提供者に対して,侵害が生じないことを確認するための積極的な措置を講じさせることとし,そうした措置を講じていない限り,二次侵害が成立することとしたものである。これは,実務的には,主観的要件の立証責任が機器提供者側に転換されるという効果も持っている(注148)。
 例えば,一般の再生装置の提供業者は,通常,本条の責任を負わないが,例えば,当該装置をレストランや公共施設など,当該装置が公の実演に用いられることが明らかな場所に設置を依頼されたような場合には,設置依頼者が著作権等管理団体(PRS, PPLなど)から著作物の利用許諾を得ていないということを知っていた又は知り得たのであれば,本条の責任を負うことになる。一方,ジュークボックスなど,公の実演用に製造された機器については,機器提供時に,相手方が著作権等管理団体から著作物の利用許諾を得ているということを確信していない限り,二次侵害が成立する。この場合,機器提供者は,契約上,相手方に著作権利用許諾契約を締結することを義務付けているだけでは不十分である。
 次に,2の施設提供者の責任についてであるが,機器の持込を許可した者が許諾を与えている場合は,許諾責任が成立するが,機器の持込を許可した程度では,一般に,許諾責任を負うことはないため,特に施設管理者の責任を問うために,二次侵害規定が創設された。例としては,ディスコにホールを貸し出す行為や,レストランや公共施設の管理者がジュークボックスの搬入を許可する行為などがこれに該当する。
 最後に3の実演に用いるために録音・録画物を提供する者の責任についてであるが,同条では,それが侵害に用いられることの認識が必要となるため,例えば,レンタルビデオ店が商業的な顧客に大量にビデオを貸与する行為も,その提供時に,当該顧客がライセンスを取得していないことを認識している場合を除き,侵害は成立しない。

(注148)   Hugh Laddle, Peter Prescott, Mary Vitoria, Adrian Speck and Lindsay Lane, The Modern Law of Copyright and Designs(3rd ed.2000)732, 19-31.以上のような考慮は、我が国の最判平成13年3月2日民集55巻2号185頁〔カラオケリース事件最高裁判決〕と帰を一にするものといえようか。

ウ. サービスプロバイダの法的責任
   著作権法は,サービスプロバイダが自己のサービスを第三者が侵害のために利用していることを知った場合に,裁判所がサービスプロバイダに対して差止め命令を発することができると規定している(97条A,191条JA参照)。
 2001年のEUディレクティブ(注149)において,サービスプロバイダのシステム(情報送信,キャッシング,ホスティング)が侵害に利用された場合にサービスプロバイダの侵害責任を免責する旨の規定が設けられたが(Article 5参照),同時に,ネット上での侵害が横行しているという実態を踏まえて,加盟国は,第三者がサービスプロバイダ技術を用いて著作権を侵害した場合に,権利者に対し,サービスプロバイダへの差止めを求める地位を保証しなければならないとする規定を設けた(Article 8(3))。このEUディレクティブに対し,イギリス政府は,当初,著作権法上特別な実施規定を設ける必要はないと考えていた。権利者は,悪意のサービスプロバイダに対して,コモン・ロー上の不法行為責任を追及することができると判断されたからである。しかし権利者団体の要請を受けて,最終的に現行規定が設けられることとなった。こうした経緯から,著作権法上のサービスプロバイダの責任に関する規定は,裁判所がコモン・ロー上の差止め命令を発する権限を否定する趣旨のものではなく,むしろコモン・ロー上の差止請求権があると否とに関わらず,悪意のサービスプロバイダに対して差止めを求めることができる特別な権利を権利者に付与したものと理解されているようである(注150)。なお,97条Aないし197条JAにおける「現実の認識」の認定は,二次侵害の「現実の認識」の認定と同様に解釈されている。

(注149)  2001/29,[2001]O.J.L167/6.
(注150)  Id. p.1042.

3 一般民事法上の法理に基づく侵害責任

 
ア. 共同不法行為責任(joint tortfeasor
   一般に,1侵害行為が他人との共謀(common design)により行われた場合,又は,2侵害行為が他人により惹起(procurement)された場合,当該他人は共同不法行為者(joint tortfeasor)として,侵害責任を負う(注151)。

(注151)  共謀による侵害責任と誘引による侵害責任が別個の不法行為を構成するか、それとも共同不法行為責任の異なった発生原因であるにすぎないのか、という点は明らかにされていない(MCA Records Inc. v. Charly Records Ltd[2001]EWCA Civ 1441 para.36)。

 
(ア) 共謀による侵害責任
   侵害の「共謀」は,故意に侵害を発生させることを意図したものである必要はない。侵害行為に関連するものであればよい。「共謀」の有無を認定する上で重要なのは,一方が他方に対して有するコントロール能力の程度(the extent of control actually exercised by the one over the other)である。〔CBS事件最高裁判決〕は,録音機器の販売行為について,販売業者は売却した機器を管理する権限も有しないし,また,当該機器は合法にも違法にも使用できることから,販売業者と購入者とが共謀して行動したということはできないとして,共謀による侵害責任を否定している(注152)。
 ちなみに,二次侵害は,侵害者との共謀が認定できない場合にも,行為者に侵害の認識がある場合に侵害責任を肯定するものであり,その意味で,一般民事法の観点から見た場合よりも,侵害責任が認められる範囲を拡張したものということができる。

(注152)  同判決は、Townsend v Haworth(1875)48LJ. Ch770を引用している。右判決は、特許権の事案であるが、顧客が特許権の侵害のために用いる物質を販売し、特許が有効であった場合に保証を与えていた(indemnify)場合でも、販売業者自身を侵害者とすることはできないとしたものである。

(イ) 惹起による侵害責任
   侵害の「惹起」とは,誘導(inducement),扇動(incitement),説得(persuation)により特定の侵害を惹起することをいう(注153)。侵害に用いられる機材等を提供したことで,侵害を助長・促進した(facilitate)だけでは,「惹起」による侵害責任を肯定することはできない(注154)。〔CBS事件最高裁判決〕は,適法にも違法にも使用できる録音機器の購入者は自らの意思によって自らの利益のために違法な録音行為を行うのであって,被告らによる機器の提供やその特長の宣伝行為が購入者らの録音の決定に影響を与えているとはいえないから,惹起責任を認めることはできないとしている。また,同最高裁は,一般論として,惹起による侵害責任が生じるためには,誘導,扇動,説得が個々の侵害者に対してなされる必要があり,かつ,特定の侵害を個別的に(identificably)惹起するものでなければならないとしている。

(注153)  〔CBS事件最高裁判決〕は、惹起による侵害責任を上記のように定義付け、一般論として惹起による侵害責任を肯定している。同判決は、惹起による侵害責任を認めるにあたって、Lumley v Gye(1853)2E&B216を引用している。右判決は、原告とオペラ歌手が原告の劇場で実演を行うという契約を結んでいたところ、同じく劇場を経営する被告が右オペラ歌手に対して、原告劇場での実演を拒絶し、自身の劇場で実演するように働きかけたという事案で、被告が原告の契約上の権利の侵害を惹起した責任を負うと判示した。
(注154)  特許権侵害の事案であるが、Belegging-en Exploitatiemaatschappij Lavender B.V. v. Witten Industrial Diamonds Lttd[1979]F.S.R.59, CA「行為を行うことを助長する(facilitate)ことは、行為を行うことを惹起する(procure)こととは明らかに異なる」としている。

イ. 代位責任(vicarious liability
   被用者が使用者の職務として行った行為や,代理人が本人のために行った行為が侵害を構成する場合,使用者や本人は代位責任の法理(respondeat superior)に基づいて責任を負う(注155)。イギリスにおける代位責任は,アメリカの代位責任のように広範なものではなく,むしろ“手足理論(qui facit per alium facit)”に近いものである。著作権法上,間接侵害に関する規定が存在しないアメリカ法では,代位責任法理がその間隙を埋める法理として,著作権法に特有の発展をみせることになったのに対して,イギリス法では,間接侵害を規制する条文が存在するために,代位責任法理は一般民事法上の原則としての地位にとどまっているものと考えられる。
 裁判例では,ダンスホールの所有者が雇用した楽団が著作権侵害を行った場合に,被告の代位責任を肯定したものがある(注156)。判決は,被告が代位責任を負うか否かは,原則として,楽団が被告の被用者(servant)か,独立の請負人(independent contractor)かによって決まるとし,被告が楽団との契約において,日々の役務の提供時間,役務の提供場所,契約期間,楽団の役務を被告が排他的に使用する旨の取り決め,被告の命令違反に対する即時解雇,楽団の役務内容を被告がコントロールする権限などが規定されていたことから,楽団は被告の被用者であると認定した。また,同事件で,被告は,楽団との間で,楽団が著作権侵害を行わないこと,被告は楽団の著作権侵害による損害を負わない旨の取り決めをしていたが,判決は,楽団が被告との雇用契約に基づき(in the course of employment),被告の利益のために,著作権侵害を行った以上,右契約の取り決めにより,被告が免責されることはないとしている。

(注155)  他人を通じて行うことは自分自身が行うことでもあるとの意味。
(注156)   Performing Right Society v Mitchell and Booker Ltd,supra.

ウ. 過失による不法行為責任(tort for negligence
   著作権侵害を自ら行い,又はそれに関与したといえないものであっても,他人による著作権侵害を回避できる立場にいる者がこれを回避しなかったことを理由として,過失による不法行為責任(tort for negligence)を負うことがあるか。この点は,CBS事件において正面から争われた。原告側は,被告が販売時に顧客による違法複製を認識できる以上,被告が顧客による侵害を放置していたことは,過失による不法行為責任を構成すると主張していた。これに対して,最高裁は,著作権者の権利は著作権法に根拠を有するが,著作権法は著作権を侵害してはならないという義務を課すのみであるから,他人が著作権侵害を行うことを防止したり,警告したりするコモンロー上の注意義務を認めることはできないとし,著作権者は,著作権侵害を行っておらず,かつ他人による侵害に関与していない者に対して,不法行為責任を追及することはできないとした(注157)。

(注157)  同趣旨の判断は、既にAmstrad Consumer Electronics Plc v The Britisch Phonographic Industry Ltd[1986]F.S.R.159で行われている。

4 侵害の効果−差止め(injunction

   差止めは衡平法上の救済手段であり,一般には金銭賠償による救済が不十分な場合に認められるが,著作権の場合は,その権利の性格上,差止めが原則的な救済手段として位置付けられている。ただし,著作権についても,差止めの付与についての裁判所の裁量が全く機能しないというわけではない。裁判所は,原告が金銭的な請求にしか関心を有していない場合や,差止めを認めた場合に生じる原告の利益と被告の不利益が著しく不均衡である場合や,差止めによる救済を与えるのが衡平に反する場合には,裁判所は差止めによる救済を否定することもできる(注158)。
 差止めの形式は,以下のように定められている(注159)。
差止めに服する者が個人である場合
  「被告は,自分自身又はその他の方法により当該行為を行ってはならない。被告は,自身に代わって,又は自身の指図により,又は自身が奨励したことにより行動する他人を通して,当該行為を行ってはならない(a defendant who is an individual who is ordered not to do something must not do it himself or in any other way. He must not do it himself or in any other way. He must not do it through others acting on his behalf or on his instructions or with his encouragement)」
差止めに服する者が法人である場合
   「被告は,自身が,取締役,役員,被用者,代理人を通して,あるいはその他の方法により,それを行ってはならない(A defendant which is an corporation and which is ordered not to do something must not do it itself or by its directors, officers, employees or agents or in any other way)」

(注158)   Halsbury, Vol9(2) supra, p.270.
(注159)   Copinger and Skone James on Copyright,Vol2 J2xii.

5 刑事罰(offences

   著作権侵害は刑事罰の対象となる(107条)。
 許諾責任に対する刑事罰は,実行行為者が侵害罪を負う場合にのみ成立する(注160)。
 民事上の二次侵害に相当する行為についても,刑事罰の適用がある(具体的には条文を参照のこと)。但し,刑事罰の対象となる行為の構成要件は,民事法上の要件と異なっている点があるので,注意が必要である。
 まず,24条の侵害複製物を作成するための手段の提供に関する刑事罰については,107条(3)に規定がある。民事責任と刑事責任の相違点を挙げると,第1に,取引行為(dealing)は犯罪を構成しない(※但し,取引を行う者は通常所持するのでこれは余り重要な違いはない),第2に,民事では二次侵害者による所持が業務の過程(in the course of business)で行われる必要があったが,刑事では,当該物品が侵害者の業務の過程で侵害物の販売や賃貸のために用いられるとの認識があればよい,第3に,民事では,当該物品が単に侵害に用いられるとの認識があればよいが,刑事では,当該物品により作成された侵害物が商業目的を有することの認識が必要である。直接侵害に対する刑事罰は,明白な商業的意図を持った行為(販売や賃貸)に限定されている。ゆえに,刑事罰の対象となる二次侵害行為は,商業的意図を持った侵害行為のために行われたものである必要がある反面,二次侵害者自らが商業的意図を持つことは要しないと考えられたのであろう。
 さらに,著作権法107条(3)は,公の実演,演奏,上映について,直接の実行行為者以外に,侵害をもたらす行為(cause the work to be performed)も刑事罰の対象となることを明らかにしている。侵害を「もたらす(cause)」とは,使用者が被用者を介して行う行為や,本人が代理人を介して行なうことを指すと解されているので,著作権侵害につき一般民事法上の代位責任を負う者が107条(3)に該当する者と解される。
 なお,著作権法は著作権侵害の共犯者(accessory)の刑事責任を排除していないから,著作権法上刑事罰の対象となる行為を行った者以外の者も,一般刑事法上の教唆・幇助・誘引罪(aiding, abetting, counseling, procuring),コモン・ロー上の誘因(incitement)罪に問われる場合がある。

(注160)   William Nelson v Mark Rye and Cocteau Records Ltd[1996]FSR313.

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